(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
氷雪路面は一般路面に比べて著しく摩擦係数が低下し滑りやすくなる。そのため、スタッドレスタイヤやスノータイヤ等の冬用タイヤ(ウインタータイヤ)のトレッドゴムは、氷雪路面での接地性を高めるために、低温でのゴム硬度が夏用タイヤよりも低く設定されている。更に、氷上摩擦力を高めるために、トレッドゴムを発泡ゴムで形成する手法や、中空粒子やガラス繊維、アルミニウムウィスカー等の硬質材料を配合する手法が、種々提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、種子の殻又は果実の核を粉砕してなる植物性粒状体を配合することにより、引っ掻き効果によって氷上摩擦性能を向上させることが開示されている。また、下記特許文献2には、シリカを含有するカーボンブラックを配合するとともに、セルロース物質を含有する粉体加工品を配合したスタッドレスタイヤトレッド用ゴム組成物が開示されている。該粉体加工品としては、米穀のもみがら、麦殻、コルク片、おがくずなどを含有するものが挙げられており、凹凸を増やし、掘り起こし摩擦力を高めるために配合すると記載されている。従って、これらの文献は、引っ掻き効果により氷上性能の向上を狙ったものである。
【0004】
一方、下記特許文献3には、路面上の水膜を効果的に除去するために、ジエン系ゴムに、空隙率が75〜95%で平均粒径が1000μm以下の多孔性セルロース粒子を配合することが開示されている。
【0005】
これらの従来技術は氷上性能の向上に寄与するものであるが、未だ市場の要求に対して十分なレベルに到達しているとはいえず、更なる氷上性能の向上が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分として用いられるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。
【0012】
ジエン系ゴムとして、好ましくは、天然ゴムと他のジエン系ゴムとのブレンドを用いることであり、特に好ましくは、天然ゴム(NR)とポリブタジエンゴム(BR)とのブレンドゴムを用いることである。その場合、BRの比率が少なすぎるとゴム組成物の低温特性が得難くなり、逆に多くなりすぎると加工性の悪化や耐引き裂き抵抗性が低下する傾向になるので、NR/BRの比率は、質量比で30/70〜80/20、更には40/60〜70/30程度であることが好ましい。
【0013】
本実施形態に係るゴム組成物には、表面処理セルロース粒子が配合される。表面処理セルロース粒子として、本実施形態では、コハク酸及び/又はその塩で表面処理された表面処理セルロース粒子が用いられ、これにより氷上性能を飛躍的に向上することができる。その理由は、該表面処理セルロース粒子は、未処理のセルロース粒子よりも吸水性が高く、氷雪路面の水膜を吸水ないし除水する効果が高いためと考えられる。なお、該表面処理セルロース粒子は、天然由来のセルロースに対してうま味成分としても知られるコハク酸で処理されたものであり、環境や人体への負荷が少なく、タイヤトレッドゴム用材料として適している。
【0014】
上記表面処理セルロース粒子は、セルロース分子の水酸基の一部又は全部がコハク酸のカルボキシル基とエステル結合によって置換されたものであり、セルロース粒子の表面にエステル結合を介してコハク酸が導入された形態を有する。導入されたコハク酸のもう一方のカルボキシル基は、その一部又は全てがアルカリ金属又はアルカリ土類金属によって金属塩化されていることが好ましい。アルカリ金属としては、例えば、ナトリウム、カリウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウムが挙げられる。上記表面処理セルロース粒子として、より好ましくは、コハク酸アルカリ金属塩で表面処理された表面処理セルロース粒子であり、特に好ましくは、コハク酸カリウムで表面処理された表面処理セルロース粒子である。このような表面処理セルロース粒子として、例えば、大東化成工業(株)の「MOISCELL PW」が市販されており、好適に使用することができる。
【0015】
上記表面処理セルロース粒子の平均粒径は、氷上性能と耐摩耗性能をバランス良く向上できるという点から、1〜400μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1〜200μmであり、更に好ましくは3〜100μmである。
【0016】
ここで、本明細書において、平均粒径は、レーザ回折・散乱法により測定される値であり、例えば、光源として赤色半導体レーザ(波長680nm)を用いる島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD−2200」により測定される粒度分布(体積基準)の50%粒子径(メディアン径)である。
【0017】
上記表面処理セルロース粒子の粒子形状は、特に限定するものではないが、球状(即ち、略球形)のものを用いてもよく、ゴム組成物中への分散性を向上することができる。ここで、球状とは、長径/短径の比が1〜1.5、より好ましくは1〜1.2であるものをいう。長径/短径の比は、顕微鏡観察による画像を用いて粒子の長径を短径で割った値の平均値(例えば100個の粒子の平均値)により算出される。
