【文献】
CHOI S M et al.,Electrochemical benzene hydrogenation using PtRhM/C(M=W,Pd,or Mo) electrocatalysts over a polymer electrolyte fuel cell system,APPLIED CATALYSIS A:GENERAL,2009年 5月15日,vol.359, no.1-2,pp.136-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
イオン伝導性を有する電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に設けられ、芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物を核水素化するための還元触媒を含む還元電極と、前記電解質膜の他方の側に設けられた酸素発生用電極と、を含む電極ユニットと、
前記還元電極が卑な電位、前記酸素発生用電極が貴な電位となるように、前記還元電極と前記酸素発生用電極との間に電圧Vaを印加する電力制御部と、
前記芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物の核水素化反応と競争する水の電気分解反応より生じる水素ガスの単位時間当たりの発生量F1を測定する水素ガス発生量測定手段と、
水素発生電位をVHER、還元電極の電位をVCA、ファラデー効率が50〜90%になるように設定される水素ガス発生量の許容上限値をF0と表し、VCAとVHERとの電位差の上限を定める電位差を許容電位差としたときに、VCAを導出し、F1≦F0の関係を満たすか、及びVCA>VHER−許容電位差の関係を満たすかを判定し、
F1≦F0かつVCA>VHER−許容電位差
となる範囲内で電圧Vaを徐々に高くするように前記電力制御部を制御する制御部と、
を備え、
前記許容電位差は20mVであることを特徴とする電気化学還元装置。
イオン伝導性を有する電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に設けられ、芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物を核水素化するための還元触媒を含む還元電極と、前記電解質膜の他方の側に設けられた酸素発生用電極と、を含む複数の電極ユニットが互いに電気的に直列に接続された電極ユニット集合体と、
各電極ユニットの前記還元電極が卑な電位、前記酸素発生用電極が貴な電位となるように、前記電極ユニット集合体の正極端子と負極端子との間に電圧VAを印加する電力制御部と、
前記複数の電極ユニット全体における、前記芳香族炭化水素化合物または含窒素複素環式芳香族化合物の核水素化反応と競争する水の電気分解反応より生じる水素ガスの単位時間当たりの発生量F1’を測定する水素ガス発生量測定手段と、
水素発生電位をVHER、還元電極の電位をVCA、ファラデー効率が50〜90%になるように設定される前記電極ユニット1つ当たりの水素ガス発生量の許容上限値をF0、前記電極ユニットの数をNと表し、VCAとVHERとの電位差の上限を定める電位差を許容電位差としたときに、VCAを導出し、F1’≦N×F0の関係を満たすか、及びVCA>VHER−許容電位差の関係を満たすかを判定し、
F1’≦N×F0かつVCA>VHER−許容電位差
となる範囲内で電圧VAを徐々に高くするように前記電力制御部を制御する制御部と、
を備え、
前記許容電位差は20mVであることを特徴とする電気化学還元装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態に係る電気化学還元装置10の概略構成を示す模式図である。
図2は、実施の形態に係る電気化学還元装置10が有する電極ユニット100の概略構成を示す図である。
図1に示すように、電気化学還元装置10は、電極ユニット100、電力制御部20、有機物貯蔵槽30、水素ガス発生量測定部36、水貯蔵槽40、気水分離部50、気液分離部52、制御部60および水素ガス回収部210を備える。
【0017】
電力制御部20は、例えば、電力源の出力電圧を所定の電圧に変換するDC/DCコンバータである。電力制御部20の正極出力端子は、電極ユニット100の正極に接続されている。電力制御部20の負極出力端子は、電極ユニット100の負極に接続されている。これにより、電極ユニット100の酸素発生用電極(正極)130と還元電極(負極)120との間に所定の電圧が印加される。なお、電力制御部20の参照極入力端子は、後述する電解質膜110に設けられた参照電極112と接続されており、制御部60の指示に従って、参照電極112の電位を基準として正極出力端子の電位および負極出力端子の電位が定められる。なお、電力源としては、太陽光や風力などの自然エネルギー由来の電力を用いることができる。制御部60による正極出力端子および負極出力端子の電位制御の態様については後述する。
