(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6112332
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】加工天然木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27D 1/00 20060101AFI20170403BHJP
B27M 1/00 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
B27D1/00 M
B27M1/00 Z
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-55500(P2012-55500)
(22)【出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2013-188906(P2013-188906A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年3月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517072996
【氏名又は名称】川本 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】川本 一徳
【審査官】
木村 隆一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−136806(JP,A)
【文献】
特開昭62−275739(JP,A)
【文献】
特開2002−118131(JP,A)
【文献】
特開2002−001710(JP,A)
【文献】
実開平04−009707(JP,U)
【文献】
特開昭49−031808(JP,A)
【文献】
特開昭62−011603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27D 1/00−3/04
B27M 1/00−3/38
B05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理すべき天然木材の表面にある節目や亀裂部分の凹部に対して、アンカー穴を形成する前処理をし、融点300℃以下の低融点金属をその融点以上の温度で溶融してこれらの凹部及びアンカー穴に流し込むことで木材表面より盛り上げて埋設し、該低融点金属埋設部の盛上り部分を研摩により木材表面と面一に仕上げることを特徴とする加工天然木材の製造方法。
【請求項2】
溶融した低融点金属の流し込みに際し、該溶融金属の上から木片で押さえて溶融金属をアンカー穴の内部を含む節目や亀裂部分の凹部の縁まで入るようにして、木材の縁周辺と溶融金属周辺との間の隙間を埋設し、該低融点金属埋設部の盛上り部分をワイドベルトサンダーで研摩して木材表面と面一に仕上げる請求項1記載の加工天然木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築材料や各種木工製品に使用する各種天然無垢の板材や角材(以下「天然木材」という)の表面に出る節目や亀裂を低融点金属で補修した加工天然
木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常木材製品は、木材の節・割れ・裂けは外して製品化したものが多い。なかにはそれらをそのままデザイン表情として使用して製品化したものもある。一方、天然木材の節目や亀裂を補修することも従来から行われており、同質の木片を節穴や亀裂の生じた隙間に埋め込む手法が一般的であった。また、有機系の木質パテとして、2液硬化型のエポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂が挙げられる。このような材料を用いる方法では補修部分が目立つために、木工加工品の表面材にした場合、その商品価値を下げてしまうことになる。そのため、板材の節目や亀裂部分を切り離して柾目部分のみを使用するのが常で、それだけ材料の無駄になっていた。特に、長尺物を必要とする場合には、板材の節目や亀裂部分が使用できないし,廃棄処理や焼却処理も必要となり、経済的な損失に加えて環境汚染にも問題が生じていた。
【0003】
