【実施例】
【0069】
以下、実験例を用いて本発明の構成及び効果をより詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって制限されるものではない。なお、ここに記載する動物実験はすべて、愛媛大学の実験動物委員会によって承認されたプロトコルに従って実行した。また、実験に使用したマウスは、愛媛大学の動物実験のガイドラインに従って飼育した。
【0070】
(1)実験材料
(1-1)RBL-2H3細胞(ラット好塩基球細胞株)
RBL-2H3細胞はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから入手し、ペニシリ
ン100 U/mL、ストレプトマイシン100μg/mL、および5%のウシ胎仔血清(FBS)を補充し
たDMEMの中で、37℃、5%CO
2を含む湿空気の条件下で培養した。
【0071】
(1-2)骨髄細胞由来のマスト細胞(BMMC)の調製
5週齢の雌BALB/cマウスは日本SLCから購入し、特定病原体が存在しない設備内で飼育した。その環境に順応させた後、リーらの方法(Lee, E., et al.,; Immunology and Cell Biology, 83, 468-474, 2005)、またはその改良法により、6〜8週齢のマウスの大腿骨か
ら骨髄細胞を回収した。骨髄細胞をペニシリン100 U/mL、ストレプトマイシン100μg/mL
、10%FBS、および10ng/mLの組換えマウスIL-3(ReproTech)で補充したRPMI-1640培地で、37℃、5%CO
2を含有する湿空気下の条件下で7週間培養することで、骨髄マスト細胞(BMMC)への分化を誘導した。培地は週に一度交換し、その結果得られたBMMCsを、下記の脱顆粒評価系実験に使用した。
【0072】
(1-3)牛乳由来β-ラクトグロブリン(β-LG)の調製
β-LG(SIGMA社製)を10mMリン酸緩衝液(pH 7.4)に溶解した。
【0073】
(2)実験方法
(2-1)脱顆粒評価実験
(a)RBL-2H3細胞を用いた抗原誘導脱顆粒実験
実験は、ワタナベらの方法(Watanabe, J., et al.,;Bioscience, Biotechnology, and
Biochemistry, 69, 1-6, 2005)に準じて行った。RBL-2H3細胞は、96穴培養プレートに5.0×10
4細胞/ウエルの割合で播種し、37℃で一晩培養した。次いで、その細胞に、培地で希釈した抗DNP IgE(50ng/mL)を2時間継続的に感作させた。得られた細胞を、改良Tyrode緩衝液 (20mM HEPES、135mM NaCl、5mM KCl、1.8mM CaCl
2、1mM MgCl
2、5.6mMグルコースおよび0.05%のBSA、pH 7.4)で洗浄後、改良Tyrode緩衝液で様々濃度に希釈したノビレチンまたはβ-ラクトグロブリン(β-LG)で10分間処理した。次いで、最終濃度が50ng/mLとなるように改良Tyrode緩衝液で希釈したDNP-HSA 10μLを、上記細胞に加え、30分間処理した。その上清を回収した後、細胞を0.1%のTriton X-100を含む改良Tyrode緩衝液130μL中で、氷上で5秒間超音波処理し細胞を溶解した。
【0074】
上記で回収した上清と上記で得られた細胞溶解物の両方を、新しい96穴(50μL/well)のマイクロプレートの各ウエルに移し、37℃で5分間インキュベートした。その後、0.1M
のクエン酸塩緩衝液(pH 4.5)に溶解した3.3mM 4-ニトロフェニル2-アセトアミド-2-デオ
キシ-β-D-グルコピラノシド100μLを各ウエルに添加し、さらに37℃で25分間インキュベートした。
【0075】
酵素反応は、2Mのグリシン緩衝液(pH 10.4)を100μL添加することで停止した。反応液
