特許第6112530号(P6112530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6112530-安定化されてなる医薬組成物 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6112530
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】安定化されてなる医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/497 20060101AFI20170403BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170403BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170403BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20170403BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20170403BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20170403BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20170403BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20170403BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   A61K31/497
   A61P35/00
   A61P43/00 111
   A61K47/36
   A61K47/38
   A61K47/02
   A61K47/26
   A61K47/10
   A61K9/48
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-555362(P2016-555362)
(86)(22)【出願日】2016年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2016063004
(87)【国際公開番号】WO2016175192
(87)【国際公開日】20161103
【審査請求日】2016年9月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-90702(P2015-90702)
(32)【優先日】2015年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-252958(P2015-252958)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006677
【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109357
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 恵美子
(74)【代理人】
【識別番号】100117846
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 ▲頼▼子
(74)【代理人】
【識別番号】100137464
【弁理士】
【氏名又は名称】濱井 康丞
(74)【代理人】
【識別番号】100163887
【弁理士】
【氏名又は名称】森平 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100177482
【弁理士】
【氏名又は名称】川濱 周弥
(72)【発明者】
【氏名】田崎 弘朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 允
(72)【発明者】
【氏名】綱島 大介
(72)【発明者】
【氏名】東 亮太
【審査官】 前田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/108754(WO,A1)
【文献】 7 製剤の基本問題,薬剤学マニュアル,株式会社南山堂,1989年 3月20日,107−108、122,「7-1.医薬品添加物」、「7-6.医薬品の劣化とその防止」
【文献】 1.吸湿による化学変化,粉体を中心とした 製剤学,株式会社 廣川書店,1976年 3月25日,第四版,233−236,全体
【文献】 篠崎修,水分測定装置,ファルマシア,1983年 9月,19(9),900-902,特に第900頁はじめに欄、第902頁おわりに欄
【文献】 乳糖水和物,医薬品添加物事典 2007,株式会社 薬事日報社,2007年 7月25日,第204頁,全体
