【実施例】
【0065】
本発明の有用性を実証するため、本発明の構成を有するリング状試験片(実施例1〜22)と、本発明の構成を有さないリング状試験片(比較例1〜3)とについて、それぞれ、(1)密度、(2)絶縁被膜の電気抵抗率、(3)リング状試験片自体の電気抵抗率、(4)磁束密度、(5)最大透磁率、(6)鉄損、(7)圧環強度および(8)ラトラ値を測定・算出するための確認試験を実施し、その試験結果に基づいて上記(1)〜(8)の各項目をそれぞれ評価した。なお、上記(1)〜(8)の評価項目のうち、(6)鉄損および(7)圧環強度は6段階で評価し、その他の項目は4段階で評価した。そして、磁気特性の指標である上記(4)〜(6)と、強度の指標である上記(7)および(8)の評価点の合計値(総合得点)にて各リング状試験片の性能を評価した。以下、まず、上記(1)〜(8)の評価項目の測定・算出方法および評価点の詳細について述べる。
【0066】
(1)密度
リング状試験片の寸法および重量を測定し、その測定結果から密度を算出した。算出値に応じて以下の評価点を付与することとした。
4点:7.6g/cm
3以上
3点:7.5g/cm
3以上7.6g/cm
3未満
2点:7.4g/cm
3以上7.5g/cm
3未満
1点:7.4g/cm
3未満
【0067】
(2)絶縁被膜の電気抵抗率
リング状試験片の製作時に用いる磁心用粉末に絶縁被膜を形成するのと同様の手法で、縦50mm×横50mm×厚み5mmの鉄板表面に絶縁被膜を形成し、この絶縁被膜の電気抵抗率を抵抗率計(三菱化学アナリテック株式会社製ハイレスタUP・ロレスタGP)で測定した。これは、絶縁被膜自体の電気抵抗率を正確に測定するためである。測定値に応じて以下の評価点を付与することとした。なお、各絶縁被膜には加熱処理を施していない。
4点:10
10Ω・cm以上
3点:10
5Ω・cm以上10
10Ω・cm未満
2点:1Ω・cm以上10
5Ω・cm未満
1点:1Ω・cm未満
【0068】
(3)リング状試験片の電気抵抗率
リング状試験片の電気抵抗率を抵抗率計(三菱化学アナリテック株式会社製ハイレスタUP・ロレスタGP)で測定した。測定値に応じて以下の評価点を付与することとした。
4点:10
2Ω・cm以上
3点:10Ω・cm以上10
2Ω・cm未満
2点:10
-2Ω・cm以上10Ω・cm未満
1点:10
-2Ω・cm未満
【0069】
(4)磁束密度
直流B−H測定器(メトロン技研株式会社製SK−110型)で磁界10000A/mでの磁束密度[T]を測定した。測定値に応じて以下の評価点を付与することとした。
4点:1.65T以上
3点:1.60T以上1.65T未満
2点:1.55T以上1.60T未満
1点:1.55T未満
【0070】
(5)最大透磁率
直流B−H測定器(メトロン技研株式会社製SK−110型)で磁界10000A/mでの最大透磁率を測定した。測定値に応じて以下の評価点を付与することとした。
4点:1000以上
3点:800以上1000未満
2点:600以上800未満
1点:600未満
【0071】
(6)鉄損
交流B−H測定器(岩通計測株式会社製B−Hアナライザー SY−8218)で周波数1000Hzでの鉄損[W/kg]を測定した。測定値に応じて以下の評価点を付与することとした。
6点:90W/kg未満
5点:90W/kg以上100W/kg未満
4点:100W/kg以上110W/kg未満
3点:110W/kg以上120W/kg未満
2点:120W/kg以上130W/kg未満
1点:130W/kg以上
【0072】
(7)圧環強度
株式会社島津製作所製の精密万能試験機オートグラフを用いてリング状試験片の外周面に縮径方向の圧縮力(圧縮速度1.0mm/min)を加え、リング状試験片が破壊されたときの圧縮力を圧環強度[N]とした。算出値に応じて以下の評価点を付与することとした。
6点:680N以上
5点:600N以上680N未満
4点:520N以上600N未満
3点:440N以上520N未満
2点:360N以上440N未満
1点:360N未満
【0073】
(8)ラトラ値(重量減少率)
日本粉末冶金工業会規格JPMA P11−1992に規定の「金属圧粉体のラトラ値測定方法」に準拠。具体的には、ラトラ測定器の回転籠に投入したリング状試験片を1000回回転させた後、リング状試験片の重量減少率[%]を算出し、耐欠け性の指標であるラトラ値とした。算出値に応じて以下の評価点を付与することとした。
4点:0.04%未満
3点:0.04%以上0.06%未満
2点:0.06%以上0.1%未満
1点:0.1%以上
【0074】
次に、実施例1〜22に係るリング状試験片の作製方法について述べる。
[実施例1]
