(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113371
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】高温強度および熱伝導率に優れたアルミニウム合金鋳物、その製造方法および内燃機関用アルミニウム合金製ピストン
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20170403BHJP
C22F 1/043 20060101ALI20170403BHJP
B22D 27/04 20060101ALI20170403BHJP
B22D 27/20 20060101ALI20170403BHJP
B22D 17/00 20060101ALI20170403BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20170403BHJP
【FI】
C22C21/02
C22F1/043
B22D27/04 G
B22D27/20 Z
B22D17/00 C
!C22F1/00 602
!C22F1/00 611
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630J
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 650A
!C22F1/00 650F
!C22F1/00 651B
!C22F1/00 681
!C22F1/00 682
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-554692(P2016-554692)
(86)(22)【出願日】2016年4月14日
(86)【国際出願番号】JP2016062027
(87)【国際公開番号】WO2016167322
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2016年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-83605(P2015-83605)
(32)【優先日】2015年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100165995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 寿人
(72)【発明者】
【氏名】山元 泉実
(72)【発明者】
【氏名】織田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】小島 久育
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】若林 亮
(72)【発明者】
【氏名】谷畑 昭人
【審査官】
相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/008470(WO,A1)
【文献】
特開平08−134578(JP,A)
【文献】
特開昭64−073044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/04− 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si: 12.0〜13.5mass%
Cu: 4.5〜5.5mass%
Mg: 0.6〜1.0mass%
Ni: 0.7〜1.3mass%
Fe: 1.15〜1.25mass%
Ti: 0.10〜0.2mass%
P : 0.004〜0.02mass%
を含み、残部がAlと不可避不純物からなる化学組成を有し、
0.2mm2の観察視野において、Al‐Fe‐Si系晶出物の長軸長さが、大きい方から10個の晶出物の平均長さで100μm以下である
ことを特徴とする高温強度および熱伝導率に優れたアルミニウム合金鋳物。
【請求項2】
請求項1において、
CuとNiの含有量の比Cu/Niが3.4以上である
ことを特徴とするアルミニウム合金鋳物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のアルミニウム合金鋳物からなる
ことを特徴とする内燃機関用アルミニウム合金製ピストン。
【請求項4】
請求項1又は2記載の化学組成を有するアルミニウム合金の溶湯を、冷却速度100℃/s以上で鋳造した後、時効処理を行い、0.2mm2の観察視野において、Al‐Fe‐Si系晶出物の長軸長さが、大きい方から10個の晶出物の平均長さで100μm以下であるアルミニウム合金鋳物を得る
ことを特徴とする高温強度および熱伝導率に優れたアルミニウム合金鋳物の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記鋳造をダイカスト法により行うことを特徴とする高温強度および熱伝導率に優れたアルミニウム合金鋳物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温強度と熱伝導率に優れたアルミニウム合金製鋳物およびその製造方法に関するものである。本発明のアルミニウム合金鋳物は、特に内燃機関用ピストンに適している。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は一般的に温度が高いほど強度が低下する。そのため内燃機関用ピストンなど高温下で使用される部品に用いられるアルミニウム合金は、Si、Cu、Ni、Mg、及びFeなどの添加元素を多くし、高温化でも軟化しにくい第二相粒子などの晶出物量を多くすることにより高温時の強度低下を抑制してきた。
