特許第6113539号(P6113539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6113539-めっき鋼板の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113539
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】めっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/02 20060101AFI20170403BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20170403BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20170403BHJP
   C25F 1/00 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   C23C2/02
   C23C2/40
   B21B1/22 K
   C25F1/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-54771(P2013-54771)
(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公開番号】特開2014-181351(P2014-181351A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年8月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 明日香
(72)【発明者】
【氏名】永田 勝顕
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−144036(JP,A)
【文献】 特開平11−236621(JP,A)
【文献】 特開2000−073122(JP,A)
【文献】 特開平08−081748(JP,A)
【文献】 特開2000−192210(JP,A)
【文献】 特開2000−212768(JP,A)
【文献】 特開平09−249954(JP,A)
【文献】 特開平10−140311(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0031528(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0294400(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00−2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸洗された熱延鋼帯を2%以上かつ8%以下の圧下率で圧延することにより前記熱延鋼帯の表面のスマットを砕くか又は前記スマットを前記熱延鋼帯の表面から引き離した後に、めっき前異物除去処理を行うめっき鋼板の製造方法であって、
前記めっき前異物除去処理には電解洗浄処理が含まれている
ことを特徴とするめっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記圧下率は、4%以上かつ6%以下であることを特徴とする請求項1記載のめっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼帯を素材としてめっき鋼板を製造するめっき鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱延鋼帯に対して酸洗を施すと、鋼帯表面にスマットが現れることが知られている。スマットとは、セメンタイト(FeC)及び鉄系酸化物を主体とするものであり、熱延鋼帯に内在しているものと考えられる。スマットが鋼帯表面に現れた状態でめっきを施すと、めっき金属と鋼帯との反応が阻害されて、はじき(不めっき)が発生しやすくなる。熱延鋼帯にめっきを施す前にスマットを除去する方法としては、下記の特許文献1,2に記載された方法を挙げることができる。特許文献1では、酸洗後の熱延鋼帯に対して電解洗浄を施すことでスマットを除去している。特許文献2では、酸洗後の熱延鋼帯の表面を直下型還元バーナにより加熱することでスマットを焼却除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−212768号公報
