(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
架橋性成分及び熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物を加熱下に成型して、前記架橋性成分が少なくとも部分的に架橋されたシート状成型物を得る1次架橋工程と、
シート状成型物の表面の少なくとも一部をフッ素系シランカップリング剤に接触させる表面処理工程と、
を含む、熱伝導性ゴムシートの製造方法。
前記架橋性成分は、主鎖中にパーフルオロアルキルエーテル構造を有し、分子末端にヒドロシリル基を1〜2個有する化合物であって、ヒドロシリル基を2個有する分子の含有率が60〜100モル%であるフッ素系化合物(A1)、並びに、主鎖中にパーフルオロアルキルエーテル構造を有し、分子末端にアルケニル基を1〜2個有する化合物であって、アルケニル基を2個有する分子の含有率が60〜100モル%であるフッ素系化合物(B1)を含む、請求項5に記載の熱伝導性ゴムシートの製造方法。
前記熱伝導性樹脂組成物は、前記架橋性成分100重量部に対して、前記熱伝導性フィラーを50〜500重量部含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱伝導性ゴムシートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の熱伝導性ゴムシートの製造方法は、
架橋性成分及び熱伝導性フィラー(C)を含有する熱伝導性樹脂組成物を加熱下に成型して、架橋性成分が少なくとも部分的に架橋されたシート状成型物を得る1次架橋工程、及び
シート状成型物の表面の少なくとも一部をフッ素系シランカップリング剤(E)に接触させる表面処理工程
を含み、好ましくは
加熱処理により、シート状成型物中の架橋性成分の架橋反応を促進させる2次架橋工程
をさらに含む。以下、実施の形態を示しながら各工程について詳細に説明する。
【0021】
〔I〕1次架橋工程
(熱伝導性樹脂組成物)
熱伝導性ゴムシートのシート原料となる熱伝導性樹脂組成物は、架橋(硬化)反応によってバインダー成分としてのゴム成分を形成する架橋性成分と、熱伝導性フィラー(C)とを含むものである。
【0022】
架橋性成分としては、架橋(硬化)反応によってゴム成分を形成できるものであれば特に限定されず、例えばシリコーンゴム形成用のシリコン含有架橋性成分、フッ素ゴム形成用のフッ素含有架橋性成分を挙げることができる。シリコン含有架橋性成分には、従来公知のシリコーンゴム系熱伝導性シートに用いられているシリコーンゴム形成用のシリコン含有架橋性成分を用いることができる。
【0023】
中でも、本発明においては、フッ素含有架橋性成分を用いることが好ましい。フッ素含有架橋性成分を用いたフッ素ゴム系の熱伝導性ゴムシートは、例えば次の点で、シリコーンゴム系の熱伝導性ゴムシートに比して有利である。
【0024】
a)ゴムの性質上、シリコーンゴム系の熱伝導性ゴムシートに比べて、使用後においても発熱体や放熱体に固着しにくい。シリコーンゴム系の熱伝導性ゴムシートが比較的固着しやすいのは、高温環境下での使用により、低分子量シロキサン成分のようなブリード成分が生じたり、ゴム自体が熱劣化しやすかったりするためである。これに比べてフッ素ゴムは、ブリード成分の発生や熱劣化が生じにくい。
【0025】
b)フッ素ゴムは、シリコーンゴムに比べて耐熱性に優れている。
c)上記a)及びb)の理由から、半導体デバイスの製造プロセス等を汚染する汚染物質となり得る、ブリード成分や、熱等によるゴムの分解に起因するパーティクル(微粒子)の発生量を抑制することができる。
【0026】
d)上記a)〜c)の理由から、フッ素ゴム系の熱伝導性ゴムシートは、200℃以上の高温での使用に耐える熱伝導性シートが要求されており、汚染物質の混入が厳しく制限されている半導体製造装置等に好適に適用することができる。
【0027】
以上の観点から、本発明の方法によって製造される熱伝導性ゴムシートは、とりわけ半導体製造装置等に適用する場合において、フッ素ゴムで構成される熱伝導性シートであることが好ましいが、本発明によれば、シリコーンゴムを用いる場合であっても発熱体や放熱体に固着しにくく、使用後において比較的容易に剥離することができる熱伝導性ゴムシートを提供することが可能である。
【0028】
フッ素含有架橋性成分を用いる場合において、上記架橋性成分は、従来公知のフッ素ゴムを形成するフッ素含有架橋性成分であってもよいが、少なくとも以下のフッ素系化合物:
主鎖中にパーフルオロアルキルエーテル構造を有し、分子末端にヒドロシリル基を1〜2個有する化合物であって、ヒドロシリル基を2個有する分子の含有率が60〜100モル%であるフッ素系化合物(A1)、及び
主鎖中にパーフルオロアルキルエーテル構造を有し、分子末端にアルケニル基を1〜2個有する化合物であって、アルケニル基を2個有する分子の含有率が60〜100モル%であるフッ素系化合物(B1)
を含むものであることが好ましい。
【0029】
フッ素系化合物(A1)及び(B1)を含む熱伝導性樹脂組成物からなるフッ素ゴム系熱伝導性シートによれば、上述のa)〜d)の有利性を得ることができるとともに、熱伝導性シートとして好適な硬度や表面粘着性を示す熱伝導性シートを得ることが可能となる。
【0030】
フッ素系化合物(A1)及び(B1)は、それら同士の架橋(硬化)反応によりエラストマー特性を示すフッ素系ポリマー(ゴム状弾性体)を形成するフッ素系化合物対である。「エラストマー特性」とは、JIS K6253に準拠して測定されるShore A硬度が20〜40の範囲内であることをいう。
【0031】
フッ素系化合物(A1)は、主鎖中にパーフルオロアルキルエーテル構造を有し、分子末端にヒドロシリル基(SiH基)を1〜2個有する化合物であって、ヒドロシリル基を2個有する分子の含有率が60〜100モル%、好ましくは80〜100モル%であり(従って、ヒドロシリル基を1個有する分子の含有率が0〜40モル%、好ましくは0〜20モル%であり)、フッ素系化合物(B1)のような、分子末端にアルケニル基を有するフッ素系化合物の当該アルケニル基と付加反応可能なフッ素系化合物である。
【0032】
フッ素系化合物(A1)の主鎖構造は、パーフルオロオキシアルキレン単位から構成されるものであることができ、好ましくは下記式[1]:
【0034】
(式[1]中、nは1〜10の整数である。)
で表される構造である。
【0035】
フッ素系化合物(A1)として好適に用いられる化合物の代表例は、下記式[2]:
【0037】
で表されるヒドロシリル基末端フッ素系化合物である。式[2]中、nは上記と同じ意味を表す。Z
1はヒドロシリル基を含む架橋部であり、Si(H)(R
1)
2を表す。Z
2は、末端ヒドロシリル基を2個有する分子においては、Z
1と同様、Si(H)(R
2)
2を表し、末端ヒドロシリル基を1個有する分子においては、Si(R
3)
3を表す。
【0038】
上記R
1、R
2、R
3は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、置換又は非置換の一価炭化水素基であり、その具体例は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基のようなアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基のようなアリール基;3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基のようなハロゲン化アルキル基を含む。R
1、R
2、R
3は、好ましくは炭素原子数1〜5のアルキル基である。
【0039】
フッ素系化合物(A1)は、JIS K7117−1に準拠して測定される粘度が1.5〜4.0Pa・sであることが好ましい。
【0040】
式[2]で表されるフッ素系化合物(A1)として、信越化学工業(株)製の商品名「SIFEL 8370−A」等を好適に用いることができる。
【0041】
フッ素系化合物(B1)は、主鎖中にパーフルオロアルキルエーテル構造を有し、分子末端にアルケニル基を1〜2個有する化合物であって、アルケニル基を2個有する分子の含有率が60〜100モル%、好ましくは80〜100モル%であり(従って、アルケニル基を1個有する分子の含有率が0〜40モル%、好ましくは0〜20モル%であり)、フッ素系化合物(A1)のような、分子末端にヒドロシリル基を有するフッ素系化合物の当該ヒドロシリル基と付加反応可能なフッ素系化合物である。
【0042】
フッ素系化合物(B1)の主鎖構造は、パーフルオロオキシアルキレン単位から構成されるものであることができ、好ましくは上記式[1]で表される構造である。フッ素系化合物(B1)においても、式[1]中のnは1〜10の整数である。フッ素系化合物(B1)におけるnの数は、フッ素系化合物(A1)と同じであっても、異なっていてもよい。
【0043】
フッ素系化合物(B1)として好適に用いられる化合物の代表例は、下記式[3]:
【0045】
で表されるアルケニル基末端フッ素系化合物である。式[3]中、nは上記と同じ意味を表す。Z
3はアルケニル基を含む架橋部であり、Si(アルケニル基)(R
4)
2を表す。Z
