【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.一般社団法人 日本機械学会発行、第4回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集(発行日:平成24年10月21日),第303〜304頁 2.第4回マイクロ・ナノ工学シンポジウム(開催日:平成24年10月22日〜24日、発表日:平成24年10月23日)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記環式化合物は、アニリン、ピリジン、ピラジン、トリアジン、あるいはこれらの誘導体のうちのいずれか1種または2種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボン系触媒の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
白金代替触媒の一つとして、異種元素含有カーボン触媒等に代表されるカーボン系触媒が注目を集め、その開発が精力的に進められている。カーボン材料(炭素質材料)については、異なる混成軌道を有する炭素は異なる成分系であるとみなした場合に、カーボン材料自体がカーボン原子の集合体を主体とした多成分系からなると考えることができ、それらの構成単位間に物理的・化学的な相互作用を見出すことができる。中でも特に、カーボン材料の結晶格子点に異種原子を置換した異種元素含有カーボン材料については、ORR活性が発現され得ることから、異種元素含有カーボン触媒と呼ぶことができる。
【0006】
この異種元素含有カーボン触媒は、典型的には、ポリマーやカーボンナノチューブ等の炭素質材料に異種元素を含む化合物を導入して重合体または複合体等とした後、400℃〜1500℃程度の加熱処理を施し炭化させることで製造されている(例えば、特許文献1〜4等参照)。
しかしながら、上記の製造方法では、少なくとも、炭素質材料と含異種元素化合物との重合または複合化の工程と、熱処理による炭化の工程とが必要であり、熱処理にて導入した異種元素が脱離してしまうなどの問題がある。また、工業的には、より簡便な触媒の製造方法が求められる。さらに、カーボン材料を主体とした触媒の新しい機能物性の発現等の可能性を開く為にも、全く新しいカーボン系触媒の製造方法の開発が望まれてもいる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みて創出されたものであり、白金触媒の代替触媒として有用なカーボン系触媒の、簡便で、かつ、新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この出願は、上記の課題を解決するものとして、カーボン系触媒の製造方法を提供する。かかる製造方法は、原料化合物として、化学組成に炭素と、炭素、水素および酸素以外の異種元素とを含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を用意すること、上記原料化合物を含む液中でプラズマを発生させることにより上記原料化合物を重合させること、を含むことを特徴としている。
【0009】
代表的なカーボン材料であるグラファイトは、炭素原子がsp
2結合してなる六員環構造を有するグラフェンシートが多数積層された構造を有している。このようなカーボン材料は、その結晶構造に特殊な「乱れ」が生じることで、酸化還元(ORR)反応に対する触媒作用を示すことが知られている。このような結晶構造の乱れは、例えば、カーボン材料を製造する際に鉄(Fe)やコバルト(Co)等の異種金属を添加してナノシェル化することや、グラフェン構造における炭素(C)サイトに窒素(N)やホウ素(B)等の異種原子を置換してドープカーボンとすること等で、導入することができる。すなわち、カーボン材料に異種元素を適切に導入し、電子軌道および結晶空間等を制御することで、酸化還元(ORR)触媒としての機能を発現させることができる。
【0010】
本発明のカーボン系触媒の製造方法においては、上記の特殊な「乱れ」を備えるカーボン材料の製造の場として、液中で発生されるプラズマを利用するようにしている。以下、液中で発生されたプラズマを単に「液中プラズマ」という場合がある。この液中プラズマを利用するカーボン系触媒の製造方法においては、原料化合物である環式化合物からカーボン系触媒を生成するにあたり、環式化合物の重合反応を伴う炭素化を進行させる。ここで、このカーボン系触媒の生成過程においては、重合と炭素化との独立した2つの工程は必要ではなく、原料化合物を含む液中でプラズマを発生させるというワンステップでカーボン系触媒の生成を行うことができる。そして、このプラズマの作用により得られるカーボン系触媒には、ORR反応に対する活性が備えられている。すなわち、本発明によると、既存の手法とは異なる、液中プラズマを利用した全く新しいカーボン系触媒の製造方法が提供される。
なお、本願明細書において、環構造を有する化合物とは、化学構造において構成原子が環状に結合した化合物の一群を意味する。したがって、この環式化合物には、一つの分子中に一つの環が存在する単環化合物や、一より多くの環が存在する多環化合物、また、環を構成する元素が1種類の単素環式化合物や、2種以上の元素により環が構成される複素環式化合物等の多様な環式化合物が含まれる。
