(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者は、セルロース内に、イオン結合性を有する無機粒子及び反応性官能基を有する有機高分子からなる群から選ばれる一種以上の担体と、上記担体に担持されている鉄イオンで構成された鉄イオン複合体を含ませることにより、砒素に対する吸着性が格段に向上することを見出し本発明に至った。本発明において、成形体とは、繊維、スポンジなどの形態を示すものをいう。本発明の砒素吸着性再生セルロース成形体は、液体の被処理対象と接触させることにより、これらの水中の砒素(砒酸イオン、亜砒酸イオン)を吸着・保持して、水中から砒素を除去することができる。本発明の砒素吸着性再生セルロース成形体は、砒素吸着材及び水処理材として用いることができる。
【0016】
本発明の砒素吸着性再生セルロース成形体では、セルロースという水に対して半透膜性を有する基材中に、イオン結合性を有する無機粒子及び反応性官能基を有する有機高分子からなる群から選ばれる一種以上の担体を含有させ、上記担体に鉄イオンを担持しているので、セルロース内(成形体内部)に上記担体と鉄イオンで構成された鉄イオン複合体が含まれることとなる。そして、井戸水などの液体の被処理対象を上記砒素吸着性再生セルロース成形体で処理した時、砒素はセルロース内部の鉄イオン複合体に吸着・保持され、除去される。上記セルロースがビスコース法又は銅アンモニア法による再生セルロースである場合、特に非晶質性が高いので砒素を含む液体の被処理対象を透過し易くなり、吸着性が高くなる。
【0017】
本発明の砒素吸着性再生セルロース成形体は繊維であること(以下において、砒素吸着性再生セルロース繊維とも記す。)が好ましい。再生セルロース成形体が繊維状であると、濡れ性が高いため、液体の被処理対象から砒素を吸着して除去する際に取扱いが簡便である。また、繊維状であると、処理対象との接触面積も大きく、砒素除去効率が高くなる。
【0018】
本発明の砒素吸着性再生セルロース成形体は、ビスコース法、銅アンモニア法、溶剤紡糸法などのいずれかの方法で、セルロースを凝固再生させて得ることができる。セルロース内に鉄イオンを担持させた担体を含有させるので、セルロースは半透膜性が高い非晶質構造を採ることが好ましい。セルロースの非晶質性を示す指標として、一次膨潤度が挙げられる。一次膨潤度は、70%以上であることが好ましく、80〜120%であることがより好ましい。特にビスコース法によって得られるレーヨンは、一次膨潤度が上記範囲を満たし、好ましい。なお、一次膨潤度は、湿式紡糸法などの湿式で製造した再生セルロース成形体において、乾燥工程を経ない状態で測定した膨潤度をいい、乾燥工程を経たのちに測定される二次膨潤度とは区別される。この膨潤度は、JIS L 1015 8.26(水膨潤度)に準じて求められる。
【0019】
上記担体としては、イオン結合性(イオン交換性)を有する無機粒子が用いられる。イオン結合性を有することにより、鉄イオン(2価鉄イオン、3価鉄イオン)が無機粒子に結合して、イオンの状態で浮遊する水中の砒素(砒酸イオン、亜砒酸イオン)を効果的に吸着することができる。
【0020】
上記イオン結合性を有する無機粒子は、多孔性無機粒子であることが好ましい。多孔性無機粒子であると、表面積が大きくなるため、鉄イオンとの結合部位が増大し、吸着性能が向上する傾向にある。多孔性無機粒子としては、例えばゼオライト、バーミキュライトなどが挙げられる。
【0021】
上記ゼオライトは、特に限定されず、天然ゼオライト、人工ゼオライト、合成ゼオライトのいずれであってもよい。例えば、紡糸工程で再生セルロース繊維に含ませる際の歩留りが高いという観点から、天然ゼオライトであることが好ましく、モルディナイトの構造の天然ゼオライトであることがより好ましい。モルディナイトの構造の場合、鉄イオンがより担持されやすい。天然ゼオライトは島根県産が好ましい。島根県産の天然ゼオライトはモルディナイトの構造となっているものが多く、好ましい。モルディナイト構造のゼオライトは、細孔径が比較的大きく鉄イオンを孔内で結合し易い。また、モルディナイト構造のゼオライトは、酸による結晶崩壊が少ないのでビスコースレーヨン製造時の耐酸性を有すると推測される。合成ゼオライトとしては、モレキュラーシーブなどを用いることができる。モレキュラーシーブなどの合成ゼオライトは、酸及びアルカリに耐性を有することが好ましい。耐酸性を有するモレキュラーシーブとしては、疎水性モレキュラーシーブが挙げられる。疎水性モレキュラーシーブは、化学組成におけるSiO
2の比率を高めることにより得ることができ、例えば、ユニオン昭和株式会社製「HISIV−3000 POWDER」などが挙げられる。
【0022】