【0018】
有機物貯蔵槽30には、芳香族化合物が貯蔵されている。本実施の形態で用いられる芳香族化合物は、少なくとも1つの芳香環を含む芳香族炭化水素化合物、または含窒素複素環式芳香族化合物であり、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ジフェニルエタン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、N−アルキルピロール(N-alkylpyrrole)、N−アルキルインドール(N-alkylindole)、N−アルキルジベンゾピロール(N-alkyldibenzopyrrole)などが挙げられる。また、上述の芳香族炭化水素および含窒素複素環式芳香族化合物の芳香環の1乃至4の水素原子がアルキル基で置換されていてもよい。ただし、上記芳香族化合物中の「アルキル」は、炭素数1〜6の直鎖アルキル基または分岐アルキル基である。例えばアルキルベンゼンとしては、トルエン、エチルベンゼンなど、ジアルキルベンゼンとしてキシレン,ジエチルベンゼンなど、トリアルキルベンゼンとしてメシチレンなどが挙げられる。アルキルナフタレンとしては、メチルナフタレンなどが挙げられる
。また、上述の芳香族炭化水素および含窒素複素環式芳香族化合物の芳香環は1乃至3の置換基を有してもよい。なお、本明細書では、本発明で用いられる芳香族炭化水素化合物および含窒素複素環式芳香族化合物を「芳香族化合物」と呼ぶ場合がある。芳香族化合物は、常温で液体であることが好ましい。また、上述の芳香族化合物のうち複数を混合したものを用いる場合は、混合物として液体であればよい。これによれば、加熱や加圧などの処理を行うことなく、液体の状態で芳香族化合物を電極ユニット100に供給することができるため、電気化学還元装置10の構成の簡便化を図ることができる。液体の状態の芳香族炭化物化合物の濃度は、0.1%以上、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上である。芳香族化合物の濃度が0.1%を下回ると、目的とする芳香族化合物の水素化反応に対して水素ガスが発生しやすくなるため好ましくないためである。
【0019】
有機物貯蔵槽30に貯蔵された芳香族化合物は、第1液体供給装置32によって電極ユニット100の還元電極120に供給される。第1液体供給装置32は、例えば、ギアポンプあるいはシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等を用いることができる。なお、芳香族化合物に代えて、上述した芳香族化合物のN−置換体を用いてもよい。有機物貯蔵槽30と電極ユニット100の還元電極との間に循環経路が設けられており、電極ユニット100によって核水素化された芳香族化合物および未反応の芳香族化合物は、循環経路を経て有機物貯蔵槽30に貯蔵される。電極ユニット100の還元電極120で進行する主反応ではガスは発生しないが、芳香族化合物の核水素化反応と競争する水の電気分解反応より水素が生じる。この水素を除去するため、気液分離部52が設けられている。気液分離部52により分離された水素ガスは水素ガス回収部210に収容される。また、還元電極120から有機物貯蔵槽30に至る配管31の気液分離
部52の前段に水素ガス発生量測定部36が設けられている。水素ガス発生量測定部36は、芳香族化合物とともに配管31を流通する水素ガスの量を測定する。水素ガス発生量測定部36としては、例えば、発生ガスの流量を直接測定する、湿式または乾式ガスメーター、マスフローメーター、石鹸膜式流量計等を用いることができる。また、水素ガス発生量測定部36として、水素ガスによる気泡を光学的に検知する光学センサや、配管31内の圧力を検知する圧力センサなどを用いることができる。水素ガス発生量測定部36で測定された水素ガスの発生量に関する情報は制御部60に入力され、この情報に基づいて水素ガスの発生量F1が算出される。
【0020】
水貯蔵槽40には、イオン交換水、純水等(以下、単に「水」という)が貯蔵されている。水貯蔵槽40に貯蔵された水は、第2液体供給装置42によって電極ユニット100の酸素発生用電極130に供給される。第2液体供給装置42は、第1液体供給装置32と同様に、例えば、ギアポンプあるいはシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等を用いることができる。水貯蔵槽40と電極ユニット100の酸素発生用電極との間に循環経路が設けられており、電極ユニット100において未反応の水は、循環経路を経て水貯蔵槽40に貯蔵される。なお、未反応の水を電極ユニット100から水貯蔵槽40へ送り返す経路の途中に気水分離部50が設けられている。気水分離部50によって、電極ユニット100における水の電気分解によって生じた酸素が水から分離されて系外に排出される。