【0011】
ここに開示されるカーボン系触媒の製造方法の好ましい一態様においては、上記環式化合物に含まれる上記異種元素として、ホウ素(B)または窒素(N)あるいはその両方を含むことを特徴としている。
炭素(C)は原子番号6の元素であり、例えばグラフェンシートにおける炭素サイトには、元素周期律表で炭素の両隣りに位置するホウ素(原子番号5)または窒素(原子番号7)が比較的安定して存在できるとともに、グラフェンの活性化に効果的に寄与し得る。したがって、異種元素として、ホウ素や窒素等を含む環式化合物を用い、これが重合された形態のカーボン材料を形成することで、活性の高いカーボン系触媒を製造することができる。
【0012】
ここに開示されるカーボン系触媒の製造方法の好ましい一態様において、上記環式化合物は、5員環または6員環あるいはその両方を化学構造に有することを特徴としている。
本発明で得られるカーボン系触媒は、原料化合物である環式化合物の構造を基本として、これがいくつか重合された化学構造を有していると考えられる。ここで、窒素等の異種元素は、例えば、一例として、グラフェンシートの端部において、6員環のピリジン型の構造や、5員環のピロール型の構造を形成しつつ存在することができる。したがって、本発明で用いる原料化合物においても、5員環または6員環の環構造を有するものであると、異種元素を好適に構造内に導入することができるために好ましい。かかる環式化合物は、環構造が炭素のみで構成された環式化合物であってもよいし、環構造に炭素以外の元素を含む複素環式化合物であってもよい。
【0013】
ここに開示されるカーボン系触媒の製造方法の好ましい一態様において、上記環式化合物は、アニリン、ピリジン、ピラジンおよびトリアジン、あるいはこれらの誘導体のうちのいずれか1種または2種以上であることを特徴としている。より好ましくは、上記環式化合物は、少なくともトリアジンまたはその誘導体を含むものであり得る。
かかる構成によると、上記の窒素含有環式化合物をモノマー成分とし、これを重合および炭素化した構成のカーボン系触媒を得ることができる。
【0014】
ここに開示されるカーボン系触媒の製造方法の好ましい一態様において、上記液中に一対の線状電極を配置し、上記プラズマは、上記電極間にパルス幅が0.1μs〜5μsで、周波数が10
3〜10
5Hzの直流パルス電圧を印加することで発生させることを特徴としている。
かかる構成によると、線状電極間に生じるジュール熱によって液中に発生する気泡の大部分を水面に向かって浮上させることなく、液中に安定した状態で維持することができ、この気泡中に安定した状態でプラズマを発生させることが可能となる。これにより、より効率よく安定した状態でカーボン系触媒を製造することができる。
【0015】
ここに開示されるカーボン系触媒の製造方法の好ましい一態様において、上記プラズマは、グロー放電プラズマであることを特徴としている。
液中で発生されるプラズマは、火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電の形態であり得る。なかでも、液中プラズマのより好ましい形態としてグロー放電プラズマをカーボン系触媒の製造に利用することができる。これにより、非平衡な低温プラズマを発生させることができ、原料化合物の有する構造を破壊することなく、効率的にカーボン系触媒の合成を行うことができる。
【0016】
ここに開示されるカーボン系触媒の製造方法の好ましい一態様において、上記グロー放電プラズマは、上記液中に発生した気相中に形成されることを特徴としている。
液中のグロー放電プラズマは、液中に配置した電極間に高周波数の電圧を印加することで発生させることができる。かかる構成によると、電極間に発生するジュール熱により液相中に発生される気相の内部に、グロー放電プラズマを定常的に発生させることができる。すなわち、液相/気相/プラズマ相の界面が安定に形成され、プラズマ相で発生された活性種が気相を介して気液界面に供給されるため、カーボン系触媒を高効率で生成することが可能となる。
【0017】
ここに開示されるカーボン系触媒は、固体高分子形燃料電池用の触媒であって、上記のいずれかに記載の製造方法により製造されていることを特徴としている。
上記のカーボン系触媒は、ORR反応に対する活性を示し、また、酸素の4電子還元を実現するものであり得る。したがって、かかるカーボン系触媒は、例えば、固体高分子形燃料電池用のカソード用触媒として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のカーボン系触媒の製造方法について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書および図面に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
ここに開示されるカーボン系触媒の製造方法においては、原料化合物として、化学組成に炭素と、炭素、水素および酸素以外の異種元素とを含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を用意し、この環式化合物を含む液中でプラズマを発生させる、との手法を採用することで、原料化合物を重合させたカーボン材料を、異種元素を導入しつつ、生成する。
