(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芯線と、前記芯線の周囲を覆う非導電性の内側被覆及び前記内側被覆の外側面に全周に亘って接して形成され前記内側被覆よりも硬質かつ薄い非導電性の外皮層を含む2層構造を有する二重被覆と、を有する絶縁電線と、
前記絶縁電線の端部の前記芯線が接続された被接続部を有する端子金具と、
前記絶縁電線及び前記端子金具における前記端子金具の前記被接続部から前記絶縁電線の前記二重被覆の端部までの範囲にインサート成形によって形成されたモールド部と、を備えるモールド部付電線。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両において、ワイヤーハーネスは、電気の伝導を行う絶縁電線と、絶縁電線の端部に接続された端子金具とを有する端子付電線を備える。端子金具は、一般的には、銅を主成分とする金属の部材である。
【0003】
車両に搭載される端子付電線においては、端子金具の一部である被接続部に絶縁電線の絶縁被覆の部分から露出した芯線が、圧着又は超音波溶接などの溶接により接続される。
【0004】
ところで、端子付電線において、絶縁電線の芯線と端子金具との接続部分に液体が侵入するとこの接続部分に腐食が生じてしまう。特に、絶縁電線の芯線がアルミニウム線である場合には、異種金属接触腐食による腐食が生じてしまう。
【0005】
そこで、絶縁電線の芯線と端子金具との接続部分の腐食を防止するため、例えば、特許文献1に示されるようなモールド部を備えた端子付電線が提案されている。以下、そのような端子付電線をモールド部付電線と称する。
【0006】
モールド部は、絶縁電線の接続先の機器を収容する筐体の開口部において絶縁電線と筐体との隙間を塞ぎ、機器へ液体が侵入することを防ぐ役割も果たす。モールド部は、射出成形によって得られる合成樹脂の部材である。
【0007】
特許文献1に示されるモールド部付電線は、端子付電線における絶縁電線の芯線と端子金具との接続部分から絶縁被覆の端部までに亘る止水領域を密封したモールド部を備える。この場合、絶縁電線と端子金具との接続部分がモールド部により止水され、腐食が防がれる。
【0008】
特許文献1に示されるようなモールド部付電線のモールド部は、モールド部の成形用のモールド金型とモールド金型内に溶融した合成樹脂を射出する射出装置とを用いたインサート成形によって作られる。
【0009】
モールド金型は、一般的には、上金型と下金型とで構成される。上金型及び下金型は、それらの一方又は両方が相互に対向する状態で接近すること及び離隔することが可能に支持されている。上金型と下金型とが最接近した状態のモールド金型においては、端子金具における止水領域以外の部分が収容される第一収容空間、端子付電線の止水領域の部分が収容される第二収容空間及び絶縁電線の端部における止水領域以外の部分が収容される第三収容空間がその順番で並んで形成される。
【0010】
射出装置は、溶融した合成樹脂をモールド金型の第二収容空間内に射出する装置である。モールド部付電線のモールド部は、端子付電線における止水領域の部分がモールド金型の第二収容空間内に収容された状態で、第二収容空間内に射出された合成樹脂が固化することにより形成される。
【0011】
以下、モールド部付電線のモールド部において、モールド金型の第二収容空間における第三収容空間との境界部分で成形される部分を後端と称する。
【0012】
一方、特許文献2に示されるモールド部付電線は、端子付電線における絶縁電線の芯線と端子金具との接続部分から絶縁電線の被覆端部までに亘る領域を封止する第1モールド部と絶縁電線の被覆端部と第1モールド部の端部との間に介在する第2モールド部とを備える。第2モールド部は、エラストマーの部材である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、絶縁電線の曲げ仕様の条件が厳しい場合、絶縁電線の柔軟性を高めるため、より柔らかく薄い絶縁被覆を有する絶縁電線の採用が必要となる。例えば、車両への取り付け時などに絶縁電線を特に大きな曲率で曲げることが必要な場合、或いは絶縁電線の曲げ変形の頻度が特に高い場合などである。
【0015】
一方、絶縁電線の絶縁被覆が、一般的な被覆材料よりも柔らかな材料で構成されている場合、上記のようなモールド部がインサート成形によって成形されると、モールド部の後端の内縁部が絶縁電線の絶縁被覆に食い込む形状になりやすい。そのようなモールド部付きの絶縁電線が、厳しい曲げ仕様の条件の下で使用されると、モールド部の食い込み部が柔らかく薄い絶縁被覆にダメージを与える可能性を否定できない。
【0016】
特許文献2に示されるモールド部付電線における第2モールド部の後端の内縁部も同様である。
【0017】
また、特許文献2に示されるモールド部付電線の製造においては、第1モールド部及び第2モールド部について2回のモールド成形を行う必要がある。この場合、第2モールド部の成形後、第2モールド部の成形用の金型から第1モールド部が形成されたモールド部付電線を一旦取り出し、第1モールド部の成形用の金型に移すなどの手間のかかる作業を必要とする。そのような手間のかかる作業を行うことは、コスト抑制及びリードタイム短縮の要請に反する。