4は、末端アルケニル基を2個有する分子においては、Z
3と同様、Si(アルケニル基)(R
5)
2を表し、末端アルケニル基を1個有する分子においては、Si(R
6)
3を表す。
【0046】
上記R
4、R
5、R
6は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して、置換又は非置換の一価炭化水素基であり、その具体例は、上記R
1、R
2、R
3について述べたものと同様である。R
4、R
5、R
6は、好ましくは炭素原子数1〜5のアルキル基である。
【0047】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、メチルビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基のような炭素原子数2〜8のアルケニル基が挙げられる。好ましくは2〜4程度のアルケニル基であり、より好ましくはビニル基である。
【0048】
フッ素系化合物(B1)は、JIS K7117−1に準拠して測定される粘度が1.5〜4.0Pa・sであることが好ましい。
【0049】
式[3]で表されるフッ素系化合物(B1)として、信越化学工業(株)製の商品名「SIFEL 8370−B」等を好適に用いることができる。
【0050】
架橋性成分におけるフッ素系化合物(A1)とフッ素系化合物(B1)との含有量比は、重量比で、例えば20/80〜80/20の範囲内であることができ、好ましくは30/70〜70/30の範囲内、より好ましくは40/60〜60/40の範囲内(例えば50/50程度)である。
【0051】
架橋性成分は、フッ素系化合物(A1)及び(B1)以外の他の架橋性成分を含むことができ、例えば、以下に示す2種のフッ素系化合物(A2)及び(B2)をさらに含むことができる。フッ素系化合物(A2)及び(B2)は、それら同士の架橋(硬化)によりゲル特性を示すフッ素系ポリマー(ゲル状弾性体)を形成するフッ素系化合物対である。「ゲル特性」とは、JIS K2207に準拠して測定される針入度が60〜80の範囲内であることをいう。
【0052】
フッ素系化合物(A1)及び(B1)に加えて、フッ素系化合物(A2)及び(B2)をさらに含有させると、熱伝導性フィラー(C)を高充填した場合であっても、良好な低硬度性と高表面粘着性とを併せ持ち、優れた熱伝導効率を示す熱伝導性ゴムシートが得られやすい。
【0053】
すなわち、熱伝導性シート自体に高い熱伝導性能を付与するために比較的多量の熱伝導性フィラー(C)を含有させると、これに伴ってシートの硬度が高くなったり、シート表面の粘着性が低下したりすることがある。このような硬度の上昇及び表面粘着性の低下はいずれも、熱伝導性シートに隣接して配置される発熱体及び放熱体との接触性(密着性)を悪化させ、接触熱抵抗を上昇させる要因となる。接触熱抵抗が高くなると、熱伝導性シート自体の熱伝導性能が高い場合であっても、その性能を十分に発揮することができず、発熱体から放熱体への良好な熱伝導効率を得ることができない。
【0054】
フッ素系化合物(A1)及び(B1)と、フッ素系化合物(A2)及び(B2)との併用は、上記のような問題を解消するのに有効な手段であり、熱伝導性フィラー(C)を高充填した場合でも、良好な低硬度性と高表面粘着性とを併せ持つ熱伝導性ゴムシートが得られやすい。
【0055】
フッ素系化合物(A2)は、主鎖中にパーフルオロアルキルエーテル構造を有し、分子末端にヒドロシリル基(SiH基)を1〜2個有する化合物であって、ヒドロシリル基を2個有する分子の含有率が0〜40モル%、好ましくは20〜40モル%であり(従って、ヒドロシリル基を1個有する分子の含有率が60〜100モル%、好ましくは60〜80モル%であり)、フッ素系化合物(B1)及び(B2)のアルケニル基と付加反応可能なフッ素系化合物である。
【0056】
フッ素系化合物(A2)の主鎖構造は、パーフルオロオキシアルキレン単位から構成されるものであることができ、好ましくは上記式[1]で表される構造である。フッ素系化合物(A2)においても、式[1]中のnは1〜10の整数である。フッ素系化合物(A2)におけるnの数は、フッ素系化合物(A1)や(B1)と同じであっても、異なっていてもよい。
【0057】
フッ素系化合物(A2)として好適に用いられる化合物の代表例は、下記式[4]:
【0059】
で表されるヒドロシリル基末端フッ素系化合物である。式[4]中、nは上記と同じ意味を表す。Z
5及びZ
6はそれぞれ、上記Z
1及びZ
2と同じ意味を表す。
【0060】
フッ素系化合物(A2)は、JIS K7117−1に準拠して測定される粘度が1.5〜500Pa・sであることが好ましい。
