特許第6113359号(P6113359)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6113359クリープ特性に優れたAl含有フェライト系ステンレス鋼材と、燃料電池用部材
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  • 特許6113359-クリープ特性に優れたAl含有フェライト系ステンレス鋼材と、燃料電池用部材 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6113359
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】クリープ特性に優れたAl含有フェライト系ステンレス鋼材と、燃料電池用部材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170403BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20170403BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20170403BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20170403BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALI20170403BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20170403BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20170403BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/38
   C22C38/60
   C21D9/46 R
   H01M8/06 G
   H01M8/04 N
   !H01M8/12
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-521378(P2016-521378)
(86)(22)【出願日】2016年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2016060185
【審査請求日】2016年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-213300(P2015-213300)
(32)【優先日】2015年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100126848
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 昭雄
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(72)【発明者】
【氏名】木村 謙
(72)【発明者】
【氏名】秦野 正治
(72)【発明者】
【氏名】松本 和久
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−222638(JP,A)
【文献】 特開2009−167443(JP,A)
【文献】 特開2011−162843(JP,A)
【文献】 特開平10−251809(JP,A)
【文献】 特開平11−043719(JP,A)
【文献】 特開2005−163126(JP,A)
【文献】 特開平01−156427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46− 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%にて、Cr:11.0〜25.0%、C:0.001%以上0.030%以下、Si:0.01%以上2.00%以下、Mn:0.01%以上2.00%以下、Al:0.50%以上4.90%以下、P:0.050%以下、S:0.0100%以下、N:0.030%以下を含み、Ti:0.010%以上1.000%以下、Nb:0.010%以上1.000%以下の1種または2種を含み、かつB:0.0005%以上0.0025%以下、Sn:0.005%以上0.500%以下の1種または2種を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
板厚の中心から両表面方向に板厚の1/4の厚さの領域の金属組織がフェライト組織であって、前記フェライト組織は結晶粒度番号が8.0以下の再結晶粒又は展伸粒の少なくともいずれかであり、
