(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
繊維形成能を有する有機高分子材料からなる繊維形成剤を含む第1液と、繊維形成能を有する有機高分子材料からなる粒子分散補助剤及び粒子を含む第2液とを、それぞれ別のノズルから同時に吐出させ、吐出した状態下にエレクトロスピニング法によって、第1液から形成されるナノファイバ、並びに第2液に含まれる前記粒子分散補助剤及び前記粒子を含有する繊維構造体を生成させ、
生成した前記繊維構造体中に含まれる前記粒子分散補助剤を除去し、前記ナノファイバ間に前記粒子が分散した状態で保持されてなるナノファイバ構造体を得る、ナノファイバ構造体の製造方法。
繊維形成性粒子からなる繊維形成剤及び繊維形成能を有する有機高分子材料からなる繊維形成助剤を含む第1液と、繊維形成能を有する有機高分子材料からなる粒子分散補助剤及び粒子を含む第2液とを、それぞれ別のノズルから同時に吐出させ、吐出した状態下にエレクトロスピニング法によって、第1液から形成されるナノファイバ、並びに第2液に含まれる前記粒子分散補助剤及び前記粒子を含有する繊維構造体を生成させ、
生成した前記繊維構造体中に含まれる前記粒子分散補助剤を除去し、前記ナノファイバ間に前記粒子が分散した状態で保持されてなるナノファイバ構造体を得る、ナノファイバ構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本発明の製造方法の目的物であるナノファイバ構造体は、ナノファイバの集合体から構成されたシート状のものである。したがって、以下の説明においては、ナノファイバ構造体のことをナノファイバシートとも言う。ナノファイバシートにおいては、ナノファイバ間に粒子が保持されている。「ナノファイバ間に粒子が保持されている」とは、複数本のナノファイバ間に形成される空間内に粒子が位置し、該ナノファイバによって該粒子の移動が阻止されている状態をいう。したがって例えば、結合剤として機能する物質を介して粒子の表面とナノファイバとが結合している状態は「ナノファイバ間に粒子が保持されている」に該当しない。粒子はそのすべてがナノファイバ間に保持されていることが最も望ましいが、本発明の効果を損なわない範囲において、一部の粒子が結合剤等を介してナノファイバと結合していてもよい。ナノファイバ間に粒子が保持されているか否かは、例えばナノファイバシートを顕微鏡観察することで確認できる。
【0012】
粒子は、ナノファイバシートの面方向の全域にわたり、ほぼ均一に分散されている。厚み方向に関しては、厚み方向の全域にわたり、粒子はほぼ均一に分散されているか、又は厚み方向の所定の部位に存在している。例えば、粒子は厚み方向の中央域に偏在していてもよい。
【0013】
粒子は、その表面のほぼ全域が露出した状態になっている。換言すれば、粒子の表面は、該粒子を構成する物質と異なる物質で被覆されていない。粒子はそのすべてが、表面が露出した状態になっていることが最も望ましいが、本発明の効果を損なわない範囲において、一部の粒子の表面が、該粒子を構成する物質と異なる物質で被覆されていてもよい。粒子の表面が露出しているか否かは、例えばナノファイバシートを顕微鏡観察することで確認できる。あるいは、粒子の表面について元素マッピングを行うことによって確認できる場合もある。
【0014】
ナノファイバシート内において、粒子は凝集しておらず、ほぼ単分散の状態で存在していることが好ましい。単分散とは粒子がその一次粒子の状態で存在しており、複数の粒子が凝集してなる凝集体となっていないことをいう。粒子が単分散の状態になっていることと、粒子表面が露出していることによって、露出した粒子の表面積が大きくなり、粒子が有する表面特性が十分に発揮される。
【0015】
ナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(ナノファイバの塊、ナノファイバの交差部分、ポリマー液滴)を除き、繊維(ナノファイバ)を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に対して直交する線を引き、その繊維径を直接読み取ることで測定することができる。ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、ナノファイバの製造方法に応じた長さのものを用いることができる。ナノファイバは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
ナノファイバを構成する材料としては、ナノファイバシートの具体的な用途に応じて適切なものを選択することができる。そのような材料の例としては、水溶性の有機高分子材料、水不溶性の有機高分子材料、無機材料などが挙げられる。これらの詳細については、後述する第1液に含まれる繊維形成剤についての説明が適用される。
【0017】
ナノファイバ間に保持される粒子の大きさは、ナノファイバシートの具体的な用途に応じて適切に選択される。一般に、粒子の粒径の下限値は0.1μmであることが好ましく、1μmであることが一層好ましい。上限値は100μmであることが好ましく、50μmであることが更に好ましく、15μmであることが一層好ましい。例えば粒子の粒径は0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上50μm以下であることが更に好ましく、1μm以上15μm以下であることが一層好ましい。粒子の粒径は、例えば、電子顕微鏡による画像処理法、レーザー回折・散乱法等によって測定することができる。
【0018】
粒子の形状も、ナノファイバシートの具体的な用途に応じて適切に選択される。粒子の形状としては、例えば球状のものが一般的であるが、これ以外の形状、例えば多面体状、紡錘状、板状、鱗片状など種々の形状のものを用いることもできる。また、粒子は中実のものでもよく、あるいは中空のものでもよい。更に、オープンセル構造又はクローズドセル構造の多孔質のものでもよい。
【0019】
