特許第6113295号(P6113295)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113295
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】リン含有難燃材
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20170403BHJP
   C08K 5/51 20060101ALI20170403BHJP
   C08K 13/02 20060101ALI20170403BHJP
   C08K 3/00 20060101ALI20170403BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20170403BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20170403BHJP
   C09K 21/12 20060101ALN20170403BHJP
   C07F 9/38 20060101ALN20170403BHJP
   C07F 9/40 20060101ALN20170403BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K5/51
   C08K13/02
   C08K3/00
   C08K5/00
   C08J3/20 ZCEQ
   C08J3/20CER
   C08J3/20CEZ
   !C09K21/12
   !C07F9/38 Z
   !C07F9/40 Z
【請求項の数】21
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-539971(P2015-539971)
(86)(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公表番号】特表2016-500746(P2016-500746A)
(43)【公表日】2016年1月14日
(86)【国際出願番号】US2014047754
(87)【国際公開番号】WO2015013370
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2015年4月22日
(31)【優先権主張番号】14/337,500
(32)【優先日】2014年7月22日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/857,741
(32)【優先日】2013年7月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508201282
【氏名又は名称】ケムチュア コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ストックデール、ザッカリー、ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ハンソン、マーク、ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】ティンバーレイク、ラリー、ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ナレイヤン、サブラマニアム
(72)【発明者】
【氏名】フィールディング、ウィリアム、アール.
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/131678(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/097894(WO,A1)
【文献】 特開平02−293383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 5/51− 5/5397
C08K 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性ポリマー組成物であって、
a)熱硬化性または熱可塑性ポリマーであって、1つもしくは複数の、ポリオレフィンホモポリマー、ポリオレフィンコポリマー、ゴム、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、スチレン系ポリマー、スチレン系コポリマー、ポリカーボネート、アクリル系ポリマー、ポリアミド、ポリアセタール、エポキシ樹脂、生物分解性ポリマーまたはそれらのブレンドを、又は1つもしくは複数の、ポリフェニレンエーテル/スチレン系樹脂のブレンド、ABS、ポリ塩化ビニル/ABSのブレンド、メタクリロニトリル含有のABS、α−メチルスチレン含有のABS、ポリエステル/ABS、ポリカーボネート/ABS、衝撃性変性ポリエステルまたは衝撃性変性ポリスチレンを含んでなる熱硬化性または熱可塑性ポリマーと、
b)成分a)との混合前に、200℃以上の温度で、0.01時間〜20時間、1つまたは複数の式(I)
【化1】

(式中、
Rは、C1〜12アルキルであり、前記アルキルは、未置換であ
Mは、金属であり、
yは、1〜4のであり、故にM(+)yは、(+)yがその陽イオンに規定される電荷を表す金属陽イオンであり、pは、1〜4のである)
の化合物の加熱を備えるプロセスにより得られる、式(I)とは異なる化学種の難燃性材料を難燃性ポリマー組成物の総重量を基準として1%〜50重量%と、
を含んでなる難燃性ポリマー組成物。
【請求項2】
式(I)のMが、Li、K、Na、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、B、Al、Si、Ti、SnまたはSbである請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項3】
式(I)のMが、AlまたはCaである請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項4】
Rが、メチル、エチル、プロピル、またはイソプロピルである請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項5】
式(I)のMが、AlまたはCaである請求項に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項6】
RがメチルでありMがAlである、RがエチルでありMがAlである、又はRがエチルでありMがCaである、請求項5に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項7】
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、1つもしくは複数の、ポリオレフィンホモポリマー、ポリオレフィンコポリマー、ゴム、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、スチレン系ポリマー、スチレン系コポリマー、ポリカーボネート、アクリル系ポリマー、ポリアミド、ポリアセタール、エポキシ樹脂、またはそれらのブレンドを含んでなる請求項1、5、または6に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項8】
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、1つもしくは複数の、ポリフェニレンエーテル/スチレン系樹脂のブレンド、ABS、ポリ塩化ビニル/ABSのブレンド、メタクリロニトリル含有のABS、α−メチルスチレン含有のABS、ポリエステル/ABS、ポリカーボネート/ABS、衝撃性変性ポリエステルまたは衝撃性変性ポリスチレンを含んでなる請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項9】
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、1つもしくは複数の、スチレン系ポリマー、ポリオレフィン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、またはポリウレタンを含んでなる請求項7に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項10】
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、さらに補強材を含んでなる請求項7に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項11】
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、ポリアルキレンテレフタレート、HIPS、エポキシ樹脂またはポリアミドを含んでなり、前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、任意選択的に補強材をさらに含んでなる請求項9に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項12】
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ガラス充填ポリブチレンテレフタレート、ガラス充填ポリエチレンテレフタレート、ガラス強化のエポキシ樹脂、熱可塑性ポリアミドまたはガラス充填の熱可塑性ポリアミドを含んでなる請求項11に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項13】
前記熱可塑性ポリアミドまたはガラス充填の熱可塑性ポリアミドが、ナイロン46、ナイロン4T、ナイロン6T/66コポリマー、またはナイロン9Tを含んでなる請求項12に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項14】
(c)1つもしくは複数の追加の難燃材、および/または1つもしくは複数の相乗剤または難燃助剤をさらに含んでなる請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項15】
1つもしくは複数の追加の難燃材を含んでなり、前記1つもしくは複数の追加の難燃材が、ハロゲン化難燃材、アルキルもしくはアリールホスフィンオキシド難燃材、アルキルもしくはアリールリン酸難燃材、アルキルもしくはアリールホスホン酸、アルキルもしくはアリールアルキルホスフィン酸、またはアルキルまたはアリールホスフィン酸の塩を含んでなる請求項14に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項16】
前記1つもしくは複数の追加の難燃材が、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート)を含んでなる請求項15に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項17】
1つもしくは複数の相乗剤または難燃助剤を含んでなり、前記1つもしくは複数の相乗剤または難燃助剤が、メラミン、メラミン誘導体、メラミン縮合生成物、メラミン塩、ホスフィンオキシド、ポリホスフィンオキシド、または金属水酸化物、酸化物、水和酸化物、ボレート、ホスフェート、ホスフィット或いはシリケートを含んでなる請求項14に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項18】
前記1つもしくは複数の相乗剤または難燃助剤が、アルミニウム水素ホスフィット、ベンジルホスフィンオキシド、ポリベンジルホスフィンオキシド、メレムまたはメラミン変性リン酸金属塩を含んでなり、前記金属が、アルミニウム、亜鉛またはマグネシウムを含んでなる請求項17に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項19】
(c)1つもしくは複数の追加の難燃材、相乗剤または難燃助剤を含んでなり、前記1つもしくは複数の追加の難燃材、相乗剤または難燃助剤が、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート)、アルミニウム水素ホスフィット、メチレン−ジフェニルホスフィンオキシド−置換のポリアリールエーテル、キシリレンビス(ジフェニルホスフィンオキシド)、1,2−ビス−(9,10−ジヒドロ−9−オキシ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)エタン、4,4’−ビス(ジフェニルホスフィニルメチル)−1,1’−ビフェニル、メレムまたはジメラミン変性ピロリン酸亜鉛を含んでなる請求項14に記載の難燃性ポリマー組成物。
【請求項20】
ポリマーの耐燃性を向上させる方法であって、200℃以上の温度で、1つまたは複数の式(I)
【化2】

