特許第6112562号(P6112562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6112562ヘルメットライナー用の流体放出制御弁を備えた衝撃緩和ブラダー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6112562
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】ヘルメットライナー用の流体放出制御弁を備えた衝撃緩和ブラダー
(51)【国際特許分類】
   A42B 3/06 20060101AFI20170403BHJP
【FI】
   A42B3/06
【請求項の数】20
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-547785(P2013-547785)
(86)(22)【出願日】2012年1月9日
(65)【公表番号】特表2014-505179(P2014-505179A)
(43)【公表日】2014年2月27日
(86)【国際出願番号】CA2012000013
(87)【国際公開番号】WO2012094733
(87)【国際公開日】20120719
【審査請求日】2015年1月8日
(31)【優先権主張番号】61/431,214
(32)【優先日】2011年1月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513173970
【氏名又は名称】2156389 オンタリオ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】2156389 ONTARIO INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】アーチボールド,ジェフ
【審査官】 新田 亮二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−286822(JP,A)
【文献】 実開平02−029427(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A42B 3/00 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘルメット殻部を裏打ちするための衝撃緩和ブラダーであって、前記ブラダーが、
それらの間に流体閉じ込めチャンバーを画定する流体不透過性材料の上層および下層であって、前記流体閉じ込めチャンバーが少なくともヘルメット殻部の一部を裏打ちするための形状および大きさを有する上層および下層と、
前記流体閉じ込めチャンバーと流体連通する流体出口と、
前記出口と流体連通する流体放出制御弁であって、
前記流体閉じ込めチャンバーと流体連通する内側表面および外側表面を有する犠牲的弾性膜であって、前記外側表面は、前記ブラダーが最小初期圧力で流体を含有するとき初期形状で配置され、前記ブラダーが最大破裂圧力で流体を含有するとき破裂形状で配置され、それによって、前記最小初期圧力から前記最大破裂圧力までの前記膜の前記内側表面に対する前記流体の圧力の増加が、前記初期形状から前記破裂形状まで前記膜を膨張させる犠牲的弾性膜、および
前記初期形状において前記膜から所定の初期距離に配置され、かつ前記破裂形状において前記膜と係合する膜係合先端部を有する膜破裂装置、
を有する流体放出制御弁と、
を有することを特徴とする衝撃緩和ブラダー。
【請求項2】
請求項1に記載のブラダーにおいて、前記制御弁が、前記膜に対して上流、および下流の一方に配置される流れ制限オリフィスを含むことを特徴とするブラダー。
【請求項3】
請求項2に記載のブラダーにおいて、前記流れ制限オリフィスが調整可能な流れ領域を有することを特徴とするブラダー。
【請求項4】
請求項1記載のブラダーにおいて、前記制御弁が、前記膜の下流に排出チャンバーを含み、前記排出チャンバーがその壁を貫く前記流れ制限オリフィスを有することを特徴とするブラダー。
【請求項5】
請求項4に記載のブラダーにおいて、前記制御弁が、前記排出チャンバーに移動可能に取り付けられた調整可能な流れ制限ゲートであって、開放位置と、前記流れ制限オリフィスの少なくとも一部を覆う流れ制限位置との間で前記流れ制限オリフィスに対して移動可能である調整可能な流れ制限ゲートを含むことを特徴とするブラダー。
