特許第6113997号(P6113997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6113997フラッシング処理方法およびフラッシング水処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6113997
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】フラッシング処理方法およびフラッシング水処理システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/00 20060101AFI20170403BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20170403BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20170403BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20170403BHJP
   C02F 1/56 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   B01D21/00 B
   B01D21/01 C
   C02F1/20 A
   C02F1/62 Z
   C02F1/56 K
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-228101(P2012-228101)
(22)【出願日】2012年10月15日
(65)【公開番号】特開2014-79675(P2014-79675A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100076130
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 仁
【審査官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−201100(JP,A)
【文献】 特開2009−074714(JP,A)
【文献】 特開2001−239272(JP,A)
【文献】 特開2002−028602(JP,A)
【文献】 特開平10−296006(JP,A)
【文献】 特開昭50−159143(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/074703(WO,A1)
【文献】 特開2004−255346(JP,A)
【文献】 特開2003−062533(JP,A)
【文献】 特開2000−342904(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3150115(JP,U)
【文献】 特開2004−122066(JP,A)
【文献】 特開2013−111537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00−21/34
C02F 1/52− 1/56
C02F 1/20− 1/26
C02F 1/30− 1/38
B08B 1/00−13/00
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設備の配管に水を流してフラッシング処理する方法において、
フラッシング処理中に配管を流れるフラッシング水を、大気圧以上の圧力がかかっているところから、一部または全部を取り出し、前記取り出したフラッシング水を、槽内気相部の圧力が大気圧よりも低い圧力の原水槽を通過させた後、原水槽からのフラッシング水に対して凝結処理及び凝集処理を行ない、
処理後のフラッシング水中の凝集物を沈殿処理した後、清浄な上澄み水を前記配管に戻すことを特徴とする、フラッシング処理方法。
【請求項2】
フラッシング処理中に配管を流れるフラッシング水を、前記配管の最下部から取り出すことを特徴とする、請求項1に記載のフラッシング処理方法。
【請求項3】