(式中、Rは、C1〜12アルキル、C6〜10アリール、C7〜18アルキルアリール、またはC7〜18アリールアルキルであり、前記アルキル、アリール、アルキルアリール、またはアリールアルキルは、未置換であるか、或いはハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、C1〜4アルキルアミノ、ジ−C1〜4アルキルアミノ、C1〜4アルコキシ、カルボキシまたはC2〜5アルコキシカルボニルで置換されており、
Mは、金属であり、
yは、1〜4のであり、故にM(+)yは、(+)yがその陽イオンに規定された電荷を表す金陽イオンであり、および
pは、1〜4のである)
の化合物を加熱して難燃性材料を調製し、続いて、任意選択的に1つもしくは複数の追加の難燃材、相乗剤または難燃助剤と共に前記難燃性材料をポリマー樹脂に組み込む工程を備える方法。
【請求項21】
請求項20の方法を備える、耐燃性の向上されたポリマーを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国特許法第119(e)条に基づいて、2013年7月24日に出願された米国仮特許出願第61/857,741号明細書、および2014年7月22日に出願された米国特許出願第14/337,500号明細書(その記載内容全体が参照により本明細書に援用される)の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、および他の熱可塑性または熱硬化性ポリマー樹脂などのポリマーは、非常に多くの場合、リン含有化合物、ハロゲン含有化合物またはそれらの混合物をポリマー中に組み込むことにより、難燃性を増大させる。米国特許第3,689,602号明細書は、例えば、プラスチック用の難燃性添加剤としてハロゲン化リン酸エステルを開示する。
【0003】
高温(例えば、200℃、220℃、250℃以上)で加工されるポリマーもあるが、多くの公知の難燃材は、非常に揮発し易く、熱的安定性が十分でなく、加工時に悪影響がある等の理由で、このような条件下に適していない。特定の有機リン系難燃性化合物(例えば、数種のリン酸エステル)はまた、有機リン系難燃性化合物が添加されるポリマーの機械的特性に悪影響を与えることがある可塑化効果を呈しうる。さらに、数種のホスフェートのような化合物は、加水分解に対して比較的に不安定で、それが、様々なリン酸化合物の望ましくない生成を招く結果となる可能性がある。
【0004】
リン含有酸塩は、公知の難燃性添加剤、具体的には、熱可塑性ポリマー用の難燃性添加剤である。米国特許第3,894,986号明細書は、ホスホン酸のアルカリ塩(例えば、エタン−ホスホン酸のモノナトリウム塩、またはアルカン−ホスホン酸のモノ−メチルエステルのナトリウム塩)を含有する難燃性熱可塑性ポリエステルを開示する。米国特許第4,972,011号明細書は、アルキルホスホン酸のアルミニウム塩またはアルカン−ホスホン酸のモノ−アルキルエステルのアルミニウム塩、つまり、式(Ia)
【化1】

(式中、Rは、例えば、メチル、エチル、プロピルまたはイソプロピル等であり、未置換または1個もしくは複数のハロゲンまたはヒドロキシ基で置換されており、R’は、水素、メチル、エチル、プロピル、またはイソプロピルである)の化合物の塩を開示する。
【0005】
独国特許第3833977号明細書は、ジメチルメチルホスホン酸と金属酸化物もしくは金属水酸化物との水中での高圧および高温(120〜200℃)での反応により調製される式(Ia)の化合物の金属塩を開示し、オートクレーブ内において昇圧下、190℃までの温度で、水溶液中で行われる反応が、例示されている。アミン(例えば、エチレンジアミンおよびメラミン等)を有するこれらの塩のアダクト、および熱可塑性物質中の難燃材としてのそのアダクトの使用も開示する。
【0006】
ホスフィン酸の塩、つまり、式(II)
【化2】

(式中、RおよびRは、アルキルまたは炭素系芳香族である)の化合物は、熱可塑性ポリマー用の公知の難燃性添加剤である。
【0007】
Mが、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Li、Na、Kまたはプロトン化された窒素塩基から選択される塩が、知られている。例えば、米国特許第5,780,534号明細書および米国特許第6,013,707号明細書は、式(II)のホスフィン酸カルシウムおよびホスフィン酸アルミニウムが、ポリエステルにおいて特に効果的であることを開示し、例えば、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、n−プロピルメチルホスフィン酸、n−プロピルエチルホスフィン酸、ジ−n−プロピルホスフィン酸、ジイソプロピルホスフィン酸またはジフェニルホスフィン酸のカルシウム塩およびアルミニウム塩が挙げられる。
【0008】
多くの難燃系に共通することだが、他の難燃剤、相乗剤および助剤の存在により、リン含有酸の誘導体の性能を向上させることが可能である。米国特許第6,472,448号明細書は、オキサルキル化(oxalkylated)されたアルキルホスホン酸およびポリリン酸アンモニウムの組み合わせが、難燃材として存在する難燃性硬質ポリウレタンフォームを開示する。
【0009】
米国特許第6,365,071号明細書は、熱可塑性ポリマー用の相乗難燃材の組み合わせ、例えば、エンジニアリングプラスチック、特にポリエステル用の、A)上の式(II)のホスフィン酸塩(例えば、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、メチルエチルホスフィン酸アルミニウム、およびメチルプロピルホスフィン酸アルミニウム)と、B)アラントインのような窒素化合物、つまり、(2,5−ジオキソ−4−イミダゾリジニル)尿素、ベンゾグアナミン、グリコールウリル、つまり、テトラヒドロイミダゾ[4,5−d]イミダゾール−2,5−ジオン、シアヌル酸尿素、シアヌル酸メラミンおよびリン酸メラミンと、を含んでなるエンジニアリングプラスチックを開示する。
【0010】
米国特許第6,255,371号明細書は、A)上の式(II)のホスフィネート、例えば、Mが、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムおよび/または亜鉛であるジエチルホスフィネートと、B)メラミンの縮合もしくは反応生成物、例えば、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラムおよびポリリン酸メレムとを含んでなる難燃材の組み合わせを開示する。
【0011】
米国特許第6,547,992号明細書は、ホスフィネートおよび少量の窒素無含有の無機および/またはミネラル化合物を含んでなる、熱可塑性ポリマー用の難燃材の組み合わせを開示する。国際公開第2012/045414号パンフレットは、A)Mが、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Zn、Fe、Zr、Ce、Bi、Li、Na、Kまたはプロトン化された窒素塩基から選択される上の式(II)ホスフィン酸塩と、B)亜リン酸の金属塩と、他の任意選択の成分とを含んでなる難燃性組成物を開示する。
【0012】
例えば、上の米国特許第6,365,071号明細書および米国特許第6,255,371号明細書に特記されるホスフィネートは、熱的に安定で、加工中にポリマーを分解せず、プラスチック組成物の調製プロセスにも影響を与えないと言われている。ホスフィネートは、熱可塑性ポリマーを調製および加工する通例の条件下において、揮発しない。しかしながら、これらの材料が、全てのポリマー系の使用に必ずしも適しているわけではなく、加工での問題を生じることもあり、特定のポリマーに必要とされる難燃性効果を欠くこともある。低濃度の添加剤でより大きな有効性を有し、非常に望ましい物理的特性を有する難燃性ポリマー組成物を調製するのに用いるために改善した加工性を有する難燃材に対する必要性が依然として存在する。
【0013】
ホスホン酸塩、つまり、式(Ia)に基づいた化合物の塩、金属塩もまた、熱的に安定であると報告されているが、これは、言うまでもなく、相対的な表現である。米国特許出願公開第2007/0029532号明細書に開示されるように、このようなホスホン酸塩の分解が、ポリエステルおよびポリアミドの加工における温度で、プロセスにおいてポリマーを傷つけることはよく知られている。
【0014】
米国特許第5,053,148号明細書は、例えば、電気絶縁性および/または断熱性材料として有用である、ホスホン酸金属塩またはホスホン酸金属塩の前駆体を200℃超の温度で加熱することにより得られる耐熱性フォームを開示する。同様に、この反応を用いて多孔質の他の基材を膨張させるまたは塗布することも開示する。このような基材として、例えば、熱可塑性ポリマーまたはプラスチック(例えば、芳香族のポリエステル、ポリエーテル、ポリスルフィド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリシロキサンまたはポリホスファゼン等)が挙げられ、そのような基材をホスホン酸金属塩および/またはそれらの前駆体を有する混合物として、発泡操作中に導入することができる。
【0015】
米国特許第5,053,148号明細書は、「発泡プロセス」に従ってホスホン酸金属塩とポリアミドの混合物を加熱することにより、多孔質ポリアミドが、生成されうると示唆しているようだが、米国特許第5,053,148号明細書において、このようなホスホン酸塩の高温での分解が、エンジニアリング熱可塑体として「使用できない脆性組成物」をもたらすとする米国特許出願公開第2007/0029532号明細書の開示内に何の検討もしていないし、反論もしていない。多孔質フォームが、ホスホン酸金属塩とポリアミドのようなポリマーを加熱して生成されうることを除いて、米国特許第5,053,148号明細書は、そのような他に例のない材料の特性がどうであるかについて何も記載していない。
【0016】
アルキルホスホン酸金属塩の存在下で特定の熱可塑性樹脂を熱処理することの困難さ、およびそのようにして得られたポリマー組成物の劣等な物理的特性は、実験によって確認されてきた。しかしながら、特定のアルキルホスホン酸金属塩(例えば、アルミニウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩等)を200℃超の温度で加熱することにより得られる生成物が、400℃を超える温度で熱的に安定であり、得られるポリマー組成物の結果としての物理的特性に悪影響を与えることなく、熱可塑性ポリマー樹脂に熱的に組み込むことができることが、今や判明されている。さらに、本発明の難燃材を含んでなるポリマー組成物(例えば熱硬化性または熱可塑性組成物)が、単独であるか、または他の難燃材、相乗剤または助剤との組み合わせのどちらかで、優れた難燃活性を呈することが判明されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
式(I)
【化3】

