特許第6113363号(P6113363)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6113363少なくとも1つの高障壁層を有する多重量子井戸を備えたオプトエレクトロニクス半導体チップ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113363
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】少なくとも1つの高障壁層を有する多重量子井戸を備えたオプトエレクトロニクス半導体チップ
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/06 20100101AFI20170403BHJP
   H01S 5/34 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   H01L33/06
   H01S5/34
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-528508(P2016-528508)
(86)(22)【出願日】2014年7月22日
(65)【公表番号】特表2016-527721(P2016-527721A)
(43)【公表日】2016年9月8日
(86)【国際出願番号】EP2014065750
(87)【国際公開番号】WO2015011155
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2016年3月25日
(31)【優先権主張番号】102013107969.5
(32)【優先日】2013年7月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】599133716
【氏名又は名称】オスラム オプト セミコンダクターズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Osram Opto Semiconductors GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】イヴァール トングリング
(72)【発明者】
【氏名】フェリックス エアンスト
【審査官】 吉野 三寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−166712(JP,A)
【文献】 特開平05−102604(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0046205(US,A1)
【文献】 特開平07−235732(JP,A)
【文献】 特開2012−019218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
H01S 5/00− 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オプトエレクトロニクス半導体チップ(10)であって、
p型半導体領域(4)と、
n型半導体領域(6)と、
前記p型半導体領域(4)と前記n型半導体領域(6)との間に配設された活性層(5)とを含み、
前記活性層(5)は、多重量子井戸構造(7)として構成されており、
前記多重量子井戸構造(7)は、交互に配設された量子井戸層(71)及び障壁層(72,73)をそれぞれ有し、
前記n型半導体領域(6)よりも前記p型半導体領域(4)近傍に配置された少なくとも1つの前記障壁層は、高障壁層(73)であり、
前記高障壁層(73)は、残りの障壁層(72)の電子バンドギャップEbより大きい電子バンドギャップEhbを有しており
さらに前記p型半導体領域に対向する側が前記少なくとも1つの高障壁層(73)に接する少なくとも1つの量子井戸層(74)は、
残りの量子井戸層(71)のバンドギャップEwよりも小さい電子バンドギャップElwを有している
および/または
前記残りの量子井戸層(71)の厚さよりも大きい厚さを有している、
ことを特徴とする、オプトエレクトロニクス半導体チップ(10)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの高障壁層(73)は、以下の関係、
hb−Eb≧0.05eV
を満たす前記バンドギャップEhbを有している、請求項1記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項3】
前記多重量子井戸構造(7)は、10以下の高障壁層(73)を有している、請求項1または2記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項4】
