(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113465
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】固定式等速自在継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/221 20060101AFI20170403BHJP
【FI】
F16D3/221
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-252358(P2012-252358)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-101901(P2014-101901A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100101616
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 吉之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 達朗
【審査官】
村上 聡
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭51−137044(JP,U)
【文献】
特開2009−250365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/221
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球面状の外周面に複数のボール溝を円周方向に等ピッチで形成した内側継手部材と、
球面状の内周面に複数のボール溝を円周方向に等ピッチで形成した外側継手部材と、
対をなす前記内側継手部材のボール溝と前記外側継手部材のボール溝との間に介在させたボールと、
前記外側継手部材の外径側に位置し、前記ボールの列を外径側から支持してすべてのボールを同一平面上に保持するボール保持部材と
を具備し、
前記ボールの数が、6、8、10の何れかである固定式等速自在継手。
【請求項2】
前記ボール保持部材が球面状の内周面を有し、前記外側継手部材の外周面と前記ボール保持部材の内周面を球面嵌合させた請求項1の固定式等速自在継手。
【請求項3】
前記内側継手部材の外周面と前記外側継手部材の内周面を球面嵌合させた請求項1の固定式等速自在継手。
【請求項4】
前記内側継手部材のボール溝の曲率中心が前記内側継手部材の中心軸線上にあり、前記外側継手部材のボール溝の曲率中心が前記外側継手部材の中心軸線上にある請求項1、2、または3の固定式等速自在継手。
【請求項5】
前記内側継手部材のボール溝の曲率中心と前記外側継手部材のボール溝の曲率中心が一致している請求項4の固定式等速自在継手。
【請求項6】
前記内側継手部材のボール溝の曲率中心と前記内側継手部材の外周面の曲率中心が一致し、前記外側継手部材のボール溝の曲率中心と前記外側継手部材の内周面の曲率中心が一致している請求項4または5の固定式等速自在継手。
【請求項7】
前記内側継手部材のボール溝が前記内側継手部材の中心軸線に対して傾斜し、前記外側継手部材のボール溝が前記外側継手部材の中心軸線に対して傾斜し、対をなす前記内側継手部材のボール溝と前記外側継手部材のボール溝が交差している請求項1ないし6のいずれか1項の固定式等速自在継手。
【請求項8】
球面状の外周面に複数のボール溝を円周方向に等ピッチで形成した内側継手部材と、
球面状の内周面に複数のボール溝を円周方向に等ピッチで形成した外側継手部材と、
対をなす前記内側継手部材のボール溝と前記外側継手部材のボール溝との間に介在させたボールと、
前記外側継手部材の外径側に位置し、前記ボールの列を外径側から支持してすべてのボールを同一平面上に保持するボール保持部材と
を具備し、
前記ボール保持部材が球面状の内周面を有し、前記外側継手部材の外周面と前記ボール保持部材の内周面を球面嵌合させた固定式等速自在継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固定式等速自在継手に関する。
【背景技術】
【0002】
等速自在継手は、駆動側の回転軸と従動側の回転軸を連結してトルクを伝達する働きをし、2軸が角度をとった状態でも角速度が変動しないため、自動車や各種産業機械の動力伝達系をはじめ広く使用されている。各種の等速自在継手が知られているが、角度変位だけが可能な固定式と、軸方向変位(プランジング)も可能なしゅう動式とに大別できる。固定式等速自在継手としては、ツェッパジョイント、アンダーカットフリージョイントなどがある。
