(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記クランプ電極は、前記被溶接部の前記トーチ電極と対向する部位の近傍で前記第1および第2の部材を電磁気力または空気圧もしくは油圧の圧力で挟着して固定するクランプを有する、請求項1に記載のTIG溶接装置。
前記クランプ電極の前記被溶接部に接触する部分は、前記溶接電源に電気的に接続される導体を有し、前記導体は前記閉回路内で前記電流が流れる時に前記閉回路の一部を構成する、請求項1または請求項2に記載のTIG溶接装置。
前記直進駆動部材が前記第1の位置から前記第3の位置まで移動する途中で前記トーチ電極の先端が前記被溶接部に接触したことを検出するセンサを有し、前記センサの出力信号に応答して前記直進駆動部材の移動を停止させる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のTIG溶接装置。
前記直進駆動部材と前記トーチボディまたはこれに結合された第1の直進可動部材との間に設けられ、前記直進駆動部材の移動する方向で弾性変形可能な第1のばね部材を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のTIG溶接装置。
前記直進駆動部材と前記クランプ電極またはこれに結合された第2の直進可動部材との間に設けられ、前記直進駆動部材の移動する方向で弾性変形可能な第2のばね部材を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のTIG溶接装置。
前記溶接電源は、前記閉回路内で流す電流を、前記トーチ電極の先端が前記被溶接部に接触している時は第1の電流値以下に制御し、前記トーチ電極の先端が前記被溶接部から離れてから前記第1の電流値よりも大きな第2の電流値以上に制御する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のTIG溶接装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
図1に、本発明の一実施形態におけるTIG溶接装置の全体構成を示す。このTIG溶接装置は、特に拝み溶接(突き合わせ溶接)に好適に対応できる据置型の装置構成となっており、直流式の溶接電源回路、制御回路および各種駆動回路等を内蔵したユニット形態の装置本体10と、この装置本体10からの用力の供給と制御の下で電気部品支持体(たとえばアッセンブリまたは回路基板)S上の被溶接材(母材)にTIG溶接を施す溶接ヘッド12と、シールドガスたとえばアルゴンガスの供給源であるガスボンベ14とを有する。
【0017】
溶接ヘッド12は、板状のベース16に可動ステージ18とトーチスタンド20を併設し、トーチスタンド20にTIG溶接用のトーチ22およびクランプ電極24を昇降移動可能に搭載している。
【0018】
より詳しくは、可動ステージ18は、電気部品支持体Sを水平面内のXY方向で移動させるためのXYステージ25と、電気部品支持体Sを水平面内の方位角方向(θ方向)で移動させるためのθステージ26とを有している。一方、トーチスタンド20は、固定台28の上にたとえばサーボモータを駆動源とする昇降駆動部(図示せず)を内蔵した昇降タワー30を設けている。この昇降タワー30の昇降駆動部に昇降支持軸32を介して直進駆動部材34が結合され、この直進駆動部材34にトーチ22およびクランプ電極24が鉛直方向で一体移動可能かつ分離可能に取り付けられている。直進駆動部材34とトーチ22およびクランプ電極24とを連結する機構については、後に詳細に説明する。
【0019】
トーチ22は、水平方向では固定されている。装置本体10よりケーブル36を介して送られてくる制御信号の下でXYステージ25およびθステージ26がXY方向の移動動作およびθ方向の移動(回転)動作をそれぞれ行うことにより、ステージ18に載置されている電気部品支持体S上でTIG溶接の対象となる被溶接材の被溶接部WJをトーチ22の直下に位置決めすることができる。
【0020】
