特許第6113505号(P6113505)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6113505ハイブリッドナノ材料で強化されたコンクリート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113505
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月19日
(54)【発明の名称】ハイブリッドナノ材料で強化されたコンクリート
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20170410BHJP
   C04B 14/38 20060101ALI20170410BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B14/38 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-544411(P2012-544411)
(86)(22)【出願日】2010年12月13日
(65)【公表番号】特表2013-514255(P2013-514255A)
(43)【公表日】2013年4月25日
(86)【国際出願番号】MX2010000153
(87)【国際公開番号】WO2011074930
(87)【国際公開日】20110623
【審査請求日】2013年12月13日
【審判番号】不服2015-14521(P2015-14521/J1)
【審判請求日】2015年8月3日
(31)【優先権主張番号】MX/A/2009/013931
(32)【優先日】2009年12月17日
(33)【優先権主張国】MX
(73)【特許権者】
【識別番号】512157896
【氏名又は名称】ウルバニサシオネス インモビリアリアス デル セントロ,エセ.ア.デ セー.ウベ.
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(72)【発明者】
【氏名】ソトモンタジャ,ホセ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス アラニス,マウリシオ
(72)【発明者】
【氏名】テロネス マルドナド,マウリシオ
(72)【発明者】
【氏名】テロネス マルドナド,フンベルト
(72)【発明者】
【氏名】ラミレス ゴンザレス,ダニエル
【合議体】
【審判長】 板谷 一弘
【審判官】 山本 雄一
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0229494(US,A1)
【文献】 Simone Musso et al.、Influence of carbon nanotubes structure on the mechanical behavior of cement composites、Composites Science and Technology、2009.09.発行、Vol.69, No.11−12、P.1985−1990
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C01B31/00-31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化コンクリートであって、
セメントと、
骨材と、
水、界面活性剤および、前記セメントに対し0.01重量%の量の多層カーボンナノチューブを含む分散液と、
からなり、
前記多層カーボンナノチューブの外壁中の炭素原子が、窒素により置換されたことを特徴とする、強化コンクリート。
【請求項2】
強化コンクリートであって、
セメントと、
骨材と、
水、界面活性剤、および、前記セメントに対し0.1重量%の量の多層カーボンナノチューブを含む分散液と、
からなり、
前記多層カーボンナノチューブの外壁中の炭素原子が、窒素により置換されたことを特徴とする、強化コンクリート。
【請求項3】
強化コンクリートであって、
セメントと、
骨材と、
水、界面活性剤、および、前記セメントに対し0.01重量%の量の多層カーボンナノチューブを含む分散液と、
からなり、
前記多層カーボンナノチューブの外壁中の炭素原子が、酸素により置換されたことを特徴とする、強化コンクリート。