天然木材が入手し難く、かつ高価なため、最近は集積材で表面のみに薄板を貼る人工板材が多く用いられているが、その表面に貼る化粧材にも無垢材と同じように節穴や亀裂の補修処理が必要となる。特許文献1には、木目の歪みや繋ぎ合わせ部分の線を目立ちにくくして商品価値が低下するのを防止する方法として、脱色・染色された短尺な短尺単板の端部を斜めに切除して傾斜面を形成し、その傾斜面同士を合わせて複数枚の短尺単板を繋ぎ合わせて長尺単板を作成し、この長尺単板の繋ぎ合せ部分の一部をくり抜き、くり抜かれた開口部の形状に合致する薄板材を開口部に埋め込み、この複数枚の長尺単板を重ね合わせて接着剤を介して圧締成形にて分厚い板材を形成することで基板を作成し、この基板を所望の厚みにスライスして木質化粧板を製造することが記載されている。
【0004】
本発明で開発しようとする加工天然木材は、木材と金属のハイブリッド材とも云えるもので、従来の木材と金属のハイブリッド材については、例えば、特許文献2又は3に見られる。これらはいずれも木材表面に金属粉の溶射膜を形成する技術で、特許文献2は木造家屋の土台、大引等のシロアリ防御のためにその表面に亜鉛、銅、アルミニウム、ステンレス鋼等のワイヤを用いて溶射皮膜を形成する技術の開示であり、特許文献3は、この溶射技術を応用して、少なくとも土中に埋設される部分に、耐腐蝕性の金属を溶射して金属溶射膜をコーティングして木材の腐食を防止しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−91613号公報
【特許文献2】特開昭62−136272号公報
【特許文献3】特開平9−241817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明が目的とする天然木材の節目や亀裂の補修を金属で行うには金属粉や金属ワイヤを用いての溶射技術が適用し難いことが判明し、特に、木材表面の熱変化を極力抑えて、金属により補修することは困難であることが明らかになっている。そこで、これらの節・割れ・裂けなどに低融点金属を流し込み、よりデザイン性の高い製品を市場に提供し、自然材料の廃棄率を減らし環境にやさしい製品作りをするための技術の確立を開発課題とし、これまでの従来技術にはみられない低融点金属による補修で得られる加工天然
木材の製造方法につき検討を加えて、ここに完成をみたのである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の
方法により得られる加工天然木材は、天然木材の表面にある節目や亀裂部分の凹部に低融点金属が埋設され、その埋設部分の表面が木材表面と面一に仕上げられてなる加工天然木材である。
【0008】
このような加工天然木材は、処理すべき天然木材の表面にある節目や亀裂部分の凹部に対して、
アンカー穴を形成する前処理をし、融点300℃以下の低融点金属をその融点以上の温度で溶融してこれらの凹部
及びアンカー穴に流し込むことで木材表面より盛り上げて埋設し、該低融点金属埋設部の盛上り部分を研摩により木材表面と面一に仕上げる方法で達成される。
【0009】
天然木材の表面にある節目や亀裂部分の凹部に埋設する低融点金属には、木材の発火点が400〜470℃であるから、それよりも低い温度で溶融する低融点金属(230℃前後で溶解する)を使用して木材の節目等に流し込む。加工する木材表面が熱変性を起こしにくいようにできるだけ低い融点の金属が好ましく、融点300℃以下の低融点金属や低融点合金が用いられる。具体的にはSn(232℃)、Pb(327℃)、Bi(271℃)、Pb/Sn、Pb/Sn/Bi、Pb/Sn/Ag、Pb/Ag、Sn/Ag、Sn/Bi、Sn/Cu、Sn/Zn系から選ばれたいわゆるハンダ合金が好適に使用できる。しかしながら、Pbは毒性の点で好ましくないので避けた方が望ましい。したがって、組成にもよるが、Sn/Bi(138℃)、Sn/Cu(220℃)、Sn/Zn(198℃)系で融点が100〜300℃、より好ましくは130〜270℃の範囲の合金を用いると木材の焼けが少なくてよい。
【0010】
また、これら低融点合金は単独でも使用可能であるが、これの濡れ性を高め、更に、低融点金属や合金よりも融点を下げるために熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーやその他のCu、Ni、Al、Cr等の金属粉末を混合して、いわゆるはんだボールのような成分組成にして用いることもできる。
【0011】