軟磁性金属粉末としてのアトマイズ鉄粉末を作製・分級し、粒径30〜300μmのアトマイズ鉄粉末を得た。次いで、和光純薬株式会社製の親水性合成ヘクトライト0.3mass%の、ヘクトライト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に上記鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、ヘクトライト水溶液の排出→純水での洗浄→真空恒温槽で80℃×24hr加熱(乾燥)という手順を踏むことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。そして、固体潤滑剤としてのステアリン酸亜鉛を2.1vol%含み、残部を上記磁心用粉末とした原料粉末を成形金型に投入し、1200MPaの成形圧で外径寸法、内径寸法および厚さが、それぞれ、20.1mm、12.8mmおよび7mmのリング状圧粉体を成形した。最後に、このリング状圧粉体を窒素雰囲気中で700℃×1hr加熱処理することにより、実施例1としてのリング状試験片を得た。この実施例1において、絶縁被膜を構成する個々の結晶(すなわち、上記の親水性合成ヘクトライトをへき開させることで得られる結晶)のサイズは、長さ50nm×厚さ1nm程度である。
[実施例2]
株式会社ホージュン製のモンモリロナイト[商品名:ベンゲルA(“ベンゲル”は登録商標)]0.3mass%の、モンモリロナイト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。次いで、実施例1と同様の手順を踏むことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例2としてのリング状試験片を得た。なお、この実施例2において、絶縁被膜を構成する結晶のサイズは、長さ500nm×厚さ1nm程度である。
[実施例3]
和光純薬株式会社製の親水性合成雲母0.3mass%の、雲母(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。次いで、実施例1と同様の手順を踏み、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚み20nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例3としてのリング状試験片を得た。なお、この実施例3において、絶縁被膜を構成する結晶のサイズは、長さ5000nm×厚さ10nm程度である。
[実施例4]
コープケミカル株式会社製の親油性スメクタイト[商品名:ルーセンタイトSPN(但し“ルーセンタイト”は登録商標)]0.3mass%の、親油性スメクタイト(結晶)が完全にへき開した状態で分散したエタノール溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、親油性スメクタイトのエタノール溶液の排出→エタノールでの洗浄→真空恒温槽で80℃×24hr加熱という手順を踏むことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ20nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例4としてのリング状試験片を得た。この実施例4において、絶縁被膜を構成する結晶のサイズは、長さ50nm×厚さ1nm程度である。
[実施例5]
和光純薬株式会社製の親水性合成ヘクトライト0.3mass%(実施例1と同種)の、ヘクトライトが完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、ヘクトライト水溶液の排出→真空恒温槽で80℃×24hr加熱という手順を踏む(つまり「純水での洗浄工程」を省略)ことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚み500nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例5としてのリング状試験片を得た。
[実施例6]
実施例6としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例6では、軟磁性金属粉末として、粒径30〜300μmに分級された電解鉄粉末を使用した。
[実施例7]
軟磁性金属粉末としてのアトマイズ鉄粉末を作製・分級し、粒径300μm以上のアトマイズ鉄粉末を得た。その後、実施例1と同様の手順(磁心用粉末の生成〜圧粉体の成形〜加熱処理)を踏んで、実施例7としてのリング状試験片を得た。
[実施例8]
実施例8としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例8では、圧粉体成形用の原料粉末として、ステアリン酸亜鉛の配合割合が0.35vol%とされたものを使用した。
[実施例9]
実施例9としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例9では、圧粉体成形用の原料粉末として、ステアリン酸亜鉛の配合割合が7.0vol%とされたものを使用した。
[実施例10]
実施例10としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例10では、圧粉体成形時の成形圧を600MPaとした。