【請求項4】
前記セメントがポルトランドセメントであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の強化コンクリート。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブが竹タイプであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の強化コンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化コンクリート、具体的にはナノ構造材料で強化されたコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
建設産業では、一般的に使用される複合材料、すなわち容積を獲得するための他の材料を含み、かつ優れた機械特性を有するペーストタイプの材料が存在する。この材料はコンクリートである。歴史を通じて、コンクリートは、石造建物から、細くて耐久性のある構造の建造物における主成分となる(例えば、鉄筋コンクリート)という変遷を経てきた。
【0003】
コンクリートは、主として圧縮下での歪又は強度に耐えるその能力、及びかかる強度を獲得する(乾燥する)のに必要とされる時間に基づいて種々の分類を有する。このように、正常な耐久性のコンクリート及び高耐久性又は迅速耐久性のコンクリートを得ることができる。国内外の産業が、コンクリートが新たな特性を獲得するために、コンクリートと組み合わせられる多様な材料を生成してきたことについて言及することは重要である。これらの材料は、添加剤、流動化剤、色素遅延剤、防水剤、空気連行剤(air fillers)及び歪強化繊維として知られる。換言すると、コンクリートは、その主な特徴(圧縮強度)を損なわずに、かつその本来の特性において利益を得る多数の外部作用物質(添加剤)を受容することができる混合物である。
【0004】
他方で、複合材料を開発することにおける関心が近年高まっており、2つ以上の構成成分を組み合わせることで、それらの特性により多様な領域での使用が可能となる。最近になって、改善された特性を有するナノ化合物を製造するためにナノメートルスケールの材料を使用することにおける関心が高まっている。カーボンナノチューブは、これらが鋼鉄よりも100倍強度がある一方で6倍軽いとされるため、ナノ化合物を製造するための優れた候補である。
【0005】
上記の例としては特許文献1があり、これは、カーボンナノチューブがセメント質母材中で十分に分散され得るように、超音波エネルギーを印加すること、及びカーボンナノチューブの流体分散液を形成するために界面活性剤を使用すること、及びその分散液をセメントと混合することによって、分散されたカーボンナノチューブで強化されたセメント樹脂を含む複合材料を製造する方法を開示している。
【0006】
同様に、特許文献2は、セメント、骨材材料、カーボンナノチューブ及び可塑剤を使用する、セメント複合材におけるカーボンナノチューブの使用について開示している。
【0007】
種々のカーボンナノチューブタイプの中で、単一壁及び多重壁構造、さらに物理的処理及び/又は化学的処理を用いてナノチューブ壁に結合される元素によって違いがある。例えば、炭素原子は、壁において種々の元素により置き換えることができる。これらの中には、窒素、リン、カリウム、ケイ素、酸素、ホウ素等が存在する。さらに、ナノチューブ壁に共有結合される共有結合性基、特にメチル基、カルボニル基、水酸基等が存在することが可能である。ドーピング又は官能基化のいずれかによるチューブ表面の修正は、それらの表面反応性を増大し、これは、ナノチューブと、セメント又はコンクリートのような対象となる母材との間に強力な相互作用を創出するのに必須である。
【0008】
正確に、均質にかつ適正な速度で混合する場合に、ナノ構造がコンクリート母材へバルク特性を移動させることが可能であること、及びセメント水と骨材の水圧コンクリートが外部作用物質を受容することができることを考慮すると、最低限の量のナノ材料(例えば、0.1重量%〜10重量%)を添加することによって、改善された機械特性を伴う新たなファミリーのナノ構造セメントを生成することが可能である。この点で、セメント及びコンクリートにおける強化カーボンナノ繊維とカーボンナノチューブ(純粋)との混合におけるMatthew Brennerの研究について言及することは重要であり、添加剤のないサンプルに対するこれらの混合物を有するサンプルの圧縮強度の増大が報告されている。
