(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113178
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】金属電解採取槽用の陽極室
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20170403BHJP
【FI】
C25C7/02 302G
C25C7/02 307
【請求項の数】7
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-537621(P2014-537621)
(86)(22)【出願日】2012年10月25日
(65)【公表番号】特表2014-530961(P2014-530961A)
(43)【公表日】2014年11月20日
(86)【国際出願番号】EP2012071172
(87)【国際公開番号】WO2013060786
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年9月25日
(31)【優先権主張番号】MI2011A001938
(32)【優先日】2011年10月26日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【弁理士】
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】ファイタ,ジュゼッペ
【審査官】
内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−148677(JP,A)
【文献】
特開2010−163699(JP,A)
【文献】
特表2010−504423(JP,A)
【文献】
特表2006−515389(JP,A)
【文献】
特開平01−065286(JP,A)
【文献】
特開昭55−058390(JP,A)
【文献】
特開昭51−117904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C1/00−7/08
C25D9/00−9/12
C25D13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム型骨組みであって、
フレーム型フランジによって前記フレーム型骨組みに固定される透過性セパレータを含むエンベロープと、
少なくとも1つの耐食性触媒層がコーティングされた弁金属基材から出発して得られる少なくとも1つの陽極であって、前記エンベロープの内側に挿入される陽極と、
前記陽極の上に配置され、前記セパレータおよび前記骨組みによって区切られるデミスターと
を含むフレーム型骨組みによって画定される、金属電解採取槽用の陽極室。
【請求項2】
前記弁金属基材が、拡張メッシュ、穿孔板、または平坦な板からなる機械構造を有する、請求項1に記載の金属電解採取槽用の陽極室。
【請求項3】
前記弁金属基材が、平行で互いに向き合って配置された1組の拡張メッシュまたは穿孔板からなる機械構造を有する、請求項1に記載の陽極室。
【請求項4】
前記基材の前記弁金属がチタンであり、前記陽極の前記触媒層がイリジウムおよびタンタルの酸化物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の陽極室。
【請求項5】
前記透過性セパレータが、多孔質シート、および炭化水素型陽イオン交換膜から選択される、請求項1に記載の陽極室。
【請求項6】
前記デミスターが、プラスチック材料、または発泡プラスチックフォーム層、または密集して充填された薄いブレードでできている、請求項1に記載の陽極室。
【請求項7】
請求項1に記載の陽極室を少なくとも1つ含む、金属電解採取用の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層を含むコーティングが設けられた金属基材からなる陽極が取り付けられた金属電解採取用の槽の陽極室に関する。本発明の陽極室は、陽極表面上の陽極反応によって発生する酸素気泡を含有するように設計される。
【背景技術】
【0002】
電解採取方法は、一般に、電解槽と複数の陽極および陰極とを有する分割されていない電気化学セル中で行われ、このような方法では、たとえば銅電着などでは、電気化学反応は、一般にステンレス鋼でできている陰極で起こって、陰極自体の上に金属形態の銅が堆積する。一般に鉛でできている陽極では、電気化学反応の結果として気体酸素が生成し、これは気泡の形態で電極表面から離れて、電解質表面に向かって移動する。これらが電解質の自由表面に到達すると、気泡が壊れて酸性ミスト(エアロゾル)が生じ、これは基本的に、電解槽の上の雰囲気中に浮遊する酸性電解質の液体からなる。酸ミストは、周囲環境中で作業する人々の健康に対して有害であること以外に、槽の部屋のすべての金属部品に対して腐食性で危険性があり、存在する装置が損傷することがある。
【0003】
金属電着槽周囲の環境に放出される酸ミストの濃度を制御するためのいくつかの化学的および物理的技術が周知であって使用されており、そのようなものとしては、界面活性剤の使用、およびたとえば、電解質表面上に浮遊するビーズの層を使用することで、曲がりくねった通路に沿って気泡が通り、そこで酸ミストの分離が起こる方法などの機械的方法が挙げられる。
【0004】
最近では、時間の経過とともに有害物質を放出する鉛陽極の代わりに、表面に触媒を有するチタンまたは他の弁金属の基材上に得られる非消耗陽極を使用する試みが行われている。より良いエネルギー効率が保証されること以外に、この種類の陽極は、耐食性がより高く、プロセス中に生成する鉛不純物の問題も回避される。
【0005】
にもかかわらず、後者の種類の陽極上での酸素発生において、はるかに小さい大きさの気泡(マイクロバブル)の形態で酸素が発生し、それによって鉛陽極よりも多くの酸ミストが放出されることが確認された。したがって、酸ミストを制御するための上記方法では、同じ効果が得られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、表面触媒層を含む弁金属陽極を使用する電着方法において酸ミストを減少または除去するのに好適な新規システムを提供する必要性が認められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の種々の態様は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0008】