粒子の粒径は、ナノファイバの太さより大きくてもよく、あるいはナノファイバの太さより小さくてもよい。粒子の粒径とナノファイバの太さとが同一であってもよい。ナノファイバ間に粒子を確実に保持する観点からは、粒子の粒径は、ナノファイバの太さより大きいことが有利である。特に、粒子の粒径は、ナノファイバの太さの0.8倍以上であることが好ましく、1倍以上であることが更に好ましい。上限値は500倍以下であることが好ましく、100倍以下であることが更に好ましい。例えば粒子の粒径は、ナノファイバの太さの0.8倍以上500倍以下、とりわけ1倍以上100倍以下であることが好ましい。粒子の粒径それ自体の値は、先の述べたとおり0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上50μm以下であることが更に好ましく、1μm以上15μm以下であることが一層好ましい。粒子の粒径は、例えば、電子顕微鏡による画像処理法、レーザー回折・散乱法等によって測定することができる。
【0020】
粒子を構成する材料としては、ナノファイバシートの具体的な用途に応じて適切なものを選択することができる。そのような材料の例としては、有機高分子材料や、無機材料などが挙げられる。粒子は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
粒子を構成する有機高分子材料としては、例えばシリコーン樹脂、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチルなどが挙げられる。
【0022】
粒子を構成する無機材料としては、タルク、雲母、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト及びイライト等の粘土鉱物を用いることができる。また、アルミナ等の金属酸化物焼結体や、炭酸カルシウム等の無機化合物を用いることができる。更に周期表の第8族、第9族、第10族及び第11族の元素からなる貴金属、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、マイカ等を用いることができる。これに加えて、各種の水不溶性顔料を用いることもできる。
【0023】
ナノファイバシートにおける粒子の占める割合は、ナノファイバシートの用途にもよるが、一般にその下限値が5質量%であることが好ましく、20質量%であることが更に好ましい。上限値は80質量%であることが好ましく、50質量%であることが更に好ましい。例えば5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることが更に好ましい。
【0024】
ナノファイバシートの厚みは、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの肌に付着させるために用いる場合には、ナノファイバシートの厚みは、その下限値が50nmであることが好ましく、500nmであることが更に好ましい。上限値は1mmであることが好ましく、500μmであることが更に好ましい。ナノファイバシートの厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用して測定できる。測定時にシートに加える荷重は0.01Nとする。
【0025】
ナノファイバシートの坪量も、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの肌に付着させるために用いる場合には、ナノファイバシートの坪量は、その下限値が0.01g/m
2であることが好ましく、0.1g/m
2であることが更に好ましい。上限値は100g/m
2であることが好ましく、50g/m
2であることが更に好ましい。
【0026】
ナノファイバシートにおいて、ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又はナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、ナノファイバシートは、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバシートの製造条件等によって相違する。
【0027】
ナノファイバシートは、それ単独で用いることもでき、あるいは他のシート材料や他のナノファイバシートと積層して用いることもできる。
【0028】
以上の構成を有するナノファイバシートの好適な製造方法について以下に説明する。本製造方法においては、エレクトロスピニング法(電界紡糸法)よってナノファイバシートを製造する。
図1には、エレクトロスピニング法を実施するために本製造方法で好適に用いられる装置の一例が模式的に示されている。同図に示す装置1は、第1吐出装置10及び第2吐出装置20を備えている。更に装置1は、高電圧源30及び導電性コレクタ40を備えている。第1吐出装置10は、シリンダ11、ピストン12及びノズル13を備えている。同様に、第2吐出装置20は、シリンダ21、ピストン22及びノズル23を備えている。第1吐出装置10と第2吐出装置20とは、その形状や寸法が同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。ノズル13,23の内径はそれぞれ独立に400〜1200μm程度である。この内径は、後述する第2液に含まれる粒子の粒径よりも大きく設定されている。高電圧源30は、例えば10〜40kVの直流電圧源である。高電圧源30の正極は第1及び第2吐出装置10,20における第1液及び第2液と導通している。高電圧源30の負極は接地されている。導電性コレクタ40は、例えば金属製の板であり、接地されている。第1及び第2吐出装置10,20におけるノズル13,23の先端と導電性コレクタ40との間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定されている。ノズル13,23からの液の吐出量は、その下限値が好ましくは0.1ml/h、更に好ましくは0.5ml/hである。上限値は20ml/hであることが好ましく10ml/hであることが更に好ましい。
