(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113322
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】殺菌剤および生物付着を制御する方法
(51)【国際特許分類】
A01N 59/00 20060101AFI20170403BHJP
A01N 25/22 20060101ALI20170403BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20170403BHJP
C02F 1/50 20060101ALI20170403BHJP
C02F 1/76 20060101ALI20170403BHJP
C01B 11/20 20060101ALN20170403BHJP
【FI】
A01N59/00 C
A01N25/22
A01P3/00
C02F1/50 510C
C02F1/50 520A
C02F1/50 520K
C02F1/50 531L
C02F1/50 540B
C02F1/50 550D
C02F1/50 550L
C02F1/76 A
!C01B11/20
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-76937(P2016-76937)
(22)【出願日】2016年4月7日
(62)【分割の表示】特願2012-254118(P2012-254118)の分割
【原出願日】2012年11月20日
(65)【公開番号】特開2016-166216(P2016-166216A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2016年4月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染谷 新太郎
(72)【発明者】
【氏名】大森 千晴
【審査官】
山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−516827(JP,A)
【文献】
特表2002−543048(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0051284(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
C02F 1/00−1/78
C01B 11/00−11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水酸化アルカリ、スルファミン酸および臭素を含む次亜臭素酸安定化組成物からなる殺菌剤であって、
前記臭素の添加率が前記次亜臭素酸安定化組成物全体の量に対して25重量%以下であり、
前記次亜臭素酸安定化組成物中の臭素酸イオンの含有量が、5mg/L未満であることを特徴とする殺菌剤。
【請求項2】
請求項1に記載の殺菌剤を用いて、水系での生物付着を制御することを特徴とする、生物付着を制御する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系の生物付着を制御するための次亜臭素酸安定化組成物の製造方法および次亜臭素酸安定化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水等の工業用水システムや製紙工程等の水系での生物付着を制御するための殺菌剤としては次亜塩素酸ナトリウムが主に使用されているが、より高い殺菌性能を求める場合に次亜塩素酸ナトリウムを大量に使用すると配管が腐食したり、臭気の問題が生じることがある。そこで、このような場合には、より高い殺菌性能のある次亜臭素酸ナトリウムが使用されるが、次亜臭素酸ナトリウムは不安定であり、工業的には臭化ナトリウム等の臭素化合物と次亜塩素酸ナトリウムを使用する直前に混合して系内で次亜臭素酸ナトリウムを生成させる手法が採られている。しかし、この場合も、2液の均一混合の煩雑さや、腐食の問題等が残っており、保存安定性に優れる1液系の次亜臭素酸安定化組成物が求められている。
【0003】
1液系の次亜臭素酸安定化組成物として、スルファミン酸等の臭素安定化剤、臭素、水酸化物等からなる酸化臭素調合物が種々提案されてきた。
【0004】
