特許第6111989号(P6111989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111989
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】インクジェット用洗浄液
(51)【国際特許分類】
   C11D 7/22 20060101AFI20170403BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20170403BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20170403BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20170403BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20170403BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   C11D7/22
   C09D11/30
   C11D7/50
   C11D17/08
   B41J2/01 501
   B41M5/00 120
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-237272(P2013-237272)
(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公開番号】特開2015-96581(P2015-96581A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2016年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 智史
(72)【発明者】
【氏名】市村 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】宇都木 正貴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 征寿
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−518138(JP,A)
【文献】 特開2013−136703(JP,A)
【文献】 特開2013−159752(JP,A)
【文献】 特開2009−011884(JP,A)
【文献】 特開2011−085681(JP,A)
【文献】 特開2007−254550(JP,A)
【文献】 特開2010−064480(JP,A)
【文献】 特開2011−052135(JP,A)
【文献】 特開2010−150326(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0045427(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01873215(EP,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101088764(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 7/22
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/00
C11D 7/50
C11D 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水と、有機溶剤と、酸性官能基を有する樹脂と、カチオン剤とを含有するインクジェット用洗浄液であって、
前記酸性官能基を有する樹脂が樹脂骨格に芳香環を有し、カチオン剤で中和されることを特徴とするインクジェット用洗浄液。
【請求項2】
式1で表される値が0.8以上であることを特徴とする請求項1記載のインクジェット用洗浄液。
[式1]
洗浄液中のカチオン剤の塩基性官能基量[mmol] /洗浄液中の樹脂の酸性官能基量[mmol]
【請求項3】
前記有機溶剤として、少なくとも1種の、沸点200℃以上の水溶性有機溶剤を含むことを特徴とする請求項1または2記載のインクジェット用洗浄液。
【請求項4】
前記インクジェット用洗浄液のpHが7.0以上10.0以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のインクジェット用洗浄液。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のインクジェット用洗浄液と、着色剤として顔料を含むインクジェット用インキとからなることを特徴とするインクジェット用洗浄液とインキのセット。
【請求項6】
インキが、顔料分散樹脂を含有し、
前記顔料分散樹脂が、インクジェット用洗浄液中の酸性官能基を有する樹脂と、同一のものを含有することを特徴とする請求項5記載のインクジェット用洗浄液とインキのセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタに好適に用いられるインクジェット用洗浄液、インキセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、低騒音、高速、高解像度のノンインパクトプリンタとして近年広く商品化が行われている。インクジェットプリンタに用いられるインキの溶媒は、臭気、安全性の観点から水、水溶性有機溶媒を用いる水性インキが主流である。また、色材としては、水溶性染料が利用されてきたが、耐光性、耐オゾン褪色性に劣るという欠点があった。そこで、水溶性染料に変えて顔料を使用する顔料インキの検討が行われるようになった。