図1に示す装置1は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、例えば温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。第1吐出装置10を用いたエレクトロスピニング法の実施条件と、第2吐出装置20を用いたエレクトロスピニング法の実施条件とは、同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0029】
第1吐出装置10のシリンダ11内には第1液が充填される。一方、第2吐出装置20のシリンダ21内には第2液が充填される。第1液は繊維形成剤を含む液である。第2液は粒子分散補助剤及び粒子を含む液である。第1液は、繊維形成剤からなるナノファイバを形成するために用いられる。第2液は、ナノファイバシート内に粒子を分散保持させるために用いられる。粒子分散補助剤が繊維形成能を有する物質である場合には、第2液から粒子分散補助剤及び粒子を含む繊維が形成される。
【0030】
第1液及び第2液をエレクトロスピニング法に付すことで、第1液から形成されるナノファイバと、第2液に含まれる粒子とを含む繊維構造体が形成される。粒子分散補助剤が繊維形成能を有する物質である場合には、第1液から形成されるナノファイバと、第2液から形成される繊維とが混在した繊維構造体が形成される。エレクトロスピニング法を行う場合には、第1吐出装置10及び第2吐出装置20と導電性コレクタ40との間に電圧を印加した状態下に、第1吐出装置10及び第2吐出装置20のピストン12,22を徐々に押し込み、ノズル13,23の先端から第1液及び第2液を押し出す。押し出された第1液及び第2液においては、液媒体が揮発するとともに、残存した成分が繊維化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバを形成し、導電性コレクタ40に引き寄せられる。
【0031】
このようにして形成された繊維構造体の一例を
図2(a)に模式的に示す。同図は、粒子分散補助剤として繊維形成能を有する物質を用いた場合に得られる繊維構造体の例である。同図中、符号50は繊維構造体を示す。符号60は、第1液から形成されるナノファイバを示す。符号70は、第2液から形成される繊維を示す。ナノファイバ60は、第1液に含まれている繊維形成剤から構成されている。繊維70は、第2液に含まれている繊維形成能を有する粒子分散補助剤から構成されている。第2液に含まれている粒子71は、繊維70に保持されている。粒子71は、繊維70を構成する粒子分散補助剤によってその表面が被覆されている。つまり繊維70は、粒子71を保持した複合繊維となっている。
【0032】
繊維構造体50は、目的とするナノファイバシートの前駆体である。この繊維構造体50を後処理に付して、第2液から形成される繊維70中に含まれる粒子分散補助剤を除去する。この除去によって、
図2(b)に示すとおり、目的とするナノファイバシート80が得られる。このナノファイバシート80は、第1液から形成されるナノファイバ60の間に、第2液に含まれていた粒子71が保持された状態になっている。
【0033】
粒子分散補助剤の除去には、該粒子分散補助剤の種類に応じて適切な方法が採用される。粒子分散補助剤が例えば水溶性である場合には、繊維構造体50を水洗処理することで、粒子分散補助剤が水に溶解して除去されて繊維70が消失し、粒子71が残存する。この場合、ナノファイバ60及び粒子71は水不溶性であることが条件となる。粒子分散補助剤の水への溶解を促進するために水中に浸漬した繊維構造体50に超音波を照射してもよい。
【0034】
粒子分散補助剤が酸化除去可能である場合には、繊維構造体50を熱処理することで、粒子分散補助剤を酸化除去して繊維70を消失させ、粒子71を残存させる。この場合、ナノファイバ60及び粒子71は、酸化除去不可能であることが条件となる。熱処理は、例えば大気雰囲気下に繊維構造体50を加熱して、粒子分散補助剤を熱分解及び揮発させることで行うことができる。加熱温度及び加熱時間は、粒子分散補助剤の種類に応じて適切に設定される。
【0035】
エレクトロスピニング法を行うに際しては、第1液及び第2液から形成されるナノファイバ60及び繊維70が、繊維構造体50中で併存するようにこれらの液の吐出を行う。第1液から形成されるナノファイバ60と、第2液から形成される繊維70との併存の態様には、(イ)ナノファイバ60と繊維70とが、繊維構造体50中で均一に混在する態様、及び(ロ)ナノファイバ60の層と繊維70の層とが交互に積層されるように両者が併存する態様が挙げられる。
【0036】
(イ)の併存態様の繊維構造体50を得るためには、第1液と第2液とを同時に吐出した状態下にエレクトロスピニング法を行えばよい。
【0037】
(ロ)の併存態様の繊維構造体50を得るためには、(a)第1液及び第2液のうち、一方の液を吐出してエレクトロスピニング法を行った後に、(b)他方の液を吐出してエレクトロスピニング法を行うという操作を順次繰り返せばよい。一方の液を吐出している間は他方の液の吐出は行わず、同様に他方の液を吐出している間は、一方の液の吐出は行わない。(a)の操作と(b)の操作とを繰り返す場合、繰り返しの最初と、繰り返しの最後は、第1液の吐出を行うことが好ましい。すなわち、エレクトロスピニング法を行う工程における少なくとも最初と最後に、少なくとも第1液を吐出することが好ましい。例えば、第1液の吐出を行い、次いで第2液の吐出を行い、更にその後に第1液の吐出を再び行うことが好ましい。こうすることで、
図3(a)に示すとおり、ナノファイバ60からなる2つの層60A,60Bの間に繊維70からなる層70Aが配置された構造の繊維構造体50が得られる。このような構造の繊維構造体50を後処理して得られるナノファイバシート80は、
