特許第6112961号(P6112961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6112961サルモネラ属菌に対して溶菌性を示す新規バクテリオファージ、及びそれを含有する組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6112961
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】サルモネラ属菌に対して溶菌性を示す新規バクテリオファージ、及びそれを含有する組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/00 20060101AFI20170403BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20170403BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20170403BHJP
   A23K 10/18 20160101ALI20170403BHJP
【FI】
   C12N7/00
   A61K35/76
   A61P31/04
   A61P31/04 171
   A23K10/18
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2013-99740(P2013-99740)
(22)【出願日】2013年5月9日
(65)【公開番号】特開2014-217336(P2014-217336A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年2月29日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01498
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01499
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01500
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01501
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01502
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-01503
(73)【特許権者】
【識別番号】000106106
【氏名又は名称】サラヤ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 頼子
(72)【発明者】
【氏名】谷口 暢
(72)【発明者】
【氏名】アスカル コジャエフ
【審査官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/042964(WO,A1)
【文献】 特表2011−514802(JP,A)
【文献】 特表2013−503628(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/087037(WO,A1)
【文献】 特開2009−215226(JP,A)
【文献】 Can. J. Microbiol.,2011年,57 (12),p.1042-1051
【文献】 Appl. Environ. Microbiol.,2012年,78 (18),p.6600-6607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともS. Entetitidis、S. Typhimurium、S. Gallinarum、S. Pullorum、S. Infentis、およびS. Thompsonに対して溶菌活性を有する、受託番号「NITE P-01498」として寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株
【請求項2】
請求項1に記載するバクテリオファージを含有し、少なくともS. Entetitidis、S. Typhimurium、S. Gallinarum、S. Pullorum、S. Infentis、およびS. Thompsonに対して溶菌作用を有するバクテリオファージ組成物。
【請求項3】
さらに、サルモネラ属菌に対して溶菌活性を示す他の1または2以上のバクテリオファージを含有することを特徴とする、請求項に記載するバクテリオファージ組成物。
【請求項4】
S. Entetitidis、S. Typhimurium、S. Gallinarum、S. Pullorum、S. Infentis、およびS. Thompsonに加えて、さらにS. Hadar、S. Oranienburg、S. Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S. Mbandaka、S. Meleagridis、S. Javiana、S. Paratyphi B、S. Choleraesuis、S. Worthington、S. Sofia、S. Strasbourg、S. Abortusequi、S. Dublin、S. Virchow、S. Anatum、S. Cerro、S. Montevideo、S. Give、及びS. Johannesburgからなる群から選択される少なくとも1種のサルモネラ属菌に対して溶菌活性を示すことを特徴とする、請求項2または3に記載するバクテリオファージ組成物。
【請求項5】
上記請求項1に記載するバクテリオファージに加えて、さらに下記(2)〜(6)に記載するバクテリオファージから選択される少なくとも1種のバクテリオファージを含有する、請求項2乃至4のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物:
(2)受託番号「NITE P-01499」として寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株、
(3)受託番号「NITE P-01500」として寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株、
(4)受託番号「NITE P-01501」として寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株、
(5)受託番号「NITE P-01502」として寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株、
(6)受託番号「NITE P-01503」として寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株。
【請求項6】
請求項1に記載するバクテリオファージ、または請求項2乃至5のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物を有効成分とするサルモネラ属菌に対する防除剤。
【請求項7】
食品添加物、家畜飼料用添加物、ペット餌料用添加物、ヒト用医薬組成物、非ヒト動物用医薬組成物、及び殺菌または消毒剤からなる群から選択されるいずれかである、請求項に記載する防除剤。
【請求項8】
上記請求項1に記載するバクテリオファージ、または請求項2乃至5のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物を用いて、サルモネラ属菌を防除すべき被処理物を処理する工程を有する、サルモネラ属菌の防除方法(但し、人間を治療する方法を除く。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サルモネラ属菌に属する少なくともSalmonella Enteritidis、Salmonella Typhimurium、Salmonella Gallinarum、Salmonella Pullorum、Salmonella InfentisおよびSalmonella Thompsonに対して溶菌活性を示すバクテリオファージ、及びバクテリオファージ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サルモネラ属菌は、グラム陰性の通性嫌気性桿菌で、腸内細菌科に属し、一般に周毛性鞭毛によって運動性を有する。サルモネラ属菌は、2000種類以上の血清型に細分されており、ヒトに対して食中毒を起こし、家禽、ブタ、及びウシなどにもサルモネラ症を引き起こすサルモネラ属菌としてSalmonella Enteritidis、及びSalmonella Typhimurium;家禽に特異的なサルモネラ属菌としてSalmonella Gallinarum、及びSalmonella Pullorumなどが知られている。また、近年では鶏肉から頻繁に検出されるSalmonella Infentisやサルモネラ食中毒の原因菌として常に上位に位置するSalmonella Thompsonが問題視されている(以下、Salmonellaを、その頭文字をとって単に「S.」と標記する場合がある。)。
【0003】
日本では、サルモネラ属菌を原因とした食中毒が、1990年代から急増しており、年間平均約3000〜4000人もの人が感染している。日本国厚生労働省の食中毒統計でもサルモネラ属菌を原因とした食中毒は毎年2〜3位を保持しており、その感染予防対策は非常に困難である。
【0004】
こうしたサルモネラ食中毒事例の中で、原因食品が特定できたものの約50%が鶏卵による食中毒である。鶏卵のサルモネラ汚染経路としては、大きく分けて二つあり、一つは卵内の汚染、もう一つは卵殻の汚染である。前者の汚染は飼料などを通じて、鶏の卵巣内にサルモネラ属菌が定着したことが原因である。後者の汚染は、鶏の総排泄口付近あるいは環境に付着したサルモネラ属菌が原因である。したがって、サルモネラ汚染を防ぐためには、鶏のサルモネラ感染を予防し、養鶏場の環境を清浄化する必要がある。そのため、日本国農林水産省からは「鶏卵のサルモネラ総合対策指針」が出され、それにしたがって養鶏場ではサルモネラ対策が行われている。具体的には(1)飼料を加熱あるいは有機酸処理をしてサルモネラフリー化する、(2)生菌製剤あるいはオリゴ糖を用いて、鶏の腸内菌叢を強化する、(3)鶏に抗生物質を投与する、(4)消毒薬を用いて養鶏場等の環境のサルモネラ汚染を除去する、などの対策を行っている。しかし、これら全ての対策を実行するには、非常にコストがかかる上、養鶏場の消毒にホルマリン燻蒸のような人体にも影響の大きい薬剤が用いられる場合も多く、安全性にも大きな問題がある。また、抗生物質の投与は、耐性菌の出現が問題となっており、ヨーロッパでは2006年から抗生物質の飼料への添加が全面的に禁止されている。これらの問題は養鶏場に限らず、様々な家畜分野においても起こっている。このような背景から、低コストで安全で且つ確実なサルモネラ除去方法の確立が求められている。
【0005】
その新たな防除方法として、バクテリオファージの利用が挙げられる。バクテリオファージは、特定の細菌内でのみ増殖し、細胞を破壊または溶菌するウイルスである。バクテリオファージは1915〜1917年に発見され、バクテリオファージを用いた細菌感染症の治療が活発に行われていたが、1940年代に抗生物質をはじめとする化学療法が始まり、ファージ療法は表舞台より消えていった。しかし、近年、抗生物質に対する耐性菌の出現が大きな問題となり、その使用が控えられるようになっている。その抗生物質に替わる方法としてバクテリオファージを用いた感染制御法が再び注目を集めている。
【0006】