【特許文献2】特開2000−192210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来方法では、電解洗浄によりスマットを除去しているので、電解液が劣化した場合にスマットの除去能力が悪くなり、電解洗浄後にスマットが残る可能性がある。特許文献2に記載された従来方法では直下型還元バーナを用いての加熱処理によりスマットを除去しているので、加熱条件により除去能力が変動し、加熱条件によっては加熱処理後にスマットが残る可能性がある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、めっき前異物除去処理の後にスマットが残存する可能性を低くできるめっき鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るめっき鋼板の製造方法は、酸洗された熱延鋼帯を2%以上かつ8%以下の圧下率で圧延することにより熱延鋼帯の表面のスマットを砕くか又はスマットを熱延鋼帯の表面から引き離した後に、めっき前異物除去処理を行うめっき鋼板の製造方法であって、めっき前異物除去処理には電解洗浄処理が含まれている
【発明の効果】
【0007】
本発明のめっき鋼板の製造方法によれば、酸洗された熱延鋼帯を2%以上かつ8%以下の圧下率で圧延した後に、めっき前異物除去処理を行うので、圧延により熱延鋼帯表面のスマットを砕くか又は熱延鋼帯表面から引き離すことができる。これにより、めっき前異物除去処理で除去すべきスマットの数を減らすことができ、めっき前異物除去処理の後にスマットが残存する可能性を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態1によるめっき鋼板の製造方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1によるめっき鋼板の製造方法を示す説明図である。図に示すように、本実施の形態のめっき鋼板の製造方法では、熱延鋼帯1に対して、酸洗処理S1、軽圧下圧延処理S2、めっき前異物除去処理S3及び溶融めっき処理S4を行うことで、めっき鋼板2を製造する。
【0010】
酸洗処理S1は、熱延鋼帯1を酸洗液に浸漬して、熱延鋼帯1の表面の酸化物を除去する工程である。熱延鋼帯1が酸洗されることで、熱延鋼帯1に内在していたスマットが熱延鋼帯1の表面に現れる。スマットとは、セメンタイト(FeC)及び鉄系酸化物を主体とするものである。
【0011】
軽圧下圧延処理S2は、酸洗された熱延鋼帯1を2%以上かつ8%以下の圧下率で圧延する工程である。熱延鋼帯1が圧延される際には、熱延鋼帯1の表面に圧延油が供給される。酸洗により熱延鋼帯1の表面に現れたスマットは、この軽圧下圧延処理S2での圧延より砕かれるか又は熱延鋼帯1の表面から引き離される。スマットを延鋼帯1の表面から引き離すとは、スマットを砕けないにしても、熱延鋼帯1に対するスマットの機械的結合を弱めることを意味する。砕かれるか又は熱延鋼帯1の表面から引き離されたスマットの多くは、圧延油によって洗い流される。
【0012】
圧下率を2%以上としているのは、圧下率が2%未満だとスマットに加わる力が小さすぎ、効果的にスマットを砕くことができないとともに、スマットを鋼帯表面から効果的に引き離さすことができないためである。圧下率を8%以下としているのは、圧下率が8%よりも大きいと、熱延鋼帯1に加工硬化が生じてしまい、製品特性に悪影響が生じるためである。
【0013】
軽圧下圧延処理S2における圧下率は、4%以上かつ6%以下とすることが好ましい。圧下率を4%以上とすることで、より確実にスマットを砕くとともに、より多くのスマットを鋼帯表面から引き離すことができる。また、圧下率を6%以下とすることで、熱延鋼帯に加工硬化が生じることをより確実に回避できる。特に、圧下率を4%以上かつ6%以下とすることで、スマットの除去による不めっき発生の回避のみならず、めっき表面の肌荒れを抑制でき、安定的に不めっきがなく、かつ美麗な外観肌を得ることができる。
【0014】
めっき前異物除去処理S3は、軽圧下圧延処理S2の後かつ溶融めっき処理S4の前に行われる工程であり、熱延鋼帯1の表面から異物を除去するためのものである。本実施の形態のめっき前異物除去処理S3には、電解洗浄処理S30及び還元加熱処理S31が含まれている。
【0015】
電解洗浄処理S30は、熱延鋼帯1を洗浄液に浸漬した状態で電解処理を施すものである。この電解洗浄処理S30により、熱延鋼帯1の表面から気泡が発生されて、熱延鋼帯1の表面に残存するスマットが除去される。すなわち、電解洗浄処理S30の前に軽圧下圧延処理S2を行うことで、電解洗浄処理S30で除去すべきスマットの量が減り、電解洗浄処理S30の後に熱延鋼帯1の表面にスマットが残る可能性が減る。
【0016】
還元加熱処理31は、還元雰囲気中で熱延鋼帯1を加熱する処理である。この還元加熱処理31により、熱延鋼帯1の表面から酸化物が除去される。
【0017】
溶融めっき処理S4は、めっき槽に貯められた溶融金属(めっき金属)に熱延鋼帯1を浸漬した後に、熱延鋼帯1をめっき槽から引上げてガスワイピングによりめっき厚を調整する工程である。軽圧下圧延処理S2及びめっき前異物除去処理S3により熱延鋼帯1の表面からスマット及び酸化物が除去されていることで、熱延鋼帯1の表面で溶融金属がはじかれることが防止される。
【0018】