【0003】
固定式等速自在継手の代表例としてツェッパジョイントについて説明するならば、
図8〜10に示すように、内側継手部材としての内輪110と、外側継手部材としての外輪120と、トルク伝達部材としてのボール130と、ボール130を保持するケージ132とを主要な構成要素としている。ここで、
図8は
図9のVIII−VIII線に沿った断面を示し、
図9は
図8のIX−IX線に沿った断面を示している。
図9から分かるように、内側から外側に向かって内輪110、ケージ132、外輪120の順に三層構造をなしている。内輪110を駆動側または従動側の回転軸と接続し、外輪120を従動側または駆動側の回転軸と接続する。
【0004】
内輪110は軸心にスプライン(またはセレーション。以下同じ)孔112が形成してあり、このスプライン孔112で従動側または駆動側の回転軸とトルク伝達可能に結合するようになっている。内輪110は球面状の外周面114を有し、その外周面114に、内輪110の軸方向に延びた複数のボール溝116が円周方向に等間隔に形成してある。
【0005】
外輪120は、図示した例は軸方向の一端で開口したベル型で、マウス部122とステム部128とからなり、ステム部128に形成したスプラインで従動側または駆動側の回転軸とトルク伝達可能に結合するようになっている。マウス部122は球面状の内周面124を有し、その内周面124に、外輪120の軸方向に延びた複数のボール溝126が円周方向に等間隔に形成してある。
【0006】
内輪110のボール溝116と外輪120のボール溝126は対をなし、各対のボール溝116、126間にボール130が組み込んである。縦断面(
図8)で見るとボール溝116、126は円弧状で、内輪110のボール溝116の曲率中心O1と外輪120のボール溝126の曲率中心O2は、継手中心Oから互いに反対側に等距離Fだけオフセットした位置にある。したがって、対をなすボール溝116、126によって形成されるボールトラックは、外輪120の開口側に向かって徐々に拡大したくさび状を呈する。
【0007】
ケージ132は円環状で、内輪110と外輪120との間に介在する。そして、ケージ132の球面状の内周面134は内輪110の外周面114と球面接触し、ケージ132の球面状の外周面136は外輪120の内周面124と球面接触する。ケージ132には、半径方向に貫通するポケット138が円周方向に所定間隔で形成してあり、各ポケット138にボール130が収容され、したがって、すべてのボール130はケージ132によって同一平面上に保持される。
【0008】
述べたような構成であるため、
図10に示すように駆動側と従動側の2軸が角度θをとった状態で回転すると、くさび状のボールトラック116、126の作用で、外輪120の開口側へボール130を押し出そうとする力が作用する。この力をケージ132が受け止める結果、ケージ132は常に、角度θを二等分する平面P上にボール列を配向せしめる。その結果、2軸が角度θをとった状態でも、ボール130の中心から各回転軸に降ろした垂線(回転半径)の長さが一定となり、各回転軸の角速度が変動することはない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Universal Joint and Driveshaft Design Manual, Advanced Engineering Series No.7, The Society of Automobile Engineers, Inc., pp. 145-150
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の固定式等速自在継手は、トルク伝達部材として複数のボール130を用い、それらのボール130を同一平面上に保持するためにケージ132を必要とする。ケージ132は内輪110と外輪120との間に介在し、内周面134で内輪110の外周面114と球面接触し、外周面136で外輪120の内周面124と球面接触する。また、ケージ132には、ボール130を個別に収容するためのポケット138がボール130の数だけ設けてある。このような複雑な形状であるため、ケージ132の製造には多工程を要し、しかも高精度が要求されるため、等速自在継手全体のコスト高の一つの要因ともなっている。
【0011】
また、ケージ132の円周方向にボール130の数だけポケット138を加工する必要があるが、個別に加工せざるを得ないため、すべてのポケット138の寸法や軸方向位置が全く同一に仕上がる保証はない。その結果、ポケット138がいわゆる千鳥配置となってしまうこともあり、すべてのボール130を同一平面上に保持するというケージの機能が損なわれ、固定式等速自在継手の等速性や振動特性等に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0012】