(式中、yは、1〜7(例えば1〜4)のであり、Mは、の規定の電荷(+)yを有する金属陽イオンであり、pは、1〜7(例えば、1〜4)のであり、Rは、例えばアルキル、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキルである)の化合物は、200℃を超える温度、例えば220℃〜250℃以上、例えば、200℃、220℃または250℃から400℃の温度で加熱する場合に、反応を起こし、400℃以上の温度まで通常熱的に安定で、ポリマー中で難燃性添加剤としての使用に非常に適する種々の化学種を形成する。これらの反応生成物は、改善された難燃特性を有し、式(I)の化合物と比べると、ポリマー樹脂(例えば、ポリアミド等)に、樹脂の物理特性に悪影響を与えることなく、容易に加工される。作用メカニズムは、現時点で定かではないが、しかしながら、本発明の材料をホスフィン酸塩(つまり、式(II)の化合物)と併せて、2種の材料が、異なる相補的活性を有しうる可能性を示唆する手法で、用いる場合に、優れた驚くべき結果が、得られる。
【0018】
本発明は、式(I)の化合物を熱処理することにより得られる生成物を含んでなる難燃材と、難燃材、難燃材と他の難燃材または難燃相乗剤との相乗性ブレンド(例えば、本発明の難燃材とホスフィン酸塩とのブレンド)を調製する方法と、本発明の難燃材または相乗性ブレンドを含んでなるポリマー組成物とを提供する。
【0019】
難燃性ポリマーを調製する方法も提供し、その方法は、上述のように前記化合物を本発明の熱的に安定な難燃性材料に化学変換する条件下で、式(I)の化合物を加熱する工程と、その後このように調製された熱的に安定な難燃材を、例えばポリマーおよび難燃材を昇温で溶融加工することにより、ポリマー樹脂中に組み込む工程とを備える。特定の実施形態は、式(I)の化合物を加熱することにより調製された熱的に安定な難燃材をポリマー樹脂にホスフィン酸塩(式(II))および/または他の相乗剤と共に添加する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】比較例1に従って調製され、実施例1の難燃性材料のための開始物質であるトリス−[メチルホスホン酸]アルミニウム塩の熱分析データを示す。
図2】実施例1の難燃性材料の熱分析データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態は、
a)熱硬化性または熱可塑性ポリマー、例えば、熱可塑性ポリマーと、
b)1つまたは複数のホスホン酸塩、つまり式(I)
【化4】

(式中、Rは、アルキル、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基であり、pは、1〜7(例えば1〜4)ので、例えば1、2、3または4であり、Mは、金属であり、yは、1〜7(例えば1〜4)ので、例えば1、2、3または4、多くの場合2または3であり、故にM(+)yは、(+)yがその陽イオンに規定される電荷を表す金属陽イオンである)
の化合物を200℃以上、例えば220℃以上の温度で、一般的に250℃以上、例えば、250℃〜400℃または260℃〜360℃の温度で加熱することにより得られる難燃性材料を難燃性組成物の総重量を基準として1%〜50重量%と、
c)任意選択的に追加の難燃材または難燃相乗剤と
を含んでなる難燃性ポリマー組成物である。
【0022】
例えば、式(I)において、yが1である場合のM(+)yは、一価の陽イオン(例えば、Li、NaまたはK等)を表し、yが2である場合のM(+)yは、二価の陽イオン(例えば、Mg++、Ca++またはZn++等)を表し、yが3である場合のM(+)yは、三価の陽イオン(例えば、Al+++等)を表す。有機金属種に共通することだが、その式は最適化されており、特定の原子価が共有される場合(例えば、1個の酸素陰イオンが2個の金属陽イオンの間で共有されている場合等)、開始物質が、錯塩または塩を含むことがある。通例、開始の塩は、電荷が釣り合っており、つまり、p=yである場合(例えば、M(+)yがNaでpが1である場合、Mが、Al+++でpが3である場合等)の式(I)化合物である。
【0023】
理論に縛られることを望まないが、分光データおよび他の分析は、本発明の温度処理範囲内での式(I)の化合物の熱処理により、実験式(IV)
【化5】