トーチ22は、装置本体10よりトーチケーブル内蔵のホース38を介してTIG溶接用の電力とシールドガスSGの供給を受けるようになっており、絶縁体たとえば樹脂からなる円筒状のトーチボディ40とこのトーチボディ40の先端(下端)部に取り付けられる円筒状または円錐状のトーチノズル42とを有し、トーチボディ40およびトーチノズル42の中にペンシル形のトーチ電極(タングステン電極棒)44を着脱自在に装着し、トーチノズル42の下端よりわずかに(通常2〜3mm)トーチ電極44の先端を突出させている。
【0021】
装置本体10は、ユニット正面に表示器46、操作ボタン48および電源スイッチ50等をタッチパネル形式で配設し、ユニット側面または背面に外部接続端子またはコネクタ類52を配設している。ガスボンベ14よりホース15に送出されるシールドガスSGは、装置本体10およびホース38を経由してトーチ22に供給されるようになっている。
【0022】
図2に、この実施形態における被溶接材(母材)の一例を示す。図示の例では、たとえば銅または銅合金からなる2つの棒状または板状の端子部材W
1,W
2を母材(被溶接材)とし、両端子部材W
1,W
2のそれぞれの上端面(頂面)を略面一に揃えてそれぞれの上端部を一体に合わせている。この一体に合わさった端子部材W
1,W
2の上端部が被溶接部WJを形成する。各端子部材W
1,W
2の他端(図示せず)は、たとえば電気部品支持体S上に搭載されている電気部品(図示せず)に通じている。あるいは、一方の端子部材W
1は電気部品支持体S上に搭載され、他の端子部材W
2の他端は別の電気部品支持体(図示せず)上に搭載されている電気部品(図示せず)に通じている。
【0023】
クランプ電極24は、
図1および
図2に示すように、直進駆動部材34に対して鉛直方向で一体移動可能かつ分離可能な昇降棒56の下端部に取り付けられ、モータ、プランジャまたはシリンダ等の駆動源(図示せず)を収容または装備するクランプ本体58と、このクランプ本体58から平行に突出して延在する一対の開閉可能なクランプアーム60とを有している。クランプ本体58内の駆動源は、装置本体10よりケーブルまたは配管62を介して所要の用力(電力、圧縮空気または作動油)を供給され、電磁気力または空気圧もしくは油圧の圧力に基づいて所要の挟着力ないし加圧力を発生する。クランプアーム60は、該駆動源に結合されており、被溶接部WJを端子部材W
1,W
2の板厚方向で挟着固定できるようになっている。クランプアーム60が被溶接部WJを最適な高さ位置で挟着固定できるように、つまりクランプ電極24の稼働位置を調整できるように、昇降棒56上でクランプ電極24の位置あるいは後述する連結部(68)の位置を調整する機構(図示せず)を備えることができる。
【0024】
クランプアーム60は、導体たとえば真鍮からなり、アースケーブル64を介して装置本体10内の溶接電源に電気的に接続されている。この実施形態では、溶接電源の正極にクランプアーム60が電気的に接続される。溶接電源の負極には、ホース38に内蔵されているトーチケーブルを介してトーチ電極44が電気的に接続される。
【0025】
次に、
図4A〜
図4Fにつき、この実施形態のTIG溶接装置において、直進駆動部材34とトーチ22およびクランプ電極24とを連結する機構について説明する。図示のように、板状の直進駆動部材34の貫通孔34a,34bにトーチボディ40および昇降棒56がそれぞれ通され、トーチボディ40および昇降棒56の上部ないし中間部に固定された鍔状またはフランジ状の連結部材66,68が直進駆動部材34の上面に載るようにして、トーチボディ40および昇降棒56が直進駆動部材34に連結される。昇降棒56の下端部には、上述したようにクランプ電極24が取り付けられている。
【0026】
かかる構成のトーチおよびクランプ昇降機構においては、トーチ電極44の下端(先端)および昇降棒56の下端がそれぞれ空中に浮いている間は(
図4A)、昇降タワー30が直進駆動部材34を下降させると、連結部材66,68が直進駆動部材34の上面に載った状態でトーチ22およびクランプ電極24が直進駆動部材34と一体に下降移動する。そして、クランプ電極24が稼働位置に着くと、直ちにクランプ動作を開始して、母材(W
1,W
2)の被溶接部WJを挟着する。直進駆動部材34がさらに下降すると、昇降棒56の連結部材68が直進駆動部材34から分離する(
図4C)。そして、トーチ電極44の下端が母材(W
1,W
2)の被溶接部WJの上面に接触してからは(
