(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エフェクタードメインであるSox9ならびにSox9と少なくとも90%以上のアミノ酸配列同一性を有するその相同配列、ならびに形質導入ドメインを含有する、出発細胞を軟骨形成細胞へ再プログラミングするための形質導入可能物質。
形質導入ドメインは、タンパク質形質導入ドメイン、細胞侵入性ペプチド、細胞浸透性ペプチド、活性化可能細胞侵入性ペプチド、細胞標的化ペプチド、ポリマー、およびスーパーチャージタンパク質から成る群から選択される、請求項1に記載の形質導入可能物質。
タンパク質形質導入ドメインは、TAT、ポリアルギニン、ペネトラチン、アンテナペディア、VP22、トランスポータン、MAP、MTS、PEP−1、Arg/Trp類似体、RRWRRWWRRWWRRW、ポリグアニジン・ペプトイド、ポリグアニジン・ペプトイド、本質的タンパク質形質導入ドメイン、SEQ ID NO:56、SEQ ID NO:57、HIV−1 Rev、フロックハウスウィルス外殻ペプチド、DNA結合ペプチド、c−Fos、c−Jun、酵母GCN4、融合性HA2ペプチドおよびスーパーチャージGFPから成る群から選択される、請求項3に記載の形質導入可能物質。
細胞標的化ペプチドは、NGR、RGD、SEQ ID NO:45、SEQ ID NO:46、SEQ ID NO:47、SEQ ID NO:48、SEQ ID NO:49、SEQ ID NO:50、SEQ ID NO:51、SEQ ID NO:52、SEQ ID NO:53、SEQ ID NO:54、およびSEQ ID NO:58から成る群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドである、請求項3に記載の形質導入可能物質。
出発細胞が、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、MSC、線維芽細胞、造血幹細胞、内皮幹細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞および内皮細胞から成る群から選択される、請求項12に記載の方法。
形質導入可能物質は、His6−Sox9−11R、HA2−スーパーチャージGFP−Sox9およびscGFR−Sox9−11Rから成る群から選択されるポリペプチドを含有する、請求項15に記載の方法。
エピジェネティック剤は、トリコスタチンA、バルプロ酸、アザ−2’−デオキシシチジン、またはスベロイルアニリドヒドロキサム酸を含有する、請求項19に記載の医薬組成物。
軟骨損傷が関与する症状が、関節障害、変形性関節症、軟骨傷害、外傷性断裂もしくは剥離、軟骨無形成症、肋軟骨炎、脊椎円板ヘルニア形成、再発性多発性軟骨炎、腫瘍、軟骨腫、軟骨肉腫または多形性腺腫である、請求項22に記載の使用。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】形質導入可能物質のキャラクタリゼーション(I)。(A)形質導入可能物質:Oct4−11R(SEQ ID NO:12)、Sox2−11R(SEQ ID NO:13)、Klf4−11R(SEQ ID NO:14)、およびcMyc−11R(SEQ ID NO:15)のタンパク質発現ベクターの概略図。リンカー:SEQ ID NO:55;エフェクタードメイン:Oct4(SEQ ID NO:1)、Sox2(SEQ ID NO:2)、Klf4(SEQ ID NO:3)、またはcMyc(SEQ ID NO:4)。(B)ウェスタンブロット分析で測定した、細胞培養条件下での4つの形質導入可能物質(Oct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、およびcMyc−11R)の安定性。(C)転写因子(TF)と融合したスーパーチャージ(super−charged)緑色蛍光タンパク質(scGFP)を含有する形質導入可能物質の概略図。
【
図2】形質導入可能物質のキャラクタリゼーション(II)。免疫細胞化学によって測定した、11R標識した形質導入可能物質のOG2−MEF細胞へのタンパク質形質導入。Oct4:Oct4−11Rを形質導入したMEF細胞(緑色)、Sox2:Sox2−11Rを形質導入したMEF細胞(赤色)、Klf4:Klf4−11Rを形質導入したMEF細胞(赤色)、およびcMyc:cMyc−11Rを形質導入したMEF細胞(緑色)。DAPI:DAPI染色で核を可視化した細胞(青色)。画像をマージさせた。
【
図3】形質導入可能物質のキャラクタリゼーション(III)。タンパク質誘導性幹細胞(protein induced pluripotent stem cell;piPS細胞)はコロニーを形成して増殖し、既知組成培地中、支持細胞未含有条件下で自己複製した。
【
図4】形質導入可能物質、Oct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、およびcMyc−11RによるpiPS細胞の作製。(A)piPS細胞作製のタイムライン。(B)Oct4−GFP
+ piPS細胞のコロニーは30−35日目に初めて観察された。位相:代表的な位相コントラスト画像、GFP:蛍光画像。(C)Oct4−GFP
+ piPS細胞は慣例的なmESC培養条件下で長期にわたって自己複製を保持した。(D)長期間増殖させたpiPS細胞は、緻密なドーム型のコロニーを形成し、典型的な多能性マーカーであるALPを強く発現した。(E)免疫蛍光による測定で、piPS細胞は他の典型的な多能性マーカーを発現した:SEA−1(赤色)、Sox2(赤色)、Oct4(赤色)、およびNanog(赤色)。DAPI:DAPI染色によって可視化した核(青色)画像をマージさせた。(F)piPS細胞における内因性多能性遺伝子発現のRT−PCR分析。(G)亜硫酸水素ゲノムシークエンシングによるOct4プロモーターのメチル化分析。○(白丸)および●(黒丸)はそれぞれ、非メチル化およびメチル化CpGを表す。
【
図5】インビトロおよびインビボにおけるpiPS細胞の多能性(I)。piPS細胞はインビトロにおいて、3つの胚葉で効率的に細胞に分化した。Tuj1:特徴的なTUJ1
+神経細胞−外胚葉(赤色);Bryt:ブラキュリ
+中胚葉細胞(赤色);およびSox17:最終的なSox17
+内胚葉細胞(Sox17
+ definitive endoderm cells)。画像をDAPI染色(青色)とマージさせた。
【
図6】インビトロおよびインビボにおけるpiPS細胞の多能性(II)。(A)インビトロにおけるpiPS細胞分化のRT−PCR分析。(B)piPS細胞と凝集させた胚を偽妊娠マウスに移植した後、キメラ胚(13.5 dpc、7検体中2検体、左(left))を得た(上段)。それらのpiPS細胞は、キメラ胚から単離した生殖隆起組織において生殖細胞に寄与した(Oct4−GFP陽性)(下段)。
【
図7】形質導入可能物質のタンパク質発現ベクターの概略図。His6:SEQ ID NO:59;エフェクタードメイン:Ngn3(SEQ ID NO:8)、PDX1(SEQ ID NO:9)、MafA(SEQ ID NO:10)、またはFoxp3(SEQ ID NO:11);リンカー:SEQ ID NO:55。
【
図8】マウスにおける形質導入可能物質、His6−Ngn3−11R(SEQ ID NO:30)、His6−PDX1−11R(SEQ ID NO:31)、およびHis6−MafA−11R(SEQ ID NO:32)による肝および膵外分泌細胞のインスリン産生β細胞への再プログラミング(I)。マウス−1、マウス−2、およびマウス−3はウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質で処理した(コントロール群)。マウス−4、マウス−5、およびマウス−6はHis6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rで処理した(処理群)。A)マウス−1の肝臓の免疫蛍光分析(IFA);B)マウス−2の肝臓のIFA;およびC)マウス−3の肝臓のIFA。
【
図9】マウスにおける形質導入可能物質、His6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rによる肝および膵外分泌細胞のインスリン産生β細胞への再プログラミング(II)。マウス−1、マウス−2、およびマウス−3はウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質で処理した(コントロール群)。マウス−4、マウス−5、およびマウス−6はHis6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rで処理した(処理群)。A)マウス−4の肝臓のIFA(1);B)マウス−4の肝臓のIFA(2);C)マウス−5の肝臓のIFA(1);D)マウス−5の肝臓のIFA(2);E)マウス−6の肝臓のIFA(1);F)マウス−6の肝臓のIFA(2)。
【
図10】マウスにおける形質導入可能物質、His6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rによる肝および膵外分泌細胞のインスリン産生β細胞への再プログラミング(III)。マウス−1、マウス−2、およびマウス−3はウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質で処理した(コントロール群)。マウス−4、マウス−5、およびマウス−6はHis6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rで処理した(処理群)。A)マウス−1の膵臓のIFA;B)マウス−2の膵臓のIFA(1);C)マウス−2の膵臓のIFA(2);D)マウス−3の膵臓のIFA。
【
図11】マウスにおける形質導入可能物質、His6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rによる肝および膵外分泌細胞のインスリン産生β細胞への再プログラミング(IV)。マウス−1、マウス−2、およびマウス−3はウシ血清アルブミン(BSA)タンパク質で処理した(コントロール群)。マウス−4、マウス−5、およびマウス−6はHis6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rで処理した(処理群)。A)マウス−4の膵臓のIFA(1);B)マウス−4の膵臓のIFA(2);C)マウス−5の膵臓のIFA(1);D)マウス−5の膵臓のIFA(2);E)マウス−6の膵臓のIFA。
【
図12】形質導入可能物質、His6−Foxp3−11R(SEQ ID NO:33)によるT細胞のTreg細胞への再プログラミング(IA)。CD14単球未含有でのPBMCにおけるCD4およびCD25タンパク質発現のフローサイトメトリー分析:アイソタイプ・コントロール、PBSコントロール、サンプルバッファー・コントロール、およびタンパク質(BSA 100μg/ml)コントロール。
【
図13】形質導入可能物質、His6−Foxp3−11RによるT細胞のTreg細胞への再プログラミング(IB)。His16−Foxp3−11R(10μg/ml、20μg/ml、または50μg/ml)で処理したCD14単球未含有でのPBMCにおけるCD4およびCD25タンパク質発現のフローサイトメトリー分析。
【
図14】形質導入可能物質、His6−Foxp3−11RによるT細胞のTreg細胞への再プログラミング(IIA)。PBMCにおけるCD4およびCD25タンパク質発現のフローサイトメトリー分析:アイソタイプ・コントロールおよびPBSコントロール。
【
図15】形質導入可能物質、His6−Foxp3−11RによるT細胞のTreg細胞への再プログラミング(IIB)。PBMCにおけるCD4およびCD25タンパク質発現のフローサイトメトリー分析:サンプルバッファー・コントロールおよびタンパク質(BSA 100μg/ml)コントロール。
