特許第6113148号(P6113148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6113148ポリエチレンテレフタレート−グラフェンナノコンポジット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113148
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】ポリエチレンテレフタレート−グラフェンナノコンポジット
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20170403BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170403BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08K3/04
   C08J3/22CFD
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-509453(P2014-509453)
(86)(22)【出願日】2012年5月3日
(65)【公表番号】特表2014-513186(P2014-513186A)
(43)【公表日】2014年5月29日
(86)【国際出願番号】US2012036376
(87)【国際公開番号】WO2012151433
(87)【国際公開日】20121108
【審査請求日】2015年5月1日
(31)【優先権主張番号】61/482,048
(32)【優先日】2011年5月3日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502352276
【氏名又は名称】ザ・ボード・オブ・リージェンツ・フォー・オクラホマ・ステート・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】ハナン,ジェイ・クラーク
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−510906(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/008511(WO,A1)
【文献】 特開2011−016902(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/074125(WO,A1)
【文献】 Polymer,2010年,51,p.1191-1196
【文献】 Composites: Part A,2011年,42,p.560-566
【文献】 J. Mater. Chem.,2011年,21,p.3931-3939
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート(PET)を包含する基材ポリマー;および
基材ポリマーの強度を増加させるナノ粒子
を含む、ナノコンポジット材料であって、
ナノ粒子が、グラフェン(graphene)ナノプレートレットを含み、グラフェンナノプレートレットが、ナノコンポジット材料の10重量パーセント〜15重量パーセントを構成する、前記ナノコンポジット材料。
【請求項2】
グラフェンが、剥離済みナノプレートレットを含む、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
グラフェンナノプレートレットが、5〜10マイクロメートルの平均直径を有する、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
グラフェンナノプレートレットが、5〜20nmの厚みを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の材料。
【請求項5】
ナノプレートレットが、ナノコンポジット材料の10重量パーセントを構成する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の材料。
【請求項6】
ナノプレートレットが、ナノコンポジット材料の15重量パーセントを構成する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の材料。
【請求項7】
ポリエチレンテレフタレート(PET)を基材ポリマーとして与え;
グラフェンナノプレートレットを含むナノ粒子状物質を与え;
基材ポリマーをナノ粒子状材料と配合して、マスターバッチ生成物を形成し;そして
マスターバッチ生成物を射出成形すること
を含み、ナノ粒子状物質が、マスターバッチ生成物中の10重量パーセント〜15重量パーセントを構成するように与えられる、ナノコンポジット材料を製造する方法。
【請求項8】
グラフェンナノプレートレットが、5〜10マイクロメートルの平均直径及び/又は5〜20nmの厚みを有する、請求項に記載の方法。
【請求項9】
剥離によってグラフェンを製造することを更に含む、請求項又はに記載の方法。
【請求項10】
