(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記他の充填剤が、酸化亜鉛粒子、金属ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子、銀粒子、シリカ粒子、及びアルミナ粒子よりなる群から選択される少なくとも1種の粒子を含んでいる請求項1又は請求項2に記載の定着部材。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
なお、実質的に同一の機能を有する部材には、全図面を通して同じ符合を付与し、重複する説明は省略する場合がある。
【0014】
[定着部材]
本実施形態に係る定着部材について説明する。
図1は、本実施形態に係る定着部材の一例を示す概略断面図である。
【0015】
本実施形態に係る定着部材110は、
図1に示すように、例えば、基材110Aと、基材110A上に設けられた弾性層110Bと、弾性層110B上に設けられた表面層110Cと、を有している。
そして、弾性層110Bは、充填剤として、平均長さ100μm以上のカーボンナノチューブ(以下、「長尺CNT」と称する)と、カーボンナノチューブ以外の他の充填剤(以下、単に「他の充填剤」と称する場合がある)と、を総量で50体積%以下含有し、且つ、熱伝導率が1.6W/m・K以上である。
【0016】
なお、本実施形態に係る定着部材110は、上記層構成に限られず、必要に応じて、例えば、基材110Aと弾性層110Bとの間に金属層やその保護層を介在させた層構成であってもよい。また、本実施形態に係る定着部材110は、ロール状であってもよいし、ベルト状であってもよい。
【0017】
従来、定着部材において、省エネ化及び定着速度の高速化を実現するべく、定着部材110の熱伝導化を図る目的で、弾性層110Bに充填剤を添加し、定着部材110の熱伝導率を高める技術が知られている。
具体的には、1)充填剤の充填率を上げる技術、2)熱伝導率の高い充填剤を用いる技術、3)アスペクト比の高い針状又は繊維状の充填剤を用いる技術が一般的に知られている。
しかしながら、1)の技術では、例えば、基材110Aや弾性層110Bが脆くなる等の機械的特性が損なわれることがある。また、2)の技術では、熱伝導率の向上効果が小さいのが現状である。また、3)の技術では、少量の充填剤の添加で熱伝導率の向上効果が図れるが、大幅な向上には至っていないのが現状である。
一方で、基材に含まれる樹脂や弾性層110Bの弾性材料中での熱伝導はフォノン伝導が支配的であるため、フォノン散乱による損失が大きい。したがって、基材110Aや弾性層110Bの機械的特性を損なわずに一層の高熱伝導化を図るためには、少量の充填剤で熱伝導経路を形成することが重要となる。
【0018】
そこで、本実施形態に係る定着部材110は、弾性層110Bが、長尺CNTと、他の充填剤と、を総量で50体積%以下含有し、且つ、熱伝導率が1.6W/m・K以上であることとする。
本実施形態に係る定着部材110は、上記構成の弾性層110Bを有することにより、機械的特性を維持しつつ、高い熱伝導率を実現する。
この理由は定かではないが、例えば、長尺CNTと、他の充填剤と、を併用すると、少ない充填量で弾性層110B中に熱伝導経路が形成され易くなり、熱伝導率が高くなると考えられる。
具体的には、まず、弾性層110Bに長尺CNTを配合すると、各長尺CNTの先端部は種々の方向を向いて存在しており、各先端が接触又は近づく確率は少ないと考えられる。一方で、長尺CNTと他の充填剤とを共に存在させると、長尺CNTの先端は、他の充填剤の表面に対しては接触又は近づく確率が高まると考えられる。このため、種々の方向に向いている各長尺CNTの先端同士は、他の充填剤を介して、三次元的な熱伝導経路を形成し易いと考えられる。なお、他の充填剤としては長尺CNTとの役割が異なることから、針状以外の形状を有していることが好ましい。
つまり、弾性層110Bは、充填剤の充填量が少ない場合あっても高い熱伝導率を得ることとなり、さらに、充填剤の充填量が少ないため機械的特性が損なわれることが抑制される。
【0019】
以上より、本実施形態に係る定着部材は、機械的特性を維持しつつ、高い熱伝導率を持つ弾性層110Bを有することとなる。
【0020】
以下、本実施形態に係る定着部材110の構成要素について詳細に説明する。なお、符号は省略して説明する。
【0021】
<基材>
基材としては、例えば、金属(アルミ、SUS、鉄、銅等)、合金、セラミックス、FRM(繊維強化メタル)等で構成された円筒体、金属ベルト(例えばニッケル、アルミニウム、ステンレス等の金属ベルト)が挙げられる。この場合、定着部材がベルト状、ロール状のいずれであってもよい。
【0022】
基材は、充填剤を含んでいてもよい。
これら充填剤としては、周知の充填剤が挙げられ、例えば、弾性層と同様に、長尺CNTや、他の充填剤等であってもよい。
基材に充填剤を含ませる場合、基材としては、樹脂ベルト(例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンゾイミダゾール等の樹脂ベルト)が挙げられる。この場合、定着部材はベルト状である。
【0023】
定着部材がベルト状の場合、基材の厚みは、例えば、20μm以上200μm以下であることがよく、望ましくは30μm以上150μm以下、より望ましくは40μm以上130μm以下である。