天然木材は、広葉樹の堅木であるブナ材,楓材、桜材のほか、高級外材である、ビーチ、メープル、バーチ、チェリーブラック、ホワイトオークなどが処理対象として好ましいが、その他針葉樹の軟木である杉材、檜材等、広範囲な木材に利用できる。特に、家具材料として最も需要が多いブナ(ビーチ)やミズナラ、ホワイトオークなどに用いて好適である。処理すべき天然木材は、予め埋設する溶融金属に木材とのアンカーをつけるため、節などの縁形状を壊さないよう注意しながらさまざまな大きさのドリルで節内部に穴を開ける。また、形状としては、できるだけ垂直な穴に作りなおしたり、場合によりすり鉢状に刳り貫いて中間にアンカー穴を形成したりするなどの加工を施す。
【0012】
溶融した低融点金属の流し込みに際し、その溶融金属の上から木片などで押さえて溶融金属を
アンカー穴の内部を含む節目や亀裂部分の凹部の縁まで入るようにして、木材の縁周辺と溶融金属周辺との間の隙間を埋設し、均一に流し込まれた低融点金属埋設部が冷却した後に粗いヤスリで金属の盛上り部分の表面を削り平らにする。その後、ワイドベルトサンダーなどで研摩して周辺の木材表面と面一に仕上げるのである。節目には節全体が埋まっているものや、節全体あるいは一部が抜け落ちて埋まっていないものなどが大小様々であるが、節の取れるものは穴の縁の黒色のところをある程度残して中を刳り貫いたり、縁の部分を電気コテなどで焼け目を付けたりするなどの前処理をしてから低融点金属を流し込むとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の加工天然木材は、天然木材の表面にある節目や亀裂部分の凹部に低融点金属が埋設補修された加工天然木材であるので、その埋設部分の表面は低融点合金の種類によっては銀色の金属色に輝き、これがアクセントとなって木目の表面塗装色のなかで浮き上がり、全体として魅力のあるデザイン模様を醸し出す、従来にない仕上がりが得られる。前処理に縁のところを電気コテで焼きながら入れると金属と木部との境目が黒く浮き出されてはっきりする結果、クラフト感が出て、金属の埋設による違和感がなくなる効果が得られる。また、低融点合金に各種の金属粉末や合成樹脂粉末を混入させることで、広範囲な色調の埋設補修部が形成でき、木目の表面塗装の天然色に近づけることも可能となり、全体として見分けがつかないように仕上げることも自由に選択できる。
【0014】
低融点金属埋設部分は金属であるため傷がつきにくく、高級家具用の天然木材としての性能を維持することができる。そして、なによりも高価な天然無垢材の有効活用ができて、廃棄処理や焼却処理による経済的な損失や環境汚染の問題も解決可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ブナ材の原木からの板材表面の節目や亀裂状態を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す板材表面の節目や亀裂に低融点金属を充填肉盛りした状態を示す斜視図である。
【
図3】板材表面の節目に充填肉盛りした低融点金属部分の状態を示す
図2中A−A断面図である。
【
図4】
図3に示す板材表面の節目に充填肉盛りした低融点金属を研摩により平滑にした状態を示す断面図である。
【
図5】材の原木からの板材表面の節目にすり鉢状の埋め穴を開けた状態を示す断面図である。
【
図6】
図5の埋め穴の中間にアンカー穴を設けた状態を示す断面図である。
【
図7】
図5の埋め穴に低融点金属を充填肉盛りした低融点金属部分の状態を示す
図2中A−A断面図である。
【
図8】
図7に示す板材表面の節目に充填肉盛りした低融点金属の上から木片で押さえ込んだ状態を示す断面図である。
【
図9】
図7に示す充填肉盛りした低融点金属を研摩により平滑に仕上げた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施例により本発明の加工天然
木材の製造方法を具体的に説明する。
【実施例1】
【0017】
ブナ材の原木から長さ、幅、厚みが150×30×3.5cmの天然板材1を製材した。この荒材の段階の木材の節・裂け目などの内側に出ている木材繊維やバリを、サンドペーパーや電動式サンダーを使用して、滑らかな表面に仕上げる。この天然板材1は
図1にみられるように、大きな節目2と亀裂3とがあり、通常は廃材として焼却されるべきものであったが、この天然板材の表面にある節目2や亀裂3部分の凹部に対して前処理として節などの縁形状を壊さないよう注意しながらさまざまな大きさのドリルで節内部に出来るだけ垂直な穴を開け、節目表面をやや掘り下げて凹部4を作り、亀裂の大きい部分の裏側から表面側近くまで埋木5を施して凹部4を作った。次に、
