特許第6111941号(P6111941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6111941-バイオチップ用基板 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111941
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】バイオチップ用基板
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20170403BHJP
   G01N 33/551 20060101ALI20170403BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20170403BHJP
   C07K 14/00 20060101ALN20170403BHJP
【FI】
   G01N33/543 521
   G01N33/551
   G01N33/543 525U
   G01N33/543 525W
   G01N37/00 102
   !C07K14/00
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-185020(P2013-185020)
(22)【出願日】2013年9月6日
(65)【公開番号】特開2015-52509(P2015-52509A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 亮
(72)【発明者】
【氏名】竹林 恭志
(72)【発明者】
【氏名】山口 圭
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−097200(JP,A)
【文献】 特開2010−008378(JP,A)
【文献】 特開2011−101623(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0043494(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 37/00
C07K 14/00
B01J 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に配置される複数の反応スポットとを有するバイオチップ用基板であって、前記反応スポットのそれぞれを個別に、かつ、独立に囲包する複数の溝が前記基板に設けられ、異なる反応スポットを囲包する溝同士は互いに交差又は接触していない、バイオチップ用基板。
【請求項2】
前記溝の幅が10μm〜100μm、深さが0.5μm〜50μmである、請求項1記載のバイオチップ用基板。
【請求項3】
前記基板の少なくとも表面がカーボンから成る請求項1又は2記載のバイオチップ用基板。
【請求項4】
前記各反応スポットには、官能基が共有結合により固定化されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオチップ用基板。
【請求項5】
前記官能基がアミノ基又はカルボキシル基である請求項4記載のバイオチップ用基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のバイオチップ用基板の前記各反応スポット上に、生体関連物質が固定化されているバイオチップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質、核酸、ペプチド誘導体、糖鎖とその誘導体、天然物、小分子化合物等の生体関連物質をプローブとして固定化するためのバイオチップ用基板及びそれを含むバイオチップに関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質チップ、ペプチドチップ、DNAチップ等のバイオチップは、各種疾患の診断や研究用として広く用いられている。従来より広く用いられているバイオチップは、通常、スライドガラス等のガラス基板上にタンパク質、ペプチド又はDNAのような生体関連物質を固定化したものである(例えば特許文献1及び特許文献2等)。
【0003】
近年、バイオチップの高密度化が求められている。バイオチップを高密度化すれば、個々の反応スポットが小さくなるので、各スポット上に固定化する生体関連物質(高価なものが多い)の量を減らすことができる。さらに、遺伝子やタンパク質の網羅的解析を1枚のバイオチップで行うことができれば操作も簡便で費用も節減できるので好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-329686号公報
【特許文献2】特開2010-008378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、高密度なバイオチップを作製すべく努力したが、反応スポットの密度を高くすると、各反応スポットを形成する際に用いる種々の生体関連物質の各種溶液が混じり合ってしまい、ひいては、各反応スポットに固定化される生体関連物質にコンタミネーション(異物混入、以下、「コンタミ」と略すことがある)が起きやすくなるという問題があることが判明した。