一方、定着部材がロール状の場合、基材の外径及び肉厚は、例えば、外径10mm以上50mm以下であることがよく、例えば、アルミニウム製の場合は厚さ0.5mm以上4mm以下、SUS(ステンレス鋼)製又は鉄製の場合は厚さ0.1mm以上2mm以下である。
【0024】
<弾性層>
弾性層は、充填剤(長尺CNT及び他の充填剤)と、耐熱性弾性材料と、を含んで構成される。また、弾性層は、目的に応じて各種添加剤を含んでいてもよい。
【0025】
(充填剤)
弾性層110Bに含ませる充填剤について説明する。
【0026】
−平均長さ100μm以上のカーボンナノチューブ(長尺CNT)−
長尺CNTは、平均長さが100μm以上のカーボンナノチューブである。
長尺CNTは炭素で構成される筒状の中空繊維であり、長尺CNTの平均長さは、長手方向の平均長さを示す。
長尺CNTの平均長さは、弾性層における機械的特性を維持しつつ高い熱伝導率を持つこととする観点から、長いほど望ましい。具体的には、長尺CNTの平均長さは、120μm以上が望ましく、140μm以上がより望ましい。
なお、長尺CNTの平均長さは、実質的に、弾性層の膜厚以下が望ましい。
【0027】
長尺CNTの平均長さは、以下のようにして測定する。
走査型電子顕微鏡観察にて長尺CNT30本の各長さを測定し、その平均値を、平均長さとする。
【0028】
また、長尺CNTの外径は、0.005μm以上1μm以下であることが望ましく、外径が0.01μm以上0.5μm以下であることがより望ましい。
【0029】
長尺CNTの外径は、以下のようにして測定する。
透過型電子顕微鏡観察にて長尺CNT30本の各外径を測定し、その平均値を、外径とする。
【0030】
長尺CNTの構造は、単層構造であっても、多層構造であってもよい。
【0031】
長尺CNTの製造方法としては、熱CVD(thermal Chemical Vapor Deposition)法、触媒を用いて熱分解する方法、アーク放電法、及びレーザ蒸発法などの公知の方法が挙げられる。
これらの中でも、熱CVD法において、長尺CNTの原料となる炭化水素を供給する時間(成長時間)を調整して作製する方法がよい。
【0032】
−長尺CNT以外の他の充填剤(他の充填剤)−
他の充填剤としては、例えば、酸化亜鉛、金属ケイ素、窒化ホウ素、銀、シリカ、アルミナ、硫化カドニウム、炭化物(例えばカーボンブラック、カーボンファイバ等)、酸化チタン、炭化ケイ素、タルク、マイカ、カオリン、酸化鉄、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、黒鉛、窒化ケイ素、酸化鉄、酸化セリウム、炭酸マグネシウム等の周知の粒子(粒状物)が挙げられる。
これらのなかでも、熱伝導率と補強効果、加工性などの観点から、酸化亜鉛、金属ケイ素、窒化ホウ素、銀、シリカ、及びアルミナの粒子が望ましく、その中でも特に、金属ケイ素、シリカ、アルミナの粒子がさらに望ましい。
【0033】
他の充填剤の形状は、例えば、球状、不定形状、板状、針状、四方に突起した針状突起部を持つ粒子(以下「テトラポット状粒子」と称する)、及び樹枝状に突起した針状突起部を持つ粒子(以下、「デンドライト状粒子」と称する)といった形状が挙げられるが、長尺CNTとの接触面積を増やし、三次元的な熱伝導経路を形成し易くする観点から、球状、不定形状、及び板状(つまり、針状、又は針状突起を持つ形状以外)であることが望ましい。
【0034】
−充填剤の充填量−
弾性層における、長尺CNTと、他の充填剤と、の総量は、50体積%以下である。
長尺CNTと、他の充填剤と、の総量は、機械的特性を維持する観点から、45体積%以下が望ましく、40体積%以下がより望ましい。
なお、長尺CNTと、他の充填剤と、の総量は、熱伝導性を得る観点から実質的に、20体積%以上が望ましい。
【0035】
長尺CNTの充填量は、弾性層に対して2体積%以上15体積%以下であることがよく、望ましくは5体積%以上10体積%以下である。
長尺CNTの充填量は、成膜性の低下を起因とする弾性層の表面性の低下を抑制し、また、弾性層の強度の低下を抑制する観点から、15体積%以下が望ましい。
【0036】
一方、他の充填剤の充填量は、弾性層に対して10体積%以上60体積%以下であることがよく、望ましくは20体積%以上50体積%以下であり、より望ましくは30体積%以上40体積%以下である。
【0037】
ここで、長尺CNTと他の充填剤との比率(長尺CNT/他の充填剤)は、例えば、体積比で1/10以上1/3以下であることがよく、望ましくは1/8以上1/4以下である。
【0038】
なお、上記充填剤は、共に1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(耐熱性弾性材料)
耐熱性弾性材料としては、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
シリコーンゴムとしては、例えば、RTVシリコーンゴム、HTVシリコーンゴム、液状シリコーンゴムなどが挙げられ、具体的には、ポリジメチルシリコーンゴム(MQ)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)、メチルフェニルシリコーンゴム(PMQ)、フルオロシリコーンゴム(FVMQ)等が挙げられる。
フッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン系ゴム、四フッ化エチレン/プロピレン系ゴム、四フッ化エチレン/パーフルオロメチルビニルエーテルゴム、フォスファゼン系ゴム、フルオロポリエーテル等が挙げられる。
