特許第6113516号(P6113516)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113516
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】磁心用粉末および圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20170403BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20170403BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20170403BHJP
   B22F 3/00 20060101ALI20170403BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20170403BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20170403BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20170403BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20170403BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   H01F1/24ZHV
   B22F1/00 Y
   B22F1/02 E
   B22F3/00 B
   B22F3/24 B
   B22F3/02 M
   H01F27/24 D
   H01F41/02 D
   H01F1/33
【請求項の数】16
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-17017(P2013-17017)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-116573(P2014-116573A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年9月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-23187(P2012-23187)
(32)【優先日】2012年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-250347(P2012-250347)
(32)【優先日】2012年11月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】片柳 洸
(72)【発明者】
【氏名】宗田 法和
(72)【発明者】
【氏名】島津 英一郎
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/128427(WO,A1)
【文献】 特開2000−003810(JP,A)
【文献】 特開2011−105990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/24
B22F 1/00
B22F 1/02
B22F 3/00
B22F 3/02
B22F 3/24
H01F 1/33
H01F 27/255
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性金属粉末およびその表面を被覆する絶縁被膜からなり、該絶縁被膜が、層状酸化物をへき開させてなる結晶であって、厚さおよび長さがそれぞれ1nm以下および50nm以下の前記結晶の集合体で形成され、かつこの集合体を構成する前記結晶のうち、前記軟磁性金属粉末と隣接する前記結晶は前記軟磁性金属粉末とイオン結合し、それ以外の前記結晶は金属カチオンを介して隣接する前記結晶とイオン結合していることを特徴とする磁心用粉末。
【請求項2】
前記絶縁被膜は、長さを厚さで除して算出されるアスペクト比が互いに異なる複数種の前記結晶の集合体で形成されている請求項1に記載の磁心用粉末。
【請求項3】
前記結晶は、前記層状酸化物としての膨潤性層状粘土鉱物をへき開させたものである請求項1又は2に記載の磁心用粉末。
【請求項4】
前記膨潤性層状粘土鉱物が、膨潤性スメクタイト族鉱物又は膨潤性雲母族鉱物である請求項3に記載の磁心用粉末。
【請求項5】
前記膨潤性スメクタイト族鉱物がサポナイトである請求項4に記載の磁心用粉末。
【請求項6】
前記結晶は、前記層状酸化物としての前記膨潤性層状粘土鉱物をへき開させたものであり、かつその端部のヒドロキシル基の少なくとも一部がフルオロ基に置換されたものである請求項3〜の何れか一項に記載の磁心用粉末。
【請求項7】
ヒロドキシル基のフルオロ基への置換量が、前記結晶の珪素含有量を1molとしたとき、0.05mol以上0.3mol以下である請求項に記載の磁心用粉末。
【請求項8】
前記結晶は、前記層状酸化物としての前記膨潤性層状粘土鉱物をへき開させたものであり、かつその端部のヒドロキシル基が金属アルコキシドと縮合された構造を有するものである請求項3〜の何れか一項に記載の磁心用粉末。
【請求項9】
前記結晶は、前記層状酸化物としての前記膨潤性層状粘土鉱物をへき開させたものであり、かつその端部の少なくとも一部に陰イオンが結合したものである請求項3〜の何れか一項に記載の磁心用粉末。
【請求項10】
前記絶縁被膜が、さらにジルコニウム化合物を含んで形成されている請求項1〜の何れか一項に記載の磁心用粉末。
【請求項11】
前記軟磁性金属粉末が、アトマイズ法により製造されたものである請求項1〜10の何れか一項に記載の磁心用粉末。
【請求項12】
前記軟磁性金属粉末の粒径が30μm以上300μm以下である請求項1〜11の何れか一項に記載の磁心用粉末。
【請求項13】
前記絶縁被膜の膜厚が1nm以上500nm以下である請求項1〜12の何れか一項に記載の磁心用粉末。
【請求項14】
請求項1〜13の何れか一項に記載の磁心用粉末を主成分とした原料粉末の圧粉体を加熱することで形成されてなる圧粉磁心。
【請求項15】
圧粉磁心全体の密度を真密度で除して算出される値の百分率である相対密度が93%以上である請求項14に記載の圧粉磁心。
【請求項16】
前記原料粉末は、固体潤滑剤を0.3〜7vol含み、残部を前記磁心用粉末としたものである請求項14又は15に記載の圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁心用粉末および圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、例えば電気製品や機械製品に組み込んで使用される電源回路には、変圧器、昇圧器、整流器などが組み込まれている。これら変圧器等は、チョークコイル、パワーインダクタおよびリアクトル等、磁心と巻き線とを主要部として構成される各種コイル部品を有する。そして、近年の省エネ意識の高まりによる電気製品や機械製品に対する低消費電力化の要請に対応するためにも、電源回路内で数多く使用される磁心の磁気特性を向上し、磁心の磁気損失を低減することが求められている。また、近年、地球温暖化問題に対する意識の高まりから、化石燃料消費量を抑制し得るハイブリッド自動車(HEV)や、直接的な化石燃料消費のない電気自動車(EV)の需要が高まる傾向にあり、これらHEVやEVの走行性能等はモータの性能によって左右される。そのため、各種モータに組み込まれる磁心(ステータコアやロータコア)についても、その磁気特性を向上し、磁気損失を低減することが求められている。
【0003】
従前、磁心としては、表面を絶縁被膜で被覆してなる鋼板(電磁鋼板)を、接着剤層を介して積層させたいわゆる積層磁心が広く使用されていた。しかしながら、このような積層磁心は形状自由度が低く、小型化や複雑形状化の要請に対応することが困難である。そこで、表面が絶縁被膜で被覆された軟磁性金属粉末(保磁力が小さく透磁率が大きい金属粉末であって、一般には、鉄を主成分とした金属粉末)を圧縮成形することにより得られる、いわゆる圧粉磁心が開発され、種々の製品に実装されるに至っている。
【0004】
ところで、磁心の磁気特性を高めるための有効な手段の一つに、磁心の保磁力を小さくすることが挙げられる。保磁力が小さくなれば、透磁率が増大する一方でヒステリシス損失(鉄損)が低下するからである。圧粉磁心の保磁力は、圧粉磁心の成形用粉末(以下「磁心用粉末」という)を構成する軟磁性金属粉末の粒径、不純物含有量および歪量などによって左右されるが、保磁力の小さい圧粉磁心を簡便に得るための有効な手段の一つに、粉末生成時や圧粉体の圧縮成形時等に軟磁性金属粉末に蓄積された歪(結晶歪)を除去することが挙げられる。上記の歪を適切に除去するには、金属粉末(金属)の再結晶温度以上で圧粉体を所定時間加熱する必要があり、例えば純鉄粉末およびその表面を被覆する絶縁被膜からなる磁心用粉末を用いて圧粉体を成形した場合には、圧粉体を600℃以上、好ましくは650℃以上、より好ましくは700℃以上で加熱する必要がある。なお、圧粉体の加熱温度や加熱時間は、使用する軟磁性金属粉末の純度等によって適宜調整される。
