(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113410
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】スクロール式流体機械
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20170403BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
F04C18/02 311P
F04C29/00 B
F04C18/02 311M
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-20116(P2012-20116)
(22)【出願日】2012年2月1日
(65)【公開番号】特開2013-160063(P2013-160063A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年1月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390028495
【氏名又は名称】アネスト岩田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和昭
(72)【発明者】
【氏名】浅見 淳一
(72)【発明者】
【氏名】相川 温史
【審査官】
佐藤 秀之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−203289(JP,A)
【文献】
特開2005−133693(JP,A)
【文献】
特開2001−012365(JP,A)
【文献】
特開2010−216444(JP,A)
【文献】
特開2000−064973(JP,A)
【文献】
特開平09−324770(JP,A)
【文献】
特開平02−108884(JP,A)
【文献】
特開2006−029238(JP,A)
【文献】
特開2008−101468(JP,A)
【文献】
特開2004−211595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジング内に形成され固定ラップを立設してなる固定スクロールと、
前後方向を向く円筒部、及び当該円筒部の前部外周に設けられ前記ハウジングの後側を向く面に固定されるフランジ部を有し、前記ハウジングとは別部材によって構成されるベアリングケースと、
前記ベアリングケースの前記円筒部内でかつ前記前後方向に離間した一対のボールベアリングにより回転可能に枢支され、前部に偏心軸部を有する駆動軸と、
前記ベアリングケースにおける前記円筒部の後部から突出する前記駆動軸の後端部に止着され、伝動ベルトが掛け回されるプーリと、
前記駆動軸の前記偏心軸部に枢支され、前記固定スクロールに対向する面に前記固定ラップと噛合する旋回ラップを有し、前記駆動軸の回転により公転運動し前記固定ラップと前記旋回ラップとが互いに噛合することによって、前記旋回ラップと前記固定ラップの間に圧縮室を形成する旋回スクロールとを備え、
前記ベアリングケースには、さらに前記フランジ部から下方へ延出する延長部と、前記延長部の下端部に設けられ、固定体に固定される左右の脚部と、前記延長部の後面に設けられ、前記円筒部の外周面と前記延長部の後面が出会った所の入隅部から前記左右の脚部の間に介在するように下方へ延伸するリブとが一体形成され、
前記ハウジングは、前記固定体に固定される脚部を有しないことを特徴とするスクロール式流体機械。
【請求項2】
ハウジングと、
前記ハウジング内に形成され固定ラップを立設してなる固定スクロールと、
前後方向を向く円筒部、及び当該円筒部の前部外周に設けられ前記ハウジングの後側を向く面に固定されるフランジ部を有し、前記ハウジングとは別部材によって構成されるベアリングケースと、
前記ベアリングケースの前記円筒部内でかつ前記前後方向に離間した一対のボールベアリングにより回転可能に枢支され、前部に偏心軸部を有する駆動軸と、
前記ベアリングケースにおける前記円筒部の後部から突出する前記駆動軸の後端部に止着され、伝動ベルトが掛け回されるプーリと、
前記駆動軸の前記偏心軸部に枢支され、前記固定スクロールに対向する面に前記固定ラップと噛合する旋回ラップを有し、前記駆動軸の回転により公転運動し前記固定ラップと前記旋回ラップとが互いに噛合することによって、前記旋回ラップと前記固定ラップの間に圧縮室を形成する旋回スクロールとを備え、