700℃、初期応力25MPaの試験条件にて、JIS Z 2271に準拠する定荷重試験を行った時の最小クリープ速度が1.0×10−2(%/h)以下となるクリープ特性を有することを特徴とするクリープ特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材。
【請求項2】
質量%にて、更に、Ni:1.00%以下、Cu:1.000%以下、Mo:2.000%以下、W:1.00%以下、Sb:0.500%以下、Co:0.50%以下、V:0.50%以下、Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Zr:0.50%以下、La:0.100%以下、Y:0.100%以下、Hf:0.10%以下、REM:0.100%以下の1種または2種以上含有していることを特徴とする請求項1に記載のクリープ特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフェライト系ステンレス鋼材を用いた燃料電池用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ガス、メタン、天然ガス、プロパン、灯油、ガソリン等の炭化水素系燃料を水素に改質する際に使用される改質器、熱交換器などの燃料電池高温部材に好適なフェライト系ステンレス鋼材及びその製造方法に関する。特に、改質ガス環境を含む高温環境下において材料損傷を抑止した耐クリープ強さならびに耐酸化性が要求される固体酸化物型燃料電池(SOFC)の高温部材に好適である。
【背景技術】
【0002】
最近、石油を代表とする化石燃料の枯渇化、CO2排出による地球温暖化現象等の問題から、従来の発電システムに替わる新しいシステムの普及が加速している。その1つとして、分散電源,自動車の動力源としても実用的価値が高い「燃料電池」が注目されている。燃料電池にはいくつかの種類があるが、その中でも固体高分子型燃料電池(PEFC)や固体酸化物型燃料電池(SOFC)はエネルギー効率が高く、将来の普及拡大が有望視されている。
【0003】
燃料電池は、水の電気分解と逆の反応過程を経て電力を発生する装置であり、水素を必要とする。水素は、都市ガス(LNG)、メタン、天然ガス、プロパン、灯油、ガソリン等の炭化水素系燃料を触媒の存在下で改質反応させることにより製造される。中でも都市ガスを原燃料とする燃料電池は、都市ガス配管が整備された地区において水素を製造できる利点がある。
【0004】
燃料改質器は、水素の改質反応に必要な熱量を確保するため、通常、200〜900℃までの高温で運転される。更に、このような高温運転下において、多量の水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素等を含む酸化性の雰囲気に曝され、水素の需要に応じて起動・停止による加熱・冷却サイクルが繰り返される。これまで、このような過酷な環境下において十分な耐久性を有する実用材料として、SUS310S(25Cr−20Ni)に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼が使用されてきた。将来、燃料電池システムの普及拡大に向けて、コスト低減は必要不可欠であり、使用材料の最適化による合金コストの低減は重要な課題である。
【0005】
上述した背景から、アルミナの高い耐酸化性を有するAl含有フェライト系ステンレス鋼の燃料改質器への適用が開示されている。特許文献1には、Cr:8〜35%、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Mn:1.5%以下、Si:0.8〜2.5%及び/又はAl:0.6〜6.0%であり、更にNb:0.05〜0.80%、Ti:0.03〜0.50%、Mo:0.1〜4%、Cu:0.1〜4%の1種又は2種以上を含み、Si及びAlの合計量が1.5%以上に調整された組成を有する石油系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼が開示されている。これらステンレス鋼は、200〜900℃の温度域で材料を繰り返し加熱・冷却する熱疲労試験において(拘束率50%)、初期の最大引張応力が3/4まで低下する破損繰り返しが500cyc以上であることを特徴としている。また、耐酸化性は石油系燃料改質器が曝される雰囲気を想定し、50体積%HO+20体積%CO及び50体積%HO+10ppmSO中で評価されている。
【0006】
