【実施例1】
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例における各ジュースの作成方法、及び試験方法は次の通りである。
【0064】
<単品ピューレジュースの作成>
原料となる生の植物性素材を水で洗浄し、次いで、イチゴはへたを取り除き、イチゴ以外の原料は外皮をむいて適度な大きさに切断する。切断した原料を180〜350℃の過熱蒸気で3〜18分間軟化加熱処理した後に、公転と自転との合成遠心力により円筒状ストレーナの周壁に押しつけ通過させて原材料を裏漉しする裏漉し装置にて、孔径2.5mmのストレーナを用いて裏漉し処理を行い各原料毎のピューレを得た。
【0065】
<ミックスピューレジュースの作成>
各原料毎のピューレを所定の割合で混合して、気泡が入らないようにゆっくりかき混ぜることでそれぞれのミックスピューレジュースを得た。
【0066】
<単品果実ジュースの作成>
原料となる生の植物性素材を水で洗浄し、次いで、イチゴはへたを取り除き、イチゴ以外の原料は外皮をむいて適度な大きさに切断する。切断した原料をミキサーで粉砕して、目的となる果実ジュースを得た。
【0067】
<ミックス果実ジュースの作成>
各原料毎の果実ジュースを所定の割合で混合して、気泡が入らないようにゆっくりかき混ぜることでそれぞれのミックス果実ジュースを得た。
【0068】
<分離性試験>
試験対象となるジュースをゆっくり攪拌して十分に混ざったところでメスシリンダーに入れ、所定時間後の分離状態を目視で確認した。
【0069】
<Brix値の測定>
それぞれのジュースを軽く攪拌した上で糖度計で糖度(°Bx)の測定を行った。
【0070】
<色差の測定>
保存用のビニール袋に入った各ピューレ(解凍状態)の任意の5箇所に袋の上からハンディ型色彩計(NR−11 日本電色工業(株))をあててL値、a値、b値を測定し、各測定毎の値と5回分の平均値とを求めた。
【0071】
<粘度の測定>
500mlのビーカーに試験対象となるジュースを入れ、粘度計(ビスメトロン、芝浦システム(株))にて、同一のローター及び回転速度条件で3回ずつ粘度の測定を行い、その平均値を各条件における粘度とした。なお、測定結果は、粘度計の特定から測定値20以上を信用できる値とみなし、20を大きく下回る値、及び各測定条件に測定上限に近い値を好ましくない値とし、○、△、×、の3段階で判定した。ここで、○判定があったものは○判定であった数値の平均値をそのジュースの粘度(mPa・s/CP値)とし、○判定がなかったものは△判定であった数値の平均値をそのジュースの粘度(mPa・s/CP値)とした(
図19参照)。また、
図15〜18において測定不可であったものはNGと記した。
○:測定値として信用できる(測定値20以上)
△:測定値としてやや信用できる(測定値が10〜20程度、若しくは85以上)
×:測定値としてあまり信用できない(測定値10未満)
【0072】
<飲みやすさの評価>
試験対象となるジュースを飲んだときの飲みやすさを比較した。
○:流動性が適切な範囲であり、飲みやすいジュースであった
△:やや流動性に劣り、多少飲みにくかった(実用の範囲)
×:流動性に劣り、飲みにくかった
【0073】
<実施例1:分離性の比較>
はじめに、生の果実を用いたジュースと、本発明に係るピューレジュースとの分離性の比較試験を行った。オレンジ、スイカ、パイナップル、イチゴ、リンゴ、グレープフルーツ、キウイの7種類の果実を用いて、上記の単品ピューレジュース及び単品果実ジュースの作成方法に従ってそれぞれの単品ジュースを作成し、分離性試験を行った。ピューレジュースの分離性試験の結果が
図3に、果実ジュースの分離性試験の結果が
図4にそれぞれ示されている。ここで、各図中の「上層」「中層」「下層」は分離している場合のそれぞれの部分のことであり、「上層」は分離している場合の液面側の部分の量、「下層」は分離している場合の底面側の部分の量、「中層」は3層に分離した場合の「上層」と「下層」に挟まれた部分の量をそれぞれ意味する。また、「100」は分離していないことを意味する。なお、この例では、イチゴ、リンゴ、キウイのピューレは分散安定性ピューレに相当し、オレンジ、スイカ、パイナップル、グレープフルーツのピューレは非分散安定性ピューレに相当する。
【0074】
図3,4に示されるように、ピューレジュース及び果実ジュースに加水しない状態での分離性を比較したところ、120分までの観察で、ピューレジュースについてはオレンジ、スイカ、パイナップルの3種類について分離が生じ(
図3参照)、果実ジュースについてはオレンジ、スイカ、パイナップル、グレープフルーツの4種類で分離が生じた(
図4参照)。
【0075】