バクテリオファージを用いた感染制御法としては、人に対して、抗生物質の代わりに投与して、感染症を治癒した例や、創傷部に塗布して回復した例など多くの実用例がある他、果物や農産物の殺菌目的での実用例がある。最近では、欧米でバクテリオファージ製剤が認可を受けている。例を挙げると、アメリカにおいてリステリア食中毒の予防を目的としたLMP-102(Intralytix社)およびListex P-100(EBI Food Safety社)が食品添加物製剤として認可されている。
【0007】
家畜衛生および食中毒の分野で問題となるサルモネラ属菌に対する感染防御方法も研究されており、特に家禽で問題となるサルモネラ属菌に対するバクテリオファージを用いた感染制御法も報告されている(特許文献1〜3等参照)。
【0008】
しかし、上記特許文献に記載されたバクテリオファージは、S. Enteritidis、S. Typhimurium、S. Gallinarum、またはS. Pullorumに対して溶菌作用を発揮するものであり、近年問題視されているS. InfentisやS. Thompson、およびその他のサルモネラ属菌については記載されていない。家畜衛生を維持し、食中毒を防止するためには、サルモネラ属菌のS. Enteritidis、S. Typhimurium、S. GallinarumおよびS. Pullorumだけでなく、S. Infentis、S. Thompsonおよびその他サルモネラ属菌も制御する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2011-509653号公報
【特許文献2】特表2011-511626号公報
【特許文献3】特表2011-514802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような技術的背景の下、サルモネラ属に属する少なくともS. Enteritidis、S. Typhimurium、S. Gallinrum、S. Pullorum、S. InfentisおよびS. Thompsonに対して溶菌活性を有するバクテリオファージ、及び当該バクテリオファージを含有し、上記溶菌活性を有する組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、当該バクテリオファージ、またはそれを含有するバクテリオファージ組成物の用途、具体的にはサルモネラ属菌を選択的かつ効果的に防除するための各種用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述するように、サルモネラ属菌の中には、ヒトに対して食中毒を起こしたり、家禽、ブタ、及びウシ等の家畜(非ヒト動物)にサルモネラ症等の感染症を引き起こす菌が複数存在する。
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討していたところ、自然界より新たに単離したバクテリオファージが、上記ヒトに食中毒を起こしたり、非ヒト動物に感染症を引き起こす複数のサルモネラ属菌に対して優れた溶菌活性を示すことを見出し、当該バクテリオファージを用いることでこれらのサルモネラ属菌を一度に死滅させることができることを確認した。当該バクテリオファージ、並びにこれを含むバクテリオファージ組成物(ファージカクテル)を用いることで、サルモネラ属菌の防除、並びにサルモネラ属菌を原因とする食中毒や感染症の予防を有効に行うことができると考えられる。
【0013】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含するものである。
【0014】
(I)新規バクテリオファージ
(I-1)下記の特性を有することを特徴とするバクテリオファージ:
(1-a)家禽に由来する、
(1-b)カウドウイルス目(Caudovirale)マイオウイルス科(Myoviridae)に属する、
(1-c)少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Gallinarum、S.Pullorum、S. Infentis、およびS.Thompsonに対して溶菌作用を有する、
(1-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量が1〜15万のゲルで電気泳動したときに、60.1±1.0kDa、54.7±1.0kDa、42.4±1.0kDa、15.8±1.0kDa、及び14.8±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される、
(1-e)DNAサイズが84.5±1.0kbpである。
【0015】
なお、本明細書では当該バクテリオファージを「バクテリオファージΦSRY-1」、または「ファージΦSRY-1」若しくは「ΦSRY-1」と称する場合がある。
【0016】
(I-2)さらに下記の特性を有することを特徴とする(I-1)記載のバクテリオファージ:
(1-e)抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したときに、図6(A)の右レーンに示すパターンを示す。
(I-3)上記家禽が鶏である、(I-1)または(I-2)に記載するバクテリオファージ。
(I-4)さらにS. Hadar、S. Oranienburg、S.Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S.Mbandaka、S. Meleagridis、S.Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S.Abortusequi、S. Dublin、S. Virchow、S. Anatum、S. Cerro、S. Montevideo、S.Give、及びS. Johannesburgからなる群から選択される少なくとも1つ、好ましくはすべてのサルモネラ属菌に対して溶菌活性を示すことを特徴とする(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載するバクテリオファージ。
(I-5)受託番号「NITE P-01498」として寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株である、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載するバクテリオファージ。
【0017】
(II)バクテリオファージ組成物
(II-1)上記(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載するバクテリオファージを含有し、少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Gallinarum、S.Pullorum、S. Infentis、およびS.Thompsonに対して溶菌作用を有するバクテリオファージ組成物。
(II-2)さらに、サルモネラ属菌に対して溶菌活性を示す他の1または2以上のバクテリオファージを含有することを特徴とする(II-1)記載のバクテリオファージ組成物。
(II-3)S. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Gallinarum、S.Pullorum、S. Infentis、およびS.Thompsonに加えて、さらにS. Hadar、S. Oranienburg、S.Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S.Mbandaka、S. Meleagridis、S.Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S.Abortusequi、S. Dublin、S. Virchow、S. Anatum、S. Cerro、S. Montevideo、S.Give、及びS. Johannesburgからなる群から選択される少なくとも1種のサルモネラ属菌、好ましくはこれらのサルモネラ属菌すべてに対して溶菌活性を示すことを特徴とする、(II-1)または(II-2)に記載するバクテリオファージ組成物。
(II-4)上記(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載するバクテリオファージに加えて、さらに下記(2)〜(6)に記載するバクテリオファージから選択される少なくとも1種のバクテリオファージを含有する、(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物:
(2)下記の特性を有することを特徴とするバクテリオファージ:
(2-a)家禽に由来する、
(2-b)カウドウイルス目(Caudovirale)マイオウイルス科(Myoviridae)に属する、
(2-c)少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Infentis、S. Newport、およびS. Gallinarum対して溶菌活性を有する、
(2-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量が1〜15万のゲルで電気泳動したときに、53.2±1.0kDa、42.1±1.0kDa、15.8±1.0kDa、及び14.3±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される、
(2-e)DNAサイズが84.7±1.0kbpである;
(なお、本明細書では当該バクテリオファージを「バクテリオファージΦSRY-2」、または「ファージΦSRY-2」若しくは「ΦSRY-2」と称する場合がある。)
【0018】
(3)下記の特性を有することを特徴とするバクテリオファージ:
(3-a)家禽に由来する、
(3-b)カウドウイルス目(Caudovirale)サイフォウイルス科(Siphoviridae)に属する、
(3-c)少なくともS. Infentis、S.Gallinarum、S. Pullorum、S.Oranienburg、およびS. Derby、に対して溶菌作用を有する、
(3-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量が1〜15万のゲルで電気泳動したときに、60.3±1.0kDa、55.5±1.0kDa、35.0±1.0kDa、28.9±1.0kDa、及び18.9±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される、
(3-e)DNAサイズが、106.6±1.0kbpである;
(なお、本明細書では当該バクテリオファージを「バクテリオファージΦSRY-3」、または「ファージΦSRY-3」若しくは「ΦSRY-3」と称する場合がある。)
【0019】
(4)下記の特性を有することを特徴とするバクテリオファージ:
(4-a)家禽に由来する、
(4-b)カウドウイルス目(Caudovirale)マイオウイルス科(Myoviridae)に属する、
(4-c)少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Infentis、S. Thompson、S. NewportおよびS. Agonaに対して溶菌活性を有する、
(4-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量が1〜15万のゲルで電気泳動したときに、51.2±1.0kDa、39.2±1.0kDa、16.0±1.0kDa、及び14.4±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される、
(4-e)DNAサイズが140.8±1.0kbpである;
(なお、本明細書では当該バクテリオファージを「バクテリオファージΦSRY-4」、または「ファージΦSRY-4」若しくは「ΦSRY-4」と称する場合がある。)