【請求項6】
請求項1に記載のブラダーにおいて、前記膜係合先端部が錐体を含むことを特徴とするブラダー。
【請求項7】
請求項1に記載のブラダーにおいて、前記膜係合先端部が刃状のエッジを含むことを特徴とするブラダー。
【請求項8】
請求項7に記載のブラダーにおいて、前記膜係合先端部がくさび形状を含むことを特徴とするブラダー。
【請求項9】
請求項1に記載のブラダーにおいて、前記膜係合先端部が、前記初期形状の前記膜に関連して前記制御弁に調整可能に取り付けられることを特徴とするブラダー。
【請求項10】
請求項9に記載のブラダーにおいて、前記膜係合先端部が、前記制御弁のねじ穴に取り付けられたねじ込みシャフトの先鋭化端部を含むことを特徴とするブラダー。
【請求項11】
請求項1に記載のブラダーが、前記流体閉じ込めチャンバーと流体連通する入口を含み、前記入口が前記ブラダーを流体で満たすための入口弁を有することを特徴とするブラダー。
【請求項12】
請求項1に記載のブラダーにおいて、前記上層および下層が、周縁シール部と接合されることを特徴とするブラダー。
【請求項13】
請求項1に記載のブラダーにおいて、前記周縁シール部が連続的であることを特徴とするブラダー。
【請求項14】
請求項13に記載のブラダーにおいて、前記上層、および前記下層の一方が出口開口部を有し、その周りで前記出口が封止されることを特徴とするブラダー。
【請求項15】
請求項1に記載のブラダーにおいて、前記流体が、着色された液体染料、着色された粉、および香料からなる群から選択された衝撃の指標を含有することを特徴とするブラダー。
【請求項16】
請求項2に記載のブラダーにおいて、前記流れ制限オリフィスが、バルーン、および脆弱層の一方で被覆されることを特徴とするブラダー。
【請求項17】
請求項1に記載のブラダーにおいて、前記上層および下層が、複数の流体保持チャネルを画定するように接合され、各チャネルが前記出口と流体連通することを特徴とするブラダー。
【請求項18】
請求項17に記載のブラダーにおいて、前記チャネルが前記流体閉じ込めチャンバー内のマニホールドと連通し、前記出口が前記マニホールドと連通することを特徴とするブラダー。
【請求項19】
請求項12に記載のブラダーにおいて、前記上層および下層が、1またはそれ以上のリブと更に接合されており、当該リブが、それぞれ前記周縁シール部から間隔の空いた少なくとも1つの末端有することを特徴とするブラダー。
【請求項20】
請求項12に記載のブラダーにおいて、前記上層および下層が、前記周縁シール部から間隔の空いた1またはそれ以上の点溶接で接続されることを特徴とするブラダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃緩和流体充填ブラダーをヘルメットライナー中で使用することによってヘルメット着用者の頭部および脳への衝撃力を低減することに関し、当該ブラダーは、流体圧力が所定の最大値を超えると、制御された流速で流体を放出する弁を有する。
【背景技術】
【0002】
頭部防護用ヘルメットは衝撃を緩和するために、および衝撃力をより広い領域に分散するためにポリマー発泡ライナーを慣習的に使用する。ヘルメットライナーは剛性ポリマー、圧縮性発泡ポリマー、または剛性と圧縮性の組合せを使用してもよい。従来技術のヘルメットライナーシステムは、繰り返される衝撃に耐えるために十分な耐久性があるように通常は設計される。ヘルメット殻部は、刺し傷、切り傷または引っ掻き傷から防護する薄い硬質プラスチックである一方で、発泡ライナーは衝撃力を衝撃点からより広い領域へ広げるが、相当量の衝撃エネルギーを散逸するように設計されていない。
【0003】
本明細書に記載される本発明の例は、後頭部発泡ライナーに導入される単一の犠牲的な気体または液体流体で充填されたブラダーを使用する。ブラダーはいかなる数の衝撃位置で使用してもよく、実際にはどんなライナーに対しても2〜6個のブラダーが理想的であろう。しかしながら明瞭さおよび理解しやすさのため、1つのブラダーのみが本明細書に記載の例に示される。複数のブラダーをヘルメットの内側殻部に配置してもよく、その時ブラダーの位置および分布は予想されるまたは典型的な衝撃位置に基づく。
【0004】