図4D)、トーチボディ40の連結部66が直進駆動部材34から分離して、トーチボディ40は直進駆動部材34から独立して被溶接部WJ上で起立するようになる(
図4D)。この時、被溶接部WJにはトーチ22の自重が加わる。
【0027】
なお、図示の構成例では、昇降棒56の連結部材68が直進駆動部材34から分離すると、昇降棒56およびクランプ電極24の自重が母材(W
1,W
2)に加わるようになっている。しかし、後述するように、連結部材68と直進駆動部材34との間に圧縮コイルばね(86)を介在させることによって、母材(W
1,W
2)に加わる荷重を可及的に軽減することができる。
【0028】
また、トーチ電極44の下端が母材(W
1,W
2)の被溶接部WJに接触している状態(
図4E)から、直進駆動部材34を元の高さ位置まで上昇移動させると、その途中で先ずトーチボディ40の連結部材66が直進駆動部材34の上に載ってトーチボディ40も直進駆動部材34と一体に上昇移動し、次いで昇降棒56の連結部材68が直進駆動部材34の上に載って昇降棒56およびクランプ電極24も直進駆動部材34と一体に上昇移動するようになっている(
図4F)。
【0029】
この実施形態では、トーチボディ40の連結部66と直進駆動部材34との間の連結または分離状態を検出するためのセンサ70が備わっている。図示のセンサ70は、垂直リニアスケールからなり、フランジ66の側面に取り付けられている鉛直方向に延びる目盛部72と、この目盛部72を直進駆動部材34の相対的な高さ位置に応じたレベルで光学的に読み取るように直進駆動部材34に取り付けられている目盛読取部74とを有している。目盛読取部74は、反射式の光学センサからなり、電気ケーブル(図示せず)を介して装置本体10内の制御回路に電気的に接続されている。
【0030】
このセンサ70においては、トーチボディ40の連結部材66が直進駆動部材34の上に載っている限り、直進駆動部材34が任意の高さ位置で昇降移動しても目盛読取部74の出力信号(読取値)は一定値を保つ。しかし、直進駆動部材34がトーチボディ40の連結部材66から分離すると、目盛部72と目盛読取部74との相対位置が変化し、目盛読取部74の出力信号(読取値)が変化する。装置本体10内の制御部は、目盛読取部74からの出力信号に基づいて直進駆動部材34とトーチボディ40との相対的な位置関係を監視できるとともに、直進駆動部材34が往動(下降移動)する途中でトーチ電極4
4の下端が母材(W
1,W
2)の被溶接部WJに接触したときは、そのことを検出できる。なお、このような目盛を用いる光学式のセンサに代えて、近接センサ等の他の方式のセンサを用いることも可能である。
【0031】
次に、
図3、
図4A〜
図4Fおよび
図5A〜
図5Eを参照して、この実施形態におけるTIG溶接装置の動作およびTIG溶接方法を説明する。
【0032】
先ず、母材(W
1,W
2)を支持する電気部品支持体Sがステージ18上に載置されている状態で、XYステージ25およびθステージ26が上記のように装置本体10内の制御部による制御の下で水平面内の位置合わせを行う。この位置合わせ動作により、母材(W
1,W
2)の被溶接部WJがトーチ電極44の真下付近に位置するようになる。通常は、電気部品支持体S上で溶接対象となっている全ての被溶接部WJにXY座標が割り当てられるので、オープンループ制御の位置合わせ動作を行ってよい。しかし、モニタカメラ等を用いてフィードバック制御の位置合わせ動作を行うことも可能である。
【0033】
上記のような水平面内の位置合わせとは別に、高さ方向においても装置本体10内の制御部による制御の下で昇降タワー30によりトーチ22のスタート位置が適当な高さ位置に調整される。もっとも、同一種類の複数の被溶接材に対して同一条件のアーク溶接を続けて行う場合は、アーク溶接の終了後にトーチ22を前回と同じスタート位置に戻すことによって、次回のアーク溶接のための初期高さ位置調整を省くこともできる。
【0034】
上記のような位置合わせないし初期高さ位置の調整が済んでいる状態(
図4A)から、装置本体10内の制御部による制御の下に、ステージ18上の母材(W
1,W
2)に対するTIG溶接が溶接ヘッド12で実行される。
図3のフローチャートは、この実施形態におるTIG溶接方法の手順を示す。
