【実施例】
【0055】
(1)
中和処理温度の影響の検討
本発明の方法における中和処理温度の影響を調べるために、本発明におけるインラインホモジナイザーと液中噴射ノズルとを用いた中和処理装置に近似した中和処理装置として、強力なせん断撹拌作用が得られる実験室用のホモミキサー(商品名:TKホモミクサー MARKII、特殊機化工業株式会社製)を用いて、使用済みフライ油の中和処理における処理温度の影響を調べた。
【0056】
フライ油としては酸価(AV)が2.83の使用済みフライ油を用い、これに中和剤として粒径が150μm以下を主成分とする粉末状水酸化カルシウムを用い、これを使用済みフライ油に対する化学当量の2.9倍(Ca/AV=2.9)になる大過剰で添加して、ホモミキサーで毎分4,000回転で30分間中和処理を行った。中和処理した後、定量分析用濾紙No.5Cで濾過した。この条件で処理温度を種々変えて中和処理を行い、濾過後のフライ油のAV値を測定した。 その結果を表1と
図4に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
この結果からわかるように、処理温度が100℃ではまだAV値が2.71、AV低減率が4%で反応速度が遅く、110℃でもAV値が1.20、AV低減率が58%で、まだ十分には中和反応が進行していない。これらの結果から中和処理の温度としては110℃以上が必要であり、130℃〜150℃の処理温度が好ましい。
【0059】
(2)
中和処理時間の影響の検討
本発明の方法における中和処理時間の影響を調べるために、上記(1)と同じホモミキサーを使用した中和処理装置を用いて、使用済みフライ油の中和処理における処理時間の影響を調べた。
【0060】
フライ油としては酸価(AV)が1.52の使用済みフライ油を用い、これに水酸化カルシウムとして、(1)と同じ粉末状水酸化カルシウムを化学当量が0.66、0.94及び1.42の割合で添加したものについて、処理温度150℃で120分間中和処理を行い、途中の15分、30分、60分及び中和処理の終了時(120分)にそれぞれサンプルを採取し、定量分析用濾紙No.5Cで濾過し、AV値を測定した。ホモミキサーは毎分4,000回転で使用した。
その結果を表2、表3と
図5に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
中和剤の水酸化カルシウムの添加量がいずれの場合であっても、中和処理時間が30分までにはAV値が最低値になり、それ以上処理時間を長くしてもAV値に変化が見られなかった。従って、本発明の装置の場合には中和処理の時間は30分程度で充分であることが分かった。
【0064】
(3)
中和処理方式の相違による影響の検討
中和処理方式の相違による影響を調べるために、インラインホモジナイザーと液中噴射ノズルとからなる本発明の中和処理装置を用いた中和処理と、プロペラ撹拌方式による中和処理装置を用いた中和処理について、AV値の低下の程度及び処理後の長期間保存した場合のフライ油の外観評価を行った。
【0065】
ここで使用した本発明の中和処理装置は、
図1のフロー図に示すように、中和槽3と液循環用ポンプ6、液循環配管7、液循環用ポンプ6の出口側の液循環配管に設置されたインラインホモジナイザー5から構成されている。中和槽3としては、400mmφ×362mmH、容量45Lのステンレス製容器を用い、液の加熱は投げ込み式電気ヒーターを用いた。この中和槽3の内部に液中噴射ノズル4を取り付けた。この液中噴射ノズル4は、中和槽3の液面下で液面から1/3の位置になるように、液循環配管7の先端を液中噴射ノズル4の駆動用液体接続口に接続した。液中噴射ノズル4は、液中噴射ノズル1/4MEJX(株式会社いけうち製)を用いた。インラインホモジナイザー5は、内部に多数の突起状の構造物を配置した固定式インラインホモジナイザー(商品名:OHRラインミキサーMX−8、株式会社OHR流体工学研究所製)を使用した。
【0066】
また、プロペラ撹拌式中和処理装置としては、中和槽として400mmφ×362mmH、容量45Lのステンレス製容器を用い、液の加熱は投げ込み式電気ヒーターを用いた。これに直径70mmの4本の羽根からなるプロペラ撹拌機を取り付け、回転数700rpmで使用した。
