特許第6113564号(P6113564)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6113564タイヤ加硫金型及びそれに用いるタイヤ加硫金型用ベントプラグ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113564
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫金型及びそれに用いるタイヤ加硫金型用ベントプラグ
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20170403BHJP
   B29C 33/10 20060101ALI20170403BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20170403BHJP
   B29K 21/00 20060101ALN20170403BHJP
   B29K 105/24 20060101ALN20170403BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20170403BHJP
【FI】
   B29C33/02
   B29C33/10
   B29C35/02
   B29K21:00
   B29K105:24
   B29L30:00
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-86729(P2013-86729)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-210356(P2014-210356A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年2月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 稔之
(72)【発明者】
【氏名】茨木 大介
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/080378(WO,A1)
【文献】 特開2005−324477(JP,A)
【文献】 特開平02−214616(JP,A)
【文献】 特開2003−245923(JP,A)
【文献】 特開2001−205638(JP,A)
【文献】 特開2005−028589(JP,A)
【文献】 特開2011−116012(JP,A)
【文献】 特開2011−088415(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0258037(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0082704(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0005371(US,A1)
【文献】 米国特許第04447197(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 35/00−35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ踏面を形成する成形面に、ベントプラグが装着されるベントホールを設けたタイヤ加硫金型であって、
前記成形面のうち前記ベントホールの周囲2.0mm以内の周縁部位には、壁部でゴムを受けて前記ベントホールの周方向に沿ってゴムを案内する案内部が設けられており、
前記案内部は、前記成形面に対する深さ又は高さが0.3mm以上0.6mm以下となる窪み又は突起の少なくともいずれかで構成されており、
前記ベントホールをその径方向外側から周囲360度いずれの方向から見ても前記ベントホールの径方向外側に前記案内部が配置される位置関係に設定されていることを特徴とするタイヤ加硫金型。
【請求項2】
前記案内部は前記ベントホールの回りを一周する環状窪み又は環状突起であり、前記環状窪み又は環状突起は、ベントホールの周囲にゴムが行き渡るまでゴムを一時的に貯留可能な貯留部を構成している請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記案内部は、環状窪みである請求項2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項4】
前記環状窪みは、前記成形面及び前記ベントホールの双方に開口している請求項3に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項5】