【0005】
従って、軟磁性金属粉末の表面を被覆する絶縁被膜は、高い耐熱性を具備するものが望ましい。絶縁被膜の耐熱性が不十分であると、加熱処理に伴って絶縁被膜が損傷,分解,剥離等することから、軟磁性金属粉末に蓄積された歪を適当に除去し得るような高温での加熱処理が実行できなくなるからである。高い耐熱性を有する絶縁被膜の具体例としては、高抵抗物質およびその表面を被覆するリン酸系化成処理被膜の二層構造からなるもの(特許文献1)、Al−Si−O系複合酸化物よりなるアルコキシド被膜と、この被膜上に形成されたシリコーン樹脂被膜とからなるもの(特許文献2)、酸化物,炭酸塩および硫酸塩のうちから選択した少なくとも一種の絶縁層と、この絶縁層上に形成されたシリコーン樹脂層とからなるもの(特許文献3)などが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−85211号公報
【特許文献2】特許第4589374号
【特許文献3】特開2010−43361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に開示された絶縁被膜を有する磁心用粉末では、特に高磁束密度の圧粉磁心を得ることが難しくなる。圧粉磁心の磁束密度は、圧粉磁心が高密度化されるほど高まるが、上記のように絶縁被膜を二層構造とした場合には、絶縁被膜の膜厚が厚くなり易い分、圧粉磁心(圧粉体)を高密度に成形することが難しくなるからである。また、リン酸系化成処理被膜やシリコーン被膜の膜厚を厳密に制御するのは容易ではなく、ましてや近年求められるナノオーダーレベルの膜厚制御は極めて困難である。さらに、絶縁被膜を二層構造とすると、被膜形成に多くの手間を要するため、磁心用粉末、ひいては圧粉磁心の高コスト化を招来する。
【0008】
かかる実情に鑑み、本発明の主な目的は、軟磁性金属粉末およびその表面を被覆する絶縁被膜からなる磁心用粉末において、膜厚が薄くても高い耐熱性や絶縁性能を発揮し得る絶縁被膜を低コストに作製可能とし、もって磁気特性に優れた圧粉磁心を低コストに製造可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは鋭意研究を重ねた結果、層状酸化物を構成する結晶の諸特性に着目し、これを絶縁被膜の形成材料として活用すれば、膜厚が薄くても高い耐熱性や絶縁性能を発揮し得る絶縁被膜を低コストに形成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、上記の目的を達成するために創案された本発明に係る磁心用粉末は、軟磁性金属粉末およびその表面を被覆する絶縁被膜からなり、絶縁被膜が、層状酸化物をへき開させてなる結晶であって、厚さおよび長さがそれぞれ1nm以下および50nm以下の結晶の集合体で形成され、かつこの集合体を構成する結晶のうち、軟磁性金属粉末と隣接する結晶は軟磁性金属粉末とイオン結合し、それ以外の結晶は金属カチオンを介して隣接する結晶とイオン結合していることを特徴とするものである。なお、本発明でいう「層状酸化物をへき開させてなる結晶」とは、「層状酸化物を構成する結晶であって、この層状酸化物からへき開(分離)した結晶」と同義である。
【0011】
層状酸化物は、負の電荷を有する結晶がアルカリ金属カチオンあるいはアルカリ土類金属カチオンを介して積層することで形成されており、大気中(あるいは水溶液中において撹拌を加えない場合)においては、結晶の負の電荷が結晶間に介在する金属カチオンで中和されることにより、電荷のバランス、すなわち結晶と金属カチオンの積層構造が安定状態で保たれている。一方、例えば層状酸化物(特に後述する膨潤性層状粘土鉱物)を適当な溶媒に浸漬させ、撹拌を加えたときには、層状酸化物を構成する結晶が単位層にへき開した状態で溶媒中に分散した溶液が得られる。つまり、層状酸化物(特に後述する膨潤性層状粘土鉱物)を適当な溶媒に浸漬させ撹拌を加えると、負の電荷を有する結晶と、正の電荷を有する金属カチオンとが完全に分離した状態で分散した溶液が得られる。そのため、軟磁性金属粉末を上記の溶液に浸漬させると、軟磁性金属粉末の表面には、溶液中に分散した(負の電荷を有する)結晶が順次析出(堆積)する。
【0012】
そして、層状酸化物をへき開させてなる結晶は、体積抵抗が高いことから、軟磁性金属粉末の表面に上記結晶を析出させれば、この析出した結晶の集合体で絶縁被膜を形成することができる。上記結晶の分解温度は概ね700℃以上と高く、また上記結晶は、その長さ(最大直径)を厚さで除して算出されるアスペクト比(=長さ/厚さ)が少なくとも25以上とされた平板状をなし、かつその厚さは1〜数nm程度で安定している。以上のことから、層状酸化物をへき開させてなる結晶の集合体で絶縁被膜を形成すれば、膜厚が薄くても高い耐熱性、さらには絶縁性能を有する絶縁被膜を精度良く形成することができる。従って、本発明によれば、軟磁性金属粉末の表面が、膜厚が薄くても高い耐熱性や絶縁性能を発揮し得る絶縁被膜で被覆されてなる磁心用粉末を容易かつ低コストに作製することができる。
【0013】
なお、層状酸化物を構成する結晶をへき開させるために採り得る方法としては、上記したように層状酸化物を適当な溶媒に浸漬させ、撹拌を加える以外にも、例えば層状酸化物に機械的な力を加えることが考えられる。また、上記の方法で軟磁性金属粉末の表面に結晶を析出させる(絶縁被膜を形成する)場合、上記溶液への金属粉末の浸漬時間や上記溶液の濃度等によっては、必要以上に多くの結晶が金属粉末の表面に析出・堆積する。このような場合でも、アルカリ金属やアルカリ土類金属等のカチオンとイオン結合した結晶同士は、溶媒のある状態では容易にへき開するため、軟磁性金属粉末とイオン結合した結晶と比較して容易に取り除くことができる。そのため、必要以上に多くの結晶が析出・堆積した場合には、例えばこれを流水に曝すだけで、積層した結晶を層間剥離させて絶縁被膜の膜厚を薄くすることができる。つまり、本発明の構成であれば、絶縁被膜の膜厚を簡便にかつ精度良くコントロールすることができるので、膜厚が薄く、しかも膜厚のばらつきが少ない絶縁被膜を容易に得ることができるという利点もある。
【0014】
絶縁被膜は、一種類の結晶の集合体で形成することができる他、複数種の結晶の集合体で形成することができる。特に、長さ(結晶の長さ)を厚さ(結晶の厚さ)で除して算出されるアスペクト比(=長さ/厚さ)が互いに異なる複数種の結晶の集合体で絶縁被膜を形成すれば、隣接する結晶間の隙間を小さくすることができるので、緻密な絶縁被膜、すなわち絶縁性能に優れた絶縁被膜が得易くなる。なお、このような絶縁被膜は、例えば、アスペクト比が相互に異なる二種類の層状酸化物(例えば、後述するヘクトライトおよびサポナイト)を適当な溶媒に浸漬させて撹拌を加えることにより、二種類の結晶が単位層にへき開した状態で分散した溶液を得た後、この溶液に軟磁性金属粉末を浸漬させ、軟磁性金属粉末の表面に溶液中に分散した結晶を順次析出させる(厳密には、さらに溶液の液体成分を除去する)ことにより形成することができる。
【0015】
上記構成において、好ましく使用し得る層状酸化物の一例として、珪酸塩の結晶が積層してなる膨潤性層状粘土鉱物を挙げることができる。すなわち、絶縁被膜は、膨潤性層状粘土鉱物をへき開させてなる結晶の集合体で形成することができる。なお層状酸化物としては、膨潤性層状粘土鉱物以外にも、例えば、絶縁性を有する酸化チタンの結晶が積層してなる層状チタン酸化合物を使用することも可能である。
【0016】
膨潤性層状粘土鉱物の中でも、陽イオン交換型の膨潤性層状粘土鉱物である膨潤性スメクタイト族鉱物や膨潤性雲母族鉱物を絶縁被膜の形成用材料として好ましく使用することができる。膨潤性スメクタイト族鉱物や膨潤性雲母族鉱物の中でも、結晶間に介在する金属カチオンが1価のものが膨潤性に優れるため特に好ましい。好ましく使用可能な膨潤性スメクタイト族鉱物の具体例として、ヘクトライト、モンモリロナイト、サポナイト、スチブンサイト、バイデライト、ノントロナイト、ベントナイトを挙げることができる。また、好ましく使用可能な膨潤性雲母族鉱物の具体例として、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト、バーミキュライト等を挙げることができる。
【0017】
軟磁性金属粉末の表面を被覆する絶縁被膜は、その膜厚が薄いほど、またその構造が緻密であるほど、磁気特性に優れた圧粉磁心を得る上で有利となる。かかる観点から、結晶は、その厚さおよび長さ(最大直径)がそれぞれ1nm以下および50nm以下であるのが好ましい。このような結晶は、層状酸化物の中でも、特に膨潤性スメクタイト族鉱物をへき開させることで得ることができる。
【0018】