なお、「耐熱性」とは、定着装置の昇温温度(例えば定着温度)に達しても、溶けたり分解したりしない特性を意味する。以下、同様である。
【0040】
弾性層には、上記充填剤及び耐熱性弾性材料の他、各種添加剤が配合されてもよい。添加剤としては、例えば、軟化剤(パラフィン系等)、加工助剤(ステアリン酸等)、老化防止剤(アミン系等)、加硫剤(硫黄、金属酸化物、過酸化物等)、機能性充填剤(アルミナ等)等が挙げられる。
【0041】
(弾性層の特性)
弾性層の熱伝導率は、1.6W/m・K以上である。
熱伝導率は、1.7W/m・K以上が望ましく、1.8W/m・K以上がより望ましい。
熱伝導率は、定着部材から弾性層を採取し、アイフェイズ社製ai−phaseを用いて測定した熱拡散率に、比熱(JIS K 7123)と密度(JIS K 7112A)を積算し、算出した。
【0042】
弾性層の厚みは、例えば、30μm以上600μm以下であることがよく、望ましくは100μm以上500μm以下である。
【0043】
<表面層>
表面層は、例えば、耐熱性離型材料を含んで構成される。
耐熱性離型材料としては、フッ素ゴム、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。
これらの中でも、耐熱性離型材料としては、フッ素樹脂がよい。フッ素樹脂として具体的には、例えば、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロ三フッ化エチレン(PCTFE)、フッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。
【0044】
表面層の厚みは、例えば、定着部材がベルト状の場合、5μm以上50μm以下であることがよく、望ましくは10μm以上40μm以下である。
【0045】
<定着部材の製造方法>
次に、定着部材の製造方法について説明する。
具体例として、基材と、基材上に設けられた弾性層であって、長尺CNT及び他の充填剤を含有する弾性層と、弾性層上に設けられた表面層と、を有する定着部材の製造方法を挙げて、本実施形態に係る定着部材の製造方法を説明する。但し、本実施形態に係る定着部材の製造方法はこれに限られるわけではない。
【0046】
まず、基材として、例えば、ベルト状の基材を準備する。
次に、弾性層を、上記基材上に、例えば、長尺CNT、他の充填剤、及び上記耐熱性弾性材料を含む弾性層形成用塗布液を塗布して塗膜を形成し、その後、加熱して形成する。
ここで、弾性層は、三次元的な熱伝導経路を形成し易くして高い熱伝導率を持つこととする観点から、例えば、長尺CNT及び他の充填剤の混合物を添加した弾性層形成用塗布液を用いて形成することが望ましい。
弾性層形成用塗布液として具体的には、長尺CNT及び他の充填剤を溶剤(例えば、nヘプタン、酢酸ブチル等)中で混合して混合物を含む溶液を予め調製し、その溶液を上記耐熱性弾性材料を含む溶液に添加した弾性層形成用塗布液を用いることが望ましい。
【0047】
表面層は、弾性層の外周面に設ける。
表面層は、例えば、フッ素系化合物を含む塗布液をスプレー法等の周知の塗布法により塗布し、焼成して形成してもよい。
また、表面層は、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA))のチューブを基材の幅に応じた長さに切断し、弾性層の外周面に被覆して形成してもよい。
【0048】
<定着部材の用途>
本実施形態に係る定着部材は、例えば、加熱ベルト、加圧ベルトのいずれにも適用される。なお、加熱ベルトとしては、電磁誘導方式により加熱する加熱ベルト、外部の熱源から加熱する加熱ベルトのいずれであってもよい。
但し、本実施形態に係る定着部材を電磁誘導方式により加熱する加熱ベルトに適用する場合、基材と弾性層との間に、電磁誘導により発熱する金属層(発熱層)を設けることがよい。
【0049】
[定着装置]
本実施形態に係る定着装置としては、種々の構成があり、例えば、第1回転体と、第1回転体の外面に接して配置される第2回転体と、を備える。そして、第1回転体及び第2回転体の少なくとも一方として、本実施形態に係る定着部材が適用される。
【0050】
以下に、第1及び2実施形態として、加熱ベルトと加圧ロールと備えた定着装置を説明する。そして、第1及び2実施形態において、本実施形態に係る定着部材は、加熱ベルトと加圧ロールのいずれにも適用され得る。
なお、本実施形態に係る定着装置は、第1及び第2実施形態に限られず、加熱ロール又は加熱ベルトと加圧ベルトとを備えた定着装置であってよい。そして、本実施形態に係る定着部材は、加熱ロール、加熱ベルト及び加圧ベルトのいずれにも適用され得る。
また、本実施形態に係る定着装置は、第1及び第2実施形態に限られず、電磁誘導加熱方式の定着装置であってもよい。
【0051】
(定着装置の第1実施形態)
第1実施形態に係る定着装置について説明する。
図2は、第1実施形態に係る定着装置の一例を示す概略概略図である。
【0052】
第1実施形態に係る定着装置60は、
図2に示すように、例えば、回転駆動する加熱ロール61(第1回転体の一例)と、加圧ベルト62(第2回転体の一例)と、加圧ベルト62を介して加熱ロール61を押圧する押圧パッド64(押圧部材の一例)とを備えて構成されている。