前記p型半導体領域から出発して、最初のk個の障壁層は高障壁層であり、ただし前記kは、1から10の間の数である、請求項3記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項5】
前記多重量子井戸構造(7)は、高障壁層(73)を1つだけ有している、請求項1から5いずれか1項記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項6】
前記高障壁層(73)は、前記p型半導体領域から出発してm番目の量子井戸層(71)である量子井戸層(71)と、直ぐ近くに隣接する量子井戸層(71)との間に配置されており、ただし前記mは、1から20までの間の数である、請求項5記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項7】
前記mは1である、請求項6記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項8】
前記多重量子井戸構造(7)は、前記n型半導体領域(6)よりも前記p型半導体領域(4)近傍に配置されている複数の高障壁層(73)を有している、請求項1から4いずれか1項記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項9】
少なくとも1つの前記高障壁層(73)と残りの前記障壁層(72)は、それぞれにおいて、一般式InxAlyGa1-x-yP,InxAlyGa1-x-yN,またはInxAlyGa1-x-yAs、ただし0≦x≦1,0≦y≦1,およびx+y≦1で表される材料系を有し、ただし前記少なくとも1つの高障壁層(73)のアルミニウム含有量yは、前記残りの障壁層(72)のアルミニウム含有量yよりも多い、請求項1から8いずれか1項記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項10】
前記残りの障壁層(72)の数は、少なくとも10である、請求項1から9いずれか1項記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項11】
前記残りの障壁層(72)の数は、少なくとも20である、請求項10記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項12】
前記バンドギャップEbを有する前記残りの障壁層(72)の数は、前記増加したバンドギャップEhbを有する1つ以上の前記高障壁層(73)の数よりも少なくとも5倍大きい数である、請求項1から11いずれか1項記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【請求項13】
前記バンドギャップEbを有する前記残りの障壁層(72)の数は、前記増加したバンドギャップEhbを有する1つ以上の前記高障壁層(73)の数よりも少なくとも10倍大きい数である、請求項1から12いずれか1項記載のオプトエレクトロニクス半導体チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重量子井戸構造として形成された活性層を有するオプトエレクトロニクス半導体チップに関している。
【0002】
この特許出願は、独国特許出願第102013107969.5号明細書の優先権を主張するものであり、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
ビーム発光型オプトエレクトロニクス半導体チップ、例えばLEDチップやレーザダイオードチップの場合、ビーム発光は、通常は動作温度に依存する。典型的には、温度の上昇に伴いビーム発生効率の低下も観察されなければならない。動作温度が非常に高い場合のビーム発生効率の減少は、輝度の著しい低下にも結びつく。例えばInGaAlP系半導体材料を含み、550nm〜640nmの波長領域のビーム発光型半導体チップの場合、室温から約100℃までの温度上昇が生じると、ビーム発光を安定化させるための適切な手段が何も講じられない限り、80%程度までの輝度の低下が現れる。
【0004】
本発明の課題は、ビーム発光の温度依存性を減少させた点で優れたビーム発光型オプトエレクトロニクス半導体チップを提供することにある。
【0005】
前記課題は、独立請求項1に係るオプトエレクトロニクス半導体チップによって解決される。本発明の好ましい構成例および改善例は、従属請求項の対象である。
【0006】