図3(b)に示すとおり、ナノファイバ60からなる2つの層60A,60Bの間に、粒子71が保持された状態となるので、ナノファイバシート80からの粒子71の脱落が一層起こりにくくなるという利点を有する。
【0038】
上述した
図2(a)及び
図3(a)に示す繊維構造体50の構造は、粒子分散補助剤として繊維形成能を有する物質を用いた場合の例である。これに対して、粒子分散補助剤として、粒子の分散性を高める働きは有するが、繊維形成能は有さない物質を用いた場合には、繊維70は形成されず、粒子71の表面が粒子分散補助剤に被覆された状態で、ナノファイバ60間に分散配置された繊維構造体が得られる。
【0039】
以上の方法で用いられる第1液及び第2液の詳細について以下に説明する。
【0040】
第1液に含まれる繊維形成剤としては、例えば繊維形成能を有する有機高分子材料が用いられる。この有機高分子材料は、水溶性のものでもよく、あるいは水不溶性のものでもよい。繊維形成剤として水溶性有機高分子材料を用いる場合には、第1液は、水溶性有機高分子材料が水に溶解してなる水溶液の状態になっている。繊維形成剤として水不溶性有機高分子材料を用いる場合には、第1液は、水不溶性有機高分子材料の溶解が可能な溶媒に該水不溶性有機高分子材料が溶解してなる溶液の状態になっている。水不溶性有機高分子材料として、ナノファイバ形成後の処理によって水不溶性となる水溶性有機高分子材料を用いてもよい。そのような材料を用いる場合には、第1液は水溶液の状態になっている。
【0041】
繊維形成剤として用いられる水溶性有機高分子材料としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコ オリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分ケン化ポリビニルアルコール(架橋剤と併用しない場合)、低ケン化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などの水溶性有機高分子材料が挙げられる。これらの水溶性有機高分子材料は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
繊維形成剤として用いられる水不溶性有機高分子材料としては、例えばポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性有機高分子材料を用いる場合には、その溶解に適した有機溶媒が併用される。そのような有機溶媒と水不溶性有機高分子材料との組み合わせとしては、例えばポリ乳酸とクロロホルムの組み合わせや、オキサゾリン変性シリコーンとエタノールとの組み合わせや、ツエイン、ポリビニルブチラール等とエタノールとの組み合わせ等が挙げられる。
【0043】
ナノファイバ形成後の処理によって水不溶性となる水溶性有機高分子材料としては、ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全ケン化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分ケン化ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0044】
繊維形成剤として、上述した各種の繊維形成能を有する有機高分子材料を用いる場合、第1液における該有機高分子材料の濃度は3〜50質量%とすることが好ましい。
【0045】
上述した各種の繊維形成能を有する有機高分子材料以外に、繊維形成剤として、互いに結合可能な粒子(以下、この粒子のことを、ナノファイバシートに保持される前記粒子71と区別するために、「繊維形成性粒子」ともいう。)の集合物からなる粉体を用いることもできる。そのような粉体としては、有機物及び無機物のいずれをも用いることができる。有機物の例としては、水不溶性の合成樹脂が挙げられる。無機物の例としては、金属又は半金属の水不溶性の酸化物が挙げられる。
【0046】
水不溶性の合成樹脂としては、該合成樹脂からなる粒子どうしが融着によって結合して三次元構造体の形成が可能なものが好適に用いられる。例えば樹脂エマルションの造膜作用を利用して、粒子どうしが融着して結合可能なものが好適に用いられる。ガラス転移点の低い合成樹脂の場合、積極的に加熱を行わなくても、室温で融着が起こることもある。この合成樹脂は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。そのような合成樹脂としては、例えばポリアクリル酸及びその共重合体、アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体等のアクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂、ポリエチレンワックス、ポリエチレン共重合体、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等を用いることができる。これらの中でも、ガラス転移温度が低いため最低造膜温度が低く、結合が容易である観点から、アクリル樹脂が好ましく、アクリル酸アルキルエステル共重合体が更に好ましい。水不溶性の合成樹脂は、1種であっても又は2種以上であっても良い。これらの合成樹脂は、そのガラス転移点が40℃以下、特に30℃以下であることが、低い温度での繊維形成性粒子どうしの結合が起こりやすい点から好ましい。同様の理由によって、該合成樹脂は、その最低造膜温度が40℃以下、特に30℃以下であることが好ましい。
【0047】
前記の水不溶性の合成樹脂は、そのガラス転移点が30℃以上、特に40℃以上である場合には、そのガラス転移点以上の温度で熱処理を行うことが、これらの合成樹脂からなる繊維形成性粒子どうしが融着によって結合しやすくなる点から好ましい。合成樹脂のガラス転移点は、示差走査熱量分析、示差熱分析、熱機械分析等を行い、温度変化による急激な物性変化(熱量吸放出・力学的物性変化)を得ることによって測定することができる。最低造膜温度は、造膜温度測定装置によって測定することができる。