【0061】
式[4]で表されるフッ素系化合物(A2)として、信越化学工業(株)製の商品名「SIFEL 3405−A」、「SIFEL 3505−A」等を好適に用いることができる。
【0062】
フッ素系化合物(B2)は、主鎖中にパーフルオロアルキルエーテル構造を有し、分子末端にアルケニル基を1〜2個有する化合物であって、アルケニル基を2個有する分子の含有率が0〜40モル%、好ましくは20〜40モル%であり(従って、アルケニル基を1個有する分子の含有率が60〜100モル%、好ましくは60〜80モル%であり)、フッ素系化合物(A1)及び(A2)のヒドロシリル基と付加反応可能なフッ素系化合物である。
【0063】
フッ素系化合物(B2)の主鎖構造は、パーフルオロオキシアルキレン単位から構成されるものであることができ、好ましくは上記式[1]で表される構造である。フッ素系化合物(B2)においても、式[1]中のnは1〜10の整数である。フッ素系化合物(B2)におけるnの数は、フッ素系化合物(A1)や(B1)、(A2)と同じであっても、異なっていてもよい。
【0064】
フッ素系化合物(B2)として好適に用いられる化合物の代表例は、下記式[5]:
【0066】
で表されるアルケニル基末端フッ素系化合物である。式[5]中、nは上記と同じ意味を表す。Z
7及びZ
8はそれぞれ、上記Z
3及びZ
4と同じ意味を表す。アルケニル基は、フッ素系化合物(B1)と同様、例えば、ビニル基、メチルビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基のような炭素原子数2〜8のアルケニル基であることができる。好ましくは2〜4程度のアルケニル基であり、より好ましくはビニル基である。フッ素系化合物(B2)のアルケニル基は、フッ素系化合物(B1)のアルケニル基と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0067】
フッ素系化合物(B2)は、JIS K7117−1に準拠して測定される粘度が1.5〜500Pa・sであることが好ましい。
【0068】
式[5]で表されるフッ素系化合物(B2)として、信越化学工業(株)製の商品名「SIFEL 3405−B」、「SIFEL 3505−B」等を好適に用いることができる。
【0069】
架橋性成分がフッ素系化合物(A1)、(B1)、(A2)及び(B2)を含む場合において、熱伝導性樹脂組成物は、これらのフッ素系化合物含有量に関し、重量比で、下記式[6]〜[8]:
〔(A1)+(B1)〕/〔(A2)+(B2)〕=20/80〜80/20 [6]
(A1)/(B1)=20/80〜80/20 [7]
(A2)/(B2)=20/80〜80/20 [8]
を満たすことが好ましい。
【0070】
上記式[6]〜[8]を満たす含有量比で、フッ素系化合物(A1)、(B1)、(A2)及び(B2)を含有させることにより、上述の効果をより効果的に発現させることができる。
【0071】
より優れた低硬度性及び高表面粘着性を得るために、含有量比〔(A1)+(B1)〕/〔(A2)+(B2)〕は、25/75以上とすることが好ましく、30/70以上とすることがより好ましく、また、75/25以下とすることが好ましい。含有量比〔(A1)+(B1)〕/〔(A2)+(B2)〕は、例えば、70/30以下、60/40以下、あるいは50/50程度とすることができる。含有量比〔(A1)+(B1)〕/〔(A2)+(B2)〕が20/80未満である場合には、熱伝導性シートへの成型が困難となる傾向にある。一方、含有量比〔(A1)+(B1)〕/〔(A2)+(B2)〕が80/20を超える場合には、フッ素系化合物(A2)及び(B2)を配合することによって得られる上述の効果が認められにくい。
【0072】
上記式[6]に加えて含有量比(A1)/(B1)及び(A2)/(B2)をそれぞれ20/80〜80/20の範囲内とする(上記式[7]及び[8]を満たす)ことにより、良好な低硬度性と高表面粘着性とを両立させる効果をより効果的に発現させることが可能であるが、より優れた低硬度性を得るためには、含有量比(A1)/(B1)及び(A2)/(B2)は、下記式[9]及び[10]:
(A1)/(B1)=20/80〜40/60又は60/40〜80/20 [9]
(A2)/(B2)=20/80〜40/60又は60/40〜80/20 [10]
を満たすことが好ましい。
【0073】
