特許第6114023号(P6114023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114023
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】微粒子捕集フィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20170403BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20170403BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20170403BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   B01D39/20 D
   B01D46/00 302
   F01N3/022 C
   C04B38/00 303Z
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-275268(P2012-275268)
(22)【出願日】2012年12月18日
(65)【公開番号】特開2014-117663(P2014-117663A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年8月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/125767(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/128149(WO,A1)
【文献】 特開2001−097777(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/113252(WO,A1)
【文献】 特開2011−189241(JP,A)
【文献】 特開2011−194382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/20
B01D 46/00
C04B 38/00
F01N 3/022
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスの入口側となる入口端面から排ガスの出口側となる出口端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、所定のセルの前記出口端面側の開口端部及び残余のセルの前記入口端面側の開口端部を目封止する目封止部とを有する複数個のハニカムセグメントが、接合材により一体的に接合されたハニカム構造体を備え、前記入口端面から前記セル内に流入した排ガスが、前記隔壁を透過した後、前記出口端面から前記セル外に流出する構造の微粒子捕集フィルタであって、
前記隔壁は、骨材であるSiCが結合材であるSiにより結合されたものであり、
前記隔壁を透過する排ガスの入口側となる前記隔壁の表面に開口している細孔の平均開口径、及び、前記隔壁を透過する排ガスの出口側となる前記隔壁の表面に開口している細孔の平均開口径の内の少なくとも一方が、0.1〜5μmであり、
前記隔壁全体の平均細孔径が、10〜30μmであり、
前記隔壁の室温における熱伝導率が、50〜80W/mKであり、
前記隔壁の気孔率が、34〜43%である微粒子捕集フィルタ。
【請求項2】
前記ハニカム構造体のセル密度が、23〜50セル/cmである請求項1に記載の微粒子捕集フィルタ。
【請求項3】
前記隔壁の厚さが、120〜150μmである請求項1又は2に記載の微粒子捕集フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、特に自動車エンジンの排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するためのフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに比較して熱効率が良く、地球温暖化対策としてのCO排出低減要求に合致する自動車用エンジンとして利点があるが、一方で、拡散燃焼による粒子状物質(パティキュレートマター(PM))の発生という問題がある。
【0003】
このPMは、主にスート(煤)等のカーボン微粒子からなるもので、発がん性が認められていることから、自動車エンジンの排ガスに含まれるPMが大気中に放出されるのを防止する必要があり、厳しい排出規制が科せられている。特に、近年においては、PMの排出規制は一段と厳しさが増しており、欧州連合(EU)等では、従来のPMの質量を基準とした排出規制に加え、PMの個数を基準とした排出規制が導入されつつある。
【0004】
このような厳しい排出規制に対応すべく、PM排出量を低減するための多くの研究が行われているが、PM排出量を燃焼技術の改善によって低減するには限界があり、排気系にフィルタを設置することが、現在、唯一の有効なPM排出量の低減手段となっている。
【0005】
PMを捕集するためのフィルタとしては、圧力損失を許容範囲に抑えつつ、高いPM捕集効率を得られることから、ハニカム構造体を用いたウォールフロー型のものが、広く使用されている。このハニカム構造体は、排ガスの入口側となる入口端面から排ガスの出口側となる出口端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、所定のセルの出口端面側の開口端部及び残余のセルの入口端面側の開口端部を目封止する目封止部とを有する。
【0006】
このようなハニカム構造体を用いたフィルタは、入口端面からセル内に流入した排ガスが、隔壁を透過した後、出口端面からセル外に流出する構造となっており、排ガスが隔壁を透過する際に、隔壁が濾過層として機能し、排ガス中に含まれるPMが捕集される。
【0007】
ところで、このようなフィルタを長期間継続して使用するためには、定期的にフィルタに再生処理を施す必要がある。即ち、フィルタ内部に経時的に堆積したPMにより増大した圧力損失を低減させてフィルタ性能を初期状態に戻すため、フィルタ内部に堆積したPMを高温のガスで燃焼させて除去する必要がある。そして、この再生時には、PMの燃焼熱によってフィルタに熱応力が発生するため、フィルタが破損することがある。
