特許第6112302号(P6112302)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6112302
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】風洞実験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 9/04 20060101AFI20170403BHJP
【FI】
   G01M9/04
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-178302(P2013-178302)
(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公開番号】特開2015-45620(P2015-45620A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2015年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126930
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真伊知
(72)【発明者】
【氏名】舟里 忠益
(72)【発明者】
【氏名】山下 萩人
(72)【発明者】
【氏名】山本 芳嗣
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−025449(JP,U)
【文献】 実開平02−097650(JP,U)
【文献】 実開平04−064745(JP,U)
【文献】 特開平11−064156(JP,A)
【文献】 実公昭49−042190(JP,Y1)
【文献】 関下信正,他3名,回流風洞の性能向上に関する研究,日本機械学会2012年度年次大会,2012年 9月 9日,S053063
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/00−10/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風機により供給される空気を、周辺に渦流が発生する自由噴流の状態で噴出口から開放型の測定室に噴出して前記測定室に通過させるのに伴い、この噴出口からの噴出空気を、前記測定室において前記噴出口に対向する集風口を通じて吸込風路に吸い込む風洞実験装置であって、
前記測定室における実験物の設置部よりも空気流れ方向における下流側に位置して、前記集風口に流入する前記噴出口からの噴出空気の自由噴流に抵抗を付与する気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体を設け
この通気性抵抗体として、空気流れ方向に対し直交又は斜交する姿勢の棒状体を前記集風口の開口面方向に間隔を開けて並列状態で複数並べた棒状体並置列を設けてある風洞実験装置。
【請求項2】
前記通気性抵抗体を空気流れ方向に間隔を開けて複数配置してある請求項1記載の風洞実験装置。
【請求項3】
前記集風口を通じて前記吸込風路に流入した空気の一部を短絡的に前記測定室に導く短絡用開口、又は、前記吸込風路の音圧ピーク発生箇所に位置して音圧を前記吸込風路の外部へ透過させる音圧透過用開口を、前記通気性抵抗体よりも空気流れ方向における下流側において前記吸込風路の風路壁に形成してある請求項1又は2記載の風洞実験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、航空機、列車等々の空力特性や発生騒音の測定などを行う風洞実験装置に関し、詳しくは、送風機により供給される空気を、周辺に渦流が発生する自由噴流の状態で噴出口から開放型の測定室に噴出して前記測定室に通過させるのに伴い、この噴出口からの噴出空気を、測定室において噴出口に対向する集風口を通じて吸込風路に吸い込む風洞実験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の風洞実験装置では、特許文献1に見られるように、コレクタ部と称される集風口に続く吸込風路のうち測定室内に位置する部分の風路壁を通気性材により形成する、あるいは、特許文献2に見られるように、集風口を通じて吸込風路に流入した空気の一部をダクトを通じて短絡的に測定室に導く短絡用開口を吸込風路の風路壁に形成する、あるいはまた、特許文献3に見られるように、集風口に続く吸込風路のうち音圧ピークが生じる部分の風路壁に音圧透過用開口を形成するなどのことで、測定室における圧力脈動を抑制するようにしたものが提案されている。
【0003】