このオプトエレクトロニクス半導体チップは、少なくとも1つの態様によれば、p型半導体領域と、n型半導体領域と、p型半導体領域とn型半導体領域との間に配置され多重量子井戸構造として形成された活性層とを含んでいる。この多重量子井戸構造は、互い違いに配設されている障壁層と量子井戸層とをそれぞれ有し、ここでの障壁層は、量子井戸層よりも大きな電子バンドギャップを有している。
【0007】
このオプトエレクトロニクス半導体チップでは、好ましくはn型半導体領域よりもp型半導体領域近傍に配置された多重量子井戸構造の障壁層の少なくとも1つが高障壁層である。この高障壁層とは、本発明においては次のような障壁層と理解されたい。すなわち多重量子井戸構造の残りの障壁層の電子バンドギャップEbよりも大きい電子バンドギャップEhbを有している障壁層である。換言すれば、多重量子井戸構造の障壁層は、少なくとも1つの高障壁層を除いてそれぞれ電子バンドギャップEbを有しており、一方n型半導体領域よりもp型半導体領域近傍に配置された1つ以上の高障壁層の電子バンドギャップEhbの値は、前記Ebよりも大きい値まで高められている(Ehb>Eb)。少なくとも1つの高障壁層のより大きな電子バンドギャップEhbを達成するために、当該少なくとも1つの高障壁層は、好ましくは、多重量子井戸構造の残りの障壁層の材料組成とは異なる材料組成を有している。多重量子井戸構造の前記高障壁層として形成されていない残りの障壁層は、好ましくはそれぞれ同一の材料組成と同一の電子バンドギャップEbを有している。
【0008】
p型半導体領域に対向する多重量子井戸構造の領域内への少なくとも1つの高障壁層の挿入は、この高障壁層が特に正孔に対して電荷担体障壁として作用するという利点を有している。この場合正孔の方が、電子に比べて高障壁層を通過することが困難であることはわかっている。そのため、p型半導体領域から多重量子井戸構造に注入された正孔は、阻害なく多重量子井戸構造全体に分散されずに、好ましくは、p型半導体領域と少なくとも1つの高障壁層との間に配置されている1つ若しくは複数の量子井戸層内に結集される。この多重量子井戸構造内での正孔の不均一な分散によって、特に低温時の、例えば室温での、ビーム発生効率は減少する。一方、より高温の場合では、正孔にとって多重量子井戸構造のp型半導体領域に対向する領域の高障壁層を通過することは比較的容易である。つまり正孔は、温度の上昇と共に多重量子井戸構造内へ均一に分散され、それによってビーム発生のための電荷担体再結合が多重量子井戸構造の比較的広い範囲に亘って行われる。この理由から、少なくとも1つの高障壁層によるビーム発生効率の減少は、温度が高ければ高いほど少なくなる。
【0009】
量子井戸構造内へ挿入された少なくとも1つの高障壁層による低温時の、特に室温でのビーム発生効率の減少は、本明細書で開示する多重量子井戸構造のもとでは、ビーム発光型半導体素子の場合に典型的に観察される温度上昇時の効率低下に対抗させるために意識的に受け入れられている。ビーム発光型半導体素子の効率は、典型的には、温度の上昇と共に低下する。なぜなら電荷担体の比較的高い移動性に基づく活性領域内における電荷担体の閉じ込めが悪化し、ひいては活性層外での非放射性の再結合の形態で損失の増加も現れるからである。多重量子井戸構造において、p型半導体領域に対向する領域へ少なくとも1つの高障壁層を挿入することは、温度の上昇と共にビーム発生効率を高めることにつながる、逆作用を引き起こす。そのため、温度上昇に伴い通常観察される輝度の低下は、この逆作用によって減少されるか若しくは好適に補償される。それ故このオプトエレクトロニクス半導体チップは、温度安定性の向上により、発光ビームの輝度が改善される。
【0010】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの高障壁層は、以下の関係、
hb−Eb≧0.05eV
を満たす電子バンドギャップEhbを有している。つまり高障壁層の材料組成は、好ましくは当該高障壁層が残りの障壁層よりも少なくとも0.05eVだけ大きい電子バンドギャップを有するように選択される。特に好ましい変化実施例によれば、少なくとも1つの高障壁層の電子バンドギャップEhbは、残りの障壁層の電子バンドギャップよりも0.1eVだけ大である。
【0011】
多重量子井戸構造は、好ましくは10以下の高障壁層を有する。多重量子井戸構造における高障壁層の数は、好ましくは1乃至10の間、特に好ましくは1乃至5の間である。
【0012】
オプトエレクトロニクス半導体チップの一実施形態によれば、p型半導体領域から出発して、多重量子井戸構造の最初のk個の障壁層は高障壁層であり、但し前記kは1乃至10の間の数、特に好ましくは1乃至5の間の数である。
【0013】