【0009】
上述の文献はいずれも、ナノチューブのドーピング部位又は官能基化部位に起因して、コンクリートへのチューブの荷重伝達(load transference)を大幅に増大させる、ドープされた多重壁カーボンナノチューブ又は官能基化された多重壁カーボンナノチューブは使用されていない。
【0010】
概して、コンクリートは、それらが、「ハリネズミ」様間結合性であるため、化合物に高い強度を付与する一連のスポア(spore)結合性であるとみなすことができ、かかる構造は、ハリネズミ様間結合がそれらの点により間結合性でなく、またそれらは圧力下で分離するため、より良好な強度を取扱い、本発明は、本発明者らのチューブの壁において結晶構造を触媒するかかる結晶構造の組込みに関連する。かかるナノチューブのドーピング時に、それらはより反応性となり、かかる結合を可能にし、そのようにしてナノチューブのようなより小さな大きさの元素を有するスポアを結合し、この様式で二重効果を得て、圧縮時にはスポア同士を結合するチューブが封じ込めとして作用して、それらの圧縮強度を増大させ、加圧時にはチューブは、スポア間のテンソルとして作用して、その表面で成長する。
【0011】
本発明によるハイブリッド材料とは、ドープされたナノチューブ(竹タイプ(bamboo type))、SiO及びナノプレートのナノバー(又はSiO、AlOのナノフレーク)を含めることを意味する。
【0012】
ドープされたナノチューブ、特に窒素ドープされたナノチューブの使用は、コンクリートと混合すると、コンクリート機械特性を2倍増大させるSiOのナノ構造(フレーク及びバー)の成長を促進することについて言及することは重要である。窒素ドープされたナノチューブが添加されず、他のナノチューブ(例えば、上記で引用した文献のナノチューブ)が添加される(ここで、窒素ドープされた材料は使用されない)場合、SiO及びAlO NOのこれらの新たな構造は、ナノチューブと相互作用する。したがって、窒素ドープされたナノチューブと、SiOフレーク及びAlOフレークと、SiOナノバーとの組合せは、コンクリート内でより耐久性のある新たなハイブリッドナノ材料を形成する。
【0013】
現行の技術水準では、チューブは、完全な結晶格子(crystalline net)を有するが、本発明のドーピングでは、チューブにおいて欠陥が生じ、したがって黒鉛格子は完全ではない。
【0014】
第一に、「ドープされたチューブ」という用語は、不完全な黒鉛格子の配置での元素の置換に適用可能である。3つのタイプのドーピングは以下のとおりである。
【0015】
タイプI:空孔(vacancy)を有しない黒鉛格子における(利用可能な任意の原子による)炭素原子置換。
【化1】
【0016】
タイプII:空孔を有する黒鉛格子における(利用可能な任意の原子による)炭素原子置換。
【化2】
【0017】
タイプIII:一般的な空孔を有する部位における(水素(−H)、又はカルボニル基(−COH)若しくはカルボキシル基(COOH)による)炭素原子置換。
【化3】
【0018】
すべての場合で、xは、0.1at%〜10at%(原子百分率で)の範囲であり、xはH、N、P、OX、S、Si、Se、B、・・・カルボニル基、カルボキシル基(任意の組合せ又は並べ替えを含む)である。
【0019】
第二に、ドーピングに加えて、チューブの寸法、及び同様にアスペクト比は、これまでに言及された研究と異なる。
【0020】
第三に、本発明のナノ構造コンクリートでは、ナノ材料の組合せが付与されるが、強化メカニズムが異なる。
1.多重壁又は多層ナノチューブ(MWNT)を用いた場合、不完全な黒鉛格子により、減衰したタイプIIIドーピング(<2at%〜3at%)、及び酸素とのより低い反応性を有する。様々なナノ構造は、添加されるもの(すなわち、ナノチューブ)と比較して存在せず、強度における中程度の増大は、ナノチューブの存在及び材料内でのそれらの分布に起因する。