【0020】
本発明における原料化合物としては、上記のとおり、化学組成に(1)炭素と、(2)炭素、水素および酸素以外の異種元素とを含み、少なくとも一部に環構造を有する環式化合物を特に制限なく用いることができる。すなわち、かかる異種元素と構造とを備える有機質の原料化合物を用いることができる。
異種元素としては、炭素、水素および酸素以外の各種の元素を考慮することができ、例えば、カーボン系触媒をナノシェル化したり、カーボン系触媒にドープ可能で、カーボン系触媒の結晶構造に特殊な「乱れ」を生じさせ得るものを特に制限なく採用することができる。かかる異種元素としては、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)等に代表される遷移金属、ホウ素(B)やケイ素(Si)、リン(P)に代表される半金属、窒素(N)や硫黄(S)に代表される非金属等を考慮することができる。より高い触媒活性を示すカーボン系触媒を製造するためには、異種元素として、ホウ素または窒素の何れか、あるいはその両方を含む環式化合物を用いるのが好ましい。
【0021】
また、環構造を有する化合物については、上述のとおり、化学構造において構成原子が少なくとも一つの環状に結合した有機化合物の一群を意味する。すなわち、炭素骨格を基本とした環状構造を有する有機化合物を総称するものである。したがって、この環式化合物には、一つの分子中に一つの環が存在する単環化合物や、2以上の環が存在する多環化合物であってよく、また、1種類の元素により環が構成される単素環式化合物や、2種以上の元素により環が構成される複素環式化合物等の多様な環式化合物であってよい。さらには、共役不飽和環構造を有する芳香族環状化合物(典型的には、芳香族炭化水素)や、芳香族性を有しない飽和または不飽和の炭素環を1以上含む脂環式化合物であってよい。好ましくは、不飽和結合を少なくとも一つ有する環状化合物である。かかる環構造を構成する原子の数には制限はなく、例えば、小員環、中員環または大員環を有する化合物であってよく、典型的には、3員環〜10員環程度の環式化合物を考慮することができる。かかる環式化合物は、1種のものを単独で、あるいは2種以上のものを混合して、原料化合物として用いることができる。
【0022】
かかる原料化合物としての環式化合物は、具体的には、例えば下記に示す構造を有する化合物やその誘導体が典型的なものとして例示される。このような環式化合物は、いずれか1種が単独で含まれていてもよいし、2種以上が混合して含まれていてもよい。
【0024】
以上の構造式(a)〜(s)に代表される環式化合物は、置換基を有していても良い。かかる置換基としては、各種の有機官能基であってよく、例えば、一例として、炭化水素基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲノ基、ケイ素含有官能基、硫黄含有官能基、窒素含有官能基、リン含有官能基が挙げられる。より好ましくは、例えば、炭素数1〜10の直鎖,分岐又は環状のアルキル基,ビニル基,アリール基等に代表される炭化水素基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシル基、カルボニル基、フルオロ基,クロロ基,ブロモ基等のハロゲノ基、アルキルシリル基等に代表されるケイ素含有官能基、チオール基、スルホ基等に代表される硫黄含有官能基、アルデヒド基、ニトロ基等に代表される窒素含有官能基、ホスホン酸基等に代表されるリン含有官能基が挙げられる。
また、環式化合物としては、以上の構造式(a)〜(s)に代表される環式化合物を構造の一部に含む形態のものであっても良い。例えば、構造式(g)に示されるピリジンを構造の一部に含むビピリジン化合物やフェニルピリジン化合物等のような化合物であってよい。また、例えば、構造式(a)に示されるピロールや構造式(d)に示されるチオフェンが、それぞれ複数結合した形態のポリピロールやポリチオフェン等に代表されるポリマー等であってよい。
以上のことからも明らかなように、本発明における原料化合物には、異種元素としてでなければ、水素および酸素が当然のものとして含まれ得る。
【0025】
なお、グラフェンシートに類似の構成を有するカーボン系触媒を好適に製造するためには、5員環または6員環あるいはその両方を化学構造に有する環式化合物を用いるのが好ましい。あるいは、5員環を化学構造に有する環式化合物と6員環を化学構造に有する環式化合物との両方を原料化合物とするのが好ましい。また、製造されるカーボン系触媒の化学構造をより詳細に制御するためには、環式化合物として、例えば、化学構造内に5員環または6員環の環構造を1つ有する単環化合物を少なくとも用いるのが好ましい。より好ましくは6員環の環構造を1つ有する化合物である。かかる環式化合物としては、アニリン、ピリジン、ピラジン、トリアジンまたはこれらの誘導体が例示される。また、4電子系反応による酸素還元活性を示すカーボン系触媒を製造するためには、環構造が炭素のみで構成された環式化合物であるよりは、環構造に炭素以外の元素を含む複素環式化合物を用いるのが好ましい。かかる複素環式化合物としては、例えば、ピリジン、トリアジンおよびその誘導体等が例示され、これらは上述のように、単独で、あるいは他の環式化合物と混合して原料化合物として用いることができる。特に、原料化合物は、少なくともトリアジンおよびその誘導体を含んでいることが好適な例として示される。