すなわち、上記式[9]及び[10]を満たすように、フッ素系化合物(A1)又は(B1)のいずれか一方を他方に対して過剰に配合し、フッ素系化合物(A2)又は(B2)のいずれか一方を他方に対して過剰に配合することにより、過剰分のフッ素系化合物が効果的に作用して、熱伝導性シートの低硬度性を向上させることができる。ただし、上記過剰分が過度に多いと、すなわち、含有量比(A1)/(B1)又は(A2)/(B2)が20/80未満又は80/20を超える場合には、上記式[6]を満たしている場合であっても、熱伝導性シートへの成型が困難となる傾向にある。
【0074】
なお、上記過剰分のフッ素系化合物は、熱伝導性シートを構成するバインダーと分子構造が類似しているため、高温使用時においてもブリードしない(又は極めてブリードしにくい)。高温使用時におけるシート含有成分のブリードは、系を汚染する要因となるが、上記式[9]及び[10]を満たす熱伝導性シートはこのような不具合が生じず、この点においても高耐熱性である。
【0075】
熱伝導性フィラー(C)としては、熱伝導率が1W/m・K以上のものを用いることが好ましい。具体例を挙げれば、例えば、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、結晶性酸化ケイ素(SiO
2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化亜鉛(ZnO)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、窒化ホウ素(六方晶BNや立方晶BN)、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)、ダイヤモンドである。
【0076】
熱伝導性フィラー(C)の形状は、粒状、鱗片状、針状等であり得るが、より高密度充填できることから粒状であることが好ましい。粒状である熱伝導性フィラー(C)の平均粒子径は、例えば0.1〜100μmであり、好ましくは0.5〜50μmである。平均粒子径は、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)により得られる粒径分布におけるd50である。
【0077】
熱伝導性フィラー(C)として、1種の熱伝導性フィラーを単独で用いてもよいし、2種以上の熱伝導性フィラーを混合して用いてもよい。また、高密度充填性等を考慮して、平均粒子径の異なる2種以上の熱伝導性フィラーを混合して用いることもできる。
【0078】
熱伝導性フィラー(C)の含有量は、上記架橋性成分100重量部に対して、通常50〜500重量部であり、好ましくは100〜400重量部である。熱伝導性フィラー(C)の含有量が架橋性成分100重量部に対して50重量部以上、好ましくは100重量部以上、より好ましくは250重量部以上であると、熱伝導性シート自体の十分な熱伝導性性能が得られやすい。また、熱伝導性フィラー(C)の含有量が架橋性成分100重量部に対して500重量部以下、好ましくは400重量部以下であると、熱伝導性シートへの成型性を十分に確保できるとともに、極度の熱伝導性フィラー充填による熱伝導性シートの硬度上昇を抑制することができる。
【0079】
熱伝導性樹脂組成物は、架橋性成分の架橋(硬化)反応を触媒する触媒成分(D)を含むことができる。例えば、熱伝導性樹脂組成物がフッ素系化合物(A1)及び(B1)を含む場合や、フッ素系化合物(A2)及び(B2)をさらに含む場合、熱伝導性樹脂組成物は、ヒドロシリル基とアルケニル基との架橋反応(ヒドロシリル化反応)を触媒する白金族系触媒を含むことができる。白金族系触媒としては、白金系触媒が好ましく用いられる。白金系触媒としては、白金の単体;塩化白金酸;塩化白金;白金−オレフィン錯体;白金−アルケニルシロキサン錯体;白金−カルボニル錯体;白金−ホスフィン錯体;白金−アルコール錯体;アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に白金を担持させたものが挙げられる。
【0080】
白金系触媒以外の白金族系触媒としては、ロジウム系化合物、ルテニウム系化合物、イリジウム系化合物、パラジウム系化合物が挙げられる。
【0081】
白金族系触媒のような触媒成分(D)の含有量は、熱伝導性樹脂組成物の架橋硬化を促進するために必要な有効量であれば特に限定されず、上記架橋性成分100重量部に対して、0〜10重量部であることができ、典型的には、上記架橋性成分100重量部に対して、0.1〜1000ppm程度である。
【0082】
熱伝導性樹脂組成物は必要に応じて、フッ素系オイルのような可塑剤;シランカップリング剤;界面活性剤;架橋促進剤;溶剤;分散剤;老化防止剤;酸化防止剤;難燃剤;顔料;カーボンブラック、グラファイト(黒鉛)、カーボンナノチューブ、カーボン中空粒子、炭素繊維のような導電性フィラー等の添加剤を含むことができる。