図2に示すように、これらの凹部4に低融点金属としてSn/Bi=10/90重量比の合金(融点185℃)をその融点以上の温度で溶融してこれらの凹部に流し込むことで木材表面より盛り上げて埋設し、冷却後に低融点金属埋設部6の盛上り部分を天然木材表面とともに研摩により木材表面と面一に仕上げた。仕上げは、まず、低融点金属埋設部が冷却した後に粗いヤスリで金属の盛上り部分の表面を削り平らにし、その後、ワイドベルトサンダーで研摩して周辺の木材表面と面一にする方法によった。低融点金属埋設部6の研摩前後の状態を
図3と
図4の断面図で示す。
【0018】
研摩表面は銀色の金属色に輝き、数ヶ月経過後も金属色は変わらず、これがアクセントとなって木目の表面塗装色のなかで浮き上がり、全体として魅力のあるデザイン模様を醸し出す従来にない仕上がりとなった。
【実施例2】
【0019】
実施例1に準じて、節目2と亀裂3とがある桜材の原木から長さ、幅、厚みが150×30×3.5cmの天然板材1を製材した。この天然板材1の表面にある節目2や亀裂3部分の凹部は前処理をしなくても自然に節目表面や亀裂の凹部4ができており、これらの凹部4に低融点金属としてSn/Zn=9/91重量比の合金にCu微粉末を10%溶融混合したもの(融点198℃)をその融点以上の温度で溶融してこれらの凹部に流し込むことで木材表面より盛り上げて埋設し、冷却後に低融点金属埋設部6の盛上り部分を天然木材表面とともに研摩により木材表面と面一に仕上げた。
【0020】
研摩表面は銀色の金属色に輝き、数週間後には木目の表面塗装の天然色に近い褐色となり、全体として色の見分けがつかないように仕上がった。
【実施例3】
【0021】
実施例1に準じて、節目2と亀裂3とがある外材のブナ(バーク)原木から長さ、幅、厚みが150×30×3.5cmの天然板材1を製材した。各テストピースの節目には埋まっているもの埋まっていないもの、大小様々あったが、節穴のあるものは縁の黒い色のものをある程度残して取り除き、そこに、Sn/Cuが99.25/0.75の低融点合金(融点229℃)を溶かしながら注入するとき、縁のところを電気コテで焼きながら入れると低融点合金と木部との境目が黒くはっきりして、クラフト感が出て、逆に金属色と木部との間の違和感がなくなる製品が得られた。
【0022】
ここでは、以下の手順方法によった。この手順を
図5乃至
図9に示す。
1) 荒材の段階の木材の節・裂け目などの内側に出ている木材繊維やバリを、サンドペーパーや電動式サンダーなどを使用して、滑らかな表面に仕上げる。と同時に、金属に脚をつけるため、節などの縁形状を壊さないよう注意しながらさまざまな大きさのドリルで節内部に
図5のような形状のすり鉢状の埋め穴4を開ける。
2) 節や割れ目内部に
図6に見られるように数カ所(この場合は2カ所)にドリルで金属の脚となるアンカー穴7を設ける。作業はしっかりした作業台8上で行う。また、表面の濡れ性をより高め、溶解した金属を滑らかに流し込むため、木材の表面にハンダ用フラックスを塗布するのもよい。
3) 低融点金属6の溶融金属の凹部埋め穴4への侵入をスムースにするため節穴・裂け目内部を焦げない程度に、200℃程度の高温にして流し込む。低融点金属6の節約のためにすり鉢状の埋め穴4の底部に埋木5を設けてもよい。
4) 木材の節穴・裂け目の周辺に小型バイブレータを使用して振動を与えた状態にして、小型電熱器を使用して低融点金属を少しずつ溶融しながら、木材の節穴・裂け目に流し込む。小型バイブレータなどで振動を与えたが、溶融金属の表面張力のほうが強く、木の縁と金属との間に隙間9ができたままで、
図7のように溶融した低融点金属6が木の縁まで埋まることはなかった。
5) そこで低融点金属6を穴の縁までの隙間9を埋めるため、溶融した金属を木片10などで、溶融している低融点金属6の上から押さえ、金属を穴の縁まで入るようにすると
図8のように、大きな穴の場合も、縁周辺と金属周辺との間に隙間があっても金属が柔らかいうちに木片で押さえることで隙間を埋めることができる。この方法は単純ではあるが現在のところ効果的で、小さな穴や隙間でも比較的容易に埋めることができた。
6) 低融点金属6が冷えて固まった後、荒いヤスリで金属の表面を削って平らにする。次いで、ワイドベルトサンダーで低融点金属6と天然木材1との表面を一緒に平らに研摩して厚み調整する。最後に表面の仕上げは、
図9に示すように、オイルなど自然塗料を使用して塗装膜11を形成し金属の表面の塗膜は拭き取って仕上げる。
【符号の説明】
【0023】
1 天然板材
2 節目
3 亀裂
4 凹部(埋め穴)
5 埋木
6 低融点金属埋設部
7 アンカー穴
8 作業台
9 隙間
10 木片
11 塗装膜