上記の各種結晶は、通常、その端部に微弱な正の電荷を有している。そして、上記結晶としては、膨潤性層状粘土鉱物(特に膨潤性スメクタイト族鉱物)をへき開させたものであって、その端部のヒドロキシル基(−OH基)の少なくとも一部がフルオロ基(−F基)に置換されたものとすることができる。フルオロ基はヒドロキシル基に比べて電気陰性度が高いので、端部のヒドロキシル基の少なくとも一部がフルオロ基に置換された結晶は、その端部(端面)における正の電荷が弱められる。そのため、このような結晶であれば、隣接する結晶同士の反発力を抑えることができるので、隣接する結晶間の隙間が小さい緻密な絶縁被膜を形成し易くなる。なお、このような作用効果は、珪素含有量を1molとしたとき、ヒドロキシル基のフルオロ基への置換量が0.05mol以上0.3mol以下とされた結晶を用いた場合に、特に有効に享受することができる。
【0019】
また、上記結晶は、膨潤性層状粘土鉱物(特に膨潤性スメクタイト族鉱物)をへき開させたものであって、かつその端部のヒドロキシル基(−OH基)が金属アルコキシドと縮合された構造を有するものとすることができる。このようにすれば、隣接する結晶間に形成される隙間を小さくすることができるので、緻密構造の絶縁被膜を得ることができる。そのため、このような磁心用粉末であれば、隣接する粒子間で渦電流が流れるのを可及的に防止することのできる圧粉磁心、すなわち渦電流損失の少ない圧粉磁心を得ることができる。金属アルコキシドとしては、例えば、Si(OR)4、Al(OR)4、B(OR)4などを挙げることができる。
【0020】
また、上記結晶は、膨潤性層状粘土鉱物(特に膨潤性スメクタイト族鉱物)をへき開させたものであって、かつその端部の少なくとも一部に陰イオンを結合させたものとすることができる。結晶端部の少なくとも一部に陰イオンを結合させれば、当該結晶の電気的な中性度が高まる。従って、このような結晶であれば、隣接する結晶同士が反発するのを抑制し、緻密な絶縁被膜を形成し易くなる。結晶端部に結合させ得る陰イオンとしては、硫化物イオン、硝酸イオン、テトラピロリン酸ナトリウムイオンおよび珪酸ナトリウムイオンの他、高濃度リン酸塩、グリコール、非イオン界面活性剤などを挙げることができる。
【0021】
上記構成の磁心用粉末において、絶縁被膜は、さらにジルコニウム化合物を含んで形成されたものとすることができる。このようにすれば、一層耐熱性に優れた絶縁被膜を得ることができる。使用可能なジルコニウム化合物としては、ジルコニア(ZrO2)、ジルコン(ZrSiO4)、ジルコニウム有機金属化合物等が挙げられる。
【0022】
上記構成の磁心用粉末において、軟磁性金属粉末は、どのような製法で製造されたものであっても問題なく使用することができる。具体的には、還元法により製造される還元粉末、アトマイズ法により製造されるアトマイズ粉末、電解法により製造される電解粉末等、公知の製法で製造された各種金属粉末を使用することができる。但しこれらの中でも、相対的に高純度で歪みの除去性に優れ、また成形性に優れるアトマイズ粉末を使用するのが望ましい。高純度であるほど再結晶温度が低下し、歪みの除去性が高まるので、保磁力の小さな圧粉磁心を得易くなり、また、成形性に優れるほど、高密度の圧粉体、ひいては高磁束密度の圧粉磁心を得易くなるからである。
【0023】
軟磁性金属粉末としてその粒径が30μmを下回るような小粒径のものを使用すると、成形金型(キャビティ)内での粉末の流動性が低下して高密度の圧粉磁心を得ることが難しくなるばかりでなく、圧粉磁心のヒステリシス損失(鉄損)が大きくなる。一方、軟磁性金属粉末としてその粒径が300μmを上回るような大粒径のものを使用すると、圧粉磁心の渦電流損失(鉄損)が大きくなる。従って、高い磁束密度を有すると共に、鉄損が少ない圧粉磁心を得る観点から、軟磁性金属粉末は、その粒径が30μm以上300μm以下のものを使用するのが好ましい。なお、ここでいう「粒径」とは、個数平均粒径のことを言う(以下同様)。
【0024】
絶縁被膜の膜厚は、磁心用粉末を圧縮成形等して得られる圧粉磁心の高磁束密度化を図るため(圧粉体の高密度成形を可能とするため)にも、隣接する磁心用粉末(金属粉末)間で渦電流が流れるのを効果的に防止することができる限りにおいて薄くするのが望ましい。従って、絶縁被膜の膜厚は、1nm以上500nm以下とするのが望ましく、1nm以上100nm以下とするのが一層望ましく、1nm以上20m以下とするのがより一層望ましい。なお、上述したとおり、本発明の構成上、絶縁被膜の膜厚は容易にコントロールすることができる。
【0025】
以上で述べた何れかの磁心用粉末を主成分とする原料粉末の圧粉体を加熱することで得られる圧粉磁心は、磁気特性に優れたものとなる。磁心用粉末を構成する絶縁被膜が、分解温度700℃以上と耐熱性に優れた結晶の集合体で形成されることから、軟磁性金属粉末に蓄積した歪を適当に除去し得るだけの高温(軟磁性金属の再結晶温度以上)で加熱処理を実行しても、絶縁被膜が損傷・分解・剥離等することがないからである。また、絶縁被膜を構成する結晶は、所定の温度(軟磁性金属の再結晶温度と概ね等しい温度)以上で加熱すると、縮合反応により、隣接する結晶と結合する。従って、圧粉体を適当な温度以上で加熱すれば、磁気特性のみならず各種強度(機械的強度や耐欠け性等)に優れた圧粉磁心を得ることができる。
【0026】
圧粉磁心の相対密度が93%以上にまで高密度化されれば、圧粉磁心の磁気特性、さらには機械的強度や耐欠け性が十分に高まるので汎用性が高まる。ここでいう相対密度とは下記の関係式で表される。
相対密度=(圧粉磁心全体の密度/真密度)×100[%]
なお、真密度とは、素材内部に空孔が存在しない場合の理論密度を意味する。
【0027】
上記の圧粉磁心(圧粉体)を得るための原料粉末として、上記の磁心用粉末に固体潤滑剤を適量混合したものを使用することができる。固体潤滑剤を適量混合しておけば、圧粉体の成形時に、磁心用粉末同士の摩擦を低減することができる。そのため、高密度の圧粉体を得易くなることに加え、絶縁被膜の損傷・剥離等も可及的に防止することができる。具体的には、固体潤滑剤を0.3〜7vol%含み、残部を磁心用粉末とした原料粉末を使用するのが望ましい。
【0028】
本発明に係る磁心用粉末を用いて成形される圧粉磁心は、形状自由度が高く、しかも磁気特性や各種強度に優れるものであることから、自動車や鉄道車両などに代表される輸送機用モータの磁心として、あるいはチョークコイル、パワーインダクタまたはリアクトル等の電源回路用部品の磁心として好ましく使用することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上に示すように、本発明によれば、軟磁性金属粉末およびその表面を被覆する絶縁被膜からなる磁心用粉末において、膜厚が薄くても高い耐熱性や絶縁性能を発揮し得る絶縁被膜を低コストに形成することができる。これにより、磁気特性、さらには各種強度に優れた圧粉磁心を低コストに得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】(a)図は、本発明に係る磁心用粉末を模式的に示す図、(b)図は(a)図に示す磁心用粉末の生成工程を模式的に示す図、(c)図は絶縁被膜が形成される様子を模式的に示す図である。
図2】(a)(b)図共に、圧縮成形工程の要部を模式的に示す図である。
図3】(a)図は圧縮成形工程を経て得られる圧粉体の一部を模式的に示す図、(b)図は加熱工程を経て得られる圧粉磁心の一部を模式的に示す図である。
図4】圧粉磁心の一例であるステータコアの平面図である。
図5】他の実施形態に係る絶縁被膜が形成される様子を模式的に示す図である。
図6】確認試験で用いた各リング状試験体の作製条件を示す図である。
図7】確認試験の試験結果を示す図である。
図8】確認試験の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
本発明に係る磁心用粉末1は、図1(a)に示すように、軟磁性金属粉末2およびその表面を被覆する絶縁被膜3からなる。絶縁被膜3は、層状酸化物を構成する結晶であって、この層状酸化物からへき開(分離)した結晶4の集合体で形成される[図1(c)参照]。この磁心用粉末1は、圧粉磁心、例えばモータのステータに組み込んで使用されるステータコア20(図4参照)の成形用粉末である。圧粉磁心6[図3(b)参照]は、主に、磁心用粉末1を生成するための粉末生成工程と、磁心用粉末1の圧粉体を得るための圧縮成形工程と、圧粉体に加熱処理を施す加熱工程とを順に経て製造される。以下、各工程について図面を参照しながら詳述する。
【0033】
[粉末生成工程]
図1(b)に、図1(a)に示す磁心用粉末1を生成するための粉末生成工程の一例を模式的に示す。この粉末生成工程では、容器10中に満たされた絶縁被膜3の形成材料を含む溶液11に軟磁性金属粉末2を浸漬した後、軟磁性金属粉末2の表面に付着した溶液11の液体成分を除去するための乾燥処理を施すことにより、軟磁性金属粉末2およびその表面を被覆する絶縁被膜3からなる磁心用粉末1を得る。なお、絶縁被膜3の膜厚は、これが厚くなるほど高密度の圧粉体5[図3(a)参照]を得ることが、ひいては高い磁気特性(特に透磁率)を有する圧粉磁心6を得ることが難しくなる。一方、絶縁被膜3の膜厚は、これが薄いほど圧粉磁心6の透磁率を高めることができるものの、絶縁被膜3の膜厚が薄過ぎると、圧縮成形工程で磁心用粉末1を圧縮する際に絶縁被膜3が破損等し、その結果、隣接する磁心用粉末1(軟磁性金属粉末2)間で渦電流が流れ易くなる。そのため、絶縁被膜3の膜厚は1nm以上500nmとするのが好ましく、1nm以上100nm以下とするのが一層好ましく、1nm以上20nm以下とするのがより一層好ましい。