特許文献2には、Cr:8〜25%、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Si:0.1〜2.5%、Mn:1.5%以下、Al:0.1〜4%を含み、更にNb:0.05〜0.80%、Ti:0.03〜0.5%、Mo:0.1〜4%、Cu:0.1〜4%の1種又は2種以上を含むアルコール系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼が開示されている。これらステンレス鋼は、200〜900℃の温度域で材料を繰り返し加熱・冷却する熱疲労試験において(拘束率100%)、初期の最大引張応力が3/4まで低下する破損繰り返しが1000cyc以上であることを特徴としている。また、耐酸化性はアルコール系燃料改質器が曝される雰囲気を想定し、50体積%HO+20体積%CO中で評価されている。
【0007】
特許文献3には、Cr:12〜20%、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.95〜1.5%、Al:1.5%以下とし、Nb:0.1〜0.8、Mo:0.1〜4%、Cu:0.1〜4.0の1種又は2種以上を含み、A=Cr+Mn+5(Si+Al)で定義されるA値が15〜25の範囲に調整された炭化水素系燃料改質器用フェライト系ステンレス鋼が開示されている。これらステンレス鋼は、200〜900℃の温度域で材料を繰り返し加熱・冷却する熱疲労試験において(拘束率100%)、初期の最大引張応力が3/4まで低下する破損繰り返しが800cyc以上であることを特徴としている。また、耐酸化性は炭化水素系燃料改質器が曝される雰囲気を想定し、50体積%HO+20体積%CO中で評価されている。
【0008】
特許文献4には、C:0.02%未満、Si:0.15〜0.7%、Mn:0.3%以下、P:0.035%以下、S:0.003%以下、Cr:13〜20%、Al:1.5〜6%、N:0.02%以下、Ti:0.03〜0.5%、Nb:0.001〜0.1%以下、鋼中の固溶Ti量を[Ti]、鋼中の固溶Nb量を[Nb]とし、13≦Cr≦16の場合は0≦[Ti]≦[Nb]+0.05、0<[Nb]≦0.10を満たし、16<Cr≦20の場合は0≦[Ti]≦1/2×[Nb]+0.15、[Ti]≦0.12、0<[Nb]≦0.1を満足することを特徴とする燃料電池用Al含有フェライト系ステンレス鋼が開示されている。これらステンレス鋼は、750℃、初期応力10MPaのクリープ破断時間が4000h以上であることを特徴としている。また、耐酸化性は1050℃、20体積%HO+20体積%O中(残部窒素)で評価されている。
【0009】
特許文献5には、C:0.001〜0.03%、Si:0.01〜2%、Mn:0.01〜1.5%、P:0.005〜0.05%、S:0.0001〜0.01%、Cr:16〜30%、N:0.001〜0.03%、Al:0.8〜3%、Sn:0.01〜1%を含み、800℃での0.2%耐力が40MPa以上、引張強さ60MPa以上であることを特徴とする耐酸化性と高温強度に優れた高純度フェライト系ステンレス鋼板が開示されている。これらステンレス鋼の耐酸化性は1050℃、大気中で評価されている。
【0010】
フェライト系ステンレス鋼を燃料改質器や燃料電池システムの高温部材へ適用するには高温使用時に変形が少ないことが必要になる。このような視点から特許文献1〜3が熱疲労試験により材料が破損するサイクル数、特許文献4はクリープ試験で材料が破断する時間、特許文献5は高温引張試験で測定される高温強度を評価対象としている。実際の使用環境では高温で長時間使用されることからクリープ特性が評価指標として最適であることが予測されるが、そのような観点での検討は特許文献4のみである。
【0011】
フェライト系耐熱鋼のクリープ特性を向上させる手法としては、これまで多くの技術が開示されているが、添加元素としてBが有効であることが知られている。
【0012】
例えば、特許文献6には、C:0.01〜0.05%、Si:0.01〜0.8%、Mn:2%以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Cr:8〜13%、Ni:0.1〜2.0%、W単独またはWとMoを複合添加で0.50〜2.5%、V:0.05〜0.30%、Nb:0.02〜0.20%、B:0.001〜0.01%、Al:0.005〜0.20%、N:0.01〜0.06%を含有することを特徴とする溶接部の靭性に優れたフェライト系耐熱鋼が開示されている。
【0013】
また、特許文献7には、C:0.01以上0.08%未満、N:0.01〜0.10%、Si:0.50%以下、Mn:0.05〜0.50%、Cr:8.00〜13.00%、W:1.50%超〜3.50%%、Mo:0.50%以下、V:0.10〜0.30%、Nb:0.01〜0.15%、さらにNi:0.20%以下、Co:0.20%以下、Cu:0.20%以下、B:0.0010〜0.0100%に制限することを特徴とする高温クリープ強度に優れた高クロムフェライト系耐熱鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第3886785号公報
