【文献】
CHAIRAKSA Romchat et al.,New Zinc Recovery Process from EAF Dust by Lime Addition,Iron & Steel Technology Conference Proceedings,米国,Association for Iron & Steel Technology,2010年 5月 3日,vol.1,pp271-281
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、日本における粗鋼生産量の約3割は、電気炉を用いた鉄スクラップの再溶解・精錬によるものであり、鉄スクラップ中に存在する亜鉛メッキ鋼板表面の亜鉛は、溶解中に揮発、再酸化され、酸化亜鉛を含む集塵ダストとして回収されている。日本全体のダスト発生量は、年間約50〜60万トンにも達しており、自動車用メッキ鋼板スクラップ等の増加により今後とも増加の傾向にある。電気炉製鋼ダスト中には主として鉄と亜鉛の酸化物が含まれており、亜鉛形態としてはZnO・Fe
2O
3、ZnOなどから成り、いかに効率よくZnOとFe
2O
3とを分離して、枯渇性希少資源である亜鉛分を回収できるかが重要である。
【0003】
現在、電気炉製鋼ダスト処理として国内外ともに採用されている主流の方法は、Waelz法である(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。Waelz法は、ロータリーキルンを用い、電気炉製鋼ダストに炭材を加え、重油バーナー等で1300℃程度まで加熱して酸化亜鉛を還元し、一旦亜鉛蒸気として揮発させるものである。生成された亜鉛蒸気は、雰囲気中のCO
2、O
2によって再酸化されるため、亜鉛は最終的には粗酸化亜鉛の形で回収され、亜鉛製錬メーカーに供給されている。一方、亜鉛分が抽出された後の残渣は炉外に排出され、一部はクリンカーとして電気炉原料としてリサイクルされるものの、他の大半は路盤材やセメント原料、あるいは埋立て材として処理されている。最近では、電気炉製鋼メーカーやWaelzキルン事業者内に保管されるケースが多い。
【0004】
Waelz法によって亜鉛分が抽出された後の残渣の利用が促進されない大きな理由は、残渣中に含まれる亜鉛の量が多いことによる。電気炉製鋼ダスト中の亜鉛含有量15.9〜37.4重量%に対して、残渣中の亜鉛含有量は0.24〜6.0重量%に及ぶ(例えば、非特許文献1参照)。残渣中のFe分が多いためセメント原料としての利用は制限されるのは当然である。その他に、炭材由来の硫黄分、スラグ量増加に繋がるSiO
2分も利用制限に繋がるが、Fe分を多く含む残渣を鉄鋼原料として利用できないのは、主として亜鉛含有量が多いためである。亜鉛は鉄鋼業の高炉で循環するので、鉄鋼原料として許容される亜鉛含有量の上限値を、0.1%程度としている。このため、Waelz法においては、亜鉛の還元を促進するために、炉内温度上昇、還元時間増加で対処しており、エネルギー的にも、経済的にも課題である。
【0005】
残渣中の亜鉛分が多い理由としては、ZnO・Fe
2O
3が還元する過程でFe
3O
4、FeOを経由するが、FeO中にZnOが固溶して安定化するため、ZnOの還元が進行せず、残渣中に亜鉛が残留しやすいことが主な原因である(非特許文献2参照)。熱力学的に認められているこの現象を解決する方法は現在無く、残渣の利用拡大は進んでいない。
【0006】
上述した問題点を解決するために、本発明者らは、電気炉製鋼ダスト中のFeのモル数の2倍以上モル数のCaO分をダストに添加し、空気中で900℃以上、1000℃以下で、60時間以上、120時間以下に保持することにより、ダスト中の亜鉛主成分であるZnO・Fe
2O
3を、ZnOと2CaO・Fe
2O
3とに変化させ、生成されたZnOと2CaO・Fe
2O
3とを、両者の磁気的性質の違いを利用して、高磁場勾配によって磁気分離する方法を提案している(特許文献2参照)。しかしながらこの方法は、磁気分離工程に難があり、実用化には至っていない。
【0007】
さらに本発明者らは、電気炉製鋼ダストと、その電気炉製鋼ダスト中のFeのモル数と当量以上のモル数のCaを含むカルシウム化合物とを混合後、非還元性雰囲気中で960℃以上、1100℃以下で1〜3時間熱処理して、ZnOと2CaO・Fe
