(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、評価すべき単位となる評価対象ごとにショベルから取得された運転情報に関わる複数の運転変数の測定値、及び当該評価対象において発生した故障を特定する故障種別とが関連付けられて、因果関係情報として記憶されている記憶装置を有し、
前記処理装置は、
診断対象のショベルから取得された前記運転変数の測定値、及び前記記憶装置に記憶されている因果関係情報に基づいて、前記被疑部品及び前記優先順位を算出する請求項6に記載のショベル管理装置。
前記処理装置は、診断対象のショベルから取得された前記運転変数の測定値、及び前記記憶装置に記憶されている因果関係情報に基づいて、故障種別の事後確率を算出し、算出された事後確率に基づいて、前記被疑部品及び前記優先順位を算出する請求項7に記載のショベル管理装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施例1]
図1に、実施例1による油圧ショベルの側面図を示す。下部走行体(基体)20に、旋回機構21を介して上部旋回体23が搭載されている。旋回機構21は、電動機(モータ)を含み、上部旋回体23を時計回り、または反時計周りに旋回させる。上部旋回体23に、ブーム24が取り付けられている。ブーム24は、油圧駆動されるブームシリンダ25により、上部旋回体23に対して上下方向に揺動する。ブーム24の先端に、アーム26が取り付けられている。アーム26は、油圧駆動されるアームシリンダ27により、ブーム24に対して前後方向に揺動する。アーム26の先端にバケット28が取り付けられている。バケット28は、油圧駆動されるバケットシリンダ29により、アーム26に対して上下方向に揺動する。上部旋回体23には、さらに運転者を収容するキャビン30が搭載されている。
【0015】
図2に、実施例1によるショベルの動力系及び油圧系のブロック図を示す。
図2において、動力系を二重線で表し、高圧油圧ラインを太い実線で表し、パイロットラインを破線で表す。
【0016】
エンジン31の駆動軸がトルクコンバータ32を介してメインポンプ34に連結されている。エンジン31には、燃料の燃焼によって駆動力を発生するエンジン、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関が用いられる。エンジン31は、作業機械の運転中は、常時駆動されている。メインポンプ34が、エンジン31の外部負荷となる。
【0017】
メインポンプ34は、高圧油圧ライン36を介して、コントロールバルブ37に油圧を供給する。コントロールバルブ37は、運転者からの指令により、走行用油圧モータ38A、38B、旋回用油圧モータ45、ブームシリンダ25、アームシリンダ27、及びバケットシリンダ29に油圧を分配する。走行用油圧モータ38A及び38Bは、それぞれ
図1に示した下部走行体20に備えられた左右の2本のクローラを駆動する。旋回用油圧モータ45は、
図1に示した旋回機構21を駆動する。
【0018】
パイロットポンプ50が、油圧操作系に必要なパイロット圧を発生する。発生したパイロット圧は、パイロットライン51を介して操作装置52に供給される。操作装置52は、レバーやペダルを含み、運転者によって操作される。操作装置52は、パイロットライン51から供給される1次側の油圧を、運転者の操作に応じて、2次側の油圧に変換する。2次側の油圧は、油圧ライン53を介してコントロールバルブ37に伝達されるとともに、他の油圧ライン54を介して圧力センサ55に伝達される。
【0019】
圧力センサ55で検出された圧力の検出結果が、制御装置40に入力される。これにより、制御装置40は、下部走行体20、旋回機構21、ブーム24、アーム26、及びバケット28の操作の状況を検知することができる。制御装置40は、操作状況に応じて、エンジン31の出力を制御する。
【0020】