の吸光度を、マイクロプレート・リーダ(SH-8000Lab、コロナ・エレクトリック社)を使用して、波長405nmで測定した。脱顆粒の指標としてβ-ヘキソサミニダーゼ放出率(%)を、下式に従って算出した。
【0076】
【数1】
【0077】
(b)BMMCを用いた抗原誘導脱顆粒実験
BMMCを24穴培養プレートに5.0×10
5細胞/ウエルの割合で播種し、37℃で一晩培養した
。次いで、得られた細胞を、培地で希釈した抗DNP IgE(50ng/mL)で6時間感作した。この
細胞を、改良Tyrode緩衝液で洗浄後、同緩衝液で希釈した50μMのノビレチンで60分間処
理した。その後、細胞を、改良Tyrode緩衝液で希釈したDNP-HSA(0.625μg/mL)で30分間感作した。インキュベーション後、上清を回収し、残りの細胞を0.1%のTriton X-100を含む
改良Tyrode緩衝液500μL中で、氷上で10秒間超音波処理して細胞溶解物を調製した。その後の操作は、上記(a)の記載と同じである。
【0078】
(c)A23187またはタプシガルギン(thapsigargin)で誘導する脱顆粒実験
RBL-2H3細胞は96穴ウエル培養プレートに播種し、抗DNP IgEによる感作を除いて、上述と同様にノビレチンで処理した。
【0079】
具体的には、脱顆粒に対するPI3K抑制の影響を評価するために、RBL-2H3細胞を改良Tyrode緩衝液で希釈したウォルトマンニン(wortmannin)で30分間処理した。その後、各ウエルに、最終濃度が3μMまたは1μMになるように改良Tyrode緩衝液で希釈したA23187またはタプシガルギンを10μL添加し、RBL-2H3細胞を30分間37℃で培養した。その後、β-ヘキソサミニダーゼ放出率(%)を前述する方法に従って測定した。
【0080】
(2-2)細胞の生存率の測定
RBL-2H3細胞に対するノビレチン及びβ-LGの細胞毒性は、WST-8分析キットを用いてメ
ーカーの指示に従って測定した。
【0081】
具体的には、RBL-2H3細胞を5.0×10
4細胞/ウエルの割合で96穴培養プレートに播種し、37℃で一晩培養した。抗DNP IgEで感作した後、前述するように、RBL-2H3細胞を種々濃度のノビレチンまたはβ-LGで処理し、DNP-HSAで刺激した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH
7.4)で1回洗浄した後、WST-8溶液10μL含有するDMEM100μLを、細胞培養プレートの各ウエルに添加し、37℃で30分間インキュベートした。その後、マイクロプレート・リーダ(Bio-Rad社製)を使用して450nmの吸光度を測定し、細胞の生存率(生細胞率)を算出した。
【0082】
(2-3)抗原抗体結合アッセイ
50mM 炭酸塩緩衝液(50mM NaHCO
3、50mM Na
2CO
3、pH 9.6)で0.25μg/mLになるように希
釈した100μL のDNP-HSAを、96穴のマイクロプレートの各ウエルに添加し、4℃で一晩放
置した。このプレートを、0.05%のTween 20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄し、300μL の5
%スキムミルク-PBSで4℃で一晩処理してブロッキングした。PBS-Tで3回洗浄後、PBSで
希釈した種々濃度のノビレチンまたはβ-LGあるいはDMSO(対照)を50μL添加し、37℃で20分間インキュベートした。それから、PBSで希釈した0.5μg/mL のDNP-IgEを、50μL/ウエルの割合で添加し、37℃で1時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄した後、各ウエ