【0003】
添加元素の中で特にFeは、高温強度を維持するために有効な元素であるが、添加量が多くなってくると粗大な針状の晶出物を形成しやすくなる。この粗大な針状の晶出物は破壊の起点になり、かえって伸びと強度を低下させる。そこで、Mnを添加し、Fe系晶出物を塊状化させることが行われてきた。
【0004】
しかし、Mnの添加量が多いとアルミニウム合金の熱伝導率が低下し、熱放散による温度低下がしにくくなり、ピストンが長時間高温に曝され負荷が大きくなる。
【0005】
そこで、本出願人らは、鋳造の際に溶湯に超音波振動を照射することにより、Mnを添加することなく、針状のFe系晶出物を短くし、粗大化を防止することを提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5482899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記提案のように鋳造の際に超音波照射する方法は、装置費用、生産性等の問題があり、生産コストが掛かっていた。
【0008】
そこで、本発明では、Mnの添加(耐熱性低下要因)や超音波の照射(生産コスト増加要因)を行うことなく、針状Fe系晶出物が短く、高温強度および耐熱性に優れたアルミニウム合金鋳物、その製造方法およびこの鋳物を用いた内燃機関用アルミニウム合金製ピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が鋭意研究を行った結果、合金組成においてFeの添加量を抑え、かつ鋳造時に急速に冷却することにより、Mn含有量の低下や超音波照射を行わなくても、Fe系晶出物の長さを短くできることを見出した。さらに研究を行った結果、鋳造の際に、100℃/s以上の高速で冷却するとピストンの機械特性を損なわない程度(100μm以下)までFe系晶出物の平均長さを短くできることを新規に見出した。
【0010】
更に、望ましくは、鋳造するアルミニウム合金溶湯のCuとNiの含有量の比Cu/Ni比を大きくするとAl−Ni−Cu系化合物の晶出温度が低下するので、晶出開始から凝固完了までの時間が短くてすみ、晶出したAl−Ni−Cu系化合物がほとんど成長することなく鋳造が完了する(もちろん鋳造速度の影響下において)。その結果、Al−Ni−Cu系化合物が微細になり、鋳造性および機械特性が向上することも見出した。さらに晶出物を微細にすると仕上げ切削の際の被削材の欠けを抑制できることができることがわかった。
【0011】
そこで、上記の課題を解決するために、本発明のアルミニウム合金鋳物は、
Si: 12.0〜13.5mass%
Cu: 4.5〜5.5mass%
Mg: 0.6〜1.0mass%
Ni: 0.7〜1.3mass%
Fe: 1.15〜1.25mass%
Ti: 0.10〜0.2mass%
P : 0.004〜0.02mass%
を含み、残部がAlと不可避不純物からなる化学組成を有し、
0.2mm
2の観察視野において、Al‐Fe‐Si系晶出物の長軸長さが、大きい方から10個の晶出物の平均長さで100μm以下である
ことを特徴とする。
【0012】
本発明の望ましい態様においては、CuとNiの含有量の比Cu/Niが3.4以上である。更に望ましくはCu/Niは4以上である。
【0013】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、特に内燃機関用アルミニウム合金製ピストンに適している。
【0014】
本発明のアルミニウム合金鋳物の製造方法は、上記の化学組成を有するアルミニウム合金溶湯を冷却速度100℃/S以上で鋳造した後、時効処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のアルミニウム合金鋳物は、0.2mm
2の観察視野において、Al‐Fe‐Si系晶出物の長軸長さが、大きい方から10個の晶出物の平均長さで100μm以下としたことにより、内燃機関用アルミニウム合金製ピストンに要求される優れた高温強度および熱伝導率を達成できる。
【0016】
本発明のアルミニウム合金鋳物の製造方法は、上記の化学組成を有するアルミニウム合金溶湯を冷却速度100℃/S以上で鋳造した後、時効処理を行うことにより、0.2mm
2の観察視野において、Al‐Fe‐Si系晶出物の長軸長さが、大きい方から10個の晶出物の平均長さで100μm以下とすることを可能とし、内燃機関用アルミニウム合金製ピストンに要求される優れた高温強度および熱伝導率を達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成要件の限定理由を説明する。
【0018】
<化学組成>
〔Si:12.0〜13.5mass%〕
Siは初晶Siとして晶出し、分散強化によりピストンの高温強度を向上させる作用を有する。この効果は、Si含有量が12.0mass%以上で顕著となる。
一方、Si含有量が13.5mass%を超えると熱伝導率が低下する。また、晶出物量も増加し、伸びや加工性が低下する。
更にSiは、時効処理によりMg−Si系析出物として析出し、分散強化により強度を向上させるだけでなく、同時に熱伝導性を向上させる効果もある。