上記イオン結合性を有する無機粒子は、微粒子状であることが好ましい。上記再生セルロース成形体が繊維である場合、上記イオン結合性を有する無機粒子は、平均粒子径は0.3〜2μmであることが好ましく、0.5〜1.5μmであることがより好ましい。粒子径が小さいと無機粒子の分散液において凝集が発生し易く、扱い易い粒子径を保ちにくい傾向があり、粒子径が大きいと繊維に練り込んだ時に繊維の強度が低下する恐れがある。本発明の砒素吸着性再生セルロース繊維においては、後述するとおり、原料ビスコースに無機粒子の分散液を混合して調製したビスコース液を凝固再生することで、無機粒子を繊維内に含ませているため、無機粒子は、ビスコース液中で微分散された状態のままか、それに近い状態で繊維内に存在する。即ち、原料(分散液中)の無機粒子の粒子径と、再生セルロース繊維中の無機粒子の粒子径はほぼ同一である。なお、本発明の砒素吸着性再生セルロース繊維中の無機粒子の平均粒子径は、マイクロスコープ(VHX-500F、キーエンス製)を用い、倍率3500倍で透過光により側面観察を行い、任意の視野において30点の粒子径を計測し、その平均値を算出することで確認できる。一方、上記再生セルロース成形体が、スポンジである場合は、成形体生産時の工程性や繊維径の制約がないことから、平均粒子径に特に制約はない。ただし、粒子の表面積が大きい方が吸着サイトが増加することから、平均粒子径は小さい方が、より適している。
【0023】
上記担体としては、反応性官能基を含む有機高分子が用いられる。反応性官能基を有する有機高分子は、鉄イオンを担持することができる高分子であればよい。反応性官能基を有する有機高分子としては、例えば、反応性官能基としてカルボキシル基、スルホン基などを有する高分子化合物が挙げられる。鉄イオンとの結合性に優れるという観点から、カルボキシル基(カルボン酸基)を含有する有機高分子であることが好ましい。カルボキシル基を含有する有機高分子は、室温で水溶液であってもよく微粒子状であってもよい。鉄イオンを効果的に担持させる観点から、1分子中のカルボキシル基の多いことが好ましい。
【0024】
上記カルボキシル基含有有機高分子としては、例えば、室温で水溶液であるポリカルボン酸、スチレンカルボン酸、マレイン酸系共重合物、ビニル無水酢酸共重合物、カルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。ポリカルボン酸としては、ポリアクリル酸などが挙げられる。凝固再生工程で再生セルロース成形体に含ませる際の歩留りが高いという観点から、カルボキシル基含有有機高分子の溶液の粘度は500〜6000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは1000〜5000mPa・sである。また、成形体の歩留りの観点から、重合度が1万以上であることが好ましく、より好ましくは2万以上である。
【0025】
上記有機高分子が微粒子状の場合、上記カルボキシル基含有有機高分子において、カルボキシル基は官能基として存在することが好ましい。このようなカルボキシル基含有有機高分子としては、例えば、アクリレート系樹脂などが挙げられる。本発明において、アクリレート系樹脂粒子とは、アクリロニトリル系重合体を主体とし、カルボキシル基が変性された粒子であり、アクリロニトリル系重合体にアクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリルアミドが架橋重合された共重合体から構成されている長鎖状合成高分子からなる樹脂粒子をいう。例えば、東洋紡製のタフチック(登録商標)「HU−700E」)などのアクリロニトリル系樹脂粒子の水分散液を用いることができる。上記有機高分子が微粒子状であり、上記再生セルロース成形体が繊維の場合、上記カルボキシル基含有有機高分子は、平均粒子径が0.3〜2.0μmであることが好ましい。より好ましくは、0.5〜1.5μmである。粒子径が小さいと凝集が発生し易く、扱い易い粒子径を保ちにくい傾向があり、粒子径が大きいと繊維に練り込んだ時に繊維の強度が低下する恐れがある。一方、上記再生セルロース成形体がスポンジの場合は、成形体生産時の工程性や繊維径の制約がないことから、平均粒子径に制約はない。ただし、粒子の表面積が大きい方が結合サイトが増加することから、平均粒子径は小さい方が、より適している。
【0026】
本発明の砒素吸着性再生セルロース繊維においては、後述するとおり、原料ビスコースにアクリレート系樹脂粒子などのカルボキシル基含有有機高分子の粒子を混合して調製したビスコース液を凝固再生することで、カルボキシル基含有有機高分子の粒子を繊維内に含ませているため、カルボキシル基含有有機高分子の粒子は、ビスコース液中で微分散された状態のままか、それに近い状態で繊維内に存在する。即ち、原料(分散液中)のカルボキシル基含有有機高分子の粒子の粒子径と、再生セルロース繊維中のカルボキシル基含有有機高分子の粒子の粒子径はほぼ同一である。なお、本発明の砒素吸着性再生セルロース繊維中のカルボキシル基含有有機高分子の粒子の平均粒子径は、マイクロスコープ(VHX-500F、キーエンス製)を用い、倍率3500倍で透過光により側面観察を行い、任意の視野において30点の粒子径を計測し、その平均値を算出することで確認できる。