一態様においては、本発明は、少なくとも1つの耐食性触媒層がコーティングされた弁金属基材から出発して得られる1つの陽極を含むフレーム型骨組みによって画定される金属電解採取槽の陽極室であって、前記陽極は、透過性セパレータからなるエンベロープの内側に挿入され、前記透過性セパレータは、これもフレーム型であるフランジによって前記フレーム型骨組みに固定され、デミスターが、陽極の上に配置され、前記透過性セパレータおよび前記骨組みによって区切られる、陽極室に関する。このような種類の構成は、マイクロバブルを密閉空間中に閉じ込めて維持するという利点を有する。透過性セパレータを固定するためのフレーム型骨組みは、プラスチック材料でできていてよく、たとえば末端で固定された4つの真っ直ぐなセグメントで構成されてよい。透過性セパレータをフレームに固定するためのフランジ要素もプラスチック材料でできていてよく、たとえばボルトによって固定することができる。
【0009】
本明細書において使用される場合、陽極室という用語は、任意選択で既存の鉛陽極の代わりに使用するために、電着槽中に存在する各陽極に使用される構造を意味する。一実施形態においては、陽極室は、拡張メッシュ、穿孔シート、または平坦シートからなる機械構造を有する陽極を含む。
【0010】
あるいは、陽極室は、平行で互いに向き合って配列された1組の拡張メッシュまたは穿孔シートからなる機械構造を有する陽極を含む。2つの平行で向き合う要素にさらに分割された陽極が得られる後者の解決法によって、抵抗低下が最小限になり電流分布が均質化されるという利点を有することができる。
【0011】
一実施形態においては、本発明による陽極室は、1重または2重の機械構造を有する陽極を含み、基材の弁金属はチタンであり、基材上に取り付けられる少なくとも1つの触媒層は、イリジウムおよびタンタルの酸化物を含む。
【0012】
さらなる一実施形態においては、陽極室は、透過性セパレータを含み、これは、多孔質シート、またはたとえば炭化水素型の陽イオン交換膜からなることができる。多孔質セパレータが多孔質シートである場合、気相と接触するシートの部分は、起こりうる環境への酸素の漏れを防止するために、不透過性層を場合により設けてもよい。
【0013】
一実施形態においては、デミスターは、プラスチック材料、または発泡プラスチックフォームの層、または密集して充填された薄いブレードでできている。デミスターは、液相から分離した酸素によって引き上げられる酸性電解質のミストを引き留めることが目的である。デミスターを通過した後、酸素は、大気中に排出されるか、または好ましくは、あり得る残留酸ミストをさらに減少させて、外部環境に放出されるのをできる限り防止するために、アスピレーターに接続されたマニホルドに送られる。
【0014】
別の一態様においては、本発明は、前述の少なくとも1つの陽極室を含む金属電解採取用の電気化学セルに関する。
【0015】
提案する構造は、新しい建設の、または既存の鉛電極の代替としての、電気化学的方法による、特に銅およびニッケルの抽出のための金属抽出プラントへの設置に好適である。
【0016】
本発明を例示する一部の実施について、添付の図面を参照しながらこれより説明するが、図面は、本発明の前記の特定の実施とは相対的に異なる相互の配列のみの説明を目的としており、特に、図面は必ずしも縮尺通りには描かれていない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】内部に配列された2つの集電棒を有する1組の拡張メッシュによって形成された陽極を含む陽極室の可能な一実施形態の正面図および対応する側面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、プラスチックの骨組み2、多孔質セパレータ4が固定される固定用フランジ3、互いに向かい合う1組の平行の拡張メッシュによって形成された陽極5、外部環境への酸素の漏れを防止するためのライニング6、ガスケット7、デミスター8、集電棒9、および酸素出口ノズル1によって画定される陽極室の一実施形態の正面図および対応する側面図を示している。
【0019】
本発明者らによって得られた最も顕著な結果の一部を以下の実施例に示すが、これらの実施例は本発明の範囲の限定を意図したものではない。
【実施例】
【0020】
図1に示されるような陽極室を実験室用実験槽中に組み立てた。この槽は、高さ100cmおよび幅70cmの2つのステンレス鋼陰極と、9g/m
2の全体使用量および元素を基準として35:65のモル比Ta:Irを有する酸化タンタルおよび酸化イリジウム系触媒層を有するチタンでできた1組の70×70cmの平行で互いに向かい合う拡張メッシュからなる基材から出発して得られた陽極が間に配置された
図1による陽極室とを含んだ。陽極室は、ガス不浸透性ネオプレンの薄層が上部に取り付けられた、シリカ粉末で親水性にされた多孔質ポリプロピレンの2枚のシートと、平均直径100μmの細孔を有するオープンセル発泡ポリウレタン体からなるデミスターとをさらに含んだ。700A/m
2の一定電流密度で銅の電解採取を5時間行った。電解質は60g/lの硫酸銅および100g/lの硫酸を含有した。45分の時間にわたって周囲全体で層の液面から約40cmの高さで、酸性エアロゾルの特性決定を行った。空気1m
3当たり0.3mgのエアロゾルの平均濃度が検出された。
【0021】
比較例
高さ100cmおよび幅70cmの2つのステンレス鋼陰極と、9g/m
2の全体使用量および元素を基準として35:65のモル比Ta:Irを有する酸化タンタルおよび酸化イリジウム系触媒層を有するチタンでできた1組の70×70cmの平行で互いに向かい合う拡張メッシュからなる基材から出発して得られ間に配置された陽極とを含む槽を組み立てた。700A/m
2の一定電流密度で銅の電解採取を5時間行った。電解質は60g/lの硫酸銅および100g/lの硫酸を含有した。3層の直径19mmの中空ポリプロピレンビーズを電解質の露出面上に配置した。45分の時間にわたって周囲全体で層の液面から約40cmの高さで、酸性エアロゾルの特性決定を行った。空気1m
3当たり1.3mgのエアロゾルの平均濃度が検出された。
【0022】
以上の説明は、本発明の限定を意図したものではなく、本発明は、本発明の範囲から逸脱しない種々の実施形態により使用することができ、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ規定される。
【0023】
本出願の説明および特許請求の範囲の全体にわたって、用語「含む」(comprise)、ならびに「含むこと」(comprising)および「含む」(comprises)などのその変化形は、他の要素、成分、または追加のプロセスステップの存在の排除を意図したものではない。
【0024】
文献、行為、材料、装置、物品などの議論は、本発明の背景を提供する目的でのみ本明細書に含まれる。これらの事柄のいずれかまたはすべてが、従来技術の基礎を形成した、または本出願の各請求項の優先日以前に本発明の関連分野の共通の一般知識であったと、示唆するものでも意味するものでもない。