(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
タイヤの摩耗に関わるトレッドの踏面に生じる摩擦エネルギーを正確に算出することは、タイヤの摩耗予測を精度よく行う上で肝要である。
【0014】
(タイヤの摩耗予測方法)
以下、図面を参照して、本発明のタイヤの摩耗予測方法の実施形態について詳細に、例示説明する。
【0015】
図1に、本発明の第一実施形態のタイヤの摩耗予測方法の概要を示す。
本発明の第一実施形態のタイヤの摩耗予測方法1は、タイヤのトレッドの踏面の摩擦エネルギーの総計(全摩擦エネルギーE)を算出する全摩擦エネルギー算出工程(工程A)からなる。そして、工程Aは、下記の工程A1〜A4を含む。
【0016】
まず、工程A1では、タイヤを装着した車両が走行する間にタイヤにかかる様々な荷重について、各荷重条件Lciにおけるトレッドの踏面の摩擦エネルギーである荷重条件摩擦エネルギーEciを取得する。
ここで、車両が走行する間の荷重変化は、例えば、一般的なGセンサーを用いて測定することができる。ここで、Gセンサーとは、圧力センサー、温度センサー、その他三軸加速度センサー等を内蔵するセンサーを指す。
また、上記荷重変化は、車両の重心位置の加速度を測定し、車両の質量と加速度とを乗算することにより、求めることができる。ここで、車両の前後左右方向(水平方向)の重心位置は各タイヤに対する重量分配により推測することができ、車両の上下方向(鉛直方向)の重心位置は車両メーカーが公表する車両諸元から推測することができる。
更に、荷重条件摩擦エネルギーEciは、例えば、特開平7−063658号公報に記載のタイヤのトレッド踏面の接地部測定装置を用いて行うことができる。具体的には、接地部測定装置を用いて、所与の荷重条件における滑り量S(cm)を測定すると共に、試験路面に設けられている三成分力変換器を用いて、剪断力τ(kgf/cm
2)を測定する。そして、Eci=∫τdSの式に従って、荷重条件摩擦エネルギーEci(kgf/cm)を算出する。
【0017】
そして、上記荷重条件Lciは、測定された荷重範囲内にあるあらゆる荷重条件とすることができる。
【0018】
次いで、工程A2では、各荷重条件Lciでのタイヤの使用頻度である荷重条件使用頻度Fciを取得する。
上記タイヤの使用頻度Fciは、例えば、GPSの測位情報から定めることができる。
【0019】
そして、工程A3では、荷重条件摩擦エネルギーEciと荷重条件使用頻度Fciとを乗算して、各荷重条件Lciにおける全摩擦エネルギーである荷重条件積算摩擦エネルギーEcを算出する(Ec=Eci×Fci)。
【0020】
更に、工程A4では、荷重条件積算摩擦エネルギーEcを、車両が走行する間にタイヤにかかる全ての荷重条件について加算して、全摩擦エネルギーEを算出する(E=ΣEc)。
【0021】
なお、本発明のタイヤの摩耗予測方法では、EciとFciとの積からEcを算出することに限定されることなく、荷重条件摩擦エネルギーEciを、車両が走行する時間に亘って積分することによって、Ecを算出することもできる。
【0022】
このタイヤの摩耗予測方法1によれば、複数の荷重条件における各摩擦エネルギーを算出することができるため、タイヤにかかる荷重負荷が大きく変動する走行条件下で車両を走行させる場合にも、タイヤの摩耗予測を良好な精度で行うことができる。
【0023】
図2に、本発明の第二実施形態のタイヤの摩耗予測方法の概要を示す。
本発明の第二実施形態のタイヤの摩耗予測方法10は、上記第一実施形態のタイヤの摩耗予測方法1において、荷重条件摩擦エネルギーEciを算出するに当たり、タイヤの状態x(以下、単に「状態x」ともいう。)ごとの荷重条件摩擦エネルギーであるx荷重条件摩擦エネルギーEcix、並びに、その荷重条件及びそのタイヤの状態xでのタイヤの使用頻度であるx荷重条件使用頻度を取得して、複数のタイヤの状態についてこれを加算して、荷重条件積算摩擦エネルギーEcひいては全摩擦エネルギーEを算出するものである。