【0008】
従来、こうしたフィルタの破損を防止するための対策として、フィルタ全体を1つのハニカム構造体として製造するのではなく、複数個のハニカム形状のセグメント(ハニカムセグメント)を接合してフィルタ用のハニカム構造体とすることが提案されている。具体的には、複数個のハニカムセグメント間を、弾性率が低く変形しやすい接合材で接合一体化したセグメント構造とすることで、再生時にハニカム構造体に作用する熱応力を分散、緩和して、耐熱衝撃性の向上を図っている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら、再生時の熱応力が最も厳しい出口端面においては、非常に低頻度ではあるものの、局所的に過大な温度上昇が生じ、セグメント構造のハニカム構造体を用いたフィルタであっても、熱応力緩和効果が不十分となる場合が有った。そして、このため、過大な温度上昇が生じた高温度部分の熱膨張により、低温度部分が引っ張られて、低温度部分に引張応力が発生し、この低温度部分にクラックが発生するという問題があった。
【0010】
尚、フィルタの再生時に、ハニカム構造体の温度が局所的に上昇して破損するのを防ぐ観点からは、熱容量の大きな材料を使用することが好ましい。このため、フィルタを構成するハニカム構造体の材料として、炭化珪素を主成分とする材料を用いたものが提案されているが、炭化珪素は熱膨張率が大きすぎることから、熱応力による損傷(熱応力割れ)を引き起こす問題があった。
【0011】
また、フィルタに用いるハニカム構造体の材料の気孔率を低減して熱容量を増加させ、温度上昇を抑えることにより、熱応力割れを防ぐという方法も提案されている。しかしながら、この方法では、気孔率を低減した結果、濾過層となる隔壁の細孔が、捕集されたPMにより閉塞されやすくなり、圧力損失が増大すると言う問題があった。
【0012】
更に、フィルタに用いるハニカム構造体の材料の構成粒子(骨材)を大きくして、熱伝導率を向上させ、温度上昇を抑えることにより、熱応力割れを抑える方法も考えられたが、この方法では、細孔が大きくなりすぎて、PM捕集効率が悪化するという問題があった。
【0013】
更にまた、フィルタに用いるハニカム構造体の細孔を大きくして材料のヤング率を低減することにより、強度/ヤング率比を増大させ、熱応力割れに達する歪限界を大きくすることにより熱応力割れを防止する方法も考えられた。しかしながら、この方法でも、細孔を大きくした結果、PM捕集効率が低下してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2002−253916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、圧力損失を増大させたり、PM捕集効率を低下させたりすることなく、再生時に生じる熱応力による損傷を効果的に防止可能な微粒子捕集フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の微粒子捕集フィルタが提供される。
【0017】
[1] 排ガスの入口側となる入口端面から排ガスの出口側となる出口端面まで延びる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、所定のセルの前記出口端面側の開口端部及び残余のセルの前記入口端面側の開口端部を目封止する目封止部とを有する複数個のハニカムセグメントが、接合材により一体的に接合されたハニカム構造体を備え、前記入口端面から前記セル内に流入した排ガスが、前記隔壁を透過した後、前記出口端面から前記セル外に流出する構造の微粒子捕集フィルタであって、前記隔壁は、骨材であるSiCが結合材であるSiにより結合されたものであり、前記隔壁を透過する排ガスの入口側となる前記隔壁の表面に開口している細孔の平均開口径、及び、前記隔壁を透過する排ガスの出口側となる前記隔壁の表面に開口している細孔の平均開口径の内の少なくとも一方が、0.1〜5μmであり、前記隔壁全体の平均細孔径が、10〜30μmであり、前記隔壁の室温における熱伝導率が、50〜80W/mKであり、前記隔壁の気孔率が、34〜43%である微粒子捕集フィルタ。
【0019】
] 前記ハニカム構造体のセル密度が、23〜50セル/cmである[1]に記載の微粒子捕集フィルタ。
【0020】
[3] 前記隔壁の厚さが、120〜150μmである[1]又は[2]に記載の微粒子捕集フィルタ。
【発明の効果】
【0021】
本発明の微粒子捕集フィルタによれば、圧力損失を増大させたり、PM捕集効率を低下させたりすることなく、再生時に生じる熱応力を緩和し、当該熱応力によるフィルタの損傷を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係る微粒子捕集フィルタの実施形態の一例を示す斜視概略図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3】本発明に係る微粒子捕集フィルタの実施形態の一例において使用されている、ハニカムセグメントの斜視概略図である。
図4図3のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体的な実施形態に基づき説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0024】
(1)微粒子捕集フィルタ:
図1は、本発明に係る微粒子捕集フィルタの実施形態の一例を示す斜視概略図であり、図2は、図1の要部拡大図である。また、図3は、本発明に係る微粒子捕集フィルタの実施形態の一例において使用されている、ハニカムセグメントの斜視概略図であり、図4は、図3のA−A線断面図である。