【0048】
前記の水不溶性の酸化物としては、該酸化物からなる粒子どうしが、金属(好ましくは二価以上の価数を有する金属)又は半金属元素と酸素との架橋によって結合可能なものが好適に用いられる。そのような酸化物としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化スズなどが挙げられる。これらの酸化物においては、二酸化ケイ素を例にとると、二酸化ケイ素からなる粒子の表面に存在する水酸基の脱水縮合によって−Si−O−Si−の結合が生じ、この結合が多数生じることによって繊維形成性粒子どうしが結合してナノファイバが形成される。
【0049】
繊維形成剤として繊維形成性粒子を用いる場合、該繊維形成性粒子の構成材料が合成樹脂であるときには、第1液は、水系エマルションの状態で供給されることが好ましい。また、繊維形成性粒子の構成材料が金属又は半金属の酸化物である場合には、第1液は、水系コロイドの状態で供給されることが好ましい。いずれの場合であっても、繊維形成性粒子は、該エマルション又は該コロイドから液媒体を除去した後に、該繊維形成性粒子どうしが結合して三次元構造体を形成する能力を有するものであることが好ましい。例えば繊維形成性粒子が合成樹脂の粒子からなる場合、該合成樹脂の粒子は、該粒子を含む水系エマルションの状態で供給され、該エマルションから液媒体を除去した後の状態において該合成樹脂の粒子どうしが結合して三次元構造体を形成することが好ましい。一方、繊維形成性粒子が金属又は非金属の酸化物の粒子からなる場合、該酸化物の粒子は、該粒子を含む水系コロイドの状態で供給され、該コロイドから液媒体を除去した後の状態において該酸化物の粒子どうしが結合して三次元構造体を形成することが好ましい。
【0050】
繊維形成性粒子の粒径は、ナノファイバシートの具体的な用途に応じ、その下限値は好ましくは0.1nm、更に好ましくは1nm、一層好ましくは10nmである。上限値は、好ましくは1000nm、更に好ましくは500nm、一層好ましくは100nmである。粒径は、例えば動的光散乱法、レーザー回折法等によって測定することができる。
【0051】
第1液中での繊維形成性粒子の濃度は、その下限値が1質量%であることが好ましく、5質量%であることが更に好ましい。上限値は80質量であることが好ましく、50質量%であることが更に好ましい。この濃度範囲であれば、目的とするナノファイバを首尾良く製造することができる。
【0052】
繊維形成剤として繊維形成性粒子を用いる場合、繊維形成助剤を併用することが好ましい。繊維形成助剤は、繊維形成性粒子どうしの結合を助け、繊維形成性粒子からナノファイバを首尾よく形成するために用いられるものである。そのような繊維形成助剤としては、繊維形成能を有する高分子材料であって、かつナノファイバを形成した後に該ナノファイバから除去が可能な材料が用いられる。そのような材料としては、例えば繊維形成能を有する水溶性有機高分子材料が挙げられる。この水溶性有機高分子材料は、それ単独を含む水性液を用いてエレクトロスピニング法に付したときに、ナノファイバの形成が可能な材料であることが好ましい。そのような材料であれば、天然高分子及び合成高分子のいずれをも用いることができる。そのような材料を用いると、ナノファイバの形成後に該ナノファイバを水洗処理することで、該材料を水に溶解させて除去することができる。本明細書において「水溶性有機高分子材料」とは、1気圧・23℃の環境下において、水溶性有機高分子材料を1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した水溶性有機高分子材料の0.5g以上が溶解する性質を有する高分子材料をいう。
【0053】
水溶性有機高分子材料としては、先に繊維形成剤として用いられる水溶性有機高分子材料として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0054】
第1液中での繊維形成助剤の濃度は、その下限値が好ましくは1質量%であり、更に好ましくは5質量%である。上限値は好ましくは50質量%であり、更に好ましくは20質量%である。濃度がこの範囲内であれば、ナノファイバを首尾よく製造することができる。
【0055】
以上の説明は第1液に関するものであったところ、第2液に関しては以下に述べるとおりである。第2液に含まれる粒子としては、有機高分子材料や、無機材料などが挙げられる。その詳細については先に述べたとおりである。第2液中の粒子の濃度は、その下限値が1質量%であることが好ましく、5質量%であることが更に好ましく、10質量%であることが一層好ましい。上限値は、80質量%であることが好ましく、60質量%であることが更に好ましく、50質量%であることが一層好ましい。例えば第2液中の粒子の濃度は、1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、5質量%以上60質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以上50質量%以下であることが一層好ましい。粒子の濃度がこの範囲内であれば、第2液から繊維70(
図2(a)参照)を首尾よく製造することができる。
【0056】
前記粒子とともに第2液に含まれる粒子分散補助剤としては、第2液中に含まれる粒子の分散性を高める機能を有する材料が用いられる。また、粒子分散補助剤としては、上述した水洗処理や熱処理によって繊維70から除去可能なものが用いられる。そのような材料としては、例えば粒子の分散剤として知られている化合物である高分子分散剤(ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系)、界面活性剤型分散剤(アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系)などが挙げられる。特に粒子分散補助剤として、繊維形成能を有する物質を用いることが、粒子の分散性を一層高め得る点から好ましい。そのような物質としては、水溶性有機高分子材料が挙げられる。水溶性有機高分子材料の具体例としては、先に繊維形成剤として用いられる水溶性有機高分子材料として例示したものと同様のものが挙げられる。