ルを、5%スキムミルク-PBSで0.5μg/mLになるように希釈したビオチン化ラット抗マウスIgE(BD Pharmingen)100μLで、37℃で1時間処理した。PBS-Tで3回洗浄した後、各ウエル
を、1%のBSAを含むPBSで3,000倍に希釈したHRP-ストレプトアビジンコンジュゲート (バイオソース・インターナショナル)で、37℃で1時間処理した。その後、0.03%のH
2O
2-0.05Mのクエン酸塩緩衝液(pH 4.0)に溶解した2,2-azino-bis(3-ethylbenzothazoline-6-sulphonic acid)の2アンモニウム塩を、100μL/ウエルの割合で添加し、1.5%のシュウ酸100μLを添加して呈色反応を停止させてから、415nmの吸光度をマイクロプレート・リーダ(Bio-Rad社製)で測定した。
【0083】
(2-4)細胞内のCa
2+濃度([Ca
2+]i)の測定
[Ca2+]iは、カルシウム・キット-Fluo 3(同仁研究所)をメーカーの指示に従って使用して測定した。
【0084】
具体的には、RBL-2H3細胞を白色の96穴培養プレートに播種し、前述するように、抗DNP
IgEで感作した。これをPBSで2回洗浄後、IgE感作細胞を100μLのFluo-3 AMとともに1時間処理した。PBSで洗浄後、細胞を50μMノビレチンまたはタンパク質濃度1800μg/mLのβ-LGあるいはDMSO(対照) 120μLで、37℃で10分間処理した。その後、最終濃度が0.625μg/mLあるいは3μMとなるように改良Tyrode緩衝液で希釈した抗原(DNP-HSA)あるいはA23187を10μL添加して、細胞を刺激した。次いで、直ちにマイクロプレート・リーダ(SH-8000Lab、コロナ・エレクトリック社)を使用して、蛍光強度を490nmの励起波長および530nmの蛍光波長でモニターした。
【0085】
(2-5)イムノブロット分析
RBL-2H3細胞を、100mmの培養皿に2.5×10
6細胞の割合で接種し、前述するとおりに抗DNP IgEで感作した。細胞は改良Tyrode緩衝液で洗浄し、同緩衝液で希釈した50μM ノビレチン、5μM ウォルトマンニン、タンパク質濃度1800μg/mLのβ-LG(OKです)、あるいはDMSO(対照)で、10分間処理した。次いで、RBL-2H3細胞を、最終濃度0.625μg/mLのDNP-HSAで2分間刺激した。その後、Ishidaらに記載の方法(Ishida, M., et al; Food Chemistry, 136, 322327,2013)に従って、細胞溶解物を調製し、様々な抗体を用いてイムノブロット分析を行った。
【0086】
(2-6)マウスを用いたIgEによる受動皮膚アナフィラキシー(PCA)応答試験
このアッセイは定法(ローレントらの方法)に準じて行なった。
【0087】
具体的には5週齢の雌BALB/cマウス(日本SLC)を、特定病原体未感染の設備で飼育し、1週間環境に順応させた後、PBSで希釈した抗DNP IgE抗体(100ng)及びPBS(100ng)を、50μL容量の気密性注射器(ハミルトン)を使用して、それぞれ左耳介及び右耳介に皮内注射をした。24時間後、0.5%エバンブルーを含むPBS 200μLで希釈した抗原(DNP-HSA) 200μgを、0.5mL 容量の気密性注射器(ハミルトン)を使用して、尾静脈注射をした。ノビレチン、ウォルトマンニン及びβ-LGの効果をそれぞれ評価するために、抗DNP IgE抗体の耳介注射から23時間目に、当該マウスに、40μLのミネラルオイルで希釈したノビレチンまたはウォルトマンニンをそれぞれ50mg/kg体重/Dayまたは10mg/kg体重/Dayとなるように、または滅菌水で希釈したβ-LGを30mg/kg体重/Dayとなるように経口投与し、その1時間後に、前述するように抗原(DNP-HSA)含有5%エバンスブルーを尾静脈注射した。投与量は、キムらの方法(Kim, M. -S., et al.,; Trends in Immunology, 29, 493501, 2008)に従って決定した。