前記案内部は環状突起であり、前記環状突起は、ベントプラグに流れ込み得るゴム量を所定量に制限する制限部を構成している請求項2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項6】
前記案内部が窪み及び突起のいずれか一方である場合に、当該案内部の径方向外側に、窪み及び突起のいずれか他方で構成される第2の案内部が配置されている請求項2〜5のいずれかに記載のタイヤ加硫金型。
【請求項7】
前記第2の案内部が窪み及び突起のいずれか一方である場合に、当該第2の案内部の径方向外側に、窪み及び突起のいずれか他方で構成される第3の案内部が配置されている請求項6に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項8】
タイヤ踏面を形成する成形面にベントホールを有するタイヤ加硫金型と、前記ベントホールに装着されるタイヤ加硫金型用ベントプラグと、を備えるベント構造であって、
前記ベントプラグは、排気路を有する筒状のハウジングと、排気路を閉塞する弁体としてのステムと、排気路が開放状態となる方向に前記ステムを付勢する付勢部とを備え、
前記ハウジングは、前記排気路が開口する金型内側端面を有し、当該金型内側端面に、前記排気路の周方向に沿ってゴムを案内する案内部が設けられており、
前記案内部は、前記金型内側端面に対して突出する突起を少なくとも含み、前記突起は、前記成形面に対する高さが0.3mm以上0.6mm以下となり、
前記排気路をその径方向外側から周囲360度いずれの方向から見ても前記排気路の径方向外側に前記案内部が配置される位置関係に設定されていることを特徴とする、ベント構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫金型及びタイヤ加硫金型のベントホールに装着するタイヤ加硫金型用ベントプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの加硫工程で用いられるタイヤ加硫金型においては、タイヤの外表面を成形するタイヤ成形面に複数のベントホールが設けられている。このベントホールは、金型の内部と外部に通じており、加硫成形時にタイヤの外表面とタイヤ成形面との間のエアを排出させることによって、ベアと呼ばれる凹み傷等の発生を防止するものである。
【0003】
加硫成形時には、未加硫タイヤが膨張して高温の金型へ押し付けられる。このため、加硫時には、タイヤの外表面のゴムがベントホール内に流入し、いわゆるスピューと呼ばれる髭状に延びる突起がタイヤ表面に形成される。タイヤ加硫成形後の後工程では、上記スピューを切除する作業(トリミング)が必要となる。トリミングでは切り残しが存在する場合は、タイヤの転がり抵抗が増大して燃費性能が悪化する要因となる。
【0004】
そこで、タイヤの加硫成形後のトリミングを無くすために、空気を逃がしながらもゴムの流入を閉止するために、弁機能を有するベントプラグをベントホールに設けることが提案されている。
【0005】
具体的な一例として例えば特許文献1に記載のベントプラグは、排気路を有する筒状のハウジングと、排気路を閉塞する弁体としてのステムと、排気路が開放状態となる方向にステムを付勢するスプリングコイル等の付勢部と、を有する。
【0006】
一方、特許文献2に記載の金型は、タイヤの陸部を形成する金型凹部におけるエア残留を低減するために、凹部の底面の端縁近傍にベントホールを設け、ベントホールを中心として凹部の端縁とは反対側となる部位に堰状突起を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−116012号公報
【特許文献2】特開2011−88415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載のベントプラグは、一般的に、軸方向に沿って見てゴムが正面から進行してくれば、ステムが適切に閉塞してプラグ内部にゴムが流入するゴム噛みを低減できるが、ゴムが斜め方向から進行してくれば、ゴム噛みが発生しやすくなる。ゴム噛みが発生すれば、ステムが固着して適宜清掃が必要になるため、生産性が減少してしまう。
【0009】
一方、特許文献2に記載の技術は、金型凹部の底面の端縁近傍にベントホールを配置した場合の技術であり、堰状突起も部分的な配置であるから周囲360度いずれの方向からゴムが進行してくるかわからない部位(例えば、ブロック中央部)にベントホールを配置した場合には有効ではない。
【0010】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、ベントプラグのゴム噛みを低減するタイヤ加硫金型及びタイヤ加硫金型用ベントプラグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0012】