【0026】
以上の原料化合物は、例えば、常温常圧(典型的には、25℃、1atm。以下同じ。)において液体であり得る。このことから、原料化合物を含む液(液相)としては、原料化合物100%からなる液体を用いることができる。また、かかる原料化合物が適切な溶媒で希釈された溶液であっても良い。この場合の溶媒は特に制限されず、水、アルコールやベンゼン等の有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒等であってよい。なお、原料化合物が常温常圧において固体である場合には、これを適切な溶媒に溶解した溶液や、原料化合物を微視的に分散させた分散液の形態であってよい。溶液中に含まれる原料化合物の量は、適宜に調整することができる。
【0027】
そして、本発明のカーボン系触媒の製造方法では、原料化合物の重合および炭素化の反応場として、該液中で発生させる液中プラズマを利用するようにしている。すなわち、プラズマを構成する正負のイオン、電子およびラジカル等の活性種の作用によって、液中に含まれる原料化合物の重合反応と、炭素骨格の形成とが実現される。このようにして製造されるカーボン系触媒は、その具体的な組成や構造に関わらず、液中プラズマによる処理が進行するにつれて人間の目には無色透明であった液が褐色を経て黒色に変化することから、典型的には有機質からなる原料化合物が無機炭素へと転換されることが確認できる。この現象は、セルロース等の有機高分子材料等において、炭化が進むに従い酸素や水素が失われて炭素濃度が上がり、外観が褐色から黒色に変わってゆくのと同様の変化である。
かかる重合および炭素化において、カーボン系触媒に異種元素が導入されることにより、結晶構造に特殊な「乱れ」が生じると考えられ、酸素還元反応に対する活性を備えたものとなる。かかる酸素還元反応は、例えば、白金触媒と同様の4電子系反応によるものとなり得る。
【0028】
ここで、上記の反応場となる液中プラズマは、液体中に発生された気体(気相)にマイクロ波や高周波を印加して当該気体を構成する分子を部分的ないしは完全に電離させることで、形成することができる。つまり、液中プラズマにおいては、プラズマ相を取り囲む気相はさらに液相に取り囲まれており、プラズマを構成する上記のイオン、電子およびラジカル等の活性種は制限された気相中において自由に運動し得る状態である。そのため、解放された気相中に発生される気相プラズマ(典型的には、大気圧プラズマ、低圧プラズマ等)とは異なる物理的および化学的性質を示す。例えば、気相プラズマは、気体の温度を上げて行った際にこの気体を構成する中性分子が電離してプラズマ化することで発生する。このとき、固体・液体・気体間の相転移とは異なり気体からプラズマへの転移は徐々に起こるため、構成分子のごく一部が電離した電離度が非常に低い状態でも充分にプラズマであり得る。これに対し液中プラズマは、典型的には、まず液中での放電により当該液体がジュール加熱により気化されて気相を形成し、さらにこの気相においてプラズマが発生することで形成される。すなわち、液中プラズマは、プラズマという高エネルギー状態が液中(すなわち凝縮相)に閉じ込められており、閉鎖系の物理が実現するとともに、解放されない高密度なプラズマ反応場が形成されているといえる。したがって、本発明では、原料化合物である環式化合物をかかる高密度なプラズマ反応場に置くことにより、例えば重合工程および炭素化工程といった複数の工程を経ることなく、ワンステップでカーボン系触媒を得ることを実現している。
【0029】
また、原料化合物についても、気相プラズマにおいては気相として供給されるものの、液中プラズマにおいては液相として供給される。すなわち、本発明では、原料化合物である環式化合物が液相を介して反応場に高密度で供給される。したがって、本発明の製造方法においては、原料化合物である環式化合物からカーボン系触媒を高効率で製造することができる。
【0030】
なお、以上のような液中プラズマは、電極間にかかる電位差の違い等によって、雷のような火花放電、コロナ放電、グロー放電、アーク放電等に分類される。火花放電が継続的に流れるとグロー放電あるいはアーク放電となる。ここで、液中で発生されるグロー放電プラズマ(以下、ソリューションプラズマとも言う。)は、その他の液中プラズマに対して、さらに異なる特徴を有している。例えば、アーク放電プラズマは粒子密度が高く、イオンや中性粒子の温度が電子温度とほぼ等しい局所熱平衡状態にある熱プラズマである。これに対し、グロー放電プラズマは、電子温度は高いがイオンや中性粒子の温度が低い非平衡状態にある低温プラズマである。また、コロナ放電では連続的なプラズマの発生は難しいことに加え、水の分解により水素ラジカルと共に酸化性のヒドロキシラジカルが比較的多く形成されるという特徴がある。これに対し、グロー放電プラズマではプラズマの持つエネルギーが高く、酸化性のヒドロキシラジカルがさらに分解されて還元性の水素ラジカルが多く生成される。
【0031】