(式中、RおよびMは、式(I)で定義する通りであり、qは、1〜7の、例えば1、2または3であり、rは、0〜5、例えば、0、1または2、多くの場合0または1であり、yは、1〜7(例えば1〜4)の、であり、およびnは、1または2であり、但し、2(q)+r=n(y)である)によって概して表されると考えられる化合物およびそれらの錯体の脱水生成物を含んでなる材料が、生成されることを示す。通例、本発明に基づく式(I)化合物の熱処理により、複数種の化合物(それらのうち少なくとも1種は概して実験式(IV)により表されると考えられる)およびそれらの錯体の脱水生成物を含んでなる材料が生成される。有機金属種に共通することだが、式(IV)は、最適化されており、その生成物は、特定の原子価が共有されているポリマー塩、錯塩、塩である。
【0024】
例えば、Mがアルミニウムである場合、つまり、MがAlである式(I)の化合物が本発明に従って加熱される場合、元素分析は、qが1であり、rが1であり、nが1であり、かつyが3である実験式(IV)を有する生成物、つまり、MがAlであり、qが1であり、rが1であり、かつyが3である実験式(IV)を有する生成物の生成を示唆する。
【化6】
【0025】
本発明に従って得られる難燃性材料は、式(I)の開始のホスホン酸塩よりも、熱的に安定であり、大きな難燃活性を呈し、様々なポリマー樹脂において改善された加工性を有する。
【0026】
本発明の難燃性組成物のポリマーは、当技術分野で公知の任意のポリマー(例えば、ポリオレフィンホモポリマーおよびコポリマー、ゴム、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリアルキレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、スチレン系ポリマーおよびコポリマー、ポリカーボネート、アクリル系ポリマー、ポリアミド、ポリアセタール、エポキシ樹脂および生物分解性ポリマー等)であってよい。種々のポリマーの混合物(例えば、ポリフェニレンエーテル/スチレン系樹脂のブレンド、ポリ塩化ビニル/ABS等)、または他の衝撃性変性ポリマー(例えば、メタクリロニトリルおよびα−メチルスチレン含有のABS、およびポリエステル/ABSもしくはポリカーボネート/ABS等)も使用されてよく、そしてポリエステルに数種の他の衝撃性改良剤を加えて使用されてもよい。このようなポリマーは、市販されており、または当技術分野でよく知られた手段により作製される。
【0027】
本発明の難燃材は、高温で加工および/または使用される熱可塑性ポリマー(例えば、HIPS、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリフェニレンエーテル等を含むスチレン系ポリマー)において特に有用である。
【0028】
例えば、ポリマーは、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ビニル系樹脂、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、またはポリウレタンであってよい。ポリマーは、熱可塑性または熱硬化性樹脂であってよく、強化(例えば、ガラス強化)されてもよい。複数種のポリマー樹脂が存在してもよい。特定の実施形態において、ポリマーは、例えば、熱可塑性または強化熱可塑性ポリマー、例えばガラス強化の熱可塑性ポリマー(例えば、任意選択的にガラス充填したポリエステル(例えば、ガラス充填ポリアルキレンテレフタレートもしくはガラス充填ポリアミドのようなガラス充填ポリエステル)、エポキシ樹脂またはポリアミド等)のエンジニアリングポリマーである。
【0029】
ポリエステル系樹脂として、例えば、ジカルボン酸部分とジオール成分の重縮合により、およびヒドロキシカルボン酸またはラクトン成分の重縮合により得られるホモポリエステルおよびコポリエステルが挙げられ、例えば、ポリブチレンテレフタレートもしくはポリエチレンテレフタレート等の芳香族飽和ポリエステル系樹脂が挙げられる。
【0030】
ポリアミド系樹脂として、ジアミンおよびジカルボン酸から誘導されたポリアミド、アミノカルボン酸から必要ならばジアミンおよび/またはジカルボン酸と組み合わせて得られるポリアミド、並びにラクタムから必要ならばジアミンおよび/またはジカルボン酸と組み合わせて誘導されたポリアミドが挙げられる。ポリアミドには、少なくとも2種の異なる種類のポリアミド構成成分から誘導されたコポリアミドも含まれる。ポリアミド系樹脂の例として、脂肪族ポリアミド(例えば、ナイロン46、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11およびナイロン12等)、芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸および/またはイソフタル酸)と脂肪族ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミンまたはノナメチレンジアミン)から得られるポリアミド、並びに芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸の両方(例えば、テレフタル酸とアジピン酸の両方)と、脂肪族ジアミン(例えば、ヘキサメチレンジアミンおよび他の脂肪族ジアミン)から得られるポリアミドが挙げられる。これらのポリアミドを単独で使用してもまたは組み合わせて使用してもよい。
【0031】
本発明の一実施形態において、ポリマーは、高温、例えば300℃以上、いくつかの実施形態において、320℃以上(例えば、340℃以上)で通常に加工されたポリアミドを含んでなる。高温ポリアミドの例として、ナイロン46、ナイロン4T、ナイロン6T/66コポリマー、ナイロン9T等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0032】
難燃材(b)は、単独の難燃材としてか、または他の難燃材、相乗剤または助剤との組み合わせにおいてかのどちらかで、ポリマー系で優れた活性を呈する。本発明の難燃材のポリマー組成物での濃度は、言うまでもなく、難燃材の正確な化学組成、最終のポリマー組成物中で検出されるポリマーおよび他の成分に応じて変わる。例えば、ポリマー配合物の唯一の難燃性成分として用いられた場合、本発明の難燃材は、最終組成物の総重量の1〜50%(例えば、1〜30重量%)の濃度で存在してもよい。通常、唯一の難燃材として使用される場合、少なくとも2%、例えば3%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上または25%以上の本発明の材料が存在するだろう。多くの実施形態において、本発明の難燃材は、45%までの量で存在し、一方、他の実施形態において、本発明の難燃材の量は、ポリマー組成物の40%以下、例えば、35%以下である。他の難燃材または難燃相乗剤と組み合わせて用いる場合、本発明の材料の必要量が、当然少なくなることは明らかである。
【0033】
本発明の難燃性ポリマー組成物を調製するのに、いかなる公知の化合技術を用いてもよく、例えば、難燃材は、ブレンド、押出、繊維またはフィルムの形成等により、溶融ポリマーに導入されてもよい。難燃材が、ポリマー生成または硬化時にポリマーに導入される場合もあり、例えば、本発明の難燃材は、架橋の前にポリウレタンプレポリマーに添加されてもよく、或いは本発明の難燃材は、ポリアミド生成の前にポリアミンもしくはアルキル−ポリカルボキシル化合物に、または硬化の前にエポキシ混合物に添加されてもよい。
【0034】
本発明の他の実施形態は、難燃性材料、および難燃性材料と他の成分との相乗性ブレンドに関する。本発明の難燃材は、1つまたは複数のホスホン酸塩つまり式(I)
【化7】

(式中、Rは、アルキル、アリール、アルキルアリールまたはアリールアルキル基であり、pは、1〜7(例えば1〜4)のであり、例えば1、2、3または4であり、Mは、金属であり、yは、1〜7(例えば1〜4)のであり、例えば1、2、3または4であり、故にM(+)yは、(+)yが陽イオンに規定される電荷を表す金属陽イオンである)の化合物を、200℃以上(例えば220℃以上)の温度で、一般的に250℃以上(例えば、250℃〜400℃または260℃〜360℃)の温度で、加熱することにより得られる。上述のように、列記した温度で式(I)の化合物を加熱することにより生じる材料は、概して実験式(IV)
【化8】