ナノ粒子状物質が、マスターバッチ生成物中の10重量パーセントを構成するように与えられる、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
ナノ粒子状物質が、マスターバッチ生成物中の15重量パーセントを構成するように与えられる、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロス・リファレンス
本出願は、本明細書中において全ての目的にそのまま援用される2011年5月3日出願の米国仮出願第61/482,048号の恩典を主張する。
【0002】
本開示は、概して、ポリマー、より詳しくは、ナノマテリアルの導入によるポリマーの補強に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリマーは、現代生活の中で常に存在している成分となっている。金属および他の重質材料から労働および/またはエネルギー集約的プロセスを用いて作られていた製品は、現在、より低価に、より速やかに、そしてより少ないエネルギー投入で作ることができる。自動車、医療、情報の技術および健康管理は、ポリマーの偏在的使用を行う産業の僅かな実例にすぎない。
【0004】
ポリマーからデバイスを作ることは、概して、構造用金属または他の材料から作られる同等の完成品よりも重量が軽い完成品をもたらす。しかしながら、重量の減少と共に、概して、強度の減少が起こる。強度の減少は、許容し得ない程度に座屈、破断または変形することなく、捩り、剪断、圧縮、圧力または別の力に耐える能力の減少となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
要求されることは、上の問題および関連した問題に取り組むためのシステムおよび方法である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の発明は、その一つの側面において、ナノコンポジット材料を含む。その材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含めた基材ポリマーと、基材ポリマーの強度を増加させるナノ粒子を含有する。そのナノ粒子は、剥離によって製造することができるグラフェン(graphene)ナノプレートレットを含んでよい。グラフェンナノプレートレットは、5マイクロメートルの平均直径を有してよい。それらは、ナノコンポジット材料の約2重量パーセントを構成してよい。他の態様において、グラフェンナノプレートレットは、ナノコンポジット材料の約5、10または15重量パーセントを構成してよい。別の態様において、その重量百分率は、約2〜約15であってよい。
【0007】
本開示の発明は、その別の側面において、ナノコンポジット材料を製造する方法を含む。その方法は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を基材ポリマーとして与え、そしてナノ粒子状物質を与えることを包含する。その方法は、更に、基材ポリマーをナノ粒子状材料と配合して、マスターバッチ生成物を形成し、そしてマスターバッチ生成物を射出成形することを包含する。ナノ粒子状物質は、グラフェンを含んでよい。グラフェンは、剥離によって製造することができる。
【0008】
一つの態様において、ナノ粒子状物質は、マスターバッチ生成物中のナノ粒子物質材料の約2重量パーセントを構成してよい。他の態様において、その重量百分率は、約5、10または15であってよい。いくつかの態様において、それは、約2パーセント〜約15パーセントであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1:xGnP粉末試料のSEM顕微鏡写真(a)1000x;(b)11000x。
図2図2:PET(At)およびPET−15%xGnPナノコンポジット(B)の引張試験済み試料。
図3図3:(a)PET試料、PET−xGnPナノコンポジットの(b)2%wt、(c)5%wt、(d)ミクロ空隙を含む10%wt、(e)5kxでの10%wtおよび(f)15%wtの試料のSEM顕微鏡写真。
図4図4:PET−15%xGnPナノコンポジット中のナノプレートレットの分散を示すTEM顕微鏡写真;明視野像(a)10kx、(b)20kxおよび(c)暗視野像@60kx。
図5図5:xGnP粉末と、PET対照およびナノコンポジットとのXRD図形の比較。
図6図6:PETおよびPET−xGnPナノコンポジットの応力−歪曲線の比較。
図7図7:対照PETと比較したPETナノコンポジットのヤング率。
図8図8:実験結果と比較した、予測によるPET−グラフェンナノコンポジットのモジュラス。
【発明を実施するための形態】
【0010】
基材ポリマーは、それらの外観、色、硬度、強度、およびいずれか多数の他の測定可能な性質に関する多数の固有特性を有してよい。いくつかの場合、基材ポリマーは、基材ポリマーの性質を変更するであろう所定量の材料と混合する。基材ポリマーに加えられる材料を、マスターバッチと称し、そして基材ポリマーにその性質を変更するような方法でマスターバッチを加えるプロセスを、マスターバッチプロセスと称することができる。