【
図16】形質導入可能物質、His6−Foxp3−11RによるT細胞のTreg細胞への再プログラミング(IIC)。His16−Foxp3−11R(10μg/mlまたは50μg/ml)で処理したPBMCにおけるCD4およびCD25タンパク質発現のフローサイトメトリー分析。
【
図17】形質導入可能物質、His6−Foxp3−11RによるT細胞のTreg細胞への再プログラミング(IID)。His16−Foxp3−11R(100μg/ml)で処理したPBMCにおけるCD4およびCD25タンパク質発現のフローサイトメトリー分析。
【
図18-1】Foxo1およびFoxo3の例示的なエフェクタードメインの配列。
【
図18-2】Foxo1およびFoxo3の例示的なエフェクタードメインの配列。
【
図19-1】例示的なエフェクタードメインの配列。
【
図19-2】例示的なエフェクタードメインの配列。
【
図19-3】例示的なエフェクタードメインの配列。
【
図19-4】例示的なエフェクタードメインの配列。
【
図20-1】例示的な形質導入可能物質の配列:エフェクタードメイン−11R。
【
図20-2】例示的な形質導入可能物質の配列:エフェクタードメイン−11R。
【
図20-3】例示的な形質導入可能物質の配列:エフェクタードメイン−11R。
【
図20-4】例示的な形質導入可能物質の配列:エフェクタードメイン−11R。
【
図21-1】例示的な形質導入可能物質の配列:His6−エフェクタードメイン−11R。
【
図21-2】例示的な形質導入可能物質の配列:His6−エフェクタードメイン−11R。
【
図21-3】例示的な形質導入可能物質の配列:His6−エフェクタードメイン−11R。
【
図21-4】例示的な形質導入可能物質の配列:His6−エフェクタードメイン−11R。
【
図22-1】例示的な形質導入可能物質の配列:HA2−スーパーチャージGFP−エフェクタードメイン(a〜m)およびscGFP−Sox9−11R(n)。
【
図22-2】例示的な形質導入可能物質の配列:HA2−スーパーチャージGFP−エフェクタードメイン(a〜m)およびscGFP−Sox9−11R(n)。
【
図22-3】例示的な形質導入可能物質の配列:HA2−スーパーチャージGFP−エフェクタードメイン(a〜m)およびscGFP−Sox9−11R(n)。
【
図22-4】例示的な形質導入可能物質の配列:HA2−スーパーチャージGFP−エフェクタードメイン(a〜m)およびscGFP−Sox9−11R(n)。
【
図22-5】例示的な形質導入可能物質の配列:HA2−スーパーチャージGFP−エフェクタードメイン(a〜m)およびscGFP−Sox9−11R(n)。
【
図22-6】例示的な形質導入可能物質の配列:HA2−スーパーチャージGFP−エフェクタードメイン(a〜m)およびscGFP−Sox9−11R(n)。
【
図23】ヒト皮膚線維芽細胞の細胞株(HHF、AおよびB)およびヒト骨髄由来間葉系幹細胞(MSC、CおよびD)へのscSox9タンパク質の浸透。10μg/mlのスーパーチャージ緑色蛍光タンパク質(scGFP、AおよびC)または組換えSox9−scGFP融合タンパク質(scSox9、BおよびD)と共に細胞をインキュベートした。
【
図24】scSox9は、MSCの増殖増加を誘導した。scSox9またはバッファーのみを添加した、10%FBSおよび低グルコース(1.5g/l)を含有するDMEMにおいてMSCを48時間培養した。
【
図25】バッファーで処理したMSC(A)の陰性トルイジンブルー染色とは対照的な、scSox9で処理した3日目のMSC(B)およびscSox9で処理した14日目のMSC(C)の陽性トルイジンブルー染色により示される通り、scSox9は、アグリカン発現および軟骨形成を誘導した。
【
図26】scGFPで処理したMSC(AおよびC)の陰性染色とは対照的な、scSox9で処理したMSC(BおよびD)の陽性コラーゲンII型モノクローナル抗体(免疫ペルオキシダーゼ)染色により示される通り、scSox9は、コラーゲンII型発現を誘導した。
【
図27】scSox9は、コラーゲンII型増加を誘導したが、コラーゲンI型およびX型発現減少を誘導した。表示の時点において、バッファーのみまたは10μg/mlのscSox9で処理したMSCからRNAを抽出し、コラーゲン(Col)I、IIおよびX型のmRNA発現のためのRT−PCRを行った。GAPDHと相対的な発現で表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の一観点は、生体サンプルを軟骨形成サンプルに再プログラミングするための形質導入可能物質に関する。再プログラミングされた軟骨形成サンプルは、軟骨、好ましくは硝子軟骨を再生または産生することにより、軟骨傷害または損傷を修復することができる。形質導入可能物質は、エフェクタードメインを含む。
【0016】
ある特定の態様では、本明細書で使用する形質導入可能物質は、DNAまたはDNAから誘導されたものではないが、生体サンプルの膜(例えば細胞膜)を通過するか、膜を通じて形質導入するか、または膜を通過させられることが可能な物質または分子であり、これによって形質導入可能物質が生体サンプルの外部から生体サンプルの内部に侵入または移動し、再プログラミングを生じさせる。例えば、形質導入可能物質は、受容体介在型エンドサイトーシスによって細胞への物質の侵入を促進する細胞表面受容体と相互作用してもよい。
【0017】
ある特定の態様では、形質導入可能物質は、他の生体サンプルに比較して特定のタイプの生体サンプル(例えば癌または腫瘍細胞)に形質導入される可能性が高い、または生体サンプル中もしくはその周辺の特定の微小環境(例えば癌または腫瘍周辺の微小環境)において形質導入可能となる。例えば、選択的形質導入可能物質は、好ましくは選択的形質導入可能物質を特定のタイプの生体サンプル中に運搬する、または生体サンプル周辺の微小環境において形質導入可能となる形質導入ドメイン(例えば細胞標的化ペプチドまたは活性化可能な細胞侵入性(penetrating)ペプチド)を含有する。
【0018】
いかなる理論にも拘束されることはないが、形質導入可能物質は細胞膜を通過し、細胞質に入り込み、細胞質活性(例えば翻訳、翻訳後修飾、シグナル伝達経路、またはアポトーシス経路)を再プログラミングしうると考えられる。更に、形質導入可能物質は核膜を通過し、DNAまたは染色体複製、遺伝子転写、およびRNAスプライシングを再プログラミングまたは調節しうると考えられる。
【0019】
エフェクタードメインは、生体サンプル内部に入ると生体サンプルの再プログラミングを変更する能力を有するモチーフまたは分子である。エフェクタードメインは生体サンプル中(例えば細胞質または核中)で分子(例えばタンパク質、DNA、RNA、糖、および脂質)と相互作用し、増殖、分化、脱分化、分化転換、逆分化、決定転換、アポトーシス、および形態形成のような変化を起こしうる。エフェクタードメインは以下であってもよい:1)ポリペプチドまたはそのフラグメントもしくは模倣物;2)生体サンプルのゲノム中に形質導入もしくは導入されると遺伝子を発現できない、または遺伝子修飾を起こせないが、生体サンプル中の分子と相互作用するポリヌクレオチド(例えばリボザイム、アンチセンス分子、siRNAまたはmiRNA、オリゴヌクレオチドなど);および3)小分子または他の化学物質(例えば化学療法薬)。
【0020】
ある特定の態様では、エフェクタードメインは本質的に形質導入可能である(例えばPDX1(例えばSEQ ID NO:9)およびNeuroD(例えばSEQ ID NO:7))。
【0021】
エフェクタードメインの一例は、転写因子、染色体再構築タンパク質、抗体またはこれらのフラグメントもしくは模倣物など、ポリペプチドの一部または全体である。エフェクタードメインの別の例は、ポリマーではなく、生体ポリマー(例えばタンパク質、核酸、または多糖)と結合し、その生体ポリマーの活性または機能を改変する小分子である。小分子の例には、限定される訳ではないがアセチル化阻害剤、転写活性化剤、シグナル経路活性化剤、シグナル経路阻害剤およびメチル化阻害剤がある。
【0022】
別の態様では、エフェクタードメインは、体細胞または幹細胞を軟骨形成細胞に再プログラミングさせる、体細胞を幹細胞に再プログラミングさせる、あるいは細胞をある状態から別の状態へと変化させる少なくとも1種のポリペプチドとなり得る。例えばエフェクタードメインは以下であってもよい:1)Klf4(例えばSEQ ID NO:3)、Sox2(例えばSEQ ID NO:2)、Lin28(例えばSEQ ID NO:5)、Oct4(例えばSEQ ID NO:1)、cMyc(例えばSEQ ID NO:4)、Nanog(例えばSEQ ID NO:6)、およびそれらを任意に組み合わせたものから成る群から選択されるポリペプチド;2)Klf4、Sox2、Oct4、cMyc、およびそれらを任意に組み合わせたものから成る群から選択されるポリペプチド;3)Sox2、Oct4、Lin28、Nanog、およびそれらを任意に組み合わせたものから成る群から選択されるポリペプチド;4)Ngn3(例えばSEQ ID NO:8)、PDX1(例えばSEQ ID NO:9)、MafA(例えばSEQ ID NO:10)、NeuroD(例えばSEQ ID NO:7)、およびそれらを任意に組み合わせたものから成る群から選択されるポリペプチド;5)Foxp3(例えばSEQ ID NO:11)、Foxo1(例えば
図18a)およびFoxo3(例えば
図18b)を含有するポリペプチド;6)Oct4、Sox2、Klf4、Lin28、Nanog、cMyc、Ngn3、PDX1、MafA、NeuroD、Foxp3、Foxo1およびFoxo3、ならびにそれらを任意に組み合わせたものから成る群から選択されるポリペプチド;7)ポリペプチドOct4、Sox2、Klf4、およびcMycを組み合わせたもの;および8)ポリペプチドNgn3、PDX1、およびMafAを組み合わせたもの;9)Sox9、Sox6、Sox5、c−Myc、Klf4、Mef2C、Trps1、Gli3、Runx2、Dlx5、Dlx6、GATA−6およびBaf60cから成る群から選択されるポリペプチド;10)Oct4、Sox2、Klf4、Lin28、Nanog、cMyc、Ngn3、PDX1、MafA、NeuroD、Foxp3、Foxo1、Foxo2、Sox9、Sox6、Sox5、c−Myc、Klf4、Mef2C、Trps1、Gli3、Runx2、Dlx5、Dlx6、GATA−6およびBaf60c、ならびにそれらを任意に組み合わせたものから成る群から選択されるポリペプチド;および11)Sox9、Sox6、Sox5、c−Myc、Klf4、Mef2C、Trps1、Gli3、Runx2、Dlx5、Dlx6、GATA−6およびBaf60c、ならびにそれらを任意に組み合わせたものから成る群から選択される第1のポリペプチド;ならびにOct4、Sox2、Klf4、Lin28、Nanog、cMyc、Ngn3、PDX1、MafA、NeuroD、Foxp3、Foxo1およびFoxo3から成る群から選択される第2のポリペプチド。
【0024】
本発明により提供されるポリペプチドは、その相同配列も包含する。本明細書において用いる場合、“相同配列”とは、相同な参照ポリペプチドと十分な割合のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドを表す。ある特定の態様では、相同配列は、本発明により提供されるエフェクタードメインとして有用なポリペプチドの1つと、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも88%、少なくとも90%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有する。相同配列を有するポリペプチドは、本明細書に開示されるエフェクタードメインと実質的に同じ活性を有する。