かかるグロー放電プラズマは、サブマイクロ秒のパルス幅の電圧を、高い繰り返し周波数で印加することにより、比較的安定して発生可能であることから、プラズマ相を囲む液体の膨張・圧縮運動とプラズマ相とは連動しつつ安定な状態が長時間(例えば、2時間以上)維持され得る。そのため、例えば、ソリューションプラズマにおいては、電極間に発生される気相はその一部が浮力により電極間から浮上して液表面に到達することがあり得るものの、その大部分は電極間に一定の大きさの気相として定常的に維持される。したがって、ソリューションプラズマにおいてはプラズマの発生状態を常にコントロールすることができる。また、ソリューションプラズマは、常温(典型的には、25℃)、常圧(典型的には1気圧)の環境下においても好適に発生させることができる。本発明のカーボン系触媒の製造方法では、このような制御されたプラズマを利用することを好ましい形態としており、より高効率なカーボン系触媒の製造が可能とされる。発生したプラズマがグロー放電プラズマであるかどうかは、例えば、プラズマ発光分光分析等により求められるタウンゼント第2係数が0.0005〜0.005の範囲にあることで確認することができる。
【0032】
以下、本発明の好適な実施形態としての、ソリューションプラズマを反応場としたカーボン系触媒の製造を例にして、本発明のカーボン系触媒の製造方法についてより詳細に説明する。
図1は、液(液相)2中でソリューションプラズマ4を発生させるためのソリューションプラズマ発生装置10の概略を示す図である。この実施形態において、原料化合物を含む液2は、ガラス製のビーカーなどの容器5に入れられている。また、プラズマを発生させるための一対の電極6は所定の間隔を以て液2中に配設され、絶縁部材9を介して容器5に保持されている。電極6は外部電源8に接続されており、この外部電源8から所定の条件のパルス電圧が印加される。これによって、一対の電極6間に、定常的にソリューションプラズマ4を発生させることができる。
【0033】
電極6としては、例えば、平板状電極や棒状電極およびその組み合わせ等の様々な形態であってよく、その材質についても特に制限はない。この実施形態においては、電界を局所的に集中させることが可能なタングステンからなる線状電極(針状電極)6を用いているが、その他鉄、白金等の他の金属材料からなる電極を用いるようにしてもよい。かかる電極6は、電界集中を妨げる余分な電流を抑えるために、先端部(例えば、数mm程度)のみを露出させ、後の部分は絶縁部材9等で絶縁しておくことが望ましい。絶縁部材9は、例えばゴム製あるいは樹脂(例えば、フッ素樹脂)製であることが例示される。この実施形態では、絶縁部材9は電極6を容器5に固定するとともに、電極6と容器5との水密を保つための栓をも兼ねた構成である。かかる装置10において、ソリューションプラズマを発生させるためのパルス電圧の印加条件は、液2中に含まれる原料化合物の種類やその濃度等の条件、さらには装置10の構成条件等にもよるものの、より具体的な一例として、電圧(二次電圧):約1〜2kV、周波数:約10〜30kHz、パルス幅:約0.5〜3μsの範囲とすることが例示される。
【0034】
また、原料化合物としては、例えば、上記の例示の中から、一例として、窒素含有複素環式化合物を用いることができる。より具体的には、例えば、ピリジン、トリアジン、ピペリジン、ピリミジン、インドール、キノリン、イソキノリン、プリン等である。そして、例えば、ピリジン(ピリジン100%)を用意し、本発明における原料化合物を含む液2とすることができる。
かかる液2は、安定したソリューションプラズマの発生を可能とするために、電気伝導度は300μS・cm
−1〜3000μS・cm
−1程度の範囲であるのが好ましい。電気伝導度が300μS・cm
−1未満であると、ソリューションプラズマの発生に多くの電力を要し、好適にソリューションプラズマを発生し難くなるために好ましくない。また、電気伝導度が3000μS・cm
−1を超過する場合は、プラズマ発生のために電極間に投入した電力がイオン電流として消費されてしまい、定常的にプラズマを発生させるのが困難となるために好ましくない。
【0035】
そして、ソリューションプラズマ発生装置10により液2中に上記のパルス電圧を印加することで、ソリューションプラズマ4が形成される。ソリューションプラズマ発生装置10により発生されるプラズマ反応場は、例えば、
図2に示したような構成となる。すなわち、液(液相)2中に気相3が形成され、この気相3中にソリューションプラズマ(プラズマ相)4が形成されている。このプラズマ反応場は、電極6間に定常的に維持されている。かかるプラズマ反応場では、プラズマ相4から液相2に向かって、高いエネルギーを有した電子、イオン、ラジカル等の活性種が供給される。一方、液相2から気相3およびプラズマ相4に向けては、液相2に含まれる原料化合物(
図2中にCで示される。)が供給される。そしてこれらは、主として液相2と気相3の界面において接触(衝突)する。なお、
図2では理解を容易にするために、液相2と気相3、気相3とプラズマ相4の間の各界面が略球状に明確に形成されたような様子を示しているが、かかる界面は必ずしも明確に形成されることに限定されない。例えば、気相3とプラズマ相4の間の界面に臨界的なものがなく、かかる界面は空間的な広がりを持っていても良い。
【0036】