(式中、RおよびMは、式(I)で定義する通りであり、qは、1〜7(例えば1、2または3)のであり、rは、0〜5の、例えば、0、1または2、多くの場合0または1であり、yは、1〜7(例えば1〜4)の、例えば1、2、3、または4であり、およびnは、1または2であり、但し、2(q)+r=n(y)である)
により概して表されると考えられる化合物または1つもしくは複数の化合物の混合物であると考えられている。
【0035】
式(I)のホスホン酸塩は、公知であり、それらを調製する様々な方法が、当技術分野において記載されている。例えば、米国特許出願公開第2006/0138391号明細書は、式(I)(式中、Rが、水素、C1〜18アルキル、C5〜6シクロアルキル、C2〜6アルケニル、C6〜10アリール、またはC7〜11アラルキルであり、そのアルキル、アルケニル、アリール、またはアラルキルは、未置換でも、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、C1〜4アルキルアミノ、ジ−C1〜4アルキルアミノ、C1〜4アルコキシ、カルボキシまたはC2〜5アルコキシカルボニルで置換されてもよく、およびMは、例えば、周期表のIA、IB、IIA、IIB、IIIA、IVA、VAまたはVII族から選択されてもよく、例えば、Li、K、Na、Mg、Ca、Ba、Zn、Ge、B、Al、Cu、Fe、SnまたはSb等から選択されてもよい)の化合物を開示する。但し、米国特許出願公開第2006/0138391号明細書において、上の式(I)に相当する化合物のどれも、200℃を超えて加熱されてなく、また高温でポリマー樹脂に混ぜ合わされていなかった。米国特許出願公開第2006/0138391号明細書に実際に例示される唯一の塩は、メチルメチルホスホン酸のアルミニウム塩であり、つまり、上の式のRとR’がメチルである式(Ia)の化合物
【化9】