【0034】
軟磁性金属粉末2としては、その純度が高いほど保磁力の小さな圧粉磁心を得る上で有利となることから、純度97%以上の鉄粉末が好ましく使用され、より好ましくは純鉄粉末が使用される。但し、公知のその他の軟磁性金属粉末、例えばケイ素合金(Fe−Si)粉末、センダスト(Fe−Al−Si)粉末、パーメンジュール(Fe−Co)粉末等を使用することもできる。
【0035】
使用する軟磁性金属粉末2は、どのような製法で製造されたものであっても構わない。具体的には、還元法により製造される還元粉末、アトマイズ法により製造されるアトマイズ粉末、あるいは電解法により製造される電解粉末の何れを使用しても良いが、これらの中でも、相対的に高純度で歪みの除去性に優れ、また高密度の圧粉体を成形し易いアトマイズ粉末が好ましく使用される。アトマイズ粉末は、水アトマイズ法により製造される水アトマイズ粉末と、ガスアトマイズ法により製造されるガスアトマイズ粉末とに大別されるが、水アトマイズ粉末はガスアトマイズ粉末よりも成形性に優れるため、高密度の圧粉体5、ひいては高磁束密度の圧粉磁心6を得易い。従って、軟磁性金属粉末2としてアトマイズ粉末を使用する場合、特に水アトマイズ粉末を選択使用するのが好ましい。
【0036】
軟磁性金属粉末2としては、その粒径(個数平均粒径)が30μm以上300μm以下のものを使用する。使用する軟磁性金属粉末2の粒径が30μmを下回るような小粒径のものであると、後述の圧縮成形工程で使用する成形金型(キャビティ)内での流動性が低下するため高密度の圧粉体5、ひいては高磁束密度の圧粉磁心6を得難くなることに加え、圧粉磁心6のヒステリシス損失(鉄損)が大きくなるからである。また、使用する軟磁性金属粉末2の粒径が300μmを上回るような大粒径のものであると、圧粉磁心6の渦電流損失(鉄損)が大きくなるからである。
【0037】
絶縁被膜3の形成用材料を含む溶液11は、層状酸化物のうち、膨潤性層状粘土鉱物を水や有機溶媒等の適当な溶媒に適量投入することで得られる。ここで、膨潤性層状粘土鉱物とは、負の電荷を有する珪酸塩の結晶がアルカリ金属カチオンあるいはアルカリ土類金属カチオンを介して積層したフィロ珪酸塩の一種であり、大気中、又は水溶液中において撹拌を加えない場合においては、結晶の負の電荷が結晶間に介在する金属カチオンで中和されることによって電荷のバランス、すなわち結晶の積層構造が安定状態で保たれているものである。一方、この膨潤性層状粘土鉱物を適当な溶媒に浸漬させた後、これを攪拌すると、結晶が完全にへき開した状態で分散した溶液11が容易に得られる。すなわち、膨潤性層状粘土鉱物を適当な溶媒に浸漬させた後、これを攪拌すると、負の電荷を有する結晶と、正の電荷を有する金属カチオンとが完全に分離した状態で分散した溶液11が得られる。
【0038】
膨潤性層状粘土鉱物としては、陽イオン交換型の膨潤性層状粘土鉱物である膨潤性スメクタイト族鉱物を好ましく使用することができる。膨潤性スメクタイト族鉱物とは、Si−OやAl−Oなどの四面体層の間に八面体層を挟んだサンドウィッチ型の三層構造を有する珪酸塩層が2以上積層して結晶化したフィロ珪酸塩の一種である。代表的な膨潤性スメクタイト族鉱物としては、ヘクトライト、モンモリロナイト、サポナイト、スチブンサイト、バイデライト、ノントロナイト、ベントナイト等を挙げることができる。例示した膨潤性スメクタイト族鉱物は何れを使用しても良いが、これらの中でも、Si,Mg,Liの無機化合物からなるヘクトライトの結晶の集合体で絶縁被膜3を形成した場合や、Si,Mg,Alの無機化合物により合成された層状珪酸塩であるサポナイトの結晶の集合体で絶縁被膜3を形成した場合は、渦電流損失(鉄損)の小さい圧粉磁心6を得る上で有利となる。そのため、膨潤性スメクタイト族鉱物を適当な溶媒に浸漬・攪拌することで上記の溶液11を得る場合には、ヘクトライトおよびサポナイトの少なくとも一方を選択使用するのが好ましい。
【0039】
また、膨潤性層状粘土鉱物としては、膨潤性スメクタイト族鉱物のみならず、膨潤性雲母族鉱物も好ましく使用することができる。膨潤性雲母族鉱物とは、対をなすSi−O四面体層の間に八面体層を挟んだ複合層が積層して結晶化したフィロ珪酸塩の一種である。代表的な膨潤性雲母族鉱物としては、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト、バーミキュライト等を挙げることができ、層間に陽イオンとしてNaイオン又はLiイオンを有するものが好ましく使用される。
【0040】
なお、膨潤性スメクタイト族鉱物や膨潤性雲母族鉱物以外にも、これらの類似構造を有する層状珪酸塩鉱物の他、これらの置換体、誘導体、変性体を使用して上記の溶液11を得、この溶液11を用いて絶縁被膜3、ひいては磁心用粉末1を作製することもできる。
【0041】
ちなみに、スメクタイト族鉱物を構成する結晶は、その長さ(最大直径)を厚さで除して算出されるアスペクト比(=長さ/厚さ)が少なくとも25以上とされた平板状をなし、かつその厚さが1nm程度で安定している。また、雲母族鉱物を構成する結晶は、上記アスペクト比が少なくとも100以上とされた平板状をなし、かつその厚さが10nm程度で安定している。軟磁性金属粉末2の表面を被覆する絶縁被膜3は、その膜厚が薄いほど、またその構造が緻密であるほど、磁気特性に優れた圧粉磁心6を得易くなるため、絶縁被膜3を構成する結晶4は、その厚さおよび長さがそれぞれ1nm以下および50nm以下であるのが好ましい。かかる観点から、結晶4は、膨潤性スメクタイト族鉱物および膨潤性雲母族鉱物のうち、膨潤性スメクタイト族鉱物をへき開してなるものが特に好ましく使用される。
【0042】
そして、上記のようにして得られた溶液11中に軟磁性金属粉末2を浸漬させると、軟磁性金属粉末2の表面には、図1(c)に示すように、溶液11中に完全にへき開した状態で分散した結晶4が順次析出・堆積する。
【0043】
層状酸化物(膨潤性層状粘土鉱物)を構成する結晶はその体積抵抗が高いことから、表面に結晶4が析出・堆積した軟磁性金属粉末2を溶液11中から取り出した後、軟磁性金属粉末2に付着した溶液11の液体成分を除去すれば、析出した結晶4の集合体で軟磁性金属粉末2の表面を被覆する絶縁被膜3が形成される。ここで、結晶4の分解温度は、後述する加熱工程において、圧粉体5を構成する軟磁性金属粉末2に蓄積された歪を適切に除去し得るような加熱処理を圧粉体5に施すことができる温度以上(概ね700℃以上)である。また、上記のとおり、個々の結晶4は薄肉の平板状をなし、しかもその厚さが数nm〜10nm程度で安定している。そのため、膨潤性層状粘土鉱物をへき開させてなる結晶4の集合体で形成した絶縁被膜3は、その膜厚が薄くても高い耐熱性や絶縁性能を有する。従って、本発明によれば、軟磁性金属粉末2の表面が、膜厚が薄くても高い耐熱性や絶縁性能を発揮し得る絶縁被膜3で被覆されてなる磁心用粉末1を容易かつ低コストに形成することができる。
【0044】
溶液11への軟磁性金属粉末2の浸漬時間や溶液11の濃度等によっては、必要以上に多くの結晶4が軟磁性金属粉末2の表面に析出・堆積することとなるが、アルカリ金属やアルカリ土類金属等のカチオンとイオン結合した結晶4同士は、溶媒のある状態では容易にへき開するため、軟磁性金属粉末2とイオン結合した結晶4と比較して容易に取り除くことができる。そのため、結晶4が必要以上に多く析出した場合には、例えばこれを流水に曝すだけで、積層した結晶4を層間剥離させて絶縁被膜3の膜厚を薄くすることができる。つまり、本発明の構成であれば、絶縁被膜3の膜厚を簡便にかつ精度良くコントロールすることができるので、膜厚が薄く、しかも膜厚のばらつきが少ない(膜厚が略均一の)絶縁被膜3を容易に得ることができるという利点もある。
【0045】
なお、軟磁性金属粉末2の表面を被覆する絶縁被膜3(磁心用粉末1)は、いわゆる転動流動装置(転動流動コーティング装置とも称される)を用いて形成することもできる。図示は省略するが、転動流動装置を用いた場合、次のような手順で絶縁被膜3を形成することができる。まず、無数の軟磁性金属粉末2を容器内部に投入してから、容器内部に気流を発生させる気流発生手段を駆動し、軟磁性金属粉末2を容器内部で浮遊させた状態で攪拌・流動させる。この状態を維持したまま、上記の溶液11(負の電荷を有する結晶4と、正の電荷を有する金属カチオンとが完全に分離した状態で分散した溶液11)を容器内部にミスト状に噴射し、軟磁性金属粉末2に付着させる。軟磁性金属粉末2に付着した上記溶液11に含まれる溶媒等の液体成分は、上記気流(風)によって消失し、これに伴って上記溶液11に含まれる結晶4が軟磁性金属粉末2の表面に析出・堆積する。この析出・堆積した結晶4により、絶縁被膜3が形成される。
【0046】