なお、押圧パッド64は、例えば、加圧ベルト62と加熱ロール61とが相対的に加圧されていればよい。従って、加圧ベルト62側が加熱ロール61に加圧されてもよく、加熱ロール61側が加熱ロール61に加圧されてもよい。
【0053】
加熱ロール61の内部には、ハロゲンランプ66(加熱手段の一例)が配設されている。加熱手段としては、ハロゲンランプに限られず、発熱する他の発熱部材を用いてもよい。
【0054】
一方、加熱ロール61の表面には、例えば、感温素子69が接触して配置されている。この感温素子69による温度計測値に基づいて、ハロゲンランプ66の点灯が制御され、加熱ロール61の表面温度が目的とする設定温度(例えば、150℃)を維持される。
【0055】
加圧ベルト62は、例えば、内部に配置された押圧パッド64とベルト走行ガイド63とによって回転自在に支持されている。そして、挟込領域N(ニップ部)において押圧パッド64により加熱ロール61に対して押圧されて配置されている。
【0056】
押圧パッド64は、例えば、加圧ベルト62の内側において、加圧ベルト62を介して加熱ロール61に加圧される状態で配置され、加熱ロール61との間で挟込領域Nを形成している。
押圧パッド64は、例えば、幅の広い挟込領域Nを確保するための前挟込部材64aを挟込領域Nの入口側に配置し、加熱ロール61に歪みを与えるための剥離挟込部材64bを挟込領域Nの出口側に配置している。
【0057】
加圧ベルト62の内周面と押圧パッド64との摺動抵抗を小さくするために、例えば、前挟込部材64a及び剥離挟込部材64bの加圧ベルト62と接する面にシート状の摺動部材68が設けられている。そして、押圧パッド64と摺動部材68とは、金属製の保持部材65に保持されている。
なお、摺動部材68は、例えば、その摺動面が加圧ベルト62の内周面と接するように設けられており、加圧ベルト62との間に存在するオイルの保持・供給に関与する。
【0058】
保持部材65には、例えば、ベルト走行ガイド63が取り付けられ、加圧ベルト62が回転する構成となっている。
【0059】
加熱ロール61は、例えば、図示しない駆動モータにより矢印S方向に回転し、この回転に従動して加圧ベルト62は、加熱ロール61の回転方向と反対の矢印R方向へ回転する。すなわち、例えば、加熱ロール61が
図2における時計方向へ回転するのに対して、加圧ベルト62は反時計方向へ回転する。
【0060】
そして、未定着トナー像を有する用紙K(記録媒体の一例)は、例えば、定着入口ガイド56によって導かれて、挟込領域Nに搬送される。そして、用紙Kが挟込領域Nを通過する際に、用紙K上のトナー像は挟込領域Nに作用する圧力と熱とによって定着される。
【0061】
第1実施形態に係る定着装置60では、例えば、加熱ロール61の外周面に倣う凹形状の前挟込部材64aにより、前挟込部材64aがない構成に比して、広い挟込領域Nを確保される。
【0062】
また、第1実施形態に係る定着装置60では、例えば、加熱ロール61の外周面に対し突出させて剥離挟込部材64bを配置することにより、挟込領域Nの出口領域において加熱ロール61の歪みが局所的に大きくなるように構成されている。
【0063】
このように剥離挟込部材64bを配置すれば、例えば、定着後の用紙Kは、剥離挟込領域を通過する際に、局所的に大きく形成された歪みを通過することになるので、用紙Kが加熱ロール61から剥離しやすい。
【0064】
剥離の補助手段として、例えば、加熱ロール61の挟込領域Nの下流側に、剥離部材70を配設されている。剥離部材70は、例えば、剥離爪71が加熱ロール61の回転方向と対向する向き(カウンタ方向)に加熱ロール61と近接する状態で保持部材72によって保持されている。
【0065】
(定着装置の第2実施形態)
第2実施形態に係る定着装置について説明する。
図3は、第2実施形態に係る定着装置の一例を示す概略概略図である。
【0066】
第1実施形態に係る定着装置80は、
図3に示すように、例えば、加熱ベルト84(第1回転体の一例)を備える定着ベルトモジュール86と、加熱ベルト84(定着ベルトモジュール86)に押圧して配置された加圧ロール88(第2回転体の一例)とを含んで構成されている。そして、例えば、加熱ベルト84(定着ベルトモジュール86)と加圧ロール88とが接触する挟込領域N(ニップ部)が形成されている。挟込領域Nでは、用紙K(記録媒体の一例)が加圧及び加熱されトナー像が定着される。
【0067】
定着ベルトモジュール86は、例えば、無端状の加熱ベルト84と、加圧ロール88側で加熱ベルト84が巻き掛けられ、モータ(不図示)の回転力で回転駆動すると共に加熱ベルト84をその内周面から加圧ロール88側へ押し付ける加熱押圧ロール89と、加熱押圧ロール89と異なる位置で内側から加熱ベルト84を支持する支持ロール90とを備えている。
定着ベルトモジュール86は、例えば、加熱ベルト84の外側に配置されてその周回経路を規定する支持ロール92と、加熱押圧ロール89から支持ロール90までの加熱ベルト84の姿勢を矯正する姿勢矯正ロール94と、加熱ベルト84(定着ベルトモジュール86)と加圧ロール88とが接触する領域である挟込領域Nの下流側において加熱ベルト84を内周面から張力を付与する支持ロール98とが設けられている。
【0068】
そして、定着ベルトモジュール86は、例えば、加熱ベルト84と加熱押圧ロール89との間に、シート状の摺動部材82が介在するように設けられている。
摺動部材82は、例えば、その摺動面が加熱ベルト84の内周面と接するように設けられており、加熱ベルト84との間に存在するオイルの保持・供給に関与する。