【特許文献2】特許第3910419号公報
【特許文献3】特許第3942876号公報
【特許文献4】特許第5544106号公報
【特許文献5】特許第5709570号公報
【特許文献6】特許第3475621号公報
【特許文献7】特許第3869908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
近年、普及拡大が期待されるSOFCシステムの場合、燃料改質器、熱交換器などの部品は500〜800℃の温度域で連続運転される。SOFCシステムの耐久・実証試験において、これら部位にフェライト系ステンレス鋼を使用した場合、高温運転中のクリープ変形、特に構造体としての耐久性向上の視点から700℃付近の僅かな変形を抑止することが新たな課題と位置付けられている。
【0016】
特許文献1〜5に開示された鋼材は、材料の破損・破壊に対する寿命を上昇させたものであり、上記のクリープ変形に対する有効性については不明である。更に、このようなクリープ強さに効果的な微量元素の作用効果についても何ら言及されていない。一方、特許文献6及び特許文献7に開示されている技術の対象は金属組織が焼もどしマルテンサイト組織であり、そのような金属組織のもとでBは炭化物の安定化及び粒界強化に寄与してクリープ特性を向上させると考えられている。ところが、特許文献1〜5には、前記SOFCシステムに適用できる程度に、フェライト単相組織からなるAl含有フェライト系ステンレス鋼のクリープ特性向上を示唆する技術を開示も示唆もない。
【0017】
また、Al含有フェライト系ステンレス鋼においてSnがクリープ特性に及ぼす影響についてはこれまで明らかにされていない。
【0018】
以上に述べた通り、改質ガスを含む高温環境下の耐久性として新たな課題であるクリープ特性を実現したフェライト系ステンレス鋼については未だ出現していないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記した課題を解決するために、Al含有フェライト系ステンレス鋼の成分組成とクリープ特性の関係について鋭意実験と検討を重ね、本発明を完成させた。以下に本発明で得られた知見について説明する。
【0020】
(a)焼もどしマルテンサイト組織を有するフェライト系耐熱鋼と異なり、再結晶組織及び回復組織の少なくともいずれかの組織を有し、且つマルテンサイト組織を含まない高Al含有フェライト系ステンレス鋼においては、最終の金属組織によってBによるクリープ特性の向上効果が発揮される場合と発揮されない場合がある。
【0021】
(b)Bによるクリープ特性の向上効果が現れる時の金属組織は結晶粒径が比較的大きい場合である。すなわち高Al含有フェライト系ステンレス鋼においてBによるクリープ特性向上効果を発揮するための最適な金属組織(結晶粒径)が存在することが明らかとなった。図1に18%Cr−2%Al−0.1%Ti鋼にBを0.0010%添加したときの最小クリープ速度比ε’B/ε'0(B添加鋼の最小クリープ速度ε’B(%/h)とB無添加鋼の最小クリープ速度ε'0の比)と結晶粒度番号の関係を示す。クリープ試験は700℃、25MPaで実施し、結晶粒度番号はJIS G 0552で測定した。図より、結晶粒度番号8.0より大きい場合は、最小クリープ速度比は約1であるが、結晶粒度番号が8.0以下では最小クリ−プ速度比が大きく低下している。
【0022】
(c)最終焼鈍後の結晶粒径は、製造条件によって大きく変化する。特に最終冷延率及びその後の熱処理における昇温速度が遅いほど結晶粒径が大きくなる傾向がある。
【0023】
(d)Bの代わりにSnを単独添加した場合にも、クリープ特性の向上効果を得ることが出来、更に、SnとBを複合添加した場合にはそれぞれの元素を単独添加した場合よりも顕著な向上効果を得られる。その詳細な理由は不明であるが、SnもB同様に鋼中で偏析する元素であるため、Bと同じメカニズムである可能性がある。
【0024】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであり、以下の構成を要旨とする。
【0025】