本明細書の例において、従来技術のライナーシステムの後頭部発泡ライナーが、単一の犠牲的な気体または液体流体が充填されたブラダーを含み、激しい衝撃を受けたときに流体を放出することによって衝撃エネルギーを散逸するように改造された。閾値圧力未満では、ブラダーは発泡ライナー中の流体充填クッションとして機能する。予め選択された衝撃最大力に衝撃力が達すると、流体放出制御弁が即座に開放され、流体が好ましくは流れ制限オリフィスを介して、制御された流速で放出される。液体または気体などの加圧流体が、流れ制限オリフィスを介して大気中に流出し、流れ制限オリフィスが衝撃エネルギーの相当部分を散逸する。衝撃減速度の低減は、標準的な剛性発泡ライナーおよび圧縮性発泡ライナーを用いたヘルメットと比べて、68%(P<0.0001)であると測定された。衝撃力が流体放出制御弁の起動の選択された閾値未満であったとき、約23%の衝撃減速度の低減であったが、実験でごくわずかな回数の試験が用いられたので、この差は統計的に有意であると考えられない。
【0005】
ヘルメットは着用者の頭部の傷害を防止または最小化するために使用される。予想される衝撃は、鋭い衝撃と鈍い衝撃の両方であり、鋭い衝撃に対しては、ヘルメットは衝突する物体の頭部および頭蓋骨への切り込みおよび貫入を防止するように意図されており、鈍い衝撃では、頭部は即座に減速または加速され、それは振とうを引き起こす恐れがある。
【0006】
多くのヘルメットは、鋭い衝撃から防護するために硬質のポリマー殻部からなり、振とう性の衝撃の危険性を最小化するために内側弾性または発泡ポリマーパディングを有する。
【0007】
頭部傷害基準(Head Injury Criterion(HIC))パラメータの使用は、振とう性の傷害の危険性の効果的な測定法であると分かっている。HICは、衝撃時の着用者の頭部の加速度または減速度に直線的に依存すると分かっている。頭部または頭蓋骨中の脳の加速度または減速度が十分に激しい場合、振とう性の傷害が起こり得る。反対に、衝撃時の頭部または脳の加速度または減速度の程度を下げることによって、振とう性の傷害の危険性は低減される。
【0008】
ヘルメットのライニングに対して弾性または発泡ポリマーの圧縮性および剛性パディングを従来のように使用することは、鈍い衝撃に由来する力を、力の分散をより広い領域へ広げることによって、および程度を圧縮することによって散逸する傾向がある。従来のヘルメットライナーはまた、ヘルメットを着用者の頭部に効果的に固定し、かつ衝撃の際、適所に留まり着用者を防護するようにヘルメットが脱げることを防止する。ヘルメットの発泡ライナーが硬すぎる場合、着用者にとって不快であろうし、また衝撃力をより直接頭部および脳へ伝達し得る。ヘルメットライナーが柔らかすぎる場合、ヘルメットおよびライナーは使用中動きまわるであろう。軟質に裏打ちされたヘルメットを適所に保持するために、着用者は、あご紐および殻部のサイズを、ヘルメットがより密着するように調節しがちであり、それは、より硬質のライナーパディングと同程度に順応性が低減されるまで軟質パディングを圧縮する。
【0009】
その結果、上で説明した理由のため、ヘルメットライナーパディングの一部の設計は、弾性ポリマーを使用する。弾性ポリマーのヘルメットライナーを使用することで、衝撃の際に頭部と脳が減速する距離を、より硬質の非弾性ヘルメットライナーパディングと比べて延ばすことができる。弾性ポリマーの圧縮により、頭部および脳が受ける減速力は一般的に下がり、硬質発泡ライナーと比べて振とう性の傷害の危険性が低減する。
【0010】
しかしながら、発泡ポリプロピレン(EPP)または発泡ポリエチレン(EPE)が使用されるときなど、内側ヘルメットパディングがかなりの弾性回復特性を有する場合、頭部およびヘルメットは衝撃の際、即座に跳ね返るか、方向を反転する。跳ね返り力は、脳が受ける合計加速度を上昇させ得る。従って跳ね返りの排除が望まれる。弾性ヘルメットライナーパディングを用いた衝撃の間の頭部および脳の跳ね返りは、振とう性の傷害の危険性を高め得る。
【0011】