ここで、摺動部材82は、例えば、その両端が支持部材96により支持された状態で設けられている。
【0069】
加熱押圧ロール89の内部には、例えば、ハロゲンヒータ89A(加熱手段の一例)が設けられている。
【0070】
支持ロール90は、例えば、アルミニウムで形成された円筒状ロールであり、内部にはハロゲンヒータ90A(加熱手段の一例)が配設されており、加熱ベルト84を内周面側から加熱するようになっている。
支持ロール90の両端部には、例えば、加熱ベルト84を外側に押圧するバネ部材(不図示)が配設されている。
【0071】
支持ロール92は、例えば、アルミニウムで形成された円筒状ロールであり、支持ロール92の表面には厚み20μmのフッ素樹脂を含む離型層が形成されている。
支持ロール92の離型層は、例えば、加熱ベルト84の外周面からのトナーや紙粉が支持ロール92に堆積するのを防止するために形成されるものである。
支持ロール92の内部には、例えば、ハロゲンヒータ92A(加熱源の一例)が配設されており、加熱ベルト84を外周面側から加熱するようになっている。
【0072】
つまり、例えば、加熱押圧ロール89と支持ロール90及び支持ロール92とによって、加熱ベルト84が加熱される構成となっている。
【0073】
姿勢矯正ロール94は、例えば、アルミニウムで形成された円柱状ロールであり、姿勢矯正ロール94の近くには、加熱ベルト84の端部位置を測定する端部位置測定機構(不図示)が配置されている。
姿勢矯正ロール94には、例えば、端部位置測定機構の測定結果に応じて加熱ベルト84の軸方向における当り位置を変位させる軸変位機構(不図示)が配設され、加熱ベルト84の蛇行を制御するように構成されている。
【0074】
一方、加圧ロール88は、例えば、回転自在に支持されると共に、図示しないスプリング等の付勢手段によって加熱ベルト84が加熱押圧ロール89に巻き回された部位に押圧されて設けられている。これにより、定着ベルトモジュール86の加熱ベルト84(加熱押圧ロール89)が矢印S方向へ回転移動するのに伴って、加熱ベルト84(加熱押圧ロール89)に従動して加圧ロール88が矢印R方向に回転移動するようになっている。
【0075】
そして、未定着トナー像(不図示)を有する用紙Kは、矢印P方向に搬送され、定着装置80の挟込領域Nに導かれると、挟込領域Nに作用する圧力と熱とによって定着される。
【0076】
なお、第2実施形態に係る定着装置80では、加熱源の一例としてハロゲンヒータ(ハロゲンランプ)を適用した形態を説明したが、これに限られず、ハロゲンヒータ以外の輻射ランプ発熱体(放射線(赤外線等)を発する発熱体)、抵抗発熱体(抵抗に電流を流すことによりジュール熱を発生させる発熱体:例えばセラミック基板に厚膜抵抗を有する膜を形成して焼成させたもの等)を適用してもよい。
【0077】
[画像形成装置]
次に、本実施形態に係る画像形成装置について説明する。
本実施形態の画像形成装置は、像保持体と、像保持体の表面を帯電させる帯電手段と、帯電された像保持体の表面に潜像を形成する潜像形成手段と、潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像手段と、トナー像を記録媒体に転写する転写手段と、トナー像を記録媒体に定着する定着手段と、を備える。そして、定着手段として、本実施形態に係る定着装置が適用される。
【0078】
以下、本実施形態に係る画像形成装置について図面を参照しつつ説明する。
図4は、本実施形態に係る画像形成装置の構成を示した概略構成図である。
【0079】
本実施形態に係る画像形成装置100は、
図4に示すように、例えば、一般にタンデム型と呼ばれる中間転写方式の画像形成装置であって、電子写真方式により各色成分のトナー像が形成される複数の画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kと、各画像形成ユニット1Y、1M、1C、1Kにより形成された各色成分トナー像を中間転写ベルト15に順次転写(一次転写)させる一次転写部10と、中間転写ベルト15上に転写された重畳トナー像を記録媒体である用紙Kに一括転写(二次転写)させる二次転写部20と、二次転写された画像を用紙K上に定着させる定着装置60と、を備えている。また、画像形成装置100は、各装置(各部)の動作を制御する制御部40を有している。
【0080】
この定着装置60が既述の第1実施形態に係る定着装置60である。なお、画像形成装置100は、既述の第2実施形態に係る定着装置80を備える構成であってもよい。
【0081】
画像形成装置100の各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、表面に形成されるトナー像を保持する像保持体の一例として、矢印A方向に回転する感光体11を備えている。
【0082】
感光体11の周囲には、帯電手段の一例として、感光体11を帯電させる帯電器12が設けられ、潜像形成手段の一例として、感光体11上に静電潜像を書込むレーザ露光器13(図中露光ビームを符号Bmで示す)が設けられている。
【0083】
また、感光体11の周囲には、現像手段の一例として、各色成分トナーが収容されて感光体11上の静電潜像をトナーにより可視像化する現像器14が設けられ、感光体11上に形成された各色成分トナー像を一次転写部10にて中間転写ベルト15に転写する一次転写ロール16が設けられている。
【0084】
