【実施例】
【0037】
次の例は、如何なる意味でも本発明の範囲を限定することを意図せず、本発明の特定の態様を説明するものとして提供される。
【0038】
(実施例1)
【0039】
肝臓がん細胞株の培養および試薬
【0040】
HepG2およびHuh7細胞株を使用する。これらの細胞は、37℃で10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンを含むDMEM(インビトロジェン(Invitrogen)製)で培養する。正常酸素圧状態では、細胞は、大気の酸素濃度とおよび5%二酸化炭素で培養する。;低酸素状態では、細胞は、0.1−0.5%酸素(クオラム(Quorum)製 FC−7自動CO
2/O
2/N
2ガス混合器)および5%二酸化炭素で培養する。
【0041】
(実施例2)
【0042】
生細胞経時的顕微鏡検査法
【0043】
HepG2またはHuh7細胞をガラス底マイクロウェル皿(マトテック社製)上に播種する。大気/温度制御されたチャンバおよび複数の位置取得のための電動ステージを具備するツァイス社 広視野顕微鏡Observer.Zlを使用して、規定のズーム(63倍、20倍)で生細胞を取得する。培養は、0.1%酸素および5%二酸化炭素(予混合)でパージされた密閉式生細胞撮影システムで行う。pcDNA3、pRFP−カベオリンlまたはpRFP−クラスリンを遺伝子導入した細胞は、2時間にわたり3分毎の画像取得に先立って、15分間HB−FITCに曝露する。画像は、デコンボリューション処理をし、MetaMorphソフトウェア(Molecular Device製)を使用して経時的に動画に圧縮する。
【0044】
(実施例3)
【0045】
細胞毒性アッセイ
【0046】
細胞の生存は、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム臭化物(MTT)増殖アッセイを使用して測定する。簡単にいうと、HepG2およびHuh7細胞を96ウェルの平底マイクロプレートに播種(6000個の細胞/ウェル)し、100μLの成長培地中で、37℃および5%二酸化炭素で24時間培養する。その後、各ウェル内の細胞培地を、薬剤を含まない、Hb単独またはHbとIC
50濃度の他の化学療法剤とを併せたもののいずれかを含む、100μLの細胞増殖培地で置換する。Hbを24時間培養し、20μL MTT標識試薬(5mg/mL PBS溶液)を各ウェルに添加し、さらに37℃で4時間培養する。成長培地を穏やかに取り除き、その後、ホルマザン結晶を完全に溶解するための可溶化剤として、200μL DMSOを各ウェルに添加する。波長570nmにおける吸光度をMultiskan EX (Thermo Electron Corporation製)で測定し、各データ点は3個のウェルからの平均±標準偏差を表す。
【0047】
(実施例4)
【0048】
RNA分離および定量的リアルタイムPCR
【0049】
全RNAは、トリゾール試薬(インビトロジェン製)を用いて、分離され、全RNAの5μgがオリゴdTプライマーおよびSuperscriptII逆転写酵素(インビトロジェン製)で逆転写する。一本鎖cDNAの10分の1を使用して、特異的プライマー(以下に示す)を用いてSYBR Green PCR Master Mix kit(アプライド バイオシステムズ製)により、HIF1α、VHL、HSP90、VEGF、iNOS、ETl、HSP7c、RFCl、HMGB3およびGAPDHの転写レベルを定量的に測定する。蛍光信号は、7900HT Fast Real Time PCR System(アプライド バイオシステムズ製)により、伸長反応の間リアルタイムで測定する。閾値サイクル(Ct)は、蛍光信号が基底ラインの標準偏差の10倍に達する時点の部分サイクル数フラクショナルなサイクル数として定義する(2サイクルから10サイクル)。GAPHD制御遺伝子に対する標的遺伝子の比率の変化は、2
−ΔΔCt法により決定する。
HIF1a:
SEQ NO. 1: フォワードプライマー: 5-GGCGCGAACGACAAGAAAAAG-3 (420-440)
SEQ NO. 2: リバースプライマー: 5-CCTTATCAAGATGCGAACTCACA-3 (21-44)
SEQ NO. 3: フォワードプライマー: CAGAGCAGGAAAAGGAGTCA (2414-2433)
SEQ NO. 4: リバースプライマー: AGTAGCTGCATGATCGTCTG (2645-2625)
SEQ NO. 5: フォワードプライマー: 5′-AATGGAATGGAGCAAAAGACAATT-3′ (2694-2720)
SEQ NO. 6: リバースプライマー: 5′-ATTGATTGCCCCAGCAGTCTAC-3′ (2764-2743)
VEGF:
SEQ NO. 7: フォワードプライマー: GCTACTGCCATCCAATCGAG (1187-1206)
SEQ NO. 8: リバースプライマー: CTCTCCTATGTGCTGGCCTT (1395-1376)
SEQ NO. 9: フォワードプライマー: 5′-CTCTCTCCCTCATCGGTGACA-3′ (3146-3167)