原水槽内の気相部の圧力を、大気圧よりも5kPa以上低く減圧することを特徴とする、請求項1または2に記載のフラッシング処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のフラッシング処理方法を実施する際に使用するフラッシング水処理システムであって、
前記配管から取水したフラッシング水を浄化し、浄化後のフラッシング水を前記配管に戻すように、前記配管と並列に接続されたフラッシング水浄化装置を有し、
前記フラッシング水浄化装置は、
原水槽と、原水槽からの水に対して凝結剤、凝集剤が順次投入される反応槽と、反応槽からの水に含まれる凝集物を沈殿させる沈殿槽を有し、
前記原水槽には、槽内の気相部を減圧するポンプが接続されていることを特徴とする、フラッシング水処理システム。
【請求項5】
前記原水槽は、槽内へのフラッシング水の流入部から前記反応槽への流出部へとフラッシング水が流れていく間に、少なくとも一回は水面近くを流れるように前記フラッシング水の水流を整流する整流機構を、前記流入部と、流出部との間に有することを特徴とする、請求項に記載のフラッシング水処理システム。
【請求項6】
前記整流機構は、槽内において垂直方向に設けられた板体であり、前記流入部は槽内下方に設定され、前記流出部は槽内下方に設定されていることを特徴とする、請求項に記載のフラッシング水処理システム。
【請求項7】
前記整流機構は、槽内において槽内側壁から斜め上方に延出した板体であり、前記流入部は前記板体の基部側の槽内上方に設定され、前記流出部は槽内下方に設定されていることを特徴とする、請求項に記載のフラッシング水処理システム。
【請求項8】
前記板体は、複数設けられていることを特徴とする、請求項6または7に記載のフラッシング水処理システム。
【請求項9】
フラッシング処理方法を実施する際に使用するフラッシング水処理システムであって、
前記フラッシング処理方法は、設備の配管に水を流してフラッシング処理する方法において、フラッシング処理中に配管を流れるフラッシング水の一部または全部を取り出し、前記取り出したフラッシング水を、槽内気相部の圧力が大気圧よりも低い圧力の原水槽を通過させた後、原水槽からのフラッシング水に対して凝結処理及び凝集処理を行ない、処理後のフラッシング水中の凝集物を沈殿処理した後、清浄な上澄み水を前記配管に戻すものであり、
前記フラッシング水処理システムは、
前記配管から取水したフラッシング水を浄化し、浄化後のフラッシング水を前記配管に戻すように、前記配管と並列に接続されたフラッシング水浄化装置を有し、
前記フラッシング水浄化装置は、
原水槽と、原水槽からの水に対して凝結剤、凝集剤が順次投入される反応槽と、反応槽からの水に含まれる凝集物を沈殿させる沈殿槽を有し、
前記原水槽には、槽内の気相部を減圧するポンプが接続され、
前記原水槽は、槽内へのフラッシング水の流入部から前記反応槽への流出部へとフラッシング水が流れていく間に、少なくとも一回は水面近くを流れるように前記フラッシング水の水流を整流する整流機構を、前記流入部と、流出部との間に有し、
前記整流機構は、槽内において槽内側壁から斜め上方に延出した板体であり、前記流入部は前記板体の基部側の槽内上方に設定され、前記流出部は槽内下方に設定されていることを特徴とする、フラッシング水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系をフラッシング処理する方法およびフラッシング水処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
配管設備において、施工後運転開始前には、配管内の金属ヒュームが付着した濁度成分やゴミの除去を目的としてフラッシング処理が行われている。フラッシング処理とは、たとえば、配管システム等の試運転前に、配管の接続、切断、溶接作業などによって生じた鉄粉、切削油、酸化亜鉛、接合材料等を、配管系から除去することを目的として、配管内に例えば水などの流体を流して清浄することである。
【0003】
従来は、フラッシング処理した後のフラッシング水は配管系外に排出されているが、亜鉛メッキ配管においては処理後のフラッシング水に高濃度の亜鉛が含まれ、生態系への悪影響が問題になっている。特に、現場で溶接施工した亜鉛メッキ配管のフラッシング処理においては、排水中には排水規制値(2mg/リットル以下。地域によっては0.5mg/リットル以下)をはるかに超える、百mg/リットル以上もの亜鉛が含まれていることがある。