即ち、これら特許文献1〜3に見られる風洞実験装置は、噴出口からの噴出空気の自由噴流に伴う渦流が集風口部分に衝突することで圧力脈動が発生し、この発生した圧力脈動が空気流れ方向における上流側に伝播して噴出口に到達することで新たな渦流を誘発するフィードバック現象が生じ、このことで特定周波数の圧力脈動が測定室において生じるのに対し、この特定周波数が集風口に続く吸込風路の固有周波数に一致することで生じる風路共振現象により測定室における圧力脈動が増幅されるとの考察に基づいて提案されたものであり、上記の如き通気性材からなる風路壁や短絡用開口あるいは音圧透過用開口を設けることで上記の風路共振現象を回避し、これにより測定室における圧力脈動の抑制を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−64156号公報
【特許文献2】特開2008−76304号公報
【特許文献3】特開2010−175422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、風洞実験装置においては、風洞実験において正確で精度の高い測定結果を得るために次の式1で表される噴出空気の乱流度I(即ち、上記従来装置で言えば測定室における圧力脈動に伴う噴出空気の風速変動の度合)を極力小さくすることが要求されるが、風路共振現象の回避により測定室における圧力脈動の抑制を図る上記の如き従来装置では、噴出口から測定室に噴出する空気の風速変動を確実かつ効果的に抑制することが未だ難しく、この点、上記乱流度Iを低減する上で更なる改善の余地があった。
【0006】
I=u′×100/Uav ………(式1)
ここで、I:乱流度[%]
u′:風速変動の2乗平均平方根[km/h]
Uav:平均風速[km/h]
【0007】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、自由噴流の状態で噴出される噴出空気の風速変動に関する新たな研究結果に基づいて合理的な変動抑制構成を採ることで、噴出口から測定室に自由噴流の状態で噴出する空気の風速変動を確実かつ効果的に抑制する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は風洞実験装置に関し、その特徴は、
送風機により供給される空気を、周辺に渦流が発生する自由噴流の状態で噴出口から開放型の測定室に噴出して前記測定室に通過させるのに伴い、この噴出口からの噴出空気を、前記測定室において前記噴出口に対向する集風口を通じて吸込風路に吸い込む風洞実験装置であって、
前記測定室における実験物の設置部よりも空気流れ方向における下流側に位置して、前記集風口に流入する前記噴出口からの噴出空気の自由噴流に抵抗を付与する気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体を設け
この通気性抵抗体として、空気流れ方向に対し直交又は斜交する姿勢の棒状体を前記集風口の開口面方向に間隔を開けて並列状態で複数並べた棒状体並置列を設けてある点にある。
【0009】
本発明者による研究によれば、噴出口から自由噴流の状態で噴出する噴出空気の乱流度上昇は次の(イ)〜(ハ)の発生原理で生じると考えられる。
【0010】
(イ)渦流の発生
図7に模式的に示すように、噴出口3から自由噴流の状態で開放型測定室1へ噴出した噴出空気流Aの周辺では渦流Tが発生し、その発生渦流Tが噴出空気流Aとともに集風口4に向けて進行するのに伴い大きく発達する。
【0011】
(ロ)集風口部分に対する渦流の衝突
噴出空気流Aの周辺で発達した渦流Tが噴出口3に対向する集風口4部分に衝突し、この衝突により集風口4周辺で気流が乱れて集風口4周辺の圧力や気流風速が変動する(この圧力変動が特許文献1,3で言う渦流衝突により生じる圧力脈動に該当する)。
【0012】
図8(a)〜図8(b)は、この渦流衝突による集風口4近傍での気流変化を可視化したものであり、この図では渦流衝突による大きな気流変化(気流乱れ)が見られ、この気流変化よる大きな風速変動の存在が認められる。
【0013】
(ハ)噴出口からの噴出空気の風速変動
自由噴流である噴出口3からの噴出空気流Aは元来、不安定であり、このため、上記渦流衝突による集風口4周辺での気流の乱れや圧力変動、風速変動の影響を受けて噴出口3からの噴出空気流が、装置条件(特に測定室の各部寸法や風速)によって決まる特定周波数においてピークを持つ状態で揺動し、このことで前記式1で表される乱流度Iが上昇する。
【0014】
このことは図9に示す風速変動データ、及び、図10に示す同風速変動データのフーリエ解析結果からも認められる。
【0015】
なお、この噴出空気流Aの揺動には、集風口4周辺での圧力変動が空気流れ方向の上流側に伝播すること、また、集風口4に続く吸込風路の下流端を送風機を介して噴出口3に連通させた回流式装置の場合では、集風口4周辺での圧力変動や気流の乱れが空気流れ方向で下流側における吸込風路(回流風路)を通じて噴出口3まで及ぶことや、集風口4周辺での圧力・風速の変動や気流の乱れで吸込風路への吸込風量が変動することで噴出口3からの噴出風量も変動してしまうことなども影響していると考えられる。
【0016】