【0057】
第2液中の粒子分散補助剤の濃度は、その下限値が1質量%であることが好ましく、3質量%であることが更に好ましく、5質量%であることが一層好ましい。上限値は、50質量%であることが好ましく、30質量%であることが更に好ましく、20質量%であることが一層好ましい。例えば第2液中の粒子分散補助剤の濃度は、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが一層好ましい。粒子分散補助剤の濃度がこの範囲内であれば、第2液から繊維70(
図2(a)、
図3(a)参照)を首尾よく製造することができる。
【0058】
第2液は、粒子及び粒子分散補助剤を含み、媒体として水、有機溶媒、又は水と有機溶媒との混合溶媒を含むものである。媒体は、粒子及び粒子分散補助剤の種類に応じて適切なものが用いられる。
【0059】
本発明の製造方法によって得られたナノファイバシートは、該ナノファイバシートに保持されている粒子の高い表面特性を利用して、各種の化学反応における触媒に好適に使用される。
【0060】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態において説明したエレクトロスピニング法においては、形成されたナノファイバが板状の導電性コレクタ40上に堆積されるが、これに代えて導電性の回転ドラムを用い、回転する該ドラムの周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
【0061】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下のナノファイバ構造体の製造方法及びナノファイバ構造体を開示する。
<1> 繊維形成剤を含む第1液と、粒子分散補助剤及び粒子を含む第2液とを、それぞれ別のノズルから吐出させ、エレクトロスピニング法によって、第1液から形成されるナノファイバ、並びに第2液に含まれる前記粒子分散補助剤及び前記粒子を含有する繊維構造体を生成させ、
生成した前記繊維構造体中に含まれる前記粒子分散補助剤を除去し、前記ナノファイバ間に前記粒子が分散した状態で保持されてなるナノファイバ構造体を得る、ナノファイバ構造体の製造方法。
【0062】
<2> 第1液中に繊維形成助剤が更に含まれ、該繊維形成助剤の濃度は、下限値が好ましくは1質量%であり、更に好ましくは5質量%であり、上限値は好ましくは50質量%であり、更に好ましくは20質量%である前記<1>に記載の製造方法。
<3> 第2液中の粒子分散補助剤の濃度は、下限値が1質量%であることが好ましく、3質量%であることが更に好ましく、5質量%であることが一層好ましく、上限値は、50質量%であることが好ましく、30質量%であることが更に好ましく、20質量%であることが一層好ましく、例えば第2液中の粒子分散補助剤の濃度は、1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3質量%以上30質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以上20質量%以下であることが一層好ましい前記<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> 第2液中の粒子の濃度は、下限値が1質量%であることが好ましく、5質量%であることが更に好ましく、10質量%であることが一層好ましく、上限値は、80質量%であることが好ましく、60質量%であることが更に好ましく、50質量%であることが一層好ましく、例えば第2液中の粒子の濃度は、1質量%以上80質量%以下であることが好ましく、5質量%以上60質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以上50質量%以下であることが一層好ましい前記<1>ないし<3>のいずれか1に記載の製造方法。
<5> 繊維形成剤が、繊維形成能を有する有機高分子材料からなるか、又は繊維形成性粒子からなる前記<1>ないし<4>のいずれか1に記載の製造方法。
【0063】
<6> 有機高分子材料は、水溶性又は水不溶性のものである前記<5>に記載の製造方法。
<7> 第1液に含まれる繊維形成剤が水不溶性有機高分子材料からなり、該水不溶性有機高分子材料として、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂を用いる前記<1>ないし<6>のいずれか1に記載の製造方法。
<8> 第1液に含まれる繊維形成剤が水溶性有機高分子材料からなり、該水溶性有機高分子材料として、プルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコ オリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分ケン化ポリビニルアルコール(架橋剤と併用しない場合)、低ケン化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子を用いる前記<1>ないし<6>のいずれか1に記載の製造方法。
【0064】
<9> 水溶性有機高分子材料を単独で又は2種以上を組み合わせて用いる前記<8>に記載の製造方法。
<10> 第1液に含まれる繊維形成剤が、繊維形成性粒子からなり、かつ第1液が、更に繊維形成助剤を含む前記<1>ないし<9>のいずれか1に記載の製造方法。
<11> 繊維形成性粒子として有機物を用いる前記<10>に記載の製造方法。
<12> 有機物が水不溶性の合成樹脂である前記<11>に記載の製造方法。
<13> 水不溶性の合成樹脂として、該合成樹脂からなる粒子どうしが融着によって結合して三次元構造体の形成が可能なものを用いる前記<12>に記載の製造方法。
