特許第6113152号(P6113152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6113152シリコンウェハにおいて少数キャリア寿命劣化を抑制する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113152
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】シリコンウェハにおいて少数キャリア寿命劣化を抑制する方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/324 20060101AFI20170403BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20170403BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   H01L21/324 X
   H01L31/04 400
   C30B33/02
【請求項の数】56
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-513752(P2014-513752)
(86)(22)【出願日】2012年6月1日
(65)【公表番号】特表2014-526135(P2014-526135A)
(43)【公表日】2014年10月2日
(86)【国際出願番号】US2012040492
(87)【国際公開番号】WO2012167104
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年4月17日
(31)【優先権主張番号】61/493,119
(32)【優先日】2011年6月3日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/486,463
(32)【優先日】2012年6月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511071083
【氏名又は名称】エムイーエムシー・シンガポール・プライベイト・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MEMC SINGAPORE PTE. LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・ジェイ・ファルスター
(72)【発明者】
【氏名】ウラジミール・ヴェー・ヴォロンコフ
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/032272(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0243036(US,A1)
【文献】 特開2002−104897(JP,A)
【文献】 特開2009−267380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/324
H01L 31/18
C30B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素を含有するシリコンウェハにおいて少数キャリア寿命劣化欠陥に関連する少数キャリア寿命劣化を抑制する方法であって、
ホウ素は、少なくとも113原子/cmの濃度で前記ウェハ内に存在し、
前記劣化欠陥は、高速拡散成分及び二量体酸素含有成分を含み、
当該方法は、
前記シリコンウェハを、前記劣化欠陥に含まれる高速拡散成分の既存のナノ析出物を溶解させるのに充分な温度Tまで加熱する工程と、
前記シリコンウェハを、Tから温度Tまで少なくとも100℃/秒の冷却速度Rで冷却する工程と、
前記シリコンウェハを、Tから温度Tまで冷却速度Rで冷却する工程であって、Rに対するRの比率が少なくとも2:1である冷却する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記加熱する工程の間に溶解される前記既存のナノ析出物には、ホウ素、銅、ニッケル、若しくはこれらの組み合わせが含まれる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記加熱する工程の間に溶解される前記既存のナノ析出物には、ホウ素が含まれる請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記Rに対するRの比率は、少なくとも31である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記Rに対するRの比率は、少なくとも10:1である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記Rに対するRの比率は、少なくとも50:1である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ウェハをTからTまで冷却しつつ、少数電荷キャリアを発生させる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ウェハをTからTまで冷却しつつ、前記ウェハに光照射することにより前記少数電荷キャリアを発生させる請求項記載の方法。
【請求項9】
前記ウェハをTからTまで冷却しつつ、前記ウェハに電流を与えることにより前記少数電荷キャリアを発生させる請求項記載の方法。
【請求項10】
、少なくとも250℃/秒である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