本発明を背景技術と区別する特徴は、以下に示される本発明の開示、図面および説明を精査することで明らかになろう。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、ヘルメット殻部を裏打ちするための衝撃緩和ブラダーを提供し、ブラダーは、流体閉じ込めチャンバーを画定する流体不透過性材料の上層および下層と、流体閉じ込めチャンバーと流体連通する流体出口と、出口と流体連通する流体放出制御弁であって、流体閉じ込めチャンバーと流体連通する内側表面および外側表面を有する犠牲的弾性膜であって、外側表面は、ブラダーが最小初期圧力で流体を含有するとき初期形状で配置され、ブラダーが最大破裂圧力で流体を含有するとき破裂形状で配置される犠牲的弾性膜と、初期形状において膜から所定の初期距離に配置され、かつ破裂形状において膜と係合する膜係合先端部を有する膜破裂装置とを有する流体放出制御弁とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明が容易に理解されるように、本発明の1つの実施形態を添付図面の例として示す。
【0014】
図1図1は、例示的なアイスホッケーヘルメットの中央面の断面図であり、外側硬質プラスチック殻部と、内側軟質発泡パッドで硬質プラスチック殻部と当接する硬質発泡ライナーと、着用者の頭部と係合する後部後頭部位置の流体充填ブラダーとを示す。ヘルメット殻部内の略完全な頭部被覆域がもたらされるように追加のブラダーを配置可能である。後頭部ブラダーを1つだけ記載および例示するのは、図面を視覚的に分かりやすくするため、および本発明の原理の理解を容易にするためである。
図2図2は、例示的な流体充填ブラダーの平面図であり、周辺でヒートシールされた上層および下層と、流体保持チャンバーのチャネルおよびプレナムを画定するヒートシールされたリブと、プレナムから延びる出口管および入口管とを示す。
図3図3は、3個の内側発泡ライナーを備えたヘルメット殻部の分解斜視図であり、特に、流体充填衝撃緩和ブラダーの後部または後頭部ライナー中の位置を点線で示す。
図4図4は、実験的な落下試験結果をグラフで示したものであり、1.0mおよび1.5mの高さからの、標準的なホッケーヘルメット(上側曲線)の後頭部衝撃に関する、および衝撃緩和ブラダーを装備した同じヘルメットに関する落下高さ(m)対減速度(g)を示す。
図5図5は、出口管および例示的な流体放出制御弁の断面図であり、初期形状(実線で平坦)、および破裂形状(点線の膨らんだ曲線)の犠牲的弾性膜を示し、破裂形状では破裂装置の鋭い先端部と係合し、調整可能なサイズの流れ制限オリフィスを介して流体が流出する。
【0015】
本発明のさらなる詳細およびその有利性は、以下に含まれる詳細な説明から明らかになろう。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図3はアイスホッケーのヘルメットの構造を示すが、本発明は、スポーツ用、職場安全用または軍用ヘルメットのいずれの種類にも等しく適用可能であることは理解されよう。ホッケーヘルメットの例における衝撃緩和ブラダー1の形状および位置は、後頭部発泡ライナー2の中に位置付けられる。何故なら、ホッケーの試合中、傷害の共通の原因は、選手が後ろに転倒した時の後頭部と氷面間での衝撃であることを調査が示しているからである。本発明者は試験をするために後頭部領域を使用した。何故なら、衝撃が後頭部領域で共通であるばかりでなく、その位置がより簡単な試作品試験をもたらすからである。ヘルメットの使用次第で、ブラダー1の位置、または複数のブラダー1の分布は、かなり変化し得る。
【0017】
図1および3は、製造者らによって一般的に使用されるヘルメットの構造を示す。機械加工または金型を改造することによって、膨張または流体を充填されたブラダー1に十分な後頭部ライナー2の後部をくり抜き、そして後頭部ライナー2と内側軟質発泡パッド6との間にブラダー1を挿入することだけがブラダー1の導入に必要であることが本発明の利点である。硬質発泡前部ライナー4および中間ライナー5と、殻部3と全ての軟質柔軟性発泡パッド6とは、示される例では改造されないままであるが、実際の製品ヘルメットライナーでは、多数のブラダー1が1つのヘルメット内にあってもよい。ホッケーのヘルメットの例では、ヘルメットの両側部に前側部ブラダー1があることもあり、それは例えば各ライナーシステムに3つの分離したブラダー1をもたらす。
【0018】