2O
3とを得る工程と、ZnOと2CaO・Fe
2O
3とに、ZnOのモル数と当量以上のモル数の鉄粉末を混合し圧粉する工程と、得られた圧粉体を減圧容器の内部で加熱して亜鉛蒸気を発生させ、亜鉛蒸気を冷却凝固して固体の亜鉛片を得る工程等を有する亜鉛回収方法を提案している(特許文献3参照)。しかしながらこの方法は、亜鉛回収のために、熱処理後、さらに多くの工程を必要とする点で難があり、工程数の削減が求められる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0024】
本発明の一実施形態に係る鉄鋼ダストの処理方法、亜鉛の生産方法及び還元鉄の生産方法は、
亜鉛を含有する鉄鋼ダストに、上記鉄鋼ダスト中のFeのモル数と当量以上のモル数のCaを含むカルシウム化合物を添加する工程と、
上記カルシウム化合物が添加された上記鉄鋼ダストを炉内で加熱還元する工程と、を有する。
【0025】
上記各方法において、ダスト中の亜鉛主成分であるジンクフェライト(ZnO・Fe
2O
3)は、所定以上の量のカルシウム化合物の添加により、酸化亜鉛(ZnO)とダイカルシウムフェライト(2CaO・Fe
2O
3)とに変化し、酸化亜鉛(ZnO)の還元により亜鉛が蒸発する。一方、ZnO・Fe
2O
3から2CaO・Fe
2O
3への反応を経ることで、従来主流のWaelz法のようにZnO・Fe
2O
3を直接的に還元する場合と比較して、FeOの生成が阻止され、あるいはFeOの生成が抑制される。その結果、Waelz法と比較して、FeO中へ固溶するZnOの量が極力少なくなり、亜鉛回収量も向上する。
したがって本実施形態によれば、Waelz法よりも効率よく亜鉛を回収することができるとともに、亜鉛含有量が少ない残渣を還元鉄として回収することができる。
【0026】
鉄鋼ダストとしては、典型的には、電気炉製鋼ダストが挙げられる。これ以外にも、鉄クラップ等、亜鉛を含有する種々の鉄鋼ダストが対象となる。以下、鉄鋼ダストを単に「ダスト」ともいう。
【0027】
従来主流のWaelz法では、Ca分を添加しないか、添加量が少ないため、炭材を用いて還元する場合、ダスト中のZnO・Fe
2O
3、ZnO、Fe
2O
3は、炭材中のカーボン(C)と下記の反応を起こす。
ZnO・Fe
2O
3+4C=Zn(g)+2Fe+4CO(g)
ZnO+C=Zn(g)+CO(g)
Fe
2O
3+3C=2Fe+3CO(g)
【0028】
Waelz法における1200〜1300℃の温度範囲では、Fe
2O
3の還元反応が速く、Feが生成する。その結果、このFeとZnOが下記の反応を起こし、FeOが生成する。
ZnO+Fe=Zn(g)+FeO
【0029】
このFeO中に、還元される前のZnOが固溶し、ZnOの還元を阻害する。従って、Waelz法では、前述したように残渣中のZnが0.24〜6.0重量%含まれることになる。これが原因で、Waelz法の残渣を例えば鉄源として再利用することは難しい。発明者らは、従来のWaelz法の課題を明確にするために、本発明の方法に対する比較例として実験を行った。これに関しては後述する。
【0030】
[カルシウム化合物の添加工程]
本実施形態では、ダストに上記所定量のCaを含むカルシウム化合物を添加することにより、加熱還元工程においてZnO・Fe
2O
3をZnOと2CaO・Fe
2O
3とに変化させる。すなわち本実施形態の基本的な考え方は、Fe
2O
3の還元反応によるFeOの生成を抑制するために、ダスト中に存在するZnO・Fe
2O
3とFe
2O
3を、全量2CaO・Fe
2O
3に変換させるために十分な量のCaを含むカルシウム化合物を添加することにある。
【0031】
本発明者らはまず、当該加熱還元工程における2CaO・Fe
2O
3からのFeOの生成の有無を
図1に示す自製の実験装置1を用いて確認した。実験装置1は、電気炉で構成される。
図1において符号2は、炉内に還元ガス(水素とアルゴンの混合ガス)の気流を形成するための石英管、符号4は、炉内にサンプル3をセットするためのアルミナボート、符号5は、炉内温度を検出する熱電対である。なお発熱体の図示は省略している。
【0032】
サンプルとして、試薬で合成した2CaO・Fe
2O