【0018】
本発明は、モールド部付電線において、絶縁電線の柔軟性を損なうことなく、絶縁被覆に食い込む部分がモールド部に形成されにくいモールド部付電線を簡易に提供できることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1態様に係るモールド部付電線は、絶縁電線と端子金具とモールド部とを備える。上記絶縁電線は、芯線及び二重被覆を有する。上記二重被覆は、上記芯線の周囲を覆う非導電性の内側被覆及び上記内側被覆の外側面に全周に亘って接して形成され上記内側被覆よりも硬質かつ薄い非導電性の外皮層を含む2層構造を有する。上記端子金具は、上記絶縁電線の端部の上記芯線が接続された被接続部を有する。上記モールド部は、上記絶縁電線及び上記端子金具における上記端子金具の上記被接続部から上記絶縁電線の上記二重被覆の端部までの範囲にインサート成形によって形成されている。
【0020】
第2態様に係るモールド部付電線は、第1態様に係るモールド部付電線の一態様である。第2態様に係るモールド部付電線においては、上記外皮層が、熱硬化性樹脂を含む。
【発明の効果】
【0021】
上記の各態様においては、モールド部付電線が、芯線及び二重被覆を有する絶縁電線を備える。二重被覆は、芯線の周囲を覆う非導電性の内側被覆及び内側被覆の外側面に全周に亘って接して形成され内側被覆よりも硬質の非導電性の外皮層を含む2層構造を有する。この場合、モールド部の後端の内縁部は、内側被覆の外側面に形成された硬質の外皮層の存在により、内側被覆に食い込む形状に成形されにくくなる。
【0022】
ところで、絶縁電線の絶縁被覆全体が硬質である場合、絶縁電線が曲げにくい又は大きな曲率で曲げられない等の弊害が生じる。このような絶縁電線は、厳しい曲げ条件の下で使用される絶縁電線には適さない。
【0023】
一方、上記の各態様においては、硬質かつ薄い外皮層がより柔軟な内側被覆を含む二重被覆全体の柔軟性を損なうことなくモールド部が局部的に絶縁被覆(二重被覆)に食い込む形状に成形されることを防ぐ。従って、上記の各態様においては、絶縁電線の柔軟性を損なうことなく、絶縁被覆、特に内側被覆に食い込む部分がモールド部に形成されにくいモールド部付電線を提供することが可能となる。
【0024】
また、上記の各態様におけるモールド部付電線の製造工程においては、モールド成形を複数回行う必要がない。この場合、ある金型から別の金型に移し変えるような手間のかかる作業を行う必要がない。
【0025】
そのため、上記の各態様によれば、絶縁被覆に食い込む部分がモールド部に形成されにくいモールド部付電線を簡易に提供することが可能となる。
【0026】
従って、例えば、柔らかく比較的薄い内側被覆を有する絶縁電線がモールド部付近で大きな曲率で曲げられる等の厳しい曲げ条件の下で使用されるような場合でも、モールド部付電線の耐久性を向上させることができる。
【0027】
また、上記の第2態様においては、絶縁電線の二重被覆における外皮層が、熱硬化性樹脂を含む。この場合、モールド部のインサート成形時に外皮層がモールド樹脂から受ける熱によって軟化しない。これにより、モールド部が絶縁被覆に食い込む度合をより確実に緩和することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具現化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0030】
<第1実施形態>
まず、
図1〜5を参照しつつ、第1実施形態に係るモールド部付電線1の構成について説明する。モールド部付電線1は、絶縁電線9、端子金具8及びモールド部6を備える。モールド部付電線1は、自動車などの車両に搭載されるワイヤーハーネスの一部である。
【0031】
図1は、モールド部付電線1の端部の平面図である。
図2は、
図1のII−II平面におけるモールド部付電線1の断面図である。
図3は、
図2のIII−III平面におけるモールド部付電線1の断面図である。
【0032】
<絶縁電線>
図1〜3に示されるように、端子金具8が取り付けられる対象となる絶縁電線9は、長尺な導体である芯線910と、芯線910の周囲を覆う二重被覆920と、を有する。
【0033】
芯線910は、通常、細い導体からなる複数の素線が撚り合わされた撚り線である。しかしながら、芯線910が単線であることも考えられる。絶縁電線9の芯線910は、例えば、銅又はアルミニウムを主成分とする金属の線材である。
【0034】
二重被覆920は、非導電性の内側被覆921と内側被覆921よりも硬質かつ薄い非導電性の外皮層922とを含む2層構造を有する。即ち、二重被覆920は、2層構造を有する絶縁被覆である。
【0035】
絶縁電線9における二重被覆920は、例えば、2つの異なる合成樹脂の材料を内層と外層との2層に重ねて押出成形することによって作られる。