が、少なくとも500℃/秒である請求項1に記載の方法。
【請求項12】
は、少なくとも500℃である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
は、少なくとも650℃である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
、500℃未満である請求項1に記載の方法。
【請求項15】
は、350℃未満である請求項1に記載の方法。
【請求項16】
は、250℃未満である請求項1に記載の方法。
【請求項17】
、250℃未満である請求項1に記載の方法。
【請求項18】
は、150℃未満である請求項1に記載の方法。
【請求項19】
は、50℃未満である請求項1に記載の方法。
【請求項20】
、10℃/秒未満である請求項1に記載の方法。
【請求項21】
は、1℃/秒未満である請求項1に記載の方法。
【請求項22】
は、0.1℃/秒未満である請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記ウェハは、アルミニウム、ガリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択された第2のp型ドーパントを含む請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記シリコンウェハは、単結晶シリコンウェハである請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記シリコンウェハは、チョクラルスキー法により成長させたインゴットのスライスである請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記シリコンウェハが、太陽電池の一部を構成する請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記シリコンウェハは、独立したウェハである請求項1〜25のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記劣化欠陥に含まれる高速拡散成分の既存のナノ析出物を溶解させるのに充分な温度Tまでシリコンウェハを加熱する工程が、太陽電池の製造プロセスの一部である請求項1に記載の方法。
【請求項29】
は、少なくとも600℃であり、T、250℃未満であり、Rは、少なくとも100℃/秒であり、T、25℃であり、R、5℃/秒未満である請求項1に記載の方法。
【請求項30】
ホウ素を含有するシリコンウェハにおいて劣化欠陥に関連する少数キャリア寿命劣化を抑制する方法であって、
ホウ素は、少なくとも113原子/cmの濃度で前記ウェハ内に存在し、
前記劣化欠陥は、高速拡散成分及び二量体酸素含有成分を含み、
当該方法は、
前記シリコンウェハを、前記劣化欠陥に含まれる高速拡散成分のナノ析出物を溶解させるのに充分な温度Tまで加熱する工程と、
前記シリコンウェハを、Tから温度Tまで少なくとも100℃/秒の冷却速度Rで冷却する工程と、を含む方法。
【請求項31】
前記加熱する工程の間に溶解されるナノ析出物には、ホウ素、銅、ニッケル、若しくはこれらの組み合わせが含まれる請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記加熱する工程の間に溶解されるナノ析出物には、ホウ素が含まれる請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記シリコンウェハをTから温度Tまで冷却速度Rで冷却し、前記ウェハをTからTまで冷却しつつ前記少数電荷キャリアを発生させる請求項30に記載の方法。
【請求項34】
に対するRの比率は、少なくとも21である請求項30に記載の方法。
【請求項35】
に対するRの比率は、少なくとも10:1である請求項30に記載の方法。
【請求項36】
に対するRの比率は、少なくとも50:1である請求項30に記載の方法。
【請求項37】
前記ウェハをTからTまで冷却しつつ、前記ウェハに光照射することにより前記少数電荷キャリアを発生させる請求項33記載の方法。
【請求項38】
前記ウェハをTからTまで冷却しつつ、前記ウェハに電流を与えることにより前記少数電荷キャリアを発生させる請求項33記載の方法。
【請求項39】
、250℃未満である請求項33に記載の方法。
【請求項40】
は、150℃未満である請求項33のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
、10℃/秒未満である請求項33に記載の方法。
【請求項42】
は、1℃/秒未満である請求項33に記載の方法。
【請求項43】
は、0.1℃/秒未満である請求項33に記載の方法。
【請求項44】
は、少なくとも500℃である請求項30に記載の方法。
【請求項45】
は、少なくとも650℃である請求項30に記載の方法。
【請求項46】
、500℃未満である請求項30に記載の方法。
【請求項47】
は、350℃未満である請求項30に記載の方法。
【請求項48】
は、250℃未満である請求項30に記載の方法。
【請求項49】
が、少なくとも200℃/秒である請求項30に記載の方法。
【請求項50】
が、少なくとも500℃/秒である請求項30に記載の方法。
【請求項51】
が、少なくとも1000℃/秒である請求項30に記載の方法。
【請求項52】
前記ウェハは、アルミニウム、ガリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択された第2のp型ドーパントを含む請求項30に記載の方法。