【0020】
(5)下記の特性を有することを特徴とするバクテリオファージ:
(5-a)家禽に由来する、
(5-b)カウドウイルス目(Caudovirale)サイフォウイルス科(Siphoviridae)に属する、
(5-c)少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Infentis、S.GallinarumおよびS. Agonaに対して溶菌活性を有する、
(5-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量が1〜15万のゲルで電気泳動したときに、35.2±1.0kDa、28.8±1.0kDa、及び20.2±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される、
(5-e)DNAサイズが108.5±1.0kbpである;
(なお、本明細書では当該バクテリオファージを「バクテリオファージΦSRY-5」、または「ファージΦSRY-5」若しくは「ΦSRY-5」と称する場合がある。)
【0021】
(6)下記の特性を有することを特徴とするバクテリオファージ:
(6-a)家禽に由来する、
(6-b)イノウイルス科(Inoviridae) に属する、
(6-c)少なくともS. Gallinarum、S.Pullorum、S. Abortusequi、S.Anatum、およびS. Giveに対して溶菌活性を有する、
(6-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量が1〜15万のゲルで電気泳動したときに、59.2±1.0kDa、及び41.6±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される、
(6-e)DNAサイズが38.7±1.0kbpである;
(なお、本明細書では当該バクテリオファージを「バクテリオファージΦSRY-6」、または「ファージΦSRY-6」若しくは「ΦSRY-6」と称する場合がある。)。
【0022】
(II-5)上記のバクテリオファージΦSRY-2〜ΦSRY-6が、それぞれさらに下記の特性を有するものである、(II-4)に記載するバクテリオファージ組成物:
(2-e)ΦSRY-2:抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理し0.8%アガロースゲルで電気泳動したときに、図6(B)の右レーンに示すパターンを示す、
(3-e)ΦSRY-3:抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したときに、図6(C)の右レーンに示すパターンを示す、
(4-e)ΦSRY-4:抽出したゲノムDNAを37℃で2時間Hind III処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したとき、図7(D)の右レーンに示すパターンを示す、
(5-e)ΦSRY-5:抽出したゲノムDNAを37℃で2時間EcoRI処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したときに、図7(E)の右レーンに示すパターンを示す、
(6-e)ΦSRY-6:抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したときに、図7(F)の右レーンに示すパターンを示す。
(II-6)上記(2)バクテリオファージΦSRY-2が受託番号「NITE P-01499」で寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株である、(II-4)または(II-5)に記載するバクテリオファージ組成物。
(II-7)上記(3)バクテリオファージΦSRY-3が受託番号「NITE P-01500」で寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株である、(II-4)乃至(II-6)のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物。
(II-8)上記(4)バクテリオファージΦSRY-4が受託番号「NITE P-01501」で寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株である、(II-4)乃至(II-7)のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物。
(II-9)上記(5)バクテリオファージΦSRY-5が受託番号「NITE P-01502」で寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株である、(II-4)乃至(II-8)のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物。
(II-10)上記(6)バクテリオファージΦSRY-6が受託番号「NITE P-01503」で寄託されたバクテリオファージ、その原株、またはそれらの継代株である、(II-4)乃至(II-9)のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物。
(II-11)上記(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載するバクテリオファージが、ゼラチン含有リン酸緩衝液及びゼラチン含有グリシン緩衝液からなる群から選択されるいずれかの緩衝液中に配合されてなることを特徴とする、(II-1)乃至(II-10)のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物。
【0023】
(III)サルモネラ防除剤、及びサルモネラ属菌の防除方法
(III-1)上記(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載するバクテリオファージ、または上記(II-1)乃至(II-11)のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物を有効成分とするサルモネラ属菌に対する防除剤(サルモネラ防除剤)。
(III-2)上記サルモネラ属菌が、少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Gallinarum、S.Pullorum、S. Infentis、およびS.Thompsonである、(III-1)に記載するサルモネラ防除剤。
(III-3)上記サルモネラ属菌が、S. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Gallinarum、S.Pullorum、S. Infentis、S.Thompson、S. Hadar、S. Oranienburg、S.Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S.Mbandaka、S. Meleagridis、S.Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S.Abortusequi、S. Dublin、S. Virchow、S. Anatum、S. Cerro、S. Montevideo、S.Give、及びS. Johannesburgである、(III-1)に記載するサルモネラ防除剤。
(III-4)上記サルモネラ防除剤が、食品添加物、家畜飼料用添加物、ペット餌料用添加物、ヒト用医薬組成物、非ヒト動物用医薬組成物、及び殺菌または消毒剤からなる群から選択されるいずれかである、(III-1)乃至(III-3)のいずれかに記載するサルモネラ防除剤。
(III-5)上記(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載するバクテリオファージ、または上記(II-1)乃至(II-11)のいずれかに記載するバクテリオファージ組成物を用いて、サルモネラ属菌を防除すべき被処理物を処理する工程を有する、サルモネラ属菌の防除方法。
(III-6)上記サルモネラ属菌が、少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Gallinarum、S.Pullorum、S. Infentis、およびS.Thompsonである、(III-5)に記載する防除方法。
(III-7)上記サルモネラ属菌が、S. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Gallinarum、S.Pullorum、S. Infentis、S.Thompson、S. Hadar、S. Oranienburg、S.Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S.Mbandaka、S. Meleagridis、S.Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S.Abortusequi、S. Dublin、S. Virchow、S. Anatum、S. Cerro、S. Montevideo、S.Give、及びS. Johannesburgである、(III-5)に記載する防除方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明が提供するバクテリオファージΦSRY-1は、サルモネラ属菌の少なくともS. Enteritidis、S.Typhimurium、S. Infentis、S.Tompson、S. GallinarumおよびS.Pullorumに対して有効に働き、溶菌を引き起こす。これらのサルモネラ属菌のうち、S. EnteritidisおよびS.Typhimuriumは、ヒトに対して食中毒を起こし、家禽、ブタおよびウシなどの家畜にサルモネラ感染症を引き起こす原因菌であり、またS.Tompson及びS. Infentisはヒトに対して食中毒を起こすことが知られているサルモネラ属菌である。また、S. GallinarumおよびS.Pullorumは家禽に特異的にサルモネラ感染症を発症させる原因菌であり、その家禽サルモネラ感染症は法定伝染病に指定されている。当該バクテリオファージΦSRY-1は、より詳細には、上記サルモネラ属菌以外のサルモネラ属菌、例えばS. Hadar、S. Oranienburg、S.Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S.Mbandaka、S. Meleagridis、S.Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S.Abortusequi、S. Dublin、S. Virchow、S. Anatum、S. Cerro、S. Montevideo、S.Give、及びS. Johannesburgからなる群から選択される1または2以上、好ましくはこれらすべてのサルモネラ属菌に対しても有効に働き、溶菌を引き起こす。また本発明のバクテリオファージ組成物は、上記バクテリオファージΦSRY-1に加えて、異なるタイプの他のバクテリオファージを1種または2種以上含むものである。
【0025】
従って、本発明のバクテリオファージΦSRY-1、またはこれを含むバクテリオファージ組成物によれば、自然界に分布する種々のサルモネラ属菌の防除に有効に使用することが可能である。また、自然発生するファージ耐性菌の生育も抑えることができる。
【0026】