SEQ NO. 10: リバースプライマー: 5′-GGAGGGCAGAGCTGAGTGTTAG-3′ (3202-3223)
SEQ NO. 11: フォワードプライマー: ACTGCCATCCAATCGAGACC (1190-1209)
SEQ NO. 12: リバースプライマー: GATGGCTGAAGATGTACTCGATCT (1265-1241)
INOS:
SEQ NO. 13: フォワードプライマー: 5'-ACAACAAATTCAGGTACGCTGTG-3' (2111-2137)
SEQ NO. 14: リバースプライマー: 5'-TCTGATCAATGTCATGAGCAAAGG-3 (2194-2171)
SEQ NO. 15: フォワードプライマー: GTTCTCAAGGCACAGGTCTC (121-140)
SEQ NO. 16: リバースプライマー: GCAGGTCACTTATGTCACTTATC (225-247)
ET1:
SEQ NO. 17: フォワードプライマー: TGCCAAGCAGGAAAAGAACT (701-720)
SEQ NO. 18: リバースプライマー: TTTGACGCTGTTTCTCATGG (895-876)
HSP90:
SEQ NO. 19: フォワードプライマー: TTCAGACAGAGCCAAGGTGC (640-659)
SEQ NO. 20: リバースプライマー: CAATGACATCAACTGGGCAAT (807-787)
SEQ NO. 21: フォワードプライマー: GGCAGTCAAGCACTTTTCTGTAG (1032-1054)
SEQ NO. 22: リバースプライマー: GTCAACCACACCACGGATAAA (1230-1210)
VHL:
SEQ NO. 23: フォワードプライマー: ATTAGCATGGCGGCACACAT (2806-2825)
SEQ NO. 24: リバースプライマー: TGGAGTGCAGTGGCATACTCAT (2921-2900)
(実施例5)
【0050】
ウェスタンブロット分析
【0051】
細胞を回収し、タンパク質濃度を決定する。タンパク質(30μg)を10%SDS−PAGEで分離し、ニトロセルロース膜(PVDF,BioRad)上に移動させる。装填対照としてアクチンを使用する。ゲルドキュメンテーションシステム(ウルトラ−バイレット プロダクト(株)製)により、相対的なタンパク質発現量を定量する。
【0052】
(実施例6)
【0053】
酸素取り込みの改善
【0054】
(6a)正常組織における酸素取り込みの改善
【0055】
熱安定性四量体ヘモグロビンによる正常組織の酸素取り込みについての幾つかの研究(
図14に示した)が行われている。バッファロー系ラットを用いて比較薬物動態学研究および薬力学的研究を行う。雄の近交系バッファロー系ラットに、個別に0.2g/kgの熱安定性四量体ヘモグロビン溶液または酢酸リンゲル緩衝液(対照群)を投与する。1、6、24、48時間に、Hemocue
TM(登録商標)光度計によって血漿ヘモグロビンの濃度−時間プロファイルを測定し、基底ラインの測定値と比較する。この方法はヘモグロビンの光度測定に基づいており、ヘモグロビンの濃度をg/dLとして直接表示する。酸素分圧(pO
2)は、Oxylab
TM(登録商標)組織酸素取り込みおよび温度モニター(オクスフォード オプトロニクス(株)製)を用いて、バッファロー系ラットの後脚筋肉中で直接測定する。ラットを30〜50mg/kgのペントバルビトン溶液を腹腔内に注射して麻酔し、続いて酸素センサを筋肉内に挿入する。全てのpO
2の測定値は、Datatrax2データ取得システム(ワールド プレジション インストルメント製)によりリアルタイムに記録する。結果としては、0.2g/kgの熱安定性四量体ヘモグロビンの静脈注射後15分以内に、平均pO
2値が基底ラインから平均酸素分圧の約2倍に上昇し、6時間まで伸びている。また、注射後24〜48時間でも、平均の酸素レベルは基底ラインより25%〜30%高く維持される(
図14B)。
【0056】
(6b)極度の低酸素状態の腫瘍領域における酸素取り込みの顕著な改善
【0057】
極度の低酸素状態の腫瘍領域における酸素取り込みの改善を、ヒトの頭部および頸部の扁平上皮がん(HNSCC)異種移植片モデルによって評価する。下咽頭扁平上皮がん(FaDu細胞系)を、American Type Culture Collectionから入手する。約1×10
6個のがん細胞を4〜6週齢の近交系BALB/cAnN−nu(ヌード)マウスに皮下注射する。腫瘍異種移植片の直径が8〜10mmに達したときに、腫瘍塊内の酸素分圧(pO
2)をOxylab
TM組織酸素取り込みおよび温度モニター(オクスフォード オプトロニクス(株)製)を用いて直接測定する。全てのpO
2の測定値は、Datatrax2データ取得システム(ワールド プレジション インストルメント製)によりリアルタイムで記録される。pO
2の測定値が安定化した時に、0.2g/kgの熱安定性四量体ヘモグロビン溶液をマウスの尾の静脈に静脈注射し、組織への酸素の取り込みを測定する。結果としては、0.2g/kgの前記熱安定性四量体ヘモグロビンの静脈注射の後に、6.5倍および5倍以上の平均pO