【0004】
平成21年の社団法人空気調和・衛生工学会の施工保全情報と空調配管システム信頼性向上検討小委員会成果報告によると、フラッシング処理した排水を適正に処理(除害処理)しているのは、全体の20%とのアンケート結果が示されている。この原因としては「適正な処理方法が特定されていない」と指摘されている。そのためこれまで多くの現場では、フラッシング処理した排水を、大量の水で希釈して排水している。しかしながら、そのようにフラッシング排水を水で希釈して濃度規制がクリアできても、有害物質の絶対排出量を削減しているわけではなく、環境保全に対し根本的には改善されていないのが現状である。
【0005】
一方、フラッシング処理排水の条件次第では、フィルタによるろ過によってもある程度は処理が可能である。しかし、当該処理に必要なフィルタは1μmレベルの微細な濁度分を高性能に除去できる仕様のものが必要となり、かつ膨大な数量が必要となる。そのため結果的に、フィルタを含めた産業廃棄物の総量を増加させることになり、処理コストを大幅に増加させるといった新たな課題が生ずる。また、フラッシング処理排水のpHは通常pH6〜8の範囲が多く、この範囲では多くの亜鉛成分がイオンとして存在しておりフィルタでは除去しきれないという問題もある。
【0006】
このようなことから、現状では、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系からのフラッシング排水中の亜鉛を除去する直接の従来既存の技術は見当たらない(非特許文献1)。
【0007】
この点に関し、一般的な亜鉛含有排水の処理方法自体は、従来から下記のような技術が提案されている。すなわち、亜鉛含有排水に対して、まずアルカリ化処理した後、無機凝結剤を添加し、その後高分子凝集剤を添加して沈殿槽で汚泥を分離し、場合によってはろ過をした後、処理水のpHを排水処理基準まで中和して、排水する方法である(特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭58−19498号公報
【特許文献2】特開平11−188208号公報
【特許文献3】特開平11−290865号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】社団法人 空気調和・衛生工学会 施工保全委員会 「施工保全情報と空調配管システム信頼性向上に関する調査研究」平成21年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
フラッシング排水の前記した問題は、もともとフラッシング処理した水を、処理系外に排水として排出していたことに起因する。したがって、これまでフラッシング処理後、系外に排水していたフラッシング水を、一切排水せずにオンサイトで浄化処理して有害な亜鉛を含む濁度成分を汚泥として別途除去すれば、前記した環境保全の問題の解決に繋がると考えられる。
【0011】
しかしながら、仮に前記従来技術を組み合わせ、沈降しにくい微細な亜鉛微粒子および溶解している亜鉛イオンを薬剤添加処理により凝集沈降させ、清水(清浄な上澄み水)と沈降汚泥とに分離処理して、前記清水を配管系に戻すようなフラッシング処理システムを構築して実際に実験したところ、一部の配管設備においては、沈殿槽において本来沈降分離されるべき凝集物(汚泥)の一部が浮上し、清水が得られない事態に陥った。これでは、配管内を連続的に送水循環させて溶接時に発生したヒュームや溶接屑などを連続剥離洗浄し、洗浄後のフラッシング水を系外に排出することなく、再び配管系に戻すことは、現実的には不可能であり、また仕方なく排水する場合にも、結局、環境汚染を引き起こしてしまう。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、沈降しにくい微細な亜鉛微粒子および溶解している亜鉛イオンを凝集沈降させ、清水(清浄な上澄み水)と沈降汚泥とにより確実に分離処理することを可能として、配管内を連続的に送水循環させたり、フラッシングに用いた水を浄化して、排水そのものを不要とすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は、前記したような沈殿槽における、本来沈降分離されるべき凝集物(汚泥)の一部が浮上し、清水が得られない原因について、鋭意解明に取り組んだ結果、以下が原因であることが判明した。