次に実施例を挙げる。本発明者は、熱延鋼帯1として、C:0.07〜0.09質量%、Si:0.04質量%以下、Mn:0.25〜0.40質量%、P:0.025質量%以下、S:0.025質量%以下、Sol−Al:0.020〜0.079質量%、Ti:0.008〜0.022質量%、N:30質量ppm以下及びB:8〜16質量ppmを含み残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼材を用いて、溶融Zn−6質量%Al−3質量%Mg系めっき鋼板2の製造を試みた。一般に、熱延鋼帯1は、板厚が2.3mm以上の鋼材である。
【0019】
酸洗処理S1では、熱延鋼帯1の搬送方向に沿って第1〜3処理槽を設け、第1処理槽(プレヒート槽)に80g/Lの濃度で塩酸を含む酸洗液を貯め、第2処理槽に70〜150g/Lの濃度で塩酸を含む酸洗液を貯め、第3処理槽に100g/Lの濃度で塩酸を含む酸洗液を貯めた。第1処理槽の酸洗液の温度は85℃とし、第2及び第3処理槽の酸洗液の温度は95℃とする。各処理槽において熱延鋼帯を18秒ずつ浸漬した。
【0020】
軽圧下圧延処理S2では、直径300〜340mmのワークロールを含む1段のロールスタンドにて軽圧下を実施した。圧延油としては、合成エステル系の圧延油を使用した。
【0021】
電解洗浄処理S30では、洗浄液として、苛性ソーダを主成分とするアルカリ系前処理脱脂液を使用した。洗浄液に通す電流の密度は10A/dmとした。熱延鋼帯1を洗浄液に浸漬する時間及び電流を流す時間の合計時間を28秒とした。洗浄液に含まれる総油分の上限値を1.5%とし、洗浄液に含まれる鉄分の上限値を1000ppmとした。すなわち、電解洗浄処理を繰り返し行うことで上記の総油分及び鉄分の上限値を超えた場合には、洗浄液を交換することとした。
【0022】
還元加熱処理S31では、還元炉内の雰囲気ガスをHとNとの混合ガスとした。雰囲気ガス中のHの濃度は29%以上とし、雰囲気ガスの露点を−30℃以下とした。還元炉内の雰囲気温度は830℃程度とした。
【0023】
溶融めっき処理S4では、Zn、AL6質量%及びMg3質量%を含む溶融金属を用いた。溶融金属の温度は390℃〜400℃の範囲とし、熱延鋼帯1をめっき槽に導入するインレットの温度を410℃とした。また、ガスワイピングに用いるガスとしてNガスを用い、溶融金属から引上げられた熱延鋼帯1の表面に付着しためっき層の冷却速度を4.5℃/secに制御した。
【0024】
このような条件の下で、軽圧下圧延処理S2の圧下率を変えながらめっき鋼板2の製造を行い、それらのめっき性を評価した。その結果を下記の表1に示す。なお、表1におけるめっき性の評価結果は、製品1m2内に不めっきの発生がない場合を「○」とし、製品1m2内に不めっきが1ヶ以上発生している場合を「×」としている。
【表1】
この結果から、圧下率を2%以上かつ10%以下とすることで、良好なめき層を形成できることが分る。但し、上述のように、加工硬化の観点から、圧下率は8%以下とすることが好ましい。
【0025】
なお、本発明の構成は、溶融Zn、溶融Zn−Al系および溶融Zn−Al−Mg系などのめっき鋼板に適用できる。特に、Alを4.0質量%以上、Mgを2.5質量%以上の少なくとも一方を含むZn系めっき種は鋼板との濡れ性が極めて悪いので、本願発明の構成はそれらに対して特に有効である。
【0026】
また、酸洗後に鋼帯表面に現れるスマットはセメンタイト(FeC)を主体とするため、鋼中のC含有量が多いほどスマットが発生し易い。特に、C含有量が0.12質量%以上になるとスマットが残存し易い傾向となるため、本発明の構成がより有用となる。
【0027】
このようなめっき鋼板の製造方法では、酸洗された熱延鋼帯1を2%以上かつ8%以下の圧下率で圧延した後に、めっき前異物除去処理を行うので、圧延により熱延鋼帯表面のスマットを砕くか又は熱延鋼帯表面から引き離すことができる。これにより、めっき前異物除去処理で除去すべきスマットの数を減らすことができ、めっき前異物除去処理の後にスマットが残存する可能性を低くすることができる。
【0028】
また、軽圧下圧延処理S2における圧下率を4%以上とすることで、より確実にスマットを砕くとともに、より多くのスマットを鋼帯表面から引き離すことができる。また、圧下率を6%以下とすることで、熱延鋼帯に加工硬化が生じることをより確実に回避できる。特に、圧下率を4%以上かつ6%以下とすることで、スマットの除去による不めっき発生の回避のみならず、めっき表面の肌荒れを抑制でき、安定的に不めっきがなく、かつ美麗な外観肌を得ることができる。
【0029】
なお、実施の形態では、めっき前異物除去処理S3に電解洗浄処理S30が含まれるように説明しているが、電解洗浄処理の代わりに例えば直下型還元バーナを用いての加熱処理等の他の異物除去処理を行ってもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 熱延鋼帯
2 めっき鋼板
図1