(1)質量%にて、Cr:11.0〜25.0%、C:0.001%以上0.030%以下、Si:0.01%以上2.00%以下、Mn:0.01%以上2.00%以下、Al:0.50%以上4.90%以下、P:0.050%以下、S:0.0100%以下、N:0.030%以下を含み、Ti:0.010%以上1.000%以下、Nb:0.010%以上1.000%以下の1種または2種以上を含み、かつB:0.0005%以上0.0025%以下、Sn:0.005%以上0.500%以下の1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、板厚の中心から両表面方向に板厚の1/4の厚さの領域の金属組織がフェライト組織であって、前記フェライト組織は結晶粒度番号が8.0以下の再結晶粒又は展伸粒の少なくともいずれかであり、700℃、初期応力25MPaの試験条件にて、JIS Z 2271に準拠する定荷重試験を行った時の最小クリープ速度が1.0×10−2(%/h)以下となるクリープ特性を有することを特徴とするクリープ特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材。
(2)質量%にて、更に、Ni:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Mo:2.00%以下、W:1.00%以下、Sb:0.50%以下、Co:0.50%以下、V:0.50%以下、Ca:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Zr:0.50%以下、La:0.100%以下、Y:0.100%以下、Hf:0.10%以下、REM:0.100%以下の1種または2種以上含有していることを特徴とする(1)に記載のクリープ特性に優れたフェライト系ステンレス鋼材。
(3)(1)又は(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼材を用いた燃料電池用部材。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、SOFCシステムのように改質ガスを含む500〜800℃の高温環境下において連続的に使用された場合であってもクリープ変形、特に構造体としての耐久性向上の視点から重要である700℃付近の僅かな変形が抑止されるAl含有フェライト系ステンレス鋼材を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】18%Cr−2%Al−0.1%Ti鋼にBを0.0010%添加したときの最小クリープ速度比ε’B/ε'0と結晶粒度番号の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0029】
(I)成分の限定理由を以下に説明する。
【0030】
Crは、耐食性、クリープ特性及び耐酸化性を向上する元素である。本発明においては、11.0%未満では目標とするクリープ特性並びに耐酸化性が十分に確保されない。従って、下限は11.0%とする。しかし、過度なCrの添加は高温雰囲気に曝された際、脆化相であるσ相の生成を助長することに加え、合金コストの上昇を招くため、上限は25.0%とする。基本特性及び耐酸化性、製造性の点から、好ましい範囲は13.0〜22.0%である。より好ましい範囲は、16.0〜20.0%である。
【0031】
Cは、耐食性を劣化させるため少ないほど好ましく、上限を0.030%とする。但し、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.001%とする。クリープ特性、耐酸化性と製造性の点から、好ましい範囲は0.002〜0.020%である。
【0032】
Siは、本発明の目標とする耐酸化性を確保する上で重要な元素である。これら効果を得るために下限は0.01%とする。一方、過度な添加は、鋼の靭性や加工性の低下ならびに本発明の目標とするAl系酸化皮膜の形成を阻害する場合もあるため、上限は2.00%とする。耐酸化性、製造性及び成形性の点から、1.00%以下が好ましい。Siの効果を積極的に活用する場合は0.30〜1.00%の範囲とすることが好ましい。
【0033】
Mnは、改質ガス環境下でSiとともに酸化皮膜中に固溶して保護性を高める。これら効果を得るために下限は0.01%とする。一方、過度な添加は、鋼の耐食性や本発明の目標とするTiやAl系酸化皮膜の形成を阻害するため、上限は2.00%以下とする。耐酸化性と基本特性の点から、1.00%以下が好ましい。Mnの効果を積極的に活用する場合は0.20〜1.00%の範囲とすることが好ましい。Mnは含有しなくても良い。
【0034】
Alは、脱酸元素に加えて、本発明の目標とするAl系酸化皮膜を形成してCr蒸発を抑止するために必須の添加元素である。本発明においては、0.50%未満では目標とするCr蒸発の抑止効果が得られない。従って、下限は0.50%とする。しかし、過度なAlの添加は、鋼の靭性や溶接性の低下を招き生産性を阻害するため、合金コストの上昇とともに経済性にも課題がある。上限は、基本特性と経済性の視点から4.90%とする。本発明のCr蒸発抑止及び基本特性と経済性の点から、好適な範囲は1.00〜4.00%であり、更に好ましくは1.25〜3.50%である。製造上の観点も考慮した最も好ましい範囲は、1.50〜2.50%である。