すなわち、本発明のタイヤ加硫金型は、タイヤ踏面を形成する成形面に、ベントプラグが装着されるベントホールを設けたタイヤ加硫金型であって、前記成形面のうち前記ベントホールの周囲2.0mm以内の周縁部位には、壁部でゴムを受けて前記ベントホールの周方向に沿ってゴムを案内する案内部が設けられており、前記案内部は、前記成形面に対する深さ又は高さが0.3mm以上0.6mm以下となる窪み又は突起の少なくともいずれかで構成されており、前記ベントホールをその径方向外側から周囲360度いずれの方向から見ても前記ベントホールの径方向外側に前記案内部が配置される位置関係に設定されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ベントホールの周囲360度いずれの方向からゴムがベントホールに向かっても、案内部によりゴムがベントホールの周方向に案内されるので、ベントホールに装着したベントプラグの正面に対して斜め方向から侵入するゴムを案内部がない場合に比べて低減でき、ゴム噛みを低減することが可能となる。それでいて、案内部は、成形面に対する深さ又は高さが0.3mm以上0.6mm以下となる窪み又は突起の少なくともいずれかで構成されているので、ゴム流れを変え周方向に案内する機能を確保するとともに、タイヤ踏面に形成される突起や窪みを小さくして転がり抵抗の増大を抑制することが可能となる。さらに、案内部をベントホール周囲2.0mm以内に配置しているので、ゴム案内の効果を適切に発揮させることが可能となる。
【0014】
ゴム噛みを低減するためには、前記案内部は前記ベントホールの回りを一周する環状窪み又は環状突起であり、前記環状窪み又は環状突起は、ベントホールの周囲にゴムが行き渡るまでゴムを一時的に貯留可能な貯留部を構成していることが好ましい。
【0015】
案内部が突起の場合に比べて製造しやすい金型を提供するためには、前記案内部は、環状窪みであることが好ましい。
【0016】
製造のしやすさ及び見栄えを追求するためには、前記環状窪みは、前記成形面及び前記ベントホールの双方に開口していることが好ましい。
【0017】
ゴム噛みをより一層低減するためには、前記案内部は環状突起であり、前記環状突起は、ベントプラグに流れ込み得るゴム量を所定量に制限する制限部を構成していることが効果的である。
【0018】
ゴム噛みをより一層低減するためには、前記案内部が窪み及び突起のいずれか一方である場合に、当該案内部の径方向外側に、窪み及び突起のいずれか他方で構成される第2の案内部が配置されていることが好ましい。
【0019】
さらにゴム噛みを低減するためには、前記第2の案内部が窪み及び突起のいずれか一方である場合に、当該第2の案内部の径方向外側に、窪み及び突起のいずれか他方で構成される第3の案内部が配置されていることが好ましい。
【0020】
本発明は、タイヤ加硫金型のベントホールに装着されるベントプラグとして特定可能である。
【0021】
すなわち、本発明のタイヤ加硫金型用ベントプラグは、タイヤ加硫金型のベントホールに装着され、排気路を有する筒状のハウジングと、排気路を閉塞する弁体としてのステムと、排気路が開放状態となる方向に前記ステムを付勢する付勢部とを備えるタイヤ加硫金型用ベントプラグであって、前記ハウジングは、前記排気路が開口する金型内側端面を有し、当該金型内側端面に、前記排気路の周方向に沿ってゴムを案内する案内部が設けられており、前記案内部は、前記金型内側端面に対する深さ又は高さが0.3mm以上0.6mm以下となる窪み又は突起の少なくともいずれかで構成されており、前記排気路をその径方向外側から周囲360度いずれの方向から見ても前記排気路の径方向外側に前記案内部が配置される位置関係に設定されていることを特徴とする。
【0022】
この構成のベントプラグを用いることによっても、上記タイヤ加硫金型と同様の作用、効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るタイヤ加硫金型の一例を示す縦断面図。
図2】タイヤ成形面に設けられたベントホール周囲及びベントホールに装着されたベントプラグの周囲を拡大して示す断面図。
図3】ベントプラグ及びその周囲を金型内側から見た図。
図4】ベントプラグ及びその周囲を金型内側から見た図であって、タイヤ加硫時におけるゴム流れの一例を模式的に示す図。
図5】ベントプラグ及びその周囲を金型内側から見た図であって、タイヤ加硫時におけるゴム流れの一例を模式的に示す図。
図6】本発明の上記以外の実施形態に係る図2に対応する断面図。
図7】本発明の上記以外の実施形態に係る図2に対応する断面図。