【0011】
ポリマーは、マスターバッチプロセスで製造することもできるが、その場合、追加の加工は、完成した生成物を生じるであろう。例えば、ポリマーまたはナノコンポジットポリマーは、以下に記載のように製造して、マスターバッチペレットとすることができ、その後、それを(例えば、射出成形または他の適するプロセスによって)成形して、完成した生成物とする。
【0012】
本開示のいくつかの態様において、ナノスケール粒子は、ポリマーとブレンドしてまたは一緒にして、マスターバッチペレットとした後、それを射出成形して、完成した生成物にすることができる。マスターバッチのポリマー内のナノスケール材料は、基材ポリマーの性質をナノスケールで変更するように相互作用するだけであろうが、それは、より大きな強化機構にわたっていくつかの利点を与える。Griffith クラック理論および Weibull 分析に基づき、より小さい粒子は、より強いし、しかもマトリックスを強化する場合に、それらのより大きい対抗部分と比較して一層有効でありうる。更に、それらの増加した表面積および高いアスペクト比で、より小さい強化材のより少ない体積が、同等の強化材を与えることができる。
【0013】
ナノ粒子選択は、必要な性質、マトリックスとの相互作用、加工、費用、および最終複合材料の適用に基づいてよい。オルガノクレー(MMT)、金属ナノ粒子(AlおよびAg)、金属酸化物(ZnO、シリカ)および炭素誘導体(CNT、フラーレン(Fullerenes)、酸化グラファイト(Graphite oxide)、グラフェン)などのいくつかのナノ粒子は、ポリマーナノコンポジットの製造において有用でありうる。別の態様において、ポリエチレンテレフタレート(PET)−グラフェンは、ポリマーナノコンポジットを生じるのに利用される。その材料は、射出成形およびブロー成形に、および他の加工法および製造法に適当である。
【0014】
グラフェン(炭素原子の単層を含む)は、他のナノ粒子と比較したところ、優れた機械的性質(モジュラス−1060GPa、強度−20GPa)および電気的性質(50x10−6Icm)を有する。グラフェンは、表面処理の助けによって基材ポリマー中に十分に分散しうる。剥離済みグラフェンナノプレートレット(Exfoliated Graphene Nanoplatelets)(xGnP)は、プレートレットを形成するように積み重ねられた多重グラフェン層である。
【0015】
PETとグラフェンとの特定の組み合わせに関して(例えば、本開示の特定の態様の場合のように)、PETは、広く用いられるポリマーであるが、これまでのところ、それが相対的に粘着性であり且つ相対的に高い融点を有するという事実をある程度認めている実験室研究において見過ごされていた。更に、PETの構成成分マー(mer)単位は、生成物の混合時に、ある極性ナノ構造の分解をもたらし得る極性を示す。グラフェンは、極性物質であるということに注目すべきであり、PETの存在下においてその構造保全性を解消するまたは失うことが考えられるかもしれないということになる。しかしながら、本明細書中に開示のように、グラフェンは、PETの物理的特性を好都合に変更するのに十分に保全性を維持しうるし且つ維持している。
【0016】
一つの態様において、PET−Exfoliated グラフェンナノコンポジットは、マスターバッチプロセスによる射出成形を用いて製造するが、その場合、グラフェンナノプレートレットは、PETと配合されてマスターバッチペレットを形成する。これら実験結果を、Halpin-Tsai モデルおよび Hui-Shia モデルを用いて理論性能と比較した。
【0017】
連続繊維複合材料は、しばしば、「混合物規則(Rule of Mixtures)」と称される簡単な実験式に基づいて評価される。ナノ強化材の場合、「Rule of Mixtures」は、最終の性質を過小評価するかまたは過大評価する。これは、それらの低い体積分率のためでありうるし、そしてしばしば、マトリックスと強化材との間のより大きい性質の相違のためでありうる。
【0018】
ナノコンポジットについて、ナノプレートレットとマトリックスとの間の特別な相互作用は、それらの弾性挙動を決定する場合に重要である。マトリックス−強化材界面で複雑な機構と組み合わされたナノプレートレットの高アスペクト比は、ナノコンポジット性質の推定を複雑にする。したがって、伝統的なミクロ機械的モデルは、ナノ粒子の機械的性質を推定するように改変されてきた。
【実施例】
【0019】
実験1
材料
一つの実証において、0.80dl/g(I.V.)のoZpetTM(GG−3180FGH、Leading Synthetics, Australia による)と称される商業的に入手可能なポリエチレンテレフタレート(Polyethylene Terephthalate)を用いた。図1に示されるような平均直径5μmのxGnP(登録商標)−M−5グレード(99.5%炭素)の剥離済みグラフェンナノプレートレットを、乾燥粉末としてXG Sciences, Inc.(East Lansing, MI)より入手した。グラフェンナノプレートレット(xGnP)および受け取った状態のPET樹脂を、Ovation Polymers(Medina, OH)によってそれらのExTimaTM技術を用いて配合して、PET−xGnPマスターバッチペレットとした。