つまり、フラッシング処理中の配管内の水圧は、配管の形態により異なるが、取水を行う最下部には配管揚程分の圧力、つまり大気圧以上の圧力がかかっており、大気圧下よりも多くの空気が溶解している。この状態の水を取水すると、水圧は大気圧レベルまで低下することから、溶解していた空気の一部が微細な気泡となってガス化する。微細気泡が水中に混在した状態で薬剤を投入して凝集処理すると、当該微細気泡と凝集物とが結合してしまい、その後に沈殿させても、当該微細気泡と結合した凝集物が浮上してしまうことが判明した。
【0014】
そこで、本発明は、設備の配管に水を流してフラッシング処理する方法において、フラッシング処理中に配管を流れるフラッシング水を、大気圧以上の圧力がかかっているところから、一部または全部を取り出し、前記取り出したフラッシング水を、槽内気相部の圧力が大気圧よりも低い圧力の原水槽を通過させた後、原水槽からのフラッシング水に対して凝結処理及び凝集処理を行ない、処理後のフラッシング水中の凝集物を沈殿処理した後、清浄な上澄み水を前記配管系内に戻すことを特徴としている。
【0015】
本発明では、配管系の大気圧以上の圧力がかかっているところから取り出したフラッシング水を、槽内気相部の圧力が大気圧よりも低い圧力の原水槽を通過させた後に、凝結処理及び凝集処理を行なうようにしたので、フラッシング水中に溶解して微細な気泡となっていた空気を、速やかに脱気して、これを除去することができる。したがってその後に凝結処理及び凝集処理を行なっても、従来のように凝集物が微細気泡と結合することを防止でき、沈殿処理を行なっても、凝集物が浮上することはなく、沈殿処理の際の上澄み水を回収して、配管系へと戻すことが可能である。また従来のように亜鉛等の汚染物質が混入した排水を系外に排出することはない。フラッシング排水を取り出すにあたっては、フラッシング処理中に配管の最下部から取り出すようにしてもよい。
【0016】
原水槽内の気相部の圧力は、大気圧(98.1kPa)よりも5kPa以上低いことが好ましく、現実的には、10kPa〜90kPaが好ましい。許容圧力は滞留時間と、後述の実施の形態で示した脱気しやすい構造の採用等に依存するが、発明者の知見では、場合によっては大気圧より5kPa程度低いだけでも改善効果があると推測される。
【0017】
前記フラッシング処理方法を実施する際に使用するフラッシング水処理システムとしては、前記配管から取水したフラッシング水を浄化し、浄化後のフラッシング水を前記配管に戻すように、前記配管と並列に接続されたフラッシング水浄化装置を有し、前記フラッシング水浄化装置は、原水槽と、原水槽からの水に対して凝結剤、凝集剤が順次投入される反応槽と、反応槽からの水に含まれる凝集物を沈殿させる沈殿槽を有し、前記原水槽には、槽内の気相部を減圧するポンプが接続されていることを特徴とする、フラッシング水処理システムが提案できる。
【0018】
この場合、前記原水槽は、槽内へのフラッシング水の流入部から前記反応槽への流出部へとフラッシング水が流れていく間に、少なくとも一回は水面近く、すなわち表層部を流れるように前記フラッシング水の水流を整流する整流機構を、前記流入部と、流出部との間に有することが好ましい。
【0019】
また前記整流機構は、槽内において垂直方向に設けられた板体であり、前記流入部は槽内下方に設定され、前記流出部は槽内下方に設定されていることが提案できる。
【0020】
また前記整流機構は、槽内において槽内側壁から斜め上方に延出した板体であり、前記流入部は前記板体の基部側の槽内上方に設定され、前記流出部は槽内下方に設定するようにしてもよい。
【0021】
前記板体は、複数設けられていてもよく、この場合、原水槽側面から見て、各板体は、交互に千鳥状に配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、凝結処理及び凝集処理を行なった後に沈殿処理を行なっても、凝集物が浮上することはないので、沈殿処理の際の上澄み水を回収して、配管系へと戻すことが可能となり、またフラッシング排水を系外に排出することはない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施の形態を実施するためのシステムの系統の概略を模式的に示した説明図である。