【文献】 用途別にみた高分子化合物,実用医薬品添加物,株式会社化学工業社,1974年 3月 5日,第104−105頁,特に第105頁上段
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/497
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、及び水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物を含有してなり、前記の水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物が、デキストラン、デキストリン、結晶セルロース、コーンスターチ、炭酸カルシウム、乳糖水和物、無水リン酸水素カルシウム、及びマンニトールからなる群より選択される1種又は2種以上である医薬組成物。
【請求項2】
水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物が、乳糖水和物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
乳糖水和物が、篩過乳糖、粉砕乳糖、スプレードライ乳糖、及び造粒乳糖からなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
乳糖水和物がスプレードライ乳糖である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物の配合割合が、医薬組成物の重量に対して約0.1重量%以上約99.9重量%以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
医薬組成物の水分活性が制御されてなる、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物がカプセル剤である、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩の類縁物質の増加量が0.05%以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩を含有してなる医薬組成物において、水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物を使用することによる医薬組成物の安定化方法であって、前記の水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物が、デキストラン、デキストリン、結晶セルロース、コーンスターチ、炭酸カルシウム、乳糖水和物、無水リン酸水素カルシウム、及びマンニトールからなる群より選択される1種又は2種以上である、前記安定化方法
【請求項10】
5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、及び乳糖を含有してなる医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩を含有し、安定化されてなる医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド(以下、「化合物A」と言うことがある。)は、以下の化学構造式で示される化合物であり、化合物A又はその製薬学的に許容される塩は、癌治療用医薬組成物の有効成分として有用であることが知られている(特許文献1)。
【0003】
【化1】
【0004】
化合物A又はその製薬学的に許容される塩は、特許文献1において、実施例54としてそのフリー体が、実施例261としてそのモノメタンスルホン酸塩が開示されており、上皮成長因子受容体(EGFR)変異キナーゼに対する阻害作用が確認されている。
医療の進歩が目覚ましい今日においても、とりわけ癌については治療満足度が低く、さらなる医薬品の貢献が求められている。医療現場ひいては疾患・病気の治療を必要とする人々に、安定な医薬品を提供することは、世界の人々の健康に貢献する重要な役割である。
【0005】
薬物の不安定化機構は様々である。薬物それ自体の安定性に問題があったり、また医薬組成物、特に固形医薬組成物において、例えば、薬物と種々の医薬品添加物との間の相互作用が問題であったり、また製造工程に薬物の不安定化の原因があったり、さらにまた、医薬組成物中で、薬物が医薬品添加物等に含まれる水分と反応する(例えば、特許文献2、3)等、医薬品という性質上、類縁物質の生成又は類縁物質量の増大の抑制は極めて重要である。しかしながら、薬物の安定化には一般的な方法は確立されておらず、その薬物に適した安定化方法について模索されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/108754号
【特許文献2】特開2006−45218号公報