以上の構成によると、例えば、ソリューションプラズマの作用によって、原料化合物が重合されて炭素化され、カーボン系触媒が形成される。収量については反応系にもより異なるため一概には言えないものの、例えば、下記に例示するような実施形態においては、約1g/30分でカーボン系触媒を製造することができる。このカーボン系触媒は、例えばごく微細な微粒子として液中に分散された状態で生成される。この微粒子は、例えば、直径が数nm〜数十nm程度(例えば、20nm〜50nm程度)の一次粒子が集合して構成される、粒径が数μm程度の二次粒子の形態であり得る。そのため、例えば、ろ過や乾燥等の手段により溶媒を除去することで回収することができる。カーボン系触媒は、溶媒の除去により、典型的には凝集した状態で得られる。このような場合には、例えば、凝集状態にあるカーボン系触媒を粉砕等の手段により所望の大きさ(粒径)に調整すればよい。
【0037】
以上、好適な実施形態に基づきカーボン系触媒の製造方法について説明したが、かかる製造方法はこの例に限定されず、適宜に態様を変化して行うことができる。例えば、原料化合物を含む液には、本願発明の目的を損ねない範囲において、原料化合物以外の化合物が含まれていても良い。また、ソリューションプラズマの発生に際しては、必ずしもタングステンからなる針状電極を用いる必要はなく、例えば、他の導電性材料からなる任意の形状の電極を用いるようにしても良い。さらには、電極を用いることなく、低インダクタンスの誘導コイルによりソリューションプラズマを発生するようにしても良い。また、液中プラズマは、ソリューションプラズマ(グロー放電プラズマ)によるものに限定されず、例えば、液中でのアーク放電プラズマ等を利用して実施しても良い。
【0038】
以上の通り、本発明のカーボン系触媒の製造方法は、これまでにないプラズマ反応場を利用した新規なカーボン系触媒の製造手法であって、新規な特性を有する物質の創製あるいは新しい材料の探索、ならびに異種元素含有カーボン触媒の新機能の展開の可能性をも含むものであり得る。
次に、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0039】
(実施形態1)
原料化合物として、常温で液体の(a)ピリジン(和光純薬工業(株)製、有機合成用ピリジン(脱水))と(b)アニリン(和光純薬工業(株)製、試薬一級)とを用意し、これらを原料化合物含有液(a)(b)として用いた。
次いで、以下の装置を用い、これら原料化合物含有液(a)(b)中でプラズマを発生させた。
図1は、液中でプラズマを発生させるためのソリューションプラズマ発生装置10の概略を示す図である。この実施形態において、上記で用意した(a)(b)の原料化合物含有液2は、それぞれガラス製のビーカーからなる容器5に入れ、マグネチックスターラーからなる撹拌装置7により撹拌を行っている。また、プラズマを発生させるための一対の電極6は所定の間隔を以て原料化合物含有液2中に配設され、絶縁部材9を介して容器5に保持されている。この実施形態においては、電界を局所的に集中させることが可能な針状の電極6を用いた。電極6は、直径が1.0mmのタングステンワイヤー(ニラコ社製)で構成し、電極間距離を0.3mmに設定した他、電界集中を妨げる余分な電流を抑えるために先端部(例えば、数mm程度)のみを露出させて、後の部分はフッ素樹脂からなる絶縁部材9で絶縁した。この実施形態では、絶縁部材9は電極6を容器5に固定するとともに、電極6と容器5との水密を保つための栓をも兼ねた構成となっている。電極6は外部電源8に接続されており、この外部電源8から所定の条件のパルス電圧が印加される。外部電源8としては、バイポーラパルス電源(株式会社栗田製作所製、MPS−R06K02C−WP1F)を用いた。
【0040】
本実施形態においてソリューションプラズマを発生させるためのパルス電圧の印加条件は、二次電圧:1500V、パルス幅:1.0μs、繰り返し周波数:20kHzとし、この条件で各原料化合物含有液2中にソリューションプラズマを30分間発生させた。
原料化合物含有液(a)(b)はいずれも無色透明であったが、ソリューションプラズマの発生直後から黄色みを帯び、約5分後には褐色に変色し、約10分後には黒色で不透明に変化した。この変色は、原料化合物であるピリジンおよびアニリンが重合してグラファイト骨格を形成したためであると考えられる。このようなソリューションプラズマによる処理の後、溶液を約100℃で乾燥させると、ビーカーの底に黒色の粉末が得られた。原料化合物含有液(a)(b)中で約30分間ずつソリューションプラズマを発生させることにより、約0.74gずつの黒色粉末を得た。この粉末を乳鉢で粉砕して微細化し、下記の分析に供した。以下、ピリジン溶液から得られた黒色粉末を(a)p−カーボン、アニリン溶液から得られた黒色粉末を(b)a−カーボンと称する。
【0041】
<FT−IR測定>
上記で得られた(a)p−カーボンおよび(b)a−カーボンについて、KBr錠剤法によるフーリエ変換赤外吸収分光測定(FT−IR;(株)島津製作所製,FTIR8400S、制御ソフトウェア;IRPrestige−21)を行い、分子構造の同定を行った。得られたFT−IRスペクトルを
図3に示した。
図3中の(a)はp−カーボンから、(b)はa−カーボンから取得された、4000〜500cm
−1の領域のスペクトルである。
図3に示された通り、(a)(b)何れのスペクトルにも、2100〜2300cm