特にファージは安価で大量生産できるので、養鶏場等の家畜衛生環境に散布して、環境中に存在するサルモネラ属菌を殺菌することができる。また、鶏等家畜に直接接種させることにより、家畜に対するサルモネラ属菌の感染を予防したり、サルモネラ感染を治療することが可能である。さらに食品に、食品添加物として添加しておくと、食品中のサルモネラ属菌の増殖を抑制することができ、サルモネラ食中毒を防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明が対象とするバクテリオファージ(ΦSRY-1〜ΦSRY-6)が溶菌活性を示すサルモネラ属菌の種類(血清型と株名)を示す。
図2】本発明が対象とするファージΦSRY-1〜ΦSRY-6の電子顕微鏡画像である。(A)ΦSRY-1の電子顕微鏡画像である。頭部と収縮性の尾部を持つMyoviridaeに属する。(B)ΦSRY-2の電子顕微鏡画像である。頭部と収縮性の尾部を持つMyoviridaeに属する。(C)ΦSRY-3の電子顕微鏡画像である。頭部と非収縮性の尾部を持つSiphoviridaeに属する。(D)ΦSRY-4の電子顕微鏡画像である。頭部と収縮性の尾部を持つMyoviridaeに属する。(E)ΦSRY-5の電子顕微鏡画像である。頭部と非収縮性の尾部を持つSiphoviridaeに属する。(F)ΦSRY-6の電子顕微鏡画像である。繊維状の構造を持つInoviridaeに属する。
図3】本発明が対象とするファージΦSRY-1及びΦSRY-2のSDS-PAGEの結果を示す画像である。各図の左側のレーンは、タンパク質分子量マーカー(商品名:「第一」・III(第一化学薬品株式会社)のバンドを示す。図3及び4においても同じ。(A)右レーン:ΦSRY-1のタンパク質パターンを示す。60.1kDa、54.7kDa、42.4kDa、15.8kDaおよび14.8kDaの主要タンパク質のバンドが確認された。(B)右レーン:ΦSRY-2のタンパク質パターンを示す。53.2kDa、42.1kDa、15.8kDaおよび14.3kDaの主要タンパク質のバンドが確認された。
図4】本発明が対象とするファージΦSRY-3及びΦSRY-4のSDS-PAGEの結果を示す画像である。(C)右レーン:ΦSRY-3のタンパク質パターンを示す。60.3kDa、55.5kDa、35.0kDa、28.9kDaおよび18.9kDaの主要タンパク質のバンドが確認された。(D)右レーン:ΦSRY-4のタンパク質パターンを示す。51.2kDa、39.3kDa、16.0kDaおよび14.4kDaの主要タンパク質のバンドが確認された。
図5】本発明が対象とするファージΦSRY-5及びΦSRY-6のSDS-PAGEの結果を示す画像である。(E)右レーン:ΦSRY-5のタンパク質パターンを示す。35.2kDa、28.8kDaおよび20.2kDaの主要タンパク質のバンドが確認された。(F)右レーン:ΦSRY-6のタンパク質パターンを示す。59.2kDaと41.6kDaの主要タンパク質のバンドが確認された。
図6】本発明が対象とするファージΦSRY-1〜ΦSRY-3のゲノムDNAの制限酵素切断パターンを示す。各図の左側のレーンは、分子量マーカー(λ/HindIII digest)のバンド(上から23.13kbp、9.42kbp、6.56kbp、4.36kbp、2.32kbp、及び2.03kbp)を示す。図7においても同じ。(A)右レーン:ΦSRY-1のゲノムDNAをHindIIIで処理したときの切断パターンを示す。(B)右レーン:ΦSRY-2のゲノムDNAをHindIIIで処理したときの切断パターンを示す。(C)右レーン:ΦSRY-3のゲノムDNAをHindIIIで処理したときの切断パターンを示す。
図7】本発明が対象とするファージΦSRY-4〜ΦSRY-6のゲノムDNAの制限酵素切断パターンを示す。(D)右レーン:ΦSRY-4のゲノムDNAをHindIIIで処理したときの切断パターンを示す。(E)右レーン:ΦSRY-5のゲノムDNAをEcoRIで処理したときの切断パターンを示す。(F)右レーン:ΦSRY-6のゲノムDNAをHindIIIで処理したときの切断パターンを示す。
図8】本発明が対象とするバクテリオファージ(ΦSRY-1〜ΦSRY-6)を混合したファージカクテル、及び先行技術文献として挙げた特許文献1〜3に記載されるファージ(KCCM 10969P、KCCM 10976P、KCCM 10977P)が溶菌活性を示すサルモネラ属菌の種類(血清型と株名)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(I)新規バクテリオファージ
本発明はサルモネラ属菌に対して溶菌活性を有する新規なバクテリオファージΦSRY-1に関する。当該ΦSRY-1は、少なくとも下記(1-a)〜(1-e)の特性を有することを特徴とする。
【0029】
(1-a)家禽に由来する:
実施例1で説明するように、ΦSRY-1は家禽、具体的には鶏から単離されたファージである。よってΦSRY-1は家禽、特に鶏に由来するバクテリオファージである。
【0030】
(1-b)マイオウイルス科(Myoviridae)に属する:
図1(A)に示す電子顕微鏡画像に示すように頭部と収縮性の尾部を有することを特徴とするマイオウイルス科に属する細菌感染性のバクテリオファージである(実施例4)。
【0031】
(1-c)少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Gallinarum、S.Pullorum、S. Infentis、およびS.Thompsonに対して溶菌活性を有する:
図2に各種サルモネラ属菌に対する溶菌活性を示す(実施例2)。これからわかるように、ΦSRY-1は少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Gallinarum、S.Pullorum、S. Infentis、およびS.Thompsonに対して溶菌作用を有し、より詳細には上記サルモネラ属菌に加えて、さらに他のサルモネラ属菌、例えばS. Hadar、S. Oranienburg、S.Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S.Mbandaka、S. Meleagridis、S.Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S.Abortusequi、S. Dublin、S. Virchow、S. Anatum、S. Cerro、S. Montevideo、S.Give、及びS. Johannesburgに対しても溶菌活性を有する。
【0032】
(1-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量が1万〜15万のゲルで電気泳動したときに、60.1±1.0kDa、54.7±1.0kDa、42.4±1.0kDa、15.8±1.0kDa、及び14.8±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される:
図3(A)に、ΦSRY-1をSDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量が1万〜15万のゲルで電気泳動した画像を示す(実施例5)。これからわかるように、電気泳動像上、60.1kDa、54.7kDa、42.4kDa、15.8kDa、及び14.8kDaに相当する位置(検出誤差を考慮しても±0.1程度)にタンパク質のバンドが検出される。このことから、ΦSRY-1は、少なくとも60.1±1.0kDa、54.7±1.0kDa、42.4±1.0kDa、15.8±1.0kDa、及び14.8±1.0kDaの分子量を有するタンパク質を主要構造タンパク質として有するバクテリオファージであると考えられる。
【0033】
(1-e)DNAサイズが84.5±1.0kbpである。
【0034】
当該DNAサイズは、ΦSRY-1から抽出したのゲノムDNAをシークエンス解析することに得ることができる。当該シークエンス解析によりΦSRY-1のゲノムDNAのサイズは84.5kbpとして特定されるが、測定誤差を考慮しても84.5kbp±1.0kbpの範囲内にある。
【0035】
このように、ΦSRY-1は鶏から単離され、上記(1-b)〜(1-e)の特性を有するものであり、その限りにおいて特に限定されるものではない。
【0036】
なお、図6(A)の右レーンに、ΦSRY-1から抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理した処理物を0.8%アガロースゲルで電気泳動した画像を示す(実施例6)。これからわかるように、ΦSRY-1のゲノムDNAは制限酵素HindIII処理により特徴的な切断パターンを示す。このため、ΦSRY-1は上記(1-a)〜(1-e)の特性に加えて、さらに下記の特性(1-f)を有するものであってもよい。
【0037】
(1-f)抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したとき、図6(A)の右レーンに示すパターンを示す。
【0038】
かかる(1-a)〜(1-f)の特性を有するΦSRY-1は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、2012年12月28日付けで識別の表示:ΦSRY-1、受託番号NITE P-01498として寄託されている(通知番号:2012-0515、通知年月日:2013年4月25日)。但し、上記(1-a)〜(1-e)または(1-a)〜(1-f)の特性を備える限り、当該寄託菌に限らず、その継代株、並びに寄託菌の原株及びその継代株も本発明のΦSRY-1に含まれる。
【0039】
(II)バクテリオファージ組成物
本発明が提供するバクテリオファージ組成物は、上記バクテリオファージΦSRY-1を含有し、サルモネラ属菌のうち少なくともS. Enteritidis、S. Typhimurium、S. Gallinarum、S. Pullorum、S. InfentisおよびS. Thompsonに対して溶菌活性を有することを特徴とする組成物である。好ましくは、これらのサルモネラ属菌に加えて、さらにS. Hadar、S. Oranienburg、S.Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S.Mbandaka、S. Meleagridis、S.Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S.Abortusequi、S. Dublin、S. Virchow、S. Anatum、S. Cerro、S. Montevideo、S.Give、及びS. Johannesburgからなる群から選択される少なくとも1種のサルモネラ属菌、より好ましくはこれらすべてのサルモネラ属菌に対して溶菌活性を示すバクテリオファージ組成物である。
【0040】
当該バクテリオファージ組成物には、上記バクテリオファージΦSRY-1に加えて、さらにサルモネラ属菌に対して溶菌活性を示す他の1または2以上のバクテリオファージを含有する組成物が含まれる。かかるバクテリオファージとして、具体的には下記(2)〜(6)に挙げるバクテリオファージΦSRY-2〜ΦSRY-6を挙げることができる。これら(2)〜(6)のバクテリオファージは、1種単独でΦSRY-1と組み合わせてバクテリオファージ組成物としてもよいし、また任意の2種以上をΦSRY-1と組み合わせてバクテリオファージ組成物としてもよい。
【0041】
(2)バクテリオファージΦSRY-2:
(2-a)家禽に由来する:
実施例1で説明するように、ΦSRY-2は家禽、具体的には鶏から単離されたファージである。よってΦSRY-2は家禽、特に鶏に由来するバクテリオファージである。
【0042】
(2-b)マイオウイルス科(Myoviridae)に属する:
図1(B)に示す電子顕微鏡画像に示すように頭部と収縮性の尾部を有することを特徴とするマイオウイルス科に属する細菌感染性のバクテリオファージである(実施例4)。