【0035】
先ず、制御部は、昇降タワー30の昇降駆動部を作動させて、直進駆動部材34の下降移動を開始する(ステップS
1)。トーチ電極4
4の下端(先端)および昇降棒56の下端はそれぞれ空中に浮いているので(
図4A)、直進駆動部材34の下降移動が開始されると、連結部材66,68が直進駆動部材34の上面に載った状態でトーチ22およびクランプ電極24も直進駆動部材34と一体に下降移動する。
【0036】
直進駆動部材34が下降移動を開始してから間もなくして、クランプ電極24は鉛直方向の予め設定された位置つまり稼働位置に着く(ステップS
2)。この稼働位置で、クランプ電極24は、クランプ動作を開始し(ステップS
3)、クランプアーム60を閉じる方向に駆動して母材(W
1,W
2)の被溶接部WJの上端部を挟着する(
図5A)。このクランプ動作により、トーチ電極44に対する被溶接部WJの位置が板厚方向で補正されるとともに、被溶接部WJにおいて隙間が殆ど無くなり接触抵抗が下がる。
【0037】
一方、トーチ22は昇降棒56の下降移動が終了した後も直進駆動部材34と一体に下降移動し(ステップS
4)、トーチ電極44の下端(先端)が母材(W
1,W
2)の被溶接部WJに漸近する。そして、トーチ電極4
4の下端が被溶接部WJの上面に接触すると(ステップS
5)、トーチ22の下降移動がそこで終了し(
図4C)、その直後に直進駆動部材34がトーチボディ40の連結部材66から分離し(
図4D)、制御部がセンサ70の出力信号に応答して直進駆動部材34の下降移動を止める(ステップS
6)。
【0038】
なお、制御部は、トーチ22の下降移動の途中で、あるいは下降移動の終了直後に、シールドガスSGの供給を開始する。シールドガスSGは、ボンベ14から装置本体10およびホース38を介してトーチ22に供給される。トーチ22は、トーチボディ40の上部にシールドガスSGを導入し、導入したシールドガスSGをトーチノズル42の開口から噴出する。
【0039】
こうしてトーチ電極44の先端が母材(W
1,W
2)の被溶接部WJに接触している状態の下で、制御部は通電を開始する(ステップS
7)。すなわち、装置本体10内で溶接電源回路E
DCのスイッチSWをそれまでのオフ状態からオン状態に切り換える。そうすると、溶接電源回路E
DCより直流電圧がトーチ電極44と被溶接部WJとの間に印加される。これにより、溶接電源回路E
DCの正極端子→オン状態のスイッチSW→アースケーブル64→クランプアーム60→被溶接部WJ→トーチ電極44→ホース38内のトーチケーブル39→溶接電源回路E
DCの負極端子の経路(閉回路)で、通電開始の直流電流つまりスタート電流i
1が流れる(
図5C)。
【0040】
この時、トーチ電極44の先端が母材(W
1,W
2)の被溶接部WJに接触しているので、電流i
1の大きさに関係なくアークはまだ発生しない。しかし、この実施形態では、溶接電源回路E
DCの出力電圧または出力電流を制御することにより、スタート電流i
1の電流値を一定範囲に制御する。すなわち、トーチ電極44の寿命を延ばすには、そのままトーチ電極44の先端を被溶接部WJから引き離した時に被溶接部WJを溶かさない程度の弱い放電しか起こさない小さな電流値(通常20A以下)が好ましい。一方で、トーチ電極44の先端を被溶接部WJから引き離してアーク溶接にふさわしい高熱のアーク放電を安定確実に発生させるには、この段階(接触状態)の通電において被溶接部WJに相当のジュール熱を発生させておく必要がある。この実施形態では、これら両面の観点から、スタート電流i
1の電流値を10〜20Aの範囲に制御する。
【0041】
こうして、トーチ電極44の先端が母材(W
1,W
2)の被溶接部WJに接触した状態でアーク電流i
DCが所定の電流値I
1で流れることにより、トーチ電極44(特にその先端付近)および被溶接部WJでかなりのジュール熱が発生する。
【0042】
制御部は、通電開始から所定時間T
1が経過すると(ステップS
8)、直進駆動部材34を幾らか上昇移動させて、トーチ電極44の先端を被溶接部WJから設定離間距離(たとえば1mm)だけ上方に引き離し(ステップS
9)、その高さ位置で静止させる。そして、このトーチ電極44の引き離しと同時に、または引き離しが完了した後に、溶接電源回路E