【0027】
上記砒素吸着性再生セルロース成形体において、セルロース100質量%に対する上記担体の含有量は、3〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。担体の含有量が3質量%未満では、担持される鉄イオンの量が少なくなり、砒素吸着性能が低くなる傾向があり、30質量%を超えると、成形体の強度が低下しやすく、加工が困難になる傾向があり、濾過材などの製品として用いる場合に要求する特性を満たさない恐れがある。
【0028】
上記砒素吸着性再生セルロース成形体において、鉄の含有量は、0.05〜3質量%であることが好ましく、より好ましくは、0.1〜2質量%、さらにより好ましくは0.15〜1.5質量%である。鉄の含有量が0.05質量%未満であると、砒素吸着性能が発揮されにくい恐れがあり、3質量%を超えると、担体に担持させる加工が困難になる傾向がある。担体の全ての結合サイトに鉄イオンが担持されておらず、50%程度の結合サイトに担持されてもよい。鉄イオンが担持されていない担体の結合サイトに液体被処理対象(水中)の他のイオンなどが付着することで、水の清澄化に寄与することもある。本発明において、成形体中、具体的には繊維中の鉄の含有量(存在量)は、以下のように測定する。成形体が、スポンジの場合は、下記の測定方法において、繊維の代わりにスポンジを試料として用いることでスポンジ中の鉄の含有量を測定することができる。
【0029】
<鉄の含有量の測定>
(a)繊維(原綿)を105℃で2時間定温送風乾燥機内に放置し、その後秤量瓶にいれ、デシケータに1時間入れ室温(20±5℃)になったら、絶乾質量を測定する。
(b)上記で得られた乾燥後の原綿を800℃で灰化し、灰を硝酸で溶解してJIS K 0102の吸光光度法により鉄を定量分析し、鉄の質量を算出する。
(c)下記式により、繊維中の鉄の含有量を算出する。
鉄の含有量(質量%)=(吸光光度による鉄の質量/繊維の絶乾質量)×100
【0030】
本発明の砒素吸着性再生セルロース繊維は、特に限定されないが、原料ビスコースに担体の分散液を添加して調製したビスコース液を凝固再生(紡糸)し、得られた担体を含有するビスコースレーヨン糸条を鉄化合物で処理することで製造することが好ましい。
【0031】
原料ビスコースとしては、セルロースを7〜10質量%、水酸化ナトリウムを5〜8質量%、二硫化炭素を2〜3.5質量%含むビスコース原液を調製して用いるとよい。このとき、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの添加剤を使用することもできる。原料ビスコースの温度は18〜23℃に保持するのが好ましい。セルロースを含むビスコース原液に、イオン結合性を有する無機粒子及び反応性官能基を有する有機高分子からなる群から選ばれる一種以上の担体の分散液を混合してビスコース液(紡糸用ビスコース液)を調製する。
【0032】
イオン結合性を有する無機粒子としては、上述したものを用いることができる。無機粒子の分散液において、無機粒子の平均粒子径は、0.3〜2μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5μmである。粒子径が小さいと分散液において凝集が発生し易く、扱い易い粒子径を保ちにくい傾向があり、粒子径が大きいと得られた繊維の強度が低下する恐れがある。本発明において、分散液における担体粒子の平均粒子径は、レーザー回折光散乱式粒度分析測定法で測定した体積累積平均粒子径d50をいう。
【0033】
反応性官能基を有する有機高分子としては、上述したものを用いることができる。カルボキシル基含有有機高分子の水溶液を用いる場合、歩留りの観点から、水溶液の粘度は500〜6000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは1000〜5000mPa・sである。カルボキシル基含有有機高分子の微粒子を用いる場合、分散液におけるカルボキシル基含有有機高分子粒子の平均粒子径が0.3〜2.0μmであることが好ましく、より好ましくは、0.5〜1.5μmである。粒子径が小さいと凝集が発生し易く、扱い易い粒子径を保ちにくい傾向があり、粒子径が大きいと繊維に練り込んだ時に繊維の強度が低下する恐れがある。
【0034】