前記ベアリングケースは、さらに前記フランジ部から下方へ延出する延長部を一体形成し、
前記延長部の下端部には、固定体に固定される脚部が設けられ、
前記脚部は、前記ベアリングケースと別部材により形成されると共に、上面に設けられた上方が開口する凹部に前記延長部の下端部が嵌合してボルトにより前記延長部の下端部に着脱可能に固定され、
前記ハウジングは、前記固定体に固定される脚部を有していないことを特徴とするスクロール式流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気圧縮機、真空ポンプ等に用いて好適なスクロール式流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール式流体機械は、ハウジングと、当該ハウジングに固定されるベアリングケースと、ハウジング内に設けられる固定スクロールと、ベアリングケース内に回転可能に支持され、電動機により回転可能な駆動軸と、当該駆動軸に設けられた偏心軸に枢支され、駆動軸の回転によって公転運動可能な旋回スクロールとを備え、駆動軸の回転による旋回スクロールの公転運動によって、固定スクロールの固定ラップと旋回スクロールの旋回ラップとを互いに噛み合わせることにより、旋回ラップと固定ラップの間に三日月状の圧縮室を形成し、当該圧縮室の容積を変えながら吸入、圧縮、吐出を行うものとして知られている。
【0003】
そして、駆動軸を駆動させるため、駆動軸の端部に従動プーリを止着し、当該従動プーリに電動機に設けられた主動プーリに掛け回された電動ベルトを掛け回すことによって、電動機の回転を伝動ベルトを介して駆動軸に伝達する構成が採用される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−282495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載された従来技術においては、ハウジングに脚部を設け、当該脚部を台座等の固定体に固定することによって、スクロール式流体機械を固定体に固定するようにしているため、伝動ベルトの張力が従動プーリを介して駆動軸の端部に軸に直角な方向の荷重(以下、「横荷重」と記す)が作用すると、ハウジングに設けた脚部が力の支点となって脚部を含むハウジング全体に固定曲げモーメントが作用し、固定ラップと旋回ラップとの互いの噛合位置にずれが生じ、旋回スクロールの公転運動中、旋回ラップの側面が固定ラップの側面に必要以上に大きな力で接触し、これが原因で異音が発生する現象(以下、この現象を「かじり現象」と記す)が起き、円滑な圧縮作動を得られないだけでなく、両ラップの破損、ひいてはスクロール式流体機械全体の故障を招く虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、駆動軸に横荷重が作用した状態にあっても円滑な圧縮作動を可能にしたスクロール式流体機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1の発明は、ハウジングと、前記ハウジング内に形成され固定ラップを立設してなる固定スクロールと、前後方向を向く円筒部、及び当該円筒部の前部外周に設けられ前記ハウジングの後側を向く面に固定されるフランジ部を有
し、前記ハウジングとは別部材によって構成されるベアリングケースと、前記ベアリングケースの前記円筒部内で
かつ前記前後方向に離間した一対のボールベアリングにより回転可能に枢支され、前部に偏心軸部を有する駆動軸と、前記ベアリングケースにおける前記円筒部の後部から突出する前記駆動軸の後端部に止着され、伝動ベルトが掛け回されるプーリと、前記駆動軸の前記偏心軸部に枢支され、前記固定スクロールに対向する面に前記固定ラップと噛合する旋回ラップを有し、前記駆動軸の回転により公転運動し前記固定ラップと前記旋回ラップとが互いに噛合することによって、前記旋回ラップと前記固定ラップの間に圧縮室を形成する旋回スクロールとを備え、前記ベアリングケースには、さらに前記フランジ部から下方へ延出する延長部と、前記延長部の下端部に設けられ、固定体に固定される左右の脚部と、前記延長部の後面に設けられ、前記円筒部の外周面と前記延長部の後面が出会った所の入隅部から前記左右の脚部の間に介在するように下方へ延伸するリブとが一体形成され、前記ハウジングは、前記固定体に固定される脚部を有しないことを特徴とする。
【0008】
第2の発明は、ハウジングと、前記ハウジング内に形成され固定ラップを立設してなる固定スクロールと、前後方向を向く円筒部、及び当該円筒部の前部外周に設けられ前記ハウジングの後側を向く面に固定されるフランジ部を有