の塩であった。
【0036】
本発明の難燃材のための開始物質、つまり式(I)の化合物は、米国特許出願公開第2006/0138391号明細書および当技術分野において他の文献に開示されている塩から便利にも選択することができる。本発明に有用な式(I)の化合物はまた、米国特許出願公開第2006/0138391号明細書に見出せない他のR基(例えば、アルキルで置換されたアリール等)を含んでなってもよく、上述の明細書に具体的に記載されていない金属陽イオンを含んでなる式(I)の化合物が開始物質として有用であることが、可能である。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態において、式(I)の塩は、Rが、C1〜12アルキル、C6〜10アリール、C7〜18アルキルアリール、またはC7〜18アリールアルキル基である化合物を含んでなり、前記基は、米国特許出願公開第2006/0138391号明細書に記載されるようにさらに置換されるが、Rが、未置換のC1〜12アルキル、C6〜10アリール、C7〜18アルキルアリール、またはC7〜18アリールアルキルであることが多い。例えば、Rは、置換もしくは未置換の(通常は未置換である)、C1〜6アルキル、Cアリール、C7〜10アルキルアリール、またはC7〜12アリールアルキル、例えば、C1〜4アルキル、Cアリール、C7〜19アルキルアリール、またはC7〜10アリールアルキルである。
【0038】
本発明の最も一般的な実施形態において、M(+)yは、ほぼすべての金属陽イオンであってよいが、Mは、一般的にLi、K、Na、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、Ge、B、Al、Si、Ti、Cu、Fe、SnまたはSbから選択され、例えば、例として、Li、K、Na、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、B、Al、Si、Ti、SnまたはSbから選択され、多くの実施形態において、Mは、Li、K、Na、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、B、Al、SnまたはSbであり、ある実施形態において、Mは、Al、ZnまたはCaである。例えば、MがAlまたはCaである場合に、素晴らしい結果が達成される。
【0039】
アルキルとしてのRは、特定の炭素数を有する直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、例えば、未分岐のアルキ(alky)(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル等)、および未分岐のアルキル(例えば、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、エチルヘキシル、t−オクチル等)含む。例えば、アルキルとしてのRは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチ(buty)、t−ブチル、Rは、メチル、エチル、プロピルまたはイソプロピルであることが多く、例えば、メチルである。
【0040】
通常、Rがアリールである場合、Rは、フェニルまたはナフチルであり、例えば、フェニルである。アルキルアリールとしてのRの例として、1つまたは複数のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチ(buty)、t−ブチル等から選択される基)で置換されたフェニルが挙げられる。アリールアルキルとしてのRの例として、例えば、ベンジル、フェネチル、スチリル、クミル、フェンプロピル等が挙げられる。
【0041】
一実施形態において、Rは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、フェニルまたはベンジルであり、例えば、メチルまたはフェニルである。
【0042】
ある実施形態において、例えば、開始物質は、Rが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジルまたはフェニルであり、Mが、Al、ZnまたはCaであり、およびpが、2または3である式(I)の化合物である。特定の一実施形態において、Rが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、またはフェニルであり、p=3であり、およびMが、Alであり、別の特定の実施形態において、Rは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、またはフェニルであり、p=2であり、およびMは、ZnまたはCaであり、例えば、Caである。
【0043】
式(I)のホスホン酸塩を本発明の難燃材に変換するのにかかる時間は、例えば、開始ホスホン酸塩の化学構造、反応温度、他の反応条件等を含む様々な要素に応じて変わるだろう。例えば、温度が高いほど、反応時間が速くなる結果となる。反応中に水が生成されると考えられているので、吸水剤または吸引の存在により、反応時間が削減されることもある。反応槽の設計、加熱中等の他の材料の存在はまた、反応時間に影響を与えうる。
【0044】
良好な変換は、非常に多くの場合、例えば少なくとも200℃、220℃、250℃以上の温度で、20時間以下、通常12時間未満、式(I)のホスホン酸塩を加熱することにより得られる。特定の状況において、時間は、極端に短くすることができ、例えば、開始物質への熱移動を極めて効率的にする反応槽または環境において、それより高い温度(例えば、250℃〜400℃または400℃を超える温度)を使用することにより、反応時間を大きく削減することができ、例えば、0.2時間未満、0.1時間または0.01時間以下となり、数秒以下の完全な測定反応時間が可能である。
【0045】
上述のように、完全な変換の時間は、温度に応じて変わるだろうが、一般的に、本発明の難燃材への完全な変換は、200℃〜400℃の温度で、0.01もしくは0.2〜20時間、0.1もしくは0.2〜12時間、または1〜8時間、開始ホスホン酸塩を加熱することにより、得られる。例えば、式(I)のホスホン酸塩を250℃〜400℃で加熱することは、12時間未満、例えば1〜8の加熱時間が必要となるだろう。開始ホスホン酸塩を260℃〜340℃で1〜6時間、例えば、2〜6時間加熱する場合に、素晴らしい結果が得られている。
【0046】
例えば、トリス−〔メチルホスホン酸〕アルミニウム塩、つまりRがメチルである式(III)の水溶性の固体化合物は、250〜320℃の温度で2〜6時間加熱されて、固体材料を形成し、つまり、開始物質と対照的に、水に溶けず、400℃を超える温度で安定である。より高い反応温度を用いることができるが、しかしながら、実施例に見られるように、280℃で4時間加熱することにより、素晴らしい結果をもたらす。
【化10】
【0047】
同様に、トリス−〔エチルホスホン酸〕アルミニウム塩(つまりRがエチルである式(III)の化合物)、またはトリス−〔フェニルホスホン酸〕アルミニウム塩(つまり、Rがフェニルである式(III)の化合物)を同様の条件下で加熱すると、類似のエチルおよびフェニル含有の難燃性材料となる。
【0048】
一般的に、開始物質として用いる選択したホスホン酸金属塩または塩の混合物は、それだけで(つまり他の材料が存在しなくて)加熱される。しかしながら、水は、反応中に開始物質から除去されると考えられるので、加えられる水の存在は、通常、回避されるのではあるが、例えば、不活性担体、別の難燃材、または他の可能な添加剤等が存在したとしても、これらの塩を加熱できるであろう。例えば、開始物質は、200℃を超えて加熱する前に、他の難燃性材料、ポリマー安定剤、または他の公知のポリマー添加剤と混錬されることが可能である。塩の熱転化もまた、不活性担体として少量のポリマーの存在下で起こることがあるが、しかしながら、他の材料が存在することで開始塩の変換が妨げられる状況を回避するように、気を付けなければならない。例えば、ポリマーまたは他の材料が反応温度で溶融して、塩を覆い、または塩と反応さえして、望まない結果を招くこともある。
【0049】
多くの実施形態において、式(I)の化合物は、他成分が存在しないで、熱処理が施される。ポリマーまたは他の不活性担体が、反応中に存在するならば、ホスホン酸金属塩の量よりも少ない量(例えば、ホスホン酸金属塩とポリマーの組み合わせの50%未満または25重量%未満、通常10%未満、例えば、5%未満または0〜2重量%)で存在する。式(I)の塩は、反応において水を遊離すると考えられているので、高温において水の存在下で不安定である材料(加水分解を施すことができるポリマーを含む)が存在する場合、200℃を超えて塩を加熱するのを回避するのが賢明である。
【0050】
本発明に従って、式(I)のホスホン酸金属塩は、大量のポリマー(難燃性材料によって保護されることになっている)に組み込まれる前に、別のさらに熱的に安定な難燃性材料に熱転化される。式(I)の塩(難燃材としても知られている)とは反対に、本発明の難燃材は、200℃を超える加工温度で安定であり、例えば、反応や開裂に影響され易い結合を含有するポリマー(例えば、ポリエステルおよびポリアミド等)に悪影響を与える可能性がある反応を経ることはない。
【0051】
例えば、ポリアルキレンフタレート、ポリアミドおよび多くの他の縮合ポリマーは、高温で加工される。高温で、式(I)の塩は、水を遊離するようにみられる反応を経て、エステルまたはアミド結合で加水分解(hydolysis)を起こし、鎖開裂や、分子量および所望の物理的特性の損失の原因となる。比較例1において、昇温で式(I)の塩をガラス充填ポリアミドに混ぜ合わせる試みがなされ、ポリマー劣化を招く結果となる。式(I)の塩の熱処理中の水の除去が、観察される劣化の原因であったかどうか定かでないが、実施例1、2および3からの本発明の難燃材は、顕著な(noticable)劣化もなく、同一のガラス充填ポリアミドにうまく組み込まれた。
【0052】
本発明の難燃材は、当技術分野で公知の種々の他の難燃材、相乗剤または難燃助剤と共に使用されてもよい。例えば、本発明の難燃材は、
カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、シリコーン;ポリフェニレンエーテル(PPE)、ホスフィンオキシドおよびポリホスフィンオキシド、例えば、ベンジルホスフィンオキシド、ポリベンジルホスフィンオキシド等
メラミン、メラミン誘導体および縮合生成物、メラミン塩(例えば、シアヌル酸メラミン、ホウ酸メラミン、リン酸メラミン、メラミン変性リン酸金属塩(これらに限定されない)等)
粘土、金属塩(例えば、水酸化物、酸化物、水和酸化物、ホウ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ケイ酸塩、金属塩の混合物等、例えば、タルクおよび他のケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸塩、中空管としてのアルミノケイ酸塩(DRAGONITE)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ハロイサイトまたはリン酸ホウ素、モリブデン酸カルシウム、剥離したバーミキュライト、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛、硫化亜鉛およびホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛(KEMGARD 911A/B)、リン酸亜鉛(KEMGARD 981)、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム(ベーマイト)、アルミニウム三水和物、シリカ、酸化スズ、酸化アンチモン(IIIとV)および水和酸化物、酸化チタン、並びに酸化亜鉛または水和酸化物、酸化ジルコニウムおよび/または水酸化ジルコニウム等を含む無機化合物