上記担体の添加量は、セルロースに対して3〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。担体の添加量が3質量%未満では、担持される鉄イオンの量も少なくなり、砒素吸着性能が低くなる傾向があり、30質量%を超えると、繊維強度が低下しやすくなる。
【0035】
紡糸浴(ミューラー浴)としては、硫酸を95〜130g/L、硫酸亜鉛を10〜17g/L、硫酸ナトリウム(芒硝)を290〜370g/L含む強酸性浴を用いることが好ましい。より好ましい硫酸濃度は、100〜120g/Lである。
【0036】
上記砒素吸着性再生セルロース繊維は、例えば通常の円形ノズルを用いて製造することができる。紡糸ノズルとしては、目的とする生産量にもよるが、直径0.04〜0.12mmのホールを500〜20000個有する円形ノズルを用いることが好ましい。上記紡糸ノズルを用い、紡糸用ビスコース液を紡糸浴中に押し出して紡糸し、凝固再生させる。紡糸速度は30〜80m/分の範囲が好ましい。また、延伸率は39〜55%が好ましい。ここで延伸率とは、延伸前のスライバー速度を100としたとき、延伸後のスライバー速度をどこまで速くしたかを示すものである。倍率で示すと、延伸前が1、延伸後は1.39〜1.55倍となる。
【0037】
得られた再生セルロース繊維(レーヨン繊維)の糸条を所定の長さにカットし、精練処理を行う。精練工程は、通常の方法で、熱水処理、水硫化処理、漂白、酸洗い及び油剤付与の順で行うとよい。その後、必要に応じて圧縮ローラーや真空吸引などの方法で余分な油剤、水分を繊維から除去し、乾燥処理を施す。
【0038】
また、上記再生セルロース成形体がスポンジの場合、原料ビスコースに担体を添加して調製したビスコース液を凝固再生して担体を含有するビスコーススポンジを得ることができる。ビスコーススポンジの製造方法の一例としては、汎用的な原料ビスコース100質量部に対し、補強繊維としてレーヨンのカット綿(例えば、ダイワボウレーヨン社製「SB」、繊度3.3dtex、繊維長10mm)を6.5質量部、結晶芒硝6.5質量部、担体(ゼオライトなど)を0.85質量部(ビスコース液中のセルロース分に対して10質量%)となるように入れ、混練機を使用して十分に混練を行い、得られた混合物を適当に孔の開いたステンレス製容器に入れ、90℃以上の温水に入れ5時間放置する。このようにして得られたビスコーススポンジは、ビスコースに含まれる副生成物も含有しているため、脱硫や晒を行い、副生性物が除去される。
【0039】
次に、担体を含有する再生セルロース成形体(繊維状、スポンジ状)を鉄化合物で処理し、鉄イオンを担体に担持させて鉄イオン複合体を形成する。鉄イオンが担体の結合サイトに吸着又は結合されることになり、鉄イオン複合体はセルロース構造物内部(繊維中やスポンジ中)に含まれる。担体を含有する再生セルロース成形体が繊維の場合、鉄化合物による処理は、精練工程中で行ってもよく、精練工程後に後加工として行ってもよい。例えば、精練処理時に、担体を含有するレーヨン繊維を連続した糸状のまま鉄化合物の浴中を通過させて鉄イオンを付着させてもよいし、精練工程で担体を含有するレーヨン繊維に鉄化合物の水溶液をシャワーして鉄イオンを付着させてもよい。或いは、乾燥後の担体を含有するレーヨン繊維(原綿)を、鉄化合物の浴中に浸漬し、その後絞ることにより鉄イオンを付着させてもよく、担体を含有するレーヨン繊維(原綿)を不織布などに加工した状態で鉄化合物の浴中を通過させて鉄イオンを付着させてもよい。担体を含有する再生セルロース成形体がスポンジの場合、鉄イオンを含む溶液に含浸させて鉄イオンをビスコーススポンジ内部に保持されている担体に担持させて鉄イオン複合体を形成する。
【0040】
鉄化合物による処理は、鉄イオンを含む水溶液を用いて行うことができる。鉄イオンを含む水溶液は、水溶液中で鉄イオンを形成する鉄化合物を用いて調製することができる。水溶液中で鉄イオンを形成する鉄化合物としては、例えば、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄などが挙げられ、砒素吸着性により優れるという観点から、水溶液中で3価の鉄イオンを形成する塩化第二鉄、硫酸第二鉄などを用いることが好ましい。鉄イオンを含む水溶液のpHは、鉄化合物が鉄イオンを形成することができればよく特に限定されないが、加工性の観点から、pH2〜8の範囲であることが好ましく、pH3〜6の範囲がより好ましい。鉄イオンを含む水溶液のpHが低すぎると、担体に対する鉄イオンの付着が少なくなる傾向があり、pHが高すぎると、鉄が水酸化鉄に変換されてしまう恐れがある。鉄イオンを含む水溶液は、特に限定されないが、鉄イオン濃度が0.1〜30g/Lであることが好ましく、より好ましくは、0.5〜10g/Lである。処理温度については、鉄イオンを繊維に付着できればよく、特に限定がない。例えば、操作の簡便性から、室温(20±5℃)で処理してもよい。