2の顕著な増大が、それぞれ3時間および6時間で観察される(
図15)。
【0058】
(実施例7)
【0059】
がん処理研究:上咽頭がんにおける顕著な腫瘍の縮小
【0060】
X線照射と併用して熱安定性四量体ヘモグロビン溶液を投与した後に、顕著な腫瘍の縮小が観察される(
図16A)。ヒト上咽頭がん異種移植片モデルが用いられる。約1×10
6個のがん細胞(CNE2細胞系)を、4〜6週齢の近交系BALB/cAnN−nu(ヌード)マウスに皮下注射する。腫瘍異種移植片の直径が8〜10mmに達したときに、腫瘍を保有するマウスを次の三つの群に無作為に選ぶ。
【0061】
第1群:酢酸リンゲル緩衝液(対照群)
【0062】
第2群:酢酸リンゲル緩衝液+X線照射(2Gy)
【0063】
第3群:熱安定性四量体ヘモグロビン+X線照射(2Gy+Hb)
【0064】
CNE2異種移植片を保有するヌードマウスにX線照射を単独で(第2群)または熱安定性四量体ヘモグロビンを併用して(第3群)行う。X線照射(第2群および第3群)については、50mg/kgのペントバルビトン溶液を腹腔内注射して、マウスを麻酔する。線形加速器システム(バリアン メディカル システムズ製)により、2GrayのX線を、腫瘍を保有するマウスの異種移植片に与える。第3群については、X線治療の前に、1.2g/kgの熱安定性四量体ヘモグロビンを、尾の静脈を通してマウスに静脈注射する。腫瘍の大きさおよび体重を、処理の初日から始めて2日ごとに記録する。腫瘍の重量は、式(1/2)×LW
2(ここで、LおよびWは、腫瘍塊の長さおよび幅を示す)を使用して計算し、各々の測定値は、およびデジタル測径器(ミツトヨ(株)製、東京、日本)により計測するおよび。第1群は、非処理対照群である。結果(
図16に示す)として、X線照射と併用して熱安定性四量体ヘモグロビン溶液で処理したマウスにおいて、CNE2異種移植片の顕著な縮小が観察される(第3群、
図16A)。
【0065】
(実施例8)
【0066】
がん処理研究:肝臓腫瘍の顕著な縮小
【0067】
また、シスプラチンを併用して熱安定性四量体ヘモグロビン溶液を投与した後に、顕著な腫瘍の縮小が観察される(
図16B)。ラットの同所性肝臓がんモデルが用いられる。ルシフェラーゼ遺伝子(CRL1601−Luc)で標識された約2×10
6個のラット肝臓腫瘍細胞を、バッファロー系ラットの肝臓の左葉に注入する。Xenogen製の生体内イメージングシステムによって、腫瘍の成長をモニターする。注入の2〜3週後に、腫瘍組織を回収し、小片に切断して、第2群のラットの肝臓の左葉に同所性移植する。腫瘍をもつラットを、以下のように三つの群に無作為に選ぶ。
【0068】
第1群:酢酸リンゲル緩衝液(対照群)
【0069】
第2群:酢酸リンゲル緩衝液+シスプラチン(シスプラチン)
【0070】
第3群:熱安定性四量体ヘモグロビン+シスプラチン(シスプラチン+Hb)
【0071】
肝臓腫瘍組織を移植したラットを、3mg/kgのシスプラチンを単独で(第2群)または熱安定性四量体ヘモグロビンを併用して(第3群)処理した。第2群および第3群については、30〜50mg/kgのペントバルビトン溶液を腹腔内に注射してラットを麻酔し、左門脈を通してシスプラチンを投与する。第3群については、0.4g/kgの熱安定性四量体ヘモグロビンを、シスプラチン処理の前に静脈注射する。第1群1は、非処理対照群である。重要なこととしては、処理の3週後に肝臓腫瘍の顕著な縮小が観察される(
図16B)。
【0072】
(実施例9)
【0073】
肝臓腫瘍の術後の再発および転移を予防する方法
【0074】
肝臓腫瘍の外科的切除は、肝臓がんの最先端の治療である。しかし、がんの術後の再発および転移は、これらの患者にとって予後不良の主な特性である。例えば、以前の研究によると、肝臓切除が、50%の5年生存率だけでなく70%の再発率と関連する。肝細胞がん(HCC)の患者についての追跡研究は、原発性HCCによる肝臓外転移が約15%のHCC患者で検出され、肺が最も頻発する肝臓外転移であることも明らかにされている。外科的侵襲、特に肝臓手術の間の虚血/再かん流(IR)損傷が、腫瘍の進行をもたらす主因であると示唆されている。通常、肝臓の血管制御が肝臓の切除の間に大量出血を防止するために外科医によって行われる。例えば、門脈三管の固定(Pringle法)による流入の閉塞は、失血を最小限にして、手術の輸血の必要量を減少するために用いられている。最新の日本の研究では、25%の外科医が常にPringle法を採用している。しかし、Pringle法は、残余の肝臓に種々な程度の虚血性損傷を誘導し、がんの再発および転移を伴う。
【0075】
IR損傷と腫瘍の進行との関連は、以前の動物実験によっても示唆されている。最初に、同所性の肝臓がんモデルを用いた最新の研究では、肝臓がんの再発および転移についてのIR損傷および肝臓切除による影響およびが明らかにされた。肝臓のIR損傷および肝臓切除は、顕著な肝臓腫瘍の再発および転移をもたらした。同様の結果は、IR損傷の導入が大腸がん肝転移の進行を加速する、大腸がん肝転移マウスモデルから得られた。
【0076】