臭化物イオンを活性化して次亜臭素酸塩にするために、臭素安定化剤に加えて、次亜塩素酸塩等の酸化剤を添加することも提案されている。酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムを用い、臭素化合物を反応させて生成する次亜臭素酸を利用する方法が、特許文献1および特許文献2に記載されている。特許文献1は、次亜塩素酸ナトリウムと臭素化合物とからなるプレミックス溶液にスルファミン酸を添加する方法であり、特許文献2は、次亜塩素酸ナトリウムとスルファミン酸からなるプレミックス溶液に臭素化合物を添加する方法である。いずれもスルファミン酸からの生成物が分解するとして、好ましくは約10〜約45℃、特に好ましくは約20℃で添加することが推奨されている。しかしながら、これらの方法では、次亜塩素酸ナトリウムに由来する塩素および塩化物イオンが生成物に残存し、腐食性等の問題があった。また、次亜臭素酸が不安定であり、臭素酸が副生する問題があった。
【0005】
塩素系酸化剤に代わる酸化剤として臭素酸を反応させる方法が、特許文献3の実施例1および実施例2に記載されている。反応機構として次の2つの式が記載されており、臭素酸が反応に関与するのが肝要の困子となっている。しかし、安全性等の点から工業的に臭素酸を原料に用いることは問題であった。
2Br
−+BrO
3−+3H
+ → 3HBrO (2)
HBrO+
−O−SO
2−NH
2 →
−O−SO
2−NH−Br,
−O−SO
2−NBr
2,および他の安定した酸化臭素化合物 (3)
【0006】
そこで、酸化剤を用いず、臭素のみを反応させて、酸化臭素系組成物を得る方法が、特許文献3の実施例2の別の実施例、および実施例3、特許文献4の実施例4に記載されている。しかしながら、特許文献3の実施例2の別の実施例、および特許文献4の実施例4では、腐食性が高く大きな問題があること、さらに特許文献3の実施例2の別の実施例は刺激臭が強く保存安定性が劣る問題がある。また、特許文献3の実施例3では、大量の結晶の生成が確認されており、結晶を大量に生成させるという点でも本方法は反応中に生成する臭素酸の酸化力を利用したものであり、実際に同様の方法で製造したものには臭素酸が残存する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平11−501974号公報
【特許文献2】特表平11−511779号公報
【特許文献3】特表2002−543048号公報
【特許文献4】特表2002−516827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、臭素酸イオンを実質的に含まない、かつ殺菌性能に優れ、金属に対する腐食性がほとんどなく、保存安定性に優れる1液系の次亜臭素酸安定化組成物の製造方法および次亜臭素酸安定化組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水、水酸化アルカリおよびスルファミン酸を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程を含み、前記臭素の添加率が組成物全体の量に対して25重量%以下である次亜臭素酸安定化組成物の製造方法である。
【0010】
また、前記次亜臭素酸安定化組成物の製造方法において、反応器内の酸素濃度を6%以下に制御した条件で前記臭素を反応させることが好ましい。
【0011】
また、前記次亜臭素酸安定化組成物の製造方法において、前記臭素の添加の際の反応温度を0℃以上25℃以下の範囲に制御することが好ましい。
【0012】
また、前記次亜臭素酸安定化組成物の製造方法において、前記臭素の当量に対する前記スルファミン酸の当量の比が、1.01〜1.1の範囲であることが好ましい。
【0013】
また、前記次亜臭素酸安定化組成物の製造方法において、前記臭素の添加前における前記スルファミン酸の前記水酸化アルカリに対する当量比が0.28〜0.35の範囲であることが好ましい。
【0014】
また、前記次亜臭素酸安定化組成物の製造方法において、組成物のpHが13.5超であることが好ましい。
【0015】
また、前記次亜臭素酸安定化組成物の製造方法において、前記組成物に水酸化アルカリを追加し、pHを13.5超とすることが好ましい。
【0016】
また、前記次亜臭素酸安定化組成物の製造方法において、前記不活性ガスが、窒素およびアルゴンのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0017】
また、前記次亜臭素酸安定化組成物の製造方法において、前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0018】
また、前記次亜臭素酸安定化組成物の製造方法において、前記水酸化アルカリが、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムであることが好ましい。
【0019】
本発明は、水、水酸化アルカリ、スルファミン酸および臭素を含む次亜臭素酸安定化組成物