【請求項53】
前記シリコンウェハは、単結晶シリコンウェハである請求項30に記載の方法。
【請求項54】
前記シリコンウェハは、チョクラルスキー法により成長させたインゴットのスライスである請求項30に記載の方法。
【請求項55】
前記シリコンウェハが、太陽電池の一部を構成する請求項30に記載の方法。
【請求項56】
前記シリコンウェハは、独立したウェハである請求項3054のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2011年6月3日に出願された米国仮出願第61/493,119及び2012年6月1日に出願された米国非仮出願第13/486,463の利益を主張する。これらの全内容は本明細書において引用して援用する。
【0002】
技術分野
本開示の技術分野は、使用されるシリコンウェハ少数キャリア寿命劣化を抑制する方法に関する。特に、本開示の技術分野は、少数キャリア寿命劣化欠陥自体の濃度を減少させる、効率的で費用対効果が高い方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ソーラーセル、特にチョクラルスキー法により成長させたホウ素含有p型単結晶シリコンウェハ上に形成されたセル、さらには一般的にはそれ程多くはないが、鋳造により作製した多結晶ウェハ上に形成されたセルは、光に曝され、若しくは、暗所において少数キャリアが当該セルに導入されると、性能が低下する。初期の効率より遙かに小さい安定した効率(stable efficiency)が達成されるまで、この性能の低下は続く。CZ(
チョクラルスキー)ウェハベースのセルにおける効率の損失は、約10%以上にのぼる。チョクラルスキーソーラーセルにおけるそのような効率の損失は、高効率シリコンセルの能力を制限し、産業における単結晶シリコンの使用を制限する。これは、チョクラルスキーセルは、典型的に、多結晶シリコンベースセルより製造に費用が掛かるからである。
【0004】
ウェハを数分間低温でアニールすることにより(約200℃でのアニール等)少なくとも一時的に当該劣化を好転(reverse)できることが分かってきた。しかしながら、その後の照射により、低温アニールにより上昇した効率は低下する。50℃〜230℃の範囲の低温アニールの間、過剰の電子をウェハに導入すること(例えば、ウェハに対して光照射すること)により、劣化を永久的に好転させることができることが報告されている。しかしながら、これらの条件下で永久的回復(recover)を生じさせるためには、低温アニールを比較的長い時間(例えば、数十時間)行わなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ソーラーセル誘起劣化(light induced degradation)に関連する劣化欠陥を永久的に抑制する商業的に実施可能な方法について継続的なニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの態様は、シリコンウェハにおける劣化欠陥(degradation defect)に関連する少数キャリア寿命劣化(minority carrier lifetime degradation)を抑制するための方法を対象とする。ウェハは、少なくとも約1013原子/cmの濃度のホウ素を含む。劣化欠陥は、高速拡散成分(fast-diffusing component)及び二量体酸素含有成分(dimeric oxygen-containing component)からなる。劣化欠陥高速拡散成分既存のナノ凝集体(またはナノ析出物:nano-precipitate)を溶解させるに十分な温度Tまでシリコンウェハを加熱する。当該シリコンウェハを、冷却速度RでTから温度Tまで冷却する。さらに、当該シリコンウェハを、冷却速度RでTから温度Tまで冷却する。Rに対するRの比率は、少なくとも約2:1である。
【0007】
本開示の別の態様は、シリコンウェハにおける劣化欠陥に関連する少数キャリア寿命劣化を抑制するための方法を対象とする。ウェハは、少なくとも約1013原子/cmの濃度のホウ素を含む。劣化欠陥は、高速拡散成分及び二量体酸素含有成分からなる。劣化欠陥高速拡散成分ナノ凝集体(またはナノ析出物)の核を生成させるに十分な温度Tまでシリコンウェハを加熱する。さらに、当該シリコンウェハを、少なくとも約100℃/秒の冷却速度RでTから温度Tまで冷却する。
【0008】
本開示のさらに別の態様は、シリコンウェハを対象とする。ホウ素が、ウェハ中において、少なくとも約1013原子/cmの濃度で存在する。高速拡散成分及び二量体酸素含有成分を含む劣化欠陥に関連する少数キャリア寿命劣化が、上記劣化欠陥高速拡散成分ナノ凝集体(またはナノ析出物)生成させるに十分な温度Tまでシリコンウェハを加熱することにより抑制される。当該シリコンウェハは、冷却速度RでTから温度Tまで冷却される。当該シリコンウェハは、ウェハに光を照射しつつ、冷却速度RでTから温度Tまで冷却される。Rに対するRの比率は、少なくとも約2:1である。
【0009】