図2図1のシステムにおけるフラッシング水浄化装置の構成を模式的に示した説明図である。
図3】原水槽の他の構成例を模式的に示した説明図である。
図4】側面からみて千鳥状に垂直板を配置した原水槽の他の構成例を模式的に示した説明図である。
図5】傾斜板を設けた原水槽の他の構成例を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。図1は、実施の形態にかかるフラッシング水の処理方法を実施するためのフラッシング処理システムの系統の概略を示しており、このシステムは、冷凍機1からの冷水の配管系等に適用されたものである。冷凍機1からの冷水は、ポンプ2によって、出口側冷水配管3から、分散部4(図示の例では、ヘッダー)へと送られる。分散部4からは、需要側の負荷に通ずる複数の配管系統A、B、Cの往管側に、各往管系配管As、Bs、Csを通じて、冷水を供給するようになっている。また配管系統A、B、Cの還管側からの昇温した冷水は、各還管系配管Ar、Br、Crを通じて、集合部5(図示の例では、ヘッダー)へと戻され、冷凍機1の入口側冷水配管6から冷凍機1へと戻される。なお図1中、黒塗り表示のバルブ記号は、閉鎖状態を 示し、白抜き表示のバルブ記号は、開放状態を示している。
【0025】
出口側冷水配管3には、冷凍機1から分散部4側へと順に、バルブV1、ポンプ2、逆止弁11、バルブV2、バルブV3が設けられている。入口側冷水配管6には、集合部5から冷凍機1側へと順に、バルブV4、バルブV5、ストレーナ12、バルブV6が設けられている。
【0026】
そして出口側冷水配管3と入口側冷水配管6との間には、冷凍機1と並列に、フラッシング水浄化装置21が設けられている。すなわち、入口側冷水配管6におけるバルブV4とバルブV5との間に、取水管となる分岐配管22を接続し、出口側冷水配管3におけるバルブV2とバルブV3との間に、戻し管となる合流配管23を接続するようにして、当該分岐配管22と合流配管23との間で、フラッシング水浄化装置21が設置されている。分岐配管22と合流配管23には、各々バルブV7、V8が設けられている。
【0027】
フラッシング水浄化装置21は、図2にもその構成を示したように、上流側から順に、分岐配管22から流入する原水を一旦貯留する原水槽31、原水槽31から送られた水を、薬品処理する反応槽41、反応槽41からの水を沈殿分離させる、第1沈殿槽51、第2沈殿槽52、第1沈殿槽51、第2沈殿槽52からの清水が取水されて、貯留される処理水槽61、第1沈殿槽51、第2沈殿槽52からの汚泥(廃棄物)を貯留する汚泥貯留槽71とを有している。
【0028】
原水槽31は、図2にも示したように、分岐配管22から流入するフラッシング水の水量を維持しつつ、これを下流側の反応槽41へと送るべく、定水位機構(例えばボールタップ装置)32を有し、槽内には一定量のフラッシング水を貯留するようになっている。また原水槽31は、槽内のフラッシング水の濁度を測定する濁度計33を有し、この濁度計が検出した濁度は、制御装置(図示せず)に出力されるようになっている。原水槽31内のフラッシング水を取り出して反応槽41へと移送するポンプ35は、第1沈殿槽51、第2の沈殿槽52の各沈殿処理能力に適した一定の水量に設定され、運転される。原水槽31は、気密に構成されており、槽内の気相部は、真空脱気ポンプ37によって減圧可能である。
【0029】
ポンプ35によって取水された原水槽31内の水は、反応槽41へと送られる。 反応槽41は、側面からみて千鳥状に交互に配置された隔壁42、43、44によって、4つの領域、第1領域41a、第2領域41b、第3領域41c、第4領域41dに区画されている。この隔壁42、43、44は、水流がその下端または上端を通過するようにいわば堰として作用することで反応槽41内の流路を側面からみて蛇行状に形成し、撹拌羽(後述)の設置された領域にフラッシング水を確実に流入、通過させ、当該領域に投入される薬剤(後述)とフラッシング水とをよく撹拌することで処理効率を高めている。
【0030】