【0025】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1は、図1に示すようなハニカム構造体2を備えたものである。図1及び図2に示すように、ハニカム構造体2は、複数個のハニカムセグメント3が接合材12により一体的に接合されたものである。図3及び図4に示すように、各ハニカムセグメント3は、排ガスの入口側となる入口端面4から排ガスの出口側となる出口端面5まで延びる複数のセル7を区画形成する多孔質の隔壁8を有する。また、各ハニカムセグメント3は、所定のセル7aの出口端面5側の開口端部及び残余のセル7bの入口端面4側の開口端部を目封止する目封止部10を有する。出口端面5側の開口端部が目封止部10により目封止された所定のセル7aと、入口端面4側の開口端部が目封止部10により目封止された残余のセル7bとは、入口端面4と出口端面5とが相補的な市松模様を呈するように、交互に配置されていることが好ましい。
【0026】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1は、このようなハニカム構造体2を備えることにより、入口端面4からセル内に流入した排ガスが、隔壁8を透過した後、出口端面5からセル外に流出する構造となっている。即ち、PMを含む排ガスは、まず、入口端面4側においては開口部が目封止されておらず、出口端面5側において開口部が目封止された所定のセル7a内に流入する。次いで、所定のセル7a内に流入した排ガスは、多孔質の隔壁8を透過して、入口端面4側において開口部が目封止され、出口端面5側においては開口部が目封止されていない残余のセル7b内に移動する。そして、排ガスが、多孔質の隔壁8を透過する際に、この隔壁8が濾過層となり、排ガス中のPMが隔壁8に捕捉され隔壁8上に堆積する。こうして、PMが除去され、残余のセル7bに移動した排ガスは、その後、出口端面5から残余のセル7b外に流出する。
【0027】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1において、隔壁8は、骨材であるSiCが結合材であるSiにより結合されたものである。骨材であるSiCが結合材であるSiにより結合された材料は、SiC系材料の中でも、比較的高い熱伝導率を有するため、これを隔壁の形成材料とすることにより、熱伝導性の良い微粒子捕集フィルタが得られる。また、比較的低温で焼結可能であるため、製造コストが低いという利点もある。
【0028】
濾過層となる隔壁8には、相互に裏と表の関係にある2つの表面がある。これら2つの表面の内、一方は、隔壁8を透過する流体の入口側となる隔壁8の表面(以下、「入口側隔壁表面」と称する。)9aであり、他方は、隔壁8を透過する流体の出口側となる隔壁8の表面(以下、「出口側隔壁表面」と称する。)9bである。
【0029】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1においては、入口側隔壁表面9aに開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面9bに開口している細孔の平均開口径の内の少なくとも一方が、0.1〜5μm、好ましくは、0.1〜3μmである。入口側隔壁表面9aに開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面9bに開口している細孔の平均開口径の内の少なくとも一方を、このような範囲とすることにより、圧力損失を適正な範囲に保ちつつ、高いPM捕集効率を発揮させることができる。
【0030】
入口側隔壁表面9aに開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面9bに開口している細孔の平均開口径の何れもが、0.1μm未満である場合には、高いPM捕集効率が得られるものの、圧力損失が過大となる。また、入口側隔壁表面9aに開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面9bに開口している細孔の平均開口径の何れか一方が0.1μm未満で、他方が5μmを超えている場合も同様である。更に、入口側隔壁表面9aに開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面9bに開口している細孔の平均開口径の何れもが、5μmを超えている場合は、圧力損失は小さくなるものの、PM捕集効率が悪化する。尚、入口側隔壁表面9aに開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面9bに開口している細孔の平均開口径は、水銀圧入法(JIS R 1655準拠)により測定することができる。
【0031】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1においては、隔壁8全体の平均細孔径が、10〜30μm、好ましくは、10〜25μmである。入口側隔壁表面9aに開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面9bに開口している細孔の平均開口径の内の少なくとも一方が、0.1〜5μmという小さな値でも、隔壁8全体の平均細孔径が10〜30μmであれば、圧力損失の過剰な増大を防止できる。
【0032】
隔壁8全体の平均細孔径が、10μm未満である場合には、圧力損失の過剰な増大を防止できず、30μmを超える場合には、PM捕集効率が悪化するとともに、十分な強度を得ることが困難となる。尚、隔壁8全体の平均細孔径は、水銀圧入法(JIS R 1655準拠)により測定することができる。
【0033】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1においては、隔壁8の室温における熱伝導率が、50〜80W/mK、好ましくは、55〜70W/mKである。隔壁8の室温における熱伝導率をこのような範囲とすることにより、フィルタ再生時の局所的な温度上昇を抑制して、熱応力を緩和し、熱応力による損傷を効果的に防止することができる。尚、ここで言う「室温」とは、具体的には、25℃程度であることを意味する。
【0034】