【0019】
〔Cu:4.5〜5.5mass%〕
Cuは高温強度を向上させる作用がある。Niと同時に添加するとAl−Ni−Cu系晶出物として晶出し、分散強化により高温強度を向上させる。この作用は4.5mass%以上の添加で顕著となる。
一方、添加量が5.5mass%を超えると熱伝導率を低下させてしまう。また合金密度が高くなって比強度の向上が得られなくなる。
【0020】
〔Ni:0.7〜1.3mass%〕
Niは、高温強度を向上させる作用がある。Cuと同時に添加するとAl−Ni−Cu系晶出物として晶出し、分散強化により高温強度を向上させる。この作用は0.7mass%以上の添加で顕著となる。
一方、添加量が1.3mass%を超えると熱伝導率を低下させてしまう。また合金密度が高くなって比強度の向上が得られなくなる。また、本発明のピストンに添加される元素の中で、Niは特に高価な元素であるためNiの添加量が増加すると生産コストが高くなり。
【0021】
〔望ましくは、Cu/Ni比:3.4以上〕
本発明の望ましい態様においては、CuとNiの含有量の比Cu/Niを3.4以上にする。
Cu/Ni比が高くなるとAl−Ni−Cu系化合物の晶出温度が低下するので、晶出開始から凝固完了までの時間が短くてすむ。その結果、晶出したAl−Ni−Cu系化合物がほとんど成長することなく鋳造が完了する(鋳造速度の影響下において)。そのため、Al−Ni−Cu系化合物が微細になり、機械特性が向上する。同時に鋳造性も向上する。この作用はCu/Ni比が3.4以上で顕著となり、更に望ましくは4以上である。
【0022】
〔Mg:0.6〜1.0mass%〕
Mgは高温強度を向上させる作用を有する。この効果はMg含有量が0.6mass%以上で顕著となる。また、時効処理するとMg−Si系析出物として析出し、強度および熱伝導性が向上する。
一方、Mg含有量が1.0mass%を超えると熱伝導率が低下する。また、晶出物量も増加し、伸びや加工性が低下する。
【0023】
〔Fe:1.15〜1.25mass%〕
FeはSiと同時に添加させるとAl‐Fe‐Si系晶出物を形成して分散強化に寄与し、高温強度を向上させる。この効果はFeの添加量が1.15mass%以上で顕著となる。
一方、添加量が1.25mass%を超えて添加すると鋳造時の冷却速度を高くしても晶出物の粗大化を抑制することが難しくなる。
【0024】
〔Ti:0.10〜0.2mass%〕
TiはAl‐Fe‐Si系晶出物の晶出核となり、Al‐Fe‐Si系晶出物を微細均一に分散させ高温強度を向上させる作用がある。この作用は0.10mass%以上の添加で顕著となる。逆に0.2mass%を超えて添加すると熱伝導性が低下する。
【0025】
〔P:0.004〜0.02mass%〕
PはAlP化合物を形成し、初晶Siが晶出する際の晶出核として作用し、初晶Siを微細均一に分散させ、高温強度を向上させる作用がある。この作用は、P含有量が0.004mass%以上で顕著となる。P含有量が0.02mass%を超えると鋳造の際の湯流れ性が悪くなり、鋳造性が低下してしまう。
【0026】
〔不可避的不純物〕
上記元素以外に一般に不可避的に混入する不純物は許容される。ただし、Mnは熱伝導性への意影響が大きいのでMn含有量を0.2%以下に規制することが望ましい。
【0027】
<晶出物の長軸長さ:100μm以下>
晶出物の長軸長さが100μmより大きくなるとピストンに大きな力が加わった際に、破壊の起点となり、ピストンの引張強度を低下させる虞がある。
【0028】
<鋳造時の冷却速度:100℃/s以上>
鋳造時の冷却速度を100℃/s以上にすると本発明組成の合金の晶出物の長軸長さを100μm以下に抑えることができ、引張強度を高めることができる。
なお、冷却速度100℃/s以上で鋳造する方法としては、ダイカスト法がある。
【0029】
<時効処理>
時効処理することにより、Mg−Si系化合物およびAl−Cu系化合物が析出し、高温強度が増す。またこの析出により、Al母相中のMg、Si、Cuの固溶量が減少し、熱伝導率が向上する。さらに鋳造時に急冷した際にピストンに生じた歪が解消されるので、その観点からも熱伝導率が向上する。
望ましい時効処理条件は下記のとおりである。
保持温度:200〜300℃(最も望ましくは、250℃)
保持時間:10〜60min(最も望ましくは、20min)
【実施例】
【0030】
以下に、本発明を実施例により、更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0031】
<試料の作製>
化学組成の影響を確認するために、化学組成を本発明の規定範囲内と規定範囲外とし、製造条件は本発明の規定範囲内で一定として、試料を作製した。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に各試料の化学組成を示す。発明組成1〜3は各成分含有量およびCu/Ni比が全て本発明の規定範囲内であり、比較組成1〜9は各成分含有量およびCu/Ni比のうち少なくとも1つが本発明の規定範囲外である。
表1の各化学組成を有するアルミニウム合金溶湯を用意し、真空ダイカスト法により本発明の規定範囲内である冷却速度110℃/sで100mmφ×200mmHの円柱に鋳造した。
得られたダイカスト材を保持温度250℃、保持時間20minで時効処理した。
【0034】