【0025】
アミノ酸配列の同一性は、配列をアライメントした後に、そして必要な場合にはギャップを導入して同一のアミノ酸の数を最大とした後に、候補アミノ酸配列中の、参照アミノ酸配列中のアミノ酸残基と同一のアミノ酸残基のパーセンテージとして決定することができる。アミノ酸残基の保存的置換は、同一の残基と見なしてもよく、見なさなくてもよい。本明細書において用いる場合、“保存的置換”とは、アミノ酸残基を類似の生理化学的特性(例えば、疎水性および側鎖分子のかさ)を有する他のアミノ酸残基で置き換えることを表す。
【0026】
アミノ酸配列同一性のパーセンテージを決定する目的のためのアライメントは、当該技術分野において知られる種々の方法により行うことができる。例えば、アミノ酸配列のアライメントは、公共利用可能なツール、例えば、BLASTp(U.S.National Center for Biotechnology Information(NCBI)のウエブサイトから利用可能:http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi,Altschul S.F.et al,J.Mol.Biol.,215:403−410(1990);Stephen F.et al,Nucleic Acids Res.,25:3389−3402(1997)も参照)、ClustalW2(European Bioinformatics Instituteのウエブサイトから利用可能:http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalw2/,Higgins D.G.et al,Methods in Enzymology,266:383−402(1996);Larkin M.A.et al,Bioinformatics(Oxford,England),23(21):2947−8(2007)も参照)、および TCoffee( Swiss Institute of Bioinformaticsのウエブサイトから利用可能、Poirot O.et al,Nucleic Acids Res.,31(13):3503−6(2003);Notredame C.et al,J.Mol.Boil.,302(1):205−17(2000)も参照)を用いて行うことができる。当業者は、そのツールで提供されるデフォルトのパラメータを用いてもよく、例えば適当なアルゴリズムを選択することによりアライメントに適したようにパラメータをカスタマイズしてもよい。
【0027】
本発明により提供されるポリペプチドは、更にその機能的同等物も包含する。本明細書において用いる場合、“機能的同等物”とは、親ポリペプチドの全部または一部と実質的に類似する機能的または構造的特徴を有するポリペプチドを表す。本発明において提供されるポリペプチドは、実質的に類似する機能を発揮できる、すなわち体細胞を再プログラミングさせて幹細胞とするかまたは1つの細胞状態を別の細胞状態に変化させることができるその機能的同等物を包含する。本発明により提供されるポリペプチド(すなわち、親ポリペプチド)の機能的同等物は、親ポリペプチドのフラグメント、変異体、誘導体、バリアント、または類似体であることができ、化学的または生物学的改変を含んでいてもよい。機能的同等物は、親ポリペプチドの1つまたはそれ以上のアミノ酸置換、付加、欠失、挿入、転移、修飾(例えばリン酸化、グリコシル化、標識化等)またはそれらを任意に組み合わせたものを有していてもよい。機能的同等物には、親ポリペプチドの天然に生ずるバリアントおよび組換え法または化学合成により得られるもの等の人工的ポリペプチド配列も含まれる。機能的同等物は、天然に生じないアミノ酸残基を含んでいてもよい。
【0028】
ある特定の態様では、形質導入可能物質は形質導入ドメインを更に含有する。形質導入ドメインは、形質導入可能物質の生体サンプル(例えば細胞)への侵入を促進する能力があるモチーフである。形質導入可能ドメインはエフェクタードメインと共有結合、非共有結合、またはリンカーを介して結合している。ある特定の態様では、形質導入ドメインはリンカーを介してエフェクタードメインに共有結合している。ある特定の態様では、リンカーは、1つまたはそれ以上のグリシン残基を含有するグリシン・リッチ・リンカーである(例えばesggggspg(SEQ ID NO:55))。
【0029】
形質導入ドメインの例には、限定されるわけではないが以下がある:ポリマー(例えばカチオン性脂質ポリマーおよびナノ粒子)、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)、細胞侵入性(cell penetrating)ペプチド(CPP1)、細胞浸透性(cell permeating)ペプチド(CPP2)、活性化可能細胞侵入性ペプチドまたはコンジュゲート(ACPP)、細胞標的化ペプチド(CTP)、およびスーパーチャージタンパク質。
【0030】
CPP1、CPP2、PTDおよびスーパーチャージタンパク質は、それと結合するカーゴ分子の細胞への運搬を促進することが知られているペプチドである。CPP1、CPP2、PTDまたはスーパーチャージタンパク質とカーゴ分子との結合は共有結合または非共有結合的相互作用であってもよい。カーゴ分子は小化学分子、ペプチド、タンパク質、DNAフラグメント、RNA(例えばsiRNAおよびmiRNA)またはナノ粒子であってもよい。例えば、CPP1およびPTDは、表面輸送体および細胞周期に依存せずに細胞に侵入する能力を有する5から20個のアミノ酸ペプチド・モチーフを含有する。また、CPP1およびPTDは血液脳関門を通過する能力も有する。CPP1およびPTDはインビトロおよびインビボで、非経口投与後、タンパク質およびペプチドを生体全体に均一に運搬する。カチオン性PTDは核局在化シグナルとして作用し、結合する分子カーゴを細胞核に運搬する。タンパク質形質導入ドメインの例には、それに制限されるわけではないが以下がある:TAT(例えばYGRKKRRQRRR、SEQ ID NO:34)、ポリアルギニン(例えば7−11個のアルギニン残基を有するポリアルギニン(RRRRRRR、RRRRRRRR、RRRRRRRRR、RRRRRRRRRR(SEQ ID NO:35)およびRRRRRRRRRRR(SEQ ID NO:36)など))、ペネトラチン(アンテナペディア、例えばRQIKIWFQNRRMKWKK(SEQ ID NO:38))、VP22(例えばDAATATRGRSAASRPTQRPRAPARSASRPRRPVQ(SEQ ID NO:39))、トランスポータン(例えばGWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(SEQ ID NO:40))、MAP(例えばKLALKLALKALKAALKLA(SEQ ID NO:41))、MTS(例えばAAVALLPAVLLALLP(SEQ ID NO:42))、PEP−1(例えばKETWWETWWTEWSQPKKKRKV(SEQ ID NO:43))、Arg/Trp類似体(例えばRRWRRWWRRWWRRW(SEQ ID NO:44))、ポリグアニジン・ペプトイド(例えば、バックボーンとグアニジン基の間に6−メチレン・スペーサーを有するポリグアニジン・ペプトイド(N−arg 5、7、または9ペプトイド))、本質的(inherent)タンパク質形質導入ドメイン、(例えばRHIKIWFQNRRMKWKK(SEQ ID NO:56)、KPKRRGPKKKKMTKARLERFKLRRMKANARERNR(SEQ ID NO:57)、HIV−1 Rev(例えばTRQARRNRRRRWRERQR(SEQ ID NO:60))、フロックハウスウィルス外殻ペプチド(例えばRRRRNRTRRNRRRVR(SEQ ID NO:61))、DNA結合ペプチド、例えばc−Fos(例えばKRRIRRERNKMAAAKSRNRRRELTDT(SEQ ID NO:62))、c−Jun(例えばRIKAERKRMRNRIAASKSRKRKLERIAR(SEQ ID NO:63))、酵母GCN4(例えばKRARNTEAARRSRARKLQRMKQ(SEQ ID NO:64))、融合性HA2ペプチド(例えばGLFGAIAGFIENGWEGMIDG(SEQ ID NO:65)、GDIMGEWGNEIFGAIAGFLG(SEQ ID NO:66))。
【0031】
スーパーチャージタンパク質は、改変していない形のタンパク質と比較して増加したまたは減少した総正味電荷(正味正電荷でも正味負電荷でもよい)を有するよう改変されたペプチドまたはタンパク質であることができる。ある特定の態様では、総正味正電荷を有する超正電荷タンパク質を形質導入ドメインとして用いることができる。スーパーチャージタンパク質の例としては、限定されないが、スーパーチャージGFP(例えばASKGERLFRGKVPILVELKGDVNGHKFSVRGKGKGDATRGKLTLKFICTTGKLPVPWPTLVTTLTYGVQCFSRYPKHMKRHDFFKSAMPKGYVQERTISFKKDGKYKTRAEVKFEGRTLVNRIKLKGRDFKEKGNILGHKLRYNFNSHKVYITADKRKNGIKAKFKIRHNVKDGSVQLADHYQQNTPIGRGPVLLPRNHYLSTRSKLSKDPKEKRDHMVLLEFVTAAGIKHGRDERYK(SEQ ID NO:67))、および米国特許出願US20110112040(その全体が本明細書に参照として組み込まれる)に開示される他のスーパーチャージタンパク質が挙げられる。また、天然に生ずるスーパーチャージタンパク質、例えばHBEGF(受託番号Q99075)、N−DEK(受託番号P35659)、C−jun(受託番号P05412)、およびHGF(受託番号P14210)、ならびに米国特許出願US20110112040(その全体が本明細書に参照として組み込まれる)に開示される他の天然のスーパーチャージタンパク質も用いることができる。
【0032】
細胞標的化ペプチドは細胞表面受容体に結合するタンパク質またはペプチドであり、エンドサイトーシスによって細胞に侵入する。ある特定の態様では、細胞標的化ペプチドは特定の組織または細胞タイプを標的とし、例えばGnRHペプチド(例えばSEQ ID NO:58)はGnRH受容体を発現する生体サンプル(例えば固形腫瘍およびホルモン応答性癌細胞系)を標的とする。細胞標的化ペプチドおよび標的とされる特定の生体サンプルの更なる例を表2に示す。
【0034】
活性化可能細胞侵入性ペプチドまたはコンジュゲート(ACPP)はカチオン性CPP1、CPP2、PTDまたはスーパーチャージタンパク質、およびそれを中和するアニオン性カウンターパートを含有する。ある特定の態様では、カチオン性CPP1、CPP2、PTDまたはスーパーチャージタンパク質、およびアニオン性カウンターパートは非共有結合性相互作用(例えば電荷−電荷相互作用)および/または共有結合性開裂可能リンカー(例えばマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)開裂可能配列)を介して結合している。細胞へのACPPの形質導入は、非共有結合性相互作用が崩壊されるまで、そして/または開裂可能リンカーが開裂されるまで阻害される。例えば、いかなる理論にも拘束されることはないが、アニオン性カウンターパートは、pH7.4(血流中のpH)でプロトン化され弱酸性(例えばpH6.8)で中和される1つまたはそれ以上のpH感応性基(例えばスルホンアミド基)を含有する。従って、カチオン性CPP1、CPP2、PTDまたはスーパーチャージタンパク質、およびアニオン性カウンターパート間の電荷−電荷相互作用は弱酸性微小環境(例えば腫瘍または癌の内部または周辺)で崩壊する。MMPの血中濃度は、腫瘍または癌周辺の微小環境中の濃度より低い。従って、MMP開裂可能配列は血流中では開裂されないが、腫瘍または癌周辺の環境中では開裂される。カチオン性CPP1、CPP2、PTDまたはスーパーチャージタンパク質はもはやアニオン性カウンターパートでは中和されず、従って、暴露されて細胞(例えば腫瘍または癌細胞)への転移を促進される。ある特定の態様では、CPP1、CPP2、またはPTDはTATである。ある特定の態様では、アニオン性カウンターパートはpH感応性基(例えばスルホンアミド基)を含有するpH感応性ポリマー(例えばジブロック・コポリマー)を含有する。