<14> 水不溶性の合成樹脂として、ポリアクリル酸及びその共重合体、アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体等のアクリル系樹脂、スチレン−アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂、ポリエチレンワックス、ポリエチレン共重合体、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂を用いる前記<12>又は<13>に記載の製造方法。
【0065】
<15> 水不溶性の合成樹脂としてアクリル樹脂が好ましく、アクリル酸アルキルエステル共重合体が更に好ましい前記<12>ないし<14>のいずれか1に記載の製造方法。
<16> 水不溶性の合成樹脂を、1種又は2種以上用いる前記<12>ないし<15>のいずれか1に記載の製造方法。
<17> 水不溶性の合成樹脂は、そのガラス転移点が40℃以下、特に30℃以下であることが好ましい前記<12>ないし<16>のいずれか1に記載の製造方法。
<18> 水不溶性の合成樹脂は、その最低造膜温度が40℃以下、特に30℃以下であることが好ましい<12>ないし<17>のいずれか1に記載の製造方法。
<19> 繊維形成性粒子として無機物を用いる前記<10>に記載の製造方法。
<20> 無機物が金属又は半金属の水不溶性の酸化物である前記<19>に記載の製造方法。
<21> 水不溶性の酸化物として、該酸化物からなる粒子どうしが、金属(好ましくは二価以上の価数を有する金属)又は半金属元素と酸素との架橋によって結合可能なものが用いられる前記<20>に記載の製造方法。
<22> 水不溶性の酸化物としては、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム又は酸化スズを用いる前記<20>又は<21>に記載の製造方法。
【0066】
<23> 繊維形成性粒子の粒径の下限値は、好ましくは0.1nm、更に好ましくは1nm、一層好ましくは10nmであり、上限値は、好ましくは1000nm、更に好ましくは500nm、一層好ましくは100nmである前記<10>ないし<22>のいずれか1に記載の製造方法。
<24> 繊維形成性粒子の第1液中での濃度は、下限値が1質量%であることが好ましく、5質量%であることが更に好ましく、上限値は80質量であることが好ましく、50質量%であることが更に好ましい前記<10>ないし<23>のいずれか1に記載の製造方法。
<25> 第1液中に繊維形成助剤が更に含まれ、該繊維形成助剤が繊維形成能を有する有機高分子材料からなる前記<10>ないし<24>のいずれか1に記載の製造方法。
<26> 第1液中に繊維形成助剤が更に含まれ、該繊維形成助剤が、繊維形成能を有する水溶性有機高分子材料であって、かつナノファイバを形成した後に該ナノファイバから除去が可能な材料からなる前記<10>ないし<25>のいずれか1に記載の製造方法。
<27> 水溶性有機高分子材料は、それ単独を含む水性液を用いてエレクトロスピニング法に付したときに、ナノファイバの形成が可能な材料である前記<26>に記載の製造方法。
【0067】
<28> 水溶性有機高分子材料として、プルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコ オリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分ケン化ポリビニルアルコール(架橋剤と併用しない場合)、低ケン化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子を用いる前記<26>又は<27>に記載の製造方法。
<29> 水溶性有機高分子材料は単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる前記<26>ないし<28>のいずれか1に記載の製造方法。
【0068】
<30> 生成した繊維構造体中に含まれる繊維形成助剤を除去する後処理を行う前記<2>ないし<29>のいずれか1に記載の製造方法。
<31> 粒子分散補助剤が、繊維形成能を有する有機高分子材料からなる前記<1>ないし<39>のいずれか1に記載の製造方法。
<32> 粒子分散補助剤として高分子分散剤(ポリカルボン酸系、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合系、ポリエチレングリコール、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系)、界面活性剤型分散剤(アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系)を用いる前記<1>ないし<31>のいずれか1に記載の製造方法。
<33> 第1液と第2液とを同時に吐出した状態下にエレクトロスピニング法を行う前記<1>ないし<32>のいずれか1に記載の製造方法。
<34> 第1液及び第2液のうち、一方の液の吐出を行った後に、他方の液の吐出を行う前記<1>ないし<32>のいずれか1に記載の製造方法。
【0069】
<35> エレクトロスピニング法を行う工程における少なくとも最初と最後に、少なくとも第1液を吐出する前記<1>ないし<32>のいずれか1に記載の製造方法。
<36> 粒子として、粒径が0.1μm以上100μm以下のものを用いる前記<1>ないし<35>のいずれか1に記載の製造方法。
<37> 粒子の粒径の下限値は0.1μmであることが好ましく、1μmであることが一層好ましく、上限値は100μmであることが好ましく、50μmであることが更に好ましく、15μmであることが一層好ましく、例えば0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上50μm以下であることが更に好ましく、1μm以上15μm以下であることが一層好ましい前記<1>ないし<36>のいずれか1に記載の製造方法。