【0006】
本発明の目的は、バイオチップ用基板の反応スポットを高密度化しても、固定化する生体関連物質のコンタミが起きないバイオチップ用基板及びそれを含むバイオチップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、反応スポットのそれぞれを個別に、かつ、独立に囲包する複数の溝を前記基板に設けることにより、生体関連物質のコンタミを防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、基板と、該基板上に配置される複数の反応スポットとを有するバイオチップ用基板であって、前記反応スポットのそれぞれを個別に、かつ、独立に囲包する複数の溝が前記基板に設けられ、異なる反応スポットを囲包する溝同士は互いに交差又は接触していない、バイオチップ用基板を提供する。また、本発明は、上記本発明のバイオチップ用基板の前記各反応スポット上に、生体関連物質が固定化されているバイオチップを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、反応スポットが高密度であり、それでいて固定化する生体関連物質のコンタミが起きないバイオチップ用基板及びそれを含むバイオチップが初めて提供された。本発明のバイオチップ用基板によれば、反応スポットを高密度化しても生体関連物質のコンタミが起きないので正確な分析が可能になる。また、本発明によれば、反応スポットを高密度化することができ、ひいては、各スポットを小さくすることができるので、各スポットに固定化する高価な生体関連物質の量を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のバイオチップ用基板の1具体例の1つの反応スポットの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい1具体例を、1つの反応スポットの模式断面図である図1に基づき説明する。図1中、10は基板、12は溝、14は反応スポット、16は反応スポットを被覆する液滴である。以下、これらについて説明する。
【0012】
基板10を構成する材料は、公知のバイオチップ用基板を構成する材料と同じでよく、スライドガラス等のガラス;アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック;アルミニウムやステンレススチールのような金属;アモルファスカーボンやダイヤモンドライクカーボンのようなカーボン等を挙げることができる。これらのうち、カーボンは、自家蛍光を発生せず、生体関連物質の固定化が容易であり、基板の加工が容易で平坦性と表面精度が高いという優れた利点を有するので、基板の少なくとも表面がカーボンから成る基板が好ましい。なお、バイオチップとして用いる際の測定の精度を高くするため、基板表面はできるだけ平坦であることが好ましく、必要に応じ表面を研磨することができる。表面粗さRaは、2nm以下が好ましく、1nm程度がさらに好ましい。基板表面が、カーボンから成り、平坦な表面を有する限り、基板の本体がガラス、金属、プラスチック等から形成されていても、上記した優れた効果を得ることができる。
【0013】
正確な分析のためには、生体関連物質をより堅固に基板に共有結合して固定化することが好ましい。このため、反応スポット14の表面は、生体関連物質を共有結合するための官能基を共有結合により有していることが好ましい。生体関連物質を共有結合するための官能基の好ましい例としてはアミノ基及びカルボキシル基を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。カーボンから成る基板表面にアミノ基やカルボキシル基を共有結合する方法は公知であり(上記特許文献1及び特許文献2参照)、これらの公知の方法により基板表面にアミノ基やカルボキシル基を共有結合することができる。好ましくは、アミノ基含有ポリマー又はカルボキシル基含有ポリマーを基板表面に共有結合する(特許文献2)。
【0014】
反応スポットは、基板上に複数存在し、25mm x 75mmのスライドガラス大の基板当たり、通常、300以上、好ましくは、1000以上、さらに好ましくは1万〜4万程度である。
【0015】
本発明のバイオチップ用基板では、反応スポットのそれぞれを個別に、かつ、独立に囲包する溝12が設けられている。この溝12は、各反応スポットをそれぞれ個別に囲包するものである。また、各溝12は、各反応スポット14を独立に囲包するものであり、すなわち、異なる反応スポットを囲包する溝同士は、互いに交差したり接したりしていない。溝の幅は、特に限定されないが、通常、10μm〜100μm程度、好ましくは20μm〜50μm程度、深さは0.5μm〜50μm程度、好ましくは1μm〜20μm程度である。溝12の平面形状(基板の上から見た場合の二次元的形状)は、特に限定されず、円形、正方形や矩形、多角形等でよい。溝12は、好ましくは、レーザー光の直接描画により容易に形成することができる。溝のサイズは、各反応スポットを囲包するサイズであればよい。