【0067】
フライ油としては、揚げ物の調理に使用してAV値が1.52に上昇した使用済みフライ油を用いた。また、中和剤としては、粉末状水酸化カルシウム(食品添加物用消石灰、粉末度残分:600μm全通、150μm0.6%、足立石灰工業株式会社製)を用いた。これを使用済みフライ油に対する化学当量(Ca/AV)が0.7、0.9(又は0.95)及び1.4の割合となるように添加して試験液とした。
【0068】
本発明の中和処理装置の場合には、中和槽3に上記の使用済みフライ油32Lを仕込み、所定量の水酸化カルシウムを加えて、投げ込みヒーターによってフライ油を150℃まで加熱しつつ液循環用ポンプ6によって仕込んだ使用済みフライ油と中和剤の混合液を1.6L/分の流速で液循環配管7を通って循環させた。この時のインラインホモジナイザー5中を通過する際の混合液の流速は20m/分であった。インラインホモジナイザー5を通った混合液は液中噴射ノズル4に入り、中和槽3の中の混合液中に噴出され、この状態で混合液の循環を続けて150℃の温度で中和処理を行った。この中和処理開始から15分、30分、60分及び120分経過した時にサンプルを採取した。
【0069】
プロペラ撹拌式中和処理装置の場合には、中和槽に上記の使用済みフライ油32Lを仕込み、所定量の水酸化カルシウムを加えて、プロペラ式攪拌機で回転数700rpmで撹拌しつつ投げ込みヒーターによってフライ油を150℃まで加熱し、引き続きこの条件で撹拌を続けて中和処理を行った。この中和処理開始から30分、60分及び120分経過した時にサンプルを採取した。
【0070】
採取したすべてのサンプルを定量分析用濾紙No.5Cを用いた減圧濾過装置で濾過した。濾過後のすべての試験液のAV値を測定するとともに、このリフレッシュ処理後に室温で長期間保存した場合のフライ油の外観評価を行った。外観評価は、次の方法によって各サンプルの外観濁度と沈降物量を評価した。
【0071】
外観濁度は、サンプルを100mLの透明な円筒形ガラス瓶に入れ、これを光にかざし目視観察により次の基準で評価した。
1:透明(Clear)
2:半透明(Slight Hazy)
3:濁りあり(Hazy)
4:ひどい濁りあり(Heavy Hazy)
【0072】
沈降物の量は、100mLの透明な円筒形ガラス瓶に入れたサンプルを室内で常温で保存し、一定期間ごとに沈降物に発生状況を目視で観察し、次の基準で評価した。
0: 沈降物が全くない(No Sediment)
Tr:わずかに沈降物がある(Trace Sediment)
1: 少量の沈降物がある(Slight Sediment)
2: 底部に1mm以下の沈降物が認められる(Little Sediment)
3: 底部に5mm以下の沈降物がある(Moderate Sediment)
4: 底部に5mm以上の沈降物がある(Heavy Sediment)
【0073】
これらの結果を表4に示す。表4において、外観評価の結果の記載欄の数値(A/B)は、Aが上記の外観濁度の評価結果を示し、Bが沈降物の量の評価結果を示す。評価結果が1/0、又は1/Trのものは外観評価が良好で経日安定性が良いということができる。
この外観評価の結果の記載方法は、表5以降の表においても同じである。
【0074】
【表4】
【0075】
この結果から、本発明の中和処理装置を用いた場合もプロペラ撹拌式中和処理装置を用いた場合も、到達するAV値の低下の程度はあまり相違がないが、前者の場合には約15分でほぼAV値が一定の値になったのに対して、後者の場合は約30分でほぼAV値が一定の値になった。また、外観評価の結果は、例えばCa/AVが0.9(又は0.95)の場合で比較すると、本発明の中和処理装置を用いた場合には、処理時間が30分の場合で、3日後でも外観が透明で沈降物は発生しておらず1週間後になって外観濁度が半透明になる程度で、沈降物も発生しなかったのに対して、プロペラ撹拌式中和処理装置を用いた場合には、同じく処理時間が30分の場合で、0日では外観が半透明で1週間