図3に、実施例1によるショベルの情報系のブロック図及び管理装置(管理センタ)のブロック図を示す。ショベル60に、車両コントローラ61、通信装置62、GPS車載器63、表示装置64、及びポインティングデバイス65が搭載されている。車両コントローラ61は、ショベル60に設置された種々のセンサで計測された運転変数の測定値を受信する。ショベル60は、診断対象となるショベルや、故障診断のための因果関係情報を収集するための評価対象となるショベル等に相当する。
【0021】
ポインティングデバイス65は、表示装置64の画面内の座標を指定する事ができる。指定された座標が、車両コントローラ61に入力される。ポインティングデバイス65には、例えばジョイスティック、タッチパッド、タッチパネル、トラックボール等を用いることができる。
【0022】
通信装置62は、通信回線80を介して、管理装置70と種々の情報の送受信を行う。GPS車載器63は、ショベル60の現在位置を計測する。
【0023】
管理装置70は、通信装置71、処理装置72、記憶装置73、表示装置74、及びポインティングデバイス75を含む。通信装置71は、通信回線80を介して、ショベル60と種々の情報の送受信を行う。処理装置72は、ショベル60から受信した運転変数の測定値に基づいて、ショベル60に発生している、または発生するであろうと思われる故障種別を推定する。通常は、複数の故障種別が推定され、発生確率の高いものから順番に優先順位が付けられる。故障種別の推定処理の詳細については、後述する。
【0024】
記憶装置73に、処理装置72による推定処理に必要となる種々の情報が記憶されている。表示装置74は、処理装置72による故障種別の推定結果を表示する。また、推定結果は、故障推定情報として、通信装置71を介してショベル60に送信される。
【0025】
図4に、故障管理票の一例を示す。故障管理票は、管理装置70内の記憶装置73(
図3)に格納されている。ショベル60に、あるまとまった機能を持つ複数の部位が画定されている。部位の各々は、複数の部品で構成される。例えば、「エンジン」という部位は、複数の部品、例えば燃料ライン、インジェクタ、燃料フィルタ、オルタネータ、オイルクーラ等によって構成される。
【0026】
故障管理票は、故障種別ごとに準備される。各故障管理票は、故障種別Xにより識別され、故障件名、故障部位、故障部品、及び対策に関する情報を含む。例えば、故障種別XがX1の故障の件名は「エンジン燃料ライン異常」であり、故障部位は「エンジン」であり、故障部品は「燃料ライン」であり、対策は「燃料ライン点検、清掃、交換」である。
【0027】
故障管理票は、予め想定される故障について準備されている。さらに、想定されない故障が発生した場合には、この故障について、新たに故障管理票が作成される。
図4には、6種類の故障種別の故障管理票を示しているが、実際には、より多くの故障管理票が準備されている。
【0028】
図5に、管理装置70(
図3)からショベル60に送信される故障推定情報の一例を示す。故障推定情報は、優先順位、故障種別、件名、部位、部品、及び対策が含まれる。故障が発生していると推定される部品を「被疑部品」ということとする。例えば、優先順位1から4までの故障種別が、ショベル60に送信される。ショベル60の車両コントローラ61は、故障推定情報に基づいて、故障情報を表示装置64に画像で表示する。
【0029】
図6に、表示装置64に表示される画像の一例を示す。車両コントローラ61は、被疑部品を含む部位を他の部位と識別することができる態様で、表示装置64に、ショベルの機体の画像を表示する。例えば、被疑部品を含む部位が、太い閉曲線で囲まれて表示される。
図5に示した故障推定情報を受信した場合には、エンジン及び旋回モータの位置が、太い閉曲線で囲まれる。
【0030】