好ましい実施形態によれば、多重量子井戸構造は厳密に1つの高い障壁層を有している。この厳密に1つの高障壁層を除いて、残りの全ての障壁層は、好ましくはそれぞれ同一のバンドギャップEbを有する。この厳密に1つの高障壁層の挿入は、多数の高障壁層を使用する場合に比べて室温でのビーム発生効率がより穏やかに減少する利点を有する。
【0014】
高い障壁層を正確に1つだけ使用する場合、この高障壁層は、好ましくはp型半導体領域から出発してm番目の量子井戸層と、直ぐ近くに隣接する量子井戸層との間に配設される。但し前記mは、1乃至20の間の数、好ましくは1乃至10の間の数である。換言すれば、この実施形態では、1乃至20個、好ましくは1乃至10個の量子井戸層が、p型半導体領域と高障壁層との間に配置され、残りの全ての量子井戸層は、高障壁層とn型半導体領域との間に配置されている。それ故に低い動作温度のもとでは、正孔は、好ましくはp型半導体領域と高障壁層との間のm個の量子井戸層に結集される。
【0015】
本実施形態では、特に前記mは1であってもよい。このケースでは、高障壁層は、p型半導体領域から出発して第1の量子井戸層と第2の量子井戸層との間に配置されている。この実施形態では、多重量子井戸構造の最も外側の量子井戸層のみが、高障壁層を用いて残りの量子井戸層から分離されている。
【0016】
さらなる実施形態によれば、多重量子井戸構造は、高障壁層を1つだけ有しているのではなく、n型半導体領域よりもp型半導体領域近傍に配置された複数の高障壁層を有している。複数の高障壁層を使用する場合には、場合によっては室温での効率の一層の減少を甘受しなければならないが、但しこのことは、高温での輝度のさらに大きな低下を減少若しくは補償すらしてしまう可能性も提供する。そのため高障壁層を持たない多重量子井戸構造に比べて、室温での輝度は顕著に減少してしまうが、但し温度安定性は大幅に向上する。
【0017】
前記多重量子井戸構造は、リン化物化合物半導体、とりわけ一般式InxAlyGa1-x-yP、ただし0≦x≦1,0≦y≦1,およびx+y≦1で表される材料系を基礎とすることができ、550nm〜640nmの波長領域で発光するために設けられていてもよい。この種の活性層を有するオプトエレクトロニクス半導体チップでは、少なくとも1つの高障壁層が特に好ましい。なぜならそのようなオプトエレクトロニクス半導体チップは、典型的には発光される輝度が高い温度依存性を有しているが、この温度依存性は少なくとも1つの高障壁層を用いて減少若しくは補償することができるからである。
【0018】
また代替的に、前記多重量子井戸構造は、窒化物化合物半導体、とりわけ一般式InxAlyGa1-x-yN、ただし0≦x≦1,0≦y≦1,およびx+y≦1で表される材料系を基礎とすることができ、例えば紫外線や青色スペクトル領域で発光するために設けられていてもよい。さらに前記多重量子井戸構造は、砒化物化合物半導体、とりわけ一般式InxAlyGa1-x-yAs、ただし0≦x≦1,0≦y≦1,およびx+y≦1で表される材料系を基礎とすることができ、例えば約700nm〜800nmまでの赤色および/または赤外線スペクトル領域で発光するために設けられていてもよい。
【0019】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの高障壁層と残りの障壁層は、それぞれにおいて、一般式InxAlyGa1-x-yP,InxAlyGa1-x-yN,InxAlyGa1-x-yAs,ただし0≦x≦1,0≦y≦1,およびx+y≦1で表される材料系を有し、ただし少なくとも1つの高障壁層のアルミニウム含有量yは、残りの障壁層のアルミニウム含有量yよりも多い。このアルミニウム含有量の増加は、好ましくは残りの障壁層に比べ、高障壁層の電子バンドギャップの拡大を引き起こす。
【0020】
多重量子井戸構造において、高障壁層として構成されていないそれぞれ同じ電子バンドギャップEbを有している残りの障壁層の数は、好ましくは少なくとも10であり、より好ましくは少なくとも20である。この残りの障壁層の数は、例えば10〜100の間の数であってもよいし、好ましくは、拡大されたバンドギャップを有する高障壁層の数の少なくとも5倍、特に好ましくは少なくとも10倍の数であってもよい。
【0021】
別の好適な実施形態によれば、p型半導体領域に面した側が少なくとも1つの高障壁層に接している少なくとも1つの量子井戸層は、残りの量子井戸層のバンドギャップEwよりも小さい電子バンドギャップElwを有している。これにより、このp型半導体領域に面した側が少なくとも1つの高障壁層に接している量子井戸層において、バリア効果に基づき非常に高い電荷キャリア密度が形成されることが見出された。このことは、電荷担体再結合が、より高い励起状態からも起こることを意味し、そのような再結合によって比較的大きなエネルギーと比較的短い波長を有するビームが発光されるようになる。これにより生じる発光スペクトルの比較的短い波長へのシフトは、好ましくは次のことによって減少若しくは完全に補償することができる。すなわち、少なくとも1つの高障壁層に接する量子井戸層に、残りの量子井戸層よりも小さいバンドギャップを持たせることによって低減若しくは完全に補償することが可能である。