【0020】
グラフェンナノプレートレットは、事実上、疎水性である;グラフェンの有効な分散は、それらの表面上の(プレートレットの破壊の際に原料炭素の暴露ゆえに形成される)酸素およびヒドロキシル官能基と、PETの極性基との相互作用によって生じる[19]。上記のプロセスから得られたマスターバッチペレットを、射出成形プロセスのための原料として用いた。PET対照試料および漸増重量分率(2%、5%、10%および15%)のPET−xGnPナノコンポジット引張試験片を、ASTM D638(本明細書中に援用される)のタイプI規格値にしたがって250℃〜260℃温度で射出成形した。
【0021】
特性決定法
製造されたナノコンポジット引張試験片(図2に示される)を、万能材料試験機(Instron 5582モデル)を用いて調べた。試験は、5mm/分のクロスヘッド速度でASTM D638標準にしたがった。非接触 Laser Extensometer(Electronic Instrument Research, Model LE−05)を用いて、機械コンプライアンスのない変位を記録した。そのレーザー伸び計は、ゲージ長さに置かれた自己反射ステッカーからの反射の変位を記録する。
【0022】
各々の種類の三つの複合材料を、比較用の純PET標本と共に調べた。クロスヘッドからのレーザー変位および荷重を、100分の時間間隔で同時に記録した。
グラフェンナノプレートレットの分散は、電子顕微鏡検査(SEM,TEM)およびX線回折を用いて観察した。xGnP粉末およびPETの破壊表面およびPET−Exfoliated グラフェンナノコンポジットのSEM顕微鏡写真は、Hitachi S−4800を用いて得た。
【0023】
PET対照、およびより低いグラフェン含量を有するナノコンポジットは、Balzers Union MED010コーターを用いてAu/Ptコーティングした。透過結像に用いられた薄い切片(70nmの厚み)は、Reichert-Jung Ultracut Eミクロトームを用いて検鏡用切片作成処理した。透過顕微鏡写真は、JEOL JEM−2100 Microscope を用いて、200kVの動作電圧で集めた。X線回折図形は、Bruker D8 Discovery 回折計においてCuKα(λ=1.54054Å)放射線を用いて反射で集めた。PET試料と一緒のxGnP粉末のXRD走査は、40kVおよび40mAにおいて120秒の暴露時間で集めた。
【0024】
結果
走査電子顕微鏡検査(Scanning Electron Microscopy)
図1(b)に示されるxGnP乾燥粉末のSEM顕微鏡写真は、互いに積み重なった多数のグラフェン層から構成される各々のプレートレットを含む凝集したプレートレットを示す。これらプレートレットは、5〜10μm平均直径および数ナノメートル(5〜20nm)の厚みを有した。
【0025】
PET−グラフェンナノコンポジット破損表面の顕微鏡写真(図3(b)、(c)、(d)、(e)および(f))は、グラフェンナノプレートレットが、凝集の徴候を伴うことなく、そのままの状態であり且つPETマトリックス中に分散したことを示した。それら顕微鏡写真は、引張荷重下におけるナノコンポジットの破損が、脆弱な微小破壊の合一を通じているということを明らかにする。ミクロ空隙の存在およびこれら空隙からのクラックの開始は、5%および10%のグラフェンナノプレートレット重量分率を有するナノコンポジット試料のSEM顕微鏡写真から認めることができる。SEM顕微鏡写真は、ナノプレートレットが、破壊表面から突出していたことを示す。それらは、変形し且つマトリックスと混合しているように見える。
【0026】
透過電子顕微鏡検査(Transmission Electron Microscopy)
ナノコンポジットの性能は、ナノ粒子の分散に依存する。TEM顕微鏡写真は、ナノプレートレット分散をより良く理解するために、70nmの薄い切片から集めた。図4に示された透過顕微鏡写真は、グラフェンナノプレートレットが、プレートレットとしてそのままの状態であり且つポリマーマトリックス中に分散したことを示し、グラフェンシート(完全剥離)の個々の分散は見出されなかった。顕微鏡写真は、明視野および暗視野双方のモードで集めた。ナノプレートレットは、数枚の個々のグラフェンシートから成るので、用いられる70nm厚み切片は、ポリマーおよびグラフェンプレートレットの層を含有してよく、したがって、暗視野モードが好都合であった。グラフェンは、ポリマーマトリックスよりも導電性であるので、透過結像の場合、この差が対比を与える。
【0027】
X線回折(X-ray Diffraction)