【0021】
図2に示すように、電極ユニット100は、電解質膜110、還元電極120、酸素発生用電極130、液体拡散層140a、140b、およびセパレータ150a、150bを有する。なお、
図1では、電極ユニット100が簡略化されて図示されており、液体拡散層140a、140b、およびセパレータ150a、150
bが省略されている。
【0022】
電解質膜110は、プロトン伝導性を有する材料(イオノマー)で形成されており、プロトンを選択的に伝導する一方で、還元電極120と酸素発生用電極130との間で物質が混合したり拡散することを抑制する。電解質膜110の厚さは、5〜300μmが好ましく、10〜150μmがより好ましく、20〜100μmが最も好ましい。電解質膜110の厚さが5μm未満であると、電解質膜110のバリア性が低下し、クロスリークが生じやすくなる。また、電解質膜110の厚さが300μmより厚くなると、イオン移動抵抗が過大になるため好ましくない。ただし、電解質膜110に補強材を入れてもよく、この場合には、補強材を含めた電解質膜110の総厚みが上述の範囲を超える場合もある。
【0023】
電解質膜110の面積抵抗、即ち幾何面積当たりのイオン移動抵抗は、2000mΩ・cm
2以下が好ましく、1000mΩ・cm
2以下がより好ましく、500mΩ・cm
2以下が最も好ましい。電解質膜110の面積抵抗が2000mΩ・cm
2より高いと、プロトン伝導性が不足する。プロトン伝導性を有する材料(カチオン交換型のイオノマー)としては、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸ポリマーが挙げられる。カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量(IEC)は、0.7〜2meq/gが好ましく、1〜1.2meq/gがより好ましい。カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量が0.7meq/g未満の場合には、イオン伝導性が不十分となる。一方、カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量が2meq/gより高い場合には、イオノマーの水への溶解度が増大するため、電解質膜110の強度が不十分になる。
【0024】
なお、電解質膜110には、還元電極120および酸素発生用電極130から離間した領域において、電解質膜110に接するように参照電極112が設けられている。すなわち、参照電極112は、還元電極120および酸素発生用電極130から電気的に隔離されている。参照電極112は、参照電極電位V
Refに保持される。参照電極112としては、標準水素還元電極(参照電極電位V
Ref=0V)、Ag/AgCl電極(参照電極電位V
Ref=0.199V)が挙げられるが、参照電極112はこれらに限られない。なお、参照電極112は、還元電極120側の電解質膜110の表面に設置されることが好ましい。
【0025】
参照電極112と還元電極120との間の電位差ΔV
CAは、電圧検出部114によって検出される。電圧検出部114で検出された電位差ΔV
CAの値は制御部60に入力される。
【0026】
還元電極120は、電解質膜110の一方の側に設けられている。還元電極120は、芳香族化合物を核水素化するための還元触媒を含む還元極触媒層である。還元電極120に用いられる還元触媒は、特に限定されないが、例えば、Pt、Pdの少なくとも一方を含む第1の触媒金属(貴金属)と、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Ru、Sn、W、Re、Pb、Biから選択される1種または2種以上の第2の触媒金属とを含む金属組成物からなる。当該金属組成物の形態は、第1の触媒金属と第2の触媒金属との合金、あるいは、第1の触媒金属と第2の触媒金属からなる金属間化合物である。第1の触媒金属と第2の触媒金属の総質量に対する第1の触媒金属の割合は、10〜95wt%が好ましく、20〜90wt%がより好ましく、25〜80wt%が最も好ましい。第1の触媒金属の割合が10wt%より低いと、耐溶解性などの点から耐久性の低下を招くおそれがある。一方、第1の触媒金属の割合が95wt%より高いと、還元触媒の性質が貴金属単独の性質に近づくため、電極活性が不十分となる。以下の説明で、第1の触媒金属と第2の触媒金属とをまとめて「触媒金属」と呼ぶ場合がある。