【0035】
別の例では、活性化可能細胞侵入性コンジュゲートは、慣例的なポリマー製の疎水性コア(これにエフェクタードメインを導入する)、ポリエチレングリコールおよび1つまたはそれ以上のカチオン性CPP1、CPP2、PTDまたはスーパーチャージタンパク質から成る親水性の周辺層、そして、電荷−電荷相互作用によってカチオン性CPP1、CPP2、PTDまたはスーパーチャージタンパク質を中和する1つまたはそれ以上のアニオン性カウンターパートを含有する。それらの電荷−電荷相互作用により、運搬の間、形質導入物質が弱酸性の微小環境(例えば腫瘍または癌)に到達してアニオン性カウンターパートのプロトン化が引き起こされ、電荷−電荷結合が崩壊されるまで、カチオン性電荷が遮蔽されると考えられる。その結果、アニオン性カウンターパートによってクエンチングされていたカチオン性CPP1、CPP2、PTDまたはスーパーチャージタンパク質は、周辺細胞(例えば腫瘍または癌細胞)内へのエフェクタードメインの運搬を促進する能力を有するようになる。
【0036】
ある特定の態様では、選択的形質導入可能物質は細胞標的化ペプチド、活性化可能細胞侵入性ペプチド、および活性化可能細胞侵入性コンジュゲートから成る群から選択される形質導入ドメインを含有する。
【0037】
形質導入ドメインは共有結合、非共有結合性相互作用、またはリンカーを介してエフェクターに結合していてもよい。従って、形質導入可能物質の作製は、形質導入ドメインおよびエフェクタードメインを別々に得、それらを共有結合または非共有結合性相互作用(例えば反発相互作用、双極子相互作用、水素結合相互作用、分散型相互作用、電荷−電荷相互作用、溶媒効果、カウンターイオン効果、エントロピー効果、親水性効果、および疎水性効果)によって結合させて行ってもよい。ある特定の態様では、形質導入物質はエフェクタードメインおよび形質導入可能ドメインを混合することによって作製してもよい。あるいはまた、形質導入可能物質は、天然の供与源からの物質の単離または組換えによって調製してもよい。両方のドメインがペプチドまたはポリペプチドである場合、エフェクタードメインが形質導入ドメインのN−末端またはC−末端に結合していてもよく、形質導入可能ポリペプチドは化学合成または組み換え技術によって作製してもよい。
【0038】
ある特定の態様では、形質導入可能物質は本質的に形質導入可能であるエフェクタードメイン、およびエフェクタードメインと共有結合または非共有結合性相互作用によって結合した形質導入ドメインを含む。
【0039】
ある特定の態様では、形質導入可能物質は、エフェクタードメインまたは形質導入ドメインの機能を妨害しない1つまたはそれ以上のモチーフを更に含有する。ある特定の態様では、これらのモチーフは共有結合、非共有結合、またはリンカーを介してエフェクタードメインおよび/または形質導入ドメインと結合している。ある特定の態様では、これらのモチーフは、形質導入可能物質の調製および/または精製を容易にする。それらのモチーフの一例は、形質導入可能物質の調製においてタンパク質精製を容易にするためのポリヒスチジン・タグである。ある特定の態様では、ポリヒスチジン・タグは少なくとも6個のヒスチジン残基を含有する(例えばMGSSHHHHHHSSGLVPRGSH(“His6”、SEQ ID NO:59))。
【0040】
ある特定の態様では、形質導入可能物質には、例えば以下がある:Oct4−11R(SEQ ID NO:12)、Sox2−11R(SEQ ID NO:13)、Klf4−11R(SEQ ID NO:14)、Lin28−11R(SEQ ID NO:16)、Nanog−11R(SEQ ID NO:17)、cMyc−11R(SEQ ID NO:15)、Ngn3−11R(SEQ ID NO:19)、PDX1−11R(SEQ ID NO:20)、MafA−11R(SEQ ID NO:21)、NeuroD−11R(SEQ ID NO:18)、およびFoxp3−11R(SEQ ID NO:22)、Foxo1−11R(例えば
図18c)、Foxo3−11R(例えば
図18d)、Sox9−11R、Sox6−11R、Sox5−11R、c−Myc−11R、Klf4−11R、Mef2C−11R、Trps1−11R、Gli3−11R、Runx2−11R、Dlx5−11R、Dlx6−11R、GATA−6−11RおよびBaf60c−11R(ここで、11R(SEQ ID NO:37)はリンカーに結合する、11個のアルギニン残基から成るポリアルギニン配列を表し、このリンカーを介してポリアルギニン配列がエフェクタードメインに共有結合している)。ある特定の態様では、“11R”はエフェクタードメインのC末端に共有結合している。ある特定の態様では、形質導入可能物質には、例えば以下がある:His6−Oct4−11R(SEQ ID NO:23)、His6−Sox2−11R(SEQ ID NO:24)、His6−Klf4−11R(SEQ ID NO:25)、His6−Lin28−11R(SEQ ID NO:27)、His6−Nanog−11R(SEQ ID NO:28)、His6−cMyc−11R(SEQ ID NO:26)、His6−Ngn3−11R(SEQ ID NO:30)、His6−PDX1−11R(SEQ ID NO:31)、His6−MafA−11R(SEQ ID NO:32)、His6−NeuroD−11R(SEQ ID NO:29)、His6−Foxp3−11R(SEQ ID NO:33)、His6−Foxo1−11R(例えば
図18e)、His6−Foxo3−11R(例えば
図18f)、 His6−Sox9−11R、His6−Sox6−11R、His6−Sox5−11R、His6−c−Myc−11R、His6−Klf4−11R、His6−Mef2C−11R、His6−Trps1−11R、His6−Gli3−11R、His6−Runx2−11R、His6−Dlx5−11R、His6−Dlx6−11R、His6−GATA−6−11R、His6−Baf60c−11R、HA2−スパーチャージGFR−Sox9、HA2−スパーチャージGFR−Sox6、HA2−スパーチャージGFR−Sox5、HA2−スパーチャージGFR−c−Myc、HA2−スパーチャージGFR−Klf4、HA2−スパーチャージGFR−Mef2C、HA2−スパーチャージGFR−Trps1、HA2−スパーチャージGFR−Gli3、HA2−スパーチャージGFR−Runx2、HA2−スパーチャージGFR−Dlx5、HA2−スパーチャージGFR−Dlx6、HA2−スパーチャージGFR−GATA−6、HA2−スパーチャージGFR−Baf60c、scGFR−Sox9−11R、scGFR−Sox6−11R、scGFR−Sox5−11R、scGFR−c−Myc−11R、scGFR−Klf4−11R、scGFR−Mef2C−11R、scGFR−Trps1−11R、scGFR−Gli3−11R、scGFR−Runx2−11R、scGFR−Dlx5−11R、scGFR−Dlx6−11R、scGFR−GATA−6−11RおよびscGFR−Baf60c−11R。ある特定の態様では、“His6”はエフェクタードメインのN末端に共有結合している。ある特定の態様では、転写因子のN末端は、第1のリンカー(例えば、GGSGGSGGSGGSH)を介してscGFPに連結され、転写因子のC末端は、第2のリンカーを用いてまたは用いずに11Rに共有結合により連結される。scGFP融合転写物質の概略図を
図1(c)に示し、例示的なscGFP融合転写物質(即ち、scGFP−Sox9−11R)のアミノ酸配列を
図22(n)に提示し、図中、転写因子Sox9の配列を下線で示す。下線のSox9配列を別の転写因子配列に置き換えることにより、転写因子、例えば、表1に収載する転写因子のscGFP融合転写物質の配列を得ることができる。形質導入可能物質の例示的配列を表3に示す。
【0042】
ある特定の態様では、形質導入可能物質は、1つまたはそれ以上のアジュバント、例えば、小分子エピジェネティック剤と組み合わせることができる。好適なエピジェネティック剤としては、限定されないが、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤およびDNAメチル化阻害剤が挙げられる。好適なアジュバントの例としては、限定されないが、トリコスタチンA(ヒストンデアセチラーゼ阻害剤でありかつDNAメチル化阻害剤である)、バルプロ酸(ヒストンデアセチラーゼ阻害剤でありかつDNAメチル化阻害剤である)、アザ−2’−デオキシシチジン(DNAメチル化阻害剤である)、およびスベロイルアニリドヒドロキサム酸(ヒストンデアセチラーゼ阻害剤である)が挙げられる。
【0043】
本発明の別の観点は、生体サンプルおよび少なくとも1つの形質導入可能物質を含む組成物に関し、ここで、形質導入可能物質は生体サンプルに形質導入されている。例えば、組成物は、Foxp3、Foxo1もしくはFoxo3、またはそれらを任意に組み合わせたもの(例えば、形質導入可能物質はFoxp3、Foxp3−11R、His6−Foxp3−11R、Foxo1、Foxo1−11R、His6−Foxo1−11R、Foxo3、Foxo3−11RまたはHis6−Foxo3−11Rである)およびT細胞を含む形質導入可能物質を含み、ここで、形質導入可能物質はT細胞に形質導入されている;組成物はpiPS細胞、およびOct4、Klf4、Sox2およびcMyc、およびそれらを任意に組み合わせたもの(例えば、形質導入可能物質は、Oct4、Klf4、Sox2、cMyc、Oct4−11R、Klf4−11R、Sox2−11R、cMyc−11R、His6−Oct4−11R、His6−Klf4−11R、His6−Sox2−11RまたはHis6−cMyc−11Rである)から成る群から選択されるポリペプチドを含む1つまたはそれ以上の形質導入可能物質を含む;組成物は、肝臓または膵臓の外分泌細胞、およびNgn3、PDX1、MafA、NeuroD、およびそれらを任意に組み合わせたもの(例えば形質導入可能物質は、Ngn3、PDX1、MafA、NeuroD、Ngn3−11R、PDX1−11R、MafA−11R、NeuroD−11R、His6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11RまたはHis6−MafA−11R、His6−NeuroD−11Rである)から成る群から選択されるポリペプチドを含む1つまたはそれ以上の形質導入可能物質を含み、ここで、形質導入可能物質は肝臓または膵臓の外分泌細胞に形質導入されている;ならびに、組成物は、出発または基質細胞(例えば、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、間葉系幹細胞(MSC)、線維芽細胞、造血幹細胞、内皮幹細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞および内皮細胞)と、Sox9、Sox6、Sox5、c−Myc、Klf4、Mef2C、Trps1、Gli3、Runx2、Dlx5、Dlx6、GATA−6およびBaf60cならびにこれらの任意の組み合わせから成る群から選択されるポリペプチドを含む1つまたはそれ以上の形質導入可能物質(例えば、形質導入可能物質は、Sox9−11R、Sox6−11R、Sox5−11R、c−Myc−11R、Klf4−11R、Mef2C−11R、Trps1−11R、Gli3−11R、Runx2−11R、Dlx5−11R、Dlx6−11R、GATA−6−11R、Baf60c−11R、His6−Sox9−11R、His6−Sox6−11R、His6−Sox5−11R、His6−c−Myc−11R、His6−Klf4−11R、His6−Mef2C−11R、His6−Trps1−11R、His6−Gli3−11R、His6−Runx2−11R、His6−Dlx5−11R、His6−Dlx6−11R、His6−GATA−6−11R、His6−Baf60c−11R、HA2−スーパーチャージGFP−Sox9、HA2−スーパーチャージGFP−Sox6、HA2−スーパーチャージGFP−Sox5、HA2−スーパーチャージGFP−c−Myc、HA2−スーパーチャージGFP−Klf4、HA2−スーパーチャージGFP−Mef2C、HA2−スーパーチャージGFP−Trps1、HA2−スーパーチャージGFP−Gli3、HA2−スーパーチャージGFP−Runx2、HA2−スーパーチャージGFP−Dlx5、HA2−スーパーチャージGFP−Dlx6、HA2−スーパーチャージGFP−GATA−6、HA2−スーパーチャージGFP−Baf60c、scGFP−Sox9−11R、scGFP−Sox6−11R、scGFP−Sox5−11R、scGFP−c−Myc−11R、scGFP−Klf4−11R、scGFP−Mef2C−11R、scGFP−Trps1−11R、scGFP−Gli3−11R、scGFP−Runx2−11R、scGFP−Dlx5−11R、scGFP−Dlx6−11R、scGFP−GATA−6−11R、scGFP−Baf60c−11Rまたはこれらの任意の組み合わせ)とを包含し、ここで、形質導入可能物質は、出発細胞に形質導入されている。
【0044】
本開示の別の観点は、本開示の形質導入可能物質を含む組成物に生体サンプルを暴露することにより、生体サンプルを再プログラミングする方法に関する。ある特定の態様では、好ましくは該方法は、選択的形質導入可能物質を含有する組成物に生体サンプルを暴露することによって、他の生体サンプルではなく、生物体内の特定の微小環境(例えば癌または腫瘍周辺の微小環境)内、またはその周辺の特定のタイプの生体サンプル(例えば癌または腫瘍細胞)(単数または複数)を再プログラミングする。
【0045】
ある態様では、生体サンプルには生物体由来の細胞、細胞塊、組織、器官、生体が含まれる。生体サンプルは正常な健常サンプル、または異常を有する疾病サンプル(例えば癌または腫瘍)であってもよい。
【0046】
生物体には、例えば微生物(例えば細菌)、真菌、植物、および動物(例えばヒト)が含まれる。
【0047】
動物(例えばヒト)由来の器官には例えば以下がある:循環器(例えば心臓、血液、および血管)、消化器(例えば唾液腺、食道、胃、肝臓、胆嚢、膵臓、腸管、直腸、および肛門)、内分泌器官(例えば内分泌腺、例えば視床下部、下垂体、松果体、甲状腺、副甲状腺、および副腎)、外皮系(例えば皮膚、毛髪、および爪)、リンパ器官(例えばリンパ節、リンパ管、扁桃腺、咽頭扁桃腺、胸腺、および脾臓)、筋肉器官(例えば筋肉)、神経器官(例えば脳、脊髄、末梢神経、および神経)、生殖器官(例えば卵巣、卵管、子宮、膣、乳腺、精巣、精管、精嚢、前立腺、および陰茎)、呼吸器官(例えば咽頭、喉頭、気管、気管支、肺、および横隔膜)、骨格器官(例えば骨、軟骨、靱帯、および腱)、泌尿器系(例えば腎臓、尿管、膀胱、および尿道)。器官は正常または健常であるか、あるいは異常または非健常(例えば癌性)であってもよい。
【0048】
植物体由来の器官には、例えば根、茎、葉、花、種子、および果実がある。
【0049】
生体サンプル(例えば動物)由来の組織には結合組織、筋肉組織、神経組織、および上皮組織がある。組織は正常または健常であるか、あるいは異常または非健常(例えば癌性)であってもよい。生体サンプル(例えば植物)由来の組織には表皮、維管束組織、および基本組織がある。
【0050】
細胞は原核細胞または真核細胞であってもよい。原核細胞には、例えば細菌がある。真核細胞には、例えば真菌、植物細胞、および動物細胞がある。動物細胞(例えば哺乳動物細胞またはヒト細胞)のタイプには、例えば以下がある:循環/免疫系または器官の細胞(例えばB細胞、T細胞(細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、制御性T細胞、ヘルパーT細胞)、ナチュラルキラー細胞、顆粒球(例えば好塩基性顆粒球、好酸性顆粒球、好中性顆粒球、および過分葉好中球)、単球またはマクロファージ、赤血球(例えば網赤血球)、マスト細胞、血小板または巨核球、および樹状細胞);内分泌系または器官の細胞(例えば甲状腺細胞(例えば甲状腺上皮細胞、傍濾胞細胞)、上皮小体細胞(例えば上皮小体主細胞、好酸性細胞)、副腎細胞(例えばクロム親和性細胞)、および松果腺細胞(例えば松果体細胞));神経系または器官の細胞(例えばグリア芽細胞、(例えば星状膠細胞および乏突起膠細胞)、小膠細胞、巨大神経分泌細胞、星状細胞、ベッチェル細胞(boettcher cell)、および下垂体細胞(例えばゴナドトロピン産生細胞、副腎皮質刺激因子、甲状腺刺激ホルモン産生細胞、成長ホルモン産生細胞、および乳腺刺激ホルモン分泌細胞));呼吸器系または器官の細胞(例えば肺細胞(I型肺細胞およびII型肺細胞)、クララ細胞、杯細胞、肺胞マクロファージ);循環系または器官の細胞(例えば心筋細胞および周皮細胞);消化系または器官の細胞(例えば胃主細胞、壁細胞、杯細胞、パネート細胞、G細胞、D細胞、ECL細胞、I細胞、K細胞、S細胞、腸管内分泌細胞、 腸クロム親和性細胞、APUD細胞、肝細胞(例えば肝実質細胞およびクッパー細胞));外皮系または器官の細胞(例えば骨細胞(例えば骨芽細胞、骨細胞、および破骨細胞)、歯細胞(例えばセメント芽細胞およびエナメル芽細胞)、軟骨細胞(例えば軟骨芽細胞および軟骨細胞)、皮膚/毛細胞(例えば基質細胞、ケラチノサイト、およびメラニン形成細胞(母斑細胞))、筋肉細胞(例えば筋細胞)、含脂肪細胞、線維芽細胞、および腱細胞)、泌尿系または器官の細胞(例えば有足細胞、傍糸球体細胞、糸球体内メサンギウム細胞、糸球体外メサンギウム細胞、近位尿細管刷子縁細胞、および緻密斑細胞)、および生殖系または器官の細胞(例えば精子、セルトリ細胞、ライディッヒ細胞、卵子、卵母細胞)。
【0051】
更に、細胞には哺乳動物幹細胞(胚性幹細胞、胎児幹細胞、人工多能性幹細胞、および成人幹細胞)が含まれる。幹細胞は、細胞周期の間も未分化の状態を保持し、特定のタイプの細胞に分化する能力を有する細胞である。幹細胞は全能性(omnipotent)幹細胞、多能性(pluripotent)幹細胞、複能性(multipotent)幹細胞、少能性(oligopotent)幹細胞、および単能性(unipotent)幹細胞であってもよく(Hans R.Scholer(2007)“The Potential of Stem Cells:An Inventory”in Nikolaus Knoepffler,Dagmar Schipanski、and Stefan Lorenz Sorgner.Humanbiotechnology as Social Challenge.Ashgate Publishing社、28頁参照)、これらはいずれも体細胞から誘導してもよい。幹細胞には癌幹細胞が含まれる。
【0052】
ある特定の態様では、細胞は、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、MSC、線維芽細胞、造血幹細胞、内皮幹細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞または内皮細胞である。
【0053】
別の態様では、本明細書で使用する「生体サンプルの再プログラミング」は、生体サンプル(例えば細胞)の生体活性の調節、改変、もしくは変更、または生体サンプルの状態もしくは状況の調節、改変、もしくは変更と同義である、またはそれを指す。例えば、生体サンプル(例えば細胞)を形質導入可能物質に暴露することにより、細胞の生体活性(例えば細胞増殖、細胞分化、細胞代謝、細胞周期、細胞シグナル伝達、DNA複製、転写、RNAスプライシング、タンパク質合成、翻訳後修飾)が調節または改変されて、以下が生ずる:細胞増殖、(例えば前駆細胞から最終分化した細胞への)分化、(例えば最終分化した細胞から多能性幹細胞への)脱分化、(例えばあるタイプの最終分化した細胞から別のタイプの最終分化した細胞への)分化転換、(例えば最終分化した細胞から前駆細胞への)逆分化、(例えばあるタイプの前駆細胞から別のタイプの最終分化した細胞(天然の条件下では通常別のタイプの前駆細胞から誘導されるもの)への)決定転換、アポトーシス(例えば細胞または癌細胞の細胞死)、形態形成、および細胞運命の変更。別の例では、生体サンプルの状態は以下のように改変または変更されうる:異常または疾病状態から正常または健常状態へ(例えば癌細胞から非癌細胞へ)、あるタイプの細胞から別のタイプの細胞へ(例えば未分化幹細胞から分化した幹細胞または特殊化した細胞へ)、分化または特殊化した細胞から未分化細胞または幹細胞(例えば全能性幹細胞、多能性幹細胞、複能性幹細胞、少能性幹細胞、および単能性幹細胞)へ(例えば線維芽細胞から人工多能性幹細胞(iPSC)へ)、体細胞から幹細胞または人工幹細胞へ、ある状態の幹細胞から別の状態の幹細胞へ(例えば全能性幹細胞から多能性幹細胞へ)、あるタイプの分化した細胞から別のタイプの分化した細胞へ(例えばT細胞から制御性T細胞へ、膵外分泌細胞からインスリン産生β細胞へ)、あるいは出発細胞(例えば、ESC、iPSC、MSC、線維芽細胞、造血幹細胞、内皮幹細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞または内皮細胞)から軟骨形成細胞へ。
【0054】
別の態様では、生体サンプルを形質導入可能物質に暴露し、再プログラミングさせる。生体サンプルはインビトロ、インビボ、またはエキソビボで暴露してもよい。例えば、生体サンプルのインビトロ暴露は、生存する生物体の外部環境中で(例えば細胞培養系または試験管内で)サンプルを形質導入可能物質と接触させることによって行う。生体サンプルのインビボ暴露は、サンプルを含有する生物体と物質を接触させるか、または(例えば投与によって)物質を生物内に導入することによって行う。形質導入可能物質は任意の既知の投与経路、例えば非経口(例えば皮下、腹腔内、静脈内(静脈内輸液、筋肉内注射、または皮内注射など))または非経口以外の(例えば経口、経鼻、眼内、舌下、直腸、または局所)経路で投与してもよい。生体サンプルのエキソビボ暴露は、生体サンプル(例えば細胞、組織、または器官)を生物体の体外に取り出し、形質導入可能物質と接触させ、同じ、または別の生物体に再び配することによって行う。エキソビボ暴露の例には、生体サンプルを生物体から取り出すこと、生体サンプルを形質導入可能物質に暴露すること、形質導入可能物質が形質導入された生体サンプルを生物体に再移植することが含まれる。
【0055】
ある特定の態様では、OG2−MEF細胞をタンパク質Oct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、およびcMyc−11Rを含有する組成物に暴露し、人工多能性幹細胞(iPSC)に再プログラミングさせる。
【0056】
ある特定の態様では、T細胞をFoxp3−11R、His6−Foxp3−11R、Foxo1−11R、His6−Foxo1−11R、Foxo3−11R、Foxo3−11Rを含有する組成物に暴露し、制御性T細胞(Treg細胞)に再プログラミングさせる。
【0057】