図2に見られるように、衝撃緩和ブラダー1は、空気膨張に関して、膨張性空気マットレス、クッションまたは玩具を製造するために使用される既存の装置を用いる簡単な方法で構造化することができる。ブラダー1は、熱可塑性シートなどの実質的に非弾性の流体不透過性ポリマー材料の上層および下層から構成され、熱可塑性シートは合わせてヒートシールされて上層と下層の間に流体閉じ込めチャンバーを画定する。示される例では、上層と下層は、ヒートシールプロセスによって連続周縁シール部7と中間リブ8を有するように接合され、その結果、流体閉じ込めチャンバー内にチャネル9と共通マニホールド10が形成される。しかしながら、ブラダー2の拡張される厚さは、点溶接またはキルト縫いなどのリブ8以外の手段によって制限できることは理解されよう。示される実施形態では、上層は出口開口部を有し、その周りで、マニホールド10およびチャネル9と連通するように出口管11が封止される。一方向入口弁(不図示)を有する入口管12が同じく上層に封止され、ブラダー1を膨らませるか、ブラダー1を流体で充填するためにマニホールド10と連通する。入口管12を排除して出口管11によってブラダー1を膨らませることができるが、別個の入口管12と出口管11は、容易に理解される態様で機能をはっきりと示す働きをする。
【0019】
出口管11は、図2および図5の断面図に示される流体放出制御弁13を介してブラダー1の内側流体閉じ込めチャンバーと流体連通する流体出口を提供する。制御弁13は、以下に記載するような衝撃を受けた場合にブラダー1内の空気または液体を放出するために出口管11、マニホールド10、およびチャネル9と流体連通する。
【0020】
図5に示すように、流体放出制御弁13は、ブラダー1の流体閉じ込めチャンバーと流体連通する出口管11の端部を覆う内側表面を有する犠牲的弾性膜14を有する。図5は、ドラムのように出口管14の端部の上に伸張され、かつエンドキャップ15により適所に保持された膜14を示す。
【0021】
膜14の外側表面は、膜14が破れた場合にブラダー1からの空気または他の流体を放出する流れ制限オリフィス16を介して周囲空気と連通している。膜14の外側表面は図5の実線で示される初期形状に配置され、その時ブラダー1は最小初期圧力で流体を含有している。初期圧力は通常使用の間、クッション効果を提供するのに十分である。中程度の衝撃を受けると、膜14は伸張するが破れない。
【0022】
激しい衝撃を受けると、膜14は図5の点線で示される破裂形状まで伸張し、その時ブラダー1は最大破裂圧力で流体を含有する。破裂形状(図5の点線)においては、膜破裂装置17が膜14と係合しそれを破裂させ、迅速な予測可能な態様でブラダー1から空気または液体を放出する。膜係合先端部18を有する先鋭化されたボルトとして示される試作品の膜破裂装置17は、初期形状において膜14から所定の初期距離「D」に配置され、破裂形状において膜14と係合する。ボルトは、簡単な調整を可能にするので使用された。製品バージョンは同じようにボルトを使用しないであろうし、用途に応じた最適な距離「D」を実験によって決定できるので調整機構を含まなくてよい。
【0023】
制御弁13は、図5に示される実施形態において膜14の上流に配置された流れ制限オリフィス16を有し、流れ制限オリフィス16は、スリーブ19を軸方向に(示されるように左または右に)滑らせることによって調整可能な流れ領域を有する。流れ制限オリフィス16は固定された流れ領域、すなわち調整不能であってもよく、また構造を簡単にするために膜14の上流に位置付けてもよいことは理解されよう。
【0024】
示される例の実施形態では、制御弁13は、膜14の下流の排出チャンバー20を含むことができ、排出チャンバー20はその壁を貫通する流れ制限オリフィス16を有する。スリーブ19は、スリーブ19が、排気チャンバー20に移動可能に取り付けられ、かつ開放位置と、流れ制限オリフィス16の少なくとも一部を覆う流れ制限位置との間で流れ制限オリフィス16に対して移動可能な調整可能な流れ制限ゲートとして機能するように開口21を有する。用途に応じた最適なオリフィス流れ領域を実験によって決定できるので、固定されかつ調整不能な流れ領域を有するオリフィス16が製品ヘルメット設計に同様に使用され得る。
【0025】
膜係合先端部18は錐体を形成するように先鋭化されてもよいが、錐体は膜14の穿刺を幾分塞ぐ傾向にあり、信頼性に劣る結果を生じることが実験から分かっている。膜係合先端部18は、図5で示されるくさび状などの細長い刃状のエッジを含むと好ましい。
【0026】
膜14の初期形状と、膜係合先端部18との間の距離「D」は、初期形状の膜13に関連して膜破裂装置を制御弁13に調整可能に取り付けることによって調整可能であってもよい。示される例では、膜係合先端部18は、制御弁13の端部キャップ15のねじ穴に取り付けられたねじシャフトの先鋭化された端部として形成される。