このような方法(転動流動法)では、溶液11の濃度や、転動流動装置の運転時間などを調整することによって絶縁被膜3の膜厚を調整することができる。そのため、膜厚の薄い絶縁被膜3を精度良く形成することができ、しかも磁心用粉末1(軟磁性金属粉末2)相互間で絶縁被膜3の膜厚にバラツキが生じるのを可及的に防止することができる。また、このような方法では、被覆と乾燥を同時進行させることができるので、絶縁被膜3を迅速に形成することができる。
【0047】
[圧縮成形工程]
次に、図2(a)(b)に模式的に示す圧縮成形工程では、同軸配置されたダイ12およびパンチ13を有する成形金型を用いて原料粉末1’を圧縮することにより、図3(a)に模式的に示すような圧粉体5を得る。原料粉末1’は、上記の粉末生成工程で得られた磁心用粉末1のみからなるものであっても構わないが、ここでは、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アミド等の固体潤滑剤を適量含み、残部を磁心用粉末1とした原料粉末1’を用いている。このように、原料粉末1’に固体潤滑剤を含めておけば、圧粉体5の圧縮成形時に、磁心用粉末1同士の摩擦を低減することができるので、高密度の圧粉体5を得易くなることに加え、磁心用粉末1同士の摩擦による絶縁被膜3の損傷等も可及的に防止することができる。
【0048】
但し、原料粉末1’に占める固体潤滑剤の配合量があまりに少ない場合、具体的には、原料粉末1’の総量を100vol%としたときに、固体潤滑剤の配合量が0.3vol%を下回る場合、固体潤滑剤を混合することにより奏される上記のメリットを有効に享受することができなくなる。また、固体潤滑剤の配合量が多過ぎる場合、具体的には、固体潤滑剤の配合量が7vol%を上回る場合、原料粉末1’中の固体潤滑剤の占有量が過大となり、高密度の圧粉体5ひいては圧粉磁心6を得ることが難しくなる。従って、固体潤滑剤を含む原料粉末1’を使用して圧粉体5を圧縮成形する場合には、固体潤滑剤を0.3〜7vol%含み、残部を磁心用粉末1とした原料粉末1’を使用するのが望ましい。
【0049】
以上の構成において、図2(a)(b)に示すように、成形金型のキャビティに原料粉末1’を充填した後、パンチ13をダイ12に対して相対的に接近移動させて圧粉体5を圧縮成形する。成形圧力は、隣接する磁心用粉末1同士の接触面積を増大させ得るような圧力、例えば600MPa以上、より好ましくは800MPa以上とする。これにより、図3(a)に模式的に示すように、磁心用粉末1同士が強固に密着した高密度の圧粉体5が得られる。但し、成形圧力があまりに高過ぎる場合(例えば成形圧力が2000MPaを超える場合)、成形金型の耐久寿命が低下する他、絶縁被膜3が損傷等して絶縁性が低下する。従って、成形圧力は、600MPa以上2000MPa以下とするのが望ましい。
【0050】
[加熱工程]
加熱工程では、不活性ガス(例えば窒素ガス)雰囲気下、あるいは真空下におかれた圧粉体5を、軟磁性金属粉末2の再結晶温度以上融点以下で加熱する(焼鈍処理)。これにより、軟磁性金属粉末2に蓄積した歪(結晶歪)が適当に除去された高密度の圧粉磁心6[図3(b)参照]、具体的には相対密度93%以上の圧粉磁心6が得られる。軟磁性金属粉末2として純鉄粉末を使用する場合には、650℃以上の加熱処理を所定時間実行することによって歪を適切に除去し得る。ここでは、圧粉体5に対する加熱処理を700℃×1hr実行することとするが、上述したとおり絶縁被膜3を構成する結晶4の分解温度は概ね700℃以上とされることから、圧粉体5に上記態様で加熱処理を施すのに伴って絶縁被膜3が損傷・分解・剥離等するような事態は可及的に防止される。
【0051】
そして、上記のような加熱処理を施すことで得られた圧粉磁心6は、軟磁性金属粉末2に蓄積した歪が適当に除去され、磁気特性に優れたものとなる。具体的には、直流磁界10000A/mの環境下において、磁束密度が1.55T以上、最大透磁率が600以上であり、さらに、交流磁界の周波数1000Hz/磁束密度1Tの条件下で、鉄損が130W/kg未満の圧粉磁心6を得ることができる。
【0052】
さらに、上記のような加熱温度で加熱処理を実行すれば、軟磁性金属粉末2に蓄積した歪が除去されるのと同時に、絶縁被膜3を構成する個々の結晶4は、縮合反応によって隣接する結晶4と結合する。そのため、機械的強度や耐欠け性が十分に高められた圧粉磁心6とすることができる。具体的には、圧環強度が440N以上で、かつ耐欠け性の指標であるラトラ測定値が0.1%未満の圧粉磁心6とすることができる。
【0053】
以上のようにして得られた圧粉磁心6は、上記のとおり、磁気特性に加え、機械的強度や耐欠け性等の各種強度が十分に高められたものであることから、自動車や鉄道車両等、高回転速度および高加速度で、しかも常時振動に曝される輸送機用モータの他、チョークコイル、パワーインダクタまたはリアクトル等の電源回路用部品の磁心として好ましく使用することができる。具体例を挙げると、本発明に係る圧粉磁心6は、図4に示すようなステータコア20として使用することができる。同図に示すステータコア20は、例えば各種モータの静止側を構成するベース部材に組み付けて使用されるものであり、ベース部材に対する取り付け面を有する円筒部21と、円筒部21から径方向外側に放射状に延びた複数の突出部22とを有し、突出部22の外周にはコイル(図示せず)が巻き回される。圧粉磁心6は形状自由度が高いことから、図4に示すような複雑形状のステータコア20であっても、容易に量産することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態に係る磁心用粉末1およびこれを用いて作製した圧粉磁心6について説明を行ったが、これらには本発明の要旨を逸脱しない範囲で適当な変更を施すことが可能である。
【0055】
例えば、軟磁性金属粉末2の表面を被覆する絶縁被膜3は、膨潤性層状粘土鉱物のうち特に膨潤性スメクタイト族鉱物をへき開させてなる結晶4であって、かつその端部(端面)のヒドロキシル基の少なくとも一部がフルオロ基に置換されたものの集合体で形成することができる。
【0056】
フルオロ基はヒドロキシル基に比べて電気陰性度が高いので、上記のようにヒドロキシル基の少なくとも一部がフルオロ基に置換された結晶4は、その端部(端面)における正の電荷が弱められたものとなる。そのため、このような結晶4を軟磁性金属粉末2の表面に析出させたときには、隣接する結晶4同士の反発力を抑えることが可能となり、隣接する結晶4,4間の隙間が小さい(結晶4が密集した)緻密な絶縁被膜3を形成し易くなる。絶縁被膜3が緻密化されれば、磁心用粉末1(原料粉末1’)を圧縮成形する際に絶縁被膜3が損傷・剥離等し難くなるので、渦電流損失の少ない圧粉磁心6を得る上で有利となる。但し、フルオロ基はヒドロキシル基よりもイオン半径が大きいことから、ヒドロキシル基のフルオロ基への置換量が多過ぎると、立体障害の影響により絶縁被膜3の緻密化を実現することが難しくなる。一方、上記の置換量が少な過ぎても、結晶端部の正の電荷を十分に弱めることができないので、結晶4が密集した緻密な絶縁被膜3を得ることが難しくなる。このような観点から、端部のヒドロキシル基の少なくとも一部をフルオロ基に置換してなる結晶4を用いる場合には、結晶内部の珪素含有量を1molとしたとき、ヒドロキシル基のフルオロ基への置換量が0.05mol以上0.3mol以下とされた結晶4を用いるのが好ましい。
【0057】
また、絶縁被膜3は、膨潤性層状粘土鉱物のうち、特に膨潤性スメクタイト族鉱物をへき開させてなる結晶4であって、かつその端部(端面)のヒドロキシル基が金属アルコキシドと縮合された構造を有するものの集合体で形成することもできる。
【0058】
このような結晶4であれば、これを軟磁性金属粉末2の表面に析出させたとき、隣接する結晶4間に形成される隙間を小さくすることができるので、緻密構造の絶縁被膜3を得ることができる。そのため、このような絶縁被膜3を備えた磁心用粉末1であれば、隣接する粒子間で渦電流が流れるのを可及的に防止することができる、すなわち渦電流損失の少ない圧粉磁心6を得ることができる。使用可能な金属アルコキシドとしては、例えば、Si(OR)4、Al(OR)4、B(OR)4などを挙げることができる。
【0059】
また、絶縁被膜3は、膨潤性層状粘土鉱物のうち、特に膨潤性スメクタイト族鉱物をへき開させてなる結晶4であって、かつその端部(端面)の少なくとも一部に陰イオンを結合させたものの集合体で形成することもできる。
【0060】
膨潤性層状粘土鉱物を構成する結晶4は、通常、その端部に微弱な正の電荷を有しているので、結晶4端部の少なくとも一部に陰イオンを結合させれば、当該結晶の電気的な中性度が高まる。従って、このような結晶4であれば、これを軟磁性金属粉末2の表面に析出させたとき、隣接する結晶4同士が反発するのを抑制することができるので、緻密な絶縁被膜3を形成し易くなる。なお、結晶4端部に結合させ得る陰イオンとしては、硫化物イオン、硝酸イオン、テトラピロリン酸ナトリウムイオンおよび珪酸ナトリウムイオンの他、高濃度リン酸塩、グリコール、非イオン界面活性剤などを挙げることができる。
【0061】
また、絶縁被膜3は、さらにジルコニウム化合物を含んで形成されたものとすることができる。このようにすれば、一層耐熱性に優れた絶縁被膜3を得ることができる。使用可能なジルコニウム化合物としては、ジルコニア(ZrO2)、ジルコン(ZrSiO4)、ジルコニウム有機金属化合物等が挙げられる。