更に、感光体11の周囲には、感光体11上の残留トナーが除去される感光体クリーナ17が設けられ、帯電器12、レーザ露光器13、現像器14、一次転写ロール16及び感光体クリーナ17の電子写真用デバイスが感光体11の回転方向に沿って順次配設されている。これらの画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは、中間転写ベルト15の上流側から、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の順に、略直線状に配置されている。
【0085】
中間転写体である中間転写ベルト15は、ポリイミド又はポリアミド等の樹脂をベース層としてカーボンブラック等の帯電防止剤を適当量含有させたフィルム状の加圧ベルトで構成されている。そして、その体積抵抗率は10
6Ωcm以上10
14Ωcm以下となるように形成されており、その厚みは、例えば、0.1mm程度に構成されている。
【0086】
中間転写ベルト15は、各種ロールによって
図4に示すB方向に目的に合わせた速度で循環駆動(回転)されている。この各種ロールとして、定速性に優れたモータ(図示せず)により駆動されて中間転写ベルト15を回転させる駆動ロール31、各感光体11の配列方向に沿って略直線状に延びる中間転写ベルト15を支持する支持ロール32、中間転写ベルト15に対して一定の張力を与えると共に中間転写ベルト15の蛇行を防止する補正ロールとして機能する張力付与ロール33、二次転写部20に設けられる背面ロール25、中間転写ベルト15上の残留トナーを掻き取るクリーニング部に設けられるクリーニング背面ロール34を有している。
【0087】
一次転写部10は、中間転写ベルト15を挟んで感光体11に対向して配置される一次転写ロール16で構成されている。一次転写ロール16は、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とで構成されている。シャフトは、鉄、SUS等の金属で構成された円柱棒である。スポンジ層はカーボンブラック等の導電剤を配合したNBRとSBRとEPDMとのブレンドゴムで形成され、体積抵抗率が10
7.5Ωcm以上10
8.5Ωcm以下のスポンジ状の円筒ロールである。
【0088】
そして、一次転写ロール16は中間転写ベルト15を挟んで感光体11に圧接配置され、更に一次転写ロール16にはトナーの帯電極性(マイナス極性とする。以下同様。)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が印加されるようになっている。これにより、各々の感光体11上のトナー像が中間転写ベルト15に順次、静電吸引され、中間転写ベルト15上において重畳されたトナー像が形成されるようになっている。
【0089】
二次転写部20は、背面ロール25と、中間転写ベルト15のトナー像保持面側に配置される二次転写ロール22と、を備えて構成されている。
【0090】
背面ロール25は、表面がカーボンを分散したEPDMとNBRのブレンドゴムのチューブ、内部はEPDMゴムで構成されている。そして、その表面抵抗率が10
7Ω/□以上10
10Ω/□以下となるように形成され、硬度は、例えば、70°(アスカーC:高分子計器社製、以下同様。)に設定される。この背面ロール25は、中間転写ベルト15の裏面側に配置されて二次転写ロール22の対向電極を構成し、二次転写バイアスが安定的に印加される金属製の給電ロール26が接触配置されている。
【0091】
一方、二次転写ロール22は、シャフトと、シャフトの周囲に固着された弾性層としてのスポンジ層とで構成されている。シャフトは鉄、SUS等の金属で構成された円柱棒である。スポンジ層はカーボンブラック等の導電剤を配合したNBRとSBRとEPDMとのブレンドゴムで形成され、体積抵抗率が10
7.5Ωcm以上10
8.5Ωcm以下のスポンジ状の円筒ロールである。
【0092】
そして、二次転写ロール22は中間転写ベルト15を挟んで背面ロール25に圧接配置され、更に二次転写ロール22は接地されて背面ロール25との間に二次転写バイアスが形成され、二次転写部20に搬送される用紙K上にトナー像を二次転写する。
【0093】
また、中間転写ベルト15の二次転写部20の下流側には、二次転写後の中間転写ベルト15上の残留トナーや紙粉を除去し、中間転写ベルト15の表面をクリーニングする中間転写ベルトクリーナ35が接離自在に設けられている。
【0094】
なお、中間転写ベルト15、一次転写部10(一次転写ロール16)、及び二次転写部20(二次転写ロール22)が、転写手段の一例に該当する。
【0095】
一方、イエローの画像形成ユニット1Yの上流側には、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kにおける画像形成タイミングをとるための基準となる基準信号を発生する基準センサ(ホームポジションセンサ)42が配設されている。また、黒の画像形成ユニット1Kの下流側には、画質調整を行うための画像濃度センサ43が配設されている。この基準センサ42は、中間転写ベルト15の裏側に設けられたマークを認識して基準信号を発生しており、この基準信号の認識に基づく制御部40からの指示により、各画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kは画像形成を開始するように構成されている。
【0096】