【0027】
簡単にするため、図2に示される実施形態は、ブラダーの流体閉じ込めチャンバーのマニホールド10と流体連通する入口管12を有し、入口管12はブラダーを流体で満たすための一方向入口弁(不図示)を有する。当業者には当然のことながら、本明細書に記載される本発明の教示から逸脱することなく、単一の管を入口/出口弁とともに使用してもよい。しかしながら別個の制御弁13が、説明を分かりやすくするために本明細書に記載され示される。
【0028】
膜14を破裂させる激しい衝撃の検出を改善するために、ブラダー1を、着色された液体染料、着色された粉、または不快な臭いなどの衝撃の指標で満たしてもよい。激しい衝撃を受けたことを視覚的に示すのに加えて、流れ制限オリフィス16は、脆弱な弾性バルーン、または視覚的に検出可能な脆弱層の1つで被覆されてもよい。
【0029】
ブラダー1の効果を示す例示的な実験を行った。それを以下に記載する。図4は実験結果を要約するグラフを示す。従来型ヘルメットの試験は上の曲線に示される結果となり、ブラダー1を取り付けたヘルメットは下の曲線で示される。1.0メートルの落下高さにおいて、膜14は破裂せず、非破裂ブラダー1のクッション効果の結果は、減速度において統計的に有意でない23%の低減であった。1.5メートルの落下高さにおいて、膜14は破裂し、オリフィス16から放出された空気が、ヘルメット内のモデル頭部の減速に有意に貢献した。減速度は約68%(P<0.0001)低減し、これはブラダー1からの空気の排出が減速度を有意に低減し、ひいては震とう性の傷害の危険性を低減したことを示す。
【0030】
実験例
ブラダー1を、ヒートシールされた2層のポリマーから作製した。形状は、従来型のBauer(商標)5500ホッケーヘルメット(中型サイズ)の後頭部ライナー2に適合するように設計した。例のブラダー1はチャネル9を形成するヒートシールされたシーム(7、8)を使用し、ブラダー1の膨張した厚さがホッケーヘルメット殻部3の既存の標準EPS(発泡ポリスチレン)製および発泡ポリウレタン(PU)製後頭部ライナー2と確実に適合できるようにした。
【0031】
入口管12および出口管13を金型で成形し、かつブラダー1にヒートシールした。入口管12はブラダー1を膨張させるために使用し、出口管13は流体放出制御弁13を固定するために使用した。ブラダー1内に保持される空気の初期圧力は、試験者の裁量で変えることができた。
【0032】
流体放出制御弁13は、出口管11の端部の上に保持される犠牲的すなわち消耗可能な膜14としてごく一部のニトリルシートを使用した。衝撃の間、ブラダー1内の圧力が上昇するにつれ、ニトリル膜14は制御弁13の中で膜穿刺装置17の先鋭化された先端部18に向かって外側に膨張した。ブラダー1の内圧が十分になると、ニトリル膜14は先鋭化された先端部18によって穴をあけられ、それによって加圧空気が流出した。膜14のニトリル材料は、試験される各種ポリマーシートの中でも穴を開けられると最適な破裂特性および引裂き特性を呈することが分かっていた。
【0033】
ニトリル膜14から穴あけ先端部18までの距離「D」は、所望の最大ブラダー圧力に応じて、および衝撃前のブラダー1の初期圧力に応じて、調整することができた。制御弁13の流れ制限オリフィス16の一部を被覆するスリーブ19を移動することによって、制御弁13を通る流速を調整した。オリフィス16の妨げられないサイズは、約9.87mmであった。流れ制限領域はスリーブ19を使用してゼロまで低減することができた。
【0034】
Bauer(商標)5500ホッケーヘルメットからの原型(stock)EPSおよびPU後頭部ライナー2からブラダー1を保持する受け部を形成するように後頭部ライナー2を機械加工した。接着剤で頭型に付着させた膨張したブラダー1のコンピュータスキャンを用いて、膨張したブラダー1の相補的表面のコンピュータモデルを生成した。この表面を原型後頭部ライナー2に機械加工した。それによってブラダー1を後頭部ライナー2の機械加工されたブラダー受け部でぴったり支持することが可能になり、また頭型とヘルメットの硬質外側殻部3との間に同様の距離がもたらされた。
【0035】