従来から、切除中のIR損傷を減少するために、幾つかの保護戦略が研究されている。例えば、虚血プレコンディショニング(IP)として知られている、長時間のクランプの前の短期間の虚血の利用は、、肝臓細胞の防御機構を誘発することが示唆され、肝切除中のIR損傷を減少するために使用されている。他には、流入血行を遮断し、その後に続く再かん流の循環の繰り返しをさせる間欠型クランプ(IC)処置を適用する。この2つの方法は、大きな肝臓手術を受けた非肝硬変患者の術後肝臓損傷から保護することに有効であることが示唆された。しかし、腫瘍の場合には、動物実験は、IPがIR損傷により加速された腫瘍の成長から肝臓を保護することができないことも明らかにする。また、幾つかのグループは、IR損傷から肝臓を保護するために酸化防止剤(例えば、α−トコフェノールおよびアスコルビン酸)を使用することにより、肝転移を予防することを試みている。しかし、二種類の酸化防止剤はいずれも、IRによる肝内の腫瘍成長を規制することができなかった。
【0077】
機構的には、低酸素状態が多くの原因で腫瘍再発および転移に関連することを方向の異なる証拠が示唆している:(1)研究によると、低酸素状態の腫瘍は、放射線療法および化学療法に対してより強い抵抗性があり、治療で生き残った腫瘍細胞は、再発する傾向がある;臨床証拠は、より低酸素状態の腫瘍領域を有する患者がより高い転移率を有することを示唆する;(2)低酸素状態の下では、がん細胞は、低酸素誘導因子−1(HIF−1)経路が活性化されることによってより侵攻性になる。すなわち、これは、細胞運動性を増強し、特定の遠隔臓器に向かう、血管新生促進因子に関する血管内皮成長因子(VEGF)と、受容体(例えばc−MetおよびCXCR4)との相補的反応を誘発する;(3)最新の研究は、血中循環がん細胞(CTC)が低酸素状態の下でより侵攻性になることも明らかにした。がん患者の抹消血で検出した循環腫瘍細胞は、遠隔転移患者の疾病侵襲指数として示されるが、低酸素状態は、それらの細胞をより侵襲性の侵略的な表現型にし、アポトーシスを起こす潜在能力を減らす。具体的には、放射線抵抗性がより大きいがん幹細胞集団は、脳腫瘍の酸素濃度が減少している下で増えた。
【0078】
従って、前記観察および研究に鑑みて、本発明による架橋四量体ヘモグロビンは、肝臓切除後の術後肝臓腫瘍の再発および転移を予防するために使用される。ラットの同所性肝臓がんモデルを樹立する。バッファロー系ラット(雄、300〜350g)に同所性肝臓がんモデルを樹立するために、肝臓細胞がん細胞系(McA−RH7777細胞)を用いる。
図17は、手術およびヘモグロビン製品の投与手順をまとめた概略図を示す。McA−RH7777細胞(約1×10
6細胞/100μl)を、固形腫瘍の成長を誘発するためにバッファロー系ラットの肝臓被膜に注入した。2週間後(腫瘍の体積が約10×10mmに達した時)、腫瘍組織を回収し、1〜2mm
3の立方体に切断して、新たなバッファロー系ラットのグループの肝臓の左葉に移植する。肝臓腫瘍を同所性に移植した後2週間で、ラットは、肝臓の切除(肝臓腫瘍を有する左葉)および部分的に肝臓のIR損傷(30分間の右葉における虚血)を受ける。
【0079】
腫瘍の再発および転移を比較するために、腫瘍組織を移植した2つのラットの群を使用する。第1群においては、虚血の1時間前に、ラットをペントバルビトンによって麻酔し、0.2g/kgの本発明の熱安定性四量体ヘモグロビンを10g/dLの濃度で静脈内投与する。ブルドック鉗子で肝門脈および肝動脈の右枝をクランプすることにより、虚血を肝臓の右葉に導入する。次いで、肝臓の左葉で結紮が行われた後、肝臓腫瘍を有する肝臓の左葉を切除する。虚血から30分後に、追加の0.2g/kgの熱安定性四量体ヘモグロビンを下大静脈に注射した後、再かん流する。グループ2においては、酢酸リンゲル緩衝液を媒体対照として同様の処置で注射する。全てのラットは、肝臓切除術プロセスから4週間後に殺す。
【0080】
腫瘍の成長および転移を検査するために、および虚血/再かん流および肝臓切除処置から4週間後に、形態学的検査のためにバッファロー系ラットの肝臓および肺を採取する。組織を回収し、パラフィルムに包埋し、薄片に切り分けて、ヘマトキシリンおよびエオシン(HおよびE)染色をする。局所的な再発/転移(肝内)および遠隔転移(肺)は、組織学的検査により確認する。表2に、ラットの同所性肝臓がんモデルにおける肝臓切除およびIR損傷から4週間後の腫瘍の再発/転移の比較をまとめた。
【0081】
【表2】
【0082】
肝臓腫瘍の再発および転移ついての、非ポリマー性熱安定性四量体ヘモグロビンの予防作用を試験するために、肝臓切除およびIR処置から4週間後に、全てのラットを殺す。肺および肝臓の組織を採取する。;肝臓腫瘍の再発/転移および遠隔肺転移を両グループにおいて比較する。結果は、ヘモグロビン処理が二種類の臓器における再発および転移の発生率を減少させることを示す。
【0083】
図18は、肝臓切除および虚血/再かん流処置後のIR損傷群のラットに誘発された肝内肝臓がんの再発および転移並びに遠隔肺転移の代表的な例、および本発明の熱安定性四量体ヘモグロビンによるそれらを予防した代表的な例を示す。
図18Aでは、IR損傷群において、広範囲の肝内肝臓がんの再発/転移が観察される。遠隔肺転移も同じラットに発生する(実線矢印で示す)。