【0027】
上述した触媒金属は導電性材料(担体)に担持されていてもよい。導電性材料の電気伝導度は、1.0×10
−2S/cm以上が好ましく、3.0×10
−2S/cm以上がより好ましく、1.0×10
−1S/cm以上が最も好ましい。導電性材料の電気伝導度が1.0×10
−2S/cm未満の場合には、十分な導電性を付与することができない。当該導電性材料として多孔性カーボン、多孔性金属、多孔性金属酸化物のいずれかを主成分として含有する導電性材料が挙げられる。多孔性カーボンとしては、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)などのカーボンブラックが挙げられる。窒素吸着法で測定した多孔性カーボンのBET比表面積は、100m
2/g以上が好ましく、150m
2/g以上がより好ましく、200m
2/g以上が最も好ましい。多孔性カーボンのBET比表面積が100m
2/gより小さいと、触媒金属を均一に担持させることが難しくなる。このため、触媒金属表面の利用率が低下し、触媒性能の低下を招く。多孔性金属としては、例えば、Ptブラック、Pdブラック、フラクタル状に析出させたPt金属などが挙げられる。多孔性金属酸化物としては、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの酸化物が挙げられる。この他、触媒金属を担持するための多孔性の導電性材料として、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどの金属の窒化物、炭化物、酸窒化物、炭窒化物、部分酸化した炭窒化物(以下、これらをまとめて多孔性金属炭窒化物等と呼ぶ)が挙げられる。窒素吸着法で測定した多孔性金属、多孔性金属酸化物および多孔性金属炭窒化物等のBET比表面積は、1m
2/g以上が好ましく、3m
2/g以上がより好ましく、10m
2/g以上が最も好ましい。多孔性金属、多孔性金属酸化物および多孔性金属炭窒化物等のBET比表面積が1m
2/gより小さいと、触媒金属を均一に担持させることが難しくなる。このため、触媒金属表面の利用率が低下し、触媒性能の低下を招く。
【0028】
触媒金属を担体上に担持する方法は、第1の触媒金属、第2の触媒金属の種類や組成にもよるが、第1の触媒金属と第2の触媒金属を同時に担体に含浸させる同時含浸法や第1の触媒金属を担体に含浸させた後、第2の触媒金属を担体に含浸させる逐次含浸法を採用することができる。逐次含浸法の場合には、第1の触媒金属を担体に担持した後に一旦熱処理等を加えてから、第2の触媒金属を担体に担持させてもよい。第1の触媒金属および第2の触媒金属の両方の含浸が完了した後、熱処理工程によって第1の触媒金属と第2の触媒金属との合金化や第1の触媒金属と第2の触媒金属とからなる金属間化合物の形成が行われる。
【0029】
還元電極120には,前述の導電性酸化物やカーボンブラックなどの導電性を有する材料を、触媒金属を担持した導電性化合物とは別に添加してもよい。これによって、還元触媒粒子間の電子伝導経路を増やすことができ、還元触媒層の幾何面積当たりの抵抗を下げることができる場合もある。
【0030】
還元電極120には、添加剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を含んでもよい。
【0031】
還元電極120は、プロトン伝導性を有するイオノマーを含んでもよい。還元電極120には、上述の電解質膜110と同一または類似の構造を有するイオン伝導性物質(イオノマー)を所定の質量比で含んでいることが好ましい。これによれば、還元電極120におけるイオン伝導性を向上させることができる。特に、触媒担体が多孔性の場合において還元電極120がプロトン伝導性を有するイオノマーを含有することにより、イオン伝導性の向上に大きく寄与する。プロトン伝導性を有するイオノマー(カチオン交換型のイオノマー)としては、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸ポリマーが挙げられる。カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量(IEC)は、0.7〜3meq/gが好ましく、1〜2.5meq/gがより好ましく、1.2〜2meq/gが最も好ましい。触媒金属が多孔性カーボン(カーボン担体)に担持されている場合には、カチオン交換型のイオノマー(I)/カーボン担体(C)の質量比I/Cは、0.1〜2が好ましく、0.2〜1.5がより好ましく、0.3〜1.1が最も好ましい。質量比I/Cが0.1より低いと、十分なイオン伝導性を得ることが困難になる。一方、質量比I/Cが2より大きいと、触媒金属に対するイオノマーの被覆厚みが増えることにより、反応物質である芳香族化合物が触媒活性点に接触することが阻害されたり、電子伝導性が低下することにより電極活性が低下する。