からなる殺菌剤であって、前記臭素の添加率が前記次亜臭素酸安定化組成物全体の量に対して25重量%以下であり、前記次亜臭素酸安定化組成物中の臭素酸イオンの含有量が、5mg/L未満である殺菌剤である。また、本発明は、前記殺菌剤を用いて、水系での生物付着を制御する、生物付着を制御する方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、水、水酸化アルカリおよびスルファミン酸を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させ、臭素の添加率を組成物全体の量に対して25重量%以下とすることにより、臭素酸イオンを実質的に含まない、かつ殺菌性能に優れ、金属に対する腐食性がほとんどなく、保存安定性に優れる1液系の次亜臭素酸安定化組成物の製造方法および次亜臭素酸安定化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明者らが鋭意検討した結果、水、水酸化アルカリおよびスルファミン酸の混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下、好ましくは反応器内の酸素濃度を6%以下に制御した条件下で反応させ、臭素の添加率を組成物全体の量に対して25重量%以下とすることで、臭素酸イオンを実質的に含まない、かつ殺菌性能に優れ、金属に対する腐食性がほとんどなく、保存安定性に優れる1液系の次亜臭素酸安定化組成物が得られることを見出した。臭素を不活性ガス雰囲気下で反応させ、かつ、臭素の添加率を組成物全体の量に対して25重量%以下とすることで、反応系内の臭素酸生成を低減させ、かつ腐食性が低減する。さらに臭素酸生成量と腐食性が、スルファミン酸当量と臭素当量の比率、臭素の添加前におけるスルファミン酸の水酸化アルカリに対する当量比、組成物pH、反応温度等にも依存する傾向にあることを見出し、最終的に、臭素酸を反応系内にほとんど生成させず、かつ腐食性を抑えた、保存安定性に優れる、水系の生物付着を制御するための1液系の次亜臭素酸安定化組成物、およびその製造方法を見出すことに成功した。
【0024】
本発明の実施形態に係る次亜臭素酸安定化組成物は、主としてスルファミン酸−次亜臭素酸ナトリウム塩(
−O−SO
2−NH−Br,
−O−SO
2−NBr
2,および他の安定化次亜臭素酸塩)を含むものである。本実施形態に係る次亜臭素酸安定化組成物は、水、水酸化アルカリおよびスルファミン酸を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させることにより得られる。
【0025】
本実施形態に係る次亜臭素酸安定化組成物の製造方法の肝要は、水、水酸化アルカリおよびスルファミン酸の混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で反応させることである。特許文献3には、「臭素または塩化臭素を添加するステップは、臭素を空気に曝露せずに実施する」と記載があるものの、反応器内の酸素の除去方法には言及されていない。同じく特許文献3には、「元素臭素が空気に曝露されるのを防ぐため、臭素はテフロン(登録商標)管によって安定化溶液に直接加えることが好ましい」と記載があるが、反応器内の酸素の除去には言及しておらず、反応容器中の酸素を除去する手段にはなり得ない。一方、反応容器内の空気を不活性ガスで置換して反応させると分圧の効果により溶液中の酸素が追い出され、下式に示される臭素酸生成の反応が生じることがほとんどない。
Br
−+3/2O
2 → BrO
3−
【0026】
臭素の反応の際の反応器内の酸素濃度は6%以下が好ましいが、4%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。臭素の反応の際の反応器内の酸素濃度が6%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。
【0027】
反応に用いる不活性ガスは限定されないが、製造等の面から窒素およびアルゴンのうち少なくとも1つが好ましく、特に製造コスト等の面から窒素が好ましい。
【0028】
反応容器内の酸素を除去する上で、不活性ガスを溶液内でバブリングすることや、反応容器内を減圧することも効果的である。
【0029】
臭素の添加率は、組成物全体の量に対して25重量%以下であり、1重量%以上20重量%以下であることが好ましい。臭素の添加率が組成物全体の量に対して25重量%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する。1重量%未満であると、生物付着の制御に劣る場合がある。
【0030】
臭素の当量に対するスルファミン酸の当量の比は、1.01〜1.1の範囲であることが好ましく、1.02〜1.05の範囲であることがより好ましい。臭素の当量に対するスルファミン酸の当量の比が1.01未満であると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合があり、1.1を超えると、腐食性が高くなる場合がある。