[実施例11]
実施例11としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例11では、圧粉体成形時の成形圧を800MPaとした。
[実施例12]
実施例12としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例12では、圧粉体の加熱処理条件を550℃×1hrとした。
[実施例13]
ROCKWOOD社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:Laponite RD(“Laponite”は登録商標)]0.3mass%の、ヘクトライト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、実施例1と同様の手順を踏み、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例13としてのリング状試験片を得た。この実施例13において、絶縁被膜を構成する結晶のサイズは、長さ25nm×厚さ1nm程度である。
[実施例14]
コープケミカル株式会社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:ルーセンタイトSWF(“ルーセンタイト”は登録商標)]0.3mass%の、ヘクトライト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、実施例1と同様の手順を踏み、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。そして、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例14としてのリング状試験片を得た。この実施例14において、絶縁被膜を構成する結晶は、端部(端面)のヒドロキシル基の一部がフルオロ基に置換されたもの(置換量は、当該結晶の珪素含有量を1molとしたとき約0.3mol)であり、かつそのサイズは長さ50nm×厚さ1nm程度である。
[実施例15]
ROCKWOOD社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:Laponite B(“Laponite”は登録商標)]0.3mass%の、ヘクトライト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、実施例1と同様の手順を踏むことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例15としてのリング状試験片を得た。この実施例15において、絶縁被膜を構成する結晶は、端部(端面)のヒドロキシル基の一部がフルオロ基に置換されたもの(置換量は、当該結晶の珪素含有量を1molとしたとき約0.1mol)であり、かつそのサイズは長さ40nm×厚さ1nm程度である。
[実施例16]
和光純薬株式会社製の親水性合成ヘクトライト0.3mass%(実施例1と同種)の、ヘクトライトが完全にへき開した状態で分散した水溶液に、金属アルコキシドとしてのテトラエトキシシラン(和光純薬株式会社製)を0.1mass%混合してなる混合水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、これを泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、混合水溶液の排出→純水での洗浄→真空恒温槽で80℃×24hr加熱(乾燥)という手順を踏んで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例16としてのリング状試験片を得た。この実施例16において、絶縁被膜を構成する結晶は、端部のヒドロキシル基が金属アルコキシドと縮合された構造を有するものである。
[実施例17]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させる水溶液を、和光純薬株式会社製の親水性合成ヘクトライト0.3mass%(実施例1と同種)の、ヘクトライトが完全にへき開した状態で分散した水溶液に、ピロリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製)を0.3mass%混合してなる混合水溶液とした以外は実施例16と同様の手順を踏み、実施例17としてのリング状試験片を得た。この実施例17において、絶縁被膜を構成する結晶は、端部の少なくとも一部に陰イオンを結合させたものである。
[実施例18]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させる水溶液を、和光純薬株式会社製の親水性合成ヘクトライト0.3mass%(実施例1と同種)の、ヘクトライトが完全にへき開した状態で分散した水溶液に、堺化学工業株式会社製のジルコニウム分散液(商品名:SZR−CW)を0.1mass%混合してなる混合水溶液とした以外は実施例16と同様の手順を踏み、実施例18としてのリング状試験片を得た。従って、この実施例18に係る試験片を構成する磁心用粉末は、絶縁被膜がジルコニウム化合物を含んで形成されたものである。