【特許文献3】特開2013−245161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、化合物A又はその製薬学的に許容される塩を含有し、安定化されてなる医薬組成物、例えば、湿度に対して安定化されてなる医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、化合物A モノメタンスルホン酸塩が、それ自体は比較的安定であるにも拘らず、一般的な製法により、医薬品添加物と共に医薬組成物(例えば、カプセル剤)とし、あるいは各種製剤化工程を経て、医薬組成物(例えば、カプセル剤)とし、その医薬組成物を、苛酷条件下に保存したとき、類縁物質及び類縁物質量が経時的に増大することを知見した。また、後記試験例1に記載した(類縁物質試験)により測定したときに、化合物Aに対する相対保持時間が約1.34に検出される類縁物質は、化合物Aの主な類縁物質であり、化合物Aの二量体であること、また、当該二量体は、医薬組成物中の医薬品添加物が有する水分によって生成が促進されること等を知見した。
化合物Aの二量体は、以下の化学構造式で示される。
【0009】
【化2】
そこで、本発明者らは、化合物A モノメタンスルホン酸塩の湿度安定性に着目して検討を行ったところ、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、及び水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物を含有してなる医薬組成物、
[2]水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物が、デキストラン、デキストリン、結晶セルロース、コーンスターチ、炭酸カルシウム、乳糖水和物、無水リン酸水素カルシウム、及びマンニトールからなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]の医薬組成物、
[3]水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物が、乳糖水和物である、[1]又は[2]の医薬組成物、
[4]乳糖水和物が、篩過乳糖、粉砕乳糖、スプレードライ乳糖、及び造粒乳糖からなる群より選択される1種又は2種以上である、[2]又は[3]の医薬組成物、
[5]乳糖水和物がスプレードライ乳糖である、[2]〜[4]のいずれかの医薬組成物、
[6]水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物の配合割合が、医薬組成物の重量に対して約0.1重量%以上約99.9重量%以下である、[1]〜[5]のいずれかの医薬組成物、
[7]医薬組成物の水分活性が制御されてなる、[1]〜[6]のいずれかの医薬組成物、
[8]医薬組成物がカプセル剤である、[1]〜[7]のいずれかの医薬組成物、
[9]5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩の類縁物質の増加量が、0.05%以下である、[1]〜[8]のいずれかの医薬組成物、
[10]5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩を含有してなる医薬組成物において、水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物を使用することによる医薬組成物の安定化方法
[11]5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド又はその製薬学的に許容される塩、及び乳糖を含有してなる医薬組成物、
[12]乳糖が、篩過乳糖、粉砕乳糖、スプレードライ乳糖、及び造粒乳糖からなる群より選択される1種又は2種以上である、[11]の医薬組成物、
[13]乳糖がスプレードライ乳糖である、[11]又は[12]の医薬組成物、
[14]医薬組成物の水分活性が制御されてなる、[11]〜[13]のいずれかの医薬組成物、
[15]医薬組成物がカプセル剤である、[11]〜[14]のいずれかの医薬組成物
に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、化合物A又はその製薬学的に許容される塩を含有し、安定化されてなる医薬組成物、例えば、湿度に対して、安定化されてなる医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】試験例3の25℃の保存条件下における類縁物質の増加量(表6)と、試験例4の水分活性値の差分(表7)の関係を示すグラフである。
図2】試験例3の40℃の保存条件下における類縁物質の増加量(表6)と、試験例4の水分活性値の差分(表7)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「安定化されてなる」「医薬組成物の安定化」とは、医薬品添加物と共に含まれる医薬組成物(製剤)中において、化合物A又はその製薬学的に許容される塩の安定化されてなる状態を意味する。当該状態については、例えば、試験開始時と比較して、経時的に、類縁物質量(百分率%)等を算出することにより評価することができる。また、その指標として、医療現場に医薬組成物として提供できる程度に安定であると規定する。