【0088】
DNP-HSAで処理した後、マウスを安楽死させ、耳を切除回収した。次いで、回収した各
耳からエバンブルー色素を500μLのホルムアルデヒドを用いて70℃で一晩抽出した。次いで、エバンブルー色素の吸光度を、Ultrospec 3000分光測光器(アマシャム・ファルマシ
ア・バイテク)を使用して、620nmで測定した。
【0089】
(2-7)タンパク質濃度の測定
タンパク質濃度はローリー法に従って測定した。具体的には、Bio-Rad社のDCプロテイ
ンアッセイ試薬を用いて定量した。
【0090】
(2-8)統計分析
上記の実験で得られたデータは、平均±標準偏差(SD)として示した。コントロールに対する違いが統計的に有意であるか否かを評価するため方法として、TukeyのテストまたはTukey-クレイマー・テストを用いた。*p<0.05、**p<0.01、あるいは***p<0.001は、統計的に有意であると考えられる。
【0091】
(3)実験結果
(A)ノビレチンを用いた実験
(A-3-1)ラット好塩基性細胞(RBL-2H3細胞)及び骨髄マスト細胞(BMMC)の抗原抗体反応依存性脱顆粒に対するノビレチンの作用
上記(2-1)に記載する方法で、RBL-2H3細胞及びBMMC(骨髄マスト細胞)の脱顆粒に対
するノビレチンの作用を評価した。抗DNP IgEで感作したRBL-2H3細胞及びBMMCをそれぞれノビレチン(0〜70μM)で処理し、抗原(DNP-HSA)で刺激することにより脱顆粒を誘導
した。脱顆粒のマーカーとして、β-ヘキソサミニダーゼを使用した。結果を
図1(A)
及び(B)に示す。
図1(A)に示すように、RBL-2H3細胞の脱顆粒はノビレチンにより
用量依存的に抑制された。30μM 以上のノビレチンで対照(コントロール)に対する有意差が認められた。また
図1(B)に示すように、ノビレチン(50μM)はBMMCの脱顆粒を
著しく抑制した。抑制されたβ-ヘキソサミニダーゼ放出率は、対照の約55%であり、こ
の割合は、RBL-2H3細胞の脱顆粒に対する抑制率とよく似ていた(
図1(A))。これら
の結果は、ノビレチンが好塩基球細胞及びBMMCのIgEを介した脱顆粒反応を抑制すること
を示している。
【0092】
(A-3-2)ノビレチンの細胞毒性
上記(2-2)に記載する方法で、ノビレチンの細胞毒性をWST-8法により評価した。
図1(C)に示すように、細胞生存率は70μMのノビレチンで減少する傾向があったが、70μMよりも低い濃度では観察されなかった。
【0093】
これらの結果は、抗原(DNP-HSA)での刺激によるRBL-2H3細胞及びBMMCの脱顆粒を、ノビレチンが細胞毒性なく抑制することを示す。
【0094】
以下の実験は、細胞毒性なく脱顆粒に対して高い阻害作用を有する50μMのノビレチン
を使用して行った。
【0095】
(A-3-3)抗体と抗原との結合に対するノビレチンの影響
上記(2-3)に記載する方法で、ノビレチンが抗原と抗体との結合を阻害するか否かを
、ELISAによって調べた。抗原抗体反応は脱顆粒誘導の最初の反応である。
【0096】
ノビレチンおよび抗DNP IgEを、DNP-HSAでコートしたマイクロプレートのウエルに添加し、呈色反応を行った。ノビレチンが抗原と抗体との結合を阻害すれば、吸光度はノビレチンの存在下で低下する。実験の結果、吸光度の低下は認められず、ノビレチンは抗原抗体反応を阻害しないことが確認された。
【0097】
(A-3-4)RBL-2H3細胞のFcεRI非依存性脱顆粒に対するノビレチンの影響
[Ca
2+]
iの増加が脱顆粒の最も一般的な原因である。A23187およびタプシガルギンを用