隔壁8の室温における熱伝導率が、50W/mK未満である場合には、フィルタ再生時の局所的な温度上昇を十分に抑制することができないため、熱応力による損傷を防止することが困難となる。また、隔壁8の室温における熱伝導率は、主に、隔壁8の形成材料中のSiC粒子(骨材)の大きさによって制御できるが、室温における熱伝導率が、80W/mKを超えるような隔壁8を得るには、かなり大きな骨材を高い割合で用いる必要が有る。この場合、骨材間に形成される細孔が大きくなりすぎて、PM捕集効率が悪化する。尚、隔壁8の室温における熱伝導率は、定常法により測定することができる。
【0035】
本発明に係る微粒子捕集フィルタにおいては、隔壁8の気孔率が、34〜43%であ、36〜42%あることが好ましい。隔壁8の気孔率をこのような範囲とすることにより、圧力損失を適正な範囲に保ちつつ、フィルタ再生時の局所的な温度上昇を抑制して、熱応力を緩和し、熱応力による損傷を効果的に防止することが容易となる。
【0036】
隔壁8の気孔率が、34%未満である場合には、高い熱伝導率が得られ、フィルタ再生時の熱応力による損傷を効果的に防止することはできるものの、圧力損失の過剰な増大が生じることがある。また、隔壁8の気孔率が、43%を超える場合には、圧力損失を小さくすることはできるものの、熱伝導率が低くなりすぎて、フィルタ再生時の熱応力による損傷を防止することが困難となることがある。尚、隔壁8の気孔率は、水銀圧入法(JIS R 1655準拠)により測定した全細孔容積[cm/g]と、アルキメデス法により測定した見掛密度[g/cm]とから下式により算出することができる。
気孔率(%)=100×全細孔容積/{(1/見掛密度)+全細孔容積}
【0037】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1においては、ハニカム構造体2のセル密度が、23〜50セル/cmであることが好ましく、35〜48セル/cmあることがより好ましい。ハニカム構造体2のセル密度をこのような範囲とすることにより、圧力損失を適正な範囲に保ちつつ、フィルタ再生時の局所的な温度上昇を抑制して、熱応力を緩和し、熱応力による損傷を効果的に防止することが容易となる。
【0038】
ハニカム構造体2のセル密度が、23セル/cm未満である場合には、圧力損失を小さくすることはできるものの、熱伝導率が低くなりすぎて、フィルタ再生時の熱応力による損傷を防止することが困難となることがある。また、ハニカム構造体のセル密度が、50セル/cmを超える場合には、高い熱伝導率が得られ、フィルタ再生時の熱応力による損傷を効果的に防止することはできるものの、圧力損失の過剰な増大が生じることがある。
【0039】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1においては、隔壁8の厚さが、120〜180μmであることが好ましく、150〜180μmであることがより好ましい。隔壁8の厚さをこのような範囲とすることにより、圧力損失を適正な範囲に保ちつつ、フィルタ再生時の局所的な温度上昇を抑制して、熱応力を緩和し、熱応力による損傷を効果的に防止することが容易となる。
【0040】
隔壁8の厚さが、120μm未満である場合には、圧力損失を小さくすることはできるものの、熱伝導率が低くなりすぎて、フィルタ再生時の熱応力による損傷を防止することが困難となることがある。また、隔壁8の厚さが、180μmを超える場合には、高い熱伝導率が得られ、フィルタ再生時の熱応力による損傷を効果的に防止することはできるものの、圧力損失の過剰な増大が生じることがある。
【0041】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1において、ハニカム構造体2の形状は特に限定されず、例えば、端面が円形の筒状(円筒形状)、端面がオーバル形状の筒状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の筒状等の形状とすることができる。ハニカム構造体2のセル形状(セルの延びる方向に直交する断面におけるセルの形状)も、特に限定されないが、四角形、六角形、八角形等の多角形が好ましい。
【0042】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1において、目封止部10の形成材料には、隔壁8の形成材料と同じ材料を用いることが好ましい。そうすることにより、隔壁8と目封止部10との熱膨張差を小さくすることができ、隔壁8と目封止部10との間に生じる熱応力を緩和することができる。
【0043】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1において、複数個のハニカムセグメント3を一体的に接合する接合材12としては、無機粒子とコロイド状酸化物とを含むものであることが好ましい。
【0044】
接合材12に含まれる無機粒子としては、例えば、炭化珪素、窒化珪素、コージェライト、アルミナ、ムライト、ジルコニア、燐酸ジルコニウム、アルミニウムチタネート、チタニア及びこれらの組み合わせよりなる群から選ばれるセラミックス、Fe−Cr−Al系金属、ニッケル系金属、珪素−炭化珪素系複合材料等からなる粒子を好適に用いることができる。
【0045】
コロイド状酸化物としては、シリカゾル、アルミナゾル等が好適なものとして挙げられる。コロイド状酸化物は、接合材に適度な接着力を付与するために好適であり、また、乾燥・脱水することによって無機粒子と結合し、乾燥後の接合材を、耐熱性等に優れた強固なものとすることができる。
【0046】
また、ハニカムセグメントの接合時には、これらの成分に加え、必要に応じて、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の有機バインダ、分散剤、水等を加え、ミキサー等の混練機を使用して混合、混練してスラリー状にしたものが好適に使用できる。
【0047】
接合材12の厚さは、ハニカムセグメント3の相互間の接合力を勘案して決定され、例えば、0.5〜3.0mmの範囲で適宜選択される。
【0048】