から選択される1つまたは複数の材料と共に配合されてもよい。
【0053】
特に明記しない限り、本出願の内容において、用語「ホスフェート」は、「リン酸塩」(例えば、リン酸金属塩、リン酸メラミン、メラミン変性リン酸金属塩等)中の成分として使用される場合、リン酸塩、リン酸水素、リン酸二水素、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、またはリン酸縮合生成物の陰イオンもしくは多価陰イオンを指す。
【0054】
同様に特に明記しない限り、本出願の内容において、用語「ホスフィット」は、「亜リン酸塩」(例えば、亜リン酸金属塩等)中の成分として使用される場合、亜リン酸塩または亜リン酸水素を指す。
【0055】
本発明の難燃材は、他の難燃材と配合されてもよく、
ハロゲン化難燃材、アルキルまたはアリールホスフィンオキシド難燃材、アルキルまたはアリールリン酸難燃材、アルキルまたはアリールホスホン酸、アルキルまたはアリールホスフィン酸、およびアルキルまたはアリールホスフィン酸の塩等と配合されてもよい。特定の一実施形態は、本発明の難燃材と式(II)のホスフィン酸塩(例えば、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート))との相乗混合物を提供する。
【0056】
このように、多くの実施形態において、本発明に係る難燃性ポリマー組成物は、ポリマー(a)、難燃材(b)を含んでなり、(c)1つもしくは複数の追加の難燃材、および/または1つもしくは複数の相乗剤または難燃助剤をさらに含んでなる。
【0057】
例えば、いくつかの実施形態において、難燃性ポリマー組成物は、1つもしくは複数の追加の難燃材、例えば、ハロゲン化難燃材、ホスフィンオキシド難燃材、アルキルまたはアリールホスホン酸、またはアルキルまたはアリールホスフィン酸の塩(例えば、アルミニウムトリス(ジエチルホスフィネート)等のアルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート)を含んでなる。
【0058】
いくつかの実施形態において、難燃性ポリマー組成物は、1つもしくは複数の相乗剤もしくは難燃助剤を含んでなり、例えば、メラミン、メラミン誘導体および縮合生成物、メラミン塩、ホスフィンオキシドおよびポリホスフィンオキシド、金属塩(例えば、水酸化物、酸化物、水和酸化物、ホウ酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、ケイ酸塩等)、例えば、アルミニウム水素ホスフィット、メレムもしくはメラミン変性リン酸金属塩、例えば、メラミン変性リン酸金属塩(金属は、アルミニウム、マグネシウムもしくは亜鉛を含んでなる)を含んでなる。特定の実施形態において、1つもしくは複数の追加の難燃材、相乗剤または難燃助剤は、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート)、アルミニウム水素ホスフィット、メチレン−ジフェニルホスフィンオキシド−置換のポリアリールエーテル、キシリレンビス(ジフェニルホスフィンオキシド)、4,4’−ビス(ジフェニルホスフィニルメチル)−1,1’−ビフェニル、エチレン−ビス−1,2−ビス−(9,10−ジヒドロ−9−オキシ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)エタン、メレムまたはジメラミン変性ピロリン酸亜鉛を含んでなる。
【0059】
特定の一実施形態は、本発明の難燃材とアルミニウムトリス(ジエチルホスフィネート)を含んでなる相乗混合物に関する。
【0060】
例えば、本発明の難燃材は、本発明の難燃材の、追加の難燃材、相乗剤および助剤の総重量に対する重量比が、100:1〜1:100の範囲で、追加の難燃材、相乗剤または助剤を混ぜ合わせてもよい。追加の難燃材、相乗剤または助剤に応じて、難燃材の、追加の難燃材、相乗剤および/または助剤に対する重量比が10:1〜1:10の範囲を用いて、優れた結果が得られ、例えば、7:1〜1:7、6:1〜1:6、4:1〜1:4、3:1〜1:3および2:1〜1:2の範囲の重量比を用いると良好な利点となる。本発明の難燃材は、通常、このような組み合わせ中の主成分であり、例えば、本発明の難燃性材料の、追加の難燃材、相乗剤および/または助剤に対する重量比が、10:1〜1.2:1の重量比または7:1〜2:1であるが、本発明の材料は、混合物の微量成分、例えば、難燃材の、追加の難燃材、相乗剤および/または助相乗剤に対する比が、1:10〜1:1.2の比または1:7〜1:2となることも可能である。
【0061】
本発明の難燃性ポリマー組成物は、当技術分野で非常によく遭遇するような1つもしくは複数の一般的な安定剤または他の添加剤も通常含有することがあり、例として、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)、紫外線吸収剤、ホスフィット、ホスホナイト、脂肪酸のアルカリ性金属塩、ハイドロタルサイト、金属酸化物、ボレート、エポキシ化大豆油、ヒドロキシルアミン、第3級アミンオキシド、ラクトン、第3級アミンオキシドの熱反応生成物、チオ相乗剤、塩基性補助安定剤(例えば、メラミン、メレム等)、ポリビニルピロリドン、ジシアンジアミド、シアヌル酸トリアリル、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、アミン、ポリアミド、ポリウレタン、ハイドロタルサイト、高級脂肪酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩、例えば、ステアリン酸Ca、カルシウムステアロイルラクテート、乳酸カルシウム、ステアリン酸Zn、オクタン酸Zn、ステアリン酸Mg、リシノール酸Naおよびパルミル酸K、アンチモンピロカテコラートまたは亜鉛ピロカテコラート、核剤、清澄剤等が挙げられる。
【0062】
他の添加剤も存在してよく、例えば、可塑剤、潤滑剤、乳化剤、顔料、染料、蛍光増白剤、他の難燃加工剤、帯電防止剤、発泡剤、ドリップ防止剤、例えば、PTFE等が挙げられる。
【0063】
任意選択的に、ポリマーは、充填材および補強材を含んでもよく、例えば、炭酸カルシウム、シリケート、ガラス繊維、タルク、カオリン、雲母、硫酸バリウム、金属酸化物塩および水酸化物、カーボンブラックおよびグラファイトが挙げられる。このような充填材および補強材は、最終組成物の重量を基準として、50wt%を超える濃度で存在する配合物を含んで、比較的高濃度で存在することが多い。さらに典型的には、充填材および補強材は、総ポリマー組成物の重量を基準として、5〜50wt%、例えば、10〜40wt%または15〜30wt%存在する。
【実施例】
【0064】
比較例1
メチルホスホン酸(1.00モル)96.0gを脱イオン水210mLに溶かした溶液にアルミニウムエトキシド(0.334モル)54.1gを窒素下でゆっくり加える。次に、その反応混合物を室温で16時間撹拌する。続いて、溶液を濃縮し、真空条件下、100℃で乾燥させ、無色透明な固体を得る。熱分析は、図1に示すように、およそ250℃で始まる、1モルの水の損失を示唆した。元素分析:P(29.8%)、Al(9.0%);計算値P(29.8%)、Al(8.7%)。
【0065】
3つのBrabender測定ヘッドを備えるHaake Rheocord90を用いて、20部の塩と30部のガラスを50部のポリアミド66中で化合させた。化合中に、トルクの低下(ポリマー劣化の兆しでありうる)が観察され、その結果、冷却の際に脆くまた粉砕後に埃のようである濡れた新聞紙に似た材料となった。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)および示差走査熱量測定(DSC)による、化合した材料(成形するのが不可能であった)の分析は、劣化のさらなる証拠を提供した。
【0066】
実施例1−メチルホスホン酸アルミニウム塩からの難燃材(FR−INV1)
メチルホスホン酸(500ミリモル)48.0gを脱イオン水210mlに溶かした冷却溶液にアルミニウムエトキシド(167ミリモル)27.0gを窒素下でゆっくり加える。次に、その反応を室温まで温め、16時間撹拌する。続いて、溶液を濃縮し、真空条件下、100℃で乾燥させ、無色透明な固体を得る。熱分析は、250℃で始まる1モルの水の損失を示唆した。無色の固体を280℃で4時間加熱した結果、図2に示すように、400℃超まで安定であるオフホワイト色の固体を得た。元素分析:P(31.5%)、Al(9.0%)。
【0067】
比較例2
エチルホスホン酸(344ミリモル)37.9gを脱イオン水150mLに入れて撹拌した溶液に、塩化アルミニウム六水和物(115ミリモル)27.7gを脱イオン水150mLに溶かした溶液を加える。次に、溶液を真空条件下で濃縮して、水およびHClを除去する。真空オーブン内130℃で乾燥させて、白色粉末を得る。熱分析は、およそ200℃で始まる1モルの水の損失を示唆した。元素分析:P(25.0%)、Al(6.9%)。
【0068】
Haake Rheocord90を用いて、20部の塩と30部のガラスを50部のポリアミド66中で化合させた。化合中に、トルクの低下(ポリマー劣化の兆しでありうる)が観察され、実験の終わり頃にボウルから配合物の膨潤を伴い、逸出気体により発砲し、冷却の際に脆くまた粉砕後に埃のようである材料となった。GPCおよびDSCによる、化合した材料(成形するのが不可能であった)の分析は、劣化のさらなる証拠を提供した。
【0069】
実施例2−エチルホスホン酸アルミニウム塩からの難燃材(FR−INV2):
エチルホスホン酸(1.36モル)149.5gを脱イオン水500mLに入れて撹拌した溶液に、塩化アルミニウム六水和物(0.453モル)109.3gを脱イオン水250mLに溶かした溶液を加える。次に、溶液を濃縮して、真空条件下、130℃で乾燥させ、水およびHClを除去する。熱分析は、180℃で始まる1モルの水の損失を示唆した。乾燥した塩を225℃で3時間加熱して、およそ400℃まで安定である白色粉末を得た。元素分析:P(27.3%)、Al(7.6%)。
【0070】
実施例3−エチルホスホン酸カルシウム塩からの難燃材(FR−INV3)
エチルホスホン酸(473ミリモル)52.1gを脱イオン水250mLに入れて撹拌した溶液に、水酸化カルシウム(236ミリモル)17.5gをゆっくり加える。次に、溶液を濃縮して、真空条件下、100℃で乾燥させた。熱分析は、220℃で始まる1モルの水の損失を示唆した。乾燥した塩を290℃で3時間加熱して、400℃超で安定である白色粉末を得た。元素分析:P(25.3%)、Ca(16.3%)。
【0071】
Haake Rheocord90を用いて、実施例1、2および3からの難燃材と様々な相乗剤を含んでなる配合物を、ポリアミド66中でガラスと混ぜ合わせた。BabyPlast Mini−Molderを用いて、標準UL 94 Vertical Burn Testに準拠して1/16”の棒材に成形した。配合物および結果を下の表1に列挙する。
【0072】
【表1】
【0073】
FR配合物に使用される相乗剤:
SYN1:アルミニウムトリス(ジエチルホスフィネート)、Exolit(登録商標)OP1230
【化11】