本開示の上述の態様に関連して述べた特徴には様々な改良が可能である。本開示の上述の態様に別の特徴を組み合わせてもよい。これらの改良及び付加的な特徴は、個別に存在してもよいし、若しくは任意に組み合わせて存在してもよい。例えば、本開示の実施の形態のいくつかに関連して以下に説明する様々な特徴を本開示の上述の態様に単独で若しくは任意に組み合わせて組み込んでもよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特定の理論に拘泥されることなく、ホウ素及び酸素を含有するウェハにおける少数キャリア寿命劣化は、少数キャリア寿命劣化欠陥(”MCLD”、本明細書においては”劣化欠陥”と称する)の存在と関連すると考えられている。この少数キャリア寿命劣化欠陥は、2つの成分、すなわち、格子間ホウ素、格子間銅又は格子間ニッケル等の高速拡散成分(”FDC”)、二量体酸素(O、又は置換型ホウ素と二量体との複合物(B)等の二量体酸素含有成分(”DOCC”)と、から構成されていると考えられている。劣化欠陥は、格子間ホウ素二量体酸素(Bから構成されている可能性がある。しかしながら、劣化欠陥は、高速作用成分(fast-acting components)(B、Cu若しくはNi)と酸素含有成分(O若しくはB)との任意の組み合わせであってもよいことに留意すべきである。ホウ素は、少数キャリア寿命劣化を引き起こす基本メカニズムの一部を構成し、当該ホウ素が、高速作用成分若しくは酸素含有成分として欠陥の一部を構成すると考えられていることに留意すべきである。この点、本願は、特定の劣化欠陥に限定されるべきではない。本明細書において使用されているように、”高速拡散成分”若しくは”酸素含有成分”は、少数キャリア寿命の損失を引き起こす少数キャリア寿命劣化欠陥を形成する各成分を意味する。
【0011】
室温まで冷却されたシリコンウェハにおいて、高速拡散成分(FDC)の集合体は、一般的に、ナノ凝集体(またはナノ析出物)(NPPT)結合した状態及び/又は二量体酸素含有成分(DOCC)に対して結合した状態の間で分散されていると考えられている。高速拡散成分と二量体酸素含有成分と結合の組み合わせは、上述の少数キャリア寿命劣化欠陥(MCLD)を形成する。NPPTに結合した前記集合体の一部は、少数キャリア寿命劣化を引き起こさないと考えられている。これは、それがMCLDの集合体の一部でないと考えられているからである。本開示の実施の形態によれば、FDCがMCLD欠陥の集合体からナノ凝集体(またはナノ析出物)NPPTの集合体まで迅速に移動することにより、MCLD欠陥を効率的に且つ高い費用対効果で溶解して、それにより、MCLDの集合体が当該系から低減若しくは排除される
【0012】
定常状態において、以下の一般反応式が成り立つ。
MCLD⇔FDC+DOCC (1)。
当該反応定数は一定であり、適度な温度(例えば、少数電荷キャリアが発生しない約200℃)では、当該系において非常に少ないFDCが存在する(ごく僅かな結合が破壊される)。MCLDの濃度は基本的に変化ない。
【0013】
少数電荷キャリアを当該系に組み込むことにより、MCLDの電荷状態及び反応式(1)における逆反応は阻止されるため、FDCがDOCCと反応してMCLDが生成されることはない。このように、MCLDが溶解しFDC及びDOCCを形成される順反応だけが起こる。すなわち、熱的に遊離したFDCは、もはやDOCCと再結合してMCLDが再生成されることはない
MCLD→FDC+DOCC (2)。
【0014】
本開示の実施の形態に係るMCLDの濃度を減少させるため、FDCを当該系から取り除いてその後のDOCCとの再結合及びMCLDの生成を抑制する。これは、FDCと、ナノ凝集体(またはナノ析出物)との結合を促進することにより達成されうる。それらは、以下の反応式に従って、FDCの高速拡散特性により自由にナノ凝集体(またはナノ析出物)に結びつけられるだろう。
FDC→NPPT (3)。
【0015】
過剰な少数電荷キャリア条件下、熱的に遊離されたFDC--もはや実質的にDOCCと再結合することが抑制されている--は、それが結合するNPPTと接触するまで当該系を介して拡散する。
【0016】
したがって、FDCの濃度は減少しうる。減少の結果、反応式(2)により、MCLD源からより多くのFDCが生成される。これらは、その後、再度NPPTに捕捉されるまで拡散し、FDCの濃度が減少する。これにより、再度、MCLD源からFDCがより多く遊離する。これは、全てのFDCがMCLDからNPPTへ移送されるまで起こり、それにより、少数キャリア寿命劣化欠陥の集合体が実質的に減少若しくは実質的に排除される。
【0017】
本開示の実施の形態によれば、反応式(3)が起こる速度は、数密度(N)と半径(R)との積NRを、典型的に存在するより実質的に高くすることにより増加しうる。これは、NPPTに対するFDCの沈降(シンク:sinking)の時間定数を少なくとも部分的に決定する。NPPTに対するFDCの沈降の時間定数は、MCLDが溶解する速度の時間定数を決定すると考えられる。
【0018】
特定の理論に拘泥されることはないが、NRの積は、高い温度NPPTが溶解した後に、NPPTが形成される温度を通過する冷却速度によって設定できることが分かってきた。本開示の実施の形態によれば、これは、沈降及びMCLD溶解の時間定数が非常に小さくなるように、この温度範囲を通過する比較的大きな冷却速度を用いることにより制御しうる。結果として、その後の、若しくは同時の少数電荷キャリア注入溶解プロセスが比較的迅速に起こりうる(例えば、ソーラーセル製造プロセス中に起こり得る)。
【0019】