ブラダー1が衝撃の際に拘束され、かつ通気穴の中に膨張、移動および転位しないことを保証するように適所に付着されたEPSでブラダー受け部の通気穴を充填する。原型後頭部ライナー2からのPUは、機械加工前にEPSから除去した。PUの小片を切断し、ブラダー受け部内の隆起部に沿ってブラダー受け部に接合した。そこはブラダー1のシームがブラダー受け部に対して衝突し得る場所であった。
【0036】
2つの切欠きをブラダー受け部の下側領域に形成して、入口管12と出口管11が制御弁13を保持できるようにした。
【0037】
米国およびカナダで販売されている防護用ホッケーヘルメットは、カナダ規格協会(Canadian Standards Association(CSA))または米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials(ASTM))の認証を必要とする。ASTM F1045−04は、ホッケーヘルメットのASTM規格である。CSA Z262.1−09は、ホッケーヘルメットのCSA規格である。これらの規格は、ヘルメットが安全のために定着、貫入および衝撃吸収規格に適合することを要求する。ASTM F717−89およびASTM F429−01は、衝撃吸収に関して防護用フットボールヘルメットを試験する際に使用されるASTM規格である。
【0038】
言及した衝撃吸収に関する規格では、試験されるヘルメットは頭型に結合され、重力下に、平坦なモジュール式弾性プログラマ(MEP)ターゲットの上に約1.5m(約5.0ft)落とされる。この時MEPは固体基板上に設置されている。規格間で変化はあるが、ヘルメットおよび頭型の組合せの最大減速度は典型的に、300g以下(すなわち、9.81m/s加速度または減速度の重力加速度または倍数)になるはずである。複数の衝撃が、試験される各ヘルメットに必要とされ、それはヘルメットの同じ領域での複数の衝撃を含む。
【0039】
落下試験治具を、ASTM F1045−04に記載の試験治具と同様に、引っ張られたガイドワイヤを用いて作製した。マグネシウム製頭型(サイズJ、ASTM F2220−02に基づく)を、溶接されたアルミニウム製落下装置に取り付けた。元々の頭型および落下装置の重心(CG)からオフセットされたつり合いおもりを、頭型および落下装置が引っ張られたガイドワイヤ上で最小の摩擦または結合で落下するまで、落下装置に加えた。頭型および装置の合計重量は5165gだった。これはASTM F1045−04によって許可された最大値5150gを0.3%上回っているが、0.3%の「超過重量」による低減された摩擦は、増大した摩擦および5150gの最大質量を超えて好まれた。
【0040】
使用された標的は固体の鋼であり、MEPではなかった。試験は、2つのヘルメットのパディングシステム間の比較を目的とした。試験は2つのヘルメットに対して行われた。一方のヘルメットは、パディングとしてEPSおよびPUライナー(2、4、5、6)を備えた硬質外側殻部3からなる中型サイズの標準的な原型Bauer5500ホッケーヘルメットだった。他方のヘルメットは、中型サイズのBauer5500ホッケーヘルメットからの同じ外側殻部3を使用したが、標準的な原型EPS+PU後頭部ライナー2が取り除かれ、制御弁13を有する受け部内のブラダー1がヘルメット外側殻部3に挿入されていた。改造ヘルメットの前部ライナー4および中間ライナー5は保持し、改造しなかった。ヘルメットの後頭部領域だけを改造し、試験した。
【0041】
衝撃吸収試験に用いた落下高さは1.5mおよび1.0mだった。ASTM F1045−04の試験落下高さだったので1.5mの落下高さを使用した。1.0mの落下高さは、制御弁13が起動すなわち破裂しない激しさで劣る模擬衝撃に使用した。
【0042】
ブラダー1の初期膨張圧力、ニトリル膜14から穴あけ先端部18までの距離「D」、および流れ制限オリフィス16の寸法は、弁13が1.0mの落下の間は起動しないが、1.5mの落下の間に破裂すなわち起動することを保証するようにブラダー1および弁13を調整するものであり、ブラダー1内の加圧空気が放出する期間は、標的に対するヘルメットの衝撃の持続期間とほぼ同じ期間であった。加圧空気の流出が速すぎると、頭型は、標準的な原型後頭部ライナー2と比較して低減された厚さを有するブラダー受け部に対して衝撃を与えるであろう。加圧空気の流出が遅すぎると、ブラダー1は空気ばねとして機能し、頭型の跳ね上がりを招き、それは組み合わせられたブラダー1、制御弁13およびライナー2システムの効力を低下させるであろう。