【0014】
例えば、医薬組成物中の水分により変化が認められる類縁物質の百分率については、例えば、医薬組成物を40℃・相対湿度75%(以下、%RHと略記することもある)・開放、密閉、又は密封条件下で1箇月保存した後、高速クロマトグラフ法(以下、HPLC法と略記することもある)により測定される。当該類縁物質は、例えば、後記試験例1に記載した(類縁物質試験)により測定されるとき、化合物Aに対する相対保持時間が約1.34である類縁物質は、化合物Aの二量体であるとして規定される。なお、化合物Aの二量体(化合物A又はその製薬学的に許容される塩の当該類縁物質)の割合は、医薬組成物に含まれる化合物Aの二量体(相対保持時間約1.34に検出される類縁物質)を含む全ての類縁物質のピーク面積をHPLC法により測定し、化合物A又はその製薬学的に許容される塩及びその類縁物質の総ピーク面積に対する割合として算出される。
【0015】
本明細書において、「化合物A又はその製薬学的に許容される塩の安定性を改善させる」とは、化合物A又はその製薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物を保存するとき、「保存中の化合物A又はその製薬学的に許容される塩の類縁物質の生成を抑制する」ことを意味する。
【0016】
安定性試験条件については、上記40℃・75%RH・開放、密閉、又は密封条件下で1箇月の他に、同条件下で2箇月、3箇月、あるいは6箇月の条件を採用することもできる。また、25℃・60%RH・開放、密閉、又は密封条件下で1箇月から24箇月、あるいは36箇月までの条件から適宜選択して設定することができる。更に、短期間の評価が可能なように、例えば、70℃・9日(開放、密閉、又は密封条件下、例えばアルミニウム−アルミニウム(Al−Al)包装密閉条件下)で評価することもできる。この場合、当該条件が熱力学的に、40℃・6箇月・保存条件の結果に相当するように、本明細書における「安定であること」の評価については、例えば、科学的に妥当と判断される手法、例えば外挿法等を用いて行ってもよい。
【0017】
水分により変化が認められる類縁物質は、例えば、後記試験例1に記載の類縁物質試験に記載のHPLC法の測定条件において、化合物Aの二量体(化合物Aに対する相対保持時間が約1.34に検出される類縁物質)として規定される。また、安定性評価は、当該類縁物質の量について経時的な量を評価する絶対的評価を行うか、又は当該類縁物質の量について試験開始時と当該測定時とを比較する相対的評価を行うことができる。安定であるとは、化合物Aの二量体(相対保持時間約1.34に検出される類縁物質)が相対的評価を行うときの試験開始時からの1箇月または3箇月の増加量が、ある態様としては約0.05%以下である。
【0018】
また、化合物A又はその製薬学的に許容される塩の類縁物質総量については、例えば、医薬組成物を40℃・75%RH・開放、密閉、又は密封条件下で1箇月保存した後、HPLC法により測定される。
本明細書における「類縁物質の生成の抑制」、「類縁物質量の増大の抑制」又は「安定性の改善」とは、上記の「安定化されてなる」状態と同じ意味と見做すことができる。
【0019】
本明細書において、「水分活性」(“water activity”、“aw”とも略記することがある)とは、被測定対象物を入れた密閉容器内の水蒸気圧(P)とその温度における純水の蒸気圧(PO)の比で定義されるものを意味し、以下の式によって求められる。
aw=P/PO
【0020】
ここで、純水の水分活性は1.000awであり、水分活性は、0.000〜1.000awの範囲で表される。
【0021】
本明細書において、「水分活性の制御」とは、医薬組成物の水分活性を下げて、特定の水分活性値の範囲内になるように調整することを意味する。例えば、水分活性値の差分が特定範囲内になるような医薬品添加物を含むこと、医薬組成物の乾燥、包装形態への乾燥剤を使用すること、前記医薬品添加物を乾燥剤等により乾燥後に医薬組成物の添加剤等として使用すること等が挙げられる。
【0022】
本明細書において、「水分活性値の差分」とは、湿度条件下における医薬品添加物の水分活性値と、乾燥状態における医薬品添加物の水分活性値との差分を意味する。例えば、後記試験例4に記載の方法により、求めることができる。水分活性値の差分が大きい程、湿度条件下において医薬品添加物の水分吸着量が増加し、また、乾燥剤の使用により水分離脱量が増加する等して化合物A モノメタンスルホン酸塩の湿度安定性を向上することができると考えられる。
【0023】
本明細書において、「約」とは、数字的変数に関連して使用されるとき、一般的に実験誤差内(例えば、平均に対する95%信頼区間内)又は表示値の±10%内のいずれか大きい方の変数の値及び変数の全ての値を意味する。
【0024】
本発明の医薬組成物を説明する。