さらに、表示装置64に、ショベルの型式、エンジン、油圧ポンプ、旋回モータ等の基本情報が表示される。さらに、他の情報を表示するための複数の操作ボタン、例えば、「稼働情報」、「稼働履歴」、「整備履歴」、「位置情報」のボタンが表示される。稼働情報ボタンが選択されると、表示装置64に、今週の稼働情報が表示される。稼働履歴ボタンが選択されると、今週よりも前の過去の稼働情報が表示される。整備履歴ボタンが選択されると、過去の整備履歴が表示される。位置情報ボタンが選択されると、地図が表示されるとともに、地図内に現在位置を示す記号、例えば矢印が表示される。
【0031】
ポインティングデバイス65により、被疑部品を含む部位を指定すると、当該部位の名称と、優先順位が表示される。例えば、ポインティングデバイス65でエンジンの位置が指定されると、当該部位に含まれている被疑部品に対応付けられた最も高い優先順位、ここでは「1」、及び部位の名称「エンジン」が表示される。ポインティングデバイス65で旋回モータの位置が指定されると、当該部位に含まれている被疑部品に対応付けられた最も高い優先順位、ここでは「4」、及び部位の名称「旋回モータ」が表示される。なお、優先順位によって、太い閉曲線の色を異ならせてもよい。また、太い閉曲線で被疑部位を強調表示する他に、操作者や保守要員が、被疑部位を視覚的に容易に識別可能な態様で強調表示してもよい。例えば、点線や破線の閉曲線を用いてもよいし、被疑部位を点滅表示させてもよい。
【0032】
ポインティングデバイス65によって、被疑部品を含む部位が指定されると、車両コントローラ61は、指定された部位の拡大画像を、表示装置64に表示する。
【0033】
図7Aに、ポインティングデバイス65で、部位「エンジン」が指定されたときの拡大画像の一例を示す。被疑部品と他の部品とを識別できる態様で、かつ被疑部品に対応付けられた優先順位を認識可能な態様で、被疑部品を含む部位が表示される。
図7Aでは、被疑部品を太い閉曲線で囲むことにより、被疑部品と他の部品とを区別している。被疑部品の近傍に表示された丸付き数字が、優先順位を表している。なお、太い閉曲線の代わりに、点線や破線の閉曲線を用いてもよいし、被疑部品を点滅表示させてもよい。
【0034】
被疑部品がポインティングデバイス65によって指定されると、車両コントローラ61は、指定された被疑部品に対応する故障件名、部品名、及び故障対策を表示する。
図7Bに、部品「インジェクタ」が指定されたときの表示例を示す。故障件名として「エンジンインジェクタ異常」、部品名として「インジェクタ」、故障対策として「インジェクタ交換」が表示される。
【0035】
故障が発生していると推定される部位及び部品が画像で表示されるため、メンテナンス要員は、容易に故障箇所を特定することができる。故障が発生していると推定される箇所が複数箇所である場合でも、故障部品に優先順位が関連付けられているため、故障箇所の絞り込みが容易である。さらに、表示装置64に表示された故障対応等の情報により、短時間で、適切な修理方法を見出すことができる。
【0036】
なお、被疑部品を含む部位が一箇所の場合には、
図6に示した複数の部位を含む機体の画像を表示することなく、
図7Aに示した部位の拡大画像を表示するようにしてもよい。また、部位に含まれる被疑部品が1つの場合には、
図7Aにおいて、被疑部品を表示しても良い。被疑部品の画像のみの表示では、部位を把握し難い場合、被疑部品を特定できるような態様で、部位全体の画像を表示してもよい。
【0037】
図7A及び
図7Bには示されていないが、
図6の場合と同様に、他の情報を表示するための複数の操作ボタンも表示される。
【0038】
図7Cに、被疑部位の他の表示例を示す。
図7Cに示した例では、エンジンの画像の他に、故障情報が表示される。
図6に示した例と同様に、他の情報を表示するための複数の操作ボタンが表示される。
【0039】
故障情報は、優先順位ごとに1つのタブにまとめられてタブ形式で表示される。1つのタブに対応する表示領域内に、故障種別、故障確率、故障部品が表示されるとともに、点検項目ボタン、部品リストボタン、及び整備手順ボタンが表示される。「故障確率」とは、評価対象のショベルにおいて、表示されている故障種別の故障が発生している確率を意味する。現在表示されているタブとは異なるタブを選択すると、選択されたタブに対応する他の優先順位の故障情報が表示される。