【0035】
Pは、製造性や溶接性を阻害する元素であり、その含有量は少ないほど良いため、上限は0.050%とする。但し、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.003%とすることが好ましい。製造性と溶接性の点から、好ましい範囲は0.005〜0.040%、より好ましくは0.010〜0.030%である。
【0036】
Sは、鋼中に含まれる不可避的不純物元素であり、本発明の目標とするAl系皮膜の保護性を低下させる。特に、Mn系介在物や固溶Sの存在は、高温・長時間使用におけるAl系酸化皮膜の破壊起点としても作用する。従って、S量は低いほど良いため、上限は0.0100%とする。但し、過度の低減は原料や精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.0001%とする。製造性と耐酸化性の点から、好ましい範囲は0.0001〜0.0020%、より好ましくは0.0002〜0.0010%である。
【0037】
Nは、Cと同様に本発明の目標とする耐酸化性を阻害する。このため、N量は少ないほど良く、上限を0.030%とする。但し、過度な低減は精錬コストの上昇に繋がるため、下限は0.002%とすることが好ましい。耐酸化性と製造性の点から、好ましい範囲は0.005〜0.020%である。
【0038】
Bは本発明における重要な元素である。高Al含有ステンレス鋼においては、結晶粒径との組み合わせでクリープ特性を向上させる効果を持つ。Bによるクリープ特性向上効果が発揮されるのは0.0005%以上の添加であるためこれを下限とする。一方、過度の添加は製造性の劣化を招く。またクリープ特性向上効果は飽和するため、0.0025%を上限とする。好ましい範囲は0.0005〜0.0012%である。
【0039】
また、Bの代わりにSnを単独添加することによってもクリープ特性の向上効果を得ることが出来る。添加による効果は0.005%以上で発揮されるためこれを下限とする。一方、多量の添加は製造性の劣化を招くため、0.500%を上限とする。製造性を考慮して好ましい範囲は0.010〜0.300%であり、更に好ましい範囲は0.020〜0.120%である。また、SnとBの複合添加は、それぞれの元素を単独添加した場合よりも更にクリープ特性が向上するため望ましい。
【0040】
Ti、Nbは1種または2種を下記のように添加する。
【0041】
Tiは、C,Nを固定する安定化元素の作用による鋼の高純度化を通じてクリープ特性及び耐酸化性を向上させる。これら効果を得るために、Tiの下限は0.010%とすることが好ましい。一方、過度な添加は合金コストの上昇や再結晶温度上昇に伴う製造性の低下や耐酸化性の低下にも繋がるため、上限は1.000%とする。合金コストや製造性ならびに耐酸化性の点から、好ましい範囲は0.050〜0.500%である。更に、Tiの効果を積極的に活用する好適な範囲は0.100〜0.400%である。
【0042】
Nbは、C,Nを固定する安定化元素の作用による鋼の高純度化を通じてクリープ特性及び耐酸化性を向上させる。これら効果を得るために、Nbの下限は0.010%とすることが好ましい。一方、過度な添加は合金コストの上昇や再結晶温度上昇に伴う製造性の低下や耐酸化性の低下にも繋がるため、上限は1.000%とする。合金コストや製造性ならびに耐酸化性の点から、好ましい範囲は0.050〜0.500%である。更に、Nbの効果を積極的に活用する好適な範囲は0.200〜0.600%である。
【0043】
上記の基本組成に加えて下記の元素を選択的に添加しても良い。
【0044】
Ni、Cu、Mo、W、Sb、Co、Vは、当該部材の高温強度と耐食性を高めるのに有効な元素であり、必要に応じて添加する。但し、過度な添加は合金コストの上昇や製造性を阻害することに繋がるため、Ni、Wの上限は1.00%、Cuの上限は1.000%とする。Moは熱膨張係数の低下による高温変形の抑制にも有効な元素であることから、上限は2.000%とする。Co、Vの上限は0.50%、Sbの上限は0.500%とする。いずれの元素もより好ましい含有量の下限は0.10%とする。
【0045】
Ca、Mgは、熱間加工性や2次加工性を向上させる元素であり、必要に応じて添加する。但し、過度な添加は製造性を阻害することに繋がるため、上限は0.0050%とする。好ましい下限は0.0001%とする。
【0046】