本発明に用いられる化合物A又はその製薬学的に許容される塩は、例えば特許文献1に記載の方法、或いはそれに準じて製造することにより容易に入手可能である。
【0025】
化合物Aはフリー体の態様以外に、例えば塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との酸付加塩や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸(メシル酸)、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩を形成する場合がある。なお、「化合物A又はその製薬学的に許容される塩」には、化合物Aの溶媒和物、具体的には、例えば水和物やエタノール和物を含み、さらに、化合物Aの酸付加塩の溶媒和物を含む。ある態様としては、5−{[(3R)−1−アクリロイルピロリジン−3−イル]オキシ}−6−エチル−3−({4−[4−(4−メチルピペラジン−1−イル)ピペリジン−1−イル]フェニル}アミノ)ピラジン−2−カルボキサミド モノメタンスルホン酸塩である。
これらの塩は常法により製造できる。
【0026】
通常経口投与の場合は、1日の投与量は、ある態様としては体重当たり約0.001〜100mg/kg、ある態様としては0.1〜30mg/kg、ある態様としては0.1〜10mg/kgが適当であり、これを1回であるいは2回〜4回に分けて投与する。投与量は症状、年令、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。
【0027】
化合物A又はその製薬学的に許容される塩の配合割合は、例えば、医薬組成物あたり、ある態様としては約0.1重量%以上約99.9重量%以下、ある態様としては約4重量%以上約50重量%以下である。
【0028】
本発明に用いられる「水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物」としては、後述の試験例4のような条件で測定した水分活性値の差分が、0.1以上、ある態様としては0.1以上0.5以下であるものと規定する。具体的には、例えば、デキストラン、デキストリン、結晶セルロース、コーンスターチ、炭酸カルシウム、乳糖水和物、無水リン酸水素カルシウム、及びマンニトール等が挙げられる。ある態様としては乳糖水和物である。
水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物は、1種又は2種以上を適宜組合わせて使用することができる。
【0029】
本発明に用いられる乳糖水和物としては、医薬品添加物として許容される、乳糖水和物であれば特に制限されない。具体的には、例えば、乳糖水和物として、篩過乳糖、粉砕乳糖、スプレードライ乳糖、又は造粒乳糖等が挙げられる。ある態様としてスプレードライ乳糖である。スプレードライ乳糖としては、例えば、SuperTab 11SD(DFE Pharma)等が挙げられる。
乳糖水和物は、1種又は2種以上を適宜組合わせて使用することができる。
【0030】
乳糖水和物については、製剤化工程で新たに生成する、化合物Aの二量体(相対保持時間が約1.34)以外の類縁物質の生成は認められず、安定な医薬組成物を提供することができる。
【0031】
「水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物」の量は、医薬組成物(製剤)中の化合物A又はその製薬学的に許容される塩を含有する製剤を構成する量であれば特に制限されない。具体的には、例えば、医薬組成物中の配合割合としては、約0.1重量%以上約99.9重量%以下、ある態様としては約50重量%以上約99重量%以下、ある態様としては約50重量%以上約96重量%以下である。
【0032】
本発明の医薬組成物における水分活性値については、化合物A又はその製薬学的に許容される塩を含有する医薬組成物を、苛酷条件下に安定化されてなる状態を保持できる程度であれば、特に制限されない。具体的には、例えば、約0.6以下、ある態様としては約0.35以下、ある態様としては約0.1以下である。化合物A又はその製薬学的に許容される塩を含有してなる医薬組成物において、組成物全体の水分活性値が下がる程、及び/又は水分活性値の差分が大きい医薬品添加物を含む程、医薬組成物中の類縁物質はその生成が抑制され、化学的安定性の観点から好ましい。
【0033】
水分活性を制御あるいは調整する方法としては、医薬組成物が保持する水分を下げる方法であれば、特に制限されない。例えば、水分活性値の差分が特定範囲内になるような医薬品添加物を含むこと、医薬組成物の乾燥、包装形態への乾燥剤の使用、前記医薬品添加物を乾燥剤等により乾燥後に医薬組成物の添加剤等として使用すること等が挙げられる。ある態様としては、水分活性値の差分が特定範囲内になるような医薬品添加物を含むことが挙げられる。乾燥剤としては、特に種類、性能、及び量を限定するものではないが、吸水能力が高いものほど効果が大きい。例えば、シリカゲル系乾燥剤、ゼオライト系乾燥剤、活性炭素系乾燥剤等が挙げることができる。また、乾燥剤の形状も特に限定するものではないが、例えば、ボトル包装の場合は蓋の裏に付くタイプやボトル内へ投入するタイプが挙げられ、PTP包装の場合はシート状のタイプが挙げられる。