[実施例19]
クニミネ工業株式会社製の親水性合成サポナイト[商品名:スメクトンSA(“スメクトン”は登録商標)]0.3mass%の、サポナイト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。そして、実施例1と同様の手順を踏み、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例19としてのリング状試験片を得た。
[実施例20]
ROCKWOOD社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:Laponite B]0.2mass%およびクニミネ工業株式会社製の親水性合成サポナイト[商品名:スメクトンSA]0.2mass%の各結晶が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間攪拌した。そして、実施例1と同様の手順を踏み、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末(ヘクトライトの結晶およびサポナイトの結晶の配合割合がそれぞれ50%とされた絶縁被膜を有する磁心用粉末)を生成した。その後、この磁心用粉末を用い、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例20としてのリング状試験片を得た。
[実施例21]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させるための溶液を、上記のROCKWOOD社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:Laponite B]0.3mass%およびクニミネ工業株式会社製の親水性合成サポナイト[商品名:スメクトンSA]0.1mass%の各結晶が完全にへき開した状態で分散したものとした以外は、実施例20と同様の手順を踏んで実施例21としてのリング状試験片を得た。すなわち、このリング状試験片を構成する個々の磁心用粉末は、ヘクトライトの結晶およびサポナイトの結晶の配合割合が、それぞれ75%および25%とされた絶縁被膜を有するものである。
[実施例22]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させるための溶液を、上記のROCKWOOD社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:Laponite B]0.1mass%およびクニミネ工業株式会社製の親水性合成サポナイト[商品名:スメクトンSA]0.3mass%の各結晶が完全にへき開した状態で分散したものとした以外は、実施例20と同様の手順を踏んで実施例22としてのリング状試験片を得た。すなわち、このリング状試験片を構成する個々の磁心用粉末は、ヘクトライトの結晶およびサポナイトの結晶の配合割合が、それぞれ25%および75%とされた絶縁被膜を有するものである。
【0075】
最後に、比較例1〜3に係るリング状試験片の作製方法について述べる。
[比較例1]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を、リン酸マンガン水和物0.5mass%水溶液中に浸漬させた後、泡立たないように10分間程度攪拌した。その後、リン酸マンガン水溶液の排出→真空恒温槽で80℃×24hr加熱(乾燥)という手順を踏むことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚み2000nmのリン酸マンガン被膜(絶縁被膜)からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様にして、比較例1としてのリング状試験片を得た。
[比較例2]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を、Alfa Aesar社製チタンメトキシド0.5mass%のエタノール溶液に浸漬させた後、泡立たないように2分間程度攪拌した。次いで、チタンメトキシドのエタノール溶液の排出→真空恒温槽で80℃×24hr加熱(乾燥)という手順を踏むことで、絶縁被膜の前駆体としてのチタン(厚み2000nm)が鉄粉末の表面に固着した磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様にして、比較例2としてのリング状試験片を得た。なお、鉄粉末の表面に固着したチタンは、圧粉体に加熱処理を施すのに伴って酸化チタン(絶縁被膜)になった。