Zr、La、Y、Hf、REMは、熱間加工性や鋼の清浄度を向上ならびに耐酸化性改善に対して有効な元素であり、必要に応じて添加しても良い。但し、本発明の技術思想と合金コストの低減から、これら元素の添加効果に頼るものでは無い。添加する場合、Zrの上限は0.50%、La、Y、Hf、REMの上限はそれぞれ0.100%とする。Zrのより好ましい下限は0.01%、La、Y、Hf、REMの好ましい下限は0.001%とする。ここで、REMは原子番号57〜71に帰属する元素であり、例えば、Ce、Pr、Nd等である。
【0047】
以上説明した各元素の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることが出来る。一般的な不純物元素である前述のP、Sを始め、Bi、Pb、Se、H、Ta等は可能な限り低減することが好ましい。一方、これらの元素は、本発明の課題を解決する限度において、その含有割合が制御され、必要に応じて、Bi≦100ppm、Pb≦100ppm、Se≦100ppm、H≦100ppm、Ta≦500ppmの1種以上を含有してもよい。
【0048】
次に金属組織について説明する。
本発明のフェライト系ステンレス鋼材は、板厚の中心から鋼材の両表面方向に板厚の1/4の厚さの領域における金属組織がフェライト組織或いは実質的にフェライト単相であって、前記フェライトの結晶粒度番号が8.0以下である。尚、「実質的にフェライト単相」の金属組織とは、光学顕微鏡観察において、例えば、オーステナイト相及びマルテンサイト相の組織が認められず、フェライト相と析出物とからなる組織をいう。
【0049】
前記フェライトの結晶粒度番号が8.0超の場合、B添加によるクリープ特性向上効果が発揮されないため、この粒度番号を下限とする。結晶粒径が大きい方がクリープ特性が優れるため、結晶粒度番号は7.0以下であることが好ましい。なお結晶粒径を測定する範囲は、鋼材の一方の表面から板厚の中心方向へ板厚の1/4の深さと、鋼材の他方の表面から板厚の中心方向へ板厚の1/4の深さとの間の肉厚部分とする。本発明者らの検討によると、クリープ特性は板厚中心に近い部分が支配しているためこの部分の結晶粒径が重要となる。一般的に結晶粒径が大きいほどクリープ特性が優れるため、結晶粒径が大きい板厚中心近傍の組織がクリープ特性を支配していると推察される。結晶粒径の測定方法はJIS G 0552に準拠した方法で行う。また最終冷延後の熱処理において板厚中心近傍が展伸粒となる場合があるが、この場合も同様の手法で結晶粒度番号を測定する。
【0050】
(II)製造方法について以下に説明する。
まず、上述の金属組織を得るための製造方法について述べる。
本発明のフェライト系ステンレス鋼材は、熱間圧延後、冷間圧延と熱処理を組み合わせる工程で製造する。冷間圧延及び熱処理の回数は特に規定しないが、最終の冷間圧延率の上限は85%とする。これ以上の冷間圧延率とすると最終の熱処理後に微細な再結晶粒となり、所定のクリープ特性を満足することが出来ない。好ましくは80%以下である。下限は特に規定する必要はないが、形状を作り込むために30%以上の冷延率とすることが好ましい。
【0051】
また、本発明においては最終焼鈍工程における昇温条件の制御が重要となる。最終冷間圧延後の熱処理の昇温過程において400℃〜700℃における昇温速度を15℃/s以下とする。15℃/sを超えると熱処理後の結晶粒径が微細になり、B添加によるクリープ特性向上効果が発揮されない。好ましくは12℃/s以下である。到達温度は900℃以上とする。尚、目標到達温度が900℃以上であれば、700℃〜目標到達温度までの昇温速度は、特に限定されない。900℃未満の場合、未再結晶粒が残存して硬質化するため、十分な成形性が得られない。また到達温度の上限は特に規定する必要はないが、高すぎる場合には成形時の肌荒れが顕著になるため、1050℃以下とすることが好ましい。
【0052】
本発明によりクリープ特性に優れた鋼が得られる理由は、次のように考えられる。
まず、Bによるクリープ特性向上効果が、金属組織(結晶粒径)によって異なる原因について述べる。Bは結晶粒界偏析元素であるため、最終焼鈍過程において結晶粒界に偏析すると考えられる。結晶粒界が細かい場合、結晶粒界面積が大きくなるため、単位粒界面積当たりのBの粒界偏析量が減少することが予測される。Bが粒界強化元素として作用するための最適なB量が存在し、それを下回る時にクリープ特性向上効果が発揮されないと考えられる。すなわち、Bによるクリープ特性が発揮されるためには適切なB量及び粒界面積に制御することが重要と考えられる。
【0053】
また、最終焼鈍工程において400℃〜700℃までの昇温速度が速い場合には、昇温時に再結晶核が多く生成し、結晶粒径が微細化するためにクリープ特性が劣化する。昇温速度を規定した温度範囲(400℃〜700℃)は、冷間圧延で導入されたひずみの回復が生じる温度域と考えられ、この温度域において再結晶を抑制しつつ転位を減少させた後に再結晶あるいは回復をさせることで前述した金属組織が得られると考えられる。