更に、本実施形態に係る画像形成装置では、用紙Kを搬送する搬送手段として、用紙Kを収容する用紙収容部50、この用紙収容部50に集積された用紙Kを予め定められたタイミングで取り出して搬送する給紙ロール51、給紙ロール51により繰り出された用紙Kを搬送する搬送ロール52、搬送ロール52により搬送された用紙Kを二次転写部20へと送り込む搬送ガイド53、二次転写ロール22により二次転写された後に搬送される用紙Kを定着装置60へと搬送する搬送ベルト55、用紙Kを定着装置60に導く定着入口ガイド56を備えている。
【0097】
次に、本実施形態に係る画像形成装置の基本的な作像プロセスについて説明する。
本実施形態に係る画像形成装置では、図示しない画像読取装置や図示しないパーソナルコンピュータ(PC)等から出力される画像データは、図示しない画像処理装置により画像処理が施された後、画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kによって作像作業が実行される。
【0098】
画像処理装置では、入力された反射率データに対して、シェーディング補正、位置ズレ補正、明度/色空間変換、ガンマ補正、枠消しや色編集、移動編集等の各種画像編集等の画像処理が施される。画像処理が施された画像データは、Y、M、C、Kの4色の色材階調データに変換され、レーザー露光器13に出力される。
【0099】
レーザー露光器13では、入力された色材階調データに応じて、例えば半導体レーザーから出射された露光ビームBmを画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの各々の感光体11に照射している。画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの各感光体11では、帯電器12によって表面が帯電された後、このレーザー露光器13によって表面が走査露光され、静電潜像が形成される。形成された静電潜像は、各々の画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kによって、Y、M、C、Kの各色のトナー像として現像される。
【0100】
画像形成ユニット1Y,1M,1C,1Kの感光体11上に形成されたトナー像は、各感光体11と中間転写ベルト15とが接触する一次転写部10において、中間転写ベルト15上に転写される。より具体的には、一次転写部10において、一次転写ロール16により中間転写ベルト15の基材に対しトナーの帯電極性(マイナス極性)と逆極性の電圧(一次転写バイアス)が付加され、トナー像を中間転写ベルト15の表面に順次重ね合わせて一次転写が行われる。
【0101】
トナー像が中間転写ベルト15の表面に順次一次転写された後、中間転写ベルト15は移動してトナー像が二次転写部20に搬送される。トナー像が二次転写部20に搬送されると、搬送手段では、トナー像が二次転写部20に搬送されるタイミングに合わせて給紙ロール51が回転し、用紙収容部50から目的とするサイズの用紙Kが供給される。給紙ロール51により供給された用紙Kは、搬送ロール52により搬送され、搬送ガイド53を経て二次転写部20に到達する。この二次転写部20に到達する前に、用紙Kは一旦停止され、トナー像が保持された中間転写ベルト15の移動タイミングに合わせてレジストロール(図示せず)が回転することで、用紙Kの位置とトナー像の位置との位置合わせがなされる。
【0102】
二次転写部20では、中間転写ベルト15を介して、二次転写ロール22が背面ロール25に加圧される。このとき、タイミングを合わせて搬送された用紙Kは、中間転写ベルト15と二次転写ロール22との間に挟み込まれる。その際に、給電ロール26からトナーの帯電極性(マイナス極性)と同極性の電圧(二次転写バイアス)が印加されると、二次転写ロール22と背面ロール25との間に転写電界が形成される。そして、中間転写ベルト15上に保持された未定着トナー像は、二次転写ロール22と背面ロール25とによって加圧される二次転写部20において、用紙K上に一括して静電転写される。
【0103】
その後、トナー像が静電転写された用紙Kは、二次転写ロール22によって中間転写ベルト15から剥離された状態でそのまま搬送され、二次転写ロール22の用紙搬送方向下流側に設けられた搬送ベルト55へと搬送される。搬送ベルト55では、定着装置60における最適な搬送速度に合わせて、用紙Kを定着装置60まで搬送する。定着装置60に搬送された用紙K上の未定着トナー像は、定着装置60によって熱及び圧力で定着処理を受けることで用紙K上に定着される。そして定着画像が形成された用紙Kは、画像形成装置の排出部に設けられた排紙収容部(不図示)に搬送される。
【0104】
一方、用紙Kへの転写が終了した後、中間転写ベルト15上に残った残留トナーは、中間転写ベルト15の回転に伴ってクリーニング部まで搬送され、クリーニング背面ロール34及び中間転写ベルトクリーナ35によって中間転写ベルト15上から除去される。
【0105】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定的に解釈されるものではなく、種々の変形、変更、改良が適用され、本発明の要件を満足する範囲内で実現されることは言うまでもない。
【実施例】
【0106】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
[充填剤の作製]
(長尺CNT−1)