ある特定の態様では、肝および/または膵外分泌細胞を、Ngn3−11R、PDX1−11R、MafA−11R、NeuroD−11R、His6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、His6−MafA−11R、およびHis6−NeuroD−11Rから成る群から選択される1つまたはそれ以上のタンパク質を含有する組成物に暴露し、インスリン産生細胞(例えばβ細胞)に再プログラミングさせる。ある特定の態様では、組成物は1つまたはそれ以上のアジュバント(例えば膵島増殖因子(例えばβセルリン))を更に含む。ある特定の態様では、組成物はHis6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rを含有する。ある特定の態様では、組成物はHis6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、His6−MafA−11R、およびβセルリンを含有する。特定の機構に拘束されることを意図するものではないが、それらの再プログラミングが決定転換および/または分化転換によって生ずることも企図される。
【0058】
ある特定の態様では、MSC、ESC、iPSC、線維芽細胞、造血幹細胞、内皮幹細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞または内皮細胞は、Sox9−11R、Sox6−11R、Sox5−11R、c−Myc−11R、Klf4−11R、Mef2C−11R、Trps1−11R、Gli3−11R、Runx2−11R、Dlx5−11R、Dlx6−11R、GATA−6−11R、Baf60c−11R、His6−Sox9−11R、His6−Sox6−11R、His6−Sox5−11R、His6−c−Myc−11R、His6−Klf4−11R、His6−Mef2C−11R、His6−Trps1−11R、His6−Gli3−11R、His6−Runx2−11R、His6−Dlx5−11R、His6−Dlx6−11R、His6−GATA−6−11R、His6−Baf60c−11R、HA2−スーパーチャージGFP−Sox9、HA2−スーパーチャージGFP−Sox6、HA2−スーパーチャージGFP−Sox5、HA2−スーパーチャージGFP−c−Myc、HA2−スーパーチャージGFP−Klf4、HA2−スーパーチャージGFP−Mef2C、HA2−スーパーチャージGFP−Trps1、HA2−スーパーチャージGFP−Gli3、HA2−スーパーチャージGFP−Runx2、HA2−スーパーチャージGFP−Dlx5、HA2−スーパーチャージGFP−Dlx6、HA2−スーパーチャージGFP−GATA−6およびHA2−スーパーチャージGFP−Baf60c、scGFP−Sox9−11R、scGFP−Sox6−11R、scGFP−Sox5−11R、scGFP−c−Myc−11R、scGFP−Klf4−11R、scGFP−Mef2C−11R、scGFP−Trps1−11R、scGFP−Gli3−11R、scGFP−Runx2−11R、scGFP−Dlx5−11R、scGFP−Dlx6−11R、scGFP−GATA−6−11RおよびscGFP−Baf60c−11Rから成る群から選択される1つまたはそれ以上のタンパク質を含む組成物に暴露されて、軟骨形成細胞に再プログラミングされる。ある特定の態様では、組成物は、エピジェネティック剤(例えば、トリコスタチンA、バルプロ酸、アザ−2’−デオキシシチジン、スベロイルアニリドヒドロキサム酸)など、1つまたはそれ以上のアジュバントをさらに含む。
【0059】
本開示の別の観点は、本開示の形質導入可能物質を含む組成物を生物に投与することにより、生物体において軟骨損傷が関与する疾病または症状を治療、予防または低下させる方法に関する。ある特定の態様では、組成物は形質導入可能物質を含有する医薬組成物である。ある特定の態様では、組成物は選択的形質導入可能物質を含有する。疾病または症状の治療、予防、または低減は生物体中の生体サンプル(例えば細胞、組織、または器官)の変化または再プログラミングを伴う。
【0060】
本発明はまた、生物体において軟骨損傷が関与する疾病または症状を治療、予防または軽減するための医薬品の製造における形質導入可能物質の使用を提供する。ある特定の態様では、形質導入可能物質は、選択的形質導入可能物質である。疾病または症状の治療、予防または軽減は、生物中の生体サンプル(例えば、細胞、組織または臓器)の変化または再プログラミングに伴うものである。軟骨損傷が関与する疾病または症状として、関節障害、変形性関節症、軟骨傷害、外傷性断裂または剥離、軟骨無形成症、肋軟骨炎、脊椎円板ヘルニア形成、再発性多発性軟骨炎(relapsing polychonritis)、腫瘍、軟骨腫、軟骨肉腫および多形性腺腫(peomorphic adenoma)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0061】
ある特定の態様では、この方法によって治療できるかまたは医薬品によって治療できる疾病または症状には、限定されるわけではないが以下がある:腫瘍、ガン、代謝障害または症状(例えば1型糖尿病、2型糖尿病、および肥満)、炎症性症状、心臓病、神経変性疾患(例えば貧血、筋萎縮性側索硬化症、脊髄損傷、熱傷、または関節炎)、自己免疫疾患または症状(例えば急性播種性脳脊髄炎(ADEM)、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群(APS)、貧血症(例えば自己免疫性溶血性貧血および悪性貧血)、関節炎、乾癬性関節炎、リウマチ性関節炎、1型糖尿病、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患、水疱性類天疱瘡、セリアック病、シャーガス病、慢性閉塞性肺疾患、クローン病、皮膚筋炎、子宮内膜症、グッドパスチャー症候群、グレーブス病、ギラン・バレー症候群(GBS)、橋本病、化膿性汗腺炎、川崎病、IgA腎症、特発性血小板減少性紫斑病、間質性膀胱炎、エリテマトーデス、混合性結合組織病、モルフェア、多発性硬化症(MS)、重症筋無力症、ナルコレプシー、神経性筋強直症、尋常性天疱瘡、乾癬、多発性筋炎、原発性胆汁性肝硬変、統合失調症、強皮症、シェーグレン症候群、全身硬直症候群、側頭動脈炎(“巨細胞性動脈炎”)、潰瘍性大腸炎、血管炎、白斑、およびウェゲナー肉芽腫症)。
【0062】
例えば、腫瘍を有する生物体に形質導入可能物質または形質導入可能物質から製造される医薬品を投与し、腫瘍細胞のアポトーシスを活性化する、または腫瘍細胞の化学療法、放射線療法、またはガン治療薬に対する感受性を高めてもよいことが企図される。
【0063】
ある特定の態様では、形質導入可能物質または形質導入可能物質から製造される医薬品を生物体に投与して免疫系を亢進または減弱させ、それによって免疫関連疾患または炎症性疾患を治療または予防してもよい。例えば、タンパク質Foxp3−11R、His6−Foxp3−11R、Foxo1−11R、His6−Foxo1−11R、Foxo3−11R、His6−Foxo3−11RがT細胞に形質導入され、プログラミングされてTreg細胞となり、それによって免疫系の過剰反応が抑制され、自己免疫疾患の治療となる。
【0064】
ある特定の態様では、形質導入可能物質または形質導入可能物質から製造された薬物を生物体に投与して、関節障害、変形性関節症、軟骨傷害、軟骨傷害、外傷性断裂もしくは剥離、軟骨無形成症、肋軟骨炎、脊椎円板ヘルニア形成、再発性多発性軟骨炎、腫瘍、軟骨腫、軟骨肉腫または多形性腺腫など、軟骨損傷が関与する症状を治療することができる。
【0065】
例えば、軟骨損傷が関与する症状を治療するため、ポリペプチドまたは係るポリペプチドを含む組成物が、適切な細胞(例えば、ESC、iPSC、MSC、線維芽細胞、造血幹細胞、内皮幹細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞または内皮細胞)に形質導入され、これらを軟骨形成細胞へと再プログラミングするが、このポリペプチドは、Sox9−11R、Sox6−11R、Sox5−11R、c−Myc−11R、Klf4−11R、Mef2C−11R、Trps1−11R、Gli3−11R、Runx2−11R、Dlx5−11R、Dlx6−11R、GATA−6−11R、Baf60c−11R、His6−Sox9−11R、His6−Sox6−11R、His6−Sox5−11R、His6−c−Myc−11R、His6−Klf4−11R、His6−Mef2C−11R、His6−Trps1−11R、His6−Gli3−11R、His6−Runx2−11R、His6−Dlx5−11R、His6−Dlx6−11R、His6−GATA−6−11R、His6−Baf60c−11R、HA2−スーパーチャージGFP−Sox9、HA2−スーパーチャージGFP−Sox6、HA2−スーパーチャージGFP−Sox5、HA2−スーパーチャージGFP−c−Myc、HA2−スーパーチャージGFP−Klf4、HA2−スーパーチャージGFP−Mef2C、HA2−スーパーチャージGFP−Trps1、HA2−スーパーチャージGFP−Gli3、HA2−スーパーチャージGFP−Runx2、HA2−スーパーチャージGFP−Dlx5、HA2−スーパーチャージGFP−Dlx6、HA2−スーパーチャージGFP−GATA−6、HA2−スーパーチャージGFP−Baf60c、scGFP−Sox9−11R、scGFP−Sox6−11R、scGFP−Sox5−11R、scGFP−c−Myc−11R、scGFP−Klf4−11R、scGFP−Mef2C−11R、scGFP−Trps1−11R、scGFP−Gli3−11R、scGFP−Runx2−11R、scGFP−Dlx5−11R、scGFP−Dlx6−11R、scGFP−GATA−6−11R、scGFP−Baf60c−11Rおよびこれらの任意の組み合わせから成る群から選択される。特定の機構に拘束されることを意図するものではないが、そのような再プログラミングは、決定転換および/または分化転換を介するものであることが更に企図される。
【0066】
別の一例のため、出発細胞または基質細胞(例えば、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、MSC、線維芽細胞、造血幹細胞、内皮幹細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞および内皮細胞)は、分化、分化転換、決定転換または逆分化により軟骨形成細胞へと再プログラミングされる。
【0067】
ある特定の態様では、1つまたはそれ以上のアジュバント、例えばエピジェネティック剤(例えば、トリコスタチンA、バルプロ酸、アザ−2’−デオキシシチジン、および/またはスベトイルアニリドヒドロキサム酸)も生物体に投与する。
【0068】
本開示の別の観点は、iPSC、胚性幹細胞もしくは他の種類の幹細胞または前駆細胞または分化した細胞を軟骨形成細胞に再プログラミングする方法に関し、該方法は、関節障害、変形性関節症、軟骨傷害、外傷性断裂もしくは剥離、軟骨無形成症、肋軟骨炎、脊椎円板ヘルニア形成、再発性多発性軟骨炎、腫瘍、軟骨腫、軟骨肉腫または多形性腺腫など、軟骨損傷が関与する疾病または症状のための細胞療法として開発することができる。幹細胞、前駆細胞または分化した細胞は、患者特異的であっても患者非特異的であってもよく、制御された分化または再プログラミングのために形質導入可能物質に暴露される前に修復されて分子欠損が取り除かれても取り除かれなくてもよい。再プログラミングされた細胞は、患者に戻し移植される前に濃縮、精製または操作することができる。ある特定の態様では、再プログラミングされた細胞は、軟骨形成細胞またはそれに由来する細胞である。
【0069】