【0041】
上記砒素吸着性再生セルロース繊維は、繊度が0.8〜17dtex(デシテックス)であることが好ましい。より好ましくは1.7〜8dtexであり、さらに好ましくは2.2〜6dtexである。繊度が0.8dtex未満であると、延伸時に単繊維切れが発生しやすい傾向にある。繊度が17dtexを超えると、繊維の再生状態が不良になりやすく、繊維自体の強伸度に影響があり、加工性が悪くなる場合がある。
【0042】
上記砒素吸着性再生セルロース繊維は、長繊維状及び短繊維状のいずれの形態でもよい。上記長繊維状としては、例えば、トウ、フィラメントなどが挙げられ、上記短繊維状としては、例えば、湿式抄紙用原綿、エアレイド不織布用原綿、カード用原綿などが挙げられる。
【0043】
上記砒素吸着性再生セルロース繊維は、繊維構造物を形成して用いることができる。上記再生セルロース繊維を含む繊維構造物であると、砒素を含む液体の被処理対象の条件により、繊度や繊維空隙を容易に調整することができ、液体の被処理対象から砒素を効果的に除去することができ、好ましい。上記繊維構造物は、特に限定されないが、例えば、トウ、フィラメント、紡績糸、詰め綿、紙、不織布、織物、編物などが挙げられる。
【0044】
上記砒素吸着性再生セルロース繊維は、単独又はその他の再生セルロース繊維、コットン、麻、ウール、アクリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタンなどの他の繊維と混綿して用いることができる。他の繊維と混綿して繊維構造物を形成する場合、特に限定されないが、上記砒素吸着性再生セルロース繊維は、繊維構造物100質量%に対して、50質量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは70質量%以上含まれる。
【0045】
上記砒素吸着性再生セルロース成形体が繊維の場合は、繊維及びそれを含む繊維構造物は、単独又は他の素材と組み合わせて砒素吸着材として用いることができる。特に、液体の被処理対象と接触させて水中の砒素を吸着除去する水処理材として使用するのに適している。液体の被処理対象としては、特に限定されないが、飲料水、河川水、海水、地下水、下水、工業用水、工業用排水、汚染土壌の溶出液などが挙げられる。上記砒素吸着性再生セルロース成形体は、低濃度の砒素でも吸着可能であり、吸着除去効率が高い。例えば、砒素(砒酸イオン、亜砒酸イオン)の濃度が0.01〜100ppmの広範囲について処理可能である。
【0046】
例えば、上記砒素吸着性再生セルロース繊維(原綿)を開繊しカラムに詰め、或いは上記砒素吸着性再生セルローススポンジをカラムに詰め、詰め綿又は詰め材料として使用して飲料水などの液体被処理対象の濾過にも使用可能であるし、原綿又はスポンジに対して各種加工を行い、使用環境に合わせた仕様にすることもできる。例えば、紡毛用紡績を行い太い紡績糸に加工後、糸巻き用カートリッジフィルターに加工して、水処理材として用いてもよい。ニードルパンチ不織布のような不織布状態に加工した濾過布でもよく、水流交絡不織布としてワイパーやウェットシートに使用してもよい。湿紙として生産した物を抄紙し、コーヒーのドリッパーのような形態で濾過材として使用することも可能である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例において添加量を単に%と表記した場合は、質量%を意味する。
【0048】
(実施例1)
[紡糸用ビスコース液の調製]
天然ゼオライトの微粒子(「イズカライト」、平均粒子径:63μm以下、株式会社イズカ製)100質量部と、分散剤(「デモールT」、花王ケミカル製)2質量部の混合物に、水を添加混合してゼオライトの濃度が20質量%の分散液を調製した。その後湿式粉砕分散機「Dyno−mill TYPE KDL−PILOT」(Willly A. Bachofen AG Maschinenfabrik製)にて、周速14m/秒、処理量10L/時間で20回(pass)通過させ、分散液中のゼオライトの微粒子の平均粒子径を1.15μmとした。ゼオライトの添加量がセルロースに対して17.6質量%となるように、粉砕処理後のゼオライトの分散液を原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。
[紡糸条件]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率45%で紡糸して、繊度3.3dtexのゼオライトを含有するレーヨン繊維の糸条を得た。第1浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/Lを含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.09mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。紡糸中、単糸切れなどの不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