長尺CNTは、シリコンウエハ上に鉄等の金属薄膜(触媒)を形成し、窒素雰囲気下で加熱(ベーク)した後、炭化水素を1000℃で目的とする時間供給して成長させる、熱CVD(thermal Chemical Vapor Deposition)法により作製した。
長尺CNT−1は、成長時間(上記炭化水素を供給する時間)を2時間とした。
長尺CNT−1を既述の方法で測定したところ、平均長さが100μmであり、外径がが0.02μmであった。
【0108】
(長尺CNT−2、3)
表1に従って成長時間を変更した以外は、長尺CNT−1と同様にして作製した。作製した長尺CNT−2、3は、既述の方法で、平均長さ及び外径を測定した。外径は長尺CNT−1と同じであった。
【0109】
[実施例1]
(定着ベルトの作製)
−基体の作製−
NMP(N−メチルピロリドン)を溶媒とした固形分濃度18%のポリアミック酸溶液を準備し、アルミニウム製円筒である遠心成形型にポリアミック酸溶液を注入し、遠心成形型を軸線周りに回転させて塗布膜を形成し、145℃30分間加熱乾燥させ、乾燥皮膜を得た。乾燥皮膜を遠心成形型から外してイミド化型にセットし、200℃で20分間、380℃で20分間加熱し、無端ベルト状で、内径168mm、膜厚80μmのポリイミド(PI)基材を得た。
【0110】
−弾性層の作製−
まず、表1に従って、長尺CNT−1と、他の充填剤として商品名Aerosil200(日本アエロジル社製)と、を30mlの酢酸ブチルに添加して撹拌し、溶液中に長尺CNTと他の充填剤との混合物を分散させた(「充填剤混合物作製工程」と称する)。なお、長尺CNT−1及びシリカは、表1に記載の体積%となるように量を調整して添加する。
【0111】
次に、付加硬化型の液状ジメチルシリコーンゴムに、上述の混合物が分散した溶液を添加し、プラネタリーミキサーにて室温(25℃)で2時間混合した後、3本ロールにかけて分散した。作製した液状シリコーンゴム(弾性層形成用塗布液)を、ポリイミド(PI)基材上にブレードコートにて塗布し、120℃、20分で1次焼成して膜厚300μmの弾性層を作製した。
【0112】
−表面層の形成−
次に、弾性層まで形成したPI基材の外径より2%小径である膜厚20μmのPFAチューブを準備し、内径が当該ポリイミド基材の外径より0.8%大径である外型の内周にPFAチューブをセットした。そして、PFAチューブの内側に、弾性層まで形成したPI基材を挿入した状態で、PFAチューブを外型から外し弾性層の外周に被覆し、200℃、4時間で2次焼成し、膜厚20μmの表面層を形成した。
【0113】
以上の工程を経て、定着ベルトを作製した。
【0114】
(評価)
熱伝導率の測定と、弾性層の機械的特性の確認として、耐折れ強度についての評価を行った。
結果を表1に示す。
【0115】
−熱伝導率−
各例で得られた定着ベルトから弾性層を採取し、既述の方法で熱伝導率を測定した。
【0116】
−定着性−
加熱ベルトとして、得られた定着ベルトを富士ゼロックス社製の画像形成装置:Color1000Press用の定着装置に装着し、定着装置を画像形成装置に組み込んだ。但し、この画像形成装置は、定着速度を増速改造して、1分間当たり120枚まで定着できるように改造した。この画像形成装置を用いて、画像濃度30%のハーフトーンの定着画像をA4用紙に出力し、定着性を評価した。評価基準は、以下の通りである。
A:ネイルスクラッチにて350gsm紙まで定着画像の剥がれなし
B:ネイルスクラッチにて256gsm紙まで定着画像の剥がれなし
C:ネイルスクラッチにて256gsm紙の定着画像で剥がれあり
【0117】
−耐折れ強度−
得られた定着ベルトから、耐折れ強度試験片(試験部長さ100mm、幅15mm)を作製した。
作製した試験片を用い、試験機MIT−DA(TOYOSEIKI社製)にて、屈曲R1、荷重1.25kg、両振り、振り角度135°、速度175回/分の条件にて、規定回数屈曲ストレスを印加した。各サンプルの弾性層を光学顕微鏡にて観察し、亀裂の発生有無を確認した。評価基準は、以下の通りである。
A:100万回で弾性層に亀裂なし。
B:10万回で弾性層に亀裂なし。
C:10万回で弾性層に亀裂発生。
【0118】
[実施例2〜8、比較例1]
表1に従って、長尺CNT及び他の充填剤における種類や充填量を変更した以外は、実施例1と同様にして定着ベルトを作製し、評価した。
【0119】
[比較例2〜5]
長尺CNT−1及び他の充填剤を、付加硬化型の液状ジメチルシリコーンゴムに対してそれぞれ添加し、付加硬化型の液状ジメチルシリコーンゴム中で撹拌して弾性層形成用塗布液を作製したことと、他の充填剤の種類を変更した以外は、実施例1と同様にして定着ベルトを作製して評価した。
【0120】
【表1】
【0121】
上記の結果より、本実施例の定着ベルトは、比較例の定着ベルトに比べて、機械的特性を維持しつつ、高い熱伝導率を持つ弾性層を有している。
【0122】
表1中の他の充填剤の詳細は、以下の通りである。
・金属ケイ素「商品名M−Si#600」:キンセイマテック社製、体積平均粒径6μm
・アルミナ「商品名DAW−05」:デンカ社製、体積平均粒径5μm
・酸化亜鉛「商品名パナテトラ」:パナソニック社製、体積平均粒径20μm
・窒化ホウ素「商品名PT−110」:モメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製、体積平均粒径45μm
・カーボンファイバー「商品名100−05M」:日本グラファイトファイバー社製、体積平均繊維粒径9μm、平均繊維長50μm