すなわち、このタイヤの摩耗予測方法10は、上記タイヤの摩耗予測方法1において、工程A1が下記の工程A11〜A14を、工程A2が下記の工程A21〜A24を、工程A3が下記の工程A31〜A34を含むものである。
【0024】
車両が走行する間のタイヤの状態は、例えば、タイヤがフリーローリングの状態(以下、「状態f」ともいう。)、タイヤに横力が付与されている状態(以下、「状態s」ともいう。)、タイヤに駆動力が付与されている状態(以下、「状態d」ともいう。)、タイヤに制動力が付与されている状態(以下、「状態b」ともいう。)、キャンバー角(CA)が付与されている状態等が挙げられる。
【0025】
そして、これらのタイヤの状態xは、上記GセンサーやGPSを用いて定めることができる。
【0026】
まず、このタイヤの摩耗予測方法10の工程A1では、各タイヤの状態xにおけるトレッドの踏面の摩擦エネルギーであるx荷重条件摩擦エネルギーEcixを取得する。
すなわち、工程A1は、例えば、状態fにおけるトレッドの踏面の摩擦エネルギーであるf荷重条件摩擦エネルギーEcifを取得する工程A11と、状態sにおけるトレッドの踏面の摩擦エネルギーであるs荷重条件摩擦エネルギーEcisを取得する工程A12と、状態dにおけるトレッドの踏面の摩擦エネルギーであるd荷重条件摩擦エネルギーEcidを取得する工程A13と、状態bにおけるトレッドの踏面の摩擦エネルギーであるb荷重条件摩擦エネルギーEcibを取得する工程A14と、を含む。
【0027】
次いで、工程A2では、各タイヤの状態xにおけるタイヤの使用頻度であるx荷重条件使用頻度Fcixを取得する。
すなわち、工程A2は、例えば、状態fでのタイヤの使用頻度であるf荷重条件使用頻度Fcifを取得する工程A21と、状態sでのタイヤの使用頻度であるs荷重条件使用頻度Fcisを取得する工程A22と、状態dでのタイヤの使用頻度であるd荷重条件使用頻度Fcidを取得する工程A23と、状態bでのタイヤの使用頻度であるb荷重条件使用頻度Fcibを取得する工程A24と、を含む。
【0028】
これらのx荷重条件使用頻度Fcixは、上記GセンサーやGPSの測位情報から定めることができる。
【0029】
そして、工程A3では、まず、各タイヤの状態xにおける摩擦エネルギーである、x荷重条件摩擦エネルギーEcixと、x荷重条件使用頻度Fcixとを乗算することにより、各荷重条件及びタイヤの状態xにおける摩擦エネルギーであるx荷重条件積算摩擦エネルギーEcxを算出する。
すなわち、工程A3は、例えば、f荷重条件積算摩擦エネルギーEcfを、Ecf=Ecif×Fcifの式に従って算出する工程A31と、s荷重条件積算摩擦エネルギーEcsを、Ecs=Ecis×Fcisの式に従って算出する工程A32と、d荷重条件積算摩擦エネルギーEcdを、Ecd=Ecid×Fcidの式に従って算出する工程A33と、b荷重条件積算摩擦エネルギーEcbを、Ecb=Ecib×Fcibの式に従って算出する工程A34と、を含む。
【0030】
また、x荷重条件摩擦エネルギーEcixは、例えば、特開平7−063658号公報に記載のタイヤのトレッド踏面の接地部測定装置を用いて、特開平11−326145号公報に記載される手法により行うことができる。具体的には、状態f、状態s、状態d、状態b等の各々の場合について、接地部測定装置を用いて、そのタイヤの状態xにおける滑り量Sx(cm)を測定すると共に、試験路面に設けられている三成分力変換器を用いて、剪断力τx(kgf/cm
2)を測定する。そして、Ecix=∫τxdSの式に従って、x荷重条件摩擦エネルギーEcix(kgf/cm)を算出する。
【0031】
そして、工程A3は、各x荷重条件積算摩擦エネルギーEcxを、複数の荷重条件について加算して、その荷重条件Lciにおける全摩擦エネルギーEcを算出する工程A35を含む。