【0043】
(2-c)S. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Infentis、S. Newport、およびS. Gallinarum対して溶菌活性を有する:
図2に各種サルモネラ属菌に対する溶菌活性を示す(実施例2)。これからわかるように、ΦSRY-2は少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Infentis、S. Newport、およびS. Gallinarumに対して溶菌作用を有し、より詳細には上記サルモネラ属菌に加えて、さらにS. Hadar、S. Agona、S. Pullorum(一部)、S.Derby、S. Heidelberg、S.Meleagridis、S. Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S.Abortusequi、S. Dublin、S. Montevideo、及びS.Johannesburgのサルモネラ属菌に対しても溶菌活性を有する。
【0044】
(2-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量1万〜15万のゲルで電気泳動したときに、53.2±1.0kDa、42.1±1.0kDa、15.8±1.0kDa、及び14.3±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される:
図3(B)に、ΦSRY-2をSDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量1万〜15万のゲルで電気泳動した画像を示す(実施例5)。これからわかるように、電気泳動像上、53.2kDa、42.1kDa、15.8kDa、及び14.3kDaに相当する位置(検出誤差を考慮しても±0.1程度)にタンパク質のバンドが検出される。このことから、ΦSRY-2は、少なくとも53.2±1.0kDa、42.1±1.0kDa、15.8±1.0kDa、及び14.3±1.0kDaの分子量を有するタンパク質を主要構造タンパク質として有するバクテリオファージであると考えられる。
【0045】
(2-e)DNAサイズが84.7±1.0kbpである。
【0046】
当該DNAサイズは、ΦSRY-2から抽出したゲノムDNAをシークエンス解析することに得ることができる。当該シークエンス解析によりΦSRY-2のゲノムDNAのサイズは84.7kbpとして特定されるが、測定誤差を考慮しても84.7kbp±1.0kbpの範囲内にある。 このように、ΦSRY-2は鶏から単離され、上記(2-b)〜(2-e)の特性を有するものであり、その限りにおいて特に限定されるものではない。
【0047】
なお、図6(B)の右レーンに、ΦSRY-2から抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理した処理物を0.8%アガロースゲルで電気泳動した画像を示す(実施例6)。これからわかるように、ΦSRY-2のゲノムDNAは制限酵素HindIII処理により特徴的な切断パターンを示す。このため、ΦSRY-2は上記(2-a)〜(2-e)の特性に加えて、さらに下記の特性(2-f)を有するものであってもよい。
【0048】
(2-f)抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したとき、図6(B)の右レーンに示すパターンを示す。
【0049】
かかる(2-a)〜(2-f)の特性を有するΦSRY-2は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、2012年12月28日付けで識別の表示:ΦSRY-2、受託番号NITE P-01499として寄託されている(通知番号:2012-0516、通知年月日:2013年4月25日)。但し、上記(2-a)〜(2-e)または(2-a)〜(2-f)の特性を備える限り、当該寄託菌に限らず、その継代株、並びに寄託菌の原株及びその継代株も本発明のΦSRY-2に含まれる。
【0050】
(3)バクテリオファージΦSRY-3:
(3-a)家禽に由来する:
実施例1で説明するように、ΦSRY-3は家禽、具体的には鶏から単離されたファージである。よってΦSRY-3は家禽、特に鶏に由来するバクテリオファージである。
(3-b)サイフォウイルス科(Siphoviridae)に属する:
図1(C)に示す電子顕微鏡画像に示すように、頭部と長くて曲がりやすい非収縮性の尾部を有することを特徴とするサイフォウイルス科に属する細菌感染性のバクテリオファージである(実施例4)。
(3-c)少なくともS. Infentis、S.Gallinarum、S. Pullorum、S. Oranienburg及びS. Derbyに対して溶菌作用を有する:
図2に各種サルモネラ属菌に対する溶菌活性を示す(実施例2)。これからわかるように、ΦSRY-3は少なくともS. Infentis、S.Gallinarum、S. Pullorum、S. Oranienburg及びS. Derbyに対して溶菌作用を有し、より詳細には上記サルモネラ属菌に加えて、さらにS. Hadar、S. Typhimurium(一部)、S. Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S.Mbandaka、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis(一部)、S. Worthington、S.Sofia、S. Virchow、S. Cerro、及びS. Montevideoのサルモネラ属菌に対しても溶菌活性を有する。
(3-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量1万〜15万のゲルで電気泳動したときに、60.3±1.0kDa、55.5±1.0kDa、35.0±1.0kDa、28.9±1.0kDa、及び18.9±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される、
図4(C)に、ΦSRY-3をSDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量1万〜15万ので電気泳動した画像を示す(実施例5)。これからわかるように、電気泳動像上、60.3kDa、55.5kDa、35.0kDa、28.9kDa、及び18.9kDaに相当する位置(検出誤差を考慮しても±0.1程度)にタンパク質のバンドが検出される。このことから、ΦSRY-3は、少なくとも60.3±1.0kDa、55.5±1.0kDa、35.0±1.0kDa、28.9±1.0kDa、及び18.9±1.0kDaの分子量を有するタンパク質を主要構造タンパク質として有するバクテリオファージであると考えられる。
(3-e)DNAサイズが106.6±1.0kbpである。
【0051】
当該DNAサイズは、ΦSRY-3から抽出したゲノムDNAをシークエンス解析することに得られたものである。当該シークエンス解析によりΦSRY-3のゲノムDNAのサイズは106.6kbpとして特定されるが、測定誤差を考慮しても106.6kbp±1.0kbpの範囲内にある。
【0052】
このように、ΦSRY-3は鶏から単離され、上記(3-b)〜(3-e)の特性を有するものであり、その限りにおいて特に限定されるものではない。
【0053】
なお、図6(C)の右レーンに、ΦSRY-3から抽出したゲノムDNAを37℃で2時間Hind III処理した処理物を0.8%アガロースゲルで電気泳動した画像を示す(実施例6)。これからわかるように、ΦSRY-3のゲノムDNAは制限酵素HindIII処理により特徴的な切断パターンを示す。このため、ΦSRY-3は上記(3-a)〜(3-e)の特性に加えて、さらに下記の特性(3-f)を有するものであってもよい。
【0054】
(3-f)抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したとき、図6(C)の右レーンに示すパターンを示す。
【0055】
かかる(3-a)〜(3-f)の特性を有するΦSRY-3は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、2012年12月28日付けで識別の表示:ΦSRY-3、受託番号NITE P-01500として寄託されている(通知番号:2012-0517、通知年月日:2013年4月25日)。但し、上記(3-a)〜(3-e)または(3-a)〜(3-f)の特性を備える限り、当該寄託菌に限らず、その継代株、並びに寄託菌の原株及びその継代株も本発明のΦSRY-3に含まれる。
【0056】
(4)バクテリオファージΦSRY-4:
(4-a)家禽に由来する:
実施例1で説明するように、ΦSRY-4は家禽、具体的には鶏から単離されたファージである。よってΦSRY-4は家禽、特に鶏に由来するバクテリオファージである。
(4-b)マイオウイルス科(Myoviridae)に属する:
図1(D)に示す電子顕微鏡画像に示すように頭部と収縮性の尾部を有することを特徴とするマイオウイルス科に属する細菌感染性のバクテリオファージである(実施例4)。
(4-c)少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Infentis、S. Thompson、S. NewportおよびS. Agonaに対して溶菌活性を有する、
図2に各種サルモネラ属菌に対する溶菌活性を示す(実施例2)。これからわかるように、ΦSRY-4は少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Infentis、S. Thompson、S. NewportおよびS. Agonaに対して溶菌作用を有し、より詳細には上記サルモネラ属菌に加えて、さらにS. Oranienburg、S.Derby、S. Heidelberg、S.Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis(一部)、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S. Virehow、S. Cerro、S. Montevideo、S. Give、S. Johannesburgのサルモネラ属菌に対しても溶菌活性を有する。
(4-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量1万〜15万のゲルで電気泳動したときに、51.2±1.0kDa、39.2±1.0kDa、16.0±1.0kDa、及び14.4±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される、
図4(D)に、ΦSRY-4をSDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量1万〜15万のゲルで電気泳動した画像を示す(実施例5)。これからわかるように、電気泳動像上、51.2kDa、39.2kDa、16.0kDa、及び14.4kDaに相当する位置(検出誤差を考慮しても±0.1程度)にタンパク質のバンドが検出される。このことから、ΦSRY-4は、少なくとも51.2±1.0kDa、39.2±1.0kDa、16.0±1.0kDa、及び14.4±1.0kDaの分子量を有するタンパク質を主要構造タンパク質として有するバクテリオファージであると考えられる。
(4-e)DNAサイズが140.8±1.0kbpである。
【0057】