3と試薬のZnOとをモル比1:1で混合したサンプルを加圧して直径10mm、高さ10〜15mmのブリケットを作製した。続いて、このサンプルを炉内にセットし、水素ガス気流中で600℃、1時間の還元を行った。
【0033】
還元後のサンプルのX線回折結果を
図2に示す。2CaO・Fe
2O
3から直接Feが生成しており、FeOを経由しないことが分かる。即ち、Waelz法において課題であったZnOが固溶して安定化してしまうFeOが生成することはなく、残渣中の亜鉛が大幅に減少すると期待される。また同時に、亜鉛の回収効率の向上が図れると期待される。
【0034】
カルシウム化合物は、上述のようにダスト中に存在するZnO・Fe
2O
3とFe
2O
3を全量2CaO・Fe
2O
3に変換させるために十分な量のCaを含む必要がある。一方、混合されるCa分は、2CaO・Fe
2O
3の生成だけに利用されるわけではなく、ダスト中に含有されるSiO
2やAl
2O
3等との化合物の生成にも消費される。
【0035】
ダスト中のFe分が全量2CaO・Fe
2O
3に変換されるのに必要なFe分のモル数に対するCa分のモル数の比率を1.0とした場合、SiO
2及びAl
2O
3がゼロならば、理論的にはこの1.0の数値で目的が達成できるはずである。しかし、SiO
2及びAl
2O
3が存在すれば、CaO・SiO
2及びCaO・Al
2O
3等の化合物生成のためにCa分が余分に必要である。
【0036】
表1に代表的な電気炉製鋼ダストの化学組成例を示す。ダスト種類A〜Eから、CaO・SiO
2及びCaO・Al
2O
3の化合物生成のために必要なCa分を計算すると、2CaO・Fe
2O
3に変換するのに必要なCa分の比率1.0に対して、0.05〜0.10余分にCa分が必要である。さらに、2CaO・SiO
2及び3CaO・Al
2O
3の化合物生成のために必要なCa分の余分は、0.11〜0.23となる。従って、2CaO・Fe
2O
3に変換するのに必要なCa分の比率は、上述した余分の最大値を加算して1.23となる。
【0038】
しかし、2CaO・Fe
2O
3に変換するのに必要なCa分の比率1.0(SiO
2及びAl
2O
3に消費されるCa分を加算すると1.23)の値は、あくまでも化学当量の値であり、ダスト中に混合されたCa分とダスト中のZnO・Fe
2O
3とFe
2O
3の接触機会等を考慮すると、この値よりさらに大きくなることが予想される。
【0039】
そこで本発明者らは、
図3に示す実験装置6を用いて、ダスト中のZnO・Fe
2O
3とFe
2O
3を、全量2CaO・Fe
2O
3に変換させるために必要なCaを含むカルシウム化合物の添加量について検討した。実験装置6は電気炉で構成される。
図3において符号7は、炉内を加熱する発熱体、符号8は、炉内温度を検出する熱電対、符号9は、サンプル10を収容するアルミナルツボである。
【0040】
サンプル10として、Zn=22.4重量%、Fe=26.5重量%、SiO
2=4.70重量%、Al
2O
3=2.36重量%の電気炉製鋼ダストに、試薬のCaOを添加し、加圧した直径10mm、高さ約10mmのブリケットを作製した。続いて、このサンプルを炉内にセットし、大気開放の雰囲気で700〜1100℃、1〜7時間の加熱を行い、ダスト中の全亜鉛に対するZnOの比率の変化を測定した。また、ダスト中Fe分のモル数に対する添加するCa分のモル数を1.0〜1.4まで変更した。
【0041】
加熱後の分析結果を
図4及び
図5に示す。
図4は、加熱温度1000℃におけるダスト中の全亜鉛に対するZnOの比率と反応時間との関係を示し、
図5は、反応時間5時間におけるダスト中の全亜鉛に対するZnOの比率と加熱温度との関係を示している。加熱前におけるサンプル中の全亜鉛に対するZnOの比率は、0.337であった。
【0042】
なお、ZnOの比率測定方法には3種類の溶解法を用いた。その溶解法は、イオン交換水による浸出、10ミリリットルの酢酸アンモニウムと5gの塩化アンモニウムと25ミリリットルの水とを混合した溶液による浸出、及びアルカリ溶融法である。イオン交換水はZnCl
2のみを溶かし,上記溶液はZnOとZnCl
2を溶かす。そしてアルカリ溶融は全ての亜鉛化合物を溶かすため、これらの溶液による浸出結果を用いることでZnOの濃度を求め、比率に換算した。