本開示の方法によれば、ホウ素含有のシリコンウェハをアニールし、劣化欠陥高速拡散成分既存のナノ凝集体(またはナノ析出物)を溶解させる。その後、これらの高速拡散成分ナノ凝集体(またはナノ析出物)生成が起こる温度範囲を通るようにウェハを急速に冷却し、典型的に存在するよりも実質的に高い、数密度(N)と半径(R)との積NRを有する新たなナノ凝集体(またはナノ析出物)の分布形成する。この新たなナノ凝集体(またはナノ析出物)の分布は、サンプル中におけるより効果的で永続的な回復の基礎(またはベースである。ナノ凝集体(またはナノ析出物)のNR積が増加することにより、劣化欠陥の濃度が、過剰電子状態下(例えば光照射下)永続的な回復温度範囲に滞在している間に、より急速に減少する。劣化欠陥高速拡散成分ナノ凝集体(またはナノ析出物)の分布の導入により、劣化欠陥から取り除かれた残留高速拡散成分のかなりの部分が消費され、これにより劣化欠陥の濃度が減少し、このことは少数キャリア寿命の永続的な回復を含む。すなわち、劣化欠陥高速拡散成分ナノ凝集体(またはナノ析出物)がウェハ中において生成されると、ウェハは、永続的な不活性化プロセス(例えば少数電荷キャリアを生成しながら低温アニールすること)を受け、高い数密度のナノ凝集物を高速拡散成分のシンクとして用いて、ウェハの格子間高速拡散成分を使い果たすことによって寿命劣化欠陥の生成が抑制される。
【0020】
この点に関して、劣化の永続的な損失(permanent loss of degradation)は、活性状態から潜伏状態(latent state)への劣化欠陥の変化だけでなく、潜伏状態の活性密度の排除若しくは減少も含みうることが分かってきた。劣化欠陥の濃度がより低くなると、より少ない活性劣化欠陥が発生しうる。少数電荷キャリアの導入により、ウェハ中において、劣化欠陥から、分布した成長ナノ凝集体(またはナノ析出物)へと高速拡散成分が送り込まれるため、永続的な回復が起こると考えられる。
【0021】
この点に関して、劣化中心高速拡散成分が永続的不活性処理中にこれらの高速拡散成分ナノ凝集体(またはナノ析出物)によって消費されうる速度定数は、複合物を形成する高速拡散成分の初期濃度に依存せず、より具体的には、格子間高速拡散成分原子に依存せず、むしろ、ウェハが、アニール温度Tから、劣化中心高速拡散成分ナノ凝集体(またはナノ析出物)が生成される温度範囲を通って冷却される冷却速度に依存することが分かってきた。特に、シンク速度(シンク率又は浸漬速度:sink rate)は、沈殿物密度(または析出物密度)(N)と沈殿物半径(または析出物半径)(R)との積に比例し、N及びRは、以下に示すように、格子間高速拡散成分原子(Cの初期濃度と冷却速度(q)に比例する
N〜q3/21/2 (1)、
R〜C1/21/2 (2)。
したがって、永続的不活性処理の格子間高速拡散成分のシンク速度(及び、それを用いた、潜伏欠陥の密度の率)は、以下に示すように、最初、冷却速度と比例する
シンク速度〜NR〜(q3/2*C1/2)(C1/2*q1/2)〜q (3)。
そのため、シンク速度は、冷却速度に対して比例する。よって、ナノ凝集体(またはナノ析出物)の核生成の温度を通って、p型ホウ素含有半導体ウェハを急速に冷却することにより、積NRは、これに比例して増加しそれにより、格子間高速拡散原子が永続的不活性処理中に消費される速度が増加し、よって、より迅速に劣化中心の濃度が減少し、より迅速に少数キャリア寿命の劣化が永続的に抑制される。
【0022】
少数キャリア寿命太陽電池の効率永続的に回復させるための、本開示の1以上の実施の形態において、ホウ素含有シリコンウェハを、第1ステップにおいて、劣化中心高速拡散成分既存のナノ凝集体(またはナノ析出物)を溶解するに十分な温度であってナノ凝集体(またはナノ析出物)生成温度を超える温度Tまで熱的にアニールする。この点に関し、本開示の少数キャリア寿命劣化を抑制するための方法を受けるシリコンウェハを本明細書において単結晶シリコンウェハ(すなわち、チョクラルスキー法により成長させたインゴットのスライス)と称しているが、多結晶シリコンウェハを使用しても良いことは理解すべきである。さらに、上述のプロセスステップは、これに制限される訳ではないが、エピタキシャルシリコン層、さらには、フロートゾーン(FZ)(酸素がドープされている場合)単結晶シリコンウェハに適用しても良い。さらに、本開示の実施の形態の劣化抑制プロセスを受けるホウ素含有ウェハは、製造された太陽電池(すなわち、内部にp-n接合が形成されたセル)、光起電性モジュール、又は太陽電池の製造における1以上の中間工程により製造されたウェハ構造物に組み込まれたウェハであってもよい。別の態様では、ホウ素含有ウェハは、太陽電池製造プロセスに未だ受けていない独立したウェハであってもよい。
【0023】
この点に関して、ウェハを太陽電池用途で従来から使用されているp型ウェハと記載している場合もあるが、いくつかの実施の形態では、ウェハは、技術分野において“p型”と典型的に分類されているウェハ中のp型ドーパントの密度より低いp型ドーパントの数密度(例えば典型的なウェハより少ない数密度)を包含しうる。全p型ドーパント濃度に関わらず、本開示の実施の形態のプロセスを受けたウェハは、少なくとも約1013ホウ素原子/cmを含む。他の実施の形態では、ウェハは、少なくとも約1014ホウ素原子/cm、少なくとも約1015ホウ素原子/cm、少なくとも約1016ホウ素原子/cm、さらには少なくとも約1017ホウ素原子/cm例えば、約1013ホウ素原子/cm〜約1018ホウ素原子/cm、約1013ホウ素原子/cm〜約1017ホウ素原子/cm、約1014ホウ素原子/cm〜約1017ホウ素原子/cm、又は約1015ホウ素原子/cm〜約1018ホウ素原子/cm)を含む。ホウ素に加えて、ウェハは、アルミニウムおよびガリウム等の他のp型ドーパントを含んでいてもよい。全部のp型ドーピング量は、ウェハが、p、p、p、p++型ウェハに分類されるような濃度であってもよく、若しくは、上述のpドープウェハ未満の濃度を有していてもよい。ウェハ内の酸素濃度は、チョクラルスキーにより成長させたシリコンの典型的な範囲(約5×1017原子/cm〜約9×1017原子/cmの濃度、さらには、約5×1016原子/cm〜約3×1018原子/cmの濃度)であってもよい。上述したホウ素、p型ドーパント及び酸素の濃度は、例示であり、本開示の技術的範囲から逸脱しなければ、他の濃度を用いてもよい。いくつかの実施の形態において、ウェハが上述のp型ウェハとして特徴付けられるようなp型ドーパント及びn型ドーパントの相対濃度を有するように、ウェハは1以上のn型ドーパント(例えば、リン、ヒ素、アンチモン、もしくはこれらの組み合わせ)によりカウンタードープされていてもよい。