【0040】
図7Dに、点検項目ボタン(
図7C)が選択されたときに表示される画像の一例を示す。点検項目として、複数の点検すべき内容、及び点検結果への対応が表示される。作業者は、点検項目に従って点検作業を行うことにより、故障している部品を容易に特定することができる。
図6の場合と同様に、他の情報を表示するための複数の操作ボタンも表示される。さらに、「戻る」ボタンが表示される。
【0041】
図7Eに、整備手順ボタン(
図7C)が選択されたときに表示される画像の一例を示す。整備に必要な準備品、及び作業の手順が時系列に表示される。作業者は、表示された整備手順に従って容易に整備を行うことができる。
図6の場合と同様に、他の情報を表示するための複数の操作ボタンも表示される。さらに、「戻る」ボタンが表示される。
【0042】
次に、
図8〜
図14を参照して、故障種別の推定処理について説明する。
【0043】
図8に、故障診断を行うための因果関係情報を作成して記憶する処理のフローチャートを示す。ステップSA1において、管理装置70が、評価対象のショベル60から運転変数の測定値、及びその測定値が収集された期間に発生した故障種別を取得する。
【0044】
図9に、ステップSA1で取得された運転変数の測定値、及び故障種別の一例を示す。運転変数の測定値及び故障種別の取得は、ショベルの機番ごとに、かつ一定の収集期間ごとに行われる。収集期間は、例えば1日に設定される。1つの機番のショベルから、1つの収集期間内に収集された情報群が、1つの評価対象を構成する。
【0045】
図9では、一例として、評価対象No.1の情報は、2011年7月1日の機番aのショベルから取得されたものであり、運転時間Aが24、ポンプ圧力Bが19、冷却水温度Cが15、油圧負荷Dが11、稼働時間Eが14である。「運転時間」は、ショベルの起動スイッチが押されてから、停止スイッチが押されるまでの時間、すなわちショベルが起動していた時間を意味する。「稼動時間」は、操作者がショベルを操作していた時間を意味する。また、評価対象No.1の故障種別XはX1である。これは、2011年7月1日に、機番aのショベルに、故障種別X1の故障が発生したことを意味する。
図9に示した故障種別X0は、故障が発生していないことを意味する。
【0046】
次に、ステップSA2(
図8)において、運転変数の離散化処理を行い、各運転変数を有限離散型事象に置き換える。
【0047】
図10を参照して、運転時間Aを、有限離散型事象に置き換える方法について説明する。なお、他の運転変数についても、同様に有限離散型事象に置き換えることができる。
【0048】
図10は、運転時間Aのヒストグラムの一例を示す。
図10の横軸は、運転時間Aを表し、縦軸は、評価対象の数(頻度)を表す。運転時間Aの平均をμ、標準偏差をσとする。μ−3σからμ+3σまでの範囲を3等分する。すなわち、横軸が、μ−3σ〜μ−σ、μ−σ〜μ+σ、μ+σ〜μ+3σの3つの領域に区分される。運転時間Aがμ−σ以下の区画をA1、μ−σ〜μ+σの区画をA2、μ+σ以上の区画をA3とする。
【0049】
運転時間Aについて、測定値が区画A1内の値を取る事象、区画A2内の値を取る事象、及び区画A3内の値を取る事象のうち、いずれかの事象が生じる。
【0050】
図11に、離散化処理後の運転変数及び故障種別の一覧を示す。運転時間Aを、その測定値が属する区画A1、A2、A3で表している。同様に、他の運転情報も、有限離散型事象に置き換えられている。
【0051】
次に、ステップSA3(
図8)において、因果関係情報を作成し、記憶装置73(
図3)に格納する。
【0052】
図11に示した有限離散型事象の運転変数A、B、C、・・・と、故障種別Xとを関連付けた一覧表は、故障種別Xを原因事象とし、運転変数を結果事象とする因果関係情報といえる。
【0053】
図12に、実施例1で採用する故障推定モデルの事前確率及び条件付き確率の一例を示す。故障種別Xを原因事象とし、各運転変数を、原因によって生じたと想定される結果事象とし、
