【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来技術の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の工程を有する製造方法が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の乾燥野菜ブロック及びその製造方法に関する。
1. 乾燥野菜ブロックの製造方法であって、
(1)原料野菜を真空凍結乾燥以外の方法で乾燥することによって、水分量が20〜60質量%の半乾燥野菜を得る工程1、
(2)工程1で得られた半乾燥野菜を密閉容器内で1時間以上静置することにより半乾燥野菜の水分活性を0.85〜1.0の範囲に調整する工程2、
(3)工程2を経た半乾燥野菜を0.1〜0.6MPaの圧力で2〜6秒間押圧することによりブロック形状に成型する工程3、
(4)工程3でブロック形状に成型された半乾燥野菜を真空凍結乾燥する工程4、
を順に有する製造方法。
2. 前記真空凍結乾燥以外の方法が、熱風乾燥、送風乾燥、遠赤外線加熱乾燥、除湿空気乾燥、自然乾燥、真空減圧乾燥、間接加熱乾燥、マイクロ波加熱乾燥、及び過熱水蒸気乾燥からなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記項1に記載の乾燥野菜ブロックの製造方法。
3. 工程1で水分量が20〜50重量%の半乾燥野菜を得る、上記項1又は2に記載の製造方法。
4. 前記密閉容器内の雰囲気温度が10℃以下である、上記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5. 工程3で半乾燥野菜を0.2〜0.4MPaの圧力で3〜4秒間押圧する、上記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6. 工程3で賦型剤を使用せずに成型する、上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
7. 工程1に先立って原料野菜をブランチングする工程を更に有する、上記項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
8. 上記項1〜7のいずれかに記載の製造方法により得られる乾燥野菜ブロックであって、熱湯に浸漬した際に3分以内で原料野菜の状態に復元することができる乾燥野菜ブロック。
【0009】
以下、本発明の乾燥野菜ブロック及びその製造方法について詳細に説明する。
【0010】
本発明の凍結乾燥野菜ブロックの製造方法は、
(1)原料野菜を真空凍結乾燥以外の方法で乾燥することによって、水分量が20〜60質量%の半乾燥野菜を得る工程1、
(2)工程1で得られた半乾燥野菜を密閉容器内で1時間以上静置することにより半乾燥野菜の水分活性を0.85〜1.0の範囲に調整する工程2、
(3)工程2を経た半乾燥野菜を0.1〜0.6MPaの圧力で2〜6秒間押圧することによりブロック形状に成型する工程3、
(4)工程3でブロック形状に成型された半乾燥野菜を真空凍結乾燥する工程4、
を順に有することを特徴とする。
【0011】
上記特徴を有する本発明の乾燥野菜ブロックの製造方法は、特に工程1において水分量が20〜60重量%の半乾燥野菜を得るとともに工程2において半乾燥野菜を密閉容器内で1時間以上静置して半乾燥野菜の水分活性を0.85〜1.0の範囲に調整することにより、
・工程3において0.1〜0.6MPaの圧力で野菜組織を破壊することなく容易に所望のブロック形状に成型することができ、
・工程4において凍結障害を抑制(即ち、氷結晶の数及びサイズが小さいことにより、スポンジ状の組織(食感)の生成が抑制されている)できる上、従来よりも真空凍結乾燥機の体積当たりの野菜処理量が増加するとともに短時間で乾燥処理を完結して製造コストを低減することができ、しかも、
・熱湯により3分以内で復元して野菜本来の味、食感及びボリュームが得られる、
という有利な効果が得られる。
【0012】
以下、本発明の製造方法の各工程について説明する。
【0013】
工程1:真空凍結乾燥以外の方法で乾燥する工程
工程1は、原料野菜を真空凍結乾燥以外の方法で乾燥することによって、水分量が20〜60質量%の半乾燥野菜を得る。本発明において、真空凍結乾燥以外の方法で乾燥する工程(上記工程1)の乾燥原理は蒸発であるため、当該工程の後に行われる真空凍結乾燥工程(上記工程4)とは区別される。本明細書では、上記真空凍結乾燥以外の方法で乾燥する工程を、以下、便宜的に「高温又は(若しくは)常温乾燥する工程」ともいう。