図18Bでは、IR損傷群の別の例において、肝内肝臓がん再発/転移が観察される(点線矢印で示す)。同じ例において、広範囲の肺転移が観察される(実線矢印で示す)。一方、
図18Cには、本発明による熱安定性四量体ヘモグロビンで処理したラットにおける肝内肝臓がんの再発/転移および遠隔肺転移から保護された代表的な例を示す。
【0084】
図19は、肝臓切除およびIR損傷処置後4週間の2つの群についての組織学的検査を示す。IR損傷およびヘモグロビン処理の両方の群の肝臓および肺組織の組織学的検査(HおよびE染色)は、腫瘍の結節の同一性を確認するために行う。IR損傷群における肝内再発(T1およびT2)および肺転移(M)を示す代表的な領域を示す(上部)。比較のために、処理群における正常な肝臓構造(N1)およびヘモグロビン処理後に肝内で検出された腫瘍の結節(T3)の組織学的検査を示す(下部)。また比較のために、処置群(N2)における転移のない肺組織を示す。
【0085】
熱安定性四量体ヘモグロビンによる腫瘍の再発および転移の予防作用を更に確認するために、虚血/再かん流および肝臓切除処置後の腫瘍の再発率および再発腫瘍の大きさを調べる。再び、前記したようにMcA−RH7777細胞を注射して調製された腫瘍組織を移植したラットは、
図17に述べたように、肝臓切除処置の虚血および再かん流時に先立ち、約0.2〜0.4g/kgの本発明に係る熱安定性四量体ヘモグロビンまたは負の対照である酢酸リンゲル(RA)緩衝液を静脈内に処理する。合計26匹のラットを試験し、そのうち、13匹のラットは本発明のヘモグロビンで処理し、13匹のラットは、単にRA緩衝液で処理された、負の対照ラットである。肝臓および肺の腫瘍の再発/転移全てのラットは肝臓切除およびIR処置後4週間後で殺され、試験ラットの肝臓および肺は、腫瘍の再発/転移の検査をし、再発腫瘍の相対的な大きさを測定する。
【0086】
図20Aは、試験ラットにおける肝臓腫瘍の再発および個々の再発腫瘍の体積を示す。13匹の未処理の対照ラットのうち9匹に肝臓腫瘍が再発し/転移していたが、13匹の処理ラットでは、4匹にのみ腫瘍の再発/転移がみられた。腫瘍の再発が見られた場合、本発明に係るヘモグロビンで処理したラットの再発した腫瘍の大きさは、未処理のラットの再発した腫瘍の大きさよりも有意に小さいことも明らかである。
図20Bに概括するとおり、この結果は、本発明の処理をすることで、腫瘍の再発率は大きく低下し、再発腫瘍の大きさが有意に減小することを示す。
【0087】
図21は、本発明の熱安定性四量体ヘモグロビンで処理したラットおよびIR損傷(負の対照)群における、肝臓切除およびIR処置後4週間後に採取した肝臓およびおよび肺組織の代表的な実施例を説明する。未処理の負の対照群、ラットC10およびおよび13の代表的な実施例に見られるように、広範囲の肝内肝臓がんの再発/転移および遠隔肺転移が観察される(円)。一方、ラットY9、Y10およびY11に見られるように、本発明の主題のヘモグロビンの処理によって、肝内肝臓がんの再発/転移および遠隔肺転移を予防する。
【0088】
(実施例10)
【0089】
熱安定性四量体ヘモグロビンによる処理は虚血を減少させる
【0090】
実施例6に示されるように、主題の熱安定性四量体ヘモグロビンを低酸素状態の腫瘍へ静脈注射することで、腫瘍の酸素取り込みを顕著に改善する。したがって、腫瘍切除およびIR処置における中の主題のヘモグロビン製品の酸素取り込み作用を調査する。McA−RH7777細胞を注射することにより調製された肝臓腫瘍組織を移植したラットを使用し、ラットに
図17に概述したような手術および0.2〜0.4g/kgの本発明に係るヘモグロビン製品またはRA緩衝液の投与処置をする。肝臓腫瘍に本発明に係るヘモグロビン製品/RA緩衝液を初めて投与する時からIR処置、肝臓腫瘍切除術および再かん流後を通して、肝臓の酸素分圧を測定する。その結果(
図22)は、虚血を導入した後、本発明のヘモグロビンの処理による酸素取り込みの増加が観察されることを示す。また、
図22に見られるように、本発明のヘモグロビンで処理した肝臓の酸素分圧は、再かん流後に処理されていないものの約3倍である。虚血の前および腫瘍切除術時の再かん流時において本発明のヘモグロビンで処理することは、未処理の場合と比べて、肝臓組織への酸素の取り込みを顕著に改善することが確認される。本技術において示唆される、低酸素状態の腫瘍と腫瘍の再発/転移の可能性の増加との間の強い関連性、本ヘモグロビン製品の広範囲の酸素取り込み効果および本実施例で説明したような腫瘍切除処置の間におけるその使用を考慮すると、腫瘍の再発および転移の減少のための本ヘモグロビン製品の有用性が明らかに確認される。
【0091】
(実施例11)
【0092】
熱安定性四量体ヘモグロビンによる処理は循環する内皮前駆細胞レベルを減少することができる
【0093】
肝臓がんの進行におけるがん幹細胞(CSC)および/または前駆細胞集団の重要性が明らかにされている。重要なことには、従来の研究では、HCC患者(肝臓切除術を受けている患者を含む)に顕著な高いレベルの循環する内皮前駆細胞(EPC)が見られることを示している。
【0094】