【0043】
電気炉製鋼ダスト中のZnO・Fe
2O
3が、CaOを添加することにより2CaO・Fe
2O
3とZnOに変換される。
図4及び
図5の縦軸に示すように、所定時間以上あるいは所定温度以上で、ダスト中の全亜鉛に対するZnOの比率がほぼ1.0に近い値で一定となっている。このことは、ZnO・Fe
2O
3が全量2CaO・Fe
2O
3に変換されていることを表している。なお、縦軸が1.0にならないのは、ダスト中に亜鉛のその他の形態(例えばZnCl
2)が含まれているからであると推定される。
【0044】
図4によると、1.0時間で反応はほぼ終了している。
図5によると、温度が高くなるほど全量2CaO・Fe
2O
3に変換されるCa分とFe分のモル比(図中Ca/Fe)が高くなり、1100℃ではCa/Fe=1.3以上で全量2CaO・Fe
2O
3に変換されることが分かる。
【0045】
上述のように、Feのモル数に対するCaのモル数の比率(図中Ca/Fe)を1.3以上とすることで、ダイカルシウムフェライト(2CaO・Fe
2O
3)をより効率よく生成することができる。Fe分に対するCa分のモル比の上限は特に限定されないが、あまり多量のCa分を添加すると、炉内の装入物量が増加して加熱に要するエネルギーが大となる。ここでは、Fe分に対するCa分のモル比の上限を1.4とするが、勿論この値に限定されることはなく、ダスト中に含まれるSiO
2やAl
2O
3の量等に応じて、適宜変更することが可能である。
【0046】
上記カルシウム化合物には、例えば、生石灰(CaO)、消石灰(Ca(OH)
2)、炭酸カルシウム(CaCO
3)等を単独で、又はこれらを組み合わせて、用いることができる。これらのカルシウム化合物は、比較的入手性に優れるため、コスト的に有利である。
【0047】
消石灰は517℃で分解してCaOを生成し、炭酸カルシウムは885℃で分解してCaOを生成する。
図5に示すように、2CaO・Fe
2O
3は700℃では既にかなりの量が生成し、900℃でほぼ生成を完了するほど反応が速くなるので、Caを含むカルシウム化合物の種類によらない。
【0048】
なお
図3〜
図5に示す実験例において加熱雰囲気を大気としたのは、ZnOの還元を阻止してダスト中の全亜鉛に対するZnOの比率を測定するためである。還元加熱下においても上記の各Ca比率におけるZnO/2CaO・Fe
2O
3の生成効率と反応時間及び加熱温度との関係については
図4及び
図5と同様の結果が得られることが、本発明者らによって確認されている。
【0049】
[加熱還元工程]
ダスト中のZnO・Fe
2O
3がZnOと2CaO・Fe
2O
3とに分離された後、炉内で加熱還元される。これによりダスト中の亜鉛成分が蒸発する。したがって別途の還元工程を必要とすることなく、亜鉛を回収することができるとともに、亜鉛成分が減少した残渣(還元鉄)を得ることができる。
【0050】
カルシウム化合物が添加されたダストを加熱還元する方法は特に限定されず、ダストに炭材がさらに混合されてもよいし、炉内に還元ガスが添加されてもよい。炭材としては、典型的には、石炭、グラファイト、コークス等の炭素質材料が挙げられる。還元ガスとしては、典型的には、水素のほか、メタン、エタン、プロパン等の炭化水素が挙げられる。
【0051】
加熱還元炉も特に限定されず、典型的には、ロータリーキルン、ロータリーハースが用いられるが、電気炉が用いられてもよい。炉内の圧力は大気圧でもよいし、減圧雰囲気であってもよい。
【0052】
還元加熱工程における炉内温度は、1200℃未満が好ましい。
図5に示すように、2CaO・Fe
2O
3は700℃では既にかなりの量が生成し、900℃でほぼ生成を完了する(Ca/Feが1.3以上の場合)。従って温度が高いほど生成速度は速くなることから高温の方が好ましい。一方、CaOとFe
2O
3の間には、1205℃で融液を生成する組成があり、この融液を起点として、炉内に付着物が生成される。そこで本実施形態では、炉内に温度分布があることを考慮して、炉内温度を1200℃未満、好ましくは1100℃程度に調整する。
【0053】
一例として、株式会社豊栄商会製のロータリーキルンに、電気炉製鋼ダストに対してCa/Fe=1.4となるように消石灰(Ca(OH)