−1付近に原料化合物には見られないCとNとの三重結合(ニトリル結合)の伸縮振動に帰属される吸収が観測された。全体としては、(a)p−カーボンはCとNとの三重結合に帰属するピークが優勢であり、(b)a−カーボンはCとNとの二重結合(C=O)に帰属するピークが優勢である。これらのことから、(a)p−カーボンの方が(b)a−カーボンよりも、表面により多くの窒素(N)が存在していると考えられる。
【0042】
<CV測定1>
上記で得られた黒色粉末からなる(a)p−カーボンおよび(b)a−カーボンを触媒として、三電極電気化学セル法により電気化学的特性の評価を行った。本CV測定では、酸性溶液中の溶存酸素の還元反応についての触媒作用を評価した。測定用触媒電極(作用極)は、次の手順で用意した。すなわち、(a)p−カーボンまたは(b)a−カーボンの粉末5.0mgと、バインダとしてのナフィオン(登録商標)溶液50μLと、溶媒としてのエタノール50μLを混合し、超音波にて15分間撹拌して触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストをグラッシーカーボン電極の表面に25μL滴下して乾燥させることで触媒層を形成し、測定用触媒電極とした。
【0043】
CV測定条件は以下の通りとした。
作用極 :グラッシーカーボンと、(a)p−カーボンまたは(b)a−カーボン
参照極 :Ag/AgCl(飽和KCl)
対極 :Pt
支持電解質:0.5M硫酸
【0044】
すなわち、25℃に保持された0.5M硫酸水溶液中に上記作用電極を浸漬し、対極として白金電極、参照極として飽和KNO
3溶液に浸漬させた銀塩化銀電極を用いて、三電極式電気化学セルを構築した。この電気化学セルをポテンショスタットに接続して、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。測定は、まず、電解質溶液中で酸素ガスを30分間以上バブリングさせて酸素を飽和させ、走査速度100mV/sec、走査範囲−1.0〜1.2Vの範囲で20サイクルの電極クリーニングを行いCV波形が安定することを確認した後、走査速度100mV/sec、走査範囲−1.0〜1.2Vで掃引した際の電流を電位の関数として記録した。その結果をサイクリックボルタモグラムとして
図4Aおよび4Bに示した。
図4Aは触媒としてp−カーボンを用いた場合の、
図4Bはa−カーボンを用いた場合のサイクリックボルタモグラムである。
図4Aおよび4Bから明らかなように、(a)p−カーボンを触媒とした場合は−0.05Vに、(b)a−カーボンを触媒とした場合は0.4Vに還元ピークが観測され、(a)p−カーボンおよび(b)a−カーボンがORR活性を示すことが確認された。また、CV測定結果に基づくKoutecky‐Levichプロットの勾配から得られる触媒反応の反応電子数(n)から、(a)p−カーボンおよび(b)a−カーボンによる酸素還元反応は下式(1)で表わされる4電子系反応であり、これらのカーボンのいずれもがPEFCのカソード触媒として機能し得ることが明らかとなった。
O
2+4H
++4e
−=2H
2O …(1)
【0045】
<CV測定2>
次いで、上記のCV測定1における支持電解質を0.1M水酸化カリウムに代え、その他の条件は同様にして、セルの電気化学的特性の評価を行った。得られたサイクリックボルタモグラムを
図5に示した。
図5中の(a)は触媒としてp−カーボンを用いた場合の、(b)はa−カーボンを用いた場合のサイクリックボルタモグラムである。
図5に示されるように、(a)p−カーボンを触媒とした場合には、−0.5Vと−1.0Vに還元ピークが観測され、p−カーボンがORR活性を示すことが確認された。また、Koutecky‐Levichプロットの勾配から得られた触媒反応の反応電子数(n)から、この系における酸素還元反応は、2電子系反応を含む下式(2)で表わされる2段階での酸素還元である。
H
2O
2+2H
++2e
−=H
2O
(2電子系反応)
O
2+2H
++2e
−=H
2O
2 …(2)
一方、(b)a−カーボンを触媒として用いた場合には、ORR活性が発現されないことがわかった。
【0046】
(実施形態2)
原料化合物含有液として、(c)上記実施形態1で用いたピリジンに、1.0質量%のトリアジン(1,3,5―トリアジン、東京化成工業(株)製)を加えた混合液(以下、「pyri+tri」等と示す場合がある。)と、(d)上記実施形態1で用いたピリジンとアニリンとを等量ずつ混合した混合液(以下、「pyri+ani」等と示す場合がある。)とを用意した。
実施形態1と同じ条件で、混合液(c)(d)中でソリューションプラズマを発生させることにより、各混合液から約0.74gずつのカーボン触媒(c)(d)を得た。
【0047】
<元素分析>
上記で得られたカーボン触媒(c)(d)について元素分析を行い、カーボン触媒中の窒素(N)および水素(H)の含有量を調べた。窒素(N)および水素(H)の含有量は、CHN元素分析装置により測定することで測定した。その結果を、
図6に示した。なお、参考のために、実施形態1で得られた(a)p−カーボンおよび(b)a−カーボンについての分析結果も併せて
図6に示した。