本開示の別の観点は、iPSC、胚性幹細胞もしくは他の種類の幹細胞または前駆細胞または分化した細胞を軟骨形成細胞に再プログラミングする方法に関し、該方法は、薬物スクリーニング、機序研究、毒性アッセイまたは他の研究の疾病モデルならびに創薬および開発ツールとして用いることができる。例えば、該方法は、iPSC、胚性幹細胞、前駆細胞または分化した細胞を、形質導入可能物質を含む組成物に暴露して、iPSC、胚性幹細胞、前駆細胞または分化した細胞を移植可能な軟骨形成細胞に再プログラミングすること;移植可能な軟骨形成細胞を生体サンプルまたは生物体に移植すること;生体サンプルまたは生物体を疾病モデルとなるよう開発することを含む。別の一例のため、該方法は、形質導入可能物質を用いて患者特異的細胞を軟骨形成細胞に再プログラミングする段階と、患者特異的軟骨形成細胞または軟骨形成細胞由来細胞を用いて疾病モデルを開発する段階とを含む。別の一例のため、薬物スクリーニングまたは毒性モデルを開発する方法は、形質導入可能物質を用いて体細胞、前駆細胞または複能性(multipotent)細胞を軟骨形成細胞に再プログラミングすること、および軟骨形成細胞および/または軟骨形成細胞由来細胞を用いて、異なる化合物の効果および/または毒性をスクリーニングすることを含む。
【0070】
本開示の別の観点は、軟骨損傷が関与する様々な疾病または症状のための細胞療法を開発する方法に関し、該方法は、形質導入可能物質を用いてiPSC、胚性幹細胞、前駆細胞または分化した細胞を移植可能な軟骨形成細胞に再プログラミングする段階;移植可能な軟骨形成細胞を生体サンプルまたは生物体に移植する段階;移植可能な軟骨形成細胞の治療効果を評価する段階を含む。
【0071】
移植可能な細胞は、それを必要とする対象に移植することができ、傷害部位、血餅または肋軟骨下骨髄空間など、適所に収まると、移植された軟骨形成細胞またはそれに由来する細胞は、軟骨組織、好ましくは硝子軟骨組織を再生し、軟骨損傷を修復することができる。
【0072】
例えば、軟骨損傷が関与する症状の患者は、患者の関節軟骨、関節または肋軟骨下骨髄空間の傷害部位への注射により、タンパク質薬、小分子薬または組み合わせにより治療されて、傷害部位、血餅または肋軟骨下骨髄空間において新たな軟骨形成細胞を生じる。新たに生じた軟骨形成細胞は、硝子軟骨組織を再生し、軟骨損傷を修復する。
【0073】
本開示の別の観点は、エフェクタードメインを同定する方法に関し、該方法は、被験エフェクタードメインを公知の形質導入ドメインに共有結合により連結して、被験形質導入可能分子を形成する段階;被験分子を生体サンプルに暴露する段階;および生体サンプルから軟骨形成サンプルへの再プログラミングを測定して、被験エフェクタードメインが生体サンプルに変化を生じさせることができるかを示す段階を含む。また、本開示の別の観点は、形質導入可能ドメインを同定する方法に関し、該方法は以下の段階を含む:既知のエフェクタードメインを被験形質導入ドメインに共有結合させて被験形質導入可能分子を作製すること;被験分子を生体サンプルに暴露させること;被験分子の位置または生体サンプルから軟骨形成サンプルへの再プログラミング効率を測定して、被験形質導入ドメインが生体サンプル内にエフェクタードメインを形質導入できるか否かを明らかにすること。
【実施例】
【0074】
以下の実施例は請求する本明細書をより良く説明するために提供するものであり、いかなる様にも本発明の範囲を制限するものと解釈すべきではない。以下に記載する具体的な組成物、物質、および方法は全て、全部または一部として、本発明の範囲内に含まれる。それらの具体的な組成物、物質、および方法は本発明を制限することを意図するものではなく、単に本発明の範囲内に含まれる具体的な態様の例証である。当業者は発明に関する能力を駆使することなく、また、本発明の範囲から逸脱することなく、同等の組成物、物質、および方法を開発しうる。理解されるように、本明細書に記載する方法に多くの改変を、本発明の範囲内に留まりつつ、施与することができる。出願人は、それらの改変が本発明の範囲内に包含されることを意図する。
【0075】
実施例1:体細胞から人工多能性幹細胞(iPSC)への再プログラミング
1.a 形質導入可能物質、Oct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、およびcMyc−11Rの作製
ポリアルギニン・タンパク質形質導入ドメインを再プログラミング・タンパク質、Oct4、Sox2、Klf4、およびcMycのそれぞれのC末端にSEQ ID NO:55を介して融合させ、融合タンパク質、Oct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、およびcMyc−11Rを作製した(
図1A)。これらのポリアルギニン融合タンパク質をE.coli中で封入体として発現させ、その後可溶化、リフォールディング、および更なる精製を行って、形質導入可能物質、Oct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、およびcMyc−11Rを得た。質量分析およびウェスタンブロッティングによってタンパク質の同一性を確認した(
図1B)。
【0076】
1.b.形質導入可能物質、Oct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、およびcMyc−11Rの細胞侵入性および安定性
形質導入可能物質(Oct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、またはcMyc−11R)を種々の濃度で6−72時間、マウス胎児線維芽(MEF)細胞に添加した。免疫細胞化学により、細胞の形態およびタンパク質の存在を測定した。形質導入可能物質は0.5−8μg/mlの濃度で6時間以内に細胞に入り込み、核に移行することが観察された(
図2)。更に、形質導入されたタンパク質は48時間までの間、細胞内でかなり安定であった(
図3)。
【0077】
1.c.OG2/Oct4−GFPレポーターMEF細胞の再プログラミング
上述のタンパク質形質導入条件を用いてOG2/Oct4−GFPレポーターMEF細胞を再プログラミングした。細胞には4サイクルの処理を行った。各サイクルで、まず線維芽細胞(最初に6ウェルプレートに5x10
4細胞/ウェルの密度で播種した)を形質導入可能物質、Oct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、およびcMyc−11R(mESC培養液(1mMバルプロ酸(VPA。ヒストン脱アセチル化酵素1(HDAC1)の阻害剤)含有または未含有)中、8μg/ml)で一晩処理した後、形質導入可能物質およびVPAを含有しない同培養液に交換し、更に36時間培養してから次の処理サイクルに移行した。形質導入可能物質のタンパク質形質導入の反復が完了した後、処理した細胞を放射線照射したMEF支持細胞上に移し、コロニーが現れるまで(およそ30−35日目)mESC培養液中に保持した(
図4A)。細胞にOct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、およびcMyc−11Rを形質導入し、VPAで処理した場合は、5x10
4細胞当たり3個のGFP+コロニーが得られ、細胞にそれぞれOct4−11R、Sox2−11R、またはKlf4−11Rを形質導入し、VPAで処理した場合は、5x10
4細胞当たり1個のGFP+コロニーが得られた。次いで、これらのGFP+コロニーを慣例的なmESC培養条件下で継代してpiPS細胞を得、更にキャラクタライズを行った。
【0078】
精製したマウスpiPS細胞は20継代以上の間、安定に増殖し、標準的なmES細胞と形態学的に識別不能であり、緻密なドーム型の小型コロニーを形成した(
図4Bおよび4C)。それらは、免疫細胞化学および染色によって試験される典型的な多能性マーカー(ALP(
図4D)、Oct4、Nanog、Sox2、およびSSEA1(
図4E))を発現した。RT−PER分析によって、これらの多能性マーカーおよび更なる多能性遺伝子の内因性遺伝子発現を確認した(
図4F)。単一細胞生存アッセイでも、支持細胞未含有およびN2/B27既知組成条件でpiPS細胞がOct4陽性コロニーとして効率的にコロニーを形成することが確認された。更に、Oct4プロモーターの亜硫酸水素ゲノムシークエンシングにより、piPS細胞ではmES細胞と同様にジメチル化が起こるが、MEFのOct4プロモーターは高メチル化されることが明らかになった(
図4G)。この結果は、これらのpiPS細胞における多能性転写プログラムの再活性化を更に支持している。
【0079】
piPS細胞の発生能を試験するため、胚葉体(EB)を用いる標準的なインビトロ分化または既知組成培地での単層培養による段階的分化、並びにインビボのキメラ形成能アッセイを行った。piPS細胞は懸濁液中で効率的にEBを形成し、3つの一次胚葉で細胞に分化したが、それらには以下がある:原始内胚葉(AFP、Sox17)、前腸内胚葉(FoxA2)、膵臓細胞−内胚葉(PDX1、Pax6)、中胚葉(ブラキュリ)、および、神経細胞(Sox1)およびニューロン(βIII−チューブリン)−外胚葉(
図5および6A)。これらのpiPS細胞は8細胞期胚との凝集後、胚盤胞の内部細胞塊に効率的に導入され、凝集した胚をマウスに移植した後、インビボで生殖系の寄与を受けてキメラを形成することが、7つの胚のうち2つの生殖腺組織でOct4−GFP+細胞が観察されたことから示唆された(
図6B下段)。これらのインビトロおよびインビボでの特性を考え合わせ、精製された形質導入物質、Oct4−11R、Sox2−11R、Klf4−11R、およびcMyc−11RによってMEFを慣例的なmES細胞と形態学的および機能的に類似したpiPS細胞へ再プログラミングすることが可能であることが裏付けられる。
【0080】
実施例2:マウスにおける形質導入可能物質、His6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rによる肝および膵外分泌細胞からインスリン産生β細胞への再プログラミング
ポリアルギニン・タンパク質形質導入ドメインを各再プログラミング・タンパク質(Ngn3、PDX1、およびMafA)のC末端にリンカー(SEQ ID NO:55)を介して融合させ、His6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rを作製した(
図7)。His6(SEQ ID NO:59)はタンパク質精製を容易にするために含有させた。これらのポリアルギニン融合タンパク質を封入体としてE.coliで発現させ、その後可溶化、リフォールディング、および更なる精製を行って、形質導入可能物質、His6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rを作製した。質量分析およびウェスタンブロッティングによってタンパク質の同一性を確認した。
【0081】