いて、ノビレチンがRBL-2H3細胞のFcεRI非依存性脱顆粒に関係するかどうか調べた。A23187(カルシウムイオノフォア)は、Ca
2+を原形質膜を介して細胞質内に運搬し、脱顆粒を引き起こす。タプシガルギンは、細胞質から小胞体にCa
2+をくみ出すCa
2+依存性ATPアーゼの特異的阻害剤である。この実験では、A23187及びタプシガルギンによって誘導される脱顆粒を抑制することが報告(Marquardt, D. L., et al.;. The Journal of Immunology, 156, 1942-1945, 1996)されているウォルトマンニン(PI3K阻害剤)をポジティブコントロールとして使用した。
【0098】
結果を
図2(A)及び(B)に示す。
図2(A)に示すように、ノビレチンは用量依存的にA23187及びタプシガルギンによってそれぞれ誘導されるRBL-2H3細胞の脱顆粒を著し
く抑制した。 ウォルトマンニンも報告の通り脱顆粒を抑制した。
【0099】
これらの結果は、ノビレチンが細胞質へのCa
2+流入を抑制することを示す。
【0100】
(A-3-5) [Ca
2+]
iに対するノビレチンの影響
抗原によるRBL-2H3細胞に対するFcεRIの刺激は、後に脱顆粒を伴うCa
2+流入に通じる
。Ca
2+反応に対するノビレチンの詳細な影響を調査するために、細胞内のカルシウム濃度
[Ca
2+]
iをFluo-3 AMを使用してモニターした。結果を
図3に示す。
【0101】
図3(A)に示すように、コントロール細胞内の[Ca
2+]
iはDNP-HSA(抗原)で刺激した後に急速に増加した(図中、「抗原のみ」と表示)。これに対して、ノビレチンで処理した細胞内の[Ca
2+]
iの増加は、コントロール細胞の増加と比較して、有意に抑制された。
【0102】
FcεRI非依存性Ca
2+反応に対するノビレチンの影響は、A23187を使用して検討した。
図3(B)に示すように、A23187で刺激することによって生じる細胞内の[Ca
2+]
iの増加は
、ノビレチンで処理するによって抑制された。しかしながら、A23187誘導脱顆粒の抑制効果(A23187誘導[Ca
2+]
i増加の抑制効果)は、前述する抗原誘導脱顆粒に対する抑制効果
(抗原誘導[Ca
2+]
i増加の抑制効果)(
図3(A)参照)よりも弱かった。これらの結果
は、ノビレチンが、FcεRIに依存する経路のみならず、FcεRI非依存性の経路により、細胞内の[Ca
2+]
iの増加を阻害することを示している。
【0103】
(A-3-6)FcεRIを介したシグナル経路に対するノビレチンの影響を
ノビレチンはAktのリン酸化を抑制することが報告されている(Kobayashi, S., & Tanabe, S.,: International Journal of Molecular Medicine, 17, 511-515, 2006)。Aktの上流に位置するPI3Kのリン酸化に対するノビレチンの影響を検討するために、上記(2-5)の記載に従ってイムノブロット分析を行った。
図4(A)および(B)に示すように、ウォルトマンニンと同様にノビレチンもPI3KとAktの両方のリン酸化を抑制した。
【0104】
さらに、脱顆粒に関係するシグナル経路上のタンパク質(Lyn、Syk、PLCγ-1、PLCγ-2)のリン酸化に対するノビレチンの影響を調べた。
図4(C)に示すように、ノビレチンによってPI3K の下流に位置するPLCγ-1のリン酸化は抑制されたが、Lyn、SykあるいはPLCγ-2のリン酸化は抑えられなかった。
【0105】
興味深いことには、ノビレチンによるタンパク質のリン酸化の抑制傾向は、ウォルトマンニンと非常によく似ていた。このことから、ノビレチンは、ウォルトマンニンと同様にPI3K阻害剤として作用することが示唆される。
【0106】
(A-3-7)受動皮膚アナフィラキシー(PCA)モデルマウスに対するノビレチンの影響