当該DNAサイズは、ΦSRY-4から抽出したゲノムDNAをシークエンス解析することに得られたものである。当該シークエンス解析によりΦSRY-4のゲノムDNAのサイズは140.8kbpとして特定されるが、測定誤差を考慮しても140.8kbp±1.0kbpの範囲内にある。
【0058】
このように、ΦSRY-4は鶏から単離され、上記(4-b)〜(4-e)の特性を有するものであり、その限りにおいて特に限定されるものではない。
【0059】
なお、図7(D)の右レーンに、ΦSRY-4から抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理した処理物を0.8%アガロースゲルで電気泳動した画像を示す(実施例6)。これからわかるように、ΦSRY-4のゲノムDNAは制限酵素HindIII処理により特徴的な切断パターンを示す。このため、ΦSRY-4は上記(4-a)〜(4-e)の特性に加えて、さらに下記の特性(4-f)を有するものであってもよい。
(4-f)抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したとき、図7(D)のパターンを示す。
【0060】
かかる(4-a)〜(4-f)の特性を有するΦSRY-4は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、2012年12月28日付けで識別の表示:ΦSRY-4、受託番号NITE P-01501として寄託されている(通知番号:2012-0518、通知年月日:2013年4月25日)。但し、上記(4-a)〜(4-e)または(4-a)〜(4-f)の特性を備える限り、当該寄託菌に限らず、その継代株、並びに寄託菌の原株及びその継代株も本発明のΦSRY-4に含まれる。
【0061】
(5)バクテリオファージΦSRY-5:
(5-a)家禽に由来する:
実施例1で説明するように、ΦSRY-5は家禽、具体的には鶏から単離されたファージである。よってΦSRY-5は家禽、特に鶏に由来するバクテリオファージである。
(5-b)サイフォウイルス科(Siphoviridae)に属する:
図1(E)に示す電子顕微鏡画像に示すように、頭部と長くて曲がりやすい非収縮性の尾部を有することを特徴とするサイフォウイルス科に属する細菌感染性のバクテリオファージである(実施例4)。
(5-c)少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Infentis、S.GallinarumおよびS. Agonaに対して溶菌活性を有する、
図2に各種サルモネラ属菌に対する溶菌活性を示す(実施例2)。これからわかるように、ΦSRY-5は少なくともS. Entetitidis、S.Typhimurium、S. Infentis、S.GallinarumおよびS. Agonaに対して溶菌作用を有し、より詳細には上記サルモネラ属菌に加えて、さらに他のサルモネラ属菌、例えばS. Hadar、S. Newport、S.Pullorum(一部)、S.Heidelberg、S. Javiana、S. Choleraesuis、S.Worthington、S. Sofia、S. Strasbourg、S.Dublin、S. Cerro及びS. Johannesburgに対しても溶菌活性を有する。
(5-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量1万〜15万のゲルで電気泳動したときに、35.2±1.0kDa、28.8±1.0kDa、及び20.2±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される、
図5(E)に、ΦSRY-5をSDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量1万〜15万のゲルで電気泳動した画像を示す(実施例5)。これからわかるように、電気泳動像上、35.2kDa、28.8kDa、及び20.2kDaに相当する位置(検出誤差を考慮しても±0.1程度)にタンパク質のバンドが検出される。このことから、ΦSRY-5は、少なくとも35.2±1.0kDa、28.8±1.0kDa、及び20.2±1.0kDaの分子量を有するタンパク質を主要構造タンパク質として有するバクテリオファージであると考えられる。
(5-e)DNAサイズが108.5±1.0kbpである。
【0062】
当該DNAサイズは、ΦSRY-5から抽出したゲノムDNAをシークエンス解析することに得られたものである。当該シークエンス解析によりΦSRY-5のゲノムDNAのサイズは10kbpとして特定されるが、測定誤差を考慮しても108.5kbp±1.0kbpの範囲内にある。
【0063】
このように、ΦSRY-5は鶏から単離され、上記(5-b)〜(5-e)の特性を有するものであり、その限りにおいて特に限定されるものではない。
【0064】
なお、図7(E)に、ΦSRY-5から抽出したゲノムDNAを37℃で2時間EcoRI処理した処理物を0.8%アガロースゲルで電気泳動した画像を示す(実施例6)。これからわかるように、ΦSRY-5のゲノムDNAは、制限酵素EcoRIで特徴的な切断パターンを示す。このため、ΦSRY-5は上記(5-a)〜(5-e)の特性に加えて、さらに下記の特性(5-f)を有するものであってもよい。
(5-f)抽出したゲノムDNAを37℃で2時間EcoRI処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したとき、図7(E)のパターンを示す。
【0065】
かかる(5-a)〜(5-f)の特性を有するΦSRY-5は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、2012年12月28日付けで識別の表示:ΦSRY-5、受託番号NITE P-01502として寄託されている(通知番号:2012-0519、通知年月日:2013年4月25日)。但し、上記(5-a)〜(5-e)または(5-a)〜(5-f)の特性を備える限り、当該寄託菌に限らず、その継代株、並びに寄託菌の原株及びその継代株も本発明のΦSRY-5に含まれる。
【0066】
(6)バクテリオファージΦSRY-6:
(6-a)家禽に由来する:
実施例1で説明するように、ΦSRY-6は家禽、具体的には鶏から単離されたファージである。よってΦSRY-6は家禽、特に鶏に由来するバクテリオファージである。
(6-b)イノウイルス科(Inoviridae) に属する、
図1(F)に示す電子顕微鏡画像に示すように、頭部と繊維状の尾部を有することを特徴とするイノウイルス科に属する細菌やマイコプラズマに感染性のバクテリオファージである(実施例4)。
(6-c)少なくともS. Gallinarum、S.Pullorum、S. Abortusequi、S.Anatum、およびS. Giveに対して溶菌活性を有する:
図2に各種サルモネラ属菌に対する溶菌活性を示す(実施例2)。これからわかるように、ΦSRY-6は少なくともS. Gallinarum、S.Pullorum、S. Abortusequi、S.Anatum、およびS. Giveに対して溶菌作用を有し、より詳細には上記サルモネラ属菌に加えて、さらに他のサルモネラ属菌、例えばS. Typhimurium(一部)、S.Meleagridis、S. Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis(一部)、及びS. Dublinに対しても溶菌活性を有する。
(6-d)SDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量1万〜15万のゲルで電気泳動したときに、59.2±1.0kDa、及び41.6±1.0kDaにタンパク質のバンドが検出される:
図5(F)に、ΦSRY-6をSDS存在下、95℃で5分間インキュベーションしたバクテリオファージ含有溶液を分画分子量1万〜15万のゲルで電気泳動した画像を示す(実施例5)。これからわかるように、電気泳動像上、59.2kDa、及び41.6kDaに相当する位置(検出誤差を考慮しても±0.1程度)にタンパク質のバンドが検出される。このことから、ΦSRY-6は、少なくとも59.2±1.0kDa、及び41.6±1.0kDaの分子量を有するタンパク質を主要構造タンパク質として有するバクテリオファージであると考えられる。
(6-e)DNAサイズが38.7±1.0kbpである。
【0067】
当該DNAサイズは、ΦSRY-6から抽出したゲノムDNAをシークエンス解析することに得られたものである。当該シークエンス解析によりΦSRY-6のゲノムDNAのサイズは38.7kbpとして特定されるが、測定誤差を考慮しても38.7kbp±1.0kbpの範囲内にある。
【0068】
このように、ΦSRY-6は鶏から単離され、上記(6-b)〜(6-e)の特性を有するものであり、その限りにおいて特に限定されるものではない。
【0069】
なお、図7(F)に、ΦSRY-6から抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理した処理物を0.8%アガロースゲルで電気泳動した画像を示す(実施例6)。これからわかるように、ΦSRY-6のゲノムDNAは、制限酵素HindIIIで特徴的な切断パターンを示す。このため、ΦSRY-6は上記(6-a)〜(6-e)の特性に加えて、さらに下記の特性(6-f)を有するものであってもよい。
(6-f)抽出したゲノムDNAを37℃で2時間HindIII処理し、0.8%アガロースゲルで電気泳動したとき、図7(F)のパターンを示す:
かかる(6-a)〜(6-f)の特性を備えるΦSRY-6は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、2012年12月28日付けで識別の表示:ΦSRY-6、受託番号NITE P-01503として寄託されている(通知番号:2012-0520、通知年月日:2013年4月25日)。但し、上記但し、上記(6-a)〜(6-e)または(6-a)〜(6-f)の特性を備える限り、当該寄託菌に限らず、その継代株、並びに寄託菌の原株及びその継代株も本発明のΦSRY-6に含まれる。
【0070】
バクテリオファージ組成物におけるΦSRY-1と他のバクテリオファージ、好ましくは上記ΦSRY-2、ΦSRY-3、ΦSRY-4、ΦSRY-5、及びΦSRY-6からなる群から選択される少なくとも1つのバクテリオファージとの割合は、最終的に調製されるバクテリオファージ組成物が、少なくともS. Enteritidis、S. Typhimurium、S. Gallinarum、S. Pullorum、S. InfentisおよびS. Thompsonに対して溶菌活性を有するような割合であれば、特に制限されない。好ましくは、これらのサルモネラ属菌に加えて、さらにS. Hadar、S. Oranienburg、S.Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S.Mbandaka、S. Meleagridis、S.Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S.Abortusequi、S. Dublin、S. Virchow、S. Anatum、S. Cerro、S. Montevideo、S.Give、及びS. Johannesburgに対して溶菌活性を有するような割合に調製することが望ましい。かかる方法として、例えば、ΦSRY-1の力価と他の各バクテリオファージの力価がそれぞれ等量(1:1)になるように調製する方法を例示することができる。
【0071】
ここでファージ力価は、ファージ溶液中のプラークを形成できるファージの数(ファージ溶液中の感染能力のあるファージの数)で評価することができる。その指標として、例えばプラーク形成単位「pfu/ml」は、1mlのファージ溶液中に含まれる感染能力のあるファージの個数を示している。