【0003】
水性顔料インキは、顔料が水媒体中に微粒子状態で分散したものであり、顔料自身が高い耐光性、耐オゾン褪色性を有するため、得られる画像の保存性は、染料を用いたものと比較して著しく高めることができる。このため、サインディスプレイ市場での大判プリンタとして、顔料インキを使用するインクジェットプリンタの実用化が進んできた。また、近年では、インクジェットヘッドを固定して基材を連続して流しながら高速で印刷することのできるラインパス型のインクジェットプリンタにおいても、顔料インキが使用され始めている。
【0004】
しかしながら、顔料を用いたインキでは、インクジェットヘッドの吐出口(ノズル)近傍に付着したインキが乾燥した場合、染料とは異なり、分散していた顔料粒子が凝集して固着し、ノズル閉塞を引き起こし、インキの不吐出を引き起こす。また、ヘッド以外にも、キャップ、ワイプ部分等でインキが乾燥固着すると、ワイピング等が困難となり、メンテナンスに負担がかかる、などの課題を抱えている。この様な事態の処置のために様々な対策が講じられている。
【0005】
吐出口にインキが詰まることを防止するための対策としては、インクジェットプリンタが画像記録動作を行っていない時に吐出口をキャップで蓋をするという技術が、特許文献1に記録されている。しかし、プリンタを長期にわたり使用しなかった場合、溶媒が蒸発し、ノズル付近のインキ粘度が高くなり、目詰まりを起こしたり、また外気中のゴミ等の異物混入による目詰まりを生じたりして、インキの吐出不良を生じる原因となっていた。この問題の防止策として、不具合が発生した場合にクリーニング液を使用してインキ流路内を洗浄方法や、長期間の装置休止が想定される場合に予めインキを洗浄液で置換する方法が考案されている。
【0006】
洗浄液またはクリーニング液またはメンテナンス液の事例として、特許文献2記載の可塑剤と保湿剤を含有するメンテナンス液、特許文献3記載の塩基性化合物と界面活性剤とを含有する洗浄液、特許文献4記載の塩基性化合物および酸性化合物を含有するメンテナンス液、特許文献5記載の界面活性剤と塩基性化合物を含有したpH9以上のクリーニング液、特許文献6記載のアルキレングリコールモノアルキルエーテル含有の洗浄液等が例示できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭59−111856号公報
【特許文献2】特開2008−214525号公報
【特許文献3】特開2010−235712号公報
【特許文献4】特開2011−68085号公報
【特許文献5】特開2000−127419号公報
【特許文献6】特開2005−7703号公報
【0008】
しかしながら、上記の洗浄液またはクリーニング液またはメンテナンス液では、上述した水性顔料インキに対して、凝集した顔料粒子を再分散させる能力に劣る、pHが高すぎて装置の部材を破損させたり、固着していないインキの顔料分散を破壊して凝集を引き起こす、等の課題が存在し、結果としてノズルの目詰まり等の重大な信頼性問題が発生する恐れがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、顔料インキを使用するインクジェットプリンタにおいて、乾燥凝集した顔料粒子を再分散させる能力に優れるインクジェット用洗浄液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、
少なくとも水と有機溶剤と酸性官能基を有する樹脂とカチオン剤とを含有し、
前記酸性官能基を有する樹脂が樹脂骨格に芳香環を有し、カチオン剤で中和されることを特徴とするインクジェット用洗浄液に関する。
【0011】
また、前記洗浄液中のカチオン剤の含有量について、式1で表される値が0.8以上であることを特徴とするインクジェット用洗浄液に関する。
[式1]
洗浄液中のカチオン剤の塩基性官能基量[mmol] /洗浄液中の樹脂の酸性官能基量[mmol]
【0012】
また、前記有機溶剤として、少なくとも1種の沸点200℃以上の水溶性有機溶剤を含むことを特徴とするインクジェット用洗浄液に関する。
【0013】
また、前記インクジェット用洗浄液のpHが7.0以上10.0以下であることを特徴とするインクジェット用洗浄液に関する。
【0014】
また、本発明は、上記インクジェット用洗浄液と、着色剤として顔料を含むインクジェット用インキとからなることを特徴とするインクジェット用洗浄液とインキのセットに関する。
また、本発明は、インキが、顔料分散樹脂を含有し、
前記顔料分散樹脂が、インクジェット用洗浄液中の酸性官能基を有する樹脂と、同一のものを含有することを特徴とする上記インクジェット用洗浄液とインキのセットに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水性顔料インキを使用するインキジェットプリンタにおいても、乾燥凝集した顔料粒子を再分散させる能力に優れるインクジェット用洗浄液を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明について詳細に説明する。なお、特に記載がない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」をそれぞれ表す。
【0017】
洗浄液:
本発明のインクジェット記録用洗浄液は、水と有機溶剤と酸性官能基を有する樹脂とカチオン剤とを含有し、前記酸性官能基を有する樹脂がカチオン剤で中和されていることにより液媒体中に溶解状態で存在していることを特徴とする。この洗浄液は、凝集固着した顔料粒子を再分散する能力をもち、インクジェットヘッドのノズル表面や流路内、ワイパーブレードやキャップなどに付着して、凝集固着した顔料インキを再び分散させて洗浄することができる。また、pHを弱アルカリ性に抑えることにより、装置の様々な部材を破損する恐れや、顔料インキと混ざったときに分散凝集を引き起こしたりする恐れがない。
【0018】
顔料は、一般的に水に不溶であるが、親水性の官能基を持つ分散剤を用いるか、または顔料表面を親水性の官能基で修飾することよって、表面が親水的になり、微細な粒子として水に分散することができる。親水性の官能基として、最も一般的なのが、酸性官能基である。
【0019】
顔料表面の親水性が崩れた時に、顔料粒子は分散状態を保てずに凝集を引き起こす。例えば、強力な酸性物質や強力なアルカリ性物質などによって表面官能基のイオン化バランスが崩れたり、乾燥によって水が蒸発したりすることによって、水および溶媒に分散していた顔料は、凝集して固着する。このように凝集固着した顔料は、非常に強固に凝集しており、洗浄して取り除くことは一般的に困難である。
【0020】
そこで本発明者らは、カチオン剤によって中和された酸性官能基を有する樹脂を含む洗浄液が、このように凝集固着した顔料を、容易に洗浄できることを見出した。これは、洗浄液中の樹脂が凝集固着した顔料表面に付着して、再び分散させることができるためである。
【0021】
また、洗浄液には顔料表面の酸性官能基から失われた中和剤を補填する目的で、カチオン剤を樹脂中和量よりも過剰に含むことが望ましい。本来、このように過剰なカチオン剤を含む場合、pHが上昇し、強アルカリ性の洗浄液となって、プリンタの部材を破損する恐れが高いが、本発明における洗浄液では、カチオン剤で中和された酸性官能基を有する樹脂がpH緩衝剤として働き、過剰のカチオン剤を入れてもpHが上昇しにくく、弱アルカリ性に抑えることができる。
【0022】
また、このような水溶性樹脂を含む洗浄液は、それ自体が乾燥すると樹脂が乾燥固着して、これが目詰まりなどの問題を引き起こす恐れがあるため、洗浄液には保湿剤を含み、その保湿剤の沸点が高い水溶性溶剤を使用することが望ましい。
【0023】
以下に好ましい実施の形態を挙げて、本発明のインクジェット記録用洗浄液について説明する。
【0024】
本発明で使用される酸性官能基を有する樹脂は、カチオン剤で中和されることにより水溶化することを特徴とする樹脂である。酸性官能基を持つ樹脂の種類としては、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、αオレフィンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂などが挙げられるが、本発明においては特に制限されることがなく、カチオン剤で中和されることにより水溶化する樹脂であれば、いずれも使用することができる。
【0025】
本発明で使用される樹脂としては、顔料分散能を有することが好ましい。顔料分散能を有することで凝集固着した顔料を容易に再分散させることが可能となる。具体的には樹脂骨格に芳香環を有するものが顔料分散能が高く好ましい。芳香環骨格と顔料骨格がπ-π相互作用することで樹脂の顔料への吸着力が増すため、樹脂が顔料分散能を有するようになる。芳香環骨格としてはフェニル基、ナフチル基など炭化水素系芳香族基や、フリル基、イミダゾール基等の複素芳香族基などが挙げられる。
【0026】
本発明で使用される樹脂の酸価については、特に限定されるものではないが、酸価の低すぎるものについては、水に対する溶解力が低くなるため、好ましくは50mgKOH/g以上の酸価を持つことが好ましい。より好ましくは、100mgKOH/g以上の酸価を持つことが好ましい。また、本発明で使用される樹脂の分子量についても、特に限定されるものではないが、分子量が高すぎるものについては、水に対する溶解力が低くなるため、好ましくは50,000以下の重量平均分子量を持つことが好ましい。より好ましくは、30,000以下の重量平均分子量を持つことが好ましい。
【0027】
本発明で中和に使用されるカチオン剤とは塩基性官能基を有する化合物を示す。カチオン剤については、特に限定されるものではないが、樹脂の中和に使用される観点で言えば、分子量が大きすぎるものについては、粘度が高くなったり、樹脂が上手く中和されなかったりすることから、低分子のものが好ましい。例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール等の有機カチオン剤や、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア等の無機カチオン剤等を使用することができる。またこれらの中でも、低沸点のカチオン剤は、容易に蒸発して中和能を失うことから、比較的沸点が高いカチオン剤を用いることが好ましく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。また、洗浄液を弱アルカリ性に保つといった観点からは弱塩基性のカチオン剤を使用することが好ましく、例えばトリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなどが挙げられる。これらのカチオン剤は、単独で用いることも、また2種類以上混ぜて用いることもできる。
【0028】