【0032】
また、還元電極120に含まれるイオノマーは、還元触媒を部分的に被覆していることが好ましい。これによれば、還元電極120における電気化学反応に必要な3要素(芳香族化合物、プロトン、電子)を効率的に反応場に供給することができる。
【0033】
液体拡散層140aは、電解質膜110と反対側の還元電極120の面に積層されている。液体拡散層140aは、後述するセパレータ150aから供給された液状の芳香族化合物を還元電極120に均一に拡散させる機能を担う。液体拡散層140aとして、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロスが用いられる。
【0034】
セパレータ150aは、電解質膜110と反対側の液体拡散層140aの面に積層されている。セパレータ150aは、カーボン樹脂、Cr−Ni−Fe系、Cr−Ni−Mo−Fe系、Cr−Mo−Nb−Ni系、Cr−Mo−Fe−W−Ni系などの耐食性合金で形成される。セパレータ150aの液体拡散層140a側の面には、単数または複数の溝状の流路152aが併設されている。流路152aには、有機物貯蔵槽30から供給された液状の芳香族化合物が流通しており、液状の芳香族化合物は流路152aから液体拡散層140aに染み込む。流路152aの形態は、特に限定されないが、例えば、直線状流路、サーペンタイン流路を採用しうる。また、金属材料をセパレータ150aに用いる場合には、セパレータ150aは球状やペレット状の金属微粉末を焼結した構造体であってもよい。
【0035】
酸素発生用電極130は、電解質膜110の他方の側に設けられている。酸素発生用電極130は、RuO
2、IrO
2などの貴金属酸化物系の触媒を含むものが好ましく用いられる。これらの触媒は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta、Wなどの金属あるいはそれらを主成分とする合金などの金属ワイヤ、メッシュなどの金属基材に分散担持またはコーティングされていてもよい。特に、IrO
2は高価であるため、IrO
2を触媒として用いる場合には、金属基材に薄膜コーティングすることにより、製造コストを低減することができる。
【0036】
液体拡散層140bは、電解質膜110と反対側の酸素発生用電極130の面に積層されている。液体拡散層140bは、後述するセパレータ150bから供給された水を酸素発生用電極130に均一に拡散させる機能を担う。液体拡散層140bとして、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロスが用いられる。
【0037】
セパレータ150bは、電解質膜110と反対側の液体拡散層140bの面に積層されている。セパレータ150bは、Cr/Ni/Fe系,Cr/Ni/Mo/Fe系、Cr/Mo/Nb/Ni系、Cr/Mo/Fe/W/Ni系などの耐食性合金、または、これらの金属表面が酸化物層で被覆された材料で形成される。セパレータ150bの液体拡散層140b側の面には、単数または複数の溝状の流路152bが併設されている。流路152bには、水貯蔵槽40から供給された水が流通しており、水は流路152bから液体拡散層140bに染み込む。流路152bの形態は、特に限定されないが、例えば、直線状流路、サーペンタイン流路を採用しうる。また、金属材料をセパレータ150bに用いる場合には、セパレータ150bは球状やペレット状の金属微粉末を焼結した構造体であってもよい。
【0038】
本実施の形態では、酸素発生用電極130に液体の水が供給されるが、液体の水に代えて、加湿されたガス(例えば、空気)を用いてもよい。この場合、加湿ガスの露点温度は、室温〜100℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0039】
芳香族化合物としてトルエンを用いた場合の電極ユニット100における反応は以下のとおりである。
<酸素発生用電極での電極反応>
3H
2O→1.5O
2+6H
++6e
−:E
0=1.23V
<還元電極での電極反応>
トルエン+6H
++6e
−→メチルシクロヘキサン:E
0=0.153V(vs RHE)
すなわち、酸素発生用電極での電極反応と、還元電極での電極反応とが並行して進行し、酸素発生用電極での電極反応によって、水の電気分解により生じたプロトンが電解質膜110を介して還元電極に供給され、還元電極での電極反応において、芳香族化合物の核水素化に利用される。