したがって、循環するEPCのレベルをCD133、CD34およびVEGFR2のような表面分子の発現によって評価する。本発明のヘモグロビン製品の処理を行うまたは行わない場合の、肝臓切除手術およびIR処置の後に循環する内皮前駆細胞のレベルを調べる。
図17に示すように、肝臓腫瘍を移植した2つのラットのグループに、虚血の前および肝臓切除後の再かん流時に、本発明に係るヘモグロビンまたはRA緩衝液(対照)による処置を行う。その後、肝臓切除およびIR処置後0、3、7、14、21および28日に2つのグループのラットにおける循環するEPCの数を測定する。その結果(
図23)、処理群および未処理群のEPCレベルは、手術後0日目〜3日目では同じ程度である一方、ヘモグロビン処理群のEPCレベルはRA緩衝液治療群のそれよりも有意に低いことがわかる。この結果は、本発明のヘモグロビンの防止効果が腫瘍の再発/転移を減らし、腫瘍再発/転移を最小にすることができることを示す。
【0095】
(実施例12)
【0096】
腫瘍塊内への熱安定性四量体ヘモグロビンの局在化
【0097】
腫瘍塊内での熱安定性四量体ヘモグロビンの局在化を視覚化するために、本発明のヘモグロビンをメーカーの指示に従いAlexa Fluor(登録商標) 750 SAIVI 抗体標識システムで標識する。簡単にいうと、蛍光標識された本発明のヘモグロビン(fl−Hb)を標識されていない対照物と約1:80の比率で混合する。この混合物を、上咽頭がん異種移植片(C666−1)を有するヌードマウスに静脈注射する。Maestro2イメージングシステムにより取得するために、十分な蛍光信号を確保するために、ヌードマウス1匹あたりのfl−Hbの量を約0.2mgとする。分析のためにMaestro2蛍光イメージングシステムに置かれる前に、ヌードマウスに異なる時点で麻酔をする。
図24は、腫瘍の異種移植片内にHbが集中している代表的な画像である(矢印で表示)。
【0098】
(実施例13)
【0099】
喉頭がんにおける熱安定性四量体ヘモグロビンの放射線増感効果
【0100】
頭部および頸部のがんにおける熱安定性四量体ヘモグロビンの放射線増感効果を評価するために、本発明のヘモグロビン系酸素運搬体を放射の前に1回投与し、Hep−2喉頭がんモデルにおいて腫瘍成長を抑制する効果を示す。実験の終わりに、高用量のHb(2.2g/kg)と放射を併用した腫瘍の体積は90.0mm
3であり、これは対照群よりも有意に小さい(336.1mm
3)(P<0.01)。放射線のみの場合、腫瘍の体積は143.1mm
3であり、高用量のHbの投与を併用したq値は1.17であり、この併用の相乗効果を示す(q>1.15、相乗効果)。
図25は、本発明のヘモグロビン系酸素運搬体とその後の放射線による腫瘍成長抑制効果を示す。
【0101】
(実施例14)
【0102】
上咽頭がんにおける熱安定性四量体ヘモグロビンの放射線増感効果
【0103】
上咽頭がんにおける熱安定性四量体ヘモグロビンの放射線増感効果を評価するために、本発明のヘモグロビン系酸素運搬体を放射線の前に1回投与し、C666−1上咽頭がんモデルにおいて腫瘍成長を抑制する効果を示す。実験の終わりに、高用量のHb(2.2g/kg)と放射線を併用した腫瘍の体積は110.3mm
3であり、これは対照群よりも有意に小さく(481.1mm
3)(P<0.01)、放射線単独群と比較しても有意に小さい(160mm
3)(P<0.05)。高用量のHbの投与を併用したq値は1.24であり、この併用の相乗効果を示す(q>1.15、相乗効果)。
図26は本発明のヘモグロビン系酸素運搬体とその後の放射線の腫瘍成長抑制効果を示す。
【0104】
(実施例15)
【0105】
脳がんにおける熱安定性四量体ヘモグロビンの化学増感効果
【0106】
多形性膠芽腫(GBM)は、最も一般的な成人の原発性脳腫瘍であり、ヒトにおいて最も侵襲的で、致死的な悪性腫瘍の一つであり、急速な増殖、侵襲性および早期の再発を特徴とする。GBM患者の予後は、平均生存期間は約1年間と、極めて不良である。アルキル化剤テモゾロミド(TMZ)は生存を有意に延長できるが、ほとんどの患者が新たにまたはTMZ抵抗性の獲得により腫瘍を再発する。
【0107】
そこで、多形性膠芽腫におけるテモゾロミド誘発性の細胞毒性に対するHbの増感効果を調べた。テモゾロミドに対して感受性があるGBM細胞(D54−S)およびテモゾロミドに対して抵抗性があるGBM細胞(D54−R)を、低酸素状態(1%酸素)下で72時間、様々な濃度(0.015から0.03g/dL)のHb単独、TMZ単独または併用してまたはで処理し、次いで細胞生存性アッセイを行った。
【0108】
Hbは、D54−SおよびD54−Rの両方のGBM細胞において、インビトロでTMZ誘発性の細胞毒性を高めることがわかる。
図27Aは、異なる処理条件によるD54−SおよびD54−R細胞の代表的な96ウェルプレートを示す。
図27Bは、HbによるTMZ誘発性の細胞毒性が用量依存的に増強していることを示す。
【0109】
(実施例16)
【0110】
フローサイトメトリーによるがん幹細胞の分離
【0111】