【0034】
本発明の医薬組成物は、水分活性値の差分が大きい医薬品添加物を含むほど、類縁物質の生成が抑制され、化学的安定性の観点から好ましいことが示唆される。
【0035】
本発明の医薬組成物は、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、細粒剤等の各種医薬組成物(製剤)が挙げられる。ある態様としてカプセル剤である。
【0036】
本発明の医薬組成物には、発明の所望の効果が達成される範囲で更に各種医薬品添加物が適宜使用され、製剤化される。かかる医薬品添加物としては、製薬学的に許容され、かつ薬理学的に許容されるものであれば特に制限されない。例えば、賦形剤、滑沢剤、流動化剤、結合剤、崩壊剤、発泡剤、甘味剤、香料、着色剤、界面活性剤等が使用される。
【0037】
滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム等を挙げることができる。
これらの医薬品添加物は、1種又は2種以上組合せて、適宜適量添加することができる。
配合割合については、いずれの医薬品添加物についても、本発明の所望の効果が達成される範囲内の量で使用される。
【0038】
本発明の医薬組成物の製造方法について説明する。
本発明の医薬組成物は、自体公知の製法により製造することができる。
具体的には、例えば、化合物A又はその製薬学的に許容される塩の粉砕、混合、充填、必要に応じて造粒、圧縮、乾燥、包装等の各種製剤化工程を含む。
【0039】
本発明には、化合物A又はその製薬学的に許容される塩を含有してなる医薬組成物において、水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物を使用することによる医薬組成物の安定化方法が含まれる。
本発明の安定化方法で用いる「化合物A又はその製薬学的に許容される塩」、「水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物」については、本発明の医薬組成物における当該説明をそのまま適用することができる。
本発明の安定化方法では、化合物A又はその製薬学的に許容される塩と、水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物とを含有する医薬組成物を製造するときに、前記水分活性値の差分が0.1以上の医薬品添加物を配合することにより、類縁物質(特に医薬組成物中の水分により変化が認められる類縁物質)の生成を抑制することができる。
本発明の安定化方法における各成分の配合量、配合方法等については、本発明の医薬組成物における当該説明をそのまま適用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例、及び試験例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定解釈されるものではない。
なお、以下、実施例で用いた化合物A モノメタンスルホン酸塩は、国際公開第2013/108754号に記載の製法に準じて製造されたものを用いた。
【0041】
(実施例1〜3)
化合物A モノメタンスルホン酸塩を粉砕後、表1に示す成分及び配合割合で、乳糖水和物と混合して得た混合物を篩で篩過し、必要に応じてステアリン酸マグネシウムを加えて再度混合した。得られた混合物をヒプロメロースカプセルに充填して、本発明の医薬組成物(カプセル剤)とした。なお、実施例1及び2では粉砕乳糖(Pharmatose 200M、DFE Pharma)を、実施例3ではスプレードライ乳糖(SuperTab 11SD、DFE Pharma)をそれぞれ使用した。
【0042】
【表1】
【0043】
(試験例1)
実施例3で得られたカプセル剤を、表2に示す各種包装形態で40℃・75%RHの保存条件下に3箇月間保存した後、類縁物質量(相対保持時間約1.34である化合物Aの二量体量)及び水分活性値を測定することにより、試験開始時と比較して経時的な安定性を評価した。
【0044】
(類縁物質試験)
生成する類縁物質量は高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)により測定した。なお、類縁物質量は、医薬組成物に含まれる各類縁物質のピーク面積をHPLC法により測定し、化合物A又はその製薬学的に許容される塩及び化合物Aの二量体(保持時間約1.34に検出される類縁物質)を含む全ての類縁物質の総ピーク面積で、化合物Aの二量体のピーク面積を除することにより算出した。
・測定波長 :210nm
・カラム :YMC−Triart C18(4.6mm×150mm,3μm)
・カラム温度:40℃付近の一定温度
・移動相 :45mM過塩素酸水溶液とアセトニトリルとの混液