2)を混合し、ブリケット(約10mm×30mm)状に成形したサンプルを装入した。炉内温度1230℃の運転条件で、キルン内レンガ面の温度が最大1129℃に達した状態では、運転終了冷却後、キルン内レンガ面に黒色の強固な付着物が生成していた。また、炉内温度1195℃の運転条件で、キルン内レンガ面の温度を最大1096℃に調整したときは付着物が生成していなかった。
【0054】
回収される亜鉛成分は、典型的には金属亜鉛であるが、酸化亜鉛等の亜鉛化合物であってもよい。回収方法は特に限定されず、例えば、炉内又は炉外に設置した低温体(冷却パイプ、冷却パネル等)に、ダストから揮発した亜鉛蒸気を接触、凝縮させる方法が挙げられる。
【0055】
本実施形態におけるダストの加熱還元処理は、上述のようにダストを還元性雰囲気で加熱し、あるいは炭材の共存下で加熱することで、ダスト中の酸化亜鉛を還元し、ダストから亜鉛を揮発させる。これにより亜鉛成分の少ない高品位の残渣を得ることができる。また本実施形態によれば、ダストから効率よく亜鉛成分を回収することができる。
【0056】
以上のように本実施形態によれば、Waelz法で課題であった残渣中の亜鉛を大幅に低減でき、残渣の鉄鋼業の原料としての再利用が大幅に可能となる、電気炉製鋼ダスト等の亜鉛含有ダストからの亜鉛回収方法を提供することができる。さらに、Waelz法で課題であった、炉内温度上昇を抑制でき、かつ還元時間も著しく短縮できるので、エネルギー的、経済的にも効率的な亜鉛回収方法を提供できる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0058】
サンプルとして、Zn=22.4重量%、Fe=26.5重量%、SiO
2=4.70重量%、Al
2O
3=2.36重量%、塩素=3.75重量%の電気炉製鋼ダストに、炭材として黒鉛粉末を添加し、さらに試薬のCaOを添加したサンプルを加圧して直径10mm、高さ約10mmのブリケットを作製した。ダスト中Fe分のモル数に対する添加するCa分のモル数の比率を1.4とした。
【0059】
続いて上記サンプルを本発明者等が自製した
図6に示す実験装置11を用い、窒素気流中で1100℃、15分の加熱を行った。比較例として、CaOを含まない実験も実施した。実施例及び比較例における黒鉛粉末及びCaOの配合量を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
図6に示すように実験装置11は、内部に炉室を形成する石英管12と、石英管12の周囲が配置された発熱体13と、サンプル14を支持するアルミナボート15と、石英管12の直上位置において炉内にセットされたアルミナボート15をワイヤーで懸吊支持しつつサンプル13の重量変化を検出する歪ゲージ16とを有する。なお符号17は熱遮蔽板、18は熱電対、19は耐火レンガである。
【0062】
実験装置内のサンプルの加熱時における重量減少の経時変化を
図7に示す。図中、実線は実施例に係るサンプルの重量変化を、破線は比較例に係るサンプルの重量変化を、そして一点鎖線は熱電対18で測定された炉内温度をそれぞれ示している。
【0063】
実施例に係るサンプル(CaOあり)は、比較例(CaOなし)に比べて重量減少速度が速い。これは、2CaO・Fe
2O
3の生成により分離したZnOが、比較例におけるZnO・Fe
2O
3よりも還元速度が速いためである。このことから本発明は、Waelz法よりも低温でかつ短時間でZnOを還元することができるため、エネルギー的にも経済的にも有利であることが確認される。
【0064】
また、実験終了後の残渣の亜鉛分を分析した結果を表3に示す。本実施例では0.07重量%(脱亜鉛率99.7%)であり、比較例の4.61重量%(脱亜鉛率87.8%)と対比すると、顕著な亜鉛残留量の減少が認められ、本発明の優れた効果が実証されている。
さらに、実験終了後の残渣の塩素の分析結果によると、本発明による実施例では0.05重量%(脱塩素率98.8%)であり、比較例の1.65重量%(脱塩素率74.1%)と対比すると、顕著な塩素含有量の減少が認められた。つまり本発明によれば、亜鉛だけでなく塩素の除去率も高いことが確認された。
【0065】
【表3】
【0066】