<測定および観察>
時効処理後の試料について、以下の測定および観察を行った。
光学顕微鏡観察により、0.2mm
2の観察視野において、Al‐Fe‐Si系晶出物の長軸長さで大きい方から10個の晶出物の平均長さ測定して晶出物サイズとした。
350℃および室温での引張試験による機械特性と、室温での熱伝導率とを測定した。
鋳物の表面を、機械切削し、その表面の目視観察を行い、表面性状により切削加工性を判定した。
測定および観察の結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
<結果の評価>
発明例1〜3は、組成が本発明の規定範囲内の発明組成1〜3であり、かつ、鋳造時の冷却速度が本発明の規定範囲100℃/s以上を満たす110℃/sであったことにより、晶出物サイズ、機械特性、熱伝導率、切削加工性の全てについて良好な結果が得られた。
特に、晶出物サイズは87μm〜96μmであり、本発明の規定範囲である100μm以下を満たしていた。
【0037】
機械特性は、下記のとおりであり、安定した結果が得られた。
350℃:引張強度88〜92MPa
破断伸び9.5〜10%
室温 :引張強度270〜280MPa
破断伸び0.3〜0.5%
熱伝導率は、120〜122W/(m・k)であり、安定した結果が得られた。
表面性状は良好であり、切削加工性は安定して良好な結果が得られた。
【0038】
なお、発明例1〜3において、Cu/Ni比が高いものほど、晶出物が微細であり、室温での破断伸び、引張強度および表面粗さに優れる傾向にあることがわかる。
【0039】
比較例1〜9は、冷却速度は本発明の規定範囲を満たすが、組成が本発明の規定範囲外の比較組成1〜9であったため、発明例に比較して以下のように劣っていた。
〔比較例1〕
本発明の規定組成に対してFe含有量が過剰であったため、Al‐Fe‐Si系晶出物の平均長さが150μmと本発明の規定範囲上限100μmを超えており、発明例と比べて、室温での破断伸びが0.1%未満と低く、そのため室温での引張強度が250MPaと劣る。熱伝導率も115W/(m・k)と低く、切削加工後の表面性状も悪い(×)。
【0040】
〔比較例2〕
Cu含有量が不足しNi含有量が過剰でCu/Ni比が小さかったため、Al‐Fe‐Si系晶出物の平均長さが130μmと規定上限を超えており、熱伝導度が117W/(m・k)と低く、切削加工後の表面性状も悪い(×)。
【0041】
〔比較例3〕
Fe含有量が不足したため、350℃での高温引張強度が80MPaと劣る。
【0042】
〔比較例4〕
Cu含有量が過剰であるため、晶出物平均長さが121μmと規定上限を超えており、そのため室温での破断伸びが0.1%未満と低く、切削加工後の表面性状も悪い(×)。また熱伝導率も114W/(m・k)と劣る。
【0043】
〔比較例5〕
Ni含有量が不足しているため、350℃での高温引張強度が75MPaと劣る。
【0044】
〔比較例6〕
Mg含有量が不足しているため、350℃での高温引張強度が78MPaと劣る。
【0045】
〔比較例7〕
Mg含有量が過剰なため、晶出物平均長さが116μmと規定上限を超えており、そのため室温での破断伸びが0.1%未満と低く、切削加工後の表面性状も悪い(×)。
【0046】
〔比較例8〕
Si含有量が不足しているため、350℃での高温引張強度が78MPaと劣る。
【0047】
〔比較例9〕
Si含有量が過剰なため、晶出物平均長さが113μmと規定上限を超えており、そのため室温での破断伸びが0.1%未満と低く、切削加工後の表面性状も悪い(×)。
【実施例2】
【0048】
<試料の作製>
実施例1と同様に表1に示す化学組成を有するアルミニウム合金溶湯を用意し、実施例1とは異なり重力金型鋳造法により本発明の規定範囲外である冷却速度25℃/sで、100mmφ×200mmHの円柱に鋳造した。
得られた重鋳材を保持温度250℃、保持時間20minで時効処理した。
【0049】
<測定および観察>
時効処理後の試料について、実施例1と同様に測定および観察を行った。その結果を表3に示す。
【0050】
【表3】
【0051】
<結果の評価>
表3中、比較例11、12、13は、組成が発明組成1、2、3であるが、鋳造時の冷却速度が本発明の規定範囲100℃/sより遅い25℃/sであった。
比較例21〜29は、組成が実施例1と同じく比較組成1〜9であり、更に、鋳造時の冷却速度が本発明の規定範囲100℃/sより遅い25℃/sであった。
表2と表3より、同じ組成であっても鋳造時の冷却速度の遅い重力鋳造で鋳造した鋳造材は、Al‐Fe‐Si系晶出物の長軸長さが長く、機械的特性、特に室温引張試験での伸びの低下が著しいことがわかる。
このように、本発明の効果を達成するには、化学組成を制御した上で、晶出物の長軸長さを短く制御する必要があり、そのためには、鋳造時の冷却速度を高速に制御することが必須である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のアルミニウム合金鋳物によれば、化学組成および晶出物の長軸長さを制御したことにより、内燃機関用アルミニウム合金製ピストンに要求される高温強度および熱伝導率を達成できる。
本発明のアルミニウム合金鋳物の製造方法によれば、化学組成および鋳造時の冷却速度を制御したことにより、内燃機関用アルミニウム合金製ピストンに要求される高温強度および熱伝導率を達成したアルミニウム合金鋳物を製造できる。