図11に示した因果関係情報から、事前確率P(X)を算出することができる。さらに、運転変数A、B、C、・・・の各々について、故障事例Xの各々が起こるという事象を前提条件とした条件付き確率P(A|X)、P(B|X)、・・・を算出することができる。
図12に、算出された事前確率P(X)、及び条件付き確率P(A|X)、P(B|X)の一例を示す。
【0054】
図13に、故障原因を推定する方法のフローチャートを示す。ステップSB1において、管理装置70が、診断対象となるショベルから、運転変数の測定値を取得する。ステップSB2において、取得した運転変数の離散化処理を行う。この離散化処理は、
図8のステップSA2で行った離散化処理と同一の基準に基づいて行う。
図14に、離散化処理後の運転変数の一例を示す。例えば、運転時間Aの離散化値がA2、ポンプ圧力Bの離散化値がB3、冷却水温度Cの離散化値がC1、油圧負荷Dの離散化値がD2、稼働時間Eの離散化値がE2である。
【0055】
ステップSB3において、
図8に示した因果関係情報から得られた事前確率P(X)、条件付き確率P(A|X)等を用いて、故障種別ごとの事後確率を求める(ベイズ推定を行う)。
【0056】
一例として、運転時間AがA2であるという事象が発生したという条件で、故障種別X1の故障が発生している事後確率P(X=X1|A=A2)(以下、P(X1|A2)と表記する。)は、以下の式で算出することができる。
【数1】
【0057】
同様に、故障種別X2、X3等の故障が発生している事後確率P(X2|A2)、P(X3|A2)、・・・を算出することができる。
【0058】
さらに、算出された事後確率P(X1|A2)、P(X2|A2)、P(X3|A2)・・・を新たに事前確率として扱い、ポンプ圧力Bの離散化値がB3であるという事象が発生したという条件で、故障種別X1の故障が発生している事後確率P(X1|A2,B3)は、以下の式で算出することができる。なお、運転時間Aとポンプ圧力Bとは独立であると仮定している。
【数2】
【0059】
右辺のP(B3|X1,A2)は、
図8に示した因果関係情報から求めることができる。同様に、故障種別X2、X3等の故障が発生している事後確率P(X2|A2,B3)、P(X3|A2,B3)、・・・を算出することができる。
【0060】
さらに、冷却水温度C、油圧負荷D、稼働時間E等の他の運転変数を、新たな結果として加えて、事後確率を算出することにより、算出された事後確率の客観性をより高めることができる。
【0061】
図14に、算出された事後確率の一例を示す。この例では、診断対象となるショベルにおいて、故障種別X2、X4、X5、X6の故障が発生している確率が、それぞれ50%、5%、10%、3%であると推定される。すなわち、
【数3】
【0062】
なお、上記実施例1では、結果となる事象を順次追加して、新たに事後確率を段階的に算出したが、必ずしも、段階的に事後確率を算出する必要はない。
図11に示した因果関係情報を用いて、故障種別の事後確率を算出してもよい。また、
図12に示した事前確率P(X)、及び各運転変数の条件付き確率P(A|X)、P(B|X)等を用い、すべての運転変数を結果事象として考慮して、故障種別の事後確率を算出してもよい。
【0063】
上述のように、
図14に示した運転変数の測定値の離散化値を結果事象として、
図11に示した因果関係情報を用いてベイズ推論を行うことにより、原因事象である故障種別の事後確率を算出することができる。推定された故障種別の事後確率の大小関係に基づいて、故障種別に優先順位付けを行う。
図14に示した例では、故障種別X2の優先順位が「1」、故障種別X5の優先順位が「2」、故障種別X4の優先順位が「3」故障種別X6の優先順位が「4」となる。
【0064】
次に、ステップSB4(
図13)において、推定される故障種別に優先順位を関連付けた故障推定情報(