図8】本発明の上記以外の実施形態に係る図2に対応する断面図。
図9】タイヤ加硫時におけるゴム流れの一例を模式的に示す断面図。
図10A】本発明の上記以外の実施形態に係る図2に対応する断面図。
図10B】本発明の上記以外の実施形態に係る図2に対応する断面図。
図11A】本発明の上記以外の実施形態に係る図2に対応する断面図。
図11B】本発明の上記以外の実施形態に係る図2に対応する断面図。
図12A】本発明の上記以外の実施形態に係る図2に対応する断面図。
図12B】本発明の上記以外の実施形態に係る図2に対応する断面図。
図13A】本発明の上記以外の実施形態に係る図3に対応する断面図。
図13B】本発明の上記以外の実施形態に係る図3に対応する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態のタイヤ加硫金型について、図面を参照して説明する。図面は、理解が容易となるように誇張して図示しているので、部材の寸法関係は無視すべきである。
【0025】
図1は、本発明に係るタイヤ加硫金型の一例を示す縦断面図である。図1に示すように、本実施形態のタイヤ加硫金型は、タイヤのトレッド部に当接するトレッド型部1と、タイヤのサイドウォール部に当接するサイド型部2,3と、タイヤのビード部が嵌合されるビードリング4とを備える。
【0026】
加硫成形時には、不図示の開閉機構によって金型を型開きし、グリーンタイヤ(未加硫タイヤ)を金型の軸と一致するようにセットして型閉めした後、ブラダーと呼ばれるゴムバッグを膨張させてグリーンタイヤを拡張変形する。これにより、グリーンタイヤの外表面が成形面1aに押し当てられて成形される。
【0027】
図示を省略しているが、成形面1aには、溝部を成形するための骨部(凸部)と、陸部を成形するための凹部が設けられており、加硫成形時には、その凹凸形状に対応したトレッドパターンがタイヤ踏面に形成される。図1にて誇張して示すように、タイヤ成形面1aには、金型の内部と外部に通じる複数のベントホール10が設けられていて、タイヤの外表面とタイヤ成形面1aとの間のエアを排出可能に構成されている。通常、ベントホール10は凹部の各々に設けられている。
【0028】
図2は、タイヤ踏面を形成する成形面1aに設けられたベントホール10を拡大して示す断面図である。ベントホール10には、ベントプラグ5が装着される。ベントプラグ5は、鉄系の鋳造材料等で形成されている。ベントプラグ5は、排気路51hを有する筒状のハウジング51と、排気路51hを閉塞する弁体としてのステム50と、排気路51hが開放状態となる方向にステム50を付勢するコイルスプリング等を用いた付勢部(図示せず)とを備える。ベントプラグ5がベントホール10に装着された状態において、ハウジング51の金型内側端面51aが金型の成形面1aとおおむね面一な状態となる。金型内側端面51aには、排気路51hが開口しており、金型内側端面51aは正面視で円環状をなしている。ここで「面一」とは、完全に面と面が一致する必要はなく、タイヤ外表面に段差が目立たなければよい。例えば±0.1mmまでのズレであれば面一として含まれる。
【0029】
図2及び図3に示すように、成形面1aのうちベントホール10の周囲2.0mm以内の周縁部位Ar1には、壁部60でゴムを受けてベントホール10の周方向CDに沿ってゴムを案内する案内部6が設けられている。案内部6は、成形面1aに対する深さH1が0.3mm以上0.6mm以下となる窪みで構成されている。本実施形態では、案内部6としての窪みは、ベントホール10に装着されたベントプラグ5との間に壁部60を構成し、当該壁部60によりゴムをベントホール10の周方向CDに沿って案内する。
【0030】
図3に示すように、ベントホール10をその径方向外側から周囲360度いずれの方向から見てもベントホール10の径方向外側に案内部6が配置される位置関係に設定されている。具体的には、本実施形態の案内部6は、図2及び図3に示すように、ベントホールの回りを一周する環状に形成されている環状窪みである。さらに、案内部6としての環状窪みは、金型の成形面1a及びベントホール10の双方に開口している。
【0031】
なお、本実施形態では、図2に示すように、案内部6としての環状窪みは、ベントホール10に開口しているが、図6に示すように、ベントホール10の周囲2.0mm以内にあれば、ベントホール10に対して開口していなくてもよい。図2に示すように、案内部6としての窪みの幅W1は、ゴム案内の効果を確保するため及び転がり抵抗の増大を回避するために、0.5mm以上1.0mm以内であることが好ましい。案内部6としての窪みの深さH1は、ゴム案内の効果を確保するため及び転がり抵抗の増大を回避するために、0.3mm以上0.6mm以下であることが好ましい。
