【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は風洞実験装置に関し、その特徴は、
送風機により供給される空気を
、周辺に渦流が発生する自由噴流の状態で噴出口から開放型の測定室に噴出
して前記測定室に通過させるのに伴い、この噴出口からの噴出空気を、前記測定室において前記噴出口に対向する集風口を通じて吸込風路に吸い込む風洞実験装置であって、
前記測定室における実験物の設置部よりも空気流れ方向における下流側に位置して、前記集風口に流入する前記噴出口からの噴出空気
の自由噴流に抵抗を付与する気流安定化
及び渦流抑制用の通気性抵抗体を設け
、
この通気性抵抗体として、空気流れ方向に対し直交又は斜交する姿勢の棒状体を前記集風口の開口面方向に間隔を開けて並列状態で複数並べた棒状体並置列を設けてある点にある。
【0009】
本発明者による研究によれば、
噴出口から自由噴流の状態で噴出する噴出空気の乱流度上昇は次の(イ)〜(ハ)の発生原理で生じると考えられる。
【0010】
(イ)渦流の発生
図7に模式的に示すように、噴出口3から
自由噴流の状態で開放型測定室1へ噴出した噴出空気流Aの周辺では渦流Tが発生し、その発生渦流Tが噴出空気流Aとともに集風口4に向けて進行するのに伴い大きく発達する。
【0011】
(ロ)集風口部分に対する渦流の衝突
噴出空気流Aの周辺で発達した渦流Tが噴出口3に対向する集風口4部分に衝突し、この衝突により集風口4周辺で気流が乱れて集風口4周辺の圧力や気流風速が変動する(この圧力変動が特許文献1,3で言う渦流衝突により生じる圧力脈動に該当する)。
【0012】
図8(a)〜
図8(b)は、この渦流衝突による集風口4近傍での気流変化を可視化したものであり、この図では渦流衝突による大きな気流変化(気流乱れ)が見られ、この気流変化よる大きな風速変動の存在が認められる。
【0013】
(ハ)噴出口からの噴出空気の風速変動
自由噴流である噴出口3からの噴出空気流Aは元来、不安定であり、このため、上記渦流衝突による集風口4周辺での気流の乱れや圧力変動、風速変動の影響を受けて噴出口3からの噴出空気流
Aが、装置条件(特に測定室の各部寸法や風速)によって決まる特定周波数においてピークを持つ状態で揺動し、このことで前記式1で表される乱流度Iが上昇する。
【0014】
このことは
図9に示す風速変動データ、及び、
図10に示す同風速変動データのフーリエ解析結果からも認められる。
【0015】
なお、この噴出空気流Aの揺動には、集風口4周辺での圧力変動が空気流れ方向の上流側に伝播すること、また、集風口4に続く吸込風路の下流端を送風機を介して噴出口3に連通させた回流式装置の場合では、集風口4周辺での圧力変動や気流の乱れが空気流れ方向で下流側における吸込風路(回流風路)を通じて噴出口3まで及ぶことや、集風口4周辺での圧力・風速の変動や気流の乱れで吸込風路への吸込風量が変動することで噴出口3からの噴出風量も変動してしまうことなども影響していると考えられる。
【0016】
つまり、噴出口から開放型測定室へ噴出する噴出空気流が自由噴流で不安定であり、また、自由噴流である噴出空気流の周辺で渦流が発生し易くて、その発生渦流が噴出空気流とともに集風口に向けて進行するのに伴い大きく発達することが発端となって乱流度上昇が生じるが、これに対し、本発明者による研究によれば、集風口に流入する噴出口からの噴出空気
の自由噴流に対して通気性抵抗体により抵抗を付与するようにすれば、その抵抗体への渦流衝突による気流の乱れや圧力・風速の変動は抵抗体の通気性により回避しながらも、その抵抗付与による気流拘束により自由噴流である噴出空気流を安定化することができるとともに、その噴出空気流の周辺での渦流の発生及び発達を効果的に抑制することができることが判明し、さらにまた、既に発生し発達段階にある渦流を消滅ないし減衰させる効果を期待し得ることも判明した。
【0017】
図11(a)〜
図11(b)は、この通気性抵抗体Xを設けた場合における集風口4近傍での気流変化を可視化したものであり、通気性抵抗体Xがない場合の先の
図8との比較からも判るように、同
図11では、通気性抵抗体Xによる気流の安定化や渦流の抑制により気流の変化(気流乱れ)が効果的に緩和されており、このことから風速変動が効果的に抑制されていることが認められる。
【0018】
したがって、集風口に流入する噴出口からの噴出空気