乳がん細胞株である、MCF7細胞をCD24およびCD44抗体で標識し、およびそれぞれ488nm(青色レーザー)および633nm(赤色レーザー)で励起されるPEおよびAPCアイソタイプを用いてフローサイトメトリーにより分析し、各発光は、585nmおよび660nmのバンドパスフィルタで測定した。およびフローサイトメトリーの結果は、市販のMCF7細胞のうち、CD44を高発現するがCD24を発現しない細胞が占める割合は、全細胞数のわずか約0.5%であることを示す。
【0112】
所望のがん幹細胞を得るために、MCF7細胞を、スフェロイド形成の前に少なくとも7−9日間、コーティングされていないペトリ皿でMammoCult
TM培地中で浮遊培養した。培養培地はMammoCult基本培地(MammoCult Basal Medium)およびヒトの腫瘍様塊用のMammoCult増殖用サプリメント(MammoCult Proliferation Supplement)の両方を含む。培養培地には、使用前に、新たに溶解した0.48μg/mLのヒドロコルチゾンおよび4μg/mLのヘパリンも補充する。ペトリ皿内の培養培地は、1−2日毎に交換し、その頻度は培地の色によって決定される。細胞の形態は顕微鏡で観察する。
図28は、光学顕微鏡下で位相差領域中で観察した細胞の形態を示す。乳房上皮細胞(E、対照)由来の中空の腫瘍様塊と比較して、中空ではない腫瘍様塊は、流動選別されたMCF7細胞をペトリ皿に注いだ後、成長の約9日から20日目に観察される。がん幹細胞を約9代まで継代培養することにより自己再生能力がさらに確認され、初代細胞(Passage0)に続く各継代培養は、中空ではない腫瘍様塊に発達するまで約9−14日間かかる。一の継代から別の継代に継代する際、化学的手段(例えばトリプシン処理)または無菌環境での機械的手段(例えばセルスクレーパを使用してペトリ皿から細胞集塊を剥離した後、ピペットの上下操作を行う)により中空ではない腫瘍様塊を単離細胞に分離する。各継代からの単離細胞を採取し、がん幹細胞の同一性および自己再生能力を確認するためにタンパク質分析を行う。
図29は、異なる継代から採取された溶解した細胞のウェスタンブロットを示す。
図29Aにおいて、サンプル1は腫瘍様塊の選別されていない細胞であり、サンプル2は第1継代の腫瘍様塊をCD44+/CD24−で選別した細胞である。
図29Bにおいて、サンプル1は腫瘍様塊の選別されていない細胞であり、サンプル2、3および4はそれぞれ第1、第2および第3継代の腫瘍様塊をCD44+/CD22−で選別した細胞である。ウェスタンブロットによると、腫瘍様塊からの選別されていない細胞および選別された細胞の両方ともに、幹細胞マーカーであるOct−4(39kDa)およびSox−2(40kDa)を発現する。しかし、これらのマーカーの発現レベルは、選別されていない細胞と選別された細胞とでは異なる。同じ継代では、明らかに、CD44+/CD24−で選別された細胞のOct−4の発現レベルは、選別されていない細胞の発現レベルよりも高い。CD44+/CD24−細胞を選別することについて、各継代の細胞の別を適用するので、がん幹細胞の自己再生能力は、これらの幹細胞マーカーの発現レベルという点で、一継代から別の継代へと高まっていく。
【0113】
がん幹細胞の腫瘍形成能力をさらに調べるために、異なる継代の腫瘍様塊から採取した細胞をアルデヒド脱水素酵素抗体(ALDH抗体)で標識し、標識された細胞をフローサイトメトリーで分析することにより、ALDH活性を調べた。
図30Aは対照(ALDHの阻害剤であるジエチルアミノベンズアルデヒド(DEAB)で培養した細胞)に対する分析の結果である;
図30Bは初代で採取された細胞の結果であり、細胞集団の1%がALDH活性を有することを示す;
図30Cは第3継代で採取された細胞の結果であり、細胞集団の8.7%がALDH活性を有することを示す;第5継代で採取された細胞では細胞集団の10−13%がALDH活性を有する(
図30D)。この分析によると、腫瘍様塊から分離された細胞は腫瘍形成能力および自己再生能力を有し、継代から継代へと選択淘汰され、がん細胞の細胞集団においてより優性になっていくがわかる。このことは、がん幹細胞に関する従来の研究とも一致している。
【0114】
(実施例17)
【0115】
がん幹細胞に対するヘモグロビン系酸素運搬体の効果
【0116】
腫瘍におけるがん幹細胞に対するヘモグロビン系酸素運搬体の効果を調べるため、MCF7細胞を低酸素状態(5% CO
2および1.1% O
2)で9−20日間培養した後、2つのフィルタ:CD24マーカーにはPE−A、CD44マーカーにはAPC−Aを使用するセルソーターに通すおよび。細胞がCD44に対して陽性でCD24に対して陰性である四分区間1(
図31)を、さらなる分析のために選別する。
【0117】
化学療法剤単独またはヘモグロビン系酸素運搬体と化学療法剤との併用療法に対するがん幹細胞の感受性を調べるために、複数の化学療法剤および/または本発明のヘモグロビン系酸素運搬体セットを、例えば第7継代および第8継代など後の継代から取得した腫瘍様塊から分離されたMCF7細胞に投与する。がん幹細胞の感受性を調査する前に、化学療法剤に対するCD44+/CD24−の薬剤抵抗性を
図32に示す。選別されていないMCF7細胞およびCD44+/CD24−で選別された細胞を、DMSO(対照として)および90nMのタキソールと16時間および4日間培養する。各時間間隔(16時間および4日間)で各サンプルのセットの位相コントラスト画像(