【0054】
SnはB同様に粒界に偏析しやすい元素であるため、上述したBと同様のメカニズムによって、Snの添加によってクリープ特性が向上すると考えられる。
【0055】
上記のようにBは焼もどしマルテンサイト鋼のクリープ特性向上元素として知られているが、Al含有フェライト系ステンレス鋼の場合、金属組織によってその効果は異なることを明確にしたことが新たな知見であり、結晶粒径を制御することでBの効果を最大限発揮したことが本発明の重要なポイントである。また、Snの添加によってもクリープ特性向上の効果が得られることを知見したこともまた、本発明の重要なポイントである。
【0056】
尚、前記クリープ特性は、700℃、初期応力25MPaの試験条件にてJIS Z 2271に準拠する定荷重試験を行った時の最小クリープ速度が1.0×10−2(%/h)以下になることが好ましい。前記好ましいクリープ特性は、本発明に係る鋼材で構成される燃料改質器、熱交換器などの部品が500〜800℃の温度域で連続運転されることを想定したものである。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の実施例について述べる。
【0058】
表1に成分を示す各種フェライト系ステンレス鋼を溶製し、熱間圧延、焼鈍酸洗、冷間圧延を行い、表2に示す条件で板厚0.8〜2.0mmの冷延鋼板No.1〜24を製造した。尚、表2において、項目「最終冷間圧延率」について説明する。ステンレス鋼冷延材は、1回以上の冷間圧延を実施している。材質の向上や特性(硬質)によっては複数回の冷間圧延を実施する場合があり、2回冷延法、3回冷延法などのように冷間圧延の回数で呼ばれる。「最終冷間圧延」とは、最終製品形状とするために行った最後の冷間圧延工程における冷間圧延のことであり、2回冷延法の場合には2回目の冷間圧延、3回冷延法の場合は3回目の冷間圧延のことを指す。なお、1回の冷間圧延において複数パスを行うことが一般的であり、当該最終冷間圧延における複数パスの総圧延率を「最終冷間圧延率」とする。項目「昇温速度」及び「到達温度」は、該当する冷延鋼板を最終冷間圧延後に行われる最終焼鈍工程における昇温速度と、到達温度を示す。また、得られた鋼板の光学顕微鏡組織を行い、板厚の1/4〜3/4厚みにおいてJIS G 0552に準拠した方法で結晶粒度番号を測定した。測定結果を表2の項目「結晶粒度番号D」に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
クリープ試験は、JIS Z 2271準拠する定荷重試験とし、平行部10mm幅で35mm長さの板状試験片を用いた。試験条件は、700℃、初期応力25MPaとし、本発明の課題である僅かな高温変形に関わる耐クリープ強さを評価するために、最小クリープ速度を評価した。最小クリープ速度が1.0×10−2(%/h)以下となった場合にクリープ特性が良好であると評価した。
【0062】
得られた結果を表2に併記した。本発明で規定する成分及び金属組織を満たした本発明例は高いクリープ特性を満足している。また、BとSnを複合添加したNo.3とNo.15の鋼板では、1.0×10−3(%/h)以下となり、B或いはSnのいずれかを単独添加した鋼板よりも更に高いクリープ特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、クリ−プ特性の良好なAl含有フェライト系ステンレス鋼材を提供することが出来る。したがって、燃料電池、ガスタービン、発電システムなどに用いられる高温部材、エキゾーストマニホールド、コンバータ、マフラー、ターボチャージャー、EGRクーラー、フロントパイプ、センターパイプ等の自動車部材、ストーブ・ファンヒータ等の燃焼機器、圧力鍋等の圧力容器など、高温環境下で使用される部材全般に好適な材料を提供することが出来る。
【要約】
本発明は、改質ガスを含む高温環境下において優れたクリープ特性を有するフェライト系ステンレス鋼材を提供する。前記フェライト系ステンレス鋼材は、質量%にて、Cr:11.0〜25.0%、C:0.001%以上0.030%以下、Si:0.01%以上2.00%以下、Mn:0.01%以上2.00%以下、Al:0.50%以上4.90%以下、P:0.050%以下、S:0.0100%以下、N:0.030%以下を含み、Ti:0.010%以上1.000%以下、Nb:0.010%以上1.000%以下の1種または2種以上を含み、かつB:0.0005%以上0.0025%以下、Sn:0.005%以上0.500%以下の1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、板厚の1/4〜3/4厚みにおける結晶粒度番号が8.0以下のフェライト組織よりなることを特徴とする。
図1