【0031】
組成物のpHは13.5超であることが好ましいが、13.7超であることがより好ましい。組成物のpHが13.5以下であると、腐食性が高くなる場合がある。
【0032】
水酸化アルカリは、臭素添加前に全量加えても、あるいは組成物の最終pHの精度を上げるため、臭素添加後の組成物に一部を分けて加えて、組成物のpHを13.5超としてもよい。ただし、水、水酸化アルカリおよびスルファミン酸の混合液の時点でpH7以上であることが好ましい。
【0033】
水酸化アルカリとして、水酸化ナトリウムの代わりに、水酸化カリウム等の他の水酸化アルカリを用いてもよく、また併用してもよい。特に、低温時の製品安定性等の点から、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを併用するとよい。水酸化アルカリは固形で用いても、水溶液として用いてもよい。
【0034】
水酸化アルカリは臭素を添加する前後で、発熱対策等の点から分割して投入することも可能であるが、その場合、臭素添加前のスルファミン酸ナトリウム溶液としては、pH7以上であることが好ましい。
【0035】
また臭素添加前に高アルカリであると、臭素酸イオンを生成してしまう可能性があるため、臭素の添加前におけるスルファミン酸の水酸化アルカリに対する当量比は、0.28〜0.35の範囲であることが好ましい。臭素の添加前におけるスルファミン酸の水酸化アルカリに対する当量比が0.28未満であると、臭素酸イオンを生成してしまう場合があり、0.35を超えると、腐食性が高くなる場合がある。
【0036】
臭素添加の際の反応温度は、0℃以上25℃以下の範囲に制御することが好ましいが、製造コスト等の面から、0℃以上15℃以下の範囲に制御することがより好ましい。臭素添加の際の反応温度が25℃を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合があり、0℃未満であると、凍結する場合がある。
【0037】
本実施形態に係る次亜臭素酸安定化組成物の製造方法により、主としてスルファミン酸−次亜臭素酸ナトリウム塩組成物が、臭素酸イオンを実質的に含有せず、また、組成物を金属材質と接触させてもほとんど腐食が進行しないことから、安全に取扱うことが可能である。
【0038】
本実施形態に係る次亜臭素酸安定化組成物の製造方法により得られる次亜臭素酸安定化組成物は、臭素酸イオンを実質的に含まず、臭素酸イオンの含有量が、例えば5mg/L未満である。本明細書において「臭素酸イオンを実質的に含まない」とは、利用可能な最良の技術(BAT:Best Available Technology)となり得る分析手法を用いて、検出限界未満を達成することである。特許文献3には臭素酸イオンの分析方法としてイオンクロマトグラフィ法が示されており、検出下限の50mg/L未満であるとの記載があるが、本発明者らが用いたポストカラム−イオンクロマトグラフィ法を用いれば、検出下限5mg/Lを達成し、すなわち5〜50mg/Lの臭素酸イオンを検出することができ、また実際に後述の実施例に示す通り、次亜臭素酸安定化組成物中に5〜50mg/Lの臭素酸イオンが検出されたものがある。水道法に基づいた厚生労働省監修の「水道用薬品類の評価のための試験方法ガイドライン」では、臭素酸の評価基準値は0.005mg/Lと定められており、本実施形態に係る次亜臭素酸安定化組成物が例えば10,000〜100,000倍希釈して用いられることを考えると、組成物中の5〜50mg/Lの臭素酸イオンを検出すること、そして組成物中の臭素酸イオンの含有量が5mg/L未満を達成することは非常に有意義である。
【0039】
組成物に含まれる有効臭素濃度は、組成物全体の量に対して1重量%〜20重量%の範囲であることが好ましい。有効臭素濃度が組成物全体の量に対して1重量%未満であると、生物付着の制御に劣る場合があり、25重量%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。
【0040】
水系の生物付着を制御するための組成物を金属材質と接触させてもほとんど腐食が進行しないことが望ましい。水系の生物付着を制御するための組成物は薬品注入装置を用いて系内に注入される場合が多く、組成物を希釈せず、原液で用いることから、注入配管が腐食したり、薬注ラインから対象となる水処理系への接続配管が腐食したりするトラブルを回避することが望ましい。実際に次亜塩素酸ナトリウム溶液等における腐食トラブルは未だに根本的な解決はされておらず、例えば特許文献3においても、安定した酸化臭素化合物が「腐食性溶液」であると記載されており、実際に金属腐食性が高い結果が得られた。