<38> 粒子としてその形状が、球状、多面体状、紡錘状、板状、鱗片状のものを用いるか、粒子として中実のもの又は中空のものを用いるか、粒子としてオープンセル構造又はクローズドセル構造の多孔質のものを用いる前記<1>ないし<36>のいずれか1に記載の製造方法。
<39> 生成した前記繊維構造体中に含まれる前記繊維形成助剤を除去する後処理を行い、該後処理が水洗処理又は熱処理である前記<1>ないし<38>のいずれか1に記載の製造方法。
【0070】
<40>
前記<1>ないし<39>のいずれか1に記載の製造方法で得られたナノファイバ構造体であって、前記粒子がナノファイバ間に分散した状態で保持されているナノファイバ構造体。
<41> ナノファイバ構造体における粒子の占める割合は、その下限値が5質量%であることが好ましく、20質量%であることが更に好ましく、上限値は80質量%であることが好ましく、50質量%であることが更に好ましく、例えば5質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることが更に好ましい前記<40>に記載のナノファイバ構造体。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0072】
〔実施例1〕
(1)第1液の調製
繊維形成剤としてポリビニルブチラール(PVB、パウダー状、積水化学工業(株)のエスレックBM−1)を用いた。これをエタノールに溶解して濃度10.4%の溶液を調製した。この溶液を第1液として用いた。
【0073】
(2)第2液の調製
粒子として、平均粒径5μmのアナターゼ型酸化チタン(和光純薬工業(株))を用いた。粒子分散補助剤としてプルラン(林原商事(株))を用いた。これらを水と混合して第2液を調製した。第2液中での前記酸化チタンの濃度は3.8%であり、プルランの濃度は15.2%であった。
【0074】
(3)繊維構造体の製造
図1に示す装置を用い、以下の条件でエレクトロスピニング法を実施した。第1液及び第2液は同時に吐出した。これによって、第1液から生成したナノファイバ60と、第2液から生成した繊維70とがランダムにかつ均一に混在した繊維構造体50を製造した。この繊維構造体50は、
図2(a)に示す構造のものであった。
[第1液]
・印加電圧:27kV
・ノズル−コレクタ間距離:165mm
・ノズル:25G
・液吐出量:1ml/h
・吐出時間:1時間
・製造環境:24℃、32%RH
[第2液]
・印加電圧:27kV
・ノズル−コレクタ間距離:165mm
・ノズル:25G
・液吐出量:1ml/h
・吐出時間:1時間
・製造環境:24℃、32%RH
【0075】
(4)ナノファイバシートの製造(繊維構造体の後処理)
得られた繊維構造体を30℃の水に入れて、30分間浸漬し、繊維構造体からプルランを溶解除去した。このようにしてナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートを顕微鏡観察したところ、ナノファイバ間の空間に酸化チタンの粒子が保持されており、かつ酸化チタンの粒子はその表面の概ね全域が露出しており、
図2(b)に示す構造を有していることが確認された。得られたナノファイバシートの走査型電子顕微鏡像を
図4に示す。酸化チタンの粒子は、粒子どうしの凝集は観察されず、単分散状態でナノファイバ間に保持されていた。ナノファイバと酸化チタンの粒子とは固着していなかった。ナノファイバの太さは580nmであった。
【0076】
〔比較例1〕
本比較例は、背景技術の項で述べた特許文献1の実施例に相当する例である。本比較例においては第1液を用いなかった。第2液としては、粒子として、実施例1と同じ酸化チタンを用いた。粒子分散補助剤としてポリビニルブチラール(PVB、積水化学工業(株)のエスレックB)を用いた。これらをエタノールと混合して第2液を調製した。第2液中での酸化チタンの濃度は2.9%であり、PVBの濃度は11.4%であった。この第2液を用い、
図1に示す装置によって、以下の条件でエレクトロスピニング法を実施した。これによってナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートを顕微鏡観察したところ、PVBからなるナノファイバ(太さ200nm)に酸化チタンが包埋されており、かつ酸化チタンの表面がPVBによって被覆されていることが確認された。得られたナノファイバシートの走査型電子顕微鏡像を
図5に示す。
・印加電圧:35kV
・ノズル−コレクタ間距離:165mm
・ノズル:25G
・液吐出量:1ml/h
・吐出時間:1時間
・製造環境:24℃、32%RH
【0077】
〔評価〕
実施例1及び比較例1で得られたナノファイバシートについて、メチレンブルー色素の脱色挙動を、以下の方法で評価した。その結果を以下の表1に示す。
【0078】
〔メチレンブルーの脱色挙動評価〕
色素としてメチレンブルーを用いた。メチレンブルーは0.3mg/l水溶液とし、暗所で酸化チタン含有ナノファイバ(酸化チタン量11mgに相当する量)を前記水溶液10mlに加えた。ブラックライトを用いて、紫外線を3時間水溶液に照射し、目視による溶液中の脱色状態を比色した。3時間後に目視で確認し、メチレンブルー溶液が青色から透明に変化した場合はA、変化なしの場合はBと評価した。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すとおり、酸化チタンの粒子の表面が露出しており、かつ該粒子が単分散状態で保持されている実施例1のナノファイバシートは、酸化チタンの触媒活性が損なわれておらず、メチレンブルーの分解に対して高い活性を示すことが判る。これに対して、酸化チタンの粒子の表面がPVBによって被覆されている比較例1のナノファイバシートは、PVBによる被覆で酸化チタンの触媒活性が低下し、そのことに起因して、メチレンブルーの分解に対する活性が高いものとはならなかった。