【0018】
本実施形態のゴム組成物において、該表面処理セルロース粒子の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜30質量部とすることができ、より好ましくは1〜20質量部、更に好ましくは3〜15質量部である。配合量が少なすぎるとその効果が不十分であり、逆に多すぎると耐摩耗性能を損なうおそれがある。
【0019】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記表面処理セルロース粒子とともに、植物性物質の粉砕物を配合してもよい。植物性物質の粉砕物を併用することにより、その引っ掻き効果によって、氷上性能を更に向上することができる。またゴム相より脱落した場合は微小な空隙となり吸水効果もある。
【0020】
植物性物質の粉砕物としては、種子の殻、果実の核、穀物及びその芯材などの粉砕物が挙げられ、これらの少なくとも1種を配合することができる。例えば、桃、梅、胡桃(クルミ)、椿、銀杏、落花生、栗などの果実の核や種子の殻の粉砕物、米、麦、アワ、ひえ、とうもろこしなどの穀物の粉砕物や、トウモロコシの穂芯などの穀物芯材の粉砕物などが挙げられる。これらはモース硬度が2〜5程度であり、氷よりも硬いので、氷雪路面に対して引っ掻き効果を発揮することができる。
【0021】
該植物性物質の粉砕物は、ゴムとのなじみを良くして脱落を防ぐために、ゴム接着性改良剤の樹脂液で表面処理されたものを用いることが好ましい。ゴム接着性改良剤としては、例えば、レゾルシン・ホルマリン樹脂初期縮合物とラテックスの混合物を主成分とするもの(RFL液)が挙げられる。
【0022】
植物性物質の粉砕物の平均粒径は、特に限定されないが、引っ掻き効果を発揮するとともにトレッドからの脱落を防止するため、100〜600μmであることが好ましく、より好ましくは150〜500μmであり、更に好ましくは200〜400μmである。
【0023】
植物性物質の粉砕物を配合する場合、その配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.5〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜10質量部である。
【0024】
本実施形態に係るゴム組成物には、フィラー(補強性充填剤)として、カーボンブラック及び/又はシリカを配合することができる。フィラーの配合量は、特に限定されず、例えば、上記ジエン系ゴム100質量部に対し25〜125質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量部である。
【0025】
カーボンブラックとしては、スタッドレスタイヤのトレッド部に用いる場合、ゴム組成物の低温性能、耐摩耗性能やゴムの補強性などの観点から、窒素吸着比表面積(N
2SA)(JIS K6217−2)が70〜150m
2/gであり、かつDBP吸油量(JIS K6217−4)が100〜150ml/100gであるものが好ましく用いられる。具体的にはSAF,ISAF,HAF級のカーボンブラックが例示され、配合量としてはジエン系ゴム100質量部に対して10〜80質量部程度の範囲で使用されることが好ましく、より好ましくは15〜50質量部である。
【0026】
シリカとしては、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、或いは表面処理シリカなどが使用され、配合量はゴムのtanδのバランスや補強性などの観点からジエン系ゴム100質量部に対して10〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは15〜50質量部である。
【0027】
シリカを配合する場合、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤を併用することが好ましく、その配合量はシリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0028】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているプロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤(アミン−ケトン系、芳香族第2アミン系、フェノール系、イミダゾール系等)、加硫剤、加硫促進剤(グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系等)などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0029】
加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0030】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階(通常は温度が140〜180℃程度)で、ジエン系ゴムに対し、表面処理セルロース粒子とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階(通常は温度が80〜120℃程度)で、加硫剤及び加硫促進剤を添加混合することによりゴム組成物を調製することができる。