上記で得られたゼオライト含有レーヨン繊維の糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。次いで、十分水洗し、油剤を付与した後、圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、乾燥処理(60℃、7時間)を施した。
[処理条件]
塩化鉄6水和物(Fe
3+)を使用して鉄分の濃度が0.1質量%の鉄イオンを含む水溶液(pH3)を調製し、得られた鉄イオンを含む水溶液に、繊維との浴比が1:20になるように、乾燥後のゼオライト含有レーヨン繊維を浸漬し、室温で5分間放置した。その後繊維をイオン交換水で洗浄し、2槽式洗濯機の脱水を1分間行い、乾燥処理(60℃、7時間)を施し、繊維Aを得た。
【0049】
(実施例2)
塩化鉄6水和物(Fe
3+)に替えて、硫酸鉄7水和物(Fe
2+)を用いた以外は、実施例1と同様にして繊維Bを得た。
【0050】
(比較例1)
鉄化合物による処理を行っていない以外は、実施例1と同様にしてゼオライト含有レーヨン繊維(繊維C)を得た。
【0051】
(実施例3)
[紡糸用ビスコース液の調製]
モレキュラーシーブの微粒子(「HISIV−3000 POWDER」、平均粒子径:3μm、ユニオン昭和株式会社製)100質量部と、分散剤(「デモールT」、花王ケミカル製)5質量部の混合物に、純水を添加してモレキュラーシーブの濃度が15質量%の分散液を調製した。モレキュラーシーブの添加量がセルロースに対して17.6質量%となるように、モレキュラーシーブの分散液を原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。
[紡糸条件]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率45%で紡糸して、繊度3.3dtexのモレキュラーシーブを含有するレーヨン繊維の糸条を得た。第1浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/Lを含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.09mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。紡糸中、単糸切れなどの不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
上記で得られたモレキュラーシーブ含有レーヨン繊維の糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。次いで、十分水洗し、油剤を付与した後、圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、乾燥処理(60℃、7時間)を施した。
[処理条件]
塩化鉄6水和物(Fe
3+)を使用して鉄分の濃度が0.1質量%の鉄イオンを含む水溶液(pH3)を調製し、得られた鉄イオンを含む水溶液に、繊維との浴比が1:20になるように、乾燥後のモレキュラーシーブ含有レーヨン繊維を浸漬し、室温で5分間放置した。その後繊維をイオン交換水で洗浄し、2槽式洗濯機の脱水を1分間行い、乾燥処理(60℃、7時間)を施し、繊維Dを得た。
【0052】
(比較例2)
鉄化合物による処理を行っていない以外は、実施例3と同様にしてモレキュラーシーブ含有レーヨン繊維(繊維E)を得た。
【0053】
(実施例4)
[紡糸用ビスコース液の調製]
ポリアクリル酸の溶液(荒川化学工業株式会社製「タマノリG−37」、濃度8.5%、粘度:4500mPa・s)を用い、ポリアクリル酸の質量がセルロースに対して6.0質量%となるように、ポリアクリル酸の溶液を原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。
[紡糸条件]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率45%で紡糸して、繊度3.3dtexのポリアクリル酸を含有するレーヨン繊維の糸条を得た。第1浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/Lを含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.09mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。紡糸中、単糸切れなどの不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