カチオン剤の添加量としては酸性官能基を有する樹脂を中和し、水溶化させることが出来れば特に制限はないが、式1で表される値が0.8以上となるように添加することが好ましい。式1で表される値が0.8以上となるように十分な量のカチオン剤を添加することで、樹脂の析出の可能性を軽減し、更に凝集固着した顔料を容易に再分散させることが可能となる。式1で表される値が1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.8以上であることが更に好ましく、2.0以上であることが最も好ましい。一方であまりに多量のカチオン剤を添加すると洗浄液のpHが高くなり、インクジェット装置の部材を破損させる可能性が生じる。そのため、式1で表される値は10以下であることが好ましい。より好ましくは8.0以下であり、更に好ましくは5.0以下であり、最も好ましくは3.0以下である。
[式1]
洗浄液中のカチオン剤の塩基性官能基量[mmol] /洗浄液中の樹脂の酸性官能基量[mmol]
【0029】
式1中の酸性官能基量、塩基性官能基量は以下の方法により計算される。
酸性官能基量[mmol] = 樹脂酸価[mgKOH/g] / 56.1 × インキ100g当たりの樹脂配合量[g]
塩基性官能基量[mmol] = カチオン剤の塩基性官能基価 × インキ100g当たりのカチオン剤配合量[g] / カチオン剤の式量[g/mol] ×10^3
【0030】
本発明において、水溶性樹脂の含有量は、洗浄液全体に対して0.01〜10重量%であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜7.5重量%、最も好ましくは1〜5重量%である。0.01重量%より少ない場合、乾燥固着した顔料の再分散性が悪くなり、洗浄性の維持ができない場合がある。また、10重量%より多い場合、樹脂の乾燥凝集物が発生し、洗浄性の維持ができない場合がある。
【0031】
本発明で使用される有機溶剤は、洗浄液の水分蒸発による乾燥を抑制して、洗浄液中の水溶性樹脂の乾燥析出を防ぐことを目的で使用される。このため、洗浄液中の水が乾燥しても、水溶性樹脂は溶解状態を維持しており、洗浄液自体が乾燥固着することを抑えている。
【0032】
そのため、本発明で使用される有機溶剤の沸点は高いことが望ましく、特に200℃未満の有機溶剤は常温で徐々に蒸発する可能性がある。そのため、特に溶剤の種類に限定されることはないが、少なくとも1種類の沸点200℃以上の有機溶剤を含有することが望ましい。
【0033】
本発明で使用される有機溶剤としては水と相溶するものであれば何れも使用できるが、少なくとも1種類の沸点200℃以上の有機溶剤を含有することが好ましい。沸点200℃以上の有機溶剤としてはグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、(#200)、ポリエチレングリコール(#400) 、ポリエチレングリコール(#600)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等を用いることができる。好ましくは、グリセリン、ポリエチレングリコール(#200)、ポリエチレングリコール(#400)、1,3−プロパンジオールであり、より好ましくはグリセリン、1,3−プロパンジオールであり、最も好ましくはグリセリンである。また、沸点200℃未満の有機溶剤と混ぜて使用してもよく、沸点200℃未満の有機溶剤としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、1,2−ブタンジオール等を用いることができる。
【0034】
有機溶剤の含有量は、洗浄液全量に対して、2〜50重量%が好ましい。2重量%より少ない場合、上述の効果が期待できない可能性がある。また、50重量%より多い場合、洗浄液の粘度が上昇し洗浄後、ノズル近傍に洗浄液が残り吐出不良が起こる可能性がある。より好ましくは、5〜45重量%の範囲であり、更に好ましくは、10〜40重量%の範囲である。特に沸点が200℃以上の有機溶剤の含有量は、2〜50重量%が好ましい。より好ましくは、5〜40重量%の範囲であり、更に好ましくは、10〜30重量%の範囲である。
【0035】
本発明で使用される水は、種々のイオンを含有する一般の水でなく、イオン交換水(脱イオン水)を用いることが好ましい。
【0036】
本発明で使用できる水の含有量としては、特に制限はないが、洗浄液全量に対して40〜90重量%が好ましい。
【0037】
さらに、本発明の洗浄液は、上述の成分の他に、必要に応じて洗浄性やインキとの混合安定性を損なわない程度に防腐剤、防黴剤、消泡剤、表面調整剤、pH調整剤等を適宜に添加することができる。これらの添加量の例としては、洗浄液の全量に対して、0.05〜10重量%の範囲である。
【0038】
本発明の洗浄液は、pHが7.0以上10.0以下であることが好ましい。これは、pHが7.0未満であった場合、含有される水溶性樹脂の酸価が充分に中和されていないことを意味し、洗浄液中に樹脂の析出が発生する可能性があるため、pHは7.0以上であることが好ましい。また、pHが10.0より高い場合、インクジェットプリンタに用いられる様々な部材が損傷する恐れが高くなる。また、インクジェットプリンタに使用される顔料インキも、顔料の分散安定性が保てなくなる可能性があり、pHは10.0以下であることが好ましい。これらのpHについては、洗浄液中に使用される水溶性樹脂を中和するカチオン剤の種類と量によって調整される。
【0039】
インキ組成物
本発明におけるインクジェット用インキは、少なくとも顔料、水、有機溶剤を含有する。以下、インキ組成物について説明する。
【0040】
