(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
まずデュプレクサを用いるモジュールについて説明する。
図1はモジュール1000を例示する回路図である。
図1に示すように、モジュール1000は、アンテナ10及び20、スイッチ12及び22、4つのフィルタ16、4つのデュプレクサ26、4つのパワーアンプ(Power Amplifier:PA)30及びIC(Integrated Circuit:集積回路)32を備える。デュプレクサ26は受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bを含む。IC32はローノイズアンプ(Low Noise Amplifier:LNA)32a及び32bを含む。
【0015】
フィルタ16は受信フィルタであり、一端は入力端子14を介してスイッチ12と接続され、他端は出力端子18を介してLNA32aと接続されている。受信フィルタ26a及び送信フィルタ26bそれぞれの一端はアンテナ端子24に共通して接続され、アンテナ端子24を介してスイッチ22と接続されている。受信フィルタ26aの他端は受信端子28aを介してLNA32bと接続されている。送信フィルタ26bの他端は送信端子28bを介してPA30と接続されている。
【0016】
アンテナ10及び20はRF(Radio Frequency)信号を受信及び送信する。スイッチ12は、4つのフィルタ16から1つを選択し、アンテナ10と接続する。フィルタ16は、アンテナ10が受信した受信信号をフィルタリングし、LNA32aは受信信号を増幅する。IC32は受信信号をダウンコンバートしベースバンド信号とする。スイッチ22は、4つのデュプレクサ26から1つを選択し、アンテナ20と接続する。受信フィルタ26aはアンテナ20が受信した受信信号をフィルタリングする。LNA32bは受信信号を増幅する。IC32はベースバンド信号をアップコンバートし送信信号を生成する。PA30は送信信号を増幅し、送信フィルタ26bは送信信号をフィルタリングする。アンテナ20は送信信号を送信する。
【0017】
デュプレクサ26の通過帯域は、フィルタ16の通過帯域と異なる周波数に位置する。受信フィルタ26aの通過帯域は、送信フィルタ26bの通過帯域と異なる周波数に位置する。
【0018】
図2(a)はモジュール1000を例示する上面図である。
図2(b)は
図2(a)の線A−Aに沿った断面図である。
図2(a)においてはリッド42を透視している。
【0019】
図2(a)及び
図2(b)に示すように、デュプレクサ26はパッケージとして形成され、1つの基板40に実装されている。リッド42はデュプレクサ26の上面に接している。なお、フィルタ16もデュプレクサ26と共に、基板40及びリッド42に挟まれてもよい。基板40は、後述するように例えば多層基板とすることができる。リッド42は例えばコバールなどの金属、又は樹脂などの絶縁体、又はそれらの複合体により形成されている。以下、1つのデュプレクサ26に注目し、構成及び周波数特性について説明する。
【0020】
図3(a)はデュプレクサ26を例示する回路図である。
図3(a)に示すように、送信フィルタ26bは直列共振器S1〜S3、並列共振器P1及びP2を含むラダー型フィルタである。直列共振器S1〜S3はアンテナ端子24と送信端子28bとの間に直列接続されている。並列共振器P1の一端はS1〜S2間ノードに接続され、他端は接地されている。並列共振器P2の一端はS2〜S3間ノードに接続され、他端は接地されている。受信フィルタ26aは直列共振器S4〜S6、並列共振器P3及びP4を含むラダー型フィルタである。受信フィルタ26aにおける共振器は送信フィルタ26bと同様に接続されている。
【0021】
共振器S1〜S6及びP1〜P4(以下、共振器)は例えば弾性表面波(SAW)共振器である。
図3(b)はSAW共振器を例示する平面図である。
図3(b)に示すように、圧電基板45の上面にIDT(Interdigital Transducer)46及び反射器47が設けられている。IDT46は対向する櫛型電極46a及び46bを含み、弾性表面波を励振する。反射器47はIDT46に向けて弾性表面波を反射する。圧電基板45は例えばタンタル酸リチウム(LiTaO
3)又はニオブ酸リチウム(LiNbO
3)などの圧電体により形成されている。IDT46及び反射器47は例えばアルミニウム(Al)などの金属により形成されている。
【0022】