し、前記ハウジングとは別部材によって構成されるベアリングケースと、前記ベアリングケースの前記円筒部内で
かつ前記前後方向に離間した一対のボールベアリングにより回転可能に枢支され、前部に偏心軸部を有する駆動軸と、前記ベアリングケースにおける前記円筒部の後部から突出する前記駆動軸の後端部に止着され、伝動ベルトが掛け回されるプーリと、前記駆動軸の前記偏心軸部に枢支され、前記固定スクロールに対向する面に前記固定ラップと噛合する旋回ラップを有し、前記駆動軸の回転により公転運動し前記固定ラップと前記旋回ラップとが互いに噛合することによって、前記旋回ラップと前記固定ラップの間に圧縮室を形成する旋回スクロールとを備え、前記ベアリングケースは、さらに前記フランジ部から下方へ延出する延長部を一体形成し、前記延長部の下端部には、固定体に固定される脚部が設けられ、前記脚部は、前記ベアリングケースと別部材により形成されると共に、上面に設けられた上方が開口する凹部に前記延長部の下端部が嵌合してボルトにより前記延長部の下端部に着脱可能に固定され、前記ハウジングは、前記固定体に固定される脚部を有していないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、駆動軸を回転可能に支持するためのベアリングケースに脚部を固定または一体形成したことによって、駆動軸に横荷重が作用した状態にあっても、固定ラップと旋回ラップとの互いの噛合位置のずれを最小限に抑えて、常に円滑な圧縮作動を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明におけるスクロール式流体機械の正面図である。
【
図2】同じくスクロール式流体機械の外観斜視図である。
【
図3】
図1におけるIII−III線縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、
図1の図面手前側、
図3の左側をスクロール式流体機械の「前側」とし、
図1の図面奥側、
図3の右側をスクロール式流体機械の「後側」と定義する。
【0013】
スクロール式流体機械は、例えばアルミ合金等で成形される後側の筐体2及び当該筐体2の前側に複数のボルトにより固定される例えばアルミ合金等で成形される前側の蓋体3を含むハウジング1と、筐体
2の後面に複数のボルト4により固定され、ハウジング1に比して高強度の例えば鋳物等によって成形されるベアリングケース5とを備える。
【0014】
蓋体3の後方を向く内面には、渦巻状の固定ラップ71を後方へ立設してなる固定スクロール7、また同じく前面には、多数の冷却フィン74が設けられる。
【0015】
ハウジング1内、すなわち筐体2と蓋体3との間に形成される空間には、固定スクロール7に対向する前面に渦巻状の旋回ラップ81を立設した旋回スクロール8が設けられる。旋回スクロール8は、ベアリングケース5内に回転自在に支持される前後方向の駆動軸6の前端部に形成された偏心軸部61に枢支される。
【0016】
駆動軸6は、ベアリングケース5内に前後方向へ互いに所定量離間して設けられる前後のボールベアリング10、11によって回転可能に枢支されると共に、前端部には前述の偏心軸部61、また前部外周にはバランスウェイト部62がそれぞれ一体形成される。また、ベアリングケース5の後端から突出する駆動軸6の後端部には、従動プーリ12がボルト13により止着される。従動プーリ12には、スクロール式流体機械の下方に設置される電動機(図示略)の出力軸に止着された主動プーリ(図示略)に下部が掛け回された無端状の伝動ベルト17の上部が掛け回される。これにより、電動機の回転は、主動プーリ、伝動ベルト
17及び従動プーリ12を介して駆動軸6に伝達される。
【0017】
旋回スクロール8の後面には、多数の冷却フィン82が設けられると共に、複数のボルト15をもって円板状の旋回プレート14が固定される。旋回プレート14と筐体2の後側面との間には、旋回スクロール8の自転運動を阻止しつつ公転運動させるための複数の自転防止機構9が旋回プレート14、すなわち旋回スクロール8の周方向に沿って等間隔で設けられる。
【0018】
従動プーリ12には、駆動軸6と一体になって回転し、固定スクロール7、旋回スクロール8等を冷却するための遠心ファン18が止着される。また、ベアリングケース5の後面には、遠心ファン18を覆うファンカバー19が固定される。なお、
図2は、説明の便宜上、伝動ベルト17、遠心ファン18及びファンカバー19を取り外した形態を示す。
【0019】