2.COを用いた場合、タイプIIIドーピング(3at%〜5at%)による不完全な格子、及び酸素との中程度の反応性を有する。SiO又はAlOのナノ構造はともに、ナノチューブの添加時に存在せず、強度における中程度の増大は、ナノチューブの存在及び材料内でのそれらの分布に起因する。
3.CNを用いた場合、タイプI及びタイプIIドーピング(0.1%〜10%で)による不完全な格子を有し、酸素に対して高い反応性を伴う。SiO及びAlOのナノ繊維並びにナノプレートからなるハイブリッドナノ構造配置が、CNの存在とともに存在する。その高い反応性に起因して、SiO及びAlOの構造は、CNのチューブにより触媒され、結果は、ナノチューブ及びセメントと水との混合物だけでなく、CNナノチューブは、発熱反応によってセメントと水との混合中にも触媒され、SiO及びAlOのナノ繊維並びにナノプレートを形成し、これまでに報告されてないコンクリートのナノメートル単位の構造での改良を創出している。
【0021】
第四に、:より良好に機能するカーボンナノチューブは、N−ドープされたものであり、それらの構造は竹タイプであり、これは、従来技術の特許のいずれにも開示されておらず、実際には、カーボンナノチューブは、それらの物理的構造に基づくと、正確にはそれら自体はチューブではない。
【0022】
本発明により製造されるコンクリートの用途は、近年ではコンクリート自体の使用として非常に幅広く、建設産業は特定の部門に限られず、建設産業は、ダム、発電所、通信路のような最大級の土木建造物、並びに巨大な大きさと容積を有する複雑な建物、また住宅部門(ここで、この材料の適用性は、下記理由から非常に重要である)で具体的に挙げられる。
【0023】
本発明のコンクリートは、通常のコンクリートよりも強度が強いため、より少量のコンクリートしか住宅構造部材の建設に必要とされず、したがってより多くの居住領域に利用可能である。
【0024】
含まれる構造部材の厚さがより薄いため、かかる部材の関連重量も少なく、したがってかかる部材の取扱いは簡素化され、その取扱いに必要とされる人材又は労力が少なくなる。
【0025】
構造部材がより軽量であり、かつより取扱いやすいため、それらの製造は、構造を予め製造するためのコントロールされた環境で簡素化され、予備製造のコンクリート住宅の産業化を可能にする。
【0026】
生産されるセメントのトンは、生産されるCOのトンに相当するため、使用されるセメントの量を減少させることによって、環境が保護される。
【0027】
任意のタイプの建物正面の装飾部材は、風により引き起こされる圧力を支持するのにより薄い厚さ及びそれらの通常の強度しか必要とせず、それは主要構造の重量が少なくなることを意味し、このようにして構造物のコストを節約している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】国際公開第2009/099640号
【特許文献2】米国特許出願第2008/0134942号
【発明の概要】
【0029】
したがって、本発明の目的は、セメントと、水、界面活性剤、多層カーボンナノチューブを含む分散液とからなり、前記多層カーボンナノチューブの外壁中の炭素原子が、他の元素の原子により置換され、多層カーボンナノチューブが、その表面上に化学基を含む、強化コンクリートを提供することである。
【0030】
さらに、本発明の別の目的は、界面活性剤と、外壁中の炭素原子が、他の元素の原子により置換され、表面上に化学基を有する多層カーボンナノチューブとの分散液を形成する工程、及び
前記分散液をセメントと混合して強化コンクリートを形成する工程、
を有する、コンクリートを強化する方法を提供することである。
【0031】
本発明のより良好な理解のために、付随する図面とともに本発明を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1a】種々の配向の六角形を有するカーボンナノチューブモデルを示す図である。
図1b】グラフェンシート及び単一壁ジグザグ構造を有するナノチューブの概略図である。
図2】エーロゾル支援化学蒸着(AACVD)を使用したカーボンナノチューブの合成に関する合成プロセス、及びナノチューブのパッキングされた成長の略図である。
図3a】ナノチューブのX線回折パターンである。
図3b】ナノチューブの結晶性を示す画像である。
図3c】ナノチューブの高解像度透過型電子顕微鏡画像である。
図4】ポルトランドセメントに関する電子走査により実施されたグラフである。