【0016】
反応スポットには、生体関連物質が固定化される。生体関連物質としては、バイオチップにおいてプローブとして用いられているいずれの物質であってもよく、任意のポリペプチド(天然又は合成のタンパク質、オリゴペプチドを包含)、核酸(DNA及びRNA並びに人工核酸を包含)、糖、脂質、これらの複合体(糖タンパク質等)並びに誘導体(修飾タンパク質や核酸等)が挙げられる。反応スポットの表面に官能基が付加されている場合には、これらの生体関連物質は、周知の方法により官能基と共有結合される。
【0017】
本発明のバイオチップ用基板の各反応スポットに各生体関連物質を固定化する場合、生体関連物質を含む溶液(通常、水系緩衝液中に生体関連物質や界面活性剤、試薬類等を含む溶液)をスポット(滴下)する。図1には、溶液をスポットした状態が模式的に示されている。スポットされた溶液は、溝の内側全面に広がり、反応スポット14を完全に覆い、こんもりと盛り上がって液滴16を形成する。この状態で維持すると、液滴内の生体関連物質が反応スポットに固定化される。この場合、生体関連物質や界面活性剤を含む溶液は、表面張力が純水の表面張力よりも小さいが、図1に示すように、液滴16の周縁部は溝12の内側上端部に引っかかって溝12の内部にも入って行かず、図示のように盛り上がった液滴16の形状で保持される。このため、隣接する反応スポットの各液滴が混じることがなく、従って、固定化される生体関連物質のコンタミは起きない。なお、液滴16は、図示のように盛り上がった状態で維持され、その体積が大きいのでなかなか蒸発せず、このため、固定化された生体関連物質を長時間に亘り湿潤状態で維持することができる。タンパク質等の生体関連物質は、乾燥により変性して失活する場合も少なくないが、本発明のバイオチップでは、長時間に亘り、各スポット上の生体関連物質を湿潤状態で維持することができるので有利である。
【0018】
上記のようにして得られたバイオチップは、従来のバイオチップと全く同様にして使用することができる。
【0019】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
1. バイオチップ用基板の製造
表面粗さR a が1n m になるように研磨したアモルファスカーボン板( 25.0× 75.0m m公差± 0.1m m 板厚1.000m m 公差± 0.025m m ) を基板材料とし、紫外線照射装置( セン特殊光源株式会社, フォト・サーフェイス・プロセッサーPL16-110)で15分間紫外線照射(18.5mW/cm2、254nm)を行った。
【0021】
反応スポットは、直径が1.5mmであり、1536個形成した。各反応スポットの周囲には、各反応スポットを囲包する溝を、レーザー光の直接描画(装置:キーエンス、MDV9600A、出力200kW)によりそれぞれ形成した。各溝の直径は約2mm、深さが約10μm、幅が約40μmであった。
【0022】
また、反応スポットの表面には、次のようにしてアミノ基を共有結合させた。
1.基板をスクラブ洗浄し、スピン乾燥機で乾燥
2.基板を大気下で波長185nm/235nmのUVを5分間照射
3.ベーカー式アプリケーターを用いてポリアリルアミン(PAA)エタノール溶液を塗布
4.塗布した基板を95%Rhの高湿度下で15分インキュベーション
5.減圧度0.095MPa以下で15分真空乾燥
6.減圧度0.095MPa以下でUV照射を3分行いPAAを固定化
7.純水中に5分x2回浸漬させて洗浄し, スピン乾燥機で40秒間乾燥
【0023】
2. バイオチップの製造
次に、各反応スポットにmKateタンパク質を共有結合により固定化した。この操作は具体的には次のようにして行った。溝加工とアミノ基修飾を施した基板を架橋剤である0.2mM Sulfo-SMPB(Thermo scientific)溶液に浸漬させ、各反応スポットにマレイミド基を付加させた後、チオール基を有する50mM GSH溶液に浸漬させ、マレイミド基にGSHを結合させた。mKateタンパク質はN末端側にFLAGとGST タグを付加したかたちでコムギ胚芽の抽出液を用いて合成した。続いてGSHが結合したスポットに自動分注機を使用してFLAG-GST-mKateタンパク質溶液をスポットし、GSHとGSTの反応により結合させた。なお、mKateタンパク質溶液を各反応スポットにスポットした際、図1に模式的に示すように、液滴16は溝の内側で広がり、周縁部は溝12の内側上端部に引っかかって溝12の内部にも入って行かないため、外側にはみ出ず、図示のように盛り上がった液滴16の形状で保持された。
【0024】
3. 評価
上記のようにしてmKateタンパク質が結合したことをAnti-FLAG-HyLight-647を反応させ、蛍光強度を測定することで確認した。その結果、溝の効果によりスポットごとの独立した蛍光を検出でき、さらに1反応スポット内全面にmKateタンパク質を結合できていることが確認できた。
【符号の説明】
【0025】
10 基板
12 溝
14 反応スポット
16 液滴
図1