本願発明に係る微粒子捕集フィルタ1は、前記のようなハニカム構造体2に加えて、ハニカム構造体2以外の構成要素を備えていてもよい。微粒子捕集フィルタ1のハニカム構造体2以外の構成要素としては、例えば、ハニカム構造体2をその内部に収納するための筒状のキャニング用缶体や、このキャニング用缶体の内周面とハニカム構造体2の外周面との間に配設するセラミック繊維製マット等の圧縮弾性材料等が挙げられる。
【0049】
本発明に係る微粒子捕集フィルタ1は、自動車エンジン等の排ガス中に含まれるPMを捕集するためのフィルタとして使用することができる。特に、ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる、スート(煤)等のカーボン微粒子を主体としたPMを捕集するためのディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)として、好適に使用することができる。
【0050】
(2)微粒子捕集フィルタの製造方法:
本発明に係る微粒子捕集フィルタの製造方法の一例としては、まず、骨材となる炭化珪素粉末と、焼成により炭化珪素粒子間を結合するSi粉末とを混合し、必要に応じて、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して、成形原料を作製する。
【0051】
炭化珪素粉末としては、平均粒子径が0.1〜10μmの小粒径粉末と、平均粒子径が50〜100μmの大粒径粉末とを混合して用いることが好ましい。小粒径粉末の大粒径粉末に対する質量比率は1〜50質量%であることが好ましい。尚、ここで言う「平均粒子径」は、レーザー回折法で測定した値である。
【0052】
Si粉末の質量比率は、炭化珪素粉末とSi粉末との混合粉末全体の20〜35質量%であることが好ましい。
【0053】
バインダとしては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の有機バインダを挙げることができる。これらの中でも、メチルセルロースとヒドロキシプロポキシルセルロースとを併用することが好ましい。バインダの含有量は、成形原料全体に対して2〜10質量%であることが好ましい。
【0054】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の含有量は、成形原料全体に対して2質量%以下であることが好ましい。
【0055】
造孔材としては、焼成後に気孔となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、グラファイト、澱粉、発泡樹脂、吸水性樹脂、シリカゲル等を挙げることができる。造孔材の含有量は、成形原料全体に対して10質量%以下であることが好ましい。造孔材の平均粒子径は、10〜30μmであることが好ましい。造孔材の平均粒子径が、10μmより小さいと、気孔を十分に形成できないことがある。また、造孔材の平均粒子径が、30μmより大きいと、成形の際に、成形用の口金に詰まることがある。尚、ここで言う「平均粒子径」は、レーザー回折法で測定した値である。また、造孔材が吸水性樹脂の場合、その平均粒子径は、吸水後の値である。
【0056】
水の含有量は、成形原料を混練して得られる坏土が成形しやすい硬度となるように適宜調整される。具体的な水の含有量としては、成形原料全体に対して20〜80質量%であることが好ましい。
【0057】
次に、成形原料を混練して坏土を形成する。成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0058】
次いで、坏土を押出成形してハニカム成形体を形成する。押出成形には、得ようとするハニカム成形体の所望の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度等に対応した口金を用いることが好ましい。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。ハニカム成形体は、流体の流路となる複数のセルを区画形成する隔壁と最外周に位置する外周壁とを有する成形体である。ハニカム成形体の隔壁厚さ、セル密度、外周壁の厚さ等は、乾燥、焼成における収縮を考慮し、作製しようとするハニカムセグメントの寸法・構造に合わせて適宜決定することができる。
【0059】
こうして得られたハニカム成形体について、焼成前に乾燥を行うことが好ましい。乾燥の方法は特に限定されず、例えば、マイクロ波加熱乾燥、高周波誘電加熱乾燥等の電磁波加熱方式と、熱風乾燥、過熱水蒸気乾燥等の外部加熱方式とを挙げることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に、クラックが生じないように乾燥することができる点で、電磁波加熱方式で一定量の水分を乾燥させた後、残りの水分を外部加熱方式により乾燥させることが好ましい。乾燥の条件として、電磁波加熱方式にて、乾燥前の水分量に対して、30〜99質量%の水分を除いた後、外部加熱方式にて、3質量%以下の水分にすることが好ましい。電磁波加熱方式としては、誘電加熱乾燥が好ましく、外部加熱方式としては、熱風乾燥が好ましい。
【0060】
ハニカム成形体のセルの延びる方向における長さが、所望の長さではない場合は、両端面(両端部)を切断して所望の長さとすることが好ましい。切断方法は特に限定されないが、丸鋸切断機等を用いる方法を挙げることができる。
【0061】
続いて、ハニカム成形体を焼成して、ハニカムセグメントを作製する。焼成の前に、バインダ等を除去するため、仮焼(脱脂)を行うことが好ましい。仮焼は、大気雰囲気において、200〜600℃で、0.5〜20時間行うことが好ましい。焼成は、窒素、アルゴン等の非酸化雰囲気下(酸素分圧は10−4気圧以下)、1420〜1480℃、常圧で1〜20時間加熱することが好ましい。なお、仮焼及び焼成は、例えば、電気炉、ガス炉等を用いて行うことができる。
【0062】