乾燥xGnP粉末、PET対照およびPET−xGnPナノコンポジットから集めたXRD図形を、図5に示す。グラフェンナノプレートレットの回折図形は、26.6°(d=3.35Å)2θおよび54.7°(d=1.68Å)2θでグラフェン−2H特性ピークを示す。26.6°2θでのピークの僅かな幅の広がりは、異なった寸法を有するプレートレットの存在を示す。PET対照試料からの幅広非晶質ピークは、約19.2°2θで認められた。これは、対照試料が非晶質微細構造を有することを確証する。図5に示されるように、26.6°2θでのグラフェンピークの強度は、ナノプレートレットの重量分率と共に増加した。ピークシフトは認められなかった。これは、TEM顕微鏡写真と共に、ナノプレートレットが、実質的に剥離しなかったことを確証する[20]。更に、その回折図形は、PETマトリックスが、予想通り、少なくとも0.2mmの表面内で非晶質であったことを確証する。
【0028】
機械的挙動
PET対照およびナノコンポジットの応力−歪曲線を、引張試験から集めたデータに基づいて、図6に示されるようにプロットした。グラフェンナノプレートレットの添加は、純PETにまさる性能(モジュラス)を300%まで増加させていて、図7に示される指数傾向にしたがう。主に直線の挙動が認められるが、15%ナノコンポジットについての応力歪曲線のハンプは、この複合材料について、他のより低い体積分率にまさる更なる強化性機構を示唆する。これは、強化材−強化材相互作用のためでありうる。
【0029】
強化材としてのグラフェンナノプレートレットの有効性を理解する目的で、Halpin-Tsai モデルおよび Hui-Shia モデルなどのミクロ機械的モデルを用いて、このPET−グラフェンナノコンポジットの理論弾性機械的性能を決定した。ミクロ機械的モデルは、完全強化材、均一分散、または強化材の一貫した配向などの仮定に基づく性質を推定する。グラフェンナノコンポジットの優れた性能に理想的な場合は、マトリックス中に十分に分散し且つ最大荷重の方向に沿って配向した必要な長さを有する欠点のないグラフェンシート(単層)を有することである。
【0030】
Gong et al.[16]は、グラフェンプレートレット(>30μm)が強化材として有効であるのに必要な長さを決定した。剛性およびポアソン比などのグラフェンプレートレットの機械的性質は、Georgantzinos et al.[22]によって分子シミュレーションで認められたように、構成する層の数の増加と共に減少する。彼らは、5層を含むプレートレットの剛性が、単一層グラフェンと比較して15%減少するということを推定したが、彼らは、更に、グラフェンの性質が、それらの配向に基づいて異なるということを認めた。グラフェンプレートレット(フレーク)のモジュラスは、0.795TPaとして報告された[23]。
【0031】
【表1】
【0032】
本研究において、広範囲の長さ(または平面方向の外に存在するプレートレットの直径)および厚みを有するグラフェンプレートレットが、TEM顕微鏡写真から認められた。より大きい(5μm)乾燥グラフェン粉末〜TEM像(図4)で認められるような一層小さい(300nm)サイズへの粒子サイズの変化は、配合・成形プロセスの際の剪断のためでありうる。表1は、プレートレットの平均サイズを最小値および最大値と共に示す。次に、これらプレートレット性質を、ミクロ機械的モデルに基づき、ナノコンポジットの性能範囲を決定する場合に用いた(図8に示されるエラーバー)。ミクロ機械的モデルからのナノコンポジットの予測モジュラスを、図8に示される実験結果に対してプロットした。Halpin-Tsai モデルによって推定されるモジュラスは、実験値と比較してより高い。Halpin-Tsai モデルは、荷重方向に沿って整列しているプレートレットを含む複合材料のモジュラスを推定する。しかしながら、プレートレットは、概して、荷重の方向に整列していなかった。更に、マトリックスと比較して極めて高い強化材の剛性(>250x)は、Halpin-Tsai モデルによる正確な予測を困難にする[22]。Hui-Shia モデルは、最良の一致を示す。Hui-Shia モデルは、図8に示されるような平行(1軸および2軸)方向および(3軸に沿った)垂直方向双方に荷重されたプレートレットを含むナノコンポジットの弾性率を推定する。このモデルは、広範囲の剛性比について、Halpin-Tsai モデルにまさって妥当である[22]。
【0033】
更に、複合材料におけるマトリックス−強化材間の応力移行は、それらの機械的挙動を制御する場合に臨界的である。例えば、PMMAマトリックス中のグラフェンナノコンポジット、マトリックスとグラフェンプレートレットとの間の応力移行およびグラフェン−グラフェンシートは、弱い(week)ファンデルワールス力が優勢の状態で示され、可能性のある機械的性能を減少させた。しかしながら、ミクロ機械的モデルは、応力移行挙動のこれらの変化を説明しない。これは、実験値からの偏差を生じる。
【0034】