【0036】
内側被覆921は、芯線910の外側面に全周に亘って接して形成されている。絶縁電線9の内側被覆921は、例えば、ポリエチレン、塩化ビニル又はポリアミド系ナイロンなどを主成分とする合成樹脂の部材である。
【0037】
外皮層922は、内側被覆921の外側面に全周に亘って接して形成されている。例えば、絶縁電線9の外皮層922は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などのエンジニアリングプラスチック又は熱硬化性樹脂等を含む合成樹脂の層である。外皮層922は、内側被覆921の厚みよりも小さな厚みで形成されている。例えば、外皮層922は、内側被覆921の十分の一〜四分の一程度の厚みで形成されている。
【0038】
端子金具8が取り付けられる絶縁電線9の端部は、予め一定の長さの分の芯線910の周囲から二重被覆920が剥がれた状態、即ち、一定の長さ分の芯線910が二重被覆920から伸び出た状態に加工されている。
【0039】
以下、絶縁電線9の端部において、二重被覆920の端から伸び出た芯線910を裸線部91と称する。また、絶縁電線9の二重被覆920における端部の一定の範囲(数ミリメートルから十数ミリメートル程度の長さの範囲)の部分を被覆端部92と称する。
【0040】
<端子金具>
図1,2に示されるように、端子金具8は、被接続部82を有する。本実施形態において、端子金具8は、さらに接点部81を有する。
【0041】
被接続部82は、絶縁電線9の端部の裸線部91が接続された部分である。
【0042】
本実施形態においては、被接続部82が、底板部821と2つの芯線かしめ部822とを有する。即ち、本実施形態は、被接続部82が圧着により絶縁電線9に接続される場合の事例である。
【0043】
被接続部82は、絶縁電線9に圧着される前の状態において、曲がって形成された板状の部分であり、絶縁電線9の裸線部91が挿入される溝を形成している。
【0044】
底板部821は、端子金具8が取り付けられる対象の絶縁電線9における裸線部91を一方の側から支える部分である。
【0045】
2つの芯線かしめ部822は、底板部821から裸線部91の両側へ起立して形成された部分である。なお、本実施形態における被接続部82は、2つの芯線かしめ部822が重ならない突き合わせタイプである。しかしながら、被接続部82が、2つの芯線かしめ部822が重ねられて裸線部91にかしめられる重ね合わせタイプであること、或いは、筒状に形成されたクローズドバレルタイプであることも考えられる。
【0046】
モールド部付電線1において、絶縁電線9は、被接続部82が形成する溝の内側に挿入される。そして、起立した2つの芯線かしめ部822が、裸線部91の周囲に沿って曲げられ、底板部821に対向する向きへ折り曲げられて裸線部91にかしめられる。これにより、被接続部82が、裸線部91に対して圧着される。
【0047】
以下、端子金具8の被接続部82が裸線部91に接続された絶縁電線9を端子付電線90と称する。
【0048】
接点部81は、他の部材と接続可能な部分である。本実施形態においては、例えば端子固定台等の端子金具8の接続相手への固定用のネジが通される接続孔810が、接点部81に形成されている。接点部81は、底板部821に連なっている。
【0049】
端子金具8は、金属の板材の折り曲げ加工によって得られる。また、端子金具8を構成する金属の板材は、メッキが形成された板状の金属の母材に対する打ち抜き加工によって得られる。従って、端子金具8を構成する金属の板材は、基材と、その基材の表面に形成されたメッキとにより構成されている。
【0050】
例えば、端子金具8の基材は、銅又は銅の合金など、銅を主成分とする金属材料からなる部材である。この場合、メッキを含む端子金具8全体は、銅を主成分とする金属材料からなる。一方、メッキは、錫(Sn)もしくは錫に銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)などが添加された錫合金など、錫を主成分とする金属材料からなる部材である。なお、銀(Ag)メッキ、又はニッケル(Ni)メッキも考えられる。
【0051】
<モールド部>
図1,2に示されるモールド部6は、絶縁電線9及び端子金具8における端子金具8の被接続部82から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲にインサート成形によって形成された部分である。本実施形態において、モールド部6は、絶縁電線9及び端子金具8における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲に形成されている。
【0052】
以下、モールド部6に関し、端子金具8の接点部81側の端のことを先端と称し、その反対側の端のことを後端と称する。
【0053】
モールド部付電線1において、モールド部6は、例えば、先端部分の内側面において、端子金具8における接点部81と被接続部82との間の部分の外側面に対して全周方向に亘って密接している。