【0072】
本発明のバクテリオファージ組成物のうち、最も好ましいバクテリオファージ組成物は、前述するバクテリオファージΦSRY-1に加えて、上記のΦSRY-2、ΦSRY-3、ΦSRY-4、ΦSRY-5、及びΦSRY-6のすべてを含むものである。
【0073】
当該バクテリオファージ組成物中の各ファージの配合割合としては、前述するように、少なくともS. Enteritidis、S. Typhimurium、S. Gallinarum、S. Pullorum、S. InfentisおよびS. Thompsonに対して溶菌活性を有するような割合であれば、特に制限されないが、好ましくは、これらのサルモネラ属菌に加えて、さらにS. Hadar、S. Oranienburg、S.Newport、S. Agona、S. Derby、S. Heidelberg、S.Mbandaka、S. Meleagridis、S.Javiana、S. Paratyphi B、S.Choleraesuis、S. Worthington、S.Sofia、S. Strasbourg、S.Abortusequi、S. Dublin、S. Virchow、S. Anatum、S. Cerro、S. Montevideo、S.Give、及びS. Johannesburgに対して溶菌活性を有するような割合である。かかる割合としては、好適にはΦSRY-1〜ΦSRY-6の各ファージの力価が等量になるような割合を挙げることができる(実施例7)。 本発明のバクテリオファージ組成物中のΦSRY-1の割合としては、制限されないが、ΦSRY-1のファージ力価が1×102〜1×1013pfu/mLの範囲となるような割合を挙げることができる。好ましくは1×107〜1×1011である。 本発明のバクテリオファージ組成物は、上記ΦSRY-1、並びに他のバクテリオファージ以外に、本発明の効果を損なわないことを限度に他の成分を含有していてもよい。かかる成分として、抗ウイルス剤、緩衝剤、pH調整剤、安定剤、等張化剤、キレート剤、粘稠剤、及び増粘剤などを挙げることができる。好ましい成分として、実施例7で示すように、pH6〜9の範囲に緩衝能を有するリン酸緩衝剤及びグリシン緩衝剤からなる群から選択される緩衝剤及びゼラチンである。
【0074】
ここで用いられるリン酸緩衝剤は、緩衝能がpH5.8〜8.0の範囲、好ましくはpH7.0〜8.0の範囲になるように、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリム、またはリン酸水素二ナトリウム等のリン酸、リン酸塩またはリン酸水素塩を適当量含む緩衝剤であり、好ましくはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムの組成からなるリン酸緩衝剤を挙げることができる。その濃度は、バクテリオファージ組成物中の最終濃度として0.01M〜0.5M、好ましくは0.1M〜0.2Mを挙げることができる。
【0075】
またここで用いられるグリシン緩衝剤は、緩衝能がpH8.0〜10.6の範囲、好ましくはpH8.0〜9.0の範囲になるように、グリシン、水酸化ナトリウムを適当量含む緩衝剤であり、好ましくはグリシン、水酸化ナトリウムの組成からなるグリシン緩衝剤を挙げることができる。その濃度は、バクテリオファージ組成物中の最終濃度として0.01M〜0.5M、好ましくは0.1M〜0.2Mを挙げることができる。
【0076】
また上記の各種緩衝剤のいずれか少なくとも1つと組み合わせて使用されるゼラチンのバクテリオファージ組成物中の配合割合としては、制限されないものの0より多く〜10重量%の範囲から適宜設定調製することができ、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは1.0〜10重量%を挙げることができる。
【0077】
かかる緩衝剤とゼラチンを含む本発明のクテリオファージ組成物は、実施例7で示すように、冷蔵下並びに室温下での保存安定性に優れており、また保存後に滅菌水で希釈して使用することもできる。
【0078】
(III)サルモネラ防除剤、及びサルモネラ属菌の防除方法
本発明は前述するバクテリオファージΦSRY-1、及び当該ΦSRY-1を含むバクテリオファージ組成物の用途を提供するものである。かかる用途として、サルモネラ属菌を防除するために用いられるサルモネラ防除剤としての用途を挙げることができる。
【0079】
ここで「サルモネラ防除」とは、サルモネラ属菌を不活性化させること、及びサルモネラ属菌の増殖を抑制することのいずれか一方、好ましくは両方を意味する。サルモネラ属菌を不活性化させるか、または/及びサルモネラ属菌の増殖を抑制することで、サルモネラ属菌感染を予防することができ、また感染したサルモネラ属菌を駆除することができる。このことから、本発明の「サルモネラ防除」には、サルモネラ感染の予防、及びサルモネラ属菌の駆除が含まれる。
【0080】
本発明のサルモネラ防除剤は、上記(I)で説明する本発明のバクテリオファージΦSRY-1を有効成分とするか、または上記(II)で説明する本発明のバクテリオファージ組成物を有効成分とすることを特徴とする。好ましくは本発明のバクテリオファージ組成物を有効成分とする。
【0081】
当該サルモネラ防除剤は、サルモネラ属菌を不活性化させるか、またはその増殖を抑制して、サルモネラ属菌を防除(感染予防、駆除)するために用いられる。このため、本発明のサルモネラ防除剤は、この目的で使用することができ、例えば、食品添加物、家畜飼料用添加物、ペット餌料用添加物、ヒト用医薬組成物、非ヒト動物用医薬組成物、殺菌剤または消毒剤などの使用形態で使用される。好ましくは、食品添加物、家畜飼料用添加物、非ヒト動物用医薬組成物、殺菌剤または消毒剤としての使用である。
【0082】
これらの組成物は、本発明の効果を損なわないことを限度として、目的及び使用形態(例えば、液剤、錠剤、散剤、カプセル剤など)に応じて、バクテリオファージに加えて、他の成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、緩衝剤、pH調整剤、安定剤、等張化剤、キレート剤、粘稠剤、及び増粘剤などを挙げることができる。
【0083】
本発明のサルモネラ防除剤(食品添加物、家畜飼料用添加物、ペット餌料用添加物、ヒト用医薬組成物、非ヒト動物用医薬組成物、殺菌剤または消毒剤が含まれる)に含まれるΦSRY-1の割合としては、制限されないが、ΦSRY-1のファージ力価が1×102〜1×1013pfu/mLの範囲となるような割合を挙げることができる。好ましくは1×107〜1×1011pfu/mLである。また、本発明のバクテリオファージ組成物を有効成分として用いる場合、ΦSRY-1のファージ力価は1×102〜1×1013pfu/mLの範囲であり、またΦSRY-1〜ΦSRY-6のファージ力価の合計が6×102〜6×1013pfu/mLの範囲となるような割合を挙げることができる。好ましくはΦSRY-1〜ΦSRY-6のファージ力価の合計が6×107〜6×1011pfu/mLとなるような割合を挙げることができる。
【0084】
かかるサルモネラ防除剤を用いて被処理物を処理することで、被処理物に存在するサルモネラ属菌を防除することができる。具体的には、被処理物に存在するサルモネラ属菌を不活性化させたり、またその増殖を抑制することができ、斯くして被処理物に対するサルモネラ感染を予防し、また被処理物におけるサルモネラを駆除することができる。
【0085】
ここで被処理物やそれに対する処理方法は、目的及び使用形態に応じて適宜設定することができる。
【0086】
例えば、被処理物が飲料水を含む飲食物である場合、本発明のサルモネラ防除剤(この場合「食品添加物」として使用される)を、飲食物に添加するか、飲食物に噴霧するか、または飲食物に接触させる形態で用いることができる。この場合に用いられるサルモネラ防除剤(食品添加物)中のファージ力価は、ΦSRY-1のファージ力価が1×102〜1×1013pfu/mLの範囲であり、好ましくはΦSRY-1〜ΦSRY-6のファージ力価の合計が6×107〜6×1011pfu/mLとなる範囲を挙げることができる。制限されないものの、かかるサルモネラ防除剤(食品添加物)を用いて、飲食物1kg中に、ΦSRY-1が1×107〜1×1011pfu、好ましくはΦSRY-1〜ΦSRY-6の合計として6×107〜6×1011pfuのファージが含まれるように処理することが好ましい。
【0087】
また被処理物が飲料水を含む家畜用飼料組成物(非ヒト動物用餌料組成物)である場合、本発明のサルモネラ防除剤(この場合「家畜飼料用添加物」または「ペット餌料用添加物」として使用される)を、飼料(餌料)に添加するか、飼料(餌料)に噴霧するか、または飼料(餌料)に接触させる形態で用いることができる。この場合に用いられるサルモネラ防除剤(家畜飼料用添加物、またはペット餌料用添加物)中のファージ力価は、ΦSRY-1のファージ力価が1×102〜1×1013pfu/mLの範囲であり、好ましくはΦSRY-1〜ΦSRY-6のファージ力価の合計が6×107〜6×1011pfu/mLとなる範囲を挙げることができる。制限されないものの、かかるサルモネラ防除剤(家畜飼料用添加物、またはペット餌料用添加物)を用いて、飼料1kg中に、ΦSRY-1が1×107〜1×1011pfu、好ましくはΦSRY-1〜ΦSRY-6の合計として6×107〜6×1011pfuのファージが含まれるように処理することが好ましい。
【0088】
また被処理物が鶏舎や家畜の飼育場(家屋や土壌を含む)である場合、本発明のサルモネラ防除剤(この場合「殺菌剤」または「消毒剤」として使用される)を、鶏舎や家畜の飼育場(家屋や土壌を含む)に噴霧、または散布する形態で用いることができる。この場合に用いられるサルモネラ防除剤(殺菌剤、消毒剤)中のファージ力価は、ΦSRY-1のファージ力価が1×102〜1×1013pfu/mLの範囲であり、好ましくはΦSRY-1〜ΦSRY-6のファージ力価の合計が6×107〜6×1011pfu/mLとなる範囲を挙げることができる。制限されないものの、かかるサルモネラ防除剤(殺菌剤、消毒剤)を用いて、例えば飼育場1m2あたり、ΦSRY-1が1×107〜1×1011pfu、好ましくはΦSRY-1〜ΦSRY-6の合計として6×107〜6×1011pfuのファージが噴霧または散布できるように処理することが好ましい。土壌の場合、土壌1kgあたり、ΦSRY-1が1×107〜1×1011pfu、好ましくはΦSRY-1〜ΦSRY-6の合計として6×107〜6×1011pfuのファージを添加することが好ましい
【実施例】
【0089】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0090】
実施例1 バクテリオファージの分離
鶏の臓器(そ嚢、筋胃、肝臓、空腸、回腸、盲腸)および糞便を細かく切断してストマッカー袋にいれ、4倍量の生理食塩水を加えて2分間ストマッキングした。得られた溶液を回収し、室温で3000rpmで10分間遠心した後、上清を0.2μm孔径のフィルターでろ過した。得られたろ液を鶏抽出液とした。
【0091】
2倍濃度のLB液体培地1.5mLにサルモネラ属菌のグリセロールストック10μLを接種し、37℃で2時間振とう培養した。なお、サルモネラ属菌として、図1に記載する動物由来の菌種(血清型)に属する各株菌を用いた。これに、上記で調製した鶏抽出液1.5mLを添加し、37℃で18時間振とう培養した(鶏抽出液とサルモネラ属菌の共培養液)。
【0092】
約50℃に保持したLB軟寒天培地(寒天濃度0.75%)4mLに、1mM MgSO4・7H2O40μLとサルモネラ属菌のLB培養液100μLを添加した。これに、上記で調製した鶏抽出液とサルモネラ属菌の共培養液1mLを添加し、十分に混和した後、LB寒天培地の上に重層した。これを37℃で18時間培養し、プラークを検出した。
【0093】