【0083】
以上説明した架橋性成分、熱伝導性フィラー(C)や、必要に応じて添加される触媒成分(D)及びその他の添加剤を混合し、ミキサーやロール等を用いて混練分散させることにより、熱伝導性樹脂組成物を調製することができる。
【0084】
(1次架橋工程)
本工程は、上述のような熱伝導性樹脂組成物を加熱下に成型して、架橋性成分が少なくとも部分的に架橋されたシート状成型物を得る工程である。本工程によって、熱伝導性ゴムシートとして使用できる程度の架橋密度を有するシート状成型物を得てもよいが、後述する2次架橋工程を設ける場合には、本工程では架橋性成分の部分的な架橋(加硫)を行う。架橋(加硫)を完了させやすく、また、脱ガス成分をより確実に放出できることから、架橋性成分の架橋を、第1架橋工程(本工程)と後述する第2架橋工程の2つに分けて行うことが好ましい。
【0085】
本工程におけるシート状成型物への成型時の温度(架橋温度)は、例えば90〜150℃とすることができる。成型方法は特に制限されず、プレス成型(圧縮成型)、射出成型、トランスファー成型、押出成型、注型成型、ブロー成型、カレンダー成型等を用いることができる。
【0086】
〔II〕2次架橋工程
上述のように、本発明の熱伝導性ゴムシートの製造方法は、1次架橋工程によって形成されたシート状成型物中の架橋性成分の架橋(硬化)反応を加熱処理によって促進させる2次架橋工程を含むことができる。本工程における架橋条件は、所望のゴム硬度やゴム弾性率等が得られるように適宜調整されることが好ましい。本工程における加熱処理の温度は、例えば120〜180℃とすることができる。
【0087】
〔III〕表面処理工程
本工程は、シート状成型物の表面の少なくとも一部をフッ素系シランカップリング剤(E)に接触させる工程である。この工程を含む本発明の熱伝導性ゴムシートの製造方法によれば、発熱体や放熱体への固着が抑制され、使用後においても比較的容易に剥離することができる熱伝導性ゴムシートを得ることができる。
【0088】
すなわち、発熱体や放熱体(これらは、例えばアルミニウムのような金属からなることが多い)と熱伝導性ゴムシートとが固着してしまう主な要因として、発熱体や放熱体の表面に存在する−COOH基や−OH基のような官能基と、熱伝導性ゴムシートの表面に存在する官能基とが使用の間に化学結合を形成してしまうことが挙げられるところ、シート状成型物の表面をフッ素系シランカップリング剤(E)に接触させる表面処理によって、シート状成型物表面の官能基をフッ素化させ(表面のフッ素含有量を増加させ)、発熱体や放熱体の表面に存在する官能基と反応し得る官能基の量を効果的に低減させることができる。これにより、固着力を発生させる主な要因である上記化学結合を効果的に抑制することができる。
【0089】
例えば、架橋性成分として上述のようなフッ素系化合物を含む熱伝導性樹脂組成物を用いる場合、シート状成型物の表面には、−H、−OH基、−SiH基、アルケニル基(炭素−炭素二重結合)のような官能基が存在し得、当該官能基は、発熱体や放熱体の表面に存在する官能基と、使用の間に例えば脱水反応を起こして化学結合を形成する。また、シリコーンゴムを用いる場合にも、シート状成型物の表面には、−SiH基のような官能基が存在し得、当該官能基は、発熱体や放熱体の表面に存在する官能基と、使用の間に例えば脱水反応を起こして化学結合を形成するとともに、シリコーンゴムの比較的低い耐熱性に起因して、このような化学結合を形成した状態でゴムが徐々に分解劣化していくため、フッ素ゴムを用いる場合と比較して強固な固着が生じる。
【0090】
フッ素系シランカップリング剤(E)に接触させる表面処理に供されるシート状成型物の表面は、少なくともそれが有する表面の一部であるが、好ましくは、シート状成型物の2つの主面の少なくとも一方の全面であり、より好ましくは、シート状成型物の2つの主面の全面である。さらにシート状成型物の側面を表面処理してもよい。
【0091】
1次架橋工程のみを行い、2次架橋工程を実施しない場合、表面処理工程は1次架橋工程の後に実施される。一方、1次架橋工程後に2次架橋工程を実施する場合、表面処理工程は、1次架橋工程と2次架橋工程との間に実施してもよいし、2次架橋工程の後に行ってもよい。どちらのタイミングで表面処理工程を実施しても上述の効果を得ることができる。ただし、生産効率の観点からは、1次架橋工程と2次架橋工程との間に表面処理工程を実施することが好ましい。
【0092】