焼成後、得られたハニカムセグメントに目封止部を形成する。この目封止部を形成には、従来公知の方法を用いることができる。具体的な方法の一例としては、まず、前記のような方法で作製したハニカムセグメントの端面にシートを貼り付ける。次いで、このシートの、目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に穴を開ける。次に、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の形成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、ハニカムセグメントの端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの開口端部内に目封止用スラリーを充填する。こうして充填した目封止用スラリーを乾燥した後、焼成して硬化させるより、目封止部が形成される。尚、目封止部の形成材料には、ハニカムセグメントの形成材料と同じ材料を用いることが好ましい。
【0063】
こうして目封止部が形成されたハニカムセグメントを複数個作製し、それらの外周壁表面に、スラリー状の接合材を塗布して、所定の立体形状となるように組み付け、その組み付け状態で圧着しながら、加熱乾燥する。これにより、複数個のハニカムセグメントが接合材を介して接合一体化されたハニカム構造体が得られる。接合材の形成材料には、例えば、炭化珪素粉末等の無機粒子に、シリカゾル等のコロイド状酸化物を加えたものを用いることができる。
【0064】
尚、複数個のハニカムセグメントを組み付けただけでは、所定のハニカム構造体の形状が得られない場合は、ハニカムセグメントが接合一体化された後、ハニカム構造体が所定の形状となるように、ハニカム構造体の外周部に研削加工を施す。この場合、研削加工後のハニカム構造体の外周面(加工面)はセルが露出した状態になっているので、図1に示すように、外周面をコート材6によって被覆することが好ましい。コート材の形成材料には、接合材の形成材料と同じ材料を用いることが好ましい。
【0065】
こうして得られたハニカム構造体は、隔壁全体の平均細孔径が、10〜30μm程度であり、この時点では、隔壁の表面に開口している細孔の平均開口径も、それと同程度である。そこで、このハニカム構造体に対し、入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径の内の少なくとも一方が、0.1〜5μmとなるように処理を施す。
【0066】
例えば、入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径を0.1〜5μmとなるようにする場合には、まず、ハニカム構造体の入口端面を上にして、その上部にスラリーを溜めるスラリープールを取り付ける。次いで、このスラリープール内に、隔壁表面に開口している細孔の開口径を小さくするためのスラリーを注入する。このスラリーは、骨材粒子となる粒子径0.1〜10μmの炭化珪素粉末と、この骨材粒子を隔壁表面に開口している細孔の開口部に結合させるための結合粒子となるコロイダルシリカとを水に分散させたものであることが好ましい。
【0067】
次に、スラリープール内に注入されたスラリーを、スラリープールの底部に設けられた孔を通じて、出口端面側の開口端部が目封止されたセル(入口端面側の開口端部が目封止されていないセル)内に流入させ、入口側隔壁表面から隔壁表層部に含浸させる。その後、ハニカム構造体の出口端面に吸引治具を取り付け、この吸引治具にて出口端面側から吸引を行うことにより、余剰水分を取り除いてから700℃程度の温度で熱処理する。この熱処理により、ハニカム構造体が乾燥するとともに、スラリーに含まれていた微細な骨材粒子が、入口側隔壁表面に開口している細孔の開口部に結合する。その結果、入口側隔壁表面に開口している細孔の開口径が小さくなり、隔壁全体の平均細孔径が、10〜30μmでありながら、入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径は0.1〜5μmである本発明に係る微粒子捕集フィルタが得られる。
【0068】
尚、出口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径を0.1〜5μmとなるようにする場合には、ハニカム構造体の入口端面と出口端面との上下関係を逆にして、前記と同様の操作を行えばよい。また、隔壁表面に開口している細孔の平均開口径を制御する方法は、前記のような方法には限られない。例えば、ハニカム構造体ではなく、焼成前のハニカム成形体の段階で、前記のようなスラリーを隔壁表層部に含浸させてもよい。また、前記スラリーに用いたような微細な骨材粒子を含む気流を、ハニカム構造体のセル内に流して、その微細な骨材粒子を隔壁に捕集させた後、それを熱処理することによって、隔壁表面に開口している細孔の開口部に結合させるようにしてもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1〜23、参考例1及び2並びに比較例1〜6)
平均粒子径0.1μmの炭化珪素粉末(小粒径粉末)35質量部と、平均粒子径100μmの炭化珪素粉末(大粒径粉末)35質量部と、Si粉末30質量部とを混合して、混合粉末を得た。この混合粉末における炭化珪素粉末(小粒径粉末及び大粒径粉末)の平均粒子径は22.0μmである。この混合粉末100質量部に対し、バインダとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースを7質量部、造孔材として平均粒子径20μmのデンプンと吸水性樹脂とを合計12質量部、水を70質量部添加して、成形原料とした。尚、炭化珪素粉末及び造孔材の平均粒子径は、レーザー回折法で測定した値である。
【0071】
次に、成形原料を混練し、土練して円柱状の坏土を作製した。そして、得られた円柱状の坏土を押出成形機を用いてハニカム形状に成形し、ハニカム成形体を得た。得られたハニカム成形体を誘電加熱乾燥した後、熱風乾燥機を用いて120℃で2時間乾燥し、ハニカム乾燥体を得た。
【0072】