上記で得られたポリアクリル酸含有レーヨン繊維の糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。次いで、十分水洗し、油剤を付与した後、圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、乾燥処理(60℃、7時間)を施した。
[処理条件]
塩化鉄6水和物(Fe
3+)を使用して鉄分の濃度が0.1質量%の鉄イオンを含む水溶液(pH3)を調製し、得られた鉄イオンを含む水溶液に、繊維との浴比が1:20になるように、乾燥後のポリアクリル酸含有レーヨン繊維を浸漬し、室温で5分間放置した。その後繊維をイオン交換水で洗浄し、2槽式洗濯機の脱水を1分間行い、乾燥処理(60℃、7時間)を施し、繊維Fを得た。
【0054】
(比較例3)
鉄化合物による処理を行っていない以外は、実施例4と同様にしてポリアクリル酸含有レーヨン繊維(繊維G)を得た。
【0055】
(比較例4)
[紡糸用ビスコース液の調製]
酸化ジルコニウムの微粒子(平均粒子径1.5μm、株式会社三井金属製)100質量部と、分散剤(「デモールT」、花王ケミカル製)5質量部の混合物に、純水を添加混合して酸化ジルコニウムの濃度が15質量%の分散液を調製した。酸化ジルコニウムの添加量がセルロースに対して11質量%となるように、得られた酸化ジルコニウムの分散液を原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。
[紡糸条件]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率45%で紡糸して、繊度1.7dtexの酸化ジルコニウムを含有するレーヨン繊維の糸条を得た。第一浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.07mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。紡糸中、単糸切れなどの不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
上記で得られた酸化ジルコニウム含有レーヨン繊維の糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。次いで、十分水洗し、油剤を付与した後、圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、乾燥処理(60℃、7時間)を施し繊維Hを得た。
【0056】
(比較例5)
[紡糸用ビスコース液の調製]
二酸化チタン(平均粒子径0.5μm)100質量部と、分散剤「ヘキサメタリン酸ナトリウム」1質量部の混合物に、純水を添加混合して二酸化チタンの濃度が15質量%の分散液を調製した。二酸化チタンの添加量がセルロースに対して10質量%となるように、得られた二酸化チタンの分散液を原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。
[紡糸条件]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率45%で紡糸して、繊度1.7dtexの二酸化チタンを含有するレーヨン繊維の糸条を得た。第一浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.07mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。紡糸中、単糸切れなどの不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
上記で得られた二酸化チタン含有レーヨン繊維の糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。次いで、十分水洗し、油剤を付与した後、圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、乾燥処理(60℃、7時間)を施し繊維Iを得た。
【0057】
(比較例6)
[紡糸用ビスコース液の調製]
針葉樹活性炭(平均粒子径1.2μm)100質量部と、分散剤(「デモールT」、花王ケミカル製)5質量部の混合物に、純水を添加混合して活性炭の濃度が15質量の%分散液を調製した。活性炭の添加量がセルロースに対して17.6質量%となるように、得られた活性炭の分散液を原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。