【0031】
このようにして得られるゴム組成物は、空気入りタイヤの接地面を構成するトレッドゴムに用いられ、より好ましくは、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどの冬用タイヤ(ウインタータイヤ)のトレッド部のためのゴム組成物として好適に用いられ、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、該トレッド部を形成することができる。空気入りタイヤのトレッド部には、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、接地面を構成するゴムに用いられるので、単層構造のものであれば、当該トレッドゴムが上記ゴム組成物からなり、2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合して(排出温度=90℃)、タイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0034】
・NR:天然ゴム(RSS#3)
・BR:JSR(株)製「BR01」(ハイシスBR,シス1,4結合含量95%)
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストKH(N339)」(N
2SA=93m
2/g、DBP=119ml/100g)
・シリカ:東ソー・シリカ株式会社製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:デグサ社製「Si75」
・パラフィンオイル:JOMOサンエナジー(株)製「プロセスP200」
【0035】
・セルロース粒子:大東化成工業(株)製「CELLULOBEADS D−5」、平均粒径=5μmの球状セルロース
・表面処理セルロース粒子:大東化成工業(株)製「MOISCELL PW D−5」、平均粒径=5μmのコハク酸カリウム表面処理球状セルロース
・クルミ殻粉砕物:株式会社日本ウォルナット製「ソフトグリット#46」に対し、特開平10−7841号公報に記載に方法に準じてRFL処理液で表面処理を施したもの(処理後のクルミ殻粉砕物の平均粒径=300μm)
・とうもろこし穂芯粉砕物:株式会社日本ウォルナット製「CORN COBS GRIT 40/60」(粒径=210-420μm)
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:住友化学工業(株)製「アンチゲン6C」
・ワックス:日本精蝋株式会社製「OZOACE0355」
・加硫促進剤:住友化学工業(株)製「ソクシノールCZ」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
【0036】
得られた各ゴム組成物について、硬度を測定した。また、各ゴム組成物を用いてスタッドレスタイヤを作製した。タイヤサイズは195/65R15として、そのトレッドに各ゴム組成物を適用し、常法に従い加硫成形することによりタイヤを製造した。得られた各タイヤについて、耐摩耗性能、氷上制動性能を評価した(使用リムは15×5.5JJ)。各測定、評価方法は次の通りである。
【0037】
・硬度:JIS K6253に準拠したデュロメータ タイプAにより、150℃×30分で加硫した試験片(厚みが12mm以上のもの)について、常温(23℃)での硬度を測定した。
【0038】
・耐摩耗性能:上記タイヤを2000ccの4WD車に装着し、2500km毎に左右ローテーションさせながら10000km走行させて、走行後の残溝の深さを測定し、走行距離を、摩耗量(初期溝深さ−残溝深さ:単位mm)で除した値で評価した。残溝深さは周方向溝4本の平均値である。比較例1の値を100とした指数で表示し、指数が大きいほど耐摩耗性能が良好であることを示す。
【0039】
・氷上制動性能:上記タイヤを2000ccの4WD車に装着し、氷盤路(気温−3±3℃)上で40km/h走行からABS作動させて制動距離を測定し(n=10の平均値)、制動距離の逆数について比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、氷上路面での制動性能に優れることを示す。
【0040】
【表1】
【0041】
結果は、表1に示す通りであり、表面処理セルロース粒子を配合した実施例1〜3であると、コントロールである比較例1に対して、耐摩耗性能の低下を小さく抑えながら、氷上性能が飛躍的に向上していた。これらは、表面処理されていない未処理のセルロース粒子を配合した比較例2に対しても、更なる氷上性能の向上効果を持つものであった。また、実施例4,5に示されたように、表面処理セルロース粒子とクルミ殻粉砕物を併用することにより、更なる氷上性能の向上効果が得られており、未処理のセルロース粒子とクルミ殻粉砕物を併用した比較例4と比べても、氷上性能に顕著な併用効果が認められた。とうもろこし穂芯粉砕物を併用した場合も同様であり、実施例6,7では、比較例5,6に対し、優れた氷上性能の向上効果が得られた。