の自由噴流に抵抗を付与する気流安定化
及び渦流抑制用の通気性抵抗体を設ける上記第1特徴構成によれば、
自由噴流である噴出空気流を安定化するとともに噴出空気流の周辺での渦流の発生発達を抑制して、乱流度上昇の根本的原因そのものを効果的に抑止することができ、これにより、
吸込風路との共振(風路共振現象)を回避してその風路共振現象による圧力脈動の増幅だけを抑制しようとする前述の従来装置に比べ、噴出口から測定室に
自由噴流の状態で噴出する空気の風速変動を一層確実かつ効果的に抑制することができて、その噴出空気の乱流度を確実かつ効果的に低減することができ、ひいては、風洞実験の正確さや測定精度を一層高めることができる。
【0019】
図12は通気性抵抗体を設けない場合と通気性抵抗体の開口率を変えた場合との夫々における乱流度Iを示し、この図では通気性抵抗体を設けることで乱流度が効果的に低減されることが判り、また、通気性抵抗体の開口率が小さいほど(即ち、付与抵抗が大きいほど)乱流度の低減効果が大きいことが判る。
【0020】
図13は、通気性抵抗体を設けない場合と通気性抵抗体の開口率を変えた場合との夫々における風速変動データのフーリエ解析結果を示し、この図では通気性抵抗体を設けることで特定周波数にピークを持つ風速変動が効果的に抑制(特にそのピークが抑制)されることが判り、また、通気性抵抗体の開口率が小さいほど特定周波数にピークを持つ風速変動(特にそのピーク)に対する抑制効果が高いことが判る。
【0021】
なお、上記第1特徴構成において気流安定化
及び渦流抑制用の通気性抵抗体は測定室における実験物の設置部よりも空気流れ方向における下流側に配置するから、実験物の設置部に通過させる噴出口からの噴出空気流に対して気流安定化
及び渦流抑制用の通気性抵抗体が直接の影響を与えることはない。
【0022】
また、第1特徴構成の実施において気流安定化
及び渦流抑制用の通気性抵抗体は、集風口に対する正面視において集風口の開口域の全域を覆う状態に配置する設置形態、あるいは、集風口に対する正面視において集風口の開口域の一部(例えば中央部や外周縁部)のみを覆う状態に配置する設置形態のいずれを採ってもよい。
【0023】
また、上記の第1特徴構成では、前記通気性抵抗体として、空気流れ方向に対し直交又は斜交する姿勢の棒状体を前記集風口の開口面方向に間隔を開けて並列状態で複数並べた棒状体並置列を設け
るから次の効果も得ることができる。
【0024】
つまり、個々の棒状体による抵抗付与により、集風口に流入する噴出口からの噴出空気
の自由噴流に対して、棒状体並置列の配置範囲の全範囲にわたり均一に抵抗付与して均一に気流拘束することができ、これにより、噴出口から測定室に
自由噴流の状態で噴出する噴出空気の乱流度を確実かつ効果的に低減することができる。
【0025】
(削除)
【0026】
(削除)
【0027】
(削除)
【0028】
本発明の第
2特徴構成は、
第1特徴構成の実施に好適な構成を特定するものであり、その特徴は、
前記通気性抵抗体を空気流れ方向に間隔を開けて複数配置してある点にある。
【0029】
この第
2特徴構成によれば、複数の通気性抵抗体の夫々による抵抗付与により、集風口に流入する噴出口からの噴出空気
の自由噴流に対して一層効果的に抵抗付与することができ、これにより、噴出口から測定室に噴出する噴出空気の乱流度を更に確実かつ効果的に低減することができる。
【0030】
本発明の第
3特徴構成は、
第1又は第2特徴構成の実施に好適な構成を特定するものであり、その特徴は、
前記集風口を通じて前記吸込風路に流入した空気の一部を短絡的に前記測定室に導く短絡用開口、又は、前記吸込風路の音圧ピーク発生箇所に位置して音圧を前記吸込風路の外部へ透過させる音圧透過用開口を、前記通気性抵抗体よりも空気流れ方向における下流側において前記吸込風路の風路壁に形成してある点にある。
【0031】
この第
3特徴構成によれば、集風口に流入する噴出口からの噴出空気
の自由噴流に対して気流安定化
及び渦流抑制用の通気性抵抗体により抵抗付与することで噴出口からの噴出空気の風速変動を効果的に抑制した状態でも未だ噴出空気の風速変動や圧力脈動がある程度残存するような場合、その残存する風速変動や圧力脈動を上記の短絡用開口又は音圧透過用開口による風路共鳴回避により抑制することができ、これにより、噴出口から測定室に噴出する噴出空気の乱流度を全体として更に確実かつ効果に低減することができる。