SYN2:メチレンジフェニルホスフィンオキシド−置換のポリアリールエーテル
【化12】

SYN3:p−キシリレンビス(ジフェニルホスフィンオキシド)
【化13】

SYN4:4,4’−ビス(ジフェニルホスフィニルメチル)−1,1’−ビフェニル
【化14】

SYN5:1,2−ビス−(9,10−ジヒドロ−9−オキシ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)エタン
【化15】

SYN6:Melem、Delacal(登録商標)NFR HP
【化16】

SYN7:アルミニウム水素ホスフィット
Al(HPO
SYN8:ジメラミン変性ピロリン酸亜鉛、Safire(登録商標)400
【化17】

本願発明を以下に記す。
[請求項1]
難燃性ポリマー組成物であって、
a)熱硬化性または熱可塑性ポリマーと、
b)200℃以上の温度で、0.01時間〜20時間、1つまたは複数の式(I)
[化1]

(式中、
Rは、C1〜12アルキル、C6〜10アリール、C7〜18アルキルアリール、またはC7〜18アリールアルキルであり、前記アルキル、アリール、アルキルアリール、またはアリールアルキルは、未置換であるか、またはハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、C1〜4アルキルアミノ、ジ−C1〜4アルキルアミノ、C1〜4アルコキシ、カルボキシもしくはC2〜5アルコキシカルボニルで置換されており、
Mは、金属であり、
yは、1〜4の数であり、故にM(+)yは、(+)yがその陽イオンに規定される電荷を表す金属陽イオンであり、pは、1〜4の数である)
の化合物の加熱を備えるプロセスにより得られる難燃性材料を難燃性ポリマー組成物の総重量を基準として1%〜50重量%と、
を含んでなる難燃性ポリマー組成物。
[請求項2]
式(I)のMが、Li、K、Na、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr、B、Al、Si、Ti、SnまたはSbである請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項3]
式(I)のMが、AlまたはCaである請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項4]
式(I)において、Rが、未置換のC1〜6アルキル、Cアリール、C7〜10アルキルアリール、またはC7〜12アリールアルキルである請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項5]
Rが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジルまたはフェニルある請求項4に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項6]
式(I)のMが、AlまたはCaである請求項5に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項7]
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、1つもしくは複数の、ポリオレフィンホモポリマー、ポリオレフィンコポリマー、ゴム、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、スチレン系ポリマー、スチレン系コポリマー、ポリカーボネート、アクリル系ポリマー、ポリアミド、ポリアセタール、エポキシ樹脂、生物分解性ポリマーまたはそれらのブレンドを含んでなる請求項1または6に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項8]
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、1つもしくは複数の、ポリフェニレンエーテル/スチレン系樹脂のブレンド、ABS、ポリ塩化ビニル/ABSのブレンド、メタクリロニトリル含有のABS、α−メチルスチレン含有のABS、ポリエステル/ABS、ポリカーボネート/ABS、衝撃性変性ポリエステルまたは衝撃性変性ポリスチレンを含んでなる請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項9]
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、1つもしくは複数の、スチレン系ポリマー、ポリオレフィン、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、またはポリウレタンを含んでなる請求項7に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項10]
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、さらに補強材を含んでなる請求項7に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項11]
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、ポリアルキレンテレフタレート、HIPS、エポキシ樹脂またはポリアミドを含んでなり、前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、任意選択的に補強材をさらに含んでなる請求項9に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項12]
前記熱硬化性または熱可塑性ポリマーが、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ガラス充填ポリブチレンテレフタレート、ガラス充填ポリエチレンテレフタレート、ガラス強化のエポキシ樹脂、熱可塑性ポリアミドまたはガラス充填の熱可塑性ポリアミドを含んでなる請求項11に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項13]
前記熱可塑性ポリアミドまたはガラス充填の熱可塑性ポリアミドが、ナイロン46、ナイロン4T、ナイロン6T/66コポリマー、またはナイロン9Tを含んでなる請求項12に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項14]
(c)1つもしくは複数の追加の難燃材、および/または1つもしくは複数の相乗剤または難燃助剤をさらに含んでなる請求項1に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項15]
1つもしくは複数の追加の難燃材を含んでなり、前記1つもしくは複数の追加の難燃材が、ハロゲン化難燃材、アルキルもしくはアリールホスフィンオキシド難燃材、アルキルもしくはアリールリン酸難燃材、アルキルもしくはアリールホスホン酸、アルキルもしくはアリールアルキルホスフィン酸、またはアルキルまたはアリールホスフィン酸の塩を含んでなる請求項14に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項16]
前記1つもしくは複数の追加の難燃材が、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート)を含んでなる請求項15に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項17]
1つもしくは複数の相乗剤または難燃助剤を含んでなり、前記1つもしくは複数の相乗剤または難燃助剤が、メラミン、メラミン誘導体、メラミン縮合生成物、メラミン塩、ホスフィンオキシド、ポリホスフィンオキシド、または金属水酸化物、酸化物、水和酸化物、ボレート、ホスフェート、ホスフィット或いはシリケートを含んでなる請求項14に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項18]
前記1つもしくは複数の相乗剤または難燃助剤が、アルミニウム水素ホスフィット、ベンジルホスフィンオキシド、ポリベンジルホスフィンオキシド、メレムまたはメラミン変性リン酸金属塩を含んでなり、前記金属が、アルミニウム、亜鉛またはマグネシウムを含んでなる請求項17に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項19]
(c)1つもしくは複数の追加の難燃材、相乗剤または難燃助剤を含んでなり、前記1つもしくは複数の追加の難燃材、相乗剤または難燃助剤が、アルミニウムトリス(ジアルキルホスフィネート)、アルミニウム水素ホスフィット、メチレン−ジフェニルホスフィンオキシド−置換のポリアリールエーテル、キシリレンビス(ジフェニルホスフィンオキシド)、1,2−ビス−(9,10−ジヒドロ−9−オキシ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド)エタン、4,4’−ビス(ジフェニルホスフィニルメチル)−1,1’−ビフェニル、メレムまたはジメラミン変性ピロリン酸亜鉛を含んでなる請求項14に記載の難燃性ポリマー組成物。
[請求項20]
ポリマーの耐燃性を向上させる方法であって、200℃以上の温度で、1つまたは複数の式(I)
[化2]

(式中、Rは、C1〜12アルキル、C6〜10アリール、C7〜18アルキルアリール、またはC7〜18アリールアルキルであり、前記アルキル、アリール、アルキルアリール、またはアリールアルキルは、未置換であるか、或いはハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、C1〜4アルキルアミノ、ジ−C1〜4アルキルアミノ、C1〜4アルコキシ、カルボキシまたはC2〜5アルコキシカルボニルで置換されており、
Mは、金属であり、
yは、1〜4の数であり、故にM(+)yは、(+)yがその陽イオンに規定された電荷を表す金陽イオンであり、および
pは、1〜4の数である)
の化合物を加熱して難燃性材料を調製し、続いて、任意選択的に1つもしくは複数の追加の難燃材、相乗剤または難燃助剤と共に前記難燃性材料をポリマー樹脂に組み込む工程を備える方法。
[請求項21]
難燃材であって、実験式(IVa)
[化3]

(式中、Mは、Alであり、qは、1であり、rは、1であり、yは、3であり、およびRは、C1〜12アルキル、C6〜10アリール、C7〜18アルキルアリール、またはC7〜18アリールアルキルであり、前記アルキル、アリール、アルキルアリール、またはアリールアルキルは、未置換であるか或いは、ハロゲン、ヒドロキシル、アミノ、C1〜4アルキルアミノ、ジ−C1〜4アルキルアミノ、C1〜4アルコキシ、カルボキシまたはC2〜5アルコキシカルボニルで置換されている)を有する材料を含んでなる難燃材。
図1
図2