さらに、残渣のFe分、Ca分の分析値より、Caのモル数と、電気炉製鋼ダスト中のFeのモル数の比率(Ca/Fe)を計算したところ、表4が得られた。表4から、本実施例(CaOあり)に係る(Ca/Fe)の値は、比較例(CaOなし)のそれよりも高いことが分かる。
【0067】
【表4】
【0068】
図8は、実施例における還元後のサンプルのX線回折パターンであり、
図9は、比較例における還元後のサンプルのX線回折パターンである。
【0069】
図8に示すように、カルシウム化合物を混合した電気炉製鋼ダストを加熱還元した場合、2CaO・Fe
2O
3の生成が優先して起こり、FeOの生成はわずかであった。このFeO中にZnOが固溶されていないことは、前述したように、残渣の亜鉛分の分析(0.07重量%しか含まれていない)で確認されている。
【0070】
一方、
図9に示すように、カルシウム化合物を混合しない比較例については、検出されたのはFeとFeOのみである。FeOの回折パターンは、他成分の固溶によると思われるピークシフトを示しており、前述した残渣の亜鉛分の分析で確認された4.61重量%という高い値の亜鉛分は、ZnOとして存在せずFeO中に固溶していると推定される。
【0071】
ここで、実施例(
図8)において比較例(
図9)よりもFeOの生成量が少ない理由は、CaOとZnO・Fe
2O
3との反応が進む分、FeOの生成が抑制されるためである考えられる(
図2を参照して説明した実験例参照)。
また、実施例においてFeOが生成する理由は、CaOとZnO・Fe
2O
3との反応の完了前に、一部のFe
2O
3によるFeOへの還元が進行するためであると推定される。
さらに、微量ながらも生成されたFeOにZnOが固溶しにくい理由は、比較例におけるZnO・Fe
2O
3からZnOが生成される速度よりも、実施例におけるZnOと2CaO・Fe
2O
3が生成される速度の方が、速いからであると考えられる。
【0072】
以上のように、本実施例によれば、鉄鋼原料として許容される亜鉛含有量の上限値0.1重量%を下回るため、鉄鋼原料としての大幅利用が期待される。また、操業温度の低下、還元時間の著しい短縮にも繋がり、エネルギー的にも、経済的にも効率的な亜鉛回収方法として、拡大することが期待できる。
【0073】
[参考例]
なおWaelz法においては、ロータリーキルン内の付着物生成の抑制等を目的として、電気炉製鋼ダストにCa分を添加する技術が提案されている。例えば、特公平2−47529号公報)には、付着物生成抑制、電気炉製鋼ダスト中のフッ素等のハロゲン分の除去率向上を目的として、CaO/SiO
2が重量比で2.5以上とする例(以下、技術1)が開示されており、特開2003−342649号公報には、ZnOの還元促進を目的として、CaO/炭材を質量比で0.03以上、好ましくは0.13以上とする例(以下、技術2)が開示されており、さらに特開2013−159797号公報には、付着物生成抑制のため、CaO/SiO
2を重量比で1.5以上とし、かつCaO源の粒度を、−0.2mm比率が80質量%以上となるように調整する例が開示されている。
【0074】
しかしながら、これら技術で提案されているCa分の添加量は、本発明に比べてかなり少ない。一例として、上記技術1,2におけるダスト中のFe分、Ca分のデータから、Caのモル数と、電気炉製鋼ダスト中のFeのモル数の比率を計算すると表5のとおりとなる。表5において「ウェルツ」のデータは上記非特許文献1に記載のデータであり、「四阪」のデータは、「四阪工場における製鋼煙灰処理」(Journal of MMIJ,Vol.123(2007)No.12 726−729)に記載のデータである。表5に示すように、Waelz法におけるCa分の添加量は、Ca/Feの比率で0.19から0.63あり、本発明と比較して著しく低い値であることが明らかである。
【0075】
【表5】
【解決手段】本発明の一形態に係る鉄鋼ダストの処理方法は、亜鉛を含有する鉄鋼ダストに、上記鉄鋼ダスト中のFeのモル数と当量以上のモル数のCaを含むカルシウム化合物を添加し、上記カルシウム化合物が添加された上記鉄鋼ダストを炉内で加熱還元する。上記鉄鋼ダスト中のFeのモル数に対する上記カルシウム化合物中のCaのモル数の比率は、1.3以上1.4以下に調整される。