【0054】
また、モールド部付電線1において、モールド部6は、例えば、後端部分の内側面において、絶縁電線9の被覆端部92の外周面に対して全周方向に亘って密接している。そのため、絶縁電線9の裸線部91と端子金具8の被接続部82との接続部分に液体が侵入することが防がれる。
【0055】
モールド部6は、合成樹脂の部材である。モールド部6を構成する合成樹脂は、例えば、PPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂、PPA(ポリフタルアミド)樹脂、LCP樹脂(液晶ポリマー)、フェノール系、ポリエステル系、ポリアミド系又はエポキシ系の樹脂である。
【0056】
モールド部6の成形工程については後述する。
【0057】
<モールド部付電線の製造工程>
次に、
図4,5を参照しつつ、モールド部付電線1を製造するための工程について説明する。
図4は、モールド部付電線1の製造において、モールド部6のインサート成形に使用される金型5の断面図である。
図5は、モールド部付電線1の製造工程における一部の工程を示した図であり、モールド部付電線1の製造工程においてモールド部6のインサート成形時の金型5、絶縁電線9及び端子金具8の断面図である。
【0058】
<モールド部付電線の製造工程:金型>
まず、本実施形態におけるモールド部付電線1の製造に使用される金型5について説明する。金型5は、モールド部付電線1の製造において使用される型部材の一例である。金型5は、
図5に示されるように上金型51と下金型52とを備える。上金型51及び下金型52は、不図示の支持機構により、それらの一方又は両方が相互に対向する状態で接近すること及び離隔することが可能に支持されている。
【0059】
金型5には、モールド部6の成形用の合成樹脂で満たされる空間と合成樹脂で満たされない空間とが形成される。本実施形態においては、上金型51と下金型52とが最接近した状態の金型5には、端子付電線90が収容される第一収容空間501、第二収容空間502及び第三収容空間503が形成されている。第二収容空間502は、モールド部6の成形用の合成樹脂で満たされる空間である。第一収容空間501及び第三収容空間503は、モールド部6の成形用の合成樹脂で満たされない空間である。
【0060】
図5に示されるように、上金型51には、第一成形部511、第二成形部512及び第三成形部513が形成されている。同様に、下金型52にも、第一成形部521、第二成形部522及び第三成形部523が形成されている。
【0061】
上金型51と下金型52とが最接近した状態において、上金型51における第一成形部511及び下金型52における第一成形部521に囲まれる空間は、端子付電線90の端子金具8におけるモールド部6が成形される範囲以外の部分、即ち、端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から接点部81の先端部までの部分、が収容される第一収容空間501を形成する。
【0062】
また、上金型51と下金型52とが最接近した状態において、上金型51における第二成形部512及び下金型52における第二成形部522に囲まれる空間は、端子付電線90における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から被覆端部92までの範囲に該当する部分が収容される第二収容空間502を形成する。
【0063】
また、上金型51と下金型52とが最接近した状態において、上金型51における第三成形部513及び下金型52における第三成形部523に囲まれる空間は、端子付電線90における絶縁電線9の被覆端部92以外の部分の一部が収容される第三収容空間503を形成する。
【0064】
<モールド部付電線の製造工程:モールド部成形工程>
次に、
図5を参照しつつ、モールド部付電線1におけるモールド部6の成形工程について説明する。
【0065】
モールド部6の成形工程は、絶縁電線9への端子金具8の接続工程(圧着工程)が行われた後に行われる。
【0066】
モールド部6の成形工程においては、例えば、端子付電線90が下金型52にセットされた後、上金型51が下金型52に対向する状態で下金型52に近付けられる。これにより、端子付電線90は、金型5が形成する第一収容空間501、第二収容空間502及び第三収容空間503に収容される。
【0067】
そして、端子付電線90が金型5の第一収容空間501、第二収容空間502及び第三収容空間503に収容された状態において、不図示の射出装置により溶融した合成樹脂が第二収容空間502内に射出される。
【0068】
第二収容空間502に射出された合成樹脂が固化することにより、端子付電線90における金型5の第二収容空間502に収容されていた部分、即ち、端子付電線90における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲に該当する部分の周囲にモールド部6が隙間なく形成される。