また、従来、ケージ132を内輪110と外輪120との間に介在させ、トルクは内輪110からボール130およびケージ132を経て外輪120に、あるいはその逆に、伝達される。しかも、内輪110の外周面114とケージ132の内周面134、ケージ132の外周面136と外輪120の内周面124といった2箇所の球面嵌合部位が存在していた。したがって、とりわけ高負荷下や高速回転時に、すべり摩擦によるトルク損失や発熱の問題があった。
【0013】
この発明の主要な目的は上述の問題点を除去することにあり、具体的には、ケージ形状を簡易化した固定式等速自在継手の新規な構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、従来のようにケージ132を内輪110と外輪120との間に介在させるのではなく、従来のケージ132に代わる部材としてのボール保持部材32を外側継手部材(外輪)20の外径側に配置することによって課題を解決した。すなわち、この発明の固定式等速自在継手は、球面状の外周
面に複数のボール
溝を円周方向に等ピッチで形成した内側継手部
材と、球面状の内周
面に複数のボール
溝を円周方向に等ピッチで形成した外側継手部
材と、対をなす
前記内側継手部
材のボール
溝と前記外側継手部
材のボール
溝との間に介在させたボー
ルと、
前記外側継手部
材の外径側に位置し、
前記ボー
ルの列を外径側から支持してすべてのボー
ルを同一平面上に保持するボール保持部
材とを具備
し、前記ボールの数が、6、8、10の何れかである。
また、この発明の固定式等速自在継手は、球面状の外周面に複数のボール溝を円周方向に等ピッチで形成した内側継手部材と、球面状の内周面に複数のボール溝を円周方向に等ピッチで形成した外側継手部材と、対をなす前記内側継手部材のボール溝と前記外側継手部材のボール溝との間に介在させたボールと、前記外側継手部材の外径側に位置し、前記ボールの列を外径側から支持してすべてのボールを同一平面上に保持するボール保持部材とを具備し、前記ボール保持部材が球面状の内周面を有し、前記外側継手部材の外周面と前記ボール保持部材の内周面を球面嵌合させている。
【0015】
従来の固定式等速自在継手では、内輪110と外輪120との間にケージ132を介在させているのに対して、この発明では、従来のケージ132に代わるものとしてボール保持部材32を採用し、これを外側継手部材(外輪)20の外径側に配置したものである。このボール保持部材32は、ボール列を外径側から支持する。したがって、従来のケージ132に必須であったポケット138を廃止することができ、ボール保持部材32の外形は、リングあるいは円柱といった、非常に簡易な回転体とすることができる。ここで、回転体とは、平面図形が同一平面上にある一つの直線を軸として回転して生ずる立体と定義される。
【0016】
すべてのボール30を同一平面上に保持する機能は、たとえば、ボール保持部材32の内周に全周にわたる環状溝36を設けて、この環状溝36に沿ってボール30を整列させるようにすれば一層確実となる。この場合のボール保持部材32の形は玉軸受の軸受外輪のような形状となる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、従来のケージに代わるボール保持部材32の形状が非常に簡易化され、しかも、回転体であるため旋削や研削で容易に、精度よく、加工することができ、サイクルタイムも大幅に短縮できる。また、ポケットを廃止したので、従来のようにポケットを千鳥に加工してしまう心配は皆無である。したがって、高精度のボール保持部材32を歩留まりよく、しかも低コストで製造することができ、固定式等速自在継手の精度向上とコスト低減に貢献する。さらに、ボール保持部材32は外側継手部材20の外径側に位置し、内側継手部材10〜ボール30〜外側継手部材20といったトルク伝達経路中にはなく、ボール30や内側継手部材10、外側継手部材20から直接力を受けることがないため、トルク損失や発熱が減少し、耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明の実施例を示す固定式等速自在継手の縦断面図である。
【
図2】
図1の固定式等速自在継手の横断面図である。
【
図3】(A)は内輪の正面図、(B)は側面図である。
【
図4】(A)は外輪の縦断面図、(B)は側面図である。
【
図6】(A)はボール保持部材の正面図、(B)は側面図である。