【0014】
原料野菜としては、例えば、キャベツ、ホウレン草、小松菜、チンゲン菜、野沢菜、もやし、豆苗、カリフラワー、ブロッコリー、人参、たまねぎ、ねぎ、ごぼう、南瓜、かぶ、大根、パプリカ、ズッキーニ、菜の花、水菜等が挙げられる。これらの野菜は洗浄後、必要に応じて不要部分を除去し、種類に応じて20〜50mm×20〜50mm程度の大きさにカットして原料野菜とする。その中でも、根野菜は2〜3mm以下にスライスして使用することが好ましい。
【0015】
高温又は常温乾燥する工程後の水分量は20〜60質量%であれば良いが、その中でも20〜50重量%が好ましい。なお、原料野菜の重量を100重量%とした場合の半乾燥野菜の重量割合(半乾燥重量)は、10〜50重量%程度が好ましく、20〜50重量%程度がより好ましい。特に半乾燥重量が20〜35重量%程度であれば、後続の真空凍結乾燥工程において押さえ(ブロック形状を保持するための押さえ)をしなくても所望のブロック形状を容易に保持することができる点で好ましい。
【0016】
高温又は常温乾燥する工程の方法としては、真空凍結乾燥以外の方法であって、かつ水分量が20〜60質量%の半乾燥野菜が得られるように乾燥させれば、特に限定されない。具体的な乾燥方法としては、熱風乾燥、送風乾燥、遠赤外線加熱乾燥、除湿空気乾燥、自然乾燥(天日乾燥を含む)、真空減圧乾燥、間接加熱乾燥、マイクロ波加熱乾燥、過熱水蒸気乾燥等が挙げられる。高温又は常温乾燥する工程は、1種又は2種以上の乾燥方法を組み合わせて行うことができる。高温又は常温乾燥する工程の中でも、乾燥の作業性と野菜本来の風味を損なわないという観点から、熱風乾燥が好ましい。
【0017】
上記間接加熱乾燥とは、熱風による直接加熱ではなく、蒸発に必要な熱を熱保持壁を通じて間接的に供給する乾燥方法である。具体的にはドラム乾燥が挙げられる。また、上記真空減圧乾燥は、上記間接加熱乾燥を減圧にて乾燥する方法に相当する。
【0018】
高温又は常温乾燥する工程として熱風乾燥を行う場合、その熱風乾燥の条件は所定の水分量の半乾燥野菜が得られる限り限定されないが、乾燥温度としては50〜100℃程度が好ましく、50〜70℃程度がより好ましい。乾燥時間は原料野菜の元々の水分量に応じて一定ではないが、30分〜2時間程度が好ましく、30分〜1時間程度がより好ましい。熱風乾燥の際は、変色等を防止するために、野菜の品温を上げず短時間で乾燥が完了するように温度と風量等を設定することが望ましい。
【0019】
熱風乾燥が過度であると喫食時の復元性が悪化し、バリバリとした食感になり易く食感が低下し易い。また、熱風乾燥が不十分であると真空凍結乾燥時に大きな氷結晶が生じて多孔湿でスポンジ状のブロックとなり易く、この場合も食感が低下する。
【0020】
本発明では、原料野菜の種類によっては、上記高温又は常温での乾燥に先立ってブランチングする工程を更に有していてもよい。例えば、キャベツ、ホウレン草、小松菜、チンゲン菜、野沢菜、もやし、豆苗、カリフラワー、ブロッコリー、人参、ごぼう、南瓜、かぶ、ズッキーニ、菜の花、水菜等の場合には、ブランチングを行うことが好ましい。
【0021】
ブランチングは、加熱により野菜の有する酸化酵素を不活性化させて変質や変色を防止したり組織を軟化させて凍結による組織の破損を防止したりするために行う。具体的には、原料野菜を70〜100℃の熱湯で1〜3分程度(好ましくは90℃〜100℃の蒸気に1〜2分程度)晒すことにより行う。
【0022】
ブランチング時やブランチング後には公知の水分活性制御物質を用いてもよいが、工程2において半乾燥野菜の水分活性が0.85〜1.0の範囲に調整できるように用いる。水分活性制御物質としては、例えば、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、塩化カリウム、シュークロース、デキストロース、転化糖、グリセロール、ソルビトール、プロピレングリコール、トレハロース等が挙げられる。
【0023】
工程2:静置工程
工程2は、工程1で得られた半乾燥野菜を密閉容器内で1時間以上静置することにより半乾燥野菜の水分活性を0.85〜1.0の範囲に調整する。なお、水分活性(AW:water activity)は、半乾燥野菜を密閉容器内に入れて水分が大気中の蒸気圧と平衡するまで放置し、そのときの器内の相対湿度(H)とその温度に対応する飽和湿度(H
0)との比で表される数値であり、これは半乾燥野菜(表面、断面、内部)の水蒸気圧(P)と大気の飽和水蒸気圧(P