【0069】
モールド部6の成形時に、第二収容空間502における第三収容空間503との境界部分において溶融した合成樹脂が絶縁電線9の二重被覆920に食い込むことを絶縁電線9の外皮層922が防止する。より具体的には、モールド部6が、硬質の外皮層922の存在により、絶縁電線9の内側被覆921に食い込む形状に形成されにくくなる。
【0070】
また、外皮層922が熱硬化性樹脂を含む場合、モールド部6の成形時に外皮層922の温度が上昇しても、外皮層922が内側被覆921よりも硬質な状態、即ち、流動樹脂の圧力による局所的な食い込みが生じにくい状態にすることができる。
【0071】
<効果>
本実施形態においては、モールド部付電線1が、芯線910と、芯線910の周囲を覆う非導電性の内側被覆921及び内側被覆921の外側面に全周に亘って接して形成され内側被覆921よりも硬質の非導電性の外皮層922を含む2層構造を有する二重被覆920と、を有する絶縁電線9を備える。この場合、モールド部6の後端の内縁部は、内側被覆921の外側面に形成された硬質の外皮層922の存在により、内側被覆921に食い込む形状に成形されにくくなる。
【0072】
また、本実施形態においては、硬質かつ薄い外皮層922がより柔軟な内側被覆921を含む二重被覆920全体の柔軟性を損なうことなくモールド部6が局部的に二重被覆920における内側被覆921に食い込む形状に成形されることを防ぐ。従って、本実施形態においては、絶縁電線9の柔軟性を損なうことなく、二重被覆920における内側被覆921に食い込む部分がモールド部6に形成されにくいモールド部付電線1を提供することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態におけるモールド部付電線1の製造工程においては、モールド成形を複数回行う必要がない。この場合、ある金型から別の金型に移し変えるような手間のかかる作業を行う必要がない。
【0074】
そのため、本実施形態によれば、二重被覆920の内側被覆921に食い込む部分がモールド部6に形成されにくいモールド部付電線1を簡易に提供することが可能となる。
【0075】
従って、例えば、柔らかく比較的薄い内側被覆921を有する絶縁電線9がモールド部6付近で大きな曲率で曲げられる等の厳しい曲げ条件の下で使用されるような場合でも、モールド部付電線1の耐久性を向上させることができる。
【0076】
また、本実施形態においては、絶縁電線9の二重被覆920における外皮層922が、熱硬化性樹脂を含む。この場合、モールド部6のインサート成形時に外皮層922がモールド樹脂から受ける熱によって軟化しない。これにより、モールド部6が二重被覆920、特に内側被覆921に食い込む度合をより確実に緩和することが可能となる。
【0077】
<第2実施形態>
次に、
図6を参照しつつ、第2実施形態に係るモールド部付電線1Xの構成について説明する。
図6は、第2実施形態に係るモールド部付電線1Xの端部の平面図である。モールド部付電線1Xは、モールド部付電線1と比較して、複数の端子付電線90を有する点が異なっている。なお、
図6において、
図1〜5に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0078】
以下、モールド部付電線1Xにおけるモールド部付電線1と異なる点について説明する。
【0079】
図6に示されるように、モールド部付電線1Xは、複数の端子付電線90を備える。本実施形態は、モールド部付電線1Xが3本の端子付電線90を備えている場合の事例である。
【0080】
モールド部付電線1Xは、例えば、モールド部付電線1と同様の製造工程を経て製造される。モールド部付電線1Xにおいて、モールド部6は、並列に並ぶ複数の端子付電線90各々における端子金具8の被接続部82から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲を一括して覆っている。本実施形態においては、モールド部6は、絶縁電線9及び端子金具8における端子金具8の接点部81と被接続部82との間の部分から絶縁電線9の被覆端部92までの範囲を一括して覆っている。
【0081】
<応用例>
端子金具8の被接続部82がさらに絶縁電線9の二重被覆920に圧着される被覆圧着部を有していてもよい。また、端子金具8が超音波溶接などの溶接により絶縁電線9に接続されていてもよい。
【0082】
また、金型5に第一収容空間501が形成されておらず、端子付電線90の端子金具8における接点部81と被接続部82との間の部分から接点部81の先端部までの部分が金型5の外に出されている場合も考えられる。
【0083】
なお、本発明に係るモールド部付電線は、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された各実施形態及び応用例を自由に組み合わせること、或いは各実施形態及び応用例を適宜、変形する又は一部を省略することによって構成されることも可能である。