ノビレチンのin vivoでの抗アレルギー作用を、上記(2-6)に記載する方法で雌のBALB/cマウスを使用して評価した。IgE媒介PCA応答は、抗DNP-IgE抗体および抗原(DNP-HSA)の連続投与によって誘導した。PCA応答は、50mg/kgのノビレチンまたは10mg/kgのウォルトマンニンの経口投与によって著しく抑制された(
図5)。この結果は、ノビレチンの経口投与で抗アレルギー作用が生体内で生じることを示す。
【0107】
(B)β-ラクトグロブリン(β-LG)を使用した実験
(B-3-1)好塩基細胞(RBL-2H3細胞)の抗原抗体反応依存性脱顆粒に対するβ-LGの作用
上記(2-1)に記載する方法で、RBL-2H3細胞の脱顆粒に対するβ-LGの作用を評価した
。抗DNP IgE抗体で感作したRBL-2H3細胞をβ-LGで処理し、抗原(DNP-HSA)により脱顆粒を誘導した。脱顆粒のマーカーとしてβ-ヘキソサミニダーゼを使用した。結果を
図6に
示す。
図6に示すように、RBL-2H3細胞の脱顆粒はβ-LGにより用量依存的に抑制された。対照(コントロール)に対する有意差はタンパク質濃度1800μg/mL 以上のβ-LGで認められた。この結果は、β-LGが好塩基球細胞のIgEを介した脱顆粒反応を抑制することを示している。
【0108】
(B-3-2)β-LGの細胞毒性
上記(2-2)に記載する方法で、β-LGの細胞毒性をWST-8法により評価した。
図6に示
すように、細胞生存率はタンパク質濃度3600μg/mLのβ-LGで減少する傾向があったが、
それよりも低い濃度では観察されなかった。
【0109】
上記(B-3-1)及び(B-3-2)の結果は、抗原での刺激による好塩基球細胞の脱顆粒を、β-LGが細胞毒性なく抑制することを示す。以下の実験は、細胞毒性なく脱顆粒に対して
高い阻害作用を有するタンパク質濃度1800μg/mLのβ-LGを使用して行った。
【0110】
(B-3-3)抗体と抗原との結合に対するβ-LGの影響
上記(2-3)に記載する方法で、β-LGが抗原と抗体との結合を阻害するか否かを、ELISAによって調べた。β-LGおよび抗DNP IgE抗体を、抗原(DNP-HSA)でコートしたマイクロプレートのウエルに添加し、呈色反応を行った。β-LGが抗原と抗体との結合を阻害すれば、吸光度はβ-LGの存在下で低下する。実験の結果、吸光度の低下は認められず、β-LGは抗原抗体反応を阻害しないことが確認された。
【0111】
(B-3-4) 細胞内Ca
2+濃度([Ca
2+]
i)に対するβ-LGの影響
抗原によるRBL-2H3細胞に対するFcεRIの刺激は、後に脱顆粒を伴うCa
2+流入に通じる
。Ca
2+反応に対するβ-LGの詳細な影響を調査するために、細胞内のカルシウム濃度[Ca
2+]
iをFluo-3 AMを使用してモニターした。結果を
図7に示す。
【0112】
図7に示すように、コントロール細胞内の[Ca
2+]
iは抗原(DNP-HSA)で刺激した後に急速に増加した(図中、「抗原(+)」と表示)。これに対して、β-LGで処理した細胞内の[Ca
2+]
iの増加は、コントロール細胞の増加と比較して、有意に抑制された(図中、「抗原(+)+β-LG」と表示)。この結果は、β-LGが、少なくともFcεRIに依存する経路により、細胞内の[Ca
2+]
iの増加を阻害することを示している。
【0113】
(B-3-5) FcεRIを介したシグナル経路に対するβ-LGの影響
脱顆粒シグナル伝達に及ぼすβ-LGの影響を検討するために、上記(2-5)の記載に従ってイムノブロット分析を行い、脱顆粒に関係するシグナル経路上のタンパク質(Lyn、Syk、PI3K(p55)、PI3K(p85)、PLCγ1、PLCγ2)のリン酸化に対するβ-LGの影響を調べた。