シート状成型物の表面をフッ素系シランカップリング剤(E)に接触させる具体的手段は特に制限されず、コーター、ロール、スプレー、ディップ(浸漬)等の公知の方法によって表面にフッ素系シランカップリング剤(E)を塗布する方法を用いることができる。
【0093】
シート状成型物の表面に存在する上記官能基とフッ素系シランカップリング剤(E)との反応を促進するために、フッ素系シランカップリング剤(E)を塗布した後、シート状成型物を加熱することができる。加熱温度は特に制限されないが、例えば40〜150℃程度であることができ、好ましくは80〜130℃である。1次架橋工程と2次架橋工程との間に表面処理工程を実施する場合、2次架橋工程における加熱処理がフッ素系シランカップリング剤(E)との反応を促進するため当該加熱処理を兼ねていてもよい。
【0094】
フッ素系シランカップリング剤(E)は、分子内に有機官能基及び加水分解性シリル基を有し、当該有機官能基中にフッ素原子を含有するものである。好ましく用いられるフッ素系シランカップリング剤(E)としては、下記式[11]:
R
f(CH
2)
m−SiR
aX
3-a [11]
で表わされるフッ素系シランカップリング剤を挙げることができる。
【0095】
式[11]中、R
fは炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であり、Rはメチル基またはエチル基であり、Xは加水分解性基(Cl、Brのようなハロゲン原子、アルコキシ基等)であり、mは0〜5の整数(好ましくは1〜3の整数)であり、aは0又は1である。
【0096】
式[11]で表わされるフッ素系シランカップリング剤の具体例は、例えば、CF
3(CH
2)
2SiCl
3;CF
3(CF
2)
5SiCl
3;CF
3(CF
2)
5(CH
2)
2SiCl
3;CF
3(CF
2)
7(CH
2)
2SiCl
3;CF
3(CF
2)
7(CH
2)
2Si(OCH
3)
3;CF
3(CF
2)
7(CH
2)
2Si(CH
3)Cl
2;CF
3(CH
2)
2Si(OCH
3)
3;CF
3(CH
2)
2Si(CH
3)(OCH
3)
2;CF
3(CF
2)
3(CH
2)
2Si(OCH
3)
3;CF
3(CF
2)
6(CH
2)
2Si(OCH
3)
3;CF
3(CF
2)
7(CH
2)
2Si(CH
3)(OCH
3)
2;CF
3(CF
2)
6(CH
2)
2Si(OCH
3)
3である。中でもCF
3(CH
2)
2Si(OCH
3)
3(トリフルオロプロピルトリメトキシシラン)は、好ましく用いられるフッ素系シランカップリング剤の1つである。フッ素系シランカップリング剤(E)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0097】
シート状成型物の表面をフッ素系シランカップリング剤(E)に接触させる上述の具体的手段においては、フッ素系シランカップリング剤(E)を希釈せずそのまま用いてもよいし、フッ素系シランカップリング剤(E)を希釈した液(例えば溶液)を用いることもできる。フッ素系シランカップリング剤(E)を希釈する溶剤には、例えば、水や、各種の有機溶剤を用いることができる。上記液におけるフッ素系シランカップリング剤(E)の濃度は、10重量%〜100重量%未満であることが好ましく、15重量%以上であることがより好ましい。濃度が10重量%未満であると、フッ素系シランカップリング剤(E)を用いた表面処理による所望の効果が得られにくい。
【0098】
以上のような工程を経て製造される熱伝導性ゴムシートの厚みは、適用される用途等により適宜設定されるが、通常0.05〜3mm程度であり、好ましくは0.1〜1mm程度である。
【0099】
なお、熱伝導性ゴムシートの固着力をより低減させるために、シート状成型物の表面処理とともに、熱伝導性ゴムシートに接する発熱体や放熱体の表面に対して、フッ素系シランカップリング剤(E)を用いた同様の表面処理を施すことも好ましい。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。下記実施例及び比較例で得られた熱伝導性シートについて行った評価試験の試験方法は次のとおりである。評価試験結果は表1に示すとおりであった。
【0101】
〔a〕熱抵抗
発熱基板(発熱量:45W)上に、熱伝導性ゴムシートから切り出した縦10mm、横10mm、厚さ1.0mmの試料片を貼り付けた。試料片の上に、上記発熱基板と同じ材質からなる冷却機構付き基板を配置し、98kPaの一定荷重で圧接した。両基板には温度センサーが取り付けられており、両基板の温度をモニタリングしながら、発熱基板に通電した。通電開始から5分経過後の発熱基板の温度T
1(℃)及び冷却機構付き基板T