・流速 :約1.2mL/min
・注入量 :10μg(化合物A相当)
【0045】
(水分活性測定)
水分活性測定装置(AQUA LAB Series 4TE(AQUA LAB))を用いて、25℃における医薬組成物(カプセル剤皮含む)の水分活性値を測定した。
【0046】
(結果)
表2の結果から明らかなように、実施例3のカプセル剤(Al−Alブリスター)については、類縁物質の生成は抑制されており、安定であった。また、25℃における水分活性値が低い場合(ポリ塩化ビニル(PVC)ブリスター/Alピロー(乾燥剤))には、類縁物質の生成は顕著に抑制されており、非常に安定であった。
【0047】
【表2】
【0048】
(試験例2)
化合物A モノメタンスルホン酸塩1.171mg、及び粉砕した乳糖水和物(Pharmatose 200M、DFE Pharma)98.829mgを混合した。得られた混合物をヒプロメロースカプセルに充填し、その充填物をプラスチックボトルで密栓後、25℃・60%RHの保存条件下に1箇月間保存した後、試験例1と同様の条件で類縁物質量(相対保持時間約1.34である化合物Aの二量体量)を測定した。
前記混合物における25℃・60%RHで1箇月保存した後の混合物中の類縁物質量と、25℃・60%RHの保存条件下に1箇月保存した後の化合物A モノメタンスルホン酸塩の類縁物質量との差を類縁物質増加量として表3にまとめた。
【0049】
【表3】
【0050】
化合物A モノメタンスルホン酸塩と粉砕した乳糖水和物との混合物は安定であることが示唆された。
乳糖は、湿度条件下における水分活性値と、乾燥状態における水分活性値との差分が大きく、化合物A モノメタンスルホン酸塩の湿度安定化に寄与しているものと考えられる。
【0051】
(実施例4〜11)
25℃・60%RHの保存条件下に開栓状態で3日間保存した化合物A モノメタンスルホン酸塩117.1mg(フリー体として100mg相当)を、25℃3日間乾燥剤存在下(乾燥剤:2g)のボトル内(30mL)で保存した表4に記載された各種医薬品添加物5g×2ボトル(計10g)と混合し、本発明の医薬組成物を得た。
なお、各種添加剤は、デキストラン(デキストラン、和光純薬工業)、デキストリン(デキストリン、ナカライテスク)、結晶セルロース(Ceolus PH102、旭化成ケミカルズ)、コーンスターチ(コーンスターチ、日本食品化工)、炭酸カルシウム(炭酸カルシウム、小堺製薬)、乳糖水和物、無水リン酸水素カルシウム(GSカリカ、協和化学工業)、マンニトール(Pearlitol 50C、Roquette Freres)を使用した。
【0052】
【表4】
【0053】
(比較例1〜2)
25℃・60%RHの保存条件下に開栓状態で3日間保存した化合物A モノメタンスルホン酸塩117.1mg(フリー体として100mg相当)を、25℃3日間乾燥剤存在下(乾燥剤:2g)のボトル内(30mL)で保存した表5に記載された各種医薬品添加物5g×2ボトル(計10g)と混合し、比較用の医薬組成物を得た。
【0054】
【表5】
【0055】
(試験例3)
実施例4〜11及び比較例1〜2で得られた混合物、並びに化合物A モノメタンスルホン酸塩をプラスチックボトルで密栓し、アルミ袋で密封後25℃、又は40℃の保存条件下で1箇月間保存した後、試験例1と同様の条件で類縁物質量(相対保持時間約1.34である化合物Aの二量体量)を測定した。
前記混合物における25℃及び40℃で1箇月保存した後の混合物中の類縁物質量と、25℃及び40℃の保存条件下に1箇月保存した後の化合物A モノメタンスルホン酸塩の類縁物質量との差を類縁物質増加量として表6にまとめた。
【0056】
【表6】
【0057】
(試験例4)
実施例4〜11、比較例1〜2で使用した医薬品添加物5000mgを25℃3日間乾燥剤存在下(乾燥剤:2g)のボトル内(30mL)で保存し、試験例1と同様の条件で水分活性値を測定した。また、開栓状態でも25℃・60%RHの保存条件下に3日間保存した後、試験例1と同様の条件で水分活性値を測定した。
開栓状態で保存後の水分活性値と、密栓状態で保存後の水分活性値との差を差分として表7にまとめた。
【0058】
【表7】
【0059】
表6の類縁物質の増加量と、表7の水分活性値の差分の関係(図1図2)から、湿度条件下における水分活性値と、乾燥状態における水分活性値との差分が、化合物A モノメタンスルホン酸塩の湿度安定化に寄与しているものと考えられる。また、水分活性値の差分が0.1以上である医薬品添加物と化合物A モノメタンスルホン酸塩との混合物は、安定であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、化合物A又はその製薬学的に許容される塩(例えば、化合物A モノメタンスルホン酸塩)を含有してなる安定な医薬組成物、例えば湿度に対して安定な医薬組成物を提供する製剤技術として有用である。

以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
図1
図2