【0022】
発光スペクトルが比較的短い波長へシフトする作用を減少若しくは補償する別の代替的な手段は、p型半導体領域に面した側が少なくとも1つの高障壁層に接している少なくとも1つの量子井戸層に、残りの量子井戸層よりも大きな厚みを持たせることである。この量子井戸層の厚みの増加も、電子バンドギャップを低減させることに類似して、発光波長を増加させ、したがって不所望な作用の抑制若しくは補償をもたらす。
【0023】
以下では本発明を、図1乃至図6に関連する実施例に基づいてより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に係るオプトエレクトロニクス半導体チップの概略的断面図
図2】第2実施形態に係るオプトエレクトロニクス半導体チップの概略的断面図
図3】第3実施形態に係るオプトエレクトロニクス半導体チップの概略的断面図
図4】第4実施形態に係るオプトエレクトロニクス半導体チップの概略的断面図
図5】第5実施形態に係る電子バンドギャップを垂直方向に延在する座標zに関して示したグラフ
図6】従来のオプトエレクトロニクス半導体チップと比較した第6実施形態に係るオプトエレクトロニクス半導体チップの相対輝度B(T)/B(T=25℃)を温度Tに関して表したグラフ
【0025】
発明を実施するための形態
上記の図面中、同じ構成要素または作用の同じ構成要素には、それぞれ同一の参照符号が付されている。図示の構成要素並びに構成要素相互間の大きさの割合は、必ずしも縮尺通りではない。
【0026】
図1に示されている本発明の第1実施形態に係るオプトエレクトロニクス半導体チップ10は、p型半導体領域4と、n型半導体領域6と、p型半導体領域4とn型半導体領域6との間に配置されたビーム発光に適した活性層5とを備えたLEDチップである。このオプトエレクトロニクス半導体チップ10は、半導体層4、5、6のエピタキシャル成長のために使用される本来の成長基板がそこから剥離される代わりに、半導体層列が接続層2を用いて、特にはんだ層を用いて、成長基板とは異なる支持体基板1に接続されたいわゆる薄膜半導体チップである。そのような薄膜発光ダイオードチップ10では、通常はp型半導体領域4が支持体基板1に対向している。ここではp型半導体領域4と支持体基板1との間には、有利には、ミラー層3が配置されており、このミラー層3は、好ましくは支持基板1の方向に放射されるビームを、オプトエレクトロニクス半導体チップのビーム出射面11の方向に偏向する。このミラー層3は、例えばAg、Al、またはAuを含んだ金属層である。
【0027】
オプトエレクトロニクス半導体チップ10の電気的接触接続のために、例えば、第1のコンタクト層8を支持基板1の裏面側に設け、第2のコンタクト層9をビーム出射面11の一部領域に設けてもよい。
【0028】
p型半導体領域4とn型半導体領域6は、それぞれ複数の部分構成層から構築されていてもよいし、必ずしも専属のp型ドープ層若しくはn型ドープ層から構成される必要はなく、例えば1つ以上のドーピングされていない層を有していてもよい。
【0029】
図示の実施形態に対して代替的に、オプトエレクトロニクス半導体チップ10は、逆の極性を有することも可能である。すなわち、n型の半導体領域6が基板に対向し、p型半導体領域4は、オプトエレクトロニクス半導体チップのビーム出射面11に対向することも可能である(図示せず)。このことは、通常は、半導体層のエピタキシャル成長に用いた成長基板が剥離されないケースに当て嵌まる。なぜなら、通常は、n型半導体領域が最初に成長基板上で成長されるからである。
【0030】
ビームの発光のために設けられているオプトエレクトロニクス半導体チップ10の活性層5は、多重量子井戸構造7として構成されている。この多重量子井戸構造7は、交互に配置された複数の量子井戸層71と障壁層72,73を有している。図示の実施形態では、この多重量子井戸構造7は、それぞれ1つの量子井戸層71と、障壁層72,73からなる100の層対を有している。この量子井戸層71は、それぞれ電子バンドギャップEwを有している。オプトエレクトロニクス半導体チップ10のn型半導体領域6から出発して、最初の98の障壁層は、それぞれ電子バンドギャップEbを有している。
【0031】