オレンジ、スイカ、パイナップルを用いたジュースについては、ピューレジュースと果実ジュースの双方で分離が生じているものの、その分離状態には差異がある。ピューレジュースのうちの分離したもの(1−1,1−2,1−3)については果実片等の固形分が下層側に溜まる傾向が見られた。一方、果実ジュースのうちの分離したもの(2−1,2−2,2−3,2−6)については、ジュース全体に占める上層の割合が高い傾向が見て取れ、これは上層に果実片等の固形分が浮いていたためであると考えられる。ピューレジュースと果実ジュースとでこのような差異が生じたのは、加熱軟化処理後にストレーナで裏漉しするという方法で作られたピューレジュースでは、果汁を内包した果肉があまり破壊されず、果実が糖分を含む果汁を内包したままであるためその重さで沈んだのに対して、ミキサーで作られた果実ジュースでは、ブレードで果実が破砕されて果肉と糖分を含む果汁とがバラバラになったことにより糖分を殆ど含まず軽い果肉が液上層に浮き上がったものと考えられる。今回の実験においては検討を行っていないが、分離が見られなかったジュースについても、果汁のうち糖分を多く含む部分は下層に、糖分の含有量が少ない部分は上層に集まっている可能性も考えられる。
【0076】
<実施例2:加水時の分離性の比較>
ジューススタンド等で販売されている果実ジュースは、果実のみではジュースとして適した流動性を得ることが困難であるため、果実と同量程度の水を加えた上でミキサー等で破砕して提供するのが一般的であることから、ジュースに加水した場合の分離性についても検討を行った。実施例2においては、実施例1で得られた7種類のピューレジュース、及び7種類の果実ジュースに同量の水を加えた場合の分離性を調べた。ピューレジュースに加水した場合の分離性試験の結果が
図5に、果実ジュースに加水した場合の分離性試験の結果が
図6に、それぞれ示されている。
【0077】
加水状態での分離性を比較したところ、120分までの観察で、ピューレジュースについてはイチゴ以外の6種類について分離が生じ(
図5参照)、果実ジュースについては7種類全てで分離が生じた(
図6参照)。イチゴのピューレジュースについて分離が生じなかった理由は定かではないが、イチゴのピューレは保水力(分散力)が高く、同量の水が加えられた場合でも十分に保水力を保持できたためではないかと推測される。
【0078】
<実施例3:牛乳を加えた場合の分離性の比較>
ジューススタンド等における果実ジュースの販売では、単品の果実ジュースや複数種類の果実ジュースを混合したミックスジュースのみではなく、乳製品等と混ぜ合わせて提供されることもある。このため、実施例3においては、実施例1で得られた各7種類ずつのジュースのうち、イチゴ、リンゴ、キウイ、グレープフルーツを原料とした4種類のピューレジュース、及び果実ジュースに同量の牛乳を加えた場合の分離性を調べた。ピューレジュースに牛乳を加えた場合の分離性試験の結果が
図7に、果実ジュースに牛乳を加えた場合の分離性試験の結果が
図8に、それぞれ示されている。
【0079】
牛乳を加えた場合の分離性を比較したところ、120分までの観察で、ピューレジュースについては、イチゴとリンゴのピューレジュースではまったく分離が見られず、またキウイとグレープフルーツのピューレジュースでもごく少量の上澄みが生じただけであった(
図7参照)。また、グレープフルーツのピューレジュースに牛乳を加えたものでは(5−4)、外観的な変化上述の通り殆ど認められなかったものの、飲んでみたところヨーグルトやカッテージチーズに近い風味を呈しており、微視的には牛乳中のタンパク質がグレープフルーツの酸により凝固している可能性が考えられる。
【0080】
これに対して、果実ジュースにおいては、イチゴとキウイの果実ジュースでは分離は見られなかったものの、リンゴとグレープフルーツの果実ジュースでは果実片が液表面に浮き上がり、明確な分離が認められた。これは、先にも述べたように果実ジュースでは果肉と果汁とがバラバラにされていることに由来するものと考えられる。
【0081】
<実施例4:複数のピューレジュースを混合した場合の分離性の比較>
実施例1〜3においては、単一の原料からなるジュースの分離性について評価を行ったが、実施例4においては単一の原料からなるジュースを複数種類混ぜて得られたミックスジュースの分離性について検討を行う。複数のピューレジュースを混合した場合の分離性試験の結果が
図9〜11に示されている。
【0082】
図9には、オレンジピューレジュースとリンゴピューレジュースとを混合した場合の分離性試験の結果が示されている。同図に示されたように、分散安定性ピューレであるリンゴピューレジュースの配合量が10容積%である7−1では、60分以上経過すると少量の上澄みが見られたが、リンゴピューレジュースを30容積%以上入れた7−2,7−3,7−4では、120分経過時点で分離は見られなかった。その一方で、リンゴピューレジュースの配合量が70容積%となった7−4の配合例では、流動性の低いリンゴピューレの配合割合が高いためにジュース全体としての流動性も低くなり、ジュースとしての飲みやすさに劣るものであった。なお、実際にジュースを提供する場合の状況を考慮すると、ジューススタンド等で販売されているジュースは消費者への提供後数分〜数十分程度で飲み干されることが多いため、消費者へ提供した後60分以上静置されるという状況は実際には殆ど起こらず、7−1の配合例も実用上問題ないレベルの分離であると考えられる。