【0040】
図1に戻り、制御部60は、可逆水素電極における電位をV
HER、還元電極120の電位をV
CA、水素ガス発生量の許容上限値をF0と表したとき、F1≦F0かつV
CA>V
HER−20mVとなる範囲内で電圧Vaを徐々に上げるように電力制御部20を制御する。電位V
CAは、参照電極電位V
Refおよび電位差ΔV
CAに基づいて算出されうる。電位V
CAがV
HER−20mVより低いと、水素発生反応との競争になり、芳香族化合物の還元選択性が不十分となるため好ましくない。一方、水素ガス発生量が多くなるとファラデー効率が低下する。水素ガス発生量の許容上限値F0は、例えば、ファラデー効率が50〜90%になるような値に設定される。言い換えると、F1≦F0を満たすことは、ファラデー効率が50〜90%以上であることを保証する。したがって、ファラデー効率が十分に高い範囲内で、電圧Vaを徐々に上げることにより電位V
CAをV
HER−20mVにより近づけることができる。この結果、水の電気分解反応を抑制しつつ、両極で電気化学反応を効率に進行させることができ、芳香族化合物の核水素化を工業的に実施することができる。
【0041】
なお、ファラデー効率は、電極ユニット100に流れる全電流密度を電流密度A、ガスクロマトグラフィーなどから定量した芳香族化合物の核水素化体の生成量から逆算した、芳香族化合物の還元に用いられた電流密度を電流密度Bと表したとき、電流密度B/電流密度A×100(%)により算出される。
【0042】
この他、電気化学還元装置10を用いて芳香族化合物を核水素化する場合の反応条件として、以下が挙げられる。電極ユニット100の温度は、室温〜100℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。電極ユニット100の温度が室温より低いと、電解反応の進行が遅くなる虞れ、あるいは本反応の進行に伴い発生する熱の除去に多大なエネルギーを要するため好ましくない。一方、電極ユニット100の温度が100℃より高いと、酸素発生用電極130においては水の沸騰が生じ、還元電極120においては有機物の蒸気圧が高くなるため、両極とも液相で反応を行う電気化学還元装置10としては好ましくない。なお、還元極電位V
CAは真の電極電位であるため、実際に観測される電位V
CA_actualとは異なる可能性がある。本発明に用いられる電解セル中に存在する各種抵抗成分のうち、オーム抵抗に該当する部分が存在する場合、これらの総体の電極面積当たりの抵抗値を全オーミック抵抗R
ohmicとして、以下の式により真の電極電位V
CAを算出する。
V
CA=V
CA_actual+R
ohmic×J(電流密度)
オーム抵抗としては、例えば電解質膜のプロトン移動抵抗、電極触媒層の電子移動抵抗、その他電気回路上の接触抵抗等が挙げられる。ここで、R
ohmicは、交流インピーダンス法や固定周波数での交流抵抗測定を用いて、等価回路上の実抵抗成分として求めることができるが、一旦電解セルの構成や用いる材料系が決まれば、ほぼ定常値とみなして以下の制御に用いる方法も好ましく取り得る。
【0043】
図3は、制御部60による還元電極120の電位制御の一例を示すフローチャートである。以下、参照電極112として、Ag/AgCl電極(参照電極電位V
Ref=0.199V)を用いた場合を例にとって、還元電極120の電位制御の態様を説明する。
【0044】
まず、水素ガスが発生していない状態で芳香族化合物の還元を開始した後、電圧検出部114により参照電極112と還元電極120との電位差ΔV
CAを検出する(S10)。
【0045】
次に、制御部60は、(式)V
CA=ΔV
CA−V
Ref=ΔV
CA−0.199Vを用いて還元電極120の電位V
CA(実測値)を算出する(S20)。
【0046】
次に、水素ガス発生量測定部36により、水素ガスの発生量F1が測定される(S30)。
【0047】
なお、電位V
CA(実測値)の算出と水素ガスの発生量F1の測定の順番はこれに限られず、電位V
CA(実測値)の算出と水素ガスの発生量F1の測定とが並行して行われてもよく、水素ガスの発生量F1の測定を電位V
CA(実測値)の算出の前に行ってもよい。
【0048】
次に、水素ガスの発生量F1が下記式(1)の関係を満たすかどうかを判定する(S40)。
F1≦F0・・・(1)
(1)式中、許容上限値F0は、例えばファラデー効率が50〜90%となるような値である。
【0049】
式(1)の関係が満たされない場合には(S40のno)、還元電極120と酸素発生用電極130との間に印加される電圧Vaを調節する(S70)。S70での電圧Vaの調節は、電圧Vaを所定値だけ下げること、すなわち、制御部60が還元電極120と酸素発生用電極130との極間電圧を小さくことにより実施される。