すなわち、工程A4では、例えば、Ec=Ecf+Ecs+Ecd+Ecbという式に従って、その荷重条件Lciにおける全摩耗エネルギーEcを算出する。
【0032】
なお、「フリーローリングの状態」とは、(タイヤに)荷重のみが加えられて転動している状態を指す。
またなお、「横力」とは、タイヤ転動時のタイヤの進行方向と直交する方向の力を指す。
更になお、「駆動力」とは、タイヤ転動時のタイヤの進行方向の力を指す。
更になお、「制動力」とは、タイヤ転動時のタイヤの進行方向とは逆方向の力を指す。
【0033】
このタイヤの測定方法10によれば、複数の荷重負荷における各摩擦エネルギーを算出するに当たり、タイヤの様々な状態ごとに摩擦エネルギーを算出することができる。
そのため、車両を、タイヤにかかる荷重負荷が大きく変動する走行条件下で、走行させる場合にも、タイヤの摩耗予測を更に良好な精度で行うことができる。
【0034】
図3に、本発明の第三実施形態のタイヤの摩耗予測方法の概要を示す。
本発明の第三実施形態のタイヤの摩耗予測方法100は、全摩耗エネルギーEを算出するに際し、タイヤを装着する車両のデータを用いるものである。
車両のデータとしては、車両のスリップ角、装着されたタイヤ一輪当たりの荷重、装着されたタイヤの内圧、車両の重心位置、車両の重心の高さ、キャンバー角(CA)等の各種アライメント等が挙げられる。
【0035】
本発明の第三実施形態のタイヤの摩耗予測方法100は、上記第一実施形態のタイヤの摩耗予測方法1において、工程A4が、下記の工程A41〜A43を含むものである。
【0036】
まず、工程A41では、荷重条件積算摩擦エネルギーEcを、複数の荷重条件について加算して、積算摩擦エネルギーEaを算出する。
【0037】
次いで、工程A42では、例えば、タイヤを装着する車両のスリップ角、装着されたタイヤ一輪当たりの荷重、及び装着されたタイヤの内圧、車両の重心位置、車両の重心の高さ、キャンバー角(CA)等の各種アライメント等を含む、タイヤを装着する車両のデータに基づいて、摩擦エネルギー寄与指数EciInを算出する。
なお、タイヤを装着する車両のスリップ角、装着されたタイヤ一輪当たりの荷重、又は装着されたタイヤの内圧が相対的に大きい場合には、トレッドの踏面にかかる摩擦エネルギーが増大するため、EciInを相対的に大きい値に定めることができる。
【0038】
そして、工程A43では、全摩耗エネルギーEを算出する(E=EciIn×Ea)。
【0039】
なお、「スリップ角」とは、タイヤを装着した車両の進行方向と、タイヤ赤道面と路面との交線方向とのなす角度のうち小さい方の角度を指す。
【0040】
本発明のタイヤの摩耗予測方法において、工程A4を上記工程とすれば、複数の荷重負荷における各摩擦エネルギーを算出するに当たり、タイヤと車両との関係ごとに摩擦エネルギーを算出することができる。
そのため、車両を、タイヤにかかる荷重負荷が大きく変動する走行条件下で、走行させる場合にも、タイヤの摩耗予測を更に良好な精度で行うことができる。
【0041】
図4に、本発明の第四実施形態のタイヤの摩耗予測方法の概要を示す。
本発明の第四実施形態のタイヤの摩耗予測方法1000は、上記工程Aに加えて、タイヤの摩耗寿命を予測する摩耗寿命予測工程(工程B)を更に含むものである。
【0042】
このタイヤの摩耗予測方法1000では、タイヤの摩耗に関わるトレッドのゴムの材質も考慮に入れる。
【0043】
工程Bは、下記の工程B1〜工程B3を含むものである。
【0044】
まず、工程B1では、例えば、一般的なランボーン摩耗試験により、タイヤのトレッドのゴムの摩耗抵抗指数G1を取得する。
【0045】
次いで、工程B2では、摩耗抵抗指数G1と、全摩擦エネルギーEの逆数とを乗算して、タイヤの摩耗係数mを算出する(m=G1/E)。
上記摩耗抵抗指数G1は無次元量である。
【0046】