次いで、このハニカム乾燥体の各セルの一方の開口端部に、目封止部を形成した。目封止部の形成は、開口端部に目封止部が形成されたセルと、開口端部に目封止部が形成されていないセルとによって、ハニカム構造体の各端面(入口端面及び出口端面)が、市松模様を呈するように行った。目封止部の形成方法としては、まず、ハニカム乾燥体の端面にシートを貼り付け、このシートの、目封止部を形成しようとするセルに対応した位置に穴を開けた。続いて、このシートを貼り付けたままの状態で、目封止部の形成材料をスラリー化した目封止用スラリーに、ハニカム乾燥体の端面を浸漬し、シートに開けた孔を通じて、目封止しようとするセルの開口端部内に目封止用スラリーを充填した。尚、目封止部の形成材料には、前記成形原料と同じものを用いた。
【0073】
こうして、セルの開口端部内に充填した目封止用スラリーを乾燥した後、このハニカム乾燥体を、大気雰囲気にて550℃で3時間かけて仮焼(脱脂)した。その後、Ar不活性雰囲気にて約1450℃で2時間焼成して、各端面(入口端面及び出口端面)が一辺35mmの正方形であり、軸方向(セルの延びる方向)における長さが152mmであるハニカムセグメントを得た。
【0074】
続いて、平均粒子径20μmの炭化珪素粉末にシリカゾル水溶液を混合してスラリー状の接合材を得た。この接合材を、ハニカムセグメントの外周壁表面に、厚さ約1mmとなるように塗布し、その上に別のハニカムセグメントを載置する工程を繰り返し、4個×4個に組み付けられた合計16個のハニカムセグメントからなるハニカムセグメント積層体を作製した。そして、適宜、外部より圧力を加えるなどしてハニカムセグメント積層体を構成するハニカムセグメント同士を圧着させながら、120℃で2時間乾燥させてハニカムセグメント接合体を得た。
【0075】
このハニカムセグメント接合体の外形が円柱状になるように、その外周を研削加工した後、その加工面に接合材と同じ組成のコート材を塗布し、700℃で2時間乾燥硬化させた。こうして、各端面(入口端面及び出口端面)が直径144mmの円形であり、軸方向における長さが152mmであるハニカム構造体を得た。尚、この時点で、入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径は、何れも30μmであった。
【0076】
次に、このハニカム構造体に対し、入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径、及び/又は、出口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径を小さくするための処理を行った。
【0077】
入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径を小さくするための処理としては、まず、ハニカム構造体の入口端面を上にして、その上部にスラリーを溜めるスラリープールを取り付けた。次いで、このスラリープール内に、骨材粒子となる粒子径0.1〜10μmの炭化珪素粉末と、この骨材粒子を隔壁表面に開口している細孔の開口部に結合させるための結合粒子となるコロイダルシリカとを水に分散させたスラリーを注入した。
【0078】
次に、スラリープール内に注入されたスラリーを、スラリープールの底部に設けられた孔を通じて、出口端面側の開口端部が目封止されたセル(入口端面側の開口端部が目封止されていないセル)内に流入させ、入口側隔壁表面から隔壁表層部に含浸させた。その後、ハニカム構造体の出口端面に吸引治具を取り付け、この吸引治具にて出口端面側から吸引を行うことにより、余剰水分を取り除いてから700℃程度の温度で熱処理した。この熱処理により、ハニカム構造体を乾燥させるとともに、スラリーに含まれていた微細な骨材粒子を、入口側隔壁表面に開口している細孔の開口部に結合させ、その開口径を小さくした。
【0079】
出口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径を小さくするための処理は、ハニカム構造体の入口端面と出口端面との上下関係を逆にした以外は、前記入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径を小さくするための処理と同様の操作により行った。
【0080】
このような処理を行うことにより、最終的に、表1に示すような構造のハニカム構造体からなる実施例1〜23、参考例1及び2並びに比較例1〜6の微粒子捕集フィルタを得た。尚、表1に示す項目の内、入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径、出口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径、隔壁全体の平均細孔径、隔壁の気孔率、及び隔壁の熱伝導率は、それぞれ下記の方法により求めた。
【0081】
[入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径、出口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径、及び隔壁全体の平均細孔径]:
水銀圧入法(JIS R 1655準拠)により測定した。
【0082】
[隔壁の気孔率]:
水銀圧入法(JIS R 1655準拠)により測定した全細孔容積[cm/g]と、アルキメデス法により測定した見掛密度[g/cm]とから下式により算出した。
気孔率(%)=100×全細孔容積/{(1/見掛密度)+全細孔容積}
【0083】
[隔壁の熱伝導率]:
定常法により測定した。
【0084】
【表1】
【0085】
(微粒子捕集フィルタの性能評価)
実施例1〜23、参考例1及び2並びに比較例1〜6の微粒子捕集フィルタについて、下記の方法で、スートマスリミット(SML)、圧力損失、及びPM捕集効率の評価を行い、その結果を表2に示した。また、これら各項目の評価結果に基づいて、下記の方法で、総合評価を行い、その結果を同表に示した。
【0086】
[スートマスリミット(SML)]