【0050】
一方、水素ガスの発生量F1が式(1)の関係を満たす場合には(S40のyes)、電位V
CA(実測値)が下記式(2)の関係を満たすかどうかを判定する(S50)。
V
CA>V
HER−20mV・・・(2)
【0051】
式(2)の関係が満たされている場合には(S50のyes)、還元電極120と酸素発生用電極130との間に印加される電圧Vaを調節する(S60)。S60での電圧Vaの調節は、電圧Vaを所定値だけ上げること、すなわち、制御部60が還元電極120と酸素発生用電極130との極間電圧を広げることにより実施される。ある態様では、S60において電圧Vaは1mVだけ上げられる。電圧Vaの調節後、上述した(S10)の処理に戻る。このようにして、制御部60は、式(1)および式(2)を満たす範囲内で電圧Vaを徐々に上げて電圧Vaを最大にする。
【0052】
なお、電圧Vaを上げる値(調節幅)は1mVに限られない。例えば、1回目の電圧Vaの調節では、4mVとし、2回目以降の電圧Vaの調節では、電圧Vaの調節幅を例えば上述した許容値の1/4としてもよい。これによれば、式(1)および式(2)を満たす範囲内で電位V
CA(実測値)をより速やかに最大に調整することができる。
【0053】
また、次に電圧Vaを所定の調節幅だけ上げたときに、電位V
CA(実測値)がV
HER−20mVより低くなると予想される場合には、電圧Vaの調整処理を終了することが好ましい。例えば、電圧Vaを上げる調節幅が1mVの場合には、電位V
CA(実測値)がV
HER−20mV<V
CA<V
HER−19mVの範囲にある場合には、電圧Vaの調整処理を終了する。
【0054】
一方、式(2)の関係が満たされていない場合には(S50のno)、上述した(S10)の処理に戻る。
【0055】
なお、電圧Vaを調整してから水素発生の状態が変化するまでのタイムラグや制御の応答遅れを考慮して、
図3に記載する制御フローにおいて適宜待機時間を持たせてもよい。
【0056】
(実施の形態2)
図4は、実施の形態2に係る電気化学還元装置10の概略構成を示す模式図である。
図4に示すように、電気化学還元装置10は、電極ユニット集合体200、電力制御部20、有機物貯蔵槽30、水素ガス発生量測定部36、水貯蔵槽40、気水分離部50、気液分離部52、制御部60、電圧検出部114および水素ガス回収部210を備える。電極ユニット集合体200は、複数の電極ユニット100が直列接続された積層構造を有する。本実施の形態では、電極ユニット100の数Nは5であるが、電極ユニット100の数はこれに限定されない。なお、個々の電極ユニット100の構成は実施の形態1と同様である。図
4では、電極ユニット100が簡略化されて図示されており、液体拡散層140a、140b、およびセパレータ150a、150
bが省略されている。
【0057】
本実施の形態の電力制御部20の正極出力端子は、電極ユニット集合体200の正極端子に接続されている。一方、電力制御部20の負極出力端子は、電極ユニット集合体200の負極端子に接続されている。これにより、電極ユニット集合体200の正極端子と負極端子との間に所定の電圧VAが印加され、各電極ユニット100において、還元電極120が卑な電位となり、酸素発生用電極130が貴な電位となる。なお、電力制御部20の参照極入力端子は、後述する特定の電極ユニット100の電解質膜110に設けられた参照電極112と接続されており、参照電極112の電位を基準として、正極出力端子の電位および負極出力端子の電位が定められる。
【0058】
有機物貯蔵槽30と各電極ユニット100の還元電極120との間に第1の循環経路が設けられている。有機物貯蔵槽30に貯蔵された芳香族化合物は、第1液体供給装置32によって各電極ユニット100の還元電極120に供給される。具体的には、第1液体供給装置32の下流側において第1の循環経路を構成する配管が分岐しており、各電極ユニット100の還元電極120に芳香族化合物が分配供給される。各電極ユニット100によって核水素化された芳香族化合物および未反応の芳香族化合物は、有機物貯蔵槽30に連通する配管31に合流した後、配管31を経て有機物貯蔵槽30に貯蔵される。配管31の途中に気液分離部52が設けられており、気液分離部52によって配管31内を流通する水素が分離される。
【0059】