【0041】
次亜臭素酸安定化組成物を金属材質と接触させてもほとんど腐食が進行しない基準は、後述する腐食速度(MDD)で1未満が好ましい。
【0042】
このように、本実施形態に係る次亜臭素酸安定化組成物の製造方法により、臭素酸イオンを実質的に含まない、かつ殺菌性能に優れ、金属に対する腐食性がほとんどなく、保存安定性に優れる1液系の次亜臭素酸安定化組成物が得られる。
【0043】
本実施形態に係る次亜臭素酸安定化組成物は、例えば、冷却水等の工業用水システムや製紙工程等の水系での生物付着を制御するための殺菌剤として用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
反応容器内の酸素濃度が1%に維持されるように、窒素ガスの流量をマスフローコントローラでコントロールしながら連続注入で封入した2Lの4つロフラスコに1453gの水、361gの水酸化ナトリウムを加え混合し、次いで300gのスルファミン酸を加え混合した後、反応液の温度が0〜15℃になるように冷却を維持しながら、456gの液体臭素を加え、さらに48%水酸化カリウム溶液230gを加え、組成物全体の量に対する重量比でスルファミン酸10.7%、臭素16.3%、臭素の当量に対するスルファミン酸の当量比が1.08である、目的の次亜臭素酸安定化組成物を得た。生じた溶液のpHは、ガラス電極法にて測定したところ、14.0であった。生じた溶液の臭素含有率は、臭素をヨウ化カリウムによりヨウ素に転換後、チオ硫酸ナトリウムを用いて酸化還元滴定する方法により測定したところ16.3%であり、理論含有率(16.3%)の100.0%であった。また、臭素反応の際の反応容器内の酸素濃度は、株式会社ジコー製の「酸素モニタJKO−02 LJDII」を用いて測定した。
【0046】
実施例1で生じた溶液原液にて、臭素酸イオン濃度を、「JWWA K 120(2008)水道用次亜塩素酸ナトリウム5.4.5 臭素酸」の分析方法に則りポストカラム−イオンクロマトグラフィ法で測定した結果、臭素酸イオン濃度は検出下限値の5mg/L未満であった。
【0047】
実施例1で生じた溶液原液に、金属片を浸漬させた腐食試験を実施した。なお、本腐食試験は、「JIS K 0100工業用水腐食性試験方法」に則り実施した。
[試験条件]
試験片:SS−400(#400)
試験片表面積:0.01dm
2(1mm×10mm×10mm)
試験温度:25℃
試験期間:3日間
評価項目:腐食速度(MDD)
【0048】
腐食速度に関しては、試験終了後に試験片(SS−400)を、酸洗浄用腐食抑制剤(朝日化学工業社製、「イビット」)を加えた15%塩酸で洗浄し、質量減を求め、そこから下式により、試験片の表面積1dm
2に対する1日当たりの腐食減量のmg数、すなわちMDD(mg/dm
2・day)を求めたところ、0.4であった。
W=(M1−M2)/(S×T)
ここで、W:腐食速度(MDD)、M1:試験片の試験前の質量(mg)、M2:試験片の試験後の質量(mg)、S:試験片の表面積(dm
2)、T:試験日数である。
【0049】
<実施例2>
反応容器内の酸素濃度が4%に維持されるように、窒素ガスの流量をマスフローコントローラでコントロールしながら、実施例1と同様の条件で合成した結果、溶液原液中の臭素酸イオン濃度は検出下限値の5mg/L未満であった。また腐食試験による腐食速度(MDD)は0.6であった。
【0050】
<実施例3〜35、比較例1〜7>
表1に示す条件で実施例1と同様にして、サンプルを合成し、臭素酸イオン濃度および腐食性(腐食速度)を評価した。不活性ガスで置換していない場合の酸素濃度は実測していないが、大気中の酸素濃度21%前後と考えられる。結果を表1、表2に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
<実施例36>
実施例8、実施例15および実施例16で合成した水溶液を−10℃の恒温槽を用いて、10日間、低温保存試験を実施した。その結果、実施例8のみが凍結しなかった。このことから、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを併用することで、より大きな凝固点降下が得られ、低温時の製品安定性に優れることがわかった。
【0054】
以上のように、水、水酸化アルカリおよびスルファミン酸を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させ、臭素の添加率を組成物全体の量に対して25重量%以下とする実施例の方法により、臭素酸イオンを実質的に含まない、かつ殺菌性能に優れ、金属に対する腐食性がほとんどなく、保存安定性に優れる1液系の次亜臭素酸安定化組成物が得られた。