[比較例3]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を、有機溶媒中にシリコーン樹脂が溶解された溶液中に浸漬させた後、これを乾燥させることにより、鉄粉末およびその表面を被覆する厚み5000nmのシリコーン被膜からなる磁心用粉末を得た。その後、実施例1と同様にして、比較例3としてのリング状試験片を得た。
【0076】
上記の実施例1〜22および比較例1〜3それぞれについての作製方法の概要を
図6にまとめて示し、各実施例および比較例の(1)密度、(2)絶縁被膜の電気抵抗率、(3)リング状試験片自体の電気抵抗率、(4)磁束密度、(5)最大透磁率、(6)鉄損、(7)圧環強度および(8)ラトラ値の評価点、並びに評価項目(4)〜(8)の評価点の合計値を
図7に示す。
図7からも明らかなように、実施例1〜22は、何れも、比較例1〜3に比べて総合得点が高くなった。実施例1〜22の中でも実施例1〜4は総合得点が比較的高く、さらに実施例13〜22は総合得点が一層高くなった。一方、比較例1〜3は、何れも、磁気特性および強度の双方において実施例よりも劣り、総合得点が10点にも至らなかった。
【0077】
実施例1〜4の総合得点(評価)が比較的高くなったのは、以下の(a)〜(f)によるものと考えられる。
(a)成形性に優れるアトマイズ鉄粉を使用している。
(b)粒径が30〜300μmの金属粉末を使用している。
(c)適量の固体潤滑剤を混合した原料粉末を用いて圧粉体を成形している。
(d)圧粉体の成形圧が適切である。
(e)圧粉体の加熱処理条件が適切である。
(f)絶縁被膜の膜厚が20nm以下である。
そして、上記(a)(c)(d)および(f)により圧粉体の高密度化が図られ、その結果、(4)磁束密度、(7)圧環強度および(8)ラトラ値の評価点が向上した。また、上記(b)は(6)鉄損の低減に寄与したものと考えられる。また、上記(e)により保磁力の低減および絶縁被膜(圧粉体)の強度向上が図られ、その結果、(4)磁束密度、(5)最大透磁率、(6)鉄損、(7)圧環強度および(8)ラトラ値の評価点が向上した。
【0078】
また、実施例13〜22の総合得点(評価)が一層高くなったのは、それぞれ、以下の理由によるものと考えられる。
・実施例13→膨潤性スメクタイト族鉱物(合成ヘクトライト)をへき開させてなる結晶のうち、長さおよび厚さが小さい結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例14→端面のヒドロキシル基をフルオロ基に置換した結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例15→フルオロ基への置換量が適切な結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例16→端面のヒドロキシル基に金属アルコキシドを縮合させた結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例17→端面に負の電荷を有するイオンを結合させた結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例18→ジルコニウム化合物を含めて絶縁被膜を形成している。
・実施例19→膨潤性スメクタイト族鉱物のうち、合成サポナイトをへき開させてなる結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例20〜22→膨潤性スメクタイト族鉱物のうち、合成ヘクトライトおよび合成サポナイトの結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。なお、実施例20〜22のうち、合成ヘクトライトおよび合成サポナイトの配合割合をそれぞれ50%とした実施例20の評価点が最も高くなっているのは、このような配合割合を採用した場合に、鉄損を最も効果的に抑制することができたためである(
図8参照)。
【0079】
一方、比較例1〜3について検証すると、まず、比較例1および比較例3では絶縁被膜の耐熱性が低かったために、圧粉体に加熱処理を施すのに伴って絶縁被膜が損傷等し、その結果、鉄損が著しく増加したものと考えられる。また、絶縁被膜の膜厚が、比較例1および比較例3でそれぞれ2000nmおよび5000nmと厚かったため、(1)密度および(3)磁束密度が低く、さらには(6)圧環強度および(7)ラトラ値が劣る結果になったものと考えられる。次に、比較例2では、絶縁被膜を精度良く形成することができず、金属粉末の表面の一部が外部に露出した磁心用粉末が混入し、その結果、粉末間渦電流が発生して(5)鉄損が増加したものと考えられる。また、比較例1と同様に絶縁被膜の膜厚が2000nmと厚かったため、(1)密度および(3)磁束密度が低く、さらには(6)圧環強度および(7)ラトラ値が劣る結果になったものと考えられる。
【0080】
以上の確認試験結果から、本発明に係る磁心用粉末は、磁気特性や各種強度に優れた圧粉磁心を得る上で極めて有益であることが実証される。