【0062】
また、絶縁被膜3は、一種類の結晶4の集合体で形成することができる他、図5に示すように、アスペクト比(=長さ/厚さ)が互いに異なる複数種(図示例では二種類)の結晶の集合体で形成することができる。詳細に説明すると、図5に示す絶縁被膜3は、アスペクト比が相対的に小さい第1の結晶4aと、アスペクト比が相対的に大きい第2の結晶4bとが混在したものであり、第1の結晶4aとしては、例えば、膨潤性スメクタイト族鉱物の一種であるヘクトライトをへき開させたものを使用でき、第2の結晶4bとしては、例えば、ヘクトライトと同様に膨潤性スメクタイト族鉱物の一種であるサポナイトをへき開させたものが使用できる。すなわち、ヘクトライトを構成する結晶は、その長さおよび厚さが、それぞれ40nmおよび1nm(アスペクト比40)であり、サポナイトを構成する結晶は、その長さおよび厚さが、それぞれ50nmおよび1nm(アスペクト比50)である。この場合、アスペクト比が相対的に小さい第1の結晶4aは、アスペクト比が相対的に大きい第2の結晶4b,4b間の隙間を埋めるように配置され、その結果、第1および第2の結晶4a,4bは、図5に示すように、(ある程度)規則正しく配列すると考えられる。そのため、隣接する結晶間の隙間が小さく、緻密な絶縁被膜3を得ることができる。なお、緻密な絶縁被膜3を得るためには、絶縁被膜3の形成材料(第1および第2の結晶4a,4b)を含む溶液11における、各結晶4a,4b(ヘクトライトおよびサポナイト)の配合割合が重要である。本実施形態の構成で言えば、ヘクトライトおよびサポナイトの配合割合を、それぞれ、25〜75質量%および75〜25%質量%とした溶液11を使用するのが好ましく、ヘクトライトおよびサポナイトの配合割合を等しくした溶液11(両者を50質量%ずつ含んだ溶液11)を使用するのが特に好ましい。
【0063】
以上では、絶縁被膜3の形成用材料として、層状酸化物のうち、珪酸塩の結晶4が積層してなる膨潤性層状粘土鉱物を使用するようにしたが、絶縁被膜3の形成用材料としては、例えば、絶縁性を有する酸化チタンの結晶が積層してなる層状チタン酸化合物を使用することもできる。
【0064】
また、圧粉体5の圧縮成形時には、金型潤滑を施しても良い。このようにすれば、成形金型の内壁面と原料粉末1’(磁心用粉末1)との間の摩擦力が軽減されるので、圧粉体5を一層高密度化し易くなる。金型潤滑は、例えば、ステアリン酸亜鉛等の滑剤を成形金型の内壁面に塗布することにより、あるいは成形金型の内壁面に表面処理を施し、該内壁面を潤滑性被膜で被覆することにより行うことができる。
【実施例】
【0065】
本発明の有用性を実証するため、本発明の構成を有するリング状試験片(実施例1〜22)と、本発明の構成を有さないリング状試験片(比較例1〜3)とについて、それぞれ、(1)密度、(2)絶縁被膜の電気抵抗率、(3)リング状試験片自体の電気抵抗率、(4)磁束密度、(5)最大透磁率、(6)鉄損、(7)圧環強度および(8)ラトラ値を測定・算出するための確認試験を実施し、その試験結果に基づいて上記(1)〜(8)の各項目をそれぞれ評価した。なお、上記(1)〜(8)の評価項目のうち、(6)鉄損および(7)圧環強度は6段階で評価し、その他の項目は4段階で評価した。そして、磁気特性の指標である上記(4)〜(6)と、強度の指標である上記(7)および(8)の評価点の合計値(総合得点)にて各リング状試験片の性能を評価した。以下、まず、上記(1)〜(8)の評価項目の測定・算出方法および評価点の詳細について述べる。
【0066】
(1)密度
リング状試験片の寸法および重量を測定し、その測定結果から密度を算出した。算出値に応じて以下の評価点を付与することとした。
4点:7.6g/cm3以上
3点:7.5g/cm3以上7.6g/cm3未満
2点:7.4g/cm3以上7.5g/cm3未満
1点:7.4g/cm3未満
【0067】
(2)絶縁被膜の電気抵抗率
リング状試験片の製作時に用いる磁心用粉末に絶縁被膜を形成するのと同様の手法で、縦50mm×横50mm×厚み5mmの鉄板表面に絶縁被膜を形成し、この絶縁被膜の電気抵抗率を抵抗率計(三菱化学アナリテック株式会社製ハイレスタUP・ロレスタGP)で測定した。これは、絶縁被膜自体の電気抵抗率を正確に測定するためである。測定値に応じて以下の評価点を付与することとした。なお、各絶縁被膜には加熱処理を施していない。
4点:1010Ω・cm以上
3点:105Ω・cm以上1010Ω・cm未満
2点:1Ω・cm以上105Ω・cm未満
1点:1Ω・cm未満
【0068】
(3)リング状試験片の電気抵抗率
リング状試験片の電気抵抗率を抵抗率計(三菱化学アナリテック株式会社製ハイレスタUP・ロレスタGP)で測定した。測定値に応じて以下の評価点を付与することとした。
4点:102Ω・cm以上
3点:10Ω・cm以上102Ω・cm未満
2点:10-2Ω・cm以上10Ω・cm未満
1点:10-2Ω・cm未満
【0069】
(4)磁束密度
直流B−H測定器(メトロン技研株式会社製SK−110型)で磁界10000A/mでの磁束密度[T]を測定した。測定値に応じて以下の評価点を付与することとした。
4点:1.65T以上
3点:1.60T以上1.65T未満
2点:1.55T以上1.60T未満
1点:1.55T未満
【0070】
(5)最大透磁率
直流B−H測定器(メトロン技研株式会社製SK−110型)で磁界10000A/mでの最大透磁率を測定した。測定値に応じて以下の評価点を付与することとした。
4点:1000以上
3点:800以上1000未満
2点:600以上800未満
1点:600未満
【0071】
(6)鉄損
交流B−H測定器(岩通計測株式会社製B−Hアナライザー SY−8218)で周波数1000Hzでの鉄損[W/kg]を測定した。測定値に応じて以下の評価点を付与することとした。
6点:90W/kg未満
5点:90W/kg以上100W/kg未満
4点:100W/kg以上110W/kg未満
3点:110W/kg以上120W/kg未満
2点:120W/kg以上130W/kg未満
1点:130W/kg以上
【0072】
(7)圧環強度
株式会社島津製作所製の精密万能試験機オートグラフを用いてリング状試験片の外周面に縮径方向の圧縮力(圧縮速度1.0mm/min)を加え、リング状試験片が破壊されたときの圧縮力を圧環強度[N]とした。算出値に応じて以下の評価点を付与することとした。
6点:680N以上
5点:600N以上680N未満
4点:520N以上600N未満
3点:440N以上520N未満
2点:360N以上440N未満
1点:360N未満
【0073】
(8)ラトラ値(重量減少率)
日本粉末冶金工業会規格JPMA P11−1992に規定の「金属圧粉体のラトラ値測定方法」に準拠。具体的には、ラトラ測定器の回転籠に投入したリング状試験片を1000回回転させた後、リング状試験片の重量減少率[%]を算出し、耐欠け性の指標であるラトラ値とした。算出値に応じて以下の評価点を付与することとした。
4点:0.04%未満
3点:0.04%以上0.06%未満
2点:0.06%以上0.1%未満
1点:0.1%以上
【0074】
次に、実施例1〜22に係るリング状試験片の作製方法について述べる。
[実施例1]
軟磁性金属粉末としてのアトマイズ鉄粉末を作製・分級し、粒径30〜300μmのアトマイズ鉄粉末を得た。次いで、和光純薬株式会社製の親水性合成ヘクトライト0.3mass%の、ヘクトライト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に上記鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、ヘクトライト水溶液の排出→純水での洗浄→真空恒温槽で80℃×24hr加熱(乾燥)という手順を踏むことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。そして、固体潤滑剤としてのステアリン酸亜鉛を2.1vol%含み、残部を上記磁心用粉末とした原料粉末を成形金型に投入し、1200MPaの成形圧で外径寸法、内径寸法および厚さが、それぞれ、20.1mm、12.8mmおよび7mmのリング状圧粉体を成形した。最後に、このリング状圧粉体を窒素雰囲気中で700℃×1hr加熱処理することにより、実施例1としてのリング状試験片を得た。この実施例1において、絶縁被膜を構成する個々の結晶(すなわち、上記の親水性合成ヘクトライトをへき開させることで得られる結晶)のサイズは、長さ50nm×厚さ1nm程度である。
[実施例2]
株式会社ホージュン製のモンモリロナイト[商品名:ベンゲルA(“ベンゲル”は登録商標)]0.3mass%の、モンモリロナイト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。次いで、実施例1と同様の手順を踏むことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例2としてのリング状試験片を得た。なお、この実施例2において、絶縁被膜を構成する結晶のサイズは、長さ500nm×厚さ1nm程度である。