【0032】
本実施形態では、図2に示すように、案内部6を環状窪みとしているが、図7及び図8に示すように環状突起で構成してもよい。環状突起の幅W1及び高さH1について、上記と同様の理由により、幅W1は0.5mm以上1.0mm以内であることが好ましく、高さH1は0.3mm以上0.6mm以下であることが好ましい。また、「成形面1aのうちベントホール10の周囲2.0mm以内の周縁部位Ar1には案内部6が設けられている」とは、図6及び図8に示すように、環状窪み及び環状突起の内側端e1とベントホール10の外端e2との距離が0mm以上2.0mm以内であればよいことを意味する。
【0033】
上記金型を用いた加硫成形時の動作を模式的に説明する。図4に模式的に示すように、加硫成形時において、未加硫のグリーンタイヤのゴムgが成形面1aに押し当り、ベントホール10(ベントプラグ5)の径方向外側から内側に向かってゴムgが進んでくる。図4に示すように、案内部6の壁部60がゴムgを受けてベントホール10の周方向CDに沿って案内する。図5に示すように、案内部6の壁部60は、ベントホール10の周囲にゴムgが行き渡るまで、ゴムgを一時的に貯留可能な貯留部を構成することになる。貯留部により、結果的にゴムgが一時的に貯留されれば、案内部6を越えるゴムの侵入タイミングが全方位で揃うようになる。ベントホール10の周囲にゴムが行き渡れば、これにつられてベントホール10(ベントプラグ)の正面にもゴムが来ることになり、ゴム噛みを低減することが可能となる。
【0034】
さらに、図7及び図8に示すように案内部6として環状突起を用いた場合には、上記効果に加え、次の作用が発現すると考えられる。図9に示すように、案内部6としての環状突起の全周にゴムgが接触すれば、環状突起によりベントプラグ5のある空間SPが閉塞されるので、環状突起は、ベントプラグ5に流れ込み得るゴム量を所定量に制限する制限部を構成する。ベントプラグ5に流れ込み得るゴム量が制限されれば、ゴム量が制限されない場合に比べてゴム噛みを低減することが可能となる。
【0035】
本実施形態の金型と従来の金型に比較結果を下記に示す。実施例として、図6に示すように、案内部6を環状溝とし、環状溝6の内側端e1からベントホール10(ベントプラグ5)の外端e2までの距離を1.0mmとし、環状溝6の幅を1.0mmとし、環状溝6の高さを0.5mmとした。従来例として案内部6としての環状溝を設けていない金型を作製した。従来例の金型でタイヤを製作したところ約2000本加硫した時点でゴム噛みのためメンテナンスが必要になった。これに対し、実施例では約5000本加硫した時点でゴム噛みのためメンテナンスが必要となった。この結果からみて、従来例に対し実施例はゴム噛みが低減していると考えられる。
【0036】
以上のように、本実施形態のタイヤ加硫金型は、タイヤ踏面を形成する成形面1aに、ベントプラグ5が装着されるベントホール10を設けたタイヤ加硫金型であって、成形面1aのうちベントホール10の周囲2.0mm以内の周縁部位Ar1には、壁部60でゴムgを受けてベントホール10の周方向CDに沿ってゴムgを案内する案内部6が設けられている。案内部6は、成形面1aに対する深さH1又は高さH1が0.3mm以上0.6mm以下となる窪み又は突起の少なくともいずれかで構成されている。ベントホール10をその径方向外側から周囲360度いずれの方向から見てもベントホール10の径方向外側に案内部6が配置される位置関係に設定されている。
【0037】
この構成によれば、ベントホール10の周囲360度いずれの方向からゴムgがベントホール10に向かっても、案内部6によりゴムgがベントホール10の周方向CDに案内されるので、ベントホール10に装着したベントプラグ5の正面に対して斜め方向から侵入するゴムgを案内部6がない場合に比べて低減でき、ゴム噛みを低減することが可能となる。それでいて、案内部6は、成形面1aに対する深さH1又は高さH1が0.3mm以上0.6mm以下となる窪み又は突起の少なくともいずれかで構成されているので、ゴム流れを変え周方向に案内する機能を確保するとともに、タイヤ踏面に形成される突起や窪みを小さくして転がり抵抗の増大を抑制することが可能となる。さらに、案内部6をベントホール10周囲2.0mm以内に配置しているので、ゴム案内の効果を適切に発揮させることが可能となる。
【0038】
特に、本実施形態では、案内部6はベントホール10の回りを一周する環状窪み又は環状突起であり、環状窪み又は環状突起は、ベントホール10の周囲にゴムgが行き渡るまでゴムgを一時的に貯留可能な貯留部を構成している。この構成によれば、案内部6を越えるゴムの侵入タイミングが全方位で揃うようになるので、案内部6が円弧状等の部分環状である場合に比べてゴム噛みを低減することが可能となる。