第1領域41aでは、取水したフラッシング水に対してpH調整がなされる。pH調整は、pH調整剤供給源81からポンプ82によって、第1領域41a内にpH調整剤、たとえば水酸化ナトリウム(NaOH)が供給されることによって行われる。pH調整剤の投入量は、第4領域41d内に設けられたpH計測装置83によるpH値に基づいて、制御装置84によって制御され、たとえばpHが8.5〜11.0となるように、ポンプ82の動作が制御される。pH調整剤(アルカリ)としては水酸化ナトリウム(NaOH)の他、公知のアルカリ薬剤が使用できる。
【0031】
第1領域41a内でpH調整された後のフラッシング水は、次いで第2領域41bにおいて凝結処理に付される。第2領域41bには凝結剤供給源85から、ポンプ86によって凝結剤が供給され、第2領域41bに設けられた撹拌羽45によって撹拌される。凝結剤としては、無機凝結剤等、公知の凝結剤を使用することができる。
【0032】
第2領域41bにおいて凝結処理されたフラッシング水は、第3領域41cにおいて凝集処理に付される。第3領域41cには、凝集剤供給源87から、ポンプ88によって、たとえば高分子凝集剤が供給されるとともに、撹拌羽46によって撹拌される。第3領域41cで凝集処理された後のフラッシング水は、第4領域41dへと送られ、そこで撹拌羽47で撹拌されつつ、凝集反応処理に付される。
【0033】
第4反応槽41dでの処理が終わった後のフラッシング水は、配管53、54を通じて、第1沈殿槽51、第2沈殿槽52へ移送される。本実施の形態では、2つの沈殿槽である第1沈殿槽51、第2沈殿槽52を並列で有しており、処理する水量によってバルブを開閉することで1つの沈殿槽のみを使用するか2つの沈殿槽を使用するかを、適宜切り替えることが可能となっている。沈殿槽は必ずしも2つ設置する必要はなく、1つとしてもよい。そして第1沈殿槽51、第2沈殿槽52において清浄になった上澄み水(清水)は、配管55、56を通じて、処理水槽61へと送られる。そして処理水槽61のフラッシング水は、ポンプ62によって合流配管23へと送られる。ポンプ62は、処理水槽61内の水位を計測する水位計63の計測値に基づいて(具体的には処理水槽61内の水位が所定以下とならないように)制御される。
【0034】
処理水槽61内の水の濁度は、濁度計64によって逐次計測され、計測結果は、前出原水槽31の濁度計33と同様、制御装置(図示せず)へと出力され、当該制御装置は、少なくとも一方の計測値に基づいて、凝結剤、凝集剤の投入量を調整する。なお当該制御装置の機能は、制御装置84に付加してもよい。すなわち、制御装置84が総合的に、pH制御、凝結剤、凝集剤の投入量制御を行なうようにしてもよい。
【0035】
一方、第1沈殿槽51、第2沈殿槽52内で沈殿した沈殿物(汚泥)は、汚泥貯留槽71へと送られる。なお汚泥貯留槽71内の上澄み水は、ポンプ72によって、配管73を通じて、原水槽31へと移送することが可能である。汚泥貯留槽71では、長時間貯留している間に、汚泥がさらに沈降し上澄みが発生する。ただし、この上澄みには、沈降しにくい汚濁物質が少し含まれている。したがって、上記したように、原水槽31へと移送して再処理することで、系外に排出する排水量をさらに低減することが可能になっている。
【0036】
原水槽31と処理水槽61との間には、前記した反応槽41、第1沈殿槽51、第2沈殿槽52を迂回するバイパス管91が施工されており、このバイパス管91には、カートリッジ式のフィルタ92が設けられている。このフィルタ92は、フラッシング水中の汚染物質(たとえば亜鉛を含む濁度成分)を除去することが可能であり、原水槽31内の水が、反応槽41、第1沈殿槽51、第2沈殿槽52での処理が必要でない程度の汚染度合いの場合には、このバイパス管91でのフィルタ92で処理して、処理水槽61に移送することが可能になっている。バイパス管91に流すように切り替えて運転する場合には、ポンプ35をフィルタ92の仕様に適した流量となるように(例えば回転数を)手動設定する。バルブ93の開度により流量を調整してもよい。
【0037】