図32)を撮影し、4日間タキソール処理した後に選別された細胞は、化学療法剤に対するこれらの細胞の薬剤抵抗性を確認するために、MTTアッセイによりさらに調べる(実施例3に記載のとおり)。細胞の形態から、選別されていない細胞およびCD44+/CD24−で選別された細胞の両方の腫瘍様塊の形成は、90nMのTaxolにより阻害されていると思われる。しかし、タキソールで4日間処理した後に選別された細胞のMTTアッセイは、96%の生存を示し、これはCD44+/CD24−で選別された細胞はタキソールのみに対して高い抵抗性を有することを意味する。
【0118】
化学療法剤に対するCSCの高い抵抗性は、腫瘍様塊をトリプシン処理する前に異なる化学物質の組み合わせで腫瘍様塊を少なくとも24時間処理した後の、2つの継代(第7および第8継代)からの単離細胞に対するMTTアッセイの結果により、さらに確認される。腫瘍様塊は、腫瘍の生理的環境を模倣するために低酸素状態条件下(5%CO
2、1.1%O
2)で培養する。MTTアッセイに使用する異なる化学物質の組み合わせには、Hb単独(0.2g/dL)、ボルテゾミブ(「Bort」、0.5μM)単独、5‐フルオロウラシル(「5FU」、5μM)単独、または上記の任意の組み合わせを含む。組み合わせ薬剤(すなわちHb+少なくとも1つの化学療法剤)の場合、トリプシン処理した細胞を0.2g/dLのHbで24時間培養し、次いで目的の化学療法剤を添加してさらに24時間培養する。吸光度を分光計で測定し、その吸光度の正規化された値を以下の表3に示す。正規化された値において「1」は100%の生存率、0.75は75%の生存率などを指す。
【0119】
Hbのみを0.2g/dL投与するセットにおいて、2つの継代からの細胞の生存率は約61〜65%の生存率である。ボルテゾミブのみを0.5μM投与するセットにおいて、2つの継代からの細胞は生存率が約78〜91%である。5FUのみを5μM投与するセットにおいて、2つの継代からの細胞は生存率が約72〜87%である。Hbを0.2g/dL+ボルテゾミブを0.5μM投与するセットにおいて、2つの継代からの細胞の生存率は約38〜49%である。Hbを0.2g/dL+5FUを5μM投与するセットにおいては、2つの継代からの細胞の生存率は約52〜72%である。ボルテゾミブを0.5μM+5FUを5μM投与するセットにおいて、2つの継代からの細胞の生存率は約60〜64%である。Hbを0.2g/dL+ボルテゾミブを0.5μMおよび5FUを5μM投与するセットにおいては、2つの継代からの細胞の生存率は約33〜39%である。1つの化学療法剤を単独で投与するセットと、ヘモグロビン系酸素運搬体および同じ化学療法剤との組み合わせを比較すると、ボルテゾミブの場合では生存率がほぼ半減し、5FUの場合では生存率が約17%〜20%減少している。ボルテゾミブおよび5FUの組み合わせた場合の細胞生存率は約60%−64%であるが、ヘモグロビン系酸素運搬体とボルテゾミブで処理した細胞の生存率よりもまだ比較的高い。ヘモグロビン系酸素運搬体単独の場合は、ボルテゾミブと5FUを組み合わせた場合とほぼ同じパーセントでCSCを殺傷できることは興味深い。最終的に、本テストにおいてCSCを殺傷するのに最も効果的な組み合わせは、その生存率が本明細書で説明する他の如何なる組み合わせよりもはるかに低い約33%−39%であることから、ヘモグロビン系酸素運搬体+ボルテゾミブおよび5FUである。しかし、本発明のヘモグロビン系酸素運搬体とを組み合わせて投与される化学療法剤は、ボルテゾミブまたは5FUに限定されないことに留意すべきである。がん/腫瘍の治療に対する効果がより低いことが証明されている他の如何なる従来の化学療法剤または放射線治療などの他の如何なる療法も、本発明のヘモグロビン系酸素運搬体と組み合わせて使用し、CSCを殺傷する有効性を向上させることができる。
【0120】
【表3】
【0121】
所望により、本明細書で論じられている異なる機能をそれぞれ異なる順序および/または同時に実行してもよい。さらに所望により、上記の機能の1つまたはそれ以上を任意で選択または組み合わせてもよい。
【0122】
上記の研究の結果、本発明の熱安定性四量体ヘモグロビンを使用した治療は、肝腫瘍の再発および他の臓器への転移の両方に予防効果を有すると結論付けられる。
【0123】
種々の態様に関して本発明を説明したが、このような態様は限定的なものではない。当業者は多くの変形および変更を理解するであろう。これらの変形および変更は、以下の特許請求の範囲の範囲内に含まれるものと見なされる。
【0124】
本発明の様々な態様は独立請求項に記載されているが、本発明の他の態様には、請求項に明確に記載されている組み合わせだけでなく、記載されている実施態様の特徴および/または独立請求項の特徴を有する従属請求項の他の組み合わせを含む。
【0125】
上記は本発明の典型的な実施態様を示すが、これらの説明は限定的な意味で捉えるべきではないことにも留意するべきである。それどころか、以下の特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲を逸脱するものでなければ、幾つかの変形および変更が可能である。