微粒子捕集フィルタを、ディーゼルエンジンの排気系に取り付け、ディーゼルエンジンから排出されたスート(煤)を含む排ガスを、微粒子捕集フィルタの入口端面から流入させ、出口端面から流出させることによって、スートを微粒子捕集フィルタ内に堆積させた。そして、一旦、室温(25℃)まで冷却した後、微粒子捕集フィルタの入口端面から、680℃の燃焼ガスを流入させ、スートが燃焼することにより微粒子捕集フィルタの圧力損失が低下したときに、燃焼ガスの流量を減少させることによって、スートを急燃焼させた。その後、微粒子捕集フィルタにおけるクラックの発生の有無を確認した。このような微粒子捕集フィルタの再生処理を、スートの堆積量を4g/L(微粒子捕集フィルタの容積1リットル当りのスートの堆積量)とした状態から始め、クラックの発生が認められるまで、0.5g/Lずつ堆積量を増加して、繰り返し行った。クラック発生時のスートの堆積量を、スートマスリミット(SML)とした。一般に、スートの堆積量が多い程、それを燃焼させた時の発熱量が大きくなるため、微粒子捕集フィルタに生じる熱応力も大きくなり、クラックが発生しやすくなる。よって、SMLが大きい程、再生時に生じる熱応力の緩和効果が高いと言える。こうして求められたSMLが、8g/L以上のものを「好ましい」とし、8g/L未満のものを「好ましくない」とした。
【0087】
[圧力損失]
微粒子捕集フィルタに、室温(25℃)の空気を10Nm/分の流量で流した際の微粒子捕集フィルタの入口側(上流側)と出口側(下流側)との圧力を測定し、その圧力差を算出することにより、圧力損失を求めた。こうして求められた圧力損失が2.0kPa以下のものを「好ましい」とし、2.0kPaを超えるものを「好ましくない」とした。
【0088】
[PM捕集効率]
微粒子捕集フィルタを、排気量2Lのディーゼルエンジンが搭載された乗用車の排気系に取り付けた。そして、この乗用車をNEDC(New European Driving Cycle)モードで走行させた際の微粒子捕集フィルタの入口側におけるPM個数累計と、微粒子捕集フィルタの出口側におけるPM個数累計との比率から、PM捕集効率を算出した。尚、PM個数の測定は、欧州経済委員会における自動車基準調和世界フォーラムの排出ガスエネルギー専門家会議による粒子測定プログラム(略称「PMP」)によって提案された手法に従って行った。こうして求められたPM捕集効率が90%以上のものを「好ましい」とし、90%未満のものを「好ましくない」とした。
【0089】
[総合評価]
上記の方法で求められたSMLをA(g/L)、圧力損失をB(kPa)、PM捕集効率をC(%)としたときに、A×C/Bという式で算出された値が、400以上のものを「合格」とし、400未満のものを「不合格」とした。
【0090】
【表2】
【0091】
(考察)
表2に示すとおり、本願発明の実施例である実施例1〜19の微粒子捕集フィルタは、何れの評価項目においても優れた性能を発揮した。また、隔壁の気孔率が34%未満である参考例1の微粒子捕集フィルタは、圧力損失がやや大きめではあったが、SMLが大きく、高いPM捕集効率を示すことから、総合評価としては合格であった。隔壁の気孔率が43%を超える参考例2の微粒子捕集フィルタは、SMLがやや小さめではあったが、圧力損失が低く、高いPM捕集効率を示すことから、総合評価としては合格であった。隔壁の厚さが120μm未満である実施例20の微粒子捕集フィルタも、SMLがやや小さめではあったが、圧力損失が低く、高いPM捕集効率を示すことから、総合評価としては合格であった。ハニカム構造体のセル密度が23セル/cm未満である実施例21の微粒子捕集フィルタも、SMLがやや小さめではあったが、圧力損失が低く、高いPM捕集効率を示すことから、総合評価としては合格であった。隔壁の厚さが180μmを超える実施例22の微粒子捕集フィルタは、圧力損失がやや大きめではあったが、SMLが大きく、高いPM捕集効率を示すことから、総合評価としては合格であった。ハニカム構造体のセル密度が50セル/cmを超える実施例23の微粒子捕集フィルタも、圧力損失がやや大きめではあったが、SMLが大きく、高いPM捕集効率を示すことから、総合評価としては合格であった。
【0092】
一方、入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径の何れもが0.1μm未満である比較例1の微粒子捕集フィルタは、SMLが大きく、高いPM捕集効率が得られるものの、圧力損失が大きすぎるため、総合評価としては不合格であった。入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径の何れか一方が0.1μm未満で、他方が5μmを超えている比較例3の微粒子捕集フィルタも、比較例1の微粒子捕集フィルタと同様であった。また、入口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径、及び、出口側隔壁表面に開口している細孔の平均開口径の何れもが5μmを超えている比較例2の微粒子捕集フィルタは、SMLが大きく、圧力損失が小さいものの、PM捕集効率が低すぎるため、総合評価としては不合格であった。隔壁の室温における熱伝導率が50W/mK未満である比較例4の微粒子捕集フィルタは、圧力損失が小さく、高いPM捕集効率が得られるものの、SMLが小さすぎるため、総合評価としては不合格であった。隔壁全体の平均細孔径が10μm未満である比較例5の微粒子捕集フィルタは、SMLが大きく、高いPM捕集効率が得られるものの、圧力損失が大きすぎるため、総合評価としては不合格であった。隔壁全体の平均細孔径が30μmを超える比較例6の微粒子捕集フィルタは、SMLが大きく、圧力損失が小さいものの、PM捕集効率が低すぎるため、総合評価としては不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、自動車エンジン等の排ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するためのフィルタとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0094】
1:微粒子捕集フィルタ、2:ハニカム構造体、3:ハニカムセグメント、4:入口端面、5:出口端面、6:コート材、7:セル、7a:所定のセル、7b:残余のセル、8:隔壁、9a:入口側隔壁表面、9b:出口側隔壁表面、10:目封止部、11:外周壁、12:接合材。
図1
図2
図3
図4