2(℃)を測定し、下記式:
熱抵抗(℃/W)=(T
1−T
2)/Q 〔Qは発熱基板の発熱量(W)〕
に基づき熱抵抗を算出した。
【0102】
〔b〕硬度
ASKER製のASKER C硬度計を用いて25℃での熱伝導性シートの硬度を測定した。
【0103】
〔c〕引張強さ及び引張伸び
JIS K6251に準拠し、熱伝導性シートより作製したダンベル状(2号形)試験片を一定速度の加重で引張り破断する際に要した力(最大荷重)より引張強さ(MPa)を、破断する際の伸び率より引張伸び(%)を求めた(測定温度23℃)。
【0104】
〔d〕剥離強度(固着性)
2枚のアルマイト製フランジの間に、熱伝導性シートから切り出した15mm角(厚さ0.5mm)の試験片と硫酸アルマイト製の金属板(厚さ30mm)との積層体を配置し、圧縮率20%となるようにシムで調整しつつ、ボルト/ナットでフランジを締め付けた後、真空雰囲気下で200℃×65時間の加熱処理を行った。次いで、加熱処理後のフランジ対を恒温槽(温度23℃、相対湿度50%)内で充分に冷却し、フランジ温度が23℃となっているのを確認後、ミネベア(株)製の引張圧縮万能材料試験機を用いて、フランジを剥離する際の(すなわち、試験片と金属板とを剥離する際の)剥離強度(固着力,N)を測定した。
【0105】
<実施例1>
表1に示される配合比率(数値の単位は重量部である)で同表に示される各配合成分を自動乳鉢を用いて混合し、さらにロールに通して高分散化させた。得られた混練物を、金型を用いて熱プレス(100℃、10分間)でシート状に成型して、シート状成型物を得た(1次架橋工程)。次いで、得られたシート状成型物をフッ素系シランカップリング剤含有液に25℃で5分間浸漬した(表面処理工程)。フッ素系シランカップリング剤含有液には、信越化学工業(株)製の「KBM−7103」(トリフルオロプロピルトリメトキシシラン)を50重量%含有する溶液(溶剤:イオン交換水)を用いた。
【0106】
次に、フッ素系シランカップリング剤で処理したシート状成型物に対して、電気炉を用いて100℃、1時間の加熱処理を施して(2次架橋工程)、熱伝導性ゴムシートを作製した。
【0107】
<実施例2>
2次架橋工程における加熱処理条件を120℃、1時間としたこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性ゴムシートを作製した。
【0108】
<実施例3>
実施例1と同様にして1次架橋工程を実施した後、表面処理工程を実施することなく、引き続き、実施例1と同様にして2次架橋工程を実施した。その後、実施例1と同様にしてフッ素系シランカップリング剤含有液に浸漬した後、100℃、1時間の加熱処理を再度施して、熱伝導性ゴムシートを作製した。
【0109】
<比較例1>
フッ素系シランカップリング剤含有液に浸漬する工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導性ゴムシートを作製した。
【0110】
<比較例2>
表1に示される配合比率(数値の単位は重量部である)で同表に示される各配合成分を用い、かつ、フッ素系シランカップリング剤含有液に浸漬する工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、シリコーンゴム系の熱伝導性ゴムシートを作製した。
【0111】
実施例及び比較例で使用した各配合成分の詳細は次のとおりである。
〔a〕フッ素系化合物(A1):信越化学工業(株)製の商品名「SIFEL 8370−A」(ヒドロシリル基を2個有する分子の含有率が60〜100モル%の範囲内であるフッ素系化合物)、
〔b〕フッ素系化合物(B1):信越化学工業(株)製の商品名「SIFEL 8370−B」(アルケニル基を2個有する分子の含有率が60〜100モル%の範囲内であるフッ素系化合物)、
〔c〕シリコン系化合物:富士高分子社製「サーコン」、
〔d〕酸化アルミニウムA:電気化学工業(株)製「DAM−45」(平均粒子径40μm)、
〔e〕酸化アルミニウムB:電気化学工業(株)製「DAM−05A」(平均粒子径0.5μm)、
〔f〕白金触媒:田中貴金属社製「TEC10E50E」(白金担持量50重量%)。
【0112】
【表1】
【0113】
なお、比較例1及び2においては、剥離強度を求めるための評価試験において熱伝導性シートからなる試験片が破断してしまい、剥離強度を測定することはできなかった。表1に示される数値は、剥離強度を求めるための評価試験において一応計測された数値を記載したものであるが、これらの数値は破断応力に相当するものである。剥離強度は、破断応力よりも大きいものとなる。