現行の実験モジュラスは、理論予測との適度な一致を示した。これは、広範囲にもかかわらず、プレートレット形状である(表を参照されたい)。最良の場合は、プレートレットに平行な(方向3)モジュラスを含む Hui-Shia モデルであった。これは、強化材の適度な有効性を示唆する。ランダムに分布した強化材について、平行および垂直の二つの Hui-Shia 予測の間の挙動が予想されるかもしれない。プレートレット分布のランダム性への更なる研究が、追加の評価のために要求される。予測されるモジュラスは、アスペクト比に感受性であるので、プレートレットが一層高いアスペクト比を有した場合、より一層剛性のモジュラス増強を予想しうると考えられる。これは、添加剤の製造およびマトリックスでのそれらの加工において連続した改善を伴う適度な目標である。明らかに、ナノスケール強化材は、機械的性質の増強への利点である。
【0035】
更に、X線回折により、グラフェンプレートレットの添加は、PETの最終結晶化への影響を示さない。規模の経済は、いずれかのこれら添加剤の費用を改善することができる。射出成形プロセスでナノプレートレットが有する作用を更に理解することは、複合材料性質を更に改善するのに役立ちうる。例えば、多くの異なったスクリュータイプは、射出成形用に入手可能であり、添加剤の混合および分散におけるそれらの利点について調査する必要がある。
【0036】
試験による結論
本開示は、グラフェンナノプレートレットが、ポリエチレンテレフタレート(Poly ethylene Terephthalate)またはPETについて改善された強度特性(弾性率など)を達成する場合に有効であるということを示す。マスターバッチペレットの射出成形は、2〜15%の重量分率のPET−Exfoliated グラフェン(xGnP)ナノコンポジットの製造のための一つの成功した方法である。簡単な機械的モデルとの比較は、それらの優れた性能を示唆する。剛性は、強化材剛性に依存するのみならず、そのアスペクト比にも、そしてマトリックスと強化材との間の界面応力移行について優勢である機構にも依存することがありうる。更に、強化材−強化材相互作用は、体積分率が10%を超える時に重要な役割を果たすといういくつかの指摘が存在する。
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]ポリエチレンテレフタレート(PET)を包含する基材ポリマー;および
基材ポリマーの強度を増加させるナノ粒子
を含む、ナノコンポジット材料。
[態様2]ナノ粒子が、グラフェン(graphene)ナノプレートレットを含む、態様1に記載の材料。
[態様3]グラフェンが、剥離済みナノプレートレットを含む、態様2に記載の材料。
[態様4]グラフェンナノプレートレットが、5マイクロメートルの平均直径を有する、態様2に記載の材料。
[態様5]ナノプレートレットが、ナノコンポジット材料の約2重量パーセントを構成する、態様2に記載の材料。
[態様6]ナノプレートレットが、ナノコンポジット材料の約5重量パーセントを構成する、態様2に記載の材料。
[態様7]ナノプレートレットが、ナノコンポジット材料の約10重量パーセントを構成する、態様2に記載の材料。
[態様8]ナノプレートレットが、ナノコンポジット材料の約15重量パーセントを構成する、態様2に記載の材料。
[態様9]ナノプレートレットが、ナノコンポジット材料の約2重量パーセント〜約15重量パーセントを構成する、態様2に記載の材料。
[態様10]ポリエチレンテレフタレート(PET)を基材ポリマーとして与え;
ナノ粒子状物質を与え;
基材ポリマーをナノ粒子状材料と配合して、マスターバッチ生成物を形成し;そして
マスターバッチ生成物を射出成形すること
を含む、ナノコンポジット材料を製造する方法。
[態様11]ナノ粒子状物質を与えることが、グラフェンを与えることを更に含む、態様10に記載の方法。
[態様12]剥離によってグラフェンを製造することを更に含む、態様11に記載の方法。
[態様13]ナノ粒子状物質を与えることが、マスターバッチ生成物中のナノ粒子物質材料の約2重量パーセントを与えることを更に含む、態様10に記載の方法。
[態様14]ナノ粒子状物質を与えることが、マスターバッチ生成物中のナノ粒子物質材料の約5重量パーセントを与えることを更に含む、態様10に記載の方法。
[態様15]ナノ粒子状物質を与えることが、マスターバッチ生成物中のナノ粒子物質材料の約10重量パーセントを与えることを更に含む、態様10に記載の方法。
[態様16]ナノ粒子状物質を与えることが、マスターバッチ生成物中のナノ粒子物質材料の約15重量パーセントを与えることを更に含む、態様10に記載の方法。
[態様17]ナノ粒子状物質を与えることが、マスターバッチ生成物中のナノ粒子物質材料の約2重量パーセント〜約15重量パーセントを与えることを更に含む、態様10に記載の方法。
【0037】
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したがって、本発明は、目的を実施するのに且つ上述の結果および利点、更には、そこにある固有のものを達成するのに十分に適応する。現在のところ好ましい態様を、本開示の目的について記載してきたが、数多くの変更および修飾は、当業者に明らかであろう。このような変更および修飾は、請求の範囲によって定義の本発明の精神の範囲内に包含される。
図1A-1B】
図2A
図2B
図3A-3F】
図4A-4C】
図5
図6
図7
図8