p型半導体領域4の次に存在する2つの障壁層73は、それぞれ高障壁層73として構成されており、それらは残りの障壁層72よりも大きい電子バンドギャップEhbを有する。この目的のために、高障壁層73の材料組成は、残りの障壁層72の材料組成とは異なる。高障壁層73のより大きな電子バンドギャップEhwは、特に次のことによって生成されてもよい。すなわち、高障壁層73が、残りの障壁層72よりも多くのアルミニウム成分を有することで生成されてもよい。例えば前記高障壁層73は、In0.5Al0.5Pを含み、残りの障壁層72は、一般式In0.5Ga0.25Al0.25Pを含み得る。
【0032】
高障壁層73は、増加された電子バンドギャップEhbに基づき、特に正孔に対する障壁として作用し、p型半導体領域4からn型半導体領域6に対向する量子井戸構造7部分への正孔の入り込みを困難にさせる。そのためオプトエレクトロニクス半導体チップの動作時には、p型半導体領域4に対向する高障壁層73の境界面に接する量子井戸層71の正孔濃度が、多重量子井戸構造7の残りの98の量子井戸層71よりも高くなる。とりわけ低い動作温度のときは、それによって多重量子井戸構造7において、ビーム発生効率を減少させる不均一な電荷担体分散が生じる。
【0033】
より高い動作温度では、高障壁層73を正孔が容易に通過する。そのため電荷担体分散は、温度上昇に伴いより均一になっていく。このようにして、ビーム発光効率は温度上昇に伴って高まっていく。この作用は、ビーム発光型半導体チップでは典型的に観察される、多重量子井戸構造7内への電荷担体の注入の悪化に基づき活性層5内でのビーム発生効率が温度の増加に伴い低下することを減少若しくは補償し、好適には逆に作用する。従って、このオプトエレクトロニクス半導体チップ10は、発光輝度の改善された温度安定性によって抜きんでている。
【0034】
図1に示されているオプトエレクトロニクス半導体チップ10は、例えば、590nmの波長で発光するために設けられている。ここでは、室温での輝度が2つの高障壁層73に基づき、100の全ての障壁層72がIn0.5Ga0.25Al0.25Pから形成されている以外は同一の半導体チップと比較して約15%減少することが見出されている。但しこのオプトエレクトロニクス半導体チップ10は、100℃の動作温度でも、全ての障壁層が同一の電子バンドギャップを有している以外は同一の従来の半導体チップと同じ輝度で発光する。従って動作温度との輝度の相対的な変化は、本実施形態によるオプトエレクトロニクス半導体チップ10では、全ての障壁層が同一の電子バンドギャップを有している比較例の場合よりも少なくなる。
【0035】
図2には、615nmの波長で発光するために設けられているオプトエレクトロニクス半導体チップ10の別の実施例が示されている。このオプトエレクトロニクス半導体チップ10は、図1の実施形態とは、次の点で異なっている。すなわち、活性層5として機能する多重量子井戸構造7が、量子井戸層71と障壁層72,73からの50の層対を有している点である。前述の実施形態とは異なり、ここではp型半導体領域4から出発して最初の障壁層73だけが高障壁層73として構成されている。この障壁層73は、In0.5Al0.5Pを含み、それ故それぞれIn0.5Ga0.25Al0.25Pを含む49の残りの障壁層72よりも大きな電子バンドギャップを有する。
【0036】
p型半導体領域4から出発して最初の障壁層を高障壁層73として構成することによって、室温でのオプトエレクトロニクス半導体チップ10の輝度は、全ての障壁層が同じ電子バンドギャップを有している以外は同一のオプトエレクトロニクス半導体チップと比較して約17%減少する。100℃への温度上昇のもとでの輝度の相対的な減少は、図2に示す実施形態によれば、同一の電子バンドギャップを有する障壁層を備えた従来の半導体チップの場合の50%の減少に代わって約40%に留まる。従って室温と100℃の動作温度との間の相対的な輝度損失は、好ましくは本実施形態によれば、従来の半導体チップに比べて20%低減される。
【0037】
図2に示されているオプトエレクトロニクス半導体チップ10のさらなる有利な実施形態および利点は、第1の実施形態に相当するため、ここでの再度の詳細な説明は省く。
【0038】
図3には、オプトエレクトロニクス半導体チップ10のさらなる態様が示されており、これは図1の実施形態の変化実施例である。図3の実施形態は、次のような2つの量子井戸層74が設けられている点で図1の実施形態と異なっている。すなわち、p型半導体領域4に対向する側が2つの高障壁層73に接しており、かつ残りの量子井戸層71のバンドギャップEwより少ない電子バンドギャップElwを有している2つの量子井戸層74である。このことは、高障壁層73によって、p型半導体領域4の方向で接している量子井戸層74内の正孔の濃度が高められることが見出されたため有利である。これらの量子井戸層74内の高い電荷担体濃度に基づいて、ビーム発光性の電荷担体再結合が、より高い励起状態からも引き起こされ、それによって、高いエネルギーのビームが比較的短い波長で発光する。この作用は、p型半導体領域4に対向する側が高障壁層73に接している量子井戸層74の電子バンドギャップElwを、残りの量子井戸層71に比べて低減させることで、減少若しくは補償される。図3に示されているオプトエレクトロニクス半導体チップ10のさらなる好適な実施形態および利点は、第1の実施形態に相当するため、ここでの再度の詳細な説明は省く。