つまり、噴出口から開放型測定室へ噴出する噴出空気流が自由噴流で不安定であり、また、自由噴流である噴出空気流の周辺で渦流が発生し易くて、その発生渦流が噴出空気流とともに集風口に向けて進行するのに伴い大きく発達することが発端となって乱流度上昇が生じるが、これに対し、本発明者による研究によれば、集風口に流入する噴出口からの噴出空気の自由噴流に対して通気性抵抗体により抵抗を付与するようにすれば、その抵抗体への渦流衝突による気流の乱れや圧力・風速の変動は抵抗体の通気性により回避しながらも、その抵抗付与による気流拘束により自由噴流である噴出空気流を安定化することができるとともに、その噴出空気流の周辺での渦流の発生及び発達を効果的に抑制することができることが判明し、さらにまた、既に発生し発達段階にある渦流を消滅ないし減衰させる効果を期待し得ることも判明した。
【0017】
図11(a)〜図11(b)は、この通気性抵抗体Xを設けた場合における集風口4近傍での気流変化を可視化したものであり、通気性抵抗体Xがない場合の先の図8との比較からも判るように、同図11では、通気性抵抗体Xによる気流の安定化や渦流の抑制により気流の変化(気流乱れ)が効果的に緩和されており、このことから風速変動が効果的に抑制されていることが認められる。
【0018】
したがって、集風口に流入する噴出口からの噴出空気の自由噴流に抵抗を付与する気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体を設ける上記第1特徴構成によれば、自由噴流である噴出空気流を安定化するとともに噴出空気流の周辺での渦流の発生発達を抑制して、乱流度上昇の根本的原因そのものを効果的に抑止することができ、これにより、吸込風路との共振(風路共振現象)を回避してその風路共振現象による圧力脈動の増幅だけを抑制しようとする前述の従来装置に比べ、噴出口から測定室に自由噴流の状態で噴出する空気の風速変動を一層確実かつ効果的に抑制することができて、その噴出空気の乱流度を確実かつ効果的に低減することができ、ひいては、風洞実験の正確さや測定精度を一層高めることができる。
【0019】
図12は通気性抵抗体を設けない場合と通気性抵抗体の開口率を変えた場合との夫々における乱流度Iを示し、この図では通気性抵抗体を設けることで乱流度が効果的に低減されることが判り、また、通気性抵抗体の開口率が小さいほど(即ち、付与抵抗が大きいほど)乱流度の低減効果が大きいことが判る。
【0020】
図13は、通気性抵抗体を設けない場合と通気性抵抗体の開口率を変えた場合との夫々における風速変動データのフーリエ解析結果を示し、この図では通気性抵抗体を設けることで特定周波数にピークを持つ風速変動が効果的に抑制(特にそのピークが抑制)されることが判り、また、通気性抵抗体の開口率が小さいほど特定周波数にピークを持つ風速変動(特にそのピーク)に対する抑制効果が高いことが判る。
【0021】
なお、上記第1特徴構成において気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体は測定室における実験物の設置部よりも空気流れ方向における下流側に配置するから、実験物の設置部に通過させる噴出口からの噴出空気流に対して気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体が直接の影響を与えることはない。
【0022】
また、第1特徴構成の実施において気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体は、集風口に対する正面視において集風口の開口域の全域を覆う状態に配置する設置形態、あるいは、集風口に対する正面視において集風口の開口域の一部(例えば中央部や外周縁部)のみを覆う状態に配置する設置形態のいずれを採ってもよい。
【0023】
また、上記の第1特徴構成では、前記通気性抵抗体として、空気流れ方向に対し直交又は斜交する姿勢の棒状体を前記集風口の開口面方向に間隔を開けて並列状態で複数並べた棒状体並置列を設けるから次の効果も得ることができる。
【0024】
つまり、個々の棒状体による抵抗付与により、集風口に流入する噴出口からの噴出空気の自由噴流に対して、棒状体並置列の配置範囲の全範囲にわたり均一に抵抗付与して均一に気流拘束することができ、これにより、噴出口から測定室に自由噴流の状態で噴出する噴出空気の乱流度を確実かつ効果的に低減することができる。
【0025】
(削除)
【0026】
(削除)
【0027】
(削除)
【0028】
本発明の第特徴構成は、第1特徴構成の実施に好適な構成を特定するものであり、その特徴は、
前記通気性抵抗体を空気流れ方向に間隔を開けて複数配置してある点にある。
【0029】
この第特徴構成によれば、複数の通気性抵抗体の夫々による抵抗付与により、集風口に流入する噴出口からの噴出空気の自由噴流に対して一層効果的に抵抗付与することができ、これにより、噴出口から測定室に噴出する噴出空気の乱流度を更に確実かつ効果的に低減することができる。
【0030】