本実施の形態にかかる処理システムは、以上の構成を有しており、ポンプ2を起動させ、バルブV1〜V8を開放させ、配管系統A、B、Cの往管系配管As、Bs、Cs、還管系配管Ar、Br、Cr、及び冷凍機1前後の入口側冷水配管6、出口側冷水配管3の各配管内を連続的に送水循環させることで、溶接時に発生したヒュームや溶接屑などをフラッシング処理することができる。それと並行して、一部の循環水(フラッシング水)を、分岐配管22からフラッシング水浄化装置21に導入して、反応槽41でのpH処理、凝結処理、凝集処理、さらには第1沈殿槽51、第2沈殿槽52での沈殿処理を通じて、これを浄化し、清浄になった上澄み水を合流配管23から再び前記配管系に戻すことができる。
【0038】
このような処理により配管系内を循環するフラッシング水は徐々に清浄化され、所定の清浄レベル(指標値は濁度、あるいは亜鉛濃度でどちらでも可)になった時点で、フラッシング水浄化装置21での処理は終了となる。そして、本処理により配管系外に排出されるのは、汚泥貯留槽71に貯留される亜鉛及び濁度成分、溶接屑などの凝集物である汚泥のみであり、これら汚泥は産業廃棄物として汚泥貯留槽71より排出し、後は例えば専門の処理業者によって処理するようにすればよい。したがって、従来フラッシング処理後に系外に排水していたフラッシング水を、一切排水せずにオンサイトで浄化処理することが可能であり、有害な亜鉛を含む濁度成分は、別途汚泥として除去することが可能である。
【0039】
また上記実施の形態では、沈降しにくい微細な亜鉛微粒子および溶解している亜鉛イオンを、反応槽41における凝結処理、凝集処理を通じて第1沈殿槽51、第2沈殿槽52において、凝集沈降させ清水と沈降汚泥とに分離処理することが可能である。
【0040】
この場合、既述したように、原水槽31に真空脱気ポンプ37が接続されており、原水槽31内の気相部を、例えば大気圧より5kPa以上低くなるように(10kPa〜90kPaに)減圧することが可能である。したがって、原水槽31内で減圧脱気することで、フラッシング水内に存在する微小な気泡を、反応槽41に流入する前に、これを増大化して排出促進させ、速やかに真空脱気ポンプ37を通じて除去することができる。その結果、沈降分離されるはずの凝集物の一部が、微小な気泡と結合して、沈殿処理を行なう第1沈殿槽51、第2沈殿槽52で表層に浮上分離してしまう事態は抑制され、第1沈殿槽51、第2沈殿槽52での上澄み水(清水)を取水して、これを処理水槽61を通じて、再び配管系に戻すことが可能になっている。なお、原水槽31には気圧計(真空計)を設置して、槽内の気相部の圧力値を目視できるようにしてもよい。また、所定の圧力となるように真空脱気ポンプ37を制御してもよい。
【0041】
なおフラッシング水のpH値によっては、溶解している亜鉛濃度が高くなっている場合があるが、この場合は必要に応じて、原水槽31においてpH調整薬剤を添加してpH調整することで溶解している亜鉛の析出(微粒子化)を促進し、その後の凝集処理で除去できるようにしてもよい。また、処理後のフラッシング水のpH値が凝集剤の添加あるいは原水のpH制御により、配管系内に戻すpH値として適正でない場合は、処理水槽61においてpH調整を行う機能を追加してもよい。
【0042】
原水槽31で脱気処理を行う場合、設置場所等の制約により、原水槽31のサイズを大きく取れないことも予想される。かかる場合は、原水槽31でのフラッシング水の滞留時間が短いため、十分に脱気処理できないことも考えられる。そこで、かかる場合には、例えば図3に示したような対処例を提案できる。
【0043】
この例は、分岐配管22から流入するフラッシング水の流入する箇所を、槽内の下部とすべく、分岐配管22を槽内に延伸させて下端を水面下に浸漬させることで流入口22aを、槽内下方に設定している。そして原水槽31から次処理の反応槽41へと流出する流出口31aは槽内下方に設定されている。それと共に、流入口22aと流出口31aとの間に、下端が槽底部に接してその頂上部101aが水面下に位置する高さの垂直板101が垂直に立設されている。
【0044】
これによって、流入口22aから原水槽31内に流入するフラッシング水は、一旦、垂直板101の頂上部101aを越えてから、流出口31aに流れ込むことになり、流入するフラッシング水は原水槽31内で、一旦は必ず表層部分を流れることになる。その結果、真空脱気ポンプ37により強制脱気した気泡の気相への放出がより確実に行えるようになり、さらに確実に、第1沈殿槽51、第2沈殿槽52での凝集物の沈降を実現することができ、また槽のサイズも抑えられる。