図5)を、診断対象のショベルに送信する。なお、処理装置72は、故障推定情報を、管理装置70の表示装置74にも、画像として表示する。管理装置70の表示装置74に表示される画像は、
図6、
図7A、
図7Bに示したショベル60の表示装置に表示される画像と同一であり、ポインティングデバイスによって部位や被疑部品を指定したときの処理も、ショベルの車両コントローラ61の処理と同一である。さらに、管理装置70での推定処理をショベルに搭載された車両コントローラ61で行なってもよい。このとき、推定処理に必要な情報を記憶するための記憶装置73に相当する装置がショベルに搭載される。推定処理の結果は、管理装置70に送信される。管理装置70の処理装置72は、受信した推定処理の結果を表示装置74に表示する。この場合、管理装置70として、例えば携帯情報端末等が用いられる。
【0065】
また、過去に行った推定処理の推定結果を、推定結果情報としてショベルの車両コントローラ61に記憶させておいてもよい。車両コントローラ61に推定結果情報を記憶させておくと、管理装置70と通信を行うことなく、必要に応じて、推定結果情報から故障種別を優先順位付けして出力することができる。管理装置70との通信ができないような僻地でショベルによる作業を行なっている場合であっても、何らかの異常が発生したときに、過去の推定結果情報に基づいて、迅速に保守作業に取り掛かることができる。
【0066】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。以下、実施例1との相違点について説明し、同一の構成については説明を省略する。
【0067】
実施例1では、
図6に示したように、評価対象に故障種別X0、X1、X2、・・・のいずれかを対応させた。実施例2においては、
図15に示すように、評価対象に対して、故障種別X1、X2、・・・の各々の故障が発生しているか否かという情報を対応させる。故障種別ごとに、当該故障種別の故障が発生しているときの値を「1」とし、発生していないときの値を「0」とする。
【0068】
図16に、原因事象と結果事象との因果関係モデルを示す。例えば、ある故障種別と、その故障の発生により影響を受ける運転変数とを、相互に関連付ける。
図16では、例えば故障種別X1に、運転時間Aと冷却水温度Cとが関連付けられている。例えば、故障種別X1、X2、X3の故障が発生する事前確率P(X1)、P(X2)、P(X3)は、それぞれ0.375、0.125、0.25である。また、故障種別X1、X2、X3の故障が発生しない事前確率P(X1
C)、P(X2
C)、P(X3
C)は、それぞれ0.625、0.875、0.75である。ここで、「X1
C」は、故障種別X1の故障が発生していない事象を意味する。
【0069】
ステップSB3(
図13)において事後確率を算出する方法について説明する。一例として、運転時間がA2であるという事象が発生したという条件で、故障種別X1の故障が発生している事後確率P(X1|A=A2)(以下、P(X1|A2)と表記する。)は、以下の式で算出することができる。
【数4】
【0070】
さらに、算出された事後確率P(X1|A2)を新たに事前確率として扱い、冷却水温度Cの離散化値がC1(
図14参照)であるという事象が発生したという条件で、故障種別X1の故障が発生している事後確率P(X1|A2,C1)は、以下の式で算出することができる。
【数5】
【0071】
故障種別X1に関連付けられているその他の運転変数がある場合には、さらに、算出された事後確率P(X1|A2,C1)を事前確率として扱い、故障種別X1に関連付けられている他の運転変数を新たな結果として加えて事後確率を算出する。これにより、算出された事後確率の客観性をより高めることができる。
【0072】
同様に、故障種別X2、X3等の故障が発生している事後確率を算出することができる。事後確率の算出結果により、
図14に示した実施例1の表と同じ表が得られる。
【0073】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。