0)の比とも等しい。即ち、水分活性AWは、下式で表される。
【0024】
AW=P/P
0=H/H
0
密閉容器としては水蒸気を通さない材質であればよく、樹脂製の容器や袋が好ましい。静置時の密閉容器内の雰囲気温度は限定的ではないが、衛生面(微生物管理)の観点では10℃以下が好ましく、5℃以下の冷蔵室が好ましい。静置時間は、半乾燥野菜の表面、断面、内部の水分活性を0.85〜1.0の範囲に均一に調整できる時間であればよく、野菜の種類によって一定ではないが、通常1〜18時間が好ましく、6〜12時間がより好ましい。
【0025】
本発明では、工程1において水分量が20〜60重量%の半乾燥野菜を得た後に工程2において半乾燥野菜を密閉容器内で1時間以上静置して半乾燥野菜の水分活性を0.85〜1.0の範囲に調整することにより、後続の工程3において0.1〜0.6MPaの圧力で野菜組織を破壊することなく容易に所望のブロック形状に成型することができ、工程4において凍結障害を抑制しつつ従来よりも真空凍結乾燥機の体積当たりの野菜処理量を増加させて製造コストを低減することができる。
【0026】
工程3:圧縮成型工程
工程3は、工程2を経た半乾燥野菜を0.1〜0.6MPaの圧力で2〜6秒間押圧することによりブロック形状に成型する。圧力はその中でも0.2〜0.4MPaが好ましい。なお、ブロック形状は限定的ではなく、立方体、直方体、円柱状等が含まれる。直方体形状の場合には、例えば、30mm×40mm×20mm程度に設定できる。この圧縮成型により半乾燥野菜の嵩比重は一般に1/5〜1/10程度となる。
【0027】
本発明では、工程1及び工程2を経た効果として、工程3において、0.1〜0.6MPaの圧力で野菜組織の物理的破壊をすることなく容易に所望のブロック形状に成型することができる。また、成型時に野菜の栄養分を含んだドリップが流出することが効果的に抑制されており、更に喫食の際の復元力も十分に保持されている。このような効果は、工程1及び工程2を経ることにより半乾燥野菜の表面、断面及び内部の湿度の均質化によりしなやかな物性が得られていることに基づくものと考えられる。
【0028】
本発明では、必要に応じて、成型性を高めて且つブロックの形崩れを抑制するために、公知の賦型剤を併用することもできる。例えば、ブドウ糖、乳糖、果糖、ショ糖等の糖類が挙げられる。賦型剤の種類と含有量は限定されないが、含有量については、成型する半乾燥野菜の1〜10重量%程度で、半乾燥野菜の水分活性が0.85〜1.0の範囲から外れないように留意する必要がある。なお、本発明では工程1及び工程2により半乾燥野菜にしなやかな物性を付与しているため、賦型剤を用いなくても容易に所望のブロック形状に成型することができる。
【0029】
工程4:真空凍結乾燥工程
工程4は、工程3でブロック形状に成型された半乾燥野菜を真空凍結乾燥する。本発明において、真空凍結乾燥工程とは、(i)上記工程3で得られた半乾燥野菜に対して凍結する工程、及び(ii)凍結状態の上記半乾燥野菜を真空圧下で乾燥する工程、を行うことをいう。なお、真空凍結乾燥工程(上記工程4)の乾燥原理は昇華であるため、当該工程よりも前に行われる高温又は常温乾燥する工程(上記工程1)とは区別される。
【0030】
真空凍結乾燥の条件は、乾燥野菜ブロックが得られる限り限定的ではない。例えば、真空凍結乾燥工程における凍結(上記(i)工程)の条件としては−20〜−40℃程度で3〜12時間程度が好ましく、−30〜−40℃程度で3〜4時間程度がさらに好ましい。また、真空凍結乾燥工程における真空圧下での乾燥(上記(ii)工程)の条件としては、乾燥温度(乾燥の棚温度)が40〜100℃の範囲で6〜24時間程度が好ましい。真空圧は、20〜100Pa程度が好ましく、20〜70Pa程度がより好ましい。真空凍結乾燥により、水分含有率10重量%以下、好ましくは0〜5重量%程度の乾燥野菜ブロックが得られる。本発明では、工程1及び工程2を経て半乾燥野菜の水分量を20〜60質量%にするとともに野菜内部の湿度を均質化しているため、氷結晶による組織破壊を大幅に低下し、野菜本来の食感を十分に保持できる。また、好適な製造条件では真空凍結乾燥に要する時間を5〜6時間程度、短縮でき、従来よりも製造コスト低減にも寄与する。
【0031】
上記工程を経ることにより得られる凍結乾燥野菜ブロックは、コンパクトな形状でありながらも比較的重量感があり形崩れが生じ難い。水分含有量が極めて少ないため、常温で長期間変質することなく保管が可能である。また、熱湯を注ぐことにより3分以内で完全に復元し、野菜本来の風味、食感、ボリュームが得られる。