本発明のインクジェット用インキとしては、無機顔料、有機顔料の何れも使用することができる。無機顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、鉛白、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ホワイトカーボン、アルミナホワイト、カオリンクレー、タルク、ベントナイト、黒色酸化鉄、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、モリブデートオレンジ、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、コバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、ビクトリアグリーン、 群青、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトシリカブルー、コバルト亜鉛シリカブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等を挙げることができる。
【0041】
有機顔料としてはアゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、染料レーキ顔料、蛍光顔料等が挙げられる。
【0042】
更に詳しくは、シアン顔料としてはC. I. Pigment Blue 1, 2, 3, 15:1, 15:3, 15:4, 15:6, 16, 21, 22, 60, 64等が挙げられる。マゼンタ顔料としてはC. I. Pigment Red 5, 7, 9, 12, 31, 48, 49, 52, 53, 57, 97, 112, 120, 122, 146, 147, 149, 150, 168, 170, 177, 178, 179, 184, 188, 202, 206, 207, 209, 238, 242, 254, 255, 264, 269, 282、C. I. Pigment Violet 19, 23, 29, 30, 32, 36, 37, 38, 40, 50等が挙げられる。イエロー顔料としてはC. I. Pigment Yellow 1, 2, 3, 12, 13, 14, 16, 17, 20, 24, 74, 83, 86, 93, 94, 95, 109, 110, 117, 120, 125, 128, 129, 137, 138, 139, 147, 148, 150, 151, 154, 155, 166, 168, 180, 185, 213等が挙げられる。
【0043】
ブラック顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40nm、BET法による比表面積が50〜400m2/g、揮発分が0.5〜10%、pH値が2〜10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては下記のものが挙げられる。例えば、No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビアンカーボン製)、REGA330R、400R、660R、MOGUL L、ELFTEX415(以上、キャボット製)、Nipex90、Nipex150T、Nipex160IQ、Nipex170IQ、Nipex75、Printex85、Printex95、Printex90、Printex35、PrintexU(以上、エボニックデグサ製)等があり、何れも好ましく使用することができる。
【0044】
シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック以外の顔料としてはC. I. Pigment Green 7, 10, 36、C. I. Pigment Brown 3, 5, 25, 26、C. I. Pigment Orange 2, 5, 7, 13, 14, 15, 16, 24, 34, 36, 38, 40, 43, 62, 63, 64, 71等が挙げられる。
【0045】
これらの顔料は1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。顔料の含有量はインキの全質量に対して0.1〜20%、好ましくは1〜10%、より好ましくは2〜7%である。
【0046】
これらの顔料を使用する場合には長期間のインキ安定性を維持するためにも、インキ媒体中に分散して使用することが好ましい。顔料の分散方法としては、顔料を酸化処理等により表面改質し、分散剤なしで顔料を分散させる方法(自己分散)や、界面活性剤や樹脂を分散剤として顔料を分散させる方法がある。本発明においては、少なくとも1種類の酸性官能基が、顔料表面に直接結合しているか、もしくは界面活性剤や樹脂などの分散剤中に含まれていることが好ましく、安定に分散されている顔料であれば、いずれの方法にも限定されない。
【0047】
顔料分散樹脂としてはアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、αオレフィンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂等が挙げられる。なかでもアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂を使用することが好ましい。また、顔料分散樹脂として本発明の洗浄液に含まれる水溶性樹脂を使用することで、洗浄性を高めることができるためより好適である。
【0048】
本発明のインキに含まれる有機溶剤としては、従来既知のものが使用できる。