【
図8】従来の固定式等速自在継手の中立状態の縦断面図である。
【
図9】
図8の固定式等速自在継手の横断面図である。
【
図10】
図8の固定式等速自在継手が角度θをとった状態の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に従って説明する。添付図面中、
図1および
図2は組み立てた状態の固定式等速自在継手を示し、
図1は
図2のI‐I線に沿った断面に
相当し、
図2は
図1のII‐II線に沿った断面に相当する。
図1および
図2に示すように、
固定式等速自在継手は、内側継手部材としての内輪10と、外側継手部材としての外輪20と、トルク伝達部材としてのボール30と、ボール30を保持するボール保持部材32を主要な構成要素としている。なお、図示は省略したが、ブーツを装着してその内部に潤滑用のグリースまたはオイルを充填した状態で使用するのが一般的である。
【0020】
内輪10は、
図3に示すように、軸心部に軸孔12を有し、図示しないシャフトとトルク伝達可能に結合するようになっている(
図8参照)。図面には軸孔12が内輪10を軸方向に貫通している場合を例示したが、盲孔であってもよい。内輪10の外周面14は球面状で、その曲率中心は継手中心Oと一致する(
図1)。内輪10の外周面14には円周方向に等ピッチでボール溝16が形成してある。ボール溝16は円弧状で、その曲率中心は継手中心Oと一致する(
図1)。したがって、ボール溝16の深さは内輪10の軸方向で一定である。
【0021】
外輪20は、
図4および
図5に示すように、球状部分22と軸状部分28とからなり、球状部分22の中心は軸状部分28の中心軸線の延長線上にある。軸状部分28は、駆動側または従動側の回転軸とトルク伝達可能に接続するようになっている。球状部分22は内部が空洞で、球面状の内周面24aと球面状の外周面24bは同心球面状となっている。したがって、球状部分22の肉厚は一定である。
図1に示すように、中立状態にある固定式等速自在継手において、外輪20の内周面24aおよび外周面24bの曲率中心は継手中心Oと一致する。
【0022】
外輪20の球状部分22の内周面24aは内輪10の外周面14と球面嵌合する。外輪20の球状部分22の外周面24bはボール保持部材32の内周面34と球面嵌合する。なお、球状部分22の外周面24bとボール保持部材32の内周面34との球面嵌合部は、球状部分22の内周面24aと内輪10の外周面14との球面嵌合部に比べて、ルーズな嵌合とすることもできる。
【0023】
外輪20の球状部分22は円周方向に等ピッチで配置した指状の部分からなり、これらの指状部分の間にボール溝26が形成してある。言わば、従来の固定式等速自在継手(
図8および
図9参照)における外輪110の外径側を除去した格好である。そして、上述の内周面24aと外周面24bは、これらの指状部分の内周面と外周面でもある。すでに述べたとおり、内周面24aと外周面24bは同心で、指状部分の厚さが均一であるため、ボール溝26の深さも外輪10の軸方向で一定である。
図4(A)に示すように、各ボール溝26は外輪20の中心軸線に対して傾斜し、かつ、隣り合ったボール溝26どうしは傾斜の向きが逆になっている。
【0024】
円周方向に等ピッチで形成した指状部分の間に形成されるボール溝26も円周方向に等ピッチで、また、ボール溝26の曲率中心も継手中心Oと一致する。すなわち、縦断面(
図1および
図4(A))で見たとき、各ボール溝26は内周面24の曲率中心を曲率中心とする円弧形状を呈する。ボール溝26の横断面形状は、円、楕円、ゴシックアーチ等が知られている。ボール溝26の側壁26a、言い換えれば、指状部分の側壁26aの断面形状は、
図2に示すようにボール30を抱き込む円弧状とするほか、平坦とすることもできる。
【0025】
内輪10のボール溝16と外輪20のボール溝26は対をなし、各対のボール溝16、26間にボール30を介在させる。ボール30は内輪10と外輪20との間でトルクを伝達する役割を果たす。すなわち、たとえば内輪10を駆動側の回転軸と接続した場合、トルクは、内輪10のボール溝16の側壁からボール30に伝わり、さらにボール30から外輪20のボール溝26の側壁26aに伝わる(
図2参照)。
【0026】
対をなすボール溝16、26は傾斜の向きが逆となる組み合わせとする。ボール30の数、したがってまたボール溝16、26の数は任意で、たとえば6、8、10などが知られているが、図示した実施例はボール数を8とした場合の例である。ボールの数が増えると1個あたりの荷重が小さくなり、小径のボールを使用することができ、ボール列のPCDも小さくすることができるため、固定式等速自在継手の外径を小さくしたコンパクトな設計が可能となる。