[紡糸条件]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率45%で紡糸して、繊度3.3dtexの活性炭を含有するレーヨン繊維の糸条を得た。第一浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.09mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。紡糸中、単糸切れなどの不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
上記で得られた活性炭含有レーヨン繊維の糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。次いで、十分水洗し、油剤を付与した後、圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、乾燥処理(60℃、7時間)を施し繊維Jを得た。
【0058】
(比較例7)
紡糸用ビスコース液として、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液をそのまま使用し、比較例4と同様の紡糸条件及び精練条件で紡糸、精練し、セルロース100%のレギュラーレーヨン繊維(繊維K)を得た。
【0059】
実施例1〜4の繊維における鉄含有量を下記のように測定し、その結果を下記表1に示した。また、実施例及び比較例の繊維の砒素に対する吸着性を下記のように測定・評価し、その結果を下記表1に示した。
【0060】
(鉄の含有量の測定)
(a)繊維(原綿)を105℃で2時間定温送風乾燥機内に放置し、その後秤量瓶にいれ、デシケータに1時間入れ室温(20±5℃)になったら、絶乾質量を測定した。
(b)上記で得られた乾燥後の原綿を800℃で灰化し、灰を硝酸で溶解してJIS K 0102の吸光光度法により鉄を定量分析し、鉄の質量を算出した。
(c)下記式により、繊維中の鉄の含有量(存在量)を算出した。
鉄の含有量(質量%)=(吸光光度による鉄の質量/繊維の絶乾質量)×100
【0061】
(砒素の吸着試験1)
(a)砒素として換算した濃度が0.979ppmの砒酸(五価)の水溶液を原液として用いた。原液における砒素濃度を初期砒素濃度とした。
(b)原液100mLと試料1.0gをポリプロピレン容器に入れ、24時間振とうした後、試料を取り除き、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS、島津製作所製、「ICPM−8500」)を使用して残液中の砒素濃度を測定した。残液中の砒素濃度を吸着後砒素濃度とした。
(c)下記式により、砒素除去率を算出した。
砒素除去率(%) = 100−{(吸着後砒素濃度/初期砒素濃度)×100}
【0062】
(砒素の吸着試験2)
(a)砒素として換算した濃度が1mg/Lの三酸化二砒酸(三価)を含む塩酸溶液を対象砒素溶液として用いた。対象砒素溶液における砒素濃度を対象砒素溶液濃度とした。
(b)対象砒素溶液200mLと試料2.0gをポリプロピレン容器に入れ、緩やかに5時間振とうした後、試料を取り除き、工業排水試験法JIS K 0102 61.3に従い、残液中の砒素濃度を測定した。残液中の砒素濃度を吸着後砒素溶液濃度とした。
(c)下記式により、砒素除去率を算出した。
砒素除去率(%)=100−{(吸着後砒素溶液濃度/対象砒素溶液濃度)×100}
【0063】
【表1】
【0064】
上記表1の結果から分かるように、イオン結合性を有する多孔性の無機粒子及びカルボキシル基含有有機高分子からなる群から選ばれる一種以上の担体と、担体に担持されている鉄イオンで構成された鉄イオン複合体をセルロース内に有する実施例1〜4の再生セルロース繊維は、液体被処理対象(水中)の砒素(砒素イオン)を80%以上除去していた。特に、担体と3価の鉄イオンで構成された鉄イオン複合体を含む砒素吸着性再生セルロース繊維は、担体と2価の鉄イオンで構成された鉄イオン複合体を含む砒素吸着性再生セルロース繊維に比べて、砒素吸着性能がより高かった。一方、セルロース内にイオン結合性を有する多孔性の無機粒子のみを含有する比較例1、2の繊維は、砒素吸着性能を有しておらず、水中から砒素を除去することができなかった。セルロース内にカルボキシル基含有有機高分子のみを含有する比較例3の繊維も、砒素吸着性能を十分に有していなかった。カチオン吸着特性を有する酸化ジルコニウム又は二酸化チタンをセルロース内に有する比較例4〜5の繊維も、砒素吸着性能が格段に低く、砒素の除去率が30%未満であった。同様に、物理吸着特性を有する活性炭をセルロース内に有する比較例6の繊維は、砒素吸着性能を有しておらず、水中から砒素を除去することができなかった。比較例7のレギュラーレーヨン繊維も砒素吸着性能を有していなかった。