なお、摩耗抵抗指数Glは、ランボーン摩耗試験等の室内摩耗試験によって求めることができる。ランボーン摩耗試験は、JIS K 6264により規格化されている弾性材料の摩耗試験のうち、ランボーン摩耗試験機を用いて耐摩耗性を測定するものである。
【0047】
本発明の第四実施形態のタイヤの摩耗予測方法は、上記工程Bを含むため、タイヤの摩耗の生じにくさを示す値を算出することができる。
【0048】
そして、工程B3は、タイヤの摩耗寿命期待値T1を算出する摩耗寿命期待値算出工程である。この工程B3では、工程B2で算出したタイヤの摩耗係数mと、タイヤの残溝の深さNSD(mm)からタイヤ棄却限界の溝の深さLD(例えば、1.6mm程度)を減算した値とを乗算して、タイヤの摩耗寿命期待値T1を算出する(T1=m(NSD−LD)=G1(NSD−LD)/E)。
【0049】
なお、「タイヤの残溝の深さ」とは、タイヤのトレッドに設けられた溝の複数の位置において測定した溝深さの平均値を指す。
【0050】
本発明の第四実施形態のタイヤの摩耗予測方法では、上記工程B3を含むため、タイヤの摩耗寿命期待値T1に基づいて、タイヤの摩耗寿命を予測する、例えば、タイヤの摩耗寿命の予測値を算出することができる。
【0051】
上記本発明の第一〜第四実施形態のタイヤの摩耗予測方法では、データの取得や算出は一般的な演算装置により行うことができる。
【0052】
(タイヤの摩耗予測プログラム)
本発明のタイヤの摩耗予測プログラムは、上記本発明のタイヤの摩耗予測方法を実行するためのプログラムである。
本発明の一例のタイヤの摩耗予測プログラムは、例えば、所与の荷重条件Lciにおけるトレッドの踏面の摩擦エネルギーである荷重条件摩擦エネルギーEciを取得する、荷重条件摩擦エネルギー取得ステップと、所与の荷重条件Lciでのタイヤの使用頻度である荷重条件使用頻度Fciを取得する、荷重条件使用頻度取得ステップと、上記荷重条件摩擦エネルギーEciと荷重条件使用頻度Fciとを乗算して、上記所与の荷重条件における摩擦エネルギーである荷重条件積算摩擦エネルギーEcを算出する、荷重条件積算摩擦エネルギー算出ステップと、上記荷重条件積算摩擦エネルギーEcを、複数の荷重条件について加算して、トレッドの踏面の全摩擦エネルギーEを算出する、全摩擦エネルギー算出ステップを含むものである。
上記本発明のタイヤの摩耗予測方法を使用するための他のタイヤの摩耗予測プログラムは、当業者ならば容易に構成することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
以下の実験は、重荷重用空気入りタイヤ(14.00R20)を、JATMA規格に定める適用リム(10×20)に装着して、リム組みした重荷重用空気入りタイヤを作製した。この重荷重用空気入りタイヤを、内圧700kPa、荷重7tの条件下で、ドラム試験機に装着した。
【0055】
(タイヤの摩耗寿命の実測)
上記ドラム試験機に装着した重荷重用空気入りタイヤを、荷重条件が大きく変動する条件下(悪路面、非平坦路面、傾斜路面等)で走行させ、タイヤのトレッドに設けられた溝の深さが、タイヤの棄却限界値(1.6mm)に至るまでの時間、すなわち、タイヤの摩耗寿命実測値(以下、「R1」ともいう。)を計測した。
【0056】
(実施例1)
図1、4に示す、本発明のタイヤの摩耗予測方法を用いて、タイヤの摩耗寿命期待値T1を算出した。そして、このタイヤの摩耗寿命予測期待値と、上記タイヤの摩耗寿命実測値との誤差(|T1−R1|/R1)×100(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
図1、4に示す、比較例のタイヤの摩耗予測方法を用いて、タイヤの摩耗寿命の予測値を算出した。そして、実施例1の場合と同様に、誤差を算出した。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】