[実施例3]
和光純薬株式会社製の親水性合成雲母0.3mass%の、雲母(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。次いで、実施例1と同様の手順を踏み、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚み20nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例3としてのリング状試験片を得た。なお、この実施例3において、絶縁被膜を構成する結晶のサイズは、長さ5000nm×厚さ10nm程度である。
[実施例4]
コープケミカル株式会社製の親油性スメクタイト[商品名:ルーセンタイトSPN(但し“ルーセンタイト”は登録商標)]0.3mass%の、親油性スメクタイト(結晶)が完全にへき開した状態で分散したエタノール溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、親油性スメクタイトのエタノール溶液の排出→エタノールでの洗浄→真空恒温槽で80℃×24hr加熱という手順を踏むことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ20nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例4としてのリング状試験片を得た。この実施例4において、絶縁被膜を構成する結晶のサイズは、長さ50nm×厚さ1nm程度である。
[実施例5]
和光純薬株式会社製の親水性合成ヘクトライト0.3mass%(実施例1と同種)の、ヘクトライトが完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、ヘクトライト水溶液の排出→真空恒温槽で80℃×24hr加熱という手順を踏む(つまり「純水での洗浄工程」を省略)ことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚み500nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例5としてのリング状試験片を得た。
[実施例6]
実施例6としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例6では、軟磁性金属粉末として、粒径30〜300μmに分級された電解鉄粉末を使用した。
[実施例7]
軟磁性金属粉末としてのアトマイズ鉄粉末を作製・分級し、粒径300μm以上のアトマイズ鉄粉末を得た。その後、実施例1と同様の手順(磁心用粉末の生成〜圧粉体の成形〜加熱処理)を踏んで、実施例7としてのリング状試験片を得た。
[実施例8]
実施例8としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例8では、圧粉体成形用の原料粉末として、ステアリン酸亜鉛の配合割合が0.35vol%とされたものを使用した。
[実施例9]
実施例9としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例9では、圧粉体成形用の原料粉末として、ステアリン酸亜鉛の配合割合が7.0vol%とされたものを使用した。
[実施例10]
実施例10としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例10では、圧粉体成形時の成形圧を600MPaとした。
[実施例11]
実施例11としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例11では、圧粉体成形時の成形圧を800MPaとした。
[実施例12]
実施例12としてのリング状試験片の作製手順は実施例1に準ずる。但し、実施例12では、圧粉体の加熱処理条件を550℃×1hrとした。
[実施例13]
ROCKWOOD社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:Laponite RD(“Laponite”は登録商標)]0.3mass%の、ヘクトライト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、実施例1と同様の手順を踏み、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例13としてのリング状試験片を得た。この実施例13において、絶縁被膜を構成する結晶のサイズは、長さ25nm×厚さ1nm程度である。
[実施例14]
コープケミカル株式会社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:ルーセンタイトSWF(“ルーセンタイト”は登録商標)]0.3mass%の、ヘクトライト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、実施例1と同様の手順を踏み、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。そして、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例14としてのリング状試験片を得た。この実施例14において、絶縁被膜を構成する結晶は、端部(端面)のヒドロキシル基の一部がフルオロ基に置換されたもの(置換量は、当該結晶の珪素含有量を1molとしたとき約0.3mol)であり、かつそのサイズは長さ50nm×厚さ1nm程度である。
[実施例15]
ROCKWOOD社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:Laponite B(“Laponite”は登録商標)]0.3mass%の、ヘクトライト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、実施例1と同様の手順を踏むことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例15としてのリング状試験片を得た。この実施例15において、絶縁被膜を構成する結晶は、端部(端面)のヒドロキシル基の一部がフルオロ基に置換されたもの(置換量は、当該結晶の珪素含有量を1molとしたとき約0.1mol)であり、かつそのサイズは長さ40nm×厚さ1nm程度である。
[実施例16]
和光純薬株式会社製の親水性合成ヘクトライト0.3mass%(実施例1と同種)の、ヘクトライトが完全にへき開した状態で分散した水溶液に、金属アルコキシドとしてのテトラエトキシシラン(和光純薬株式会社製)を0.1mass%混合してなる混合水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、これを泡立たないように3分間程度攪拌した。その後、混合水溶液の排出→純水での洗浄→真空恒温槽で80℃×24hr加熱(乾燥)という手順を踏んで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例16としてのリング状試験片を得た。この実施例16において、絶縁被膜を構成する結晶は、端部のヒドロキシル基が金属アルコキシドと縮合された構造を有するものである。
[実施例17]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させる水溶液を、和光純薬株式会社製の親水性合成ヘクトライト0.3mass%(実施例1と同種)の、ヘクトライトが完全にへき開した状態で分散した水溶液に、ピロリン酸ナトリウム(太平化学産業株式会社製)を0.3mass%混合してなる混合水溶液とした以外は実施例16と同様の手順を踏み、実施例17としてのリング状試験片を得た。この実施例17において、絶縁被膜を構成する結晶は、端部の少なくとも一部に陰イオンを結合させたものである。
[実施例18]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させる水溶液を、和光純薬株式会社製の親水性合成ヘクトライト0.3mass%(実施例1と同種)の、ヘクトライトが完全にへき開した状態で分散した水溶液に、堺化学工業株式会社製のジルコニウム分散液(商品名:SZR−CW)を0.1mass%混合してなる混合水溶液とした以外は実施例16と同様の手順を踏み、実施例18としてのリング状試験片を得た。従って、この実施例18に係る試験片を構成する磁心用粉末は、絶縁被膜がジルコニウム化合物を含んで形成されたものである。
[実施例19]
クニミネ工業株式会社製の親水性合成サポナイト[商品名:スメクトンSA(“スメクトン”は登録商標)]0.3mass%の、サポナイト(結晶)が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間程度攪拌した。そして、実施例1と同様の手順を踏み、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例19としてのリング状試験片を得た。
[実施例20]