【0024】
シリコンウェハは、約150mm、約200mm、約300mm、約450mm、若しくはそれ以上の直径を有していてもよい。出発時のウェハは、研磨され、エッチングされ、及び/又は、粗研磨されてもよいし、若しくは、これらの操作を、本開示に係る少数キャリア寿命劣化の永続的な抑制方法適用した後に、これらの操作を実行してもよい。本開示の実施の形態は、例えば、多結晶キャストウェハ及び”擬正方形”CZウェハ等を含形状及び/又はサイズに拘わらず、太陽電池、又は太陽電池が製造されうるウェハを含んでもよいことにさらに留意すべきである。
【0025】
熱処理Sは、劣化欠陥自身のみならず、劣化欠陥高速拡散成分既存のナノ凝集体(またはナノ析出物)も溶解するに充分な温度Tまでウェハを加熱し、その温度で、比較的短い時間アニールすることを含む。劣化中心高速拡散成分既存のナノ凝集体(またはナノ析出物)は、少なくとも約650℃の温度で溶解し、約600℃の温度、約550℃の温度、さらには500℃の温度で溶解しうると考えられる。したがって、Tは、少なくとも約500℃、少なくとも約600℃、少なくとも約650℃、少なくとも約700℃、若しくは、約500℃〜約1300℃、約500℃〜約1150℃、約500℃〜約1000℃、約500℃〜約850℃、約500℃〜約750℃、若しくは、約600℃〜約750℃であってもよい。ウェハは、この温度T又はこれより高い温度に、概して、少なくとも約1秒、典型的には少なくとも数秒(例えば、少なくとも約3秒、少なくとも約5秒等)、さらには、数十秒(例えば、少なくとも約20秒、少なくとも約30秒、少なくとも約40秒等)、さらには、約60秒以下維持されるであろう。
【0026】
好ましくは、熱的アニールSは、p型ウェハの加熱を含む太陽電池製造プロセスステップ等の既存のプロセスステップの一部を構成する。代わりに、又はこれに加えて、熱的アニールステップSは、例えば、数多くの商業的に入手可能な炉(例えばベルト炉)のいくつかにおいて、若しくは、ウェハがハイパワーランプのバンク(banks)により個々に加熱される急速熱的アニール(”RTA”)炉において実行してもよい。ウェハは、ステップSにおいて、従来のプロセスステップの一部を構成する中間温度から、又は室温から、加熱されてもよい。いくつかの実施の形態では、ウェハは、中間の温度において温度維持せずに例えば所望の温度に達するまで連続的に温度上昇して)、高速拡散成分ナノ凝集体(またはナノ析出物)を溶解させるに充分な温度まで加熱される。ウェハは、数多くの異なる大気または雰囲気、例えば水素を含む大気又はシリコンに対して不活性なガス(例えば、アルゴン等の希ガス)を含む太陽電池製造に典型的なものを含む、大気または雰囲気中でアニールしてもよい。以下に説明するプロセスステップS及びSは、同様の大気中において実行してもよい。
【0027】
熱的アニールステップSが完了した後、ステップSにおけるウェハは、それぞれが公称半径Rを有する、高速拡散成分のナノ凝集体(またはナノ析出物)を、高い数密度Nで生成されるように、から第2温度Tまで、少なくとも約100℃/秒、好ましくは少なくとも約200℃/秒の冷却速度Rで急速に冷却される。いくつかの実施の形態において、冷却速度は、少なくとも約250℃/秒、少なくとも約500℃/秒、少なくとも約750℃/秒、さらには、少なくとも約1000℃/秒であってもよい。ウェハは、TからTまで一定の速度で冷却される必要はないことを理解すべきである。冷却速度Rは一定であってもよいし、高い数密度Nのナノ凝集体(またはナノ析出物)の生成が引き起こされるように冷却に変化してもよい。一般的に、ウェハは、列挙した最小値より大きい冷却速度で冷却してもよく、最大冷却速度は、それを超えればウェハの完全性が損なわれるようなもの(例えばそれより高ければウェハに転位が発生する温度)である。一般的に、ウェハは、TからTまで、従来のプロセスにおいて典型的な従来の冷却速度より高い速度R例えば、急速熱的アニールオペレーションに典型的な冷却速度より速い冷却速度)で冷却される。すなわち、従来の急速熱的アニールでは、典型的には、非常に高い熱勾配及びフォトン放出により与えられる付加的な冷却により例えば1200℃の高温から、約650℃、さらには600℃まで急速に冷却される。しかしながら、600℃未満の温度(例えば、600℃から約300℃以下の温度まで)でのそのような急速な冷却速度を達成するため、付加的な冷却手段を適用してもよい。
【0028】
概して、ステップSにおいてウェハを急速に冷却するための適切な装置は、伝導性熱伝達により、熱を迅速にウェハから伝達させるためのヒートシンクを含む適切な装置は、冷却の間、ウェハの1以上の表面と熱的に接触する表面を含む熱プレートを含んでいてもよい。いくつかの実施の形態では、熱プレートは、当該プレートを冷却剤に接触させることにより冷却される。いくつかの実施の形態では、ウェハ流体に一部若しくは全部を浸漬させて、ウェハを急速に冷却する。代わりに、又はこれに加えて、当該装置は、ウェハ未満の温度の冷却外気を用いて、ウェハを急速に冷却してもよい。
【0029】