6検体のCD−1マウス(Charles River Laboratory)を2群(処理群およびコントロール群)に分けた。形質導入可能物質、His6−Ngn3−11R(1mg/kg)、His6−PDX1−11R(1mg/kg)、His6−MafA−11R(1mg/kg)を処理群(マウス−4、マウス−5、およびマウス−6)の各マウスに腹腔内(IP)注射し、コントロール群(マウス−1、マウス−2、およびマウス−3)の各マウスにはBSA(1mg/kg)を注射した。針を各マウスの腹膜内に穿通させた際、緑褐色または黄色の吸引液は観察されなかった。注射は毎日、7日間反復した。処理群およびコントロール群のいずれのマウスも、全ての注射の完了後3日目に屠殺した。マウス肝臓および膵臓を1X PBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで一晩固定した。その後、肝臓および膵臓組織を標準的なパラフィン包埋プロトコルによって処理した。組織用ミクロトームを用いて通常の方法で厚さ5マイクロの組織切片を調製し、標準的な組織ガラススライド上にマウントした。組織切片の処理の際、組織中のワックスをキシレンで溶解した。組織の切片化、組織染色、および免疫組織化学的染色を慣例的な方法を用いて行った。間接蛍光抗体(IFA)アッセイでは、スライドを0.05%Tween−20(TBST)および3%BSAを用いて室温で1時間ブロッキングし、マウス抗インスリン抗体(Invitrogen)と共に4℃で一晩インキュベートした。スライドをPBS(室温、15分間)で3回洗浄し、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲート・ブタ抗マウス抗体(KPL)と共に室温で2時間インキュベートした。同じ濃度のマウスIgGをアイソタイプ・コントロールとして用いた。抗DAPI抗体を核マーカーとしてスライドに添加した。上記と同様にスライドを洗浄し、水性マウント液(Biomeda、カリフォルニア州フォスターシティ)でマウントした。内皮マーカーを顕微鏡(Olympus BX51、カリフォルニア州サンディエゴ)下で同定し、マージした細胞をMicrosuite Biological Suiteプログラム(Olympus BX51、カリフォルニア州サンディエゴ)で分析した(
図8−11)。結果は、コントロール群(
図8)に比較して処理群では肝臓においてより多くのインスリン産生細胞が見られることを示している(
図9)。コントロール群の膵臓ではインスリン産生細胞塊が観察されたが(
図10)、処理群の膵臓ではより広い範囲でインスリン産生細胞が観察された(
図11)。従って、結果は、形質導入可能物質、His6−Ngn3−11R、His6−PDX1−11R、およびHis6−MafA−11Rでの処理によって肝臓および/または膵臓細胞がインスリン産生細胞に転換されたことを示している。
【0082】
実施例3:T細胞の再プログラミングおよび形質導入可能物質Foxp3を用いるそれらのTreg細胞へのプログラム
ポリアルギニン・タンパク質形質導入ドメインを各再プログラミング・タンパク質Fox3のC末端にリンカー(SEQ ID NO:55)を介して融合させ、His6−Foxp3−11Rを作製した(
図7)。His6(SEQ ID NO:59)はタンパク質精製を容易にするために含有させた。ポリアルギニン融合タンパク質を封入体としてE.coliで発現させ、その後可溶化、リフォールディング、および更なる精製を行って、形質導入可能物質、His6−Foxp3−11Rを得た。ウェスタンブロッティングによってタンパク質の同一性を確認した。
【0083】
100mlの健常ヒト血液をドナーから採取し、Histopaque−1077(Sigma−Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を用い、密度勾配遠心分離によって末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。磁気ビーズ分離(Miltenyi Biotec、カリフォルニア州オーバーン)によってCD14+単球を分離した。簡潔に記載すると、10
8個のPBMCを200μLの抗CD14マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)と共に氷中で30分間インキュベートした。細胞を冷1X PBS(2%FCS含有)で洗浄し、300gで10分間遠心分離した後、1X PBS(2%FCS含有)に再懸濁した。細胞懸濁液を磁気カラムに適用し、1X PBS(2%FCS含有)で3回洗浄して未結合の細胞を溶出除去した。300gで10分間遠心分離し、PBMC/mono−を回収した。
【0084】
PBMC/mono−を6ウェルプレート(Becton Dickinson、メリーランド州ゲイサーズバーグ)で、10%FBS、非必須アミノ酸、2mMグルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、25mM HEPES、200ユニット/mlペニシリン、およびストレプトマイシンを含有する培養液中、37℃、5%CO
2でインキュベートした。1時間培養後、His6−Foxp3−11R(10μg/ml、20μg/ml、または50μg/ml)を細胞に添加した。別のウェルにBSA(100μg/ml)を添加してコントロールとした。2日間培養後、同じ濃度のHis6−Foxp3−11RまたはBSAを添加した。5日間培養後、細胞をPBSで2回洗浄した。細胞を100μLに再懸濁し、ウサギ抗ヒトCD25を添加した(90分間)。細胞を冷1X PBS(2%FBS含有)で3回洗浄した後、PEコンジュゲート・マウス抗ヒトCD4およびFITCコンジュゲート・ヤギ抗ウサギIgGを、氷中60分間、細胞に添加した。PEコンジュゲート・マウスIgGおよびウサギIgGを別の群の細胞と共にインキュベートし、アイソタイプ・コントロールとした。細胞をPBSで洗浄し、Beckman Coulter FC500血球計数器とCytomics CXPソフトウェア(Beckman Coulterカリフォルニア州フラートン)を用いてフローサイトメトリー分析を行った(
図12および13)。結果から、形質導入可能物質、His6−Foxp3−11Rでの処理によってCD4+CD25+T細胞(Treg細胞)が劇的に増加し、増加はタンパク質用量依存的であることが明らかになった。
【0085】
100mlの健常ヒト血液をドナーから採取し、Histopaque−1077(Sigma−Aldrich、ミズーリ州セントルイス)を用い、密度勾配遠心分離によって末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。PBMC/mono−を6ウェルプレート(Becton Dickinson、メリーランド州ゲイサーズバーグ)で、10%FBS、非必須アミノ酸、2mMグルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、25mM HEPES、200ユニット/mlペニシリン、およびストレプトマイシンを含有する培養液中、37℃、5%CO
2でインキュベートした。1時間培養後、Foxp3(10μg/ml、50μg/ml、または100μg/ml)を細胞に添加した。別のウェルにBSA(100μg/ml)を添加してコントロールとした。2日間培養後、同じ濃度のFoxp3またはBSAを添加した。5日間培養後、細胞をPBSで2回洗浄した。細胞を100μLに再懸濁し、ウサギ抗ヒトCD25を添加した(90分間)。細胞を冷1X PBS(2%FBS含有)で3回洗浄した後、PEコンジュゲート・マウス抗ヒトCD4およびFITCコンジュゲート・ヤギ抗ウサギIgGを、氷中60分間、細胞に添加した。PEコンジュゲート・マウスIgGおよびウサギIgGを別の群の細胞と共にインキュベートし、アイソタイプ・コントロールとした。細胞をPBSで洗浄し、Beckman Coulter FC500血球計数器とCytomics CXPソフトウェア(Beckman Coulterカリフォルニア州フラートン)を用いてフローサイトメトリー分析を行った(
図14−17)。結果から、形質導入可能物質、His6−Foxp3−11Rでの処理によってCD4+CD25+T細胞(Treg細胞)が劇的に増加し、増加はタンパク質用量依存的であることが明らかになった。
【0086】
実施例4:スーパーチャージしたSox9による骨髄由来MSCの再プログラミングと、その軟骨形成細胞への再プログラミング
分子工学技術を用いてSox9を極めて大きい正電荷を有する(super positively charged)緑色蛍光タンパク質(scGFP)と融合することにより、生理活性を有するスーパーチャージしたSox9(scSox9、scGFP−Sox9−11Rとも称され、その配列を
図22(n)に示す)を作製した。要約すると、先ず、scSox9をコードするcDNA配列をE.coliにおける高レベルタンパク質発現に最適化し、続いて合成した。次に、この遺伝子をベクターpET−15bにサブクローニングし、続いてこのタンパク質発現プラスミドをBL21(DE3)コンピテント細胞に形質転換した。最後に、融合タンパク質を産生およびリフォールディングさせ、E.coli培養物から精製した。
【0087】
5継代目のヒト皮膚線維芽細胞の細胞株(HHF)およびヒト骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)を、37℃のDMEM培地において単層または細胞凝集塊で、10μg/ml scSox9または10μg/ml scGFP(陰性対照)により培養した。scSox9による1時間のインキュベート後に細胞を洗浄し、蛍光顕微鏡で観察した。HHF細胞およびMSCは両者共に、緑色蛍光の細胞内発現を示し、これらの細胞へのscSox9の進入を示唆した(
図23)。
【0088】
scSox9またはバッファーを添加した、10%FBSおよび低グルコース(1.5g/l)を含有するDMEMにおいてMSCを培養した。scSox9処理MSCの数は、培養72時間後に、バッファー処理MSCと比較して2倍に増加した(
図24)。この結果は、scSox9が、追加的な増殖因子を要求せずに、MSC増殖および分化を誘導できたことを示した。
【0089】
次に、MSCから軟骨細胞への分化を調査した。1%FBSおよび高グルコース(4.5g/l)を含有するDMEMにおいてMSCを培養し、10μg/mlのscSox9を添加した。24時間後に、追加的なscSox9を添加しない、0%FBSおよび高グルコースを含有するDMEMに培養培地を交換した。培養を14日間維持した。早くも48時間目に、scSox9処理MSCは、形態を軟骨細胞様細胞に変化させ始め、培養においてこの形態を21日間維持した。このように形態的に変化した細胞は、陽性トルイジンブルー染色され、この結果は、関節軟骨マトリックスにおけるプロテオグリカンの主要成分であるアグリカンの産生と軟骨細胞の機能を実証した(
図25)。この結果は、scSox9が、MSCの軟骨細胞分化を誘導したことを示した。
【0090】
さらに、scSox9は、コラーゲンII型発現を誘導し、コラーゲンI型およびX型産生を下方調節した(
図26〜27)。軟骨形成のため、ヒト骨髄由来MSCを、10μg/mlのscGFP(
図26AおよびC)またはscSox9(
図26BおよびD)により、単層(
図26AおよびB)または凝集塊(
図26CおよびD)で培養した。14日目に凝集塊を収集し、素早く凍結(snap−frozen)した。クリオスタット切片を、マウス抗ヒトコラーゲン(collage)II型モノクローナル抗体で染色した(免疫ペルオキシダーゼ染色)。
図26に示す通り、scGFPのみで培養したMSCは、凝集塊形成不良を示したが、scSox9で培養したMSCは、コラーゲンII陽性であり、優れた凝集塊形成を示した。
【0091】
バッファーのみまたは10μg/mlのscSox9を添加した、1%FBSおよび高グルコース(4.5g/l)を含有するDMEMによりMSCを培養した。処理後12時間目および48時間目にRNAを抽出し、コラーゲン(Col)I、IIおよびX型mRNA発現のためのTaqManプローブに基づく解析アッセイによりRT−PCRを行った。GAPDHと相対的な発現で表す。
図27に示す通り、scSox9は、コラーゲンII型増加を誘導したが、コラーゲンI型およびX型発現を減少させた。
【0092】
X型コラーゲンは通常、肥大軟骨細胞において発現され、II型コラーゲンは線維軟骨において発現され、一方、優位な(superior)硝子軟骨は、I型コラーゲンを発現する。このデータは、scSox9が、軟骨形成を促進しつつ、同時に軟骨細胞肥大化を抑圧し、骨形成を阻止できることを示す。最も重要なことには、1回のscSox9添加が、軟骨細胞へのMSC分化の誘導に十分であり、軟骨細胞表現型を維持した。
【0093】
これらのインビトロデータは、scSox9が、骨髄由来MSCに進入し、軟骨形成を誘導し、軟骨細胞表現型を維持することができることを実証した。