DCの出力電圧を一段上げて、上記閉回路内で流れる電流をそれまでのスタート電流i
1よりも一段と大きいアーク放電用の正規の直流電流または主電流i
2に切り換える(ステップS
10)。この主電流i
2の電流値は、被溶接部WJを溶かすのに十分な高熱のアークを発生させる値(通常30A以上)に選ばれる。
【0043】
こうして主電流i
2が流れている間は、トーチ電極44(特にその先端付近)と被溶接部WJとの間でアークACが持続し、被溶接部WJはアークACの熱によって溶融する(
図5D)。なお、主電流i
2の電流値を始終一定値に保ってもよいが、被溶接部WJの溶融を促進するために、途中で主電流i
2の電流値をさらにステップ的または漸次的に増大させるような電流波形制御(あるいは逆にダウンスロープの電流波形制御)を用いることも可能である。
【0044】
制御部は、通電開始から所定の時間T
2(通常2〜3sec)が経過すると(ステップS
11)、スイッチSWをオフ状態に切り換えて、通電を止める(ステップS
12)。直後にシールドガスSGの供給も止める。通電が止まり、主電流i
2が切られると、その瞬間にアークは消滅する。アークが消滅すると、被溶接部WJの溶融部分が大気中の自然冷却によって直ぐに凝固する。こうして、母材(W
1,W
2)の被溶接部WJにて一体またはひと固まりに溶接接合される。
【0045】
この後、制御部は、クランプ電極24を復動させて、被溶接部WJに対する加圧または挟着固定を解除する(ステップS
13,
図5E)。次いで、昇降タワー30の昇降駆動部を通じて直進駆動部材34を上昇移動させ、トーチ22およびクランプ電極24をスタート位置に戻す(ステップS
14)。
【0046】
上述したように、この実施形態においては、クランプ電極24により母材(W
1,W
2)の被溶接部WJの先端部近くに密着固定用の加圧力を加えながら、トーチ電極44の先端を被溶接部WJに接触させた状態で通電を開始した後に引き離してアーク放電を発生させるので(タッチスタート方式またはリフトスタート方式)、被溶接部WJ(特にその中央部)にアークACを安定確実に集中させ、所望の溶接品質(接合強度、外観仕上がり)を得ることができる。
【0047】
この点に関して、従来のこの種のTIG溶接装置では、トーチ電極とクランプが常に一定の位置関係にあるため、タッチスタート方式を採ることができず、最初からトーチ電極の先端を被溶接部WJから離した状態で通電を開始し、アーク放電を発生させるようにしていた。しかし、その場合は、高価な高周波電源や高圧直流電源を必要とするだけでなく、アークが必ず被溶接部(特にその中央部)に集中するようにアーク放電を発生させることが非常に難しく、正極側ではアークが不定な位置で着火し、場合によっては
図5Dにおいて仮想線(一点鎖線)AC'で示すようにクランプアーム60に飛火することもある。このため、
図6に示すように、クランプの稼働位置(挟着固定位置)をトーチ電極から十分遠い位置に設定することで、対処するほかなかった。しかし、このようにクランプの稼働位置(挟着固定位置)をトーチ電極から遠ざけると、被溶接部WJの先端部付近で密着性が保証されなくなり、所望のアーク溶接品質を安定確実に得ることは困難であった。この実施形態では、上記のように、この従来技術の課題を解決している。
【0048】
特に、この実施形態におけるTIG溶接装置は、クランプ電極24およびトーチボディ40と連結してトーチ電極44の軸方向と平行に直進移動可能な直進駆動部材34を備え、クランプ電極24およびトーチ電極44を母材(W
1,W
2)の被溶接部WJから上方に遠ざけるための第1の位置(
図4A)と、クランプ電極24を稼働位置に着かせるための第2の位置(
図4B)と、トーチ電極44の先端を被溶接部WJに接触させるための第3の位置(
図4D)と、トーチ電極44の先端をアークの生成に適した所定距離だけ被溶接部WJから離すための第4の位置(
図4E)との間で、直進駆動部材34を直進移動させる構成としているので、1軸の直進駆動機構によりトーチ電極とクランプを被溶接部WJに対して効率よく連携移動させることが可能であり、上記従来技術の課題を低コストで効率的な解決している。もちろん、高価な高周波電源や高圧直流電源は不要であり、溶接電源回路E