図5a】灰色セメント、すなわちポルトランドセメントの形態、並びに粒径(1μm〜15μmの範囲の)を示す走査型電子顕微鏡の顕微鏡写真である。
図5b】灰色セメント、すなわちポルトランドセメントの形態、並びに粒径(1μm〜15μmの範囲の)を示す走査型電子顕微鏡の顕微鏡写真である。
図5c】灰色セメント、すなわちポルトランドセメントの形態、並びに粒径(1μm〜15μmの範囲の)を示す走査型電子顕微鏡の顕微鏡写真である。
図6】新たなナノ構造化合物材料を得るための2つのタイプのナノチューブのセメントへの付加の概念を示す概略図である。
図7a】走査型電子顕微鏡により得られる顕微鏡写真であり、官能性OH基を有するドープされたカーボンナノチューブの配列されたパッキングを示す。
図7b】走査型電子顕微鏡により得られる顕微鏡写真であり、窒素でドープされたカーボンナノチューブの配列されたパッキングを示す。
図8a】同時超音波分散プロセスの概略図である。
図8b】カーボンナノチューブパッケージ及び水性媒体に対する界面活性剤が引き起こす影響の概略図であり、対象コンクリート混合物を製造するのに更に適合性である均質な分散液中で転換される。
図9a】強化コンクリート試験チューブを製造するのに使用されるPVC鋳型の概略図である。
図9b】機械強度試験で使用される強化コンクリート試験チューブを示す図である。
図10a】異なるパーセントでナノチューブを用いた場合の分散液の顕微鏡写真を示し、図の下部では、同じサンプルのより詳細な画像を示す。
図10b】異なるパーセントでナノチューブを用いた場合の分散液の顕微鏡写真を示し、図の下部では、同じサンプルのより詳細な画像を示す。
図10c】異なるパーセントでナノチューブを用いた場合の分散液の顕微鏡写真を示し、図の下部では、同じサンプルのより詳細な画像を示す。
図11a】ナノチューブブロックが分散及び触媒されたナノメートル構造を示す図である。
図11b】ナノチューブブロックが分散及び触媒されたナノメートル構造を示す図である。
図11c】ナノチューブブロックが分散及び触媒されたナノメートル構造を示す図である。
図11d】ナノチューブブロックが分散及び触媒されたナノメートル構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
強化コンクリートに使用される物質は、ナノチューブとして既知であるカーボンナノ構造であり、これらは、チューブ型のグラフェン壁又は格子(カーボン六角形格子)により配置される多重同心円層のシリンダ構造である(図1)。これらのグラフェンシリンダ内の炭素原子は、共有結合により強力に結合されている。炭素間結合は、実際に存在する最も耐性又は強度のあるものの1つであることに留意すべきである。しかしながら、六角形の格子における炭素原子は、他の元素又は官能基により置き換えることができ、このことがこれらのチューブをより反応性にし、また種々の母材とのそれらの相互作用が大きくなる。炭素原子を置き換えることができる基又は元素の中では、N、P、O、S、Si、B、Se等又は任意の官能基−OH、−OOH若しくはOHを列挙することができる。
【0034】
炭素供給源を含有する溶液、及び成長に関与する触媒(例えば、Ni、Fe及びCoのような遷移金属)を使用するAACVD法(エーロゾル支援化学蒸着)により合成された場合、本発明で使用される多重層カーボンナノチューブの寸法は、300μmの平均長及び30nm〜70nmの直径を有する。この溶液は、エーロゾルを生成するために超音波処理され(図2)、不活性ガスを用いて、ナノチューブの成長が起こる高温反応器へ石英管を通して輸送される。
【0035】
本発明のナノチューブの他の重要な特徴は、
カーボンナノチューブと、ナノ化合物を製造するための対象となる母材との間でより大きな相互作用を可能にするドーピング又は官能基により引き起こされる反応性、
ナノチューブの優れた結晶化度(図3b)、
図3a、図3b及び図3cで観察することができるナノチューブの優れた純度
である。
【0036】
本発明で使用されるポルトランドセメントは、以下で示されるリストに従って下記の酸化物により形成される:
酸化カルシウム 64%、
酸化ケイ素 21%、
酸化アルミニウム 5.5%、
酸化鉄 4.5%、
酸化マグネシウム 2.4%、
硫酸塩 1.6%、