【0027】
従来の固定式等速自在継手(
図8〜10)では、くさび状のボールトラック116、126の作用で、くさびの狭い側から広い側へ、ボール130を軸方向に押す力が発生し、これをケージ132によって受け止めてボール130の飛び出しを防止するようにしている。これに対して、上述の実施例では、ボール溝16、26の深さを均一にするとともに、対をなす内輪10のボール溝16と外輪20のボール溝26を互いに逆向きに傾斜させることによって交差させ、その交点にボール30を組み込んである。
【0028】
図1(B)から分かるように、ボール列の外径側にボール保持部材32が位置している。ボール保持部材32は、
図6および
図7に示すように、平面図形が同一平面上にある一つの直線を軸として回転して生ずる立体すなわち回転体である。図示したボール保持部材32の場合、外周面38が円筒形状で、内周面34は、ボール保持部材32の中心軸線上に曲率中心をもった球面状である。すでに述べたとおり、この内周面34は外輪20の球状部分22の外周面24bと球面嵌合する。
図1に示すように、中立状態にある固定式等速自在継手において、ボール保持部材32の内周面34の曲率中心は継手中心Oと一致する。
【0029】
ボール保持部材32の内周面34には、その全周にわたって環状溝36が形成してある。そして、
図1から分かるとおり、ボール30は外輪20の半径方向両側に部分的に突出し、半径方向内側に突出した部分は内輪10のボール溝16と接触し、半径方向外側に突出した部分はボール保持部材32の環状溝36と接触する。
図6(A)に示す例では、環状溝36は横断面が円弧形状で、ボール30のボール列の外径側における部分を収容する。したがって、この環状溝36の溝底はボール列の外接円に相当する。なお、ボール保持部材32がボール列をその外径側から支持するというとき、両者の接触位置は必ずしもボール列の外接円と一致するとは限らない。すべてのボール30が一つの環状溝36に沿って整列する結果、すべてのボール30が同一平面上に保持される。また、このような形状であることから、ボール保持部材32は中心軸線のまわりを回転(自転)することができる。
【0030】
ボール列が環状溝36に収容されることから、逆に、ボール保持部材32もボール列によって支持される関係にある。したがって、すでに述べたように、ボール保持部材32と外輪20の外周面24aとの嵌合はルーズなものとすることができる。このように、ボール保持部材32の存在によってボール列の外径側へのボール30の移動が規制され、かつ、内輪10の存在によってボール列の内径側へのボール30の移動が規制されるため、必ずしもボール溝26の側壁26aを凹曲面にしてボール30を抱く機能をもたせる必要はなく、加工が容易な平坦面にしてもよい。
【0031】
ボール保持部材32は、環状溝36にボール30を組み込むことができるようにするため、二分割構造とすることができる。たとえば、
図6(B)および
図7に示すように、ボール保持部材32の軸線を含む平面で分割するほか、環状溝36の中心を通りボール保持部材32の軸線に垂直な平面で分割する。内輪10と外輪20とボール30とからなるサブアセンブリを組み立てた後で、二分割構造のボール保持部材32を組み付けることで固定式等速自在継手の組立てが完了するようにすれば、従来の固定式等速自在継手に比べて組立作業が非常に簡略化できる。従来の固定式等速自在継手の場合、ボールを組み込む作業が煩雑であった。すなわち、外輪の内部に内輪とケージを挿入し、ボール溝の位相を合わせた状態で、内輪とケージをそれぞれ所定のボール組み込み角度に変位させてケージのポケットを外輪の端面から臨ませた状態で、1個ずつ組み込む必要があった。
【0032】
以上の説明では図面に例示した固定式等速自在継手を例にとったが、この発明は、その要旨に悖ることなく種々改変して実施をすることが可能である。一例を挙げるならば、環状溝36の断面形状は上述の円弧形状に限らず、V字形状や楕円形状であってもよい。また、図示した例ではボール保持部材32は円筒形状の外周面38をもったリング状であるが、外周面38の形状は任意である。また、二分割構造のボール保持部材を組み付けた後の固定方法に関しても、ボルト・ナットを利用するなど、任意の固定手段を選択して採用することができる。
【符号の説明】
【0033】
10 内輪(内側継手部材)
12 軸孔
14 外周面
16 ボール溝
20 外輪(外側継手部材)
22 球状部分
24a 内周面
24b 外周面
26 ボール溝
26a 側壁
28 軸状部分
30 ボール(トルク伝達部材)
32 ボール保持部材
34 内周面
36 環状溝
38 外周面