図6から、原料化合物として環構造中に窒素元素(N)を含む含窒素環式化合物であるピリジンやトリアジンを用いた方が、環構造中に窒素を含まない単素環式化合物であるアニリンを用いた場合よりも、得られるカーボン触媒に取り込まれる窒素量が多くなることが確認できた。
【0048】
<CV測定1>
上記で得られたカーボン触媒(c)(d)を用い、三電極電気化学セル法により電気化学的特性の評価を行った。測定用触媒電極(作用極)は、次の手順で用意した。すなわち、カーボン触媒(c)(d)の粉末5.0mgと、バインダとしてのナフィオン(登録商標)溶液50μLと、溶媒としてのエタノール50μLを混合し、超音波にて15分間撹拌して触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストをグラッシーカーボン電極の表面に25μL滴下して乾燥させることで触媒層を形成し、測定用触媒電極とした。
【0049】
CV測定条件は以下の通りとした。
作用極 :グラッシーカーボンと、カーボン触媒(c)または(d)
参照極 :Ag/AgCl(飽和KCl)
対極 :Pt
支持電解質:0.1M水酸化カリウム
【0050】
すなわち、25℃に保持された0.1M水酸化カリウム水溶液中に上記作用電極を浸漬し、対極として白金電極、参照極として飽和KNO
3溶液に浸漬させた銀塩化銀電極を用いて、三電極式電気化学セルを構築した。この電気化学セルをポテンショスタットに接続して、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。測定は、電解質溶液に酸素を溶解させた系と、不活性ガス(窒素)パージした系とで測定を行った。まず、電解質溶液中で酸素ガスまたは窒素ガスを10分間バブリングさせて酸素を飽和または除去し、走査速度100mV/sec、走査範囲−1.2〜1.2Vの範囲で20サイクルの電極クリーニングを行いCV波形が安定することを確認した後、走査速度100mV/sec、走査範囲−1.2〜1.2Vで掃引した際の電流を電位の関数として記録した。その結果をサイクリックボルタモグラムとして
図7(A)および(B)に示した。
図7(A)は電解質溶液を酸素パージした場合の、(B)は窒素パージした場合のサイクリックボルタモグラムである。
図7(A)および(B)から明らかなように、カーボン触媒(c)および(d)の何れを用いた場合であっても、2電子系反応に由来するORR活性が確認できた。ピーク電位については、(a)p−カーボンおよび(b)a−カーボンと比較していずれも大きな差はなかったが、電流値については、(a)p−カーボン単体よりも、カーボン触媒(c)すなわちpyri+triの方がORR活性が上昇することから、元素Nがより多くカーボン構造中に組込まれていると考えられる。
【0051】
<FT−IR測定>
上記で得られたカーボン触媒(c)(d)について、KBr錠剤法によるフーリエ変換赤外吸収分光測定(FT−IR;(株)島津製作所製,FTIR8400S、制御ソフトウェア;IRPrestige−21)を行い、分子構造の同定を行った。得られたFT−IRスペクトルを
図8に示した。
図8中の(c)および(d)は、それぞれカーボン触媒(c)および(d)から取得された、4000〜500cm
−1の領域のFT−IRスペクトルである。比較のために、(a)として、ピリジンのみを原料化合物として得られたp−カーボンについての結果も併せて示した。
図8に示された通り、(a)ピリジンに対して、トリアジンを加えた(c)のスペクトルは、CとNとの三重結合に帰属するピークが高くなり、Nの増加が確認できた。一方の(a)ピリジンに対して、アニリンを加えた(d)はCとNとの三重結合に帰属するピークが減少し、CとNとの二重結合(C=O)および芳香族C−N結合に帰属するピークが優勢となることが確認できた。
以上のことから、原料化合物として、炭素環からなる単素環式化合物を用いるよりも、異種元素および炭素から環構造が構成されている複素環式化合物を用いた方が、ORR活性の高いカーボン系触媒を得られること、さらに、環構造中に異種元素がより多く含まれる複素環式化合物を用いた方がさらにORR活性の高いカーボン系触媒が得られることが確認できた。
【0052】
(実施形態3)
原料化合物含有液として、上記実施形態1で用いたピリジンに、実施形態2で用いたトリアジンを、0.25質量%、0.5質量%、0.75質量%、5質量%の4通りの添加量で混合した混合液を用意した。これらの混合液中で、実施形態1と同じ条件でソリューションプラズマを発生させることにより、各混合液から約0.74gずつのカーボン触媒を得た。
得られたカーボン触媒の各々について実施形態2と同様に元素分析を行い、カーボン触媒中の窒素(N)および水素(H)の含有量を調べた。その結果を、
図9に示した。なお、参考のために、実施形態1および2で得られた(a)p−カーボンおよび(c)カーボン触媒(トリアジン添加量1.0質量%)についての分析結果も併せて
図9に示した。
図9に示されるように、原料化合物含有液中に添加するトリアジン量を増やすほど、得られるカーボン系触媒中に導入される窒素元素(N)量も増大することから、環構造中に異種元素が多く含まれる複素環式化合物を原料化合物として用いることで、より効果的にカーボン触媒中に異種元素を導入できることが確認できた。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれ得る。