【0039】
本実施形態では、案内部6は、環状窪みであるので、案内部6が突起の場合に比べて製造しやすい金型を提供することが可能となる。
【0040】
さらに、本実施形態では、環状窪みは、成形面1a及びベントホール10の双方に開口しているので、製造しやすい金型を提供できると共に、環状窪みがベントホール10に隣接するので見栄えを向上させることが可能となる。
【0041】
さらに、本実施形態では、案内部6は環状突起であり、環状突起は、ベントプラグ5に流れ込み得るゴム量を所定量に制限する制限部を構成している。この構成によれば、ゴム噛みをより一層低減することが可能となる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0043】
<他の実施形態>
例えば、本実施形態では、金型に単一の窪み又は突起を設けているが、複数形成してもよい。
【0044】
具体的に、図10Aに示す実施形態では、案内部6が窪みである場合に、案内部6の径方向外側に、突起で構成される第2の案内部7が配置されていている。同様に、図10Bに示す実施形態では、案内部6が突起である場合に、案内部6の径方向外側に、窪みで構成される第2の案内部7が配置されている。すなわち、案内部6が窪み及び突起のいずれか一方である場合に、案内部6の径方向外側に、窪み及び突起のいずれか他方で構成される第2の案内部7が配置されている。この構成によれば、窪みの深さと突起の高さを加えた段差をゴムが乗り越えなくてはならないので、案内部6を越えるゴムの侵入タイミングを全方位で揃えるように機能し、ゴム噛みをより一層低減することが可能となる。
【0045】
また、図11Aに示す実施形態では、第2の案内部7が突起である場合に、第2の案内部7の径方向外側に、窪みで構成される第3の案内部8が配置されている。同様に、図11Bに示す実施形態では、第2の案内部7が窪みである場合に、第2の案内部7の径方向外側に、突起で構成される第3の案内部8が配置されていている。すなわち、第2の案内部7が窪み及び突起のいずれか一方である場合に、第2の案内部7の径方向外側に、窪み及び突起のいずれか他方で構成される第3の案内部8が配置されている。この構成によれば、上記に比べゴム噛みをより一層低減することが可能となる。
【0046】
上記では、突起と窪みが交互に配置されているが、突起のみを連続して配置してもよく、窪みのみを連続して配置してもよい。さらに、上記で示した突起と窪みの関係を入れ替えても良い。突起及び窪みの幅や高さ、深さは、上記と同様の範囲であることが好ましい。
【0047】
上記では、案内部をタイヤ加硫金型側に設けているが、次に示すように、ベントプラグ5側に設けてもよい。具体的には、図12A及び図12Bに示すように、タイヤ加硫金型用ベントプラグ5は、タイヤ加硫金型のベントホール10に装着され、排気路51hを有する筒状のハウジング51と、排気路51hを閉塞する弁体としてのステム50と、排気路51hが開放状態となる方向にステム50を付勢する付勢部とを備える。ハウジング51は、排気路51hが開口する金型内側端面51aを有する。金型内側端面51aに、排気路51hの周方向に沿ってゴムを案内する案内部6が設けられている。案内部6は、金型内側端面51aに対する深さ又は高さが0.3mm以上0.6mm以下となる窪み又は突起の少なくともいずれかで構成されている。排気路51hをその径方向外側から周囲360度いずれの方向から見ても排気路51hの径方向外側に案内部6が配置される位置関係に設定されている。このようにしても、上記金型と同様の作用効果を奏することが可能となる。案内部6を構成する窪み又は突起の幅、高さ、深さは上記と同様である。
【0048】
さらに、上記の実施形態では、案内部6を構成する窪み及び突起は環状であるが、部分環状の窪み又は突起を組み合わせて案内部6を構成してもよい。具体的には、図13A及び図13Bに示すように、複数の案内部6がベントホール10回りに沿って千鳥状に配置されており、ベントホール10をその径方向外側から周囲360度いずれの方向から見てもベントホール10の径方向外側に案内部6が配置される位置関係に設定されている。特に、図13Bに示すように、径方向に沿って見た場合に案内部6同士がオーバーラップしているのがゴム噛み低減の観点から好ましい。
【0049】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0050】
10…ベントホール
1a…成形面
5…ベントプラグ
6…案内部
60…壁部
7…第2の案内部
8…第3の案内部
Ar1…周縁部位
CD…周方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B