本発明で使用することができ有機溶剤としては、グリコールエーテル類、ジオール類が良く、中でも(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、炭素数3〜6のアルカンジオールが好ましい。
グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
ジオール類の具体例としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
この中でも好ましいのは、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオールである。
これらの溶剤は単独で使用しても良く、複数を混合して使用することもできる。
さらに印刷する基材の種類によっては、その溶解性の向上を目的に、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、3−エチル−2−オキサゾリジノン、N,N−ジメチル−β−メトキシジプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−エトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ブトキシプロピオンアミドなどの含窒素化合物を添加することもできる。
【0049】
本発明で使用することができる水溶性有機溶剤の含有量は、インクの全量の10重量%以上60重量%以下が好ましく、20重量%以上50重量%以下がより好ましい。
【0050】
また、印刷物の耐性を高めるために、本発明のインクジェットインキにはバインダー樹脂を更に添加することもできる。水性インキのバインダー樹脂としては大別して水溶性樹脂と樹脂微粒子が知られている。本発明の洗浄液は特に水溶性樹脂を使用したインキの洗浄性により優れることから、水溶性樹脂を使用したインキとセットで使用することが好ましい。
【0051】
バインダー樹脂の種類としてはアクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレンブタジエン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。インキの安定性、印刷物の耐性の面を考慮するとアクリル樹脂を使用することが好ましい。
【0052】
上記のバインダー樹脂のインキ中における含有量は、固形分でインキの全質量に対して1%以上20%以下の範囲であり、好ましくは2%以上15%以下の範囲であり、より好ましくは3%以上10%以下の範囲である。
【0053】
また、本発明のインキは上記成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインキとするために、表面調整剤、消泡剤、増粘剤、pH調整剤、防腐剤等の添加剤を適宜添加することができる。これらの添加剤の添加量としては、インキの全重量に対して0.01重量%以上10重量%以下、好ましくは0.05重量%以上5重量%以下、より好ましくは0.1重量%以上3重量%以下である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。
【0055】
(1)インクジェット用洗浄液の調整
表1に示す原料を表記載の割合で混合し、樹脂が完全に溶解するまでディスパーを用いて撹拌を行った。その後、1μmのメンブランフィルターを用いて濾過を行い、実施例、比較例のインクジェット用洗浄液を得た。得られた洗浄液のpHはpHメーター(Horiba製D51-AC)にて測定を行った。
【0056】
(2)インクジェット用インキの調整
表1に示す原料を表記載の割合で混合したインキを、ディスパーで予備分散した後、マヨネーズ瓶へインキとジルコニアビーズとを仕込み、ペイントシェイカーにて本分散を行った。分散後、ジルコニアビーズとインキとを10μmのメンブランフィルターで濾過して分離した後、1μmのメンブランフィルターで濾過を行い、評価用インクジェットインキ1〜3を得た。
【0057】
上記各実施例、比較例で得られたインクジェット用洗浄液について、以下の項目の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0058】
(評価1:ヘッド部材の適合性評価)
洗浄液をインクジェット用ヘッドに封入し、60℃にて一定期間静置した後、ヘッド部材の破損の確認を行った。評価基準は以下の通りである。
◎:6ヶ月後もヘッド部材の破損が確認されなかった
○:3ヶ月後もヘッド部材の破損が確認されなかった
×:3ヶ月後にヘッド部材の破損が確認された
【0059】
(評価2:洗浄液の樹脂析出)
洗浄液をメンタム缶に5g採取し、60℃オーブンにて一定時間乾燥。乾燥後、樹脂が析出したかどうかを目視にて評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:3時間後も樹脂が溶解状態であった
○:1時間後も樹脂が溶解状態であった
×:樹脂の析出が確認された
【0060】
(評価3:顔料インキの再分散性)
評価用インキ1gをメンタム缶に測りとり、60℃のオーブンで1時間乾燥させ、乾燥固着したインキに洗浄液を3g加えて均一に攪拌し、一定時間後のインキと洗浄液の状態を目視にて評価した。評価はインキ1〜3までそれぞれに対して行った。評価基準は以下の通りである。
◎:1時間後に乾燥固着したインキが完全に溶解した
○:24時間後に乾燥固着したインキが完全に溶解した
×:24時間後も乾燥固着したインキが完全に溶解しない
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】