図8に示すように、β-LGによって、Lyn の下流に位置するSyk、PI3K(p55)、PI3K(p85)、PLCγ1、及びPLCγ2のリン酸化が抑制されたが、Lynのリン酸化は抑えられなかった。このことから、β-LGはSykのリン酸化を抑制することがわかる。
【0114】
(B-3-5)受動皮膚アナフィラキシー(PCA)モデルマウスに対するβ-LGの影響
β-LGのin vivoでの抗アレルギー作用を、上記(2-6)に記載する方法で雌のBALB/cマ
ウスを使用して評価した。IgE媒介PCAは、抗DNP IgE抗体および抗原(DNP-HSA)の連続投与によって誘導した。PCA応答は、30mg/kgのβ-LGの経口投与によって著しく抑制された
(
図9)。この結果は、β-LGの経口投与により生体内で抗アレルギー作用が生じることを示す。
【0115】
(C)β-LGとノビレチンを併用した実験
(C-3-1)ラット好塩基球細胞(RBL-2H3細胞)の脱顆粒に及ぼすβ-LGとノビレチンとの
共同作用
上記(2-1)に記載する方法で、RBL-2H3細胞の脱顆粒に対するβ-LGとノビレチンとの
共同を評価した。抗DNP IgE抗体で感作したRBL-2H3細胞を、β-LG単独(タンパク質濃度
:0〜2148.6μg/mL)、ノビレチン単独(0〜50μM)、またはβ-LGとノビレチンの両方で処理し、抗原(DNP-HSA)により脱顆粒を誘導した。β-ヘキソサミニダーゼの放出を脱顆粒のマーカーとして使用した。結果を
図10に示す。
図10に示すように、RBL-2H3細胞
の脱顆粒はβ-LG単独、及びノビレチン単独よりも、両者を併用することでより一層強く
抑制されることが判明した。またその抑制効果は、β-LG及びノビレチンのいずれも用量
依存的であった。この結果から、β-LGとノビレチンとを併用することで、好塩基球細胞
の脱顆粒によるアレルギー症状がより一層抑制できることを示している。
【0116】
(C-3-2)ラット好塩基球細胞(RBL-2H3細胞)の脱顆粒に及ぼすヨーグルトとノビレチンとの共同作用
ヨーグルト(めざましプルーンヨーグルト、四国乳業株式会社製)を遠心分離に供し乳清を回収した。またノビレチンはDMSOに溶解した。斯くして調製したヨーグルト及びノビレチンを使用して、(2-1)に記載する方法に従い、RBL-2H3細胞の脱顆粒に及ぼすヨーグルト又は/及びノビレチンの作用を確認した。具体的には、抗DNP IgE抗体で感作したRBL-2H3細胞を、
図11に記載する濃度のヨーグルト乳清(タンパク質濃度2.64〜10.57μg/mL)又は/及びノビレチン(5μM及び10μM)で10分間処理して、次いで抗原(DNP-HSA)で30分間処理して感作した。脱顆粒のマーカーとしてβ-ヘキソサミニダーゼを使用して、RBL-2H3細胞の脱顆粒に対する抑制効果を評価した。
【0117】
結果を
図11に示す。これからわかるように、ヨーグルト乳清とノビレチンを併用することで、好塩基球細胞(RBL-2H3細胞)の脱顆粒が有意に抑制されることが確認された。
この結果は、ヨーグルトとノビレチンを組み合わせることでアレルギー症状を緩和することができることを示している。
【0118】
(C-3-3)受動皮膚アナフィラキシー(PCA)モデルマウスに対するβ-LGとノビレチン
との共同作用
上記(2-6)に記載する方法に従って、β-LG単独、ノビレチン単独、及びβ-LGとノビ
レチンの両者を組み合わせて、
図12に示す割合でそれぞれ雌のBALB/cマウスに経口投与し、in vivoでの抗アレルギー作用を評価した。結果を
図12に示す。PCA応答は、30mg/kg体重のノビレチン単独、及び20mg/kg体重のβ-LG単独の経口投与によっても顕著に抑制されたが、さらに両者を併用することでより一層強く抑制された。この結果は、生体内でのアレルギー反応の抑制に、β-LGとノビレチンの両方を経口投与することがより有効であることを示す。