【0083】
次いで、
図10にはスイカピューレジュースとイチゴピューレジュースとを混合した場合の分離性試験の結果が示されている。同図に示されたように、イチゴピューレジュースとスイカピューレジュースとを用いた配合例では、イチゴピューレジュースの配合割合が10〜70容積%のいずれの割合であっても120分経過時点までで分離が生じず、非常に分散性に優れ安定したものであった。これは、加水した場合(
図5参照)と同様にイチゴピューレジュースの高い分散性によるものであると考えられる。その一方で、イチゴピューレジュースの配合量が70容積%となった8−4の配合例では、流動性の低いイチゴピューレの配合割合が高いためにジュース全体としての流動性も低くなり、ジュースとしての飲みやすさに劣るものであった。
【0084】
次に、
図11にはパイン、キウイ、イチゴ、スイカのピューレジュース混合した場合の分離性試験の結果が示されている。同図に示された例では、分散安定性ピューレ(イチゴ、キウイ)の配合量が50容積%以上の例において安定した分散性が認められた。安定に必要な分散安定性ピューレの配合量が
図9,10の例と大きく異なる理由は定かではないが、
図9,10の配合例では2種類のピューレジュースを混合しているのに対して、9−1〜9−4の配合例では3種類のピューレジュースを混合しているためこの影響である可能性も考えられる。また、非分散安定性ピューレであるパインピューレジュースとスイカピューレジュースのみを混合した9−5の配合例では、早い時点から明確な分離が見られた。なお飲みやすさについては、2種類のピューレジュースを配合した場合と同様に、分散安定性ピューレの配合割合が70容積%を超えると飲みにくくなるものであった。
【0085】
<実施例5:色差評価>
次に、各単品ピューレジュースの色差の測定を行い、各単品ピューレジュースの測定結果が
図13に、ミックスジュースの測定結果が
図14にそれぞれ示されている。なおここで、
図14におけるミックスジュース1〜4はそれぞれ
図12に示す重量比でピューレジュースを混合したものである。両
図12,13に示されるように、いずれのジュースもジュースとして好ましい色合いであった。
【0086】
<実施例6:粘度測定>
次に、幾つかのミックスピューレジュース、単品ピューレジュース、単品果実ジュースについて粘度を測定した結果が
図15〜18に、それらから得られた各ジュースの粘度が
図19にそれぞれ示されている。なお、
図15〜19において、ブルーベリー、パイン、リンゴ、イチゴ(あまおう)はそれぞれ前述の手法で作成された単品ピューレジュースであり、ミックス5,6は
図12に示された割合で単品ピューレジュースを混合したミックスピューレジュース、市販オレンジは市販のオレンジジュース(果実ジュースに相当)である。
【0087】
分散安定性を有しないジュースは、パインピューレジュース(12−4)の粘度が9.3mPa・s、市販オレンジジュース(12−7)の粘度が7mPa・sといずれも非常に低い値であり、さらっとした液性であることがわかった。なお、パインピューレジュースと市販オレンジジュースについては、粘度が低すぎてあまり正確な測定が行えなかったために、実際の数値とはやや誤差があるものと考えられる。
【0088】
一方、分散安定性を有するジュースは、ミックスピューレジュース5(12−1)の粘度が233〜303mPa・s、ミックスピューレジュース6(12−2)の粘度が67〜106mPa・s、ブルーベリーピューレジュース(12−3)の粘度が310〜558mPa・s、リンゴピューレジュース(12−5)の粘度が2500〜3966mPa・s、イチゴピューレジュース(12−6)の粘度が1808〜2683mPa・sと、いずれも分散安定性を有しないジュースと比べるとはるかに粘度が高いことがわかる。
【0089】
これらの結果から、粘度が高いピューレジュースは分散安定性を有し、目安としては粘度が50〜60mPa・s以上であると安定していると考えられる。一方、粘度が低いジュースは分散安定性を有しないことが多いが、グレープフルーツピューレジュースはパインピューレジュースやオレンジジュースと同程度の粘性でありながら高い分散安定性を有することを考慮すると、粘度が低いピューレジュースであってもピューレジュース内に柔軟性のある繊維を含むものであれば分散安定性を有するものであると認められる。なお、本実施例において幾つかのピューレジュースで粘度の測定結果に幅があるのは、液中に含まれる果実等により部分毎に粘度の偏りがあるためだと考えられる。