【0039】
図4には、オプトエレクトロニクス半導体チップ10のさらに別の実施形態が示されており、これは図2に示す実施形態の変化実施例である。この図4の実施形態は、図2の実施形態と、次の点で異なっている。すなわち、p型半導体領域に対向する側が高障壁層73に接している量子井戸層75が、残りの量子井戸層71の厚さd1より大きい厚さd2を有している点である。高障壁層73に接する量子井戸層75の厚さの増加は、より高い励起状態からの電荷担体再結合による逆の作用を減少若しくは完全に補償するための、図3に示されている量子井戸層75内で発光されるビームの発光波長を低減させる手段に対する代替例を表している。ビームを放出されました。さらなる好適な実施形態に関しては、図4に示されている実施形態は、図2に示されている実施形態に相応している。
【0040】
図5には、オプトエレクトロニクス半導体チップ10のさらなる実施形態における電子バンドギャップEgの経過が、垂直方向に延在する座標zに関して示されている。これは、615nmの波長で発光するために設けられている半導体チップであり、この半導体チップは、InGaAlP系の材料系をベースとし、図2に示されている実施形態と同様に、交互に入れ替わる複数の量子井戸層と障壁層からなる50の層対を有している。p型半導体領域から出発して最初の障壁層は、高障壁層73として構成されており、この高障壁層73は、多重量子井戸構造の残りの障壁層よりもはるかに大きな電子バンドギャップを有している。この高障壁層73の機能とその結果から得られる利点は、先に記載した実施形態のものに相当するため、ここでの再度の詳細な説明は省く。
【0041】
図5に示されている実施形態に対しては代替的に、次のようなことも可能であろう。すなわち、高障壁層73を、p型半導体領域から出発して最初の量子井戸層の後ではなく、複数の量子井戸層の後に配置するのである。特にこの高障壁層73は、p型半導体領域4から出発してm番目の量子井戸層である量子井戸層と、直に接している量子井戸層との間に配置可能であり、ただし前記mは、1から20の間の数、好ましくは1から10の間の数である。
【0042】
図6は、従来の半導体チップ(曲線13)と比較した、さらなる実施形態によるオプトエレクトロニクス半導体チップ(曲線12)に対する測定された相対輝度B(T)/B(T=25℃)を周囲温度Tの関数で表したものである。この実施形態によるオプトエレクトロニクス半導体チップは、複数の量子井戸層と障壁層とからなる100の層対を有する多重量子井戸構造を備えた、InGaAlP系半導体材料ベースの発光ダイオードチップであり、このチップはp型半導体領域から出発して最初の10の障壁層が、多重量子井戸構造の残りの90の障壁層よりも大きい電子バンドギャップを有する高障壁層として構成されている。従来の半導体チップに基づく比較例は、100の全ての障壁層が同一の電子バンドギャップを有している以外は同一に構成された半導体チップである。本実施形態によるオプトエレクトロニクス半導体チップの高障壁層は、低い温度Tのもとでは発光輝度を低減する。なぜなら、n型半導体領域の方向で高障壁層に後続する90の量子井戸層内への正孔の電荷担体輸送が低減されるからである。この作用は、温度Tの上昇とともに減少する。なぜなら電荷担体は、温度の上昇に伴い可動性が大きくなって、高障壁層を容易に通過することができるようになるからである。本実施形態によるオプトエレクトロニクス半導体チップでは、温度の上昇に伴う輝度の低減は、従来の半導体チップに比べてより少なくなる。例えば、100℃の温度Tの場合の輝度の低下は、従来の半導体チップよりも7%ほど少なくなる。
【0043】
本発明は、実施例に基づいた説明によって限定されるものではない。むしろ本発明は、あらゆる新たな特徴並びにこれらの特徴のあらゆる組み合わせを含んでおり、このことは、とりわけこれらの特徴や組み合わせ自体が明示的に請求の範囲や実施形態に示されていなかったとしても、これらの特徴のあらゆる組み合わせが特許請求の範囲には含まれていることを意味する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6