図5は、気液分離部52の具体例を示す図である。配管31から上方に向けて分岐する分岐管33が設けられている。分岐管33は、貯液槽35の底部に接続されている。貯液槽35には、分岐管33を経由して液状の芳香族化合物が流れ込み、貯液槽35内の液面が所定レベルに維持される。分岐管33の分岐箇所の上流側から当該分岐箇所に向けて、配管31内を芳香族化合物とともに流れる水素ガスは、分岐管33内を上昇して貯液槽35に達し、貯液槽35内の液面上のガス相に入る。そして、ガス相の水素ガスは、貯液槽35の上部に接続された排出管37を経由して水素ガス回収部210に回収される。排出管37の途中に水素ガス発生量測定部36が設けられており、電極ユニット集合体200に含まれる全ての電極ユニット100から生じる水素ガスの発生量F1’が測定される。本実施の形態では、水素ガス発生量測定部36は、排出管37を通る水素ガスの量を検出する流量計である。なお、水素ガス発生量測定部36の上流において排出管37に一定量の窒素ガスを供給してもよい。これにより、排出管37を流れる水素ガス濃度の変化を精度よく検出することができる。
【0060】
上述した実施の形態では、水素ガス発生量測定部36として流量計が例示されているが、水素ガス発生量測定部36はこれに限られない。例えば、水素ガス発生量測定部36として、排出管37にリリーフ弁を設置する形態を利用することができる。例えば、リリーフ弁はリリーフ弁上流側の排出管37内のガス圧が設定値以上となったときに弁が開放し、一定量のガスをリリーフ弁の下流側に排出した後、弁が閉じるように構成される。この場合、リリーフ弁が開放される毎に、リリーフ弁が開放されたことを示す信号が制御部60に送信される。制御部60は、リリーフ弁の1回当たりの弁開放で排出されるガスの量と、単位時間当たりのリリーフ弁の開放回数に基づいて水素ガスの発生量を見積もる。
【0061】
また、本実施の形態では、気液分離部52で分離された水素ガスの流量が水素ガス発生量測定部36によって計測されているが、気液分離部52の上流側でかつ、各電極ユニット100からの配管が合流する合流点の下流側に実施の形態1と同様な光学式のセンサを設置してもよい。また、実施の形態1において、実施の形態2のように、気液分離部52で分離された水素ガスの流量を水素ガス発生量測定部36によって計測する態様を採用してもよい。
【0062】
水貯蔵槽40と各電極ユニット100の酸素発生用電極130との間に第2の循環経路が設けられている。水貯蔵槽40に貯蔵された水は、第2液体供給装置42によって各電極ユニット100の酸素発生用電極130に供給される。具体的には、第2液体供給装置42の下流側において第2の循環経路を構成する配管が分岐しており、各電極ユニット100の酸素発生用電極130に水が分配供給される。各電極ユニット100において未反応の水は、水貯蔵槽40に連通する配管に合流した後、当該配管を経て水貯蔵槽40に貯蔵される。
【0063】
特定の電極ユニット100の電解質膜110に、実施の形態1と同様に、還元電極120および酸素発生用電極130から離間した領域において、電解質膜110に接するように参照電極112が設けられている。特定の電極ユニット100は、複数の電極ユニット100のうち、いずれか1つであればよい。
【0064】
参照電極112と還元電極120との間の電位差ΔV
CAは、電圧検出部114によって検出される。電圧検出部114で検出された電位差ΔV
CAの値は制御部60に入力される。
【0065】
制御部60は、可逆水素電極における電位をV
HER、還元電極120の電位をV
CA、電極ユニット1つ当たりの水素ガス発生量の許容上限値をF0、電極ユニット100の数をN(本実施の形態ではNは5)と表したとき、F1’≦N×F0かつV
CA>V
HER−20mVとなる範囲内で電圧VAを徐々に上げるように電力制御部20を制御する。
【0066】
本実施の形態によれば、複数の電極ユニット100において、芳香族化合物の核水素化を並行して進行させることができるため、単位時間当たりの芳香族化合物の核水素化量を飛躍的に増加させることができる。したがって、芳香族化合物の核水素化を工業的に実施することが可能となる。
【0067】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0068】
上述した各実施の形態では、電解質膜110および還元電極120は、プロトン伝導性を有するイオノマーを含んでいるが、電解質膜110および還元電極120は、ヒドロキシイオン伝導性を有するイオノマーを含んでもよい。
【0069】
実施の形態2では、参照電極112が1つの電極ユニット100の電解質膜110に設置されているが、参照電極112を複数の電極ユニット100の電解質膜110に設置してもよい。この場合には、電圧検出部114により、各参照電極112と対応する還元電極120との間の電位差ΔV
CAが検出され、検出された複数の電位差ΔV
CAの平均値を用いて、電位V
CAの算出が行われる。これによれば、電極ユニット100間に電位のばらつきが生じている場合に、より適切な範囲に電圧VAを調節することができる。