他のミネラル(主に、水) 1%。
【0037】
本発明者らの実験で使用されるポルトランドセメントを特徴づけるために、走査型電子顕微鏡を使用した粒径のこれまでの検査(図4)、並びにX線エネルギー分散技法(EDX)を使用した材料化学組成の分析を実行した。図5a〜図5cでは、走査型電子顕微鏡の顕微鏡写真を示し、種々の解像度での灰色セメント、すなわちポルトランドセメントの形態、並びに1μm〜15μmの粒径を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
本発明の目的は、最少量のナノチューブを使用してコンクリートの機械特性を増大させるために、ドープされたカーボンナノチューブ及び官能基化されたカーボンナノチューブの機械特性を利用することの研究である。本発明の重要事項は、ナノ構造表面上での活性部位の相互作用(ドーピング)(すなわちドープされた外壁を有するカーボンナノチューブ(他の元素の原子により置換された炭素原子、図6)を使用する)、並びに表面官能基(上述するものを有する化学基で官能基化される、図6)を有することに関し、先に凝集される場合に使用される他の材料に対して特有であるカーボンナノチューブのアスペクト比(長さ/直径)を利用する(使用するナノチューブアスペクト比は、30、000〜50、000の範囲である)。
【0040】
適切な媒体中でのナノチューブ分散液
コンクリートでは、コンクリート水混合物が、その機械強度を決める。したがって、2つの方法でナノチューブの混合を実施することが可能である。a)それらをセメント中に分散させること、又はb)それらを水中に、その後セメント中に分散させること。セメント中の分散が、製造時の材料の稠度に起因してあまり適していないため、後にセメントへ添加されるであろう水中でのナノチューブの均質な分散を実施することが最も都合がよい。
【0041】
最初に、ナノチューブは、束(bundles)のように配列された配置で並べられ、これらの配置は概して、疎水性であり、媒体中での均質な分散を困難にしている。この理由に起因して、ナノチューブの均質な分散を実行するために界面活性な作用物質、すなわち界面活性剤を使用することが重要であり、このことによりカーボンナノチューブを用いた強化コンクリートの調製に適した媒体が得られる。図7a及び図7bでは、それぞれ、官能基でドープされたカーボンナノチューブ、及び窒素でドープされたカーボンナノチューブの配列されたパッキングが示されている。
【0042】
ドープされた多重壁カーボンナノチューブ及び/又は官能基化された多重壁カーボンナノチューブの場合に分散液を調製するために、対象となる混合物を製造するのに使用されるセメント重量に関するナノチューブの重量パーセントに基づく種々の比率を使用した。特に、水の容積に関して0.3%で水中に通常の界面活性剤(pH9の液体洗浄剤、同様にSDS又は他のタイプの界面活性剤を使用することが可能である)を含有するエルレンマイヤーフラスコ(図8)を使用した。その後、分散のプロセスは、超音波浴中にフラスコを浸漬させること(30分の連続サイクルで42kHzの電気音響変換器を使用する)、並びに5分の超音波パルス及び3分の停止を伴う500ワットの超音波点をフラスコ内に同時に配置させることによって行われた。図8bに、カーボンナノチューブに対して、界面活性剤により引き起こされる影響(左側)、及び均質な分散をもたらす水性媒体(右側)(コンクリート混合物を実現するのに更に適合性である)を示す。
【0043】
対照試験チューブの製造
ドープされたカーボンナノチューブ又は官能基化されたカーボンナノチューブを使用してナノ構造強化コンクリートを得るための実験は、ASTM基準(米国材料試験協会)に従った寸法を有する試験チューブの製造を含む。種々のドープされたナノチューブ濃度又は官能基化されたナノチューブ濃度を有する種々のサンプルが得られた。例えば、灰色セメント、すなわちポルトランドセメントの重量に対して示される下記の重量パーセントを使用した。1.0%、0.1%及び0.01%。
【0044】
鋳型は、10cm長のセグメントに切断したPVCチューブから得られ、そこでコンクリートがいったん乾燥されて、固体状態になったら、試験チューブの抜き取りを容易とするために、クロスカットを行った(図9a及び図9b)。
【0045】