ベアリングケース5に枢支された駆動軸6が電動機により回転すると、旋回スクロール8は公転運動を行い、これに伴って、固定ラップ71と旋回ラップ81とにより仕切られた三日月状の圧縮室16の容積が外周側から内周側に向かって漸次減少し、吸入、圧縮、吐出を繰り返す。これにより、蓋体3の前面上部に設けられた吸入口72から圧縮室16に吸気された外部気体は、内周側に向かって漸次圧縮され、蓋体3の中心部に設けられた吐出口73から最終的に圧縮気体として外部へ吐出される。
【0020】
ベアリングケース5は、前後方向を向く円筒部51と、円筒部51の前部外周に設けられ、ボルト4により筐体
2の後面に固定されるフランジ部52と、フランジ部52から下方へ延出する延長部53の下部に一体的に形成される左右の脚部54と、円筒部51の外周面とフランジ部52
及び延長部53の後面が出会った所の入隅部に設けられ、ベアリングケース5全体の剛性を高める複数のリブ55とを一体形成してなる。左右の脚部54は、固定体をなす台座20に複数のボルト21により固定されることによって、スクロール式流体機械を台座20に固定する。
【0021】
なお、本実施形態においては、
図3に示されるように、左右の脚部54をベアリングケース5の下部に一体的に形成したが、本発明は、本実施形態に限定されるものでなく、
図4に示す他の実施例のように、ベアリングケース5と脚部540とを互いに別体で構成し、ベアリングケース5の下部50を左右の脚部540に設けた凹部541に嵌合することによって、脚部540をベアリングケース5に固定するようにしても良い。また、この場合は、脚部540をベアリングケース5の下部50にボルト(図示略)により着脱可能に固定することによって、スクロール式流体機械を使用する環境に合わせて脚部540を他の脚部に交換することが可能となる。
【0022】
本実施形態によると、上述のように、駆動軸6を回転可能に支持したベアリングケース5に脚部54(または540)を設け、当該脚部54(または540)を台座20に固定したことによって
、駆動軸6がハウジング1に比して強度的に優れたベアリングケース5によって支持されることと相俟って、伝動ベルト17の張力が従動プーリ12を介して駆動軸6の後端部に横荷重が作用しても、横荷重の作用線Aと支点(脚部54(または540)が台座20に固定される点)B間のモーメントアームr
を、従来技術のように脚部を作用線Aから大きく離れた位置にあるハウジングに設けた構成に比して、短くすることができる。これにより、脚部54(または540)を含むベアリングケース5に作用する固定曲げモーメントを従来技術よりも格段に小さくすることができ、ベアリングケース5の傾動を抑えて駆動軸6の軸方向への傾動を従来技術よりも格段に抑えることができる。
【0023】
さらには、駆動軸6の後端部に作用する横荷重は、ベアリングケース5の脚部
54に直接伝達されることから、台座20に固定されないハウジング1に対しては固定曲げモーメントは伝達されない構成とすることができる。よって、仮に、駆動軸6に作用する横荷重が過大であって、仮に駆動軸6がベアリングケース5と共に軸方向に対して微少傾動したとしても、ハウジング1は、ベアリングケース5共に微少傾動するものであるから、従来技術のようにハウジング1を台座20に直接固定した構成に比して、固定ラップ71と旋回ラップ81との互いの噛合位置関係にずれは発生し難い。これによって、駆動軸6の後端部に横荷重が作用した状態にあっても、固定ラップ71と旋回ラップ81との互いの噛合位置のずれを最小限に抑えて、かじり現象を防止して常に円滑な圧縮作動を得ることができる。
【0024】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、各実施形態に種々の変形や変更を施すことが可能である。
(i)ベアリングケース5と筐体2の一部又は全体とを一体成形する。
(ii)脚部540をベアリングケース5に固定する
図4に示す構造に代えて、ベアリングケース5の下部に凹部(図示略)を設け、当該凹部に脚部540を下方から嵌め込んで固定するものとする。
【符号の説明】
【0025】
1 ハウジング
2 筐体
3 蓋体
5 ベアリングケース
6 駆動軸
7 固定スクロール
8 旋回スクロール
9 自転防止機構
10、11 ボールベアリング
12 従動プーリ
14 旋回プレート
15 ボルト
16 圧縮室
17 伝動ベルト
20 台座
51 円筒部
52 フランジ部
53 延長部
54、540 脚部
541 凹部
55 リブ
56 下部
61 偏心軸部
71 固定ラップ
72 吸入口
73 吐出口
81 旋回ラップ