本発明の第特徴構成は、第1又は第2特徴構成の実施に好適な構成を特定するものであり、その特徴は、
前記集風口を通じて前記吸込風路に流入した空気の一部を短絡的に前記測定室に導く短絡用開口、又は、前記吸込風路の音圧ピーク発生箇所に位置して音圧を前記吸込風路の外部へ透過させる音圧透過用開口を、前記通気性抵抗体よりも空気流れ方向における下流側において前記吸込風路の風路壁に形成してある点にある。
【0031】
この第特徴構成によれば、集風口に流入する噴出口からの噴出空気の自由噴流に対して気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体により抵抗付与することで噴出口からの噴出空気の風速変動を効果的に抑制した状態でも未だ噴出空気の風速変動や圧力脈動がある程度残存するような場合、その残存する風速変動や圧力脈動を上記の短絡用開口又は音圧透過用開口による風路共鳴回避により抑制することができ、これにより、噴出口から測定室に噴出する噴出空気の乱流度を全体として更に確実かつ効果に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】風洞実験装置の全体構成を示す平面図
図2】棒状体並置列からなる通気性抵抗体の正面図(a)及び側面図(b)
図3参考例を示す網状体からなる通気性抵抗体の正面図(a)
図4参考例を示すハニカム構造体からなる通気性抵抗体の正面図(a)及び部分斜視(b)
図5】通気性抵抗体の配置例を示す正面図(a),(b),(c)
図6】通気性抵抗体の配置例を示す側面図
図7】渦流の発生形態を説明する模式図
図8】集風口近傍における気流変化を示す側面図(a),(b)
図9】風速変動データを示すグラフ
図10】フーリエ解析結果を示すグラフ
図11】通気性抵抗体がある状態での集風口近傍における気流変化を示す側面図(a),(b)
図12】乱流度の比較結果を示すグラフ
図13】フーリエ解析の比較結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は自動車、航空機、列車等々の空力特性や発生騒音の測定などを行う風洞実験装置の全体構成を示し、この風洞実験装置では開放型の測定室1を設け、この測定室1には、室内における実験物の設置部2に向けて空気Aを設定風速の自由噴流の状態で噴出する噴出口3、及び、実験物の設置部2を通過した噴出口3からの噴出空気Aを流入させる集風口4を設けてある。
【0034】
噴出口3と集風口4とは測定室1の外部において回流風路5を通じて連通させ、この回流風路5の途中箇所には、噴出口3に空気Aを送給してその送給空気Aを噴出口3から噴出させる送風機6を装備してある。
【0035】
つまり、この風洞実験装置は、回流風路5における送風機6と集風口4との間の部分を吸込風路5Bにするとともに、回流風路5における送風機6と噴出口3との間の部分を給気風路5Aにして、送風機6の運転により集風口4を通じて吸込風路5Bに吸い込んだ空気Aを給気風路5Aを通じて噴出口3から開放型の測定室1に自由噴流の状態で噴出する回流式の風洞実験装置にしてある。
【0036】
噴出口3及び集風口4はともに正面視で矩形状の開口にしてあり、給気風路5Aにおける噴出口3の近傍部分(即ち、給気風路5Aの出口近傍部)は、空気流れ方向の下流側ほど風路断面積が漸次的に小さくなって噴出口3に至る縮風部5aにしてある。
【0037】
一方、集風口4は、測定室1に向かって拡がるラッパ状集風部4aを備えるものにしてあり、吸込風路5Bにおける集風口4の近傍部分(即ち、吸込風路5Bの入口近傍部)は、空気流れ方向の下流側ほど風路断面積が漸次的に大きくなる拡風部5bにしてある。
【0038】
そして、ラッパ状集風部4aを備える集風口4と噴出口3とは、いずれも測定室1の内部に突出させた状態で実験物の設置部2を挟んで正対的に対向させてある。
【0039】
この種の風洞実験装置では、図7に模式的に示すように、噴出口3から開放型測定室1へ自由噴流の状態で噴出した噴出空気流Aの周辺で渦流Tが発生して発達し、その発達渦流Sが集風口4部分(具体的には、ラッパ状集風部4aや集風口4近傍における吸込風路5Bの風路壁)に衝突することで、集風口4周辺において気流が乱れ集風口4周辺の圧力や風速が変動する。
【0040】
そして、不安定な自由噴流である噴出口3からの噴出空気流Aが、上記渦流衝突による集風口4周辺での気流の乱れや圧力変動、風速変動の影響を受けることで、装置条件(特に測定室の各部寸法や風速)によって決まる特定周波数においてピークを持つ状態で揺動し、これが原因で、次の式1で表される噴出空気Aの乱流度Iが上昇して風洞実験装置の性能が低く制限される問題があった。
【0041】
I=u′×100/Uav ………(式1)
I:乱流度[%]
u′:風速変動の2乗平均平方根[km/h]
Uav:平均風速[km/h]
【0042】