実験結果は、灰色ポルトランドセメントと、200mlの0.3%の界面活性剤の水溶液(pH9)との混合物400gの入った2つの試験チューブを使用することによって統計的に得られた。
【0046】
ドープされたカーボンナノチューブ及び官能基化されたカーボンナノチューブを混合するために、200gの灰色セメントをプラスチック容器に注ぎ、その後、水溶液を徐々に注ぎ(上記溶液は、分散されたカーボンナノチューブを保有する)、連続して手動で混合する。最終的に、アルカリ度を測定して、このようにしておよそ12のpHを得る。
【0047】
その後、塩基溶液に起因した水分の喪失を回避するために、プラスチックフィルムで覆った木製プレート上に鋳型を置き、セメントナノチューブの混合物をその中に注ぐ。注入が完了したら、プラスチックフィルムを鋳型の最上部上に置く(水分の過度の喪失を回避するため)。
【0048】
24時間後、試験チューブを下向きに滑らせるように、試験チューブを鋳型から抜き出す。24時間硬化させる試験チューブよりも幾分高く、試験チューブをプラスチック容器内に留め具で入れる。
【0049】
硬化時間が終わった後、試験チューブを液体媒体から引き抜き、表面上に置き、湿っている一見乾いた布で、試験チューブをきれいにして、その表面から過剰の水を取り除いて、混合物のタイプに従ってタグ付けする。
【0050】
1つの対照サンプル及び3つの試験サンプルを有する4つ1組の試験チューブを、各混合物のタイプに関して固定させる。一連の混合物の差は、セメントに添加した水溶液のタイプである。上記溶液は、保有するドープされたナノチューブのタイプに従って、またセメントの0.01重量%〜1.0重量%の範囲である保有するナノ構造濃度に従って識別される。
【0051】
カーボンナノチューブを有する水溶液の調製中、0.01重量%〜0.1重量%のパーセントで、塊(lumps)及び集合体(conglomerates)が出現した濃度の残部に反して、分散液は非常に均質であり、実際にはナノチューブ集合体が観察されなかったことは重要なことである。1重量%のドープされたナノチューブ又は官能基化されたナノチューブのパーセントで、水溶液は高度に飽和された。200mlの水及び0.3%の界面活性剤中の4gのカーボンナノチューブ(図10c)。極めて高い粘度を有する現象が、分散プロセスの開始から約5分後に観察され、したがって溶液は、次第に粘性となり、これによりキャビテーション有効性が低減し、特にカーボンナノチューブが窒素ドープされる場合には、カーボンナノチューブパッケージを有する幾つかの部位をもたらす。
【0052】
試験チューブは、120トン容量の水圧プレスを使用した単純な圧縮により破裂するまで圧縮させて、試験チューブはすべて、ネオプレンコーティングした鋼板(プレス付属品)上に堆積され、それで覆われ、シリンダの横断面に印加した強度を標準化して、それぞれの場合で、各試験チューブに対して関連圧縮をもたらした。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
強化コンクリート試験チューブを、圧縮強度を分析するための機械試験に付すと、重要な結果が得られた。強化試験チューブに関する機械特性の有意な増大が、0.01%の窒素ドープされたカーボンナノチューブのパーセントを用いた場合に観察され、並びにコンクリート母材中のナノ構造の分散が観察された(図11a〜図11d)。
【0056】
図11a〜図11dで示される画像では、幾つかの場合で全体に分散されないナノチューブブロック、及びセメントと、水と、ドープされたカーボンナノチューブとの間の反応生成物であり得る結晶形態を観察することができる。ナノチューブがそれらの活性表面上で結晶構造を触媒する形態により、コンクリートの機械特性の改善を引き起こすと考えられる現象である、2つの構造間での適切な挙動パターンを推論することが可能である。
【0057】
本発明は、その好ましい実施形態で開示されているが、特許請求の範囲を逸脱することなく、本発明で多数の変更及び修飾が為され得ることは、当業者に明らかである。
図1a
図1b
図2
図3a
図3b
図3c
図4
図5a
図5b
図5c
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図9a
図9b
図10a
図10b
図10c
図11a
図11b
図11c
図11d