冷却速度Sにより、劣化欠陥高速拡散成分の原子が、ウェハ中で過飽和の状態となる。従来のプロセスを超える速度で冷却することにより、ナノ凝集体(またはナノ析出物)の数密度(積NR)は、より遅い冷却速度を含むプロセスと比較して増加し、それにより実質的に高速拡散成分ナノ凝集体(またはナノ析出物)の数密度積NRが増加する。
【0030】
概して、Tは、約Tよりも少なくとも約50℃低く、若しくは、Tよりも少なくとも約100℃、少なくとも約150℃、少なくとも約200℃、少なくとも約250℃、さらには、少なくとも約300℃低い。Tは、約500℃未満、約450℃未満、約400℃未満、約350℃未満、約300℃未満、さらには、約250℃未満(例えば、約150℃〜約450℃、若しくは、約250℃〜約400℃)であってもよい。Tできるだけ低い方が好ましく、ウェハがTとTとの間で急速冷却されプロセス時間が減少するしかしながら、Tは、以下に説明するステップSにおいて、ウェハの効率損失が永続的に抑制されうる程充分高い温度であるべきである。
【0031】
この点に関して、熱的アニールステップS及び急速冷却ステップSは、少数電荷キャリアが発生しないように(すなわち、ウェハに光照射することなく若しくはウェハに電流を加えることなく)実行してもよいことは理解すべきである。しかしながら、熱的アニールステップ中、及び/又は冷却ステップ中にこれに制限されないが、少数電荷キャリアが発生しうることは理解すべきである。熱的アニールステップS及び急速冷却ステップSは、高速拡散成分の原子に、従来の方法より大きいNR積を有する分布を形成させ、このことは、以下に説明するように、比較的短い永続的回復プロセスSを適用することを可能とする。
【0032】
第3ステップSにおいて、少数電荷キャリアを、およそ室温(約25℃)から約250℃(例えば、およそ室温から約200℃、およそ室温から約150℃、およそ室温から約100℃、約50℃から約250℃、若しくは、約50℃から約150℃)の温度で発生させ、永続的に寿命キャリア劣化を抑制する。ある実施の形態では、ウェハをTから温度Tまで冷却速度Rで冷却する間に少数電荷キャリアが発生する。この点に関して、熱的アニールステップS及び冷却ステップSにより、従来の永続的不活性処理(米国特許公報第2010/0243036に開示された不活性方法。米国特許公報第2010/0243036は、本明細書において、関連付けるため、一貫させるために、引用して援用する。)と比較してより短い時間永続的不活性処理Sを実行できることが分かってきた。
【0033】
特定の理論に拘泥されないが、永続的な回復は、格子間高速拡散成分から劣化欠陥への通常のパスを阻止する少数キャリア(例えば電子)に起因し、それにより、これらの格子間高速拡散成分が、高速拡散種ナノ凝集体(またはナノ析出物)へと送り込まれると考えられる。高速拡散種は、高速拡散成分の格子(又は格子間原子:interstitials)ナノ凝集体(またはナノ析出物)により消費されることを可能とする。劣化欠陥は、高速拡散成分及び酸素含有成分と平衡状態で存在していると考えられるため、ナノ凝集体(またはナノ析出物)による格子間高速拡散成分の消費により、少数キャリア劣化欠陥が永続的に減少することになる。ステップSにおいて、ウェハをアニール温度Tから急速に冷却することにより、沈殿物(または析出物:precipitate)の密度(N)とナノ凝集体(またはナノ析出物)の直径(R)との積は増加し得、そのことが、ナノ凝集体(またはナノ析出物)により格子間高速拡散成分が消費される速度を増加させる(例えば、格子間高速拡散成分は、格子間高速拡散成分を消費するシンクとして機能する高速拡散成分の比較的数多くのナノ凝集体(またはナノ析出物)により、急速に消費される)。そのため、本開示の永続的回復プロセスは、寿命キャリア劣化の永続的抑制が失われることなしに、従来のプロセスに比べてより短い時間実行してもよく、そのため、プロセススループットが増加する。これに関して、本明細書において使用される”永続的回復”は、結果として得られる光起電性セルの通常の寿命を実質的に存続させる少数キャリア寿命劣化の抑制を意味する。
【0034】
本開示のいくつかの実施の形態において、Tは、約250℃未満であり、他の実施の形態において、約200℃未満、約150℃未満、約100℃未満、約50℃未満、若しくは、約200℃〜およそ室温(例えば、約25℃)、約150℃〜約25℃、約100℃〜約25℃、約150℃〜約50℃である。温度TからTまでの冷却速度Rは、ウェハが、寿命キャリア劣化の永続的な抑制を達成することができるように充分低いものであるべきである。熱的アニールステップS及び冷却ステップSを実行することにより、ステップSにおける冷却速度Rは、一般的に、寿命キャリア劣化を永続的に抑制するためウェハある時間(例えば、数時間以下)ある温度に保持その後に大気温度まで冷却される従来の方法使用される冷却速度よりも、低くてもよい(すなわち、数℃/分のオーダーの冷却速度を用いる)。例示的な冷却速度Rには、少数キャリア劣化を抑制するに充分な時間、少数キャリアが発生するような冷却速度(例えば、約10℃/秒未満、約5℃/秒未満、約1℃/秒未満、約0.5℃/秒未満、さらには、約0.1℃/秒未満)が含まれる。当該冷却速度は、不必要にスループットを減少させないように、充分高いものであるべきである。少なくとも約0.01℃/秒、少なくとも約0.1℃/秒、さらには、少なくとも0.5℃/秒の例示的な最小冷却速度Rを用いてもよい。いくつかの実施の形態において、冷却速度Rは、約0.01℃/秒〜約10℃/秒、約0.1℃/秒〜約10℃/秒、約0.5℃/秒〜約10℃/秒、約0.1℃/秒〜約5℃/秒の範囲に亘る。
【0035】