【0043】
初期実験の後、試験試作品ブラダーを約76kPa(11psi)まで膨張すること、および約3.5mm(0.0055in)の最終起動オリフィス寸法を用いることが、所望の結果をもたらすことが分かった。初期内圧を変えると、ニトリル膜14から穴あけ先端部18までの距離「D」、膜14に使用するポリマーの種類、および流れ制限オリフィス16のスリーブ19との最終寸法の調整が全て試作品ヘルメットライナーシステムのエネルギー散逸能力に影響を及ぼし得る。
【0044】
頭型の衝撃時の減速度は、ASTM F1045−04規格に関して、頭型のCGに取り付けられたPCB Piezotronics(商標)モデル#352C04加速度計を使用して測定した。加速度計の感度係数は9.72mV/gだった。加速度計をData Translation(商標)モデル#:DT9837Aに接続し、サンプル周波数は2000Hzに設定した。加速度計からの出力は、東芝Satellite(商標)A100、モデル#:PSAA5C−TA102Cに記録した。
【0045】
標準的な原型ヘルメットに対し、5回の落下試験を1.5mの高さから行った。加圧されたブラダー後頭部ヘルメットライナーシステムを用いて、6回の落下試験を1.5mの高さから行った。6回全てについて、制御弁13が起動された。
【0046】
標準的な原型ヘルメットに対し、5回の落下試験を1.0mの高さから行った。加圧されたブラダー後頭部ヘルメットライナーシステムを用いて、5回の落下試験を1.0mの高さから行った。5回全ての試験落下について、制御弁13が起動されなかった。
【0047】
下側曲線として図4にグラフを使って示されるように、1.5mの落下高さからの、制御弁13を備えた犠牲的な加圧流体充填ブラダー1を有するヘルメットの平均減速度は約46gであり、33g〜59gの範囲であった。上側曲線として図4に示されるような、1.5mの落下高さからの、非改造型の後頭部パッドを備えた標準的な原型ヘルメットの平均減速度は約142gであり、範囲は135g〜148gであった。
【0048】
流体放出制御弁13を備えた犠牲的な加圧流体充填ブラダー1を有するヘルメットおよび後頭部ライナー2は、1.5mの落下高さを用いて試験した時、原型後頭部パッドを備えた非改造型の標準的な原型ヘルメットと比較して、減速度の68%低減(P<0.0001)を示した。
【0049】
1.0mの落下高さからの、制御弁13(起動せず)を備えた犠牲的な加圧流体充填ブラダー1を有するヘルメットの平均減速度は約41gであり、23g〜60gの範囲であった。1.0mの落下高さからの、原型後頭部パッドを備えた非改造型の標準的な原型ヘルメットの平均減速度は約54gであり、48g〜62gの範囲であった。制御弁13(起動せず)を備えた犠牲的な加圧流体充填ブラダー1は、1.0mの落下高さを使用して試験した時、減速度の平均23%の低減(P=0.0881)を示した。
【0050】
ヘルメットライナーシステム内の制御弁13を備えた犠牲的な加圧流体充填ブラダー1は、相当(1.5mの落下)の衝撃において、頭型が受ける減速度を顕著に低減することが分かった。減速度を低減するこの能力は、このシステムを用いたヘルメットの着用者の脳が受けるであろう振とう力に対応して低減するはずである。
【0051】
1.0mからの落下試験は、加圧空気の放出によるエネルギー散逸が、衝撃減速度を低減する場合に重要であることを裏付けた。加圧ブラダーシステムを用いることによる減速度の低減の大半は、「空気クッション」効果によるものではない。
【0052】
制御弁13および加圧ブラダー1を「調整」する能力は、提示されるヘルメットライナーシステムの効力が、あらゆるサイズおよび能力の着用者に最適化されることを可能にし得る。さらに、所与の頭部サイズおよび重量の振とう性傷害の公認閾値未満に起動圧力を選択することによって、脳傷害の危険性は、標準的な原型ヘルメットパディングと比較して大幅に低減するはずである。
【0053】
上の記載は、発明者によって現在企図される特に好ましい実施形態に関するが、当然のことながら、本発明はその広範な態様において、本明細書に記載された要素の機械的および機能的等価物を含む。
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図5