DCは低出力の安価な直流電圧源または直流電流源で済ますことができる。
[他の実施形態又は変形例]
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0050】
たとえば、上述した実施形態では、トーチ電極4
4の先端が母材(W
1,W
2)の被溶接部WJに接触する前に、クランプ電極24が被溶接部WJに対する加圧(挟着固定)を開始するようにしている。この場合は、クランプ電極24による被溶接部WJの位置補正が行われた後にトーチ電極4
4の下端が被溶接部WJに接触するので、その接触位置を精確に制御することが可能であり、たとえばトーチ電極4
4の先端を母材(W
1,W
2)の隙間に精確に差し込むことができる。もっとも、一変形例として、トーチ電極4
4の先端が母材(W
1,W
2)の被溶接部WJに接触した後に、クランプ電極24が被溶接部WJに対する加圧(挟着固定)を開始することも可能である。
【0051】
別の実施例(変形例)として、
図7に示すように、直進駆動部材34とトーチボディ40の一部(たとえばトーチボディ40に固定された鍔状のばね受け部80)との間に、直進駆動部材34の移動する方向で弾性変形可能なばね部材たとえばコイルばね82を設けることも可能である。この場合、コイルばね82に圧縮コイルばねを用いることで、トーチ電極4
4が被溶接部WJに接触したときに被溶接部WJの受ける荷重をトーチボディ40の自重より任意に軽くすることができる。母材(W
1,W
2)が小型精密電子部品の端子部材である場合に有利な形態である。あるいは、コイルばね82に引っ張りコイルばねを用いることで、トーチ電極4
4が被溶接部WJに接触したときに被溶接部WJの受ける荷重をトーチボディ40の自重より任意に重くすることもできる。なお、ばね受け部80の位置を調整する機構(図示せず)を備えることで、コイルばね82のばね力を調整することもできる。
【0052】
同様に、直進駆動部材34と昇降棒56の一部(たとえば昇降棒56に固定された鍔状のばね受け部84)との間に、直進駆動部材34の移動する方向で弾性変形可能なばね部材たとえばコイルばね86を設けることも可能である。特に、コイルばね86に圧縮コイルばねを用いることで、クランプ電極24が被溶接部WJを挟着したときに母材(W
1,W
2)の受ける荷重を可及的に軽くして、母材(W
1,W
2)の損傷を防止することができる。
【0053】
このように直進駆動部材34にコイルばね82,86を介してトーチボディ40および昇降棒56を取り付ける構成においては、直進駆動部材34を斜め方向または水平方向で直進移動させ、トーチ電極4
4およびクランプ電極24を同方向に直進移動させることも可能である。
【0054】
上述した実施形態における直進駆動部材34の板状の形態は一例であり、直進駆動部材34は任意の形状の板体、ブロック、筒体または筺体の構造を採ることが可能である。同様に、連結部材66,68も任意の形態を採ることができる。
【0055】
また、上述した実施形態では、直進駆動部材34にトーチ22を直接取り付けた。しかし、
図8に示すように、直進駆動部材34にたとえば昇降棒のような直進可動部材88を鉛直方向で一体移動可能かつ分離可能に取り付け、この直進可動部材88に結合されたホルダ90にトーチ22を着脱可能に取り付ける構成も可能である。
【0056】
上記実施形態におけるTIG溶接装置は据置型であったが、ロボットに搭載する形態も可能である。その場合は、直進駆動部材34または昇降支持軸32をロボットアームに結合すればよい。
【0057】
上記実施形態におけるTIG溶接機は、溶接ヘッド12のステージ18に自動位置合わせ機構(XYステージ25、θステージ26)を備えた。しかし、ステージ18を手動式の可動ステージに構成することや、あるいは固定式のステージ18上でワークまたは電気部品支持体Sの位置合わせを手動で行うことも可能である。
【0058】
被溶接部WJにおいて、端子部材W
1,W
2の材質は銅または銅合金に限定されず、たとえばアルミニウムまたはアルミニウム金合や真鍮等の導体であってもよく、端子部材W
1の材質と端子部材W
2の材質が異なっていてもよい。また、端子部材W
1,W
2の形状も任意でよく、たとえば断面が矩形の棒体または板体に限らず断面が円形の棒体または板体であってもよい。