【0045】
図4に示した例は、図3の例よりもさらに流路を長くして、脱気性能を向上させたものである。すなわち、図4に示した例は、図3に示した垂直板101の他に、頂上部102aは水面上に位置し、下方に連通部分102bを有する垂直板102と、垂直板101と同様、頂上部102aが水面下に位置する垂直板103をさらに備えている。すなわち、これら垂直板101、102、103は、側面からみて千鳥状に交互に配置されている。これによって、フラッシング水が流入口22aから流出口31aまで流れるときの流路を、図3の例よりも長くすると共に、垂直板101の頂上部101a、垂直板103の頂上部103aを越えるときの2箇所で、槽内の表層部分を流れるようにすることができる。これにより、脱気効率は図3の例よりもさらに向上している。また同じ水量であれば、単に脱気処理する場合よりも原水槽31の水槽サイズをコンパクトにすることができる。
【0046】
図3、4の例では、垂直板101等は、原水槽31の槽内に垂直に立設されていたが、これに代えて図5に示したように、傾斜板111、112を槽内に設置するようにしてもよい。図5の例では、分岐配管22からの流入口22aは、原水槽31の槽内の水面上に位置しており、水面より下に、2つの傾斜板111、112が設けられている。傾斜板111は、一端部111aが原水槽31の側壁に固定され、他端部111bは斜め上方に延出して水面下に位置し、他端部111bと、原水槽31の他の側壁との間の空間が流路113を形成している。
【0047】
他の傾斜板112は、その一端部112aが、原水槽31の流出口31aの上方に位置するように原水槽31の他の側壁に固定され、他端部112bは斜め上方に延出して、傾斜板111の基部の下方近傍に位置している。他端部112bと、原水槽31の側壁との間の空間は、流路114を形成している。
【0048】
このように傾斜板111、112を設けることで、流入口22aから原水槽31内に流入したフラッシング水は、図5の矢印で示したように流れていき、見かけ上の表層流の流路が3倍以上になり、図3の例よりもさらに容易に脱気気泡を除去することができる。換言すれば、同じ水量であれば、単に脱気処理する場合よりも原水槽31の水槽サイズをコンパクト化することができる。傾斜板111、112を設けることにより、脱気気泡を早期に傾斜板111、112下面に捕獲することができる。当該傾斜板111、112下面に到達した脱気気泡は、下面に沿って上方に移動して水面に到達し除去される。これにより、脱気気泡(特に槽内の下流側で発生した気泡等)が乱流やポンプ35の吸引力により流出口31aから槽外へ流出するリスクを低減することができる。また、傾斜板111、112の下面に到達した多数の気泡同士が集結して大きい気泡となることで、水流の影響を受けにくくなる。
【0049】
なお前記したシステムの運転例では、ポンプ2を起動させるとともに、バルブV1〜V8を開放させ、配管系統A、B、Cの往管系配管As、Bs、Cs、還管系配管Ar、Br、Cr、及び冷凍機1前後の配管内を連続的に送水循環させて、フラッシング水を循環処理するようにしていたが、これに代えて、ポンプ2を停止し、バルブV2、V5を閉鎖し、ポンプ35、62でフラッシング水を、フラッシング水浄化装置21で浄化処理するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、亜鉛メッキ鋼管を配管した設備の配管系に流すフラッシング水の処理に有用である。
【符号の説明】
【0051】
1 冷凍機
2 ポンプ
3 出口側冷水配管
6 入口側冷水配管
21 フラッシング水浄化装置
22 分岐配管
22a 流入部
23 合流配管
31 原水槽
31a 流出部
32 定水位機構
33 濁度計
35 ポンプ
37 真空脱気ポンプ
41 反応槽
41a 第1領域
41b 第2領域
41c 第3領域
41d 第4領域
45、46、47 撹拌羽
51 第1沈殿槽
52 第2沈殿槽
61 処理水槽
64 濁度計
71 汚泥貯留槽
81 pH調整剤供給源
83 pH計測装置
84 制御装置
85 凝結剤供給源
87 凝集剤供給源
A、B、C 配管系統
As、Bs、Cs 往管系配管
Ar、Br、Cr 還管系配管
V1〜V8 バルブV
図1
図2
図3
図4
図5