次に、LB液体培地3mLにサルモネラ属菌のグリセロールストック10μLを接種し、37℃で2時間振とう培養した培養液に、上記で検出したプラークをパスツールピペットを用いて採取して、添加した。これを37℃で18時間振とう培養してバクテリオファージを増幅し、室温条件下、15,000rpmで10分間遠心した後、上清を0.2μm孔径のフィルターでろ過してサルモネラ・ファージ増幅液を得た。
【0094】
この方法を、図1に記載する各株菌についてそれぞれ実施し、鶏抽出液からサルモネラ属菌を溶菌するバクテリオファージを多数分離した。分離したバクテリオファージのうち、6種のファージ(ΦSRY-1、ΦSRY-2、ΦSRY-3、ΦSRY-4、ΦSRY-5およびΦSRY-6)を用いて、下記実施例2〜7の実験を行った。
【0095】
実施例2 サルモネラ・ファージのサルモネラ属菌に対する溶菌スペクトルの確認
実施例1で分離した各サルモネラ・ファージ(ΦSRY-1、ΦSRY-2、ΦSRY-3、ΦSRY-4、ΦSRY-5およびΦSRY-6)について、図1に記載する各種のサルモネラ属菌を対象として下記の実験を行い、溶菌スペクトルを確認した。
【0096】
具体的には、まずLB液体培地を用いて、各種サルモネラ属菌をそれぞれ37℃で一晩振とう培養した。次に、約50℃に保持したLB軟寒天培地(寒天濃度0.75%)4mLに、1M MgSO4・7H2O 40μLと各種サルモネラ属菌のLB培養液100μLを添加した。十分混和させた後、LB寒天培地に重層し、乾燥させた。その上に、上記実施例1で分離した各種サルモネラ・ファージの増幅液10μLをそれぞれスポットし、37℃で一晩培養した。培養後、溶菌斑の透明度を目視で判定し、溶菌活性の有無を調べた。
【0097】
結果を図1に併せて示す。図1に示すようにΦSRY-1は、試験に用いたすべてのサルモネラ属菌に対して溶菌活性を示した。また、ΦSRY-2、ΦSRY-3、ΦSRY-4、ΦSRY-5およびΦSRY-6もまた、図1に示す各種のサルモネラ属菌に対して溶菌活性を示した。このように、ΦSRY-1、ΦSRY-2、ΦSRY-3、ΦSRY-4、ΦSRY-5およびΦSRY-6は、図1に示す各種のサルモネラ属菌に対して異なる溶菌スペクトルを示した。
【0098】
実施例3 サルモネラ・ファージの大量培養、及びファージの回収
実施例1で分離した各サルモネラ・ファージ(ΦSRY-1、ΦSRY-2、ΦSRY-3、ΦSRY-4、ΦSRY-5およびΦSRY-6)を下記の方法で大量培養した。
【0099】
具体的には、各サルモネラ属菌のグリセロールストック500μLをLB液体培地 100mLに添加し、37℃で2時間、旋回培養した。この培養液に、予め調製した各ファージ液1mLを添加し、37℃で7時間旋回培養した。培養後、室温条件下、15,000 rpmで10分間遠心分離し、上清を0.2μmのフィルターでろ過滅菌した。その後、フィルターろ液を、MWCO 100kDaの透析膜(スペクトラム社製)を用いて0.1Mリン酸緩衝液(pH7.8)に対して透析し、得られた透析液をさらに0.2μmのフィルターでろ過滅菌し、各サルモネラ・ファージ(ΦSRY-1、ΦSRY-2、ΦSRY-3、ΦSRY-4、ΦSRY-5およびΦSRY-6)を単離回収した。
【0100】
実施例4 サルモネラ・ファージの形態観察
透過型電子顕微鏡(H-7100、日立)を用いて、上記実施例3で単離回収したファージΦSRY-1〜ΦSRY-6の形態を観察した。その結果を図2(A)〜(F)に示す。図2(A)、(B)および(D)に示すように、ΦSRY-1、ΦSRY-2およびΦSRY-4は、頭部と長い収縮性の尾部からなるマイオウイルス科(Myoviridae)のウイルスに属することが判明した。また、図2(C)および(E)に示すように、ΦSRY-3とΦSRY-5は、頭部と長い非収縮性の尾部からなるサイフォウイルス科(Siphoviridae)のウイルスに属することが、また図1(F)に示すように、ΦSRY-6は繊維状であることからイノウイルス科(Inoviridae)のウイルスに属することがわかった。
【0101】
実施例5 タンパク質のパターン分析
実施例3においてリン酸緩衝液に対して透析したファージ液160μLに、5×SDS試料溶液40μLを添加混合し、95℃で5分間インキュベートした。得られた処理液を、ゲル濃度10~20%の蛋白用グラジェントゲル(分画分子量範囲:1万〜15万、オリエンタルインスツルメンツ株式会社製)で展開し、銀染色IIキットワコー(和光純薬)を用いて銀染色を行った。得られた電気泳動像を図3〜5に示す。
【0102】
その結果、図3(A)に示すように、ΦSRY-1については、60.1kDa、54.7kDa、42.4kDa、15.8kDaおよび14.8kDaに相当する部位にバンドが観察され、これらの分子量を有するタンパク質を主要タンパク質として含むことが確認された。ΦSRY-2についても同様に、図3(B)から、53.2kDa、42.1kDa、15.8kDaおよび14.3kDaに相当する部位にバンドが観察され、これらの分子量を有するタンパク質を主要タンパク質として含むことが確認された。ΦSRY-3についても同様に、図4(C)から、60.3kDa、55.5kDa、35.0kDa、28.9kDaおよび18.9kDaの分子量を有するタンパク質を主要タンパク質として含むことが;ΦSRY-4については、図4(D)から51.2kDa、39.3kDa、16.0kDaおよび14.4kDaの分子量を有するタンパク質を主要タンパク質として含むことが;ΦSRY-5については、図5(E)から35.2kDa、28.8kDaおよび20.2kDaの分子量を有するタンパク質を主要タンパク質として含むことが;さらにΦSRY-6については図5(F)から59.2kDaと41.6kDaの分子量を有するタンパク質を主要タンパク質として含むことが確認された。
【0103】
実施例6 サルモネラ・ファージの遺伝子学的解析
各ファージ(ΦSRY-1〜ΦSRY-6)からゲノムDNAを抽出した。具体的には、QIAamp UltraSens Virus Kit(QIAGEN)を用いて、各サルモネラ・ファージ調製液1mLからファージDNAを抽出した。この抽出したファージDNAを、37℃で2時間、制限酵素処理(HindIIIまたはEcoRI)し、0.8%アガロースゲルで電気泳動した。ΦSRY-1〜ΦSRY-3のゲノムDNAのHindIII処理物の電気泳動像を図6(A)〜(C)に、ΦSRY-4及びΦSRY-6のHindIII処理物の電気泳動像をそれぞれ図7(D)及び(F)に、またΦSRY-5のEcoRI処理物の電気泳動像をそれぞれ図7(E)にそれぞれ示す。図6及び7に示すように、各ファージ(ΦSRY-1〜ΦSRY-6)のゲノムDNAはそれぞれ異なる切断パターンを示した。
【0104】
実施例7 サルモネラ・ファージのDNAサイズの分析
実施例6にて抽出したゲノムDNAを用い、Genome Sequencer FLX+ System(ロッシュ・ダイアグノスティクス社)による高速シークエンス解析を実施し、各ファージのゲノムDNAサイズの分析を行った。その結果、ΦSRY-1のゲノムDNAは84.5±1.0kbp、ΦSRY-2のゲノムDNAは84.7±1.0kbp、ΦSRY-3のゲノムDNAは106.6±1.0kbp、ΦSRY-4のゲノムDNAは140.8±1.0kbp、ΦSRY-5のゲノムDNAは108.5±1.0kbp、ΦSRY-6のゲノムDNAは38.7±1.0kbpであることが確認された。
【0105】
実施例8 サルモネラ・ファージカクテルの調製とその効果
109PFU/mLにそれぞれ調製した各種ファージ液(ΦSRY-1、ΦSRY-2、ΦSRY-3、ΦSRY-4、ΦSRY-5、ΦSRY-6)を、力価が等量になるように全種類混合し、ファージカクテル液(バクテリオファージ組成物)を調製した。このファージカクテル液10μLを用いて、実施例2と同様の方法でスポットアッセイした。また、比較例として、特許文献1〜3に記載されている3種のサルモネラ・ファージ(KCCM 10969P、KCCM 10976P、KCCM 10997P)(公知ファージ)についても、それぞれファージ液を109PFU/mLに調製し、実施例2と同様の方法でスポットアッセイを行った。
【0106】
その結果を図8に示す。図8に示すように、実施例1で単離した本発明のファージ(ΦSRY-1、ΦSRY-2、ΦSRY-3、ΦSRY-4、ΦSRY-5、ΦSRY-6)をすべて含むファージカクテル液は、試験したすべてのサルモネラ属菌に対して高い溶菌活性を示した。一方、特許文献1〜3に記載されている公知ファージ(KCCM 10969P、KCCM 10976P、KCCM 10997P)は、いずれも一部のサルモネラ属菌に対してのみ溶菌活性を示すに留まった。特に本発明のファージカクテル液は、サルモネラ食中毒を引き起こすS. Infentis及びS. Tompsonに対しても高い溶菌活性を示す点で、公知ファージとは異なる有用な溶菌スペクトルを有しており、サルモネラ防除剤として、また殺菌若しくは消毒剤として有用であることが確認された。
【0107】
実施例9 ファージ保存液の調製と保存効果
10重量%濃度でゼラチンを含む各種緩衝液(0.1Mリン酸緩衝液、0.1Mグリシン緩衝液)に、それぞれ実施例7で調製したファージカクテル液を添加混合し、4℃および室温(20−25℃)のそれぞれの条件で4週間保存した。調製直後および4週間保存後(4℃、室温)に、ファージ数をプラークアッセイにて測定した。また、比較として通常ファージの保存液として用いられるSMバッファー(50mM Tris-HCl pH7.5, 0.1M NaCl, 7mM MgSO4, 0.01% Gelatin)を用いて、同様に4週間保存した。
【0108】
ゼラチン含有リン酸緩衝液(pH7.8)による保存結果を表1、ゼラチン含有グリシン緩衝液(pH9.0)による保存結果を表2、SMバッファー(pH7.6)による保存結果を表3にそれぞれ示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
この結果から、上記3種の緩衝液中、4℃条件及び室温条件での保存後4週間経過した後でもファージのタイターは減少せず、本発明のファージはいずれも安定であることがわかった。
【0113】
実施例10 水道水で1,000倍希釈した場合のファージ安定性
実施例9で4℃及び室温でそれぞれ4週間保存したファージカクテル液を、滅菌した水道水で1,000倍に希釈した。この希釈液中に含まれるファージ数(6種のファージの総数)をプラークアッセイにて測定した。結果を表4に示す。
【0114】
【表4】
【0115】
この結果からわかるように、ファージ混合物(バクテリオファージ組成物)をゼラチン含有緩衝液で保存した後、水道水で1,000倍希釈しても、ファージの活性が失われないことが確認された。これに対して、通常ファージの保存液として用いられるSMバッファーの場合、水道水で1,000倍希釈するとファージの活性が失われることが確認された。このことから、本発明のバクテリオファージ組成物は、保存する場合、10重量%のゼラチンを含む0.1Mリン酸緩衝液または0.1Mグリシン緩衝液で調製することが好ましく、そうすることで室温また4℃の冷蔵下で安定して保存が可能であるとともに、使用時の希釈によっても活性の低下を有意に抑えることができる。但し、ファージ混合物(バクテリオファージ組成物)の調製に使用する緩衝液へのゼラチンの配合は必須ではなく、ファージ混合物を長期保存しない場合や、使用時に希釈しない場合等は、必ずしもゼラチンを使用する必要はない。
【受託番号】
【0116】
NITE P-01498、NITE P-01499、NITE P-01500、NITE P-01501、NITE P-01502、及びNITE P-01503
図1
図2
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図8