この点に関して、ウェハは、温度TとTとの間において、略均一の速度で冷却する必要はないことは理解すべきである。例えば、ウェハは、T、若しくは、TとTとの間の任意の温度に、所定の時間(例えば、約30秒から約15秒まで)保持し、その後、冷却してもよい(例えば、およそ大気温度まで冷却する)。そのため、R(及び上述のR)は、温度T、及び/又は、TとTとの間の他の温度にウェハが保持される温度を含む、時間平均冷却速度を示している(すなわち、Rは、ウェハがTからTまで冷却された時間で、−Tしたものである)。
【0036】
本開示のいくつかの特定の実施の形態において、ウェハは、永続的抑制ステップSの後、さらなるプロセス(すなわち、デバイス製造)を受けてもよい。当該プロセスは、Sの完了後にウェハ加熱することを要求するだろう。これらの実施の形態において、永続的抑制ステップSを完了させるため、所定の時間、温度Tに維持し、その後、さらなる熱処理ステップを完了させるために、Tを超えて加熱する。そのような実施の形態において、Rは、約0であると考えられ、Tは、概して、Tと等しい。永続的な抑制ステップSの後、さらなるプロセス(すなわち、デバイス製造)を実行する実施の形態において、当該さらなるプロセスは、約650℃を超える温度さらには600℃を超える温度までウェハを加熱しないことが好ましい。これは、そのような加熱により、凝集物(析出物)が溶解し、永続的劣化抑制が失われるからである。
【0037】
概して、冷却速度R冷却速度R未満であり、ステップSの間ウェハが再結合中心の永続的不活性化を達成することができる例えば、Rに対するRの比率は、少なくとも約2:1であってもよい。他の実施の形態において、Rに対するRの比率は、少なくとも約3:1、少なくとも約5:1、少なくとも約10:1、少なくとも約20:1、少なくとも約50:1、若しくは、約2:1〜約200:1、約2:1〜約150:1、約10:1〜約150:1、約20:1〜約150:1である。
【0038】
ステップSの間、少数電荷キャリアは、シリコン中に電子を発生させることができる任意の光をウェハに向けることにより少数電荷キャリアを発生させてもよい。約1.1μmより短波長の光については、ウェハは、少なくとも約50mW/cmの強度で光照射されてもよく、他の実施の形態では、少なくとも約100mW/cm、さらには、約200mW/cmの強度でなされる。約1.1μmより長波長の光を使用してもよいことに留意すべきである。しかしながら、いくつかの実施の形態において、より短波長の光と比較して、より高いパワーで、若しくは、より長い時間、光を照射すべきである(例えば、少なくとも約500mW/cm、さらには、少なくとも約1000mW/cm)。1以上の実施の形態において、ベルト炉内に配置された、若しくは、急速熱アニール装置の加熱ランプを介して光照射される。ウェハの全表面に光照射して、少数電荷キャリアを導入することが好ましい。しかしながら、本開示の1以上の実施の形態において、ウェハの前面のみに光照射してもよい。
【0039】
光照射に替えて、若しくはこれに加えて、ウェハに電流を流すことにより、Sの間少数電荷キャリアを発生させてもよい。概して、そのような電流は、p層とn層との間に形成されたpn接合を有するウェハ上又はウェハ内にn型の層を(例えば、エピ層等の不連続な層を導入(implantation)、拡散、析出させることによって)形成することにより、流してもよい。pn接合に電流を流して、p型ドーパントでドープされたウェハの領域に少数キャリアを導入してもよい。ウェハに適用される電圧は、少なくとも約0.4ボルト、さらには、少なくとも約0.7ボルトであってもよい。当該電流を、製造された光起電性セル若しくは製造された光起電性モジュールに与えることにより、p型ウェハに電流を流してもよい。少数キャリアは、ウェハがTからTまで冷却される全時間、発生することは必要ではない理解すべきである。
【0040】
本開示の1以上の特定の実施の形態において、Tは、少なくとも約600℃であり、Tは、少なくとも約250℃であり、Rは、少なくとも約100℃/秒であり、Tは、およそ大気温度(例えば、約25℃)であり、Rは、約5℃/秒未満である。
【0041】
本劣化抑制プロセスの効果は、当該技術分野における当業者により知られた方法のいずれかにより確認してもよい。典型的な方法には、(1)短い期間(例えば、約1ミリ秒未満の時間、さらには、約200マイクロ秒未満の時間)、セルに光を照射することによりホウ素含有ウェハを備える太陽電池の効率を測定すること、(2)性能を低下させるために、より長い期間(例えば、少なくとも1時間、より典型的には数時間、若しくは数日、さらには1ヶ月以上)、セルに光を照射すること、(3)ステップ2において、光照射後効率を測定することが含まれる。効率損失が無視できる程度若しくは小さい場合(例えば、約10%未満の効率損失、若しくは他の実施の形態では、約5%未満、約5%未満、約1%未満、若しくは、約0.5%未満の効率損失)、劣化の永続的抑制が達成される。
【0042】
本開示、若しくはその好ましい実施の形態において、構成要素を導入する際、冠詞”a(一つの)”、”an(一つの)”、”the(その)”及び”said(上述の)”は、1以上の構成要素の存在を意味することを意図している。用語”comprising(含む)”、”including(包含する)”、及び”having(有する)”は、包括的であることを意図しており、列挙された構成要素以外の他の構成要素が存在していてもよいことを意味することを意図している。
【0043】
本開示の技術的範囲から逸脱することなく、上述の装置及び方法において様々な変更を加えることができるため、上述の記載に含まれ、添付の図面に示された全事項は、例示であると解釈すべきであり、限定の意味と解釈すべきではない。