これに対し、本例の風洞実験装置では図1図2に示すように、実験物の設置部2よりも空気流れ方向の下流側において、集風口4に流入する噴出口3からの噴出空気Aの自由噴流に対して抵抗を付与する気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体Xを、集風口4に対する正面視において集風口4の開口域の全域にわたらせる状態で設置してあり、この通気性抵抗体Xによる抵抗付与により噴出口3からの噴出空気Aの自由噴流を拘束することで、噴出口3からの噴出空気流Aを安定化するとともに、その噴出空気流Aの周辺での渦流の発生発達を抑制して、乱流度上昇の根本的原因そのものを効果的に抑止し、また、既に発生し発達段階にある渦流Tを消滅ないし減衰させる効果も望めるようにし、これにより、噴出口3から自由噴流の状態で噴出される噴出空気Aの乱流度Iを効果的に低下させるようにしてある。
【0043】
具体的には、空気流れ方向に対して直交する水平姿勢の丸棒状や角棒状の棒状体7aを集風口4の手前箇所において等間隔に間隔を開けて上下方向に並列状態で複数並べて棒状体並置列7を形成し、この棒状体並置列7を上記気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体Xとしてある。
【0044】
〔別実施形態〕
次に本発明の別実施形態を列記する。
【0045】
前述の実施形態では、水平姿勢の棒状体7aからなる棒状体並置列7を気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体Xとしたが、これに代えて、縦姿勢の棒状体を横方向に並列状態で並べた棒状体並置列を気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体Xにしてもよい。
【0046】
なお、参考例として、棒状体並置列7に代え、あるいは、棒状体並置列7とともに、図3に示す如き網状体8や図4に示す如きハニカム構造体9を、気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体Xとして設置することも考えられ、その他、パンチング板などの多孔板状体、縦横格子体やジャングルジム状体などの格子状体、さらにフィルター状体などを気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体Xとして使用することも考えられる。
【0047】
気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体Xとしての棒状体並置列は、図5(a)に示すように、集風口4に対する正面視において集風口4の開口域の全域を覆う状態に配置するに限らず、図5(b)に示すように、集風口4に対する正面視において集風口4の開口域の外周縁部のみを覆う状態に配置したり、図5(c)に示すように、集風口4に対する正面視において集風口4の開口域の中央部のみを覆う状態に配置するなど、集風口4に対する正面視において集風口4の開口域の一部のみを覆う状態に配置するようにしてもよい。
【0048】
また、気流安定化及び渦流抑制用通気性抵抗体Xとしての棒状体並置列の空気流れ方向における設置個所は、実験物の設置部2よりも空気流れ方向の下流側であれば、図6に示す如く集風口4の手前箇所から集風口4の奥部箇所(すなわち、吸込風路5Bに入った箇所)までの範囲内において適宜決定すればよい。
【0049】
図6に破線で示すように、集風口4を通じて吸込風路5Bに流入した空気Aの一部をダクト(図示省略)を通じて短絡的に測定室1に導く短絡用開口10、又は、吸込風路5Bの音圧ピーク発生箇所に位置して音圧を吸込風路5Bの外部へ透過させる音圧透過用開口11を通気性抵抗体Xよりも空気流れ方向における下流側において吸込風路5Bの風路壁に形成してもよい。
【0050】
このようにすれば、集風口4に流入する噴出口3からの噴出空気Aの自由噴流に対して気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体Xにより抵抗付与することで噴出口3からの噴出空気Aの風速変動を効果的に抑制した状態でも未だ噴出空気Aの風速変動や圧力脈動がある程度残存するような場合、その残存する風速変動や圧力脈動を上記の短絡用開口10又は音圧透過用開口11による風路共鳴回避により抑制することができる。
【0051】
本発明は、回流式風洞実験装置に限らず、吸込風路5Bに流入した空気Aを噴出口3に戻さない一過式の風洞実験装置に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明による風洞実験装置は種々の風洞実験に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
6 送風機
A 噴出空気
3 噴出口
1 測定室
4 集風口
5B 吸込風路
2 実験物設置部
X 気流安定化及び渦流抑制用の通気性抵抗体
7a 棒状体
7 棒状体並置列
10 短絡用開口
11 音圧透過用開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13