ROCKWOOD社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:Laponite B]0.2mass%およびクニミネ工業株式会社製の親水性合成サポナイト[商品名:スメクトンSA]0.2mass%の各結晶が完全にへき開した状態で分散した水溶液中に実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させた後、泡立たないように3分間攪拌した。そして、実施例1と同様の手順を踏み、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚さ10nmの絶縁被膜からなる磁心用粉末(ヘクトライトの結晶およびサポナイトの結晶の配合割合がそれぞれ50%とされた絶縁被膜を有する磁心用粉末)を生成した。その後、この磁心用粉末を用い、実施例1と同様の手順(成形〜加熱処理)を踏んで、実施例20としてのリング状試験片を得た。
[実施例21]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させるための溶液を、上記のROCKWOOD社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:Laponite B]0.3mass%およびクニミネ工業株式会社製の親水性合成サポナイト[商品名:スメクトンSA]0.1mass%の各結晶が完全にへき開した状態で分散したものとした以外は、実施例20と同様の手順を踏んで実施例21としてのリング状試験片を得た。すなわち、このリング状試験片を構成する個々の磁心用粉末は、ヘクトライトの結晶およびサポナイトの結晶の配合割合が、それぞれ75%および25%とされた絶縁被膜を有するものである。
[実施例22]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を浸漬させるための溶液を、上記のROCKWOOD社製の親水性合成ヘクトライト[商品名:Laponite B]0.1mass%およびクニミネ工業株式会社製の親水性合成サポナイト[商品名:スメクトンSA]0.3mass%の各結晶が完全にへき開した状態で分散したものとした以外は、実施例20と同様の手順を踏んで実施例22としてのリング状試験片を得た。すなわち、このリング状試験片を構成する個々の磁心用粉末は、ヘクトライトの結晶およびサポナイトの結晶の配合割合が、それぞれ25%および75%とされた絶縁被膜を有するものである。
【0075】
最後に、比較例1〜3に係るリング状試験片の作製方法について述べる。
[比較例1]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を、リン酸マンガン水和物0.5mass%水溶液中に浸漬させた後、泡立たないように10分間程度攪拌した。その後、リン酸マンガン水溶液の排出→真空恒温槽で80℃×24hr加熱(乾燥)という手順を踏むことで、アトマイズ鉄粉末およびその表面を被覆する厚み2000nmのリン酸マンガン被膜(絶縁被膜)からなる磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様にして、比較例1としてのリング状試験片を得た。
[比較例2]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を、Alfa Aesar社製チタンメトキシド0.5mass%のエタノール溶液に浸漬させた後、泡立たないように2分間程度攪拌した。次いで、チタンメトキシドのエタノール溶液の排出→真空恒温槽で80℃×24hr加熱(乾燥)という手順を踏むことで、絶縁被膜の前駆体としてのチタン(厚み2000nm)が鉄粉末の表面に固着した磁心用粉末を生成した。その後、実施例1と同様にして、比較例2としてのリング状試験片を得た。なお、鉄粉末の表面に固着したチタンは、圧粉体に加熱処理を施すのに伴って酸化チタン(絶縁被膜)になった。
[比較例3]
実施例1と同様にして得た鉄粉末を、有機溶媒中にシリコーン樹脂が溶解された溶液中に浸漬させた後、これを乾燥させることにより、鉄粉末およびその表面を被覆する厚み5000nmのシリコーン被膜からなる磁心用粉末を得た。その後、実施例1と同様にして、比較例3としてのリング状試験片を得た。
【0076】
上記の実施例1〜22および比較例1〜3それぞれについての作製方法の概要を図6にまとめて示し、各実施例および比較例の(1)密度、(2)絶縁被膜の電気抵抗率、(3)リング状試験片自体の電気抵抗率、(4)磁束密度、(5)最大透磁率、(6)鉄損、(7)圧環強度および(8)ラトラ値の評価点、並びに評価項目(4)〜(8)の評価点の合計値を図7に示す。図7からも明らかなように、実施例1〜22は、何れも、比較例1〜3に比べて総合得点が高くなった。実施例1〜22の中でも実施例1〜4は総合得点が比較的高く、さらに実施例13〜22は総合得点が一層高くなった。一方、比較例1〜3は、何れも、磁気特性および強度の双方において実施例よりも劣り、総合得点が10点にも至らなかった。
【0077】
実施例1〜4の総合得点(評価)が比較的高くなったのは、以下の(a)〜(f)によるものと考えられる。
(a)成形性に優れるアトマイズ鉄粉を使用している。
(b)粒径が30〜300μmの金属粉末を使用している。
(c)適量の固体潤滑剤を混合した原料粉末を用いて圧粉体を成形している。
(d)圧粉体の成形圧が適切である。
(e)圧粉体の加熱処理条件が適切である。
(f)絶縁被膜の膜厚が20nm以下である。
そして、上記(a)(c)(d)および(f)により圧粉体の高密度化が図られ、その結果、(4)磁束密度、(7)圧環強度および(8)ラトラ値の評価点が向上した。また、上記(b)は(6)鉄損の低減に寄与したものと考えられる。また、上記(e)により保磁力の低減および絶縁被膜(圧粉体)の強度向上が図られ、その結果、(4)磁束密度、(5)最大透磁率、(6)鉄損、(7)圧環強度および(8)ラトラ値の評価点が向上した。
【0078】
また、実施例13〜22の総合得点(評価)が一層高くなったのは、それぞれ、以下の理由によるものと考えられる。
・実施例13→膨潤性スメクタイト族鉱物(合成ヘクトライト)をへき開させてなる結晶のうち、長さおよび厚さが小さい結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例14→端面のヒドロキシル基をフルオロ基に置換した結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例15→フルオロ基への置換量が適切な結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例16→端面のヒドロキシル基に金属アルコキシドを縮合させた結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例17→端面に負の電荷を有するイオンを結合させた結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例18→ジルコニウム化合物を含めて絶縁被膜を形成している。
・実施例19→膨潤性スメクタイト族鉱物のうち、合成サポナイトをへき開させてなる結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。
・実施例20〜22→膨潤性スメクタイト族鉱物のうち、合成ヘクトライトおよび合成サポナイトの結晶の集合体で絶縁被膜を形成している。なお、実施例20〜22のうち、合成ヘクトライトおよび合成サポナイトの配合割合をそれぞれ50%とした実施例20の評価点が最も高くなっているのは、このような配合割合を採用した場合に、鉄損を最も効果的に抑制することができたためである(図8参照)。
【0079】
一方、比較例1〜3について検証すると、まず、比較例1および比較例3では絶縁被膜の耐熱性が低かったために、圧粉体に加熱処理を施すのに伴って絶縁被膜が損傷等し、その結果、鉄損が著しく増加したものと考えられる。また、絶縁被膜の膜厚が、比較例1および比較例3でそれぞれ2000nmおよび5000nmと厚かったため、(1)密度および(3)磁束密度が低く、さらには(6)圧環強度および(7)ラトラ値が劣る結果になったものと考えられる。次に、比較例2では、絶縁被膜を精度良く形成することができず、金属粉末の表面の一部が外部に露出した磁心用粉末が混入し、その結果、粉末間渦電流が発生して(5)鉄損が増加したものと考えられる。また、比較例1と同様に絶縁被膜の膜厚が2000nmと厚かったため、(1)密度および(3)磁束密度が低く、さらには(6)圧環強度および(7)ラトラ値が劣る結果になったものと考えられる。
【0080】
以上の確認試験結果から、本発明に係る磁心用粉末は、磁気特性や各種強度に優れた圧粉磁心を得る上で極めて有益であることが実証される。
【符号の説明】
【0081】
1 磁心用粉末
1’ 混合粉末
2 軟磁性金属粉末
3 絶縁被膜
4 結晶
5 圧粉体
6 圧粉磁心
20 ステータコア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8