図4(a)はデュプレクサ26の等価回路を例示する図である。各共振器はインダクタL1、キャパシタC1及びC2を含む。インダクタL1及びキャパシタC1は直列接続されている。キャパシタC2は、インダクタL1及びキャパシタC1に並列接続されている。
【0023】
良好な周波数特性を得るためには、インピーダンス整合を取ることが求められる。例えば、受信フィルタ26aは送信フィルタ26bの通過帯域において例えば無限大のように高いインピーダンスを有し、送信フィルタ26bは受信フィルタ26aの通過帯域において高いインピーダンスを有することが好ましい。アンテナ20から見たデュプレクサ26のインピーダンスは例えば50Ωであることが好ましい。
【0024】
デュプレクサ26のインピーダンスのシミュレーションを行った。受信フィルタ26aの通過帯域は1960MHzを含み、送信フィルタ26bの通過帯域は1880MHzを含むとした。
図4(b)はデュプレクサ26のアンテナ端子24から見たインピーダンスを例示するスミスチャートである。所望のインピーダンスである50Ωは
図4(b)のスミスチャートのほぼ中央に位置する。一点鎖線の円A1は通過帯域におけるインピーダンスを示す。円A1に示すように、デュプレクサ26のインピーダンスは50Ωから外れる。共振器が容量として機能し、アンテナ20から見たデュプレクサ26のインピーダンスが容量性となるためである。
【0025】
インピーダンス整合を行うために、例えばアンテナ端子24とデュプレクサ26との間にインダクタなどの整合素子を接続することがある。しかし、整合素子を用いても適切なインピーダンス整合を取れないことがある。以下、このような例を説明する。
【0026】
図5(a)はデュプレクサ26を例示するブロック図である。
図5(a)に示すように、アンテナ端子24とデュプレクサ26との間に、インピーダンス部21が接続されている。インピーダンス部21は、例えばデュプレクサ26とアンテナ20とを接続する配線により生成される。例えば長さ2mmの配線が50Ωのインピーダンスを有するとして、シミュレーションを行った。
図5(b)はデュプレクサ26のアンテナ端子24から見たインピーダンスを例示するスミスチャートである。
図5(b)の矢印に示すように、デュプレクサ26のインピーダンスは
図4(b)の円A1から円A2の位置まで回転する。インピーダンス部21が接続されているためである。
【0027】
図6(a)はシャントインダクタを接続したデュプレクサ26を例示するブロック図である。インピーダンス部21aとインピーダンス部21bとの間にインダクタL2の一端が接続されている。これは、
図5(a)のインピーダンス部21を生成する配線の途中に、インダクタL2を接続したことに対応する。例えばインピーダンス部21a及び21bはそれぞれ長さ1mmの配線に対応し、50Ωを有する。インダクタL2の他端は接地されている。インダクタL2はアンテナ端子24とデュプレクサ26とのインピーダンスを整合するシャントインダクタとして機能する。送信フィルタ26bと送信端子28bとの間のノードにインダクタL3の一端が接続され、インダクタL3の他端は接地されている。インダクタL3は送信端子28b側のインピーダンスを整合する。インダクタL2のインダクタンス値は3.5nH、インダクタL3のインダクタンス値は26nHとして、インピーダンスのシミュレーションを行った。
【0028】
図6(b)はデュプレクサ26のアンテナ端子24から見たインピーダンスを例示するスミスチャートである。
図6(b)の円A3に示すように、インピーダンスは50Ωより低い。すなわち、
図5(b)の円A2で表したインピーダンスが、インダクタL2により矢印の方向に回転し円A3に達する。このように、インダクタL2によりインピーダンスを円A2から50Ωとすることは困難であり、インピーダンスは円A3のように50Ωから外れる。
【0029】
図7(a)はインピーダンス部21を介さずにインダクタL2をデュプレクサ26と接続する例を示すブロック図である。
図7(a)に示すように、デュプレクサ26とインピーダンス部21との間のノードにインピーダンス部23の一端が接続されている。インダクタL2の一端はインピーダンス部23の他端に接続され、インダクタL2の他端は接地されている。インピーダンス部23は、例えばデュプレクサ26とインダクタL2とを接続する長さ2mmの配線により生成され、50Ωを有する。インダクタL2のインダクタンス値は2.6nHとしてシミュレーションを行った。
【0030】
図7(b)はデュプレクサ26のアンテナ端子24から見たインピーダンスを例示するスミスチャートである。
図7(b)の円A4に示すように、インピーダンスはスミスチャートのほぼ中央、つまり50Ωになる。インピーダンス部21を介さずに、デュプレクサ26がインダクタL2に接続される。このため、
図5(b)に示したようなインピーダンスの変化が抑制される。すなわち、
図4(b)の円A1に位置するインピーダンスを、インダクタL2により矢印の方向に回転させる。この結果、
図7(b)に示すようなインピーダンス整合が可能となる。以上の知見に基づく実施例について説明する。
【実施例1】
【0031】
実施例1は基板50を用いる例である。
図8は実施例1に係るモジュール100を例示する断面図である。
図9(a)は基板50の絶縁層51を例示する平面図である。
図9(b)は絶縁層52を例示する平面図である。
図10(a)は絶縁層53を例示する平面図である。
図10(b)は絶縁層53を透視した平面図である。なお、基板50には、
図1に示したような複数のデュプレクサ及びフィルタが実装されている。1つのデュプレクサに注目して説明する。
【0032】
図8に示すように、モジュール100は基板50、デュプレクサ60、チップ部品62及び64を備える。基板50は、多層基板50aとプリント基板50bとを貼り合わせたものである。
図8から
図10(b)に示すように、多層基板50aは、絶縁層51、52、及び53、導体層54、55、56及び57を含む。上から順に絶縁層51〜53が積層されている。絶縁層51の上面に導体層54が設けられ、絶縁層51及び52間に導体層55が設けられている。絶縁層52及び53間に導体層56、絶縁層53の下面に導体層57が設けられている。絶縁層53の下面にプリント基板50bが接着されている。
図8に示すように、プリント基板50bの下面に導体層58が設けられている。
【0033】
図8に示すように、導体層54はアンテナパッド54a、パッド54b及び54c、並びに複数の接地パッド54dを含み、さらに不図示の受信パッド及び送信パッドを含む。
図8及び
図9(b)に示すように、導体層55はアンテナ配線55a(第1配線)、送信配線55b、及び受信配線55cを含む。
図8及び
図10(a)に示すように、導体層56は配線56a(第2配線)を含む。
図10(b)に示すように、導体層57はベタパターンであり、接地端子として機能する。
【0034】
導体層間は、絶縁層を厚さ方向に貫通するビア配線59により電気的に接続されている。導体層54のアンテナパッド54aは、ビア配線59を介して、導体層55のアンテナ配線55a、及び導体層56の配線56aと接続されている。アンテナ配線55aはスイッチを介してアンテナと接続される。なおスイッチ及びアンテナは
図8から
図10(b)では図示していない。配線56aは、ビア配線59を介して導体層54のパッド54bと接続されている。パッド54cは送信配線55bを介して不図示のICと接続される。受信配線55cはICと接続される。接地パッド54dは導体層57と接続されている。
【0035】
図8及び
図9(a)に示すように、デュプレクサ60はパッケージとして形成されており、基板50にフリップチップ実装されている。なお、デュプレクサ60が備える受信フィルタ及び送信フィルタは例えばSAWフィルタである。デュプレクサ60の下面には、アンテナパッド60a、送信パッド60b、受信パッド60c、及び6つの接地パッド60dが設けられている。これらの端子は半田バンプ61を介して導体層54と電気的に接続されている。アンテナパッド60aは導体層54のアンテナパッド54a、送信パッド60bは導体層54の送信パッドと接続されている。受信パッド60cは導体層54の受信パッドと接続されている。接地パッド60dは導体層54の接地パッド54dと接続されている。なお、アンテナパッド60aは
図1に示したアンテナ端子24、送信パッド60bは送信端子28b、受信パッド60cは受信端子28aにそれぞれ対応する。
【0036】
チップ部品62は
図7(a)に示したインダクタL2を含み、チップ部品64はインダクタL3を含む。チップ部品62及び64は半田63を介して導体層54と電気的に接続されている。チップ部品62の一端はパッド54bと接続され、他端は接地パッド54dと接続されている。チップ部品64の一端はパッド54cと接続され、他端は接地パッド54dと接続されている。
【0037】
アンテナパッド54aに2つの配線(アンテナ配線55a及び配線56a)が接続されている。配線56aはビア配線59を介してアンテナ配線55aと接続されており、例えばアンテナ配線55aの途中から分岐するような配線ではない。従って、デュプレクサ60はアンテナ配線55aを介さずに、チップ部品62と接続される。アンテナ配線55aは
図7(a)のインピーダンス部21に対応し、配線56aはインピーダンス部23に対応する。つまりモジュール100は
図7(a)と同様の構成を有する。従って、実施例1によれば、
図7(b)に示したようなインピーダンス整合が可能となる。
【0038】
次に比較例について説明する。
図6(a)に対応するモジュールが多層基板を用いて形成されている。
図11(a)は比較例における絶縁層52Rを例示する平面図である。
図11(b)は絶縁層53Rを例示する平面図である。
【0039】
図11(a)に示すように、導体層55Rは、アンテナ配線55d及び配線55eを備える。配線55eはアンテナ配線55dに接続され、アンテナ配線55dから分岐している。
図11(b)に示すように、導体層56Rは配線56aを備えていない。デュプレクサ60のアンテナパッド60aは、アンテナパッド54a及びビア配線59を介してアンテナ配線55dと接続されている。チップ部品62の一端は、パッド54b及びビア配線59を介して配線55eと接続されている。
【0040】
アンテナ配線55dは
図6(a)のインピーダンス部21と対応する。アンテナ配線55dから分岐する配線55eがチップ部品62に接続されている。つまりデュプレクサ60は、アンテナ配線55dの一部を介してチップ部品62と接続されている。このことは、
図6(a)のように、インピーダンス部21bを介してインダクタL2が接続されることに対応する。従って、モジュール100Rでは、
図6(b)のようにインピーダンス整合が困難となる。
【0041】
モジュール100のアンテナ配線55aと配線56aとは基板50内の異なる導体層に設けられている。アンテナ配線55aと配線56aとが、基板50の厚さ方向において重なる。配線を引き回す面積を小さくすることができるため、モジュール100の小型化が可能となる。デュプレクサ60はフリップチップ実装され、インダクタL2及びL3はチップ部品である。従ってモジュール100を効果的に小型化することができる。
【0042】
絶縁層51〜53は例えば低温同時焼成セラミック(Low Temperature Co-fired Ceramics:LTCC)などの絶縁体により形成されている。導体層54〜57及びビア配線59は例えば銅(Cu)などの金属により形成されている。例えば絶縁層51〜53をガラスエポキシなどの樹脂により形成してもよい。なお
図2(b)に示したように、リッドを設けてもよい。
【実施例2】
【0043】
実施例2は同一の導体層に配線を設ける例である。
図12(a)は絶縁層52を例示する平面図である。
図12(b)は絶縁層53を例示する平面図である。
【0044】
図12(a)に示すように、導体層55はアンテナ配線55a及び配線55fを備える。アンテナ配線55a及び配線55fは、複数のビア配線59のうち1つのビア配線59aを介して導体層54のアンテナパッド54aに接続されている。つまりアンテナ配線55a及び配線55fはビア配線59aから延びる。ただし、配線55fはアンテナ配線55aと交叉しない。配線55fは、ビア配線59及びパッド54bを介してチップ部品62の一端に接続されている。このため、デュプレクサ60はアンテナ配線55aを介さずにチップ部品62に接続される。配線55fは
図7(a)のインピーダンス部23に対応する。すなわち、実施例2によればインピーダンス整合が可能となる。
図12(b)に示すように、導体層56は配線56aを備えていない。
【0045】
デュプレクサ60はSAWフィルタ以外に、例えば弾性境界波フィルタ、ラブ波フィルタ、圧電薄膜共振器(Film Bulk Acoustic Wave:FBAR)フィルタなどの弾性波フィルタを含んでもよい。
図4(a)に示すように、IDTを備える弾性波フィルタは容量として機能する。従って、インダクタL2を接続することで、インピーダンス整合を取ることが重要となる。
【0046】
チップ部品62及び64はインダクタ以外に、例えばキャパシタ及び抵抗など、他の受動素子を含んでもよい。所望のインピーダンスが得られるようなチップ部品を用いればよい。基板50が備える絶縁層及び導体層の数は変更可能である。また一層の基板を用いてもよい。例えば一層の基板の上面に、実施例2のようにアンテナ配線55aと配線55fとを設けてもよい。これによりモジュールの構成が単純化するため、低コスト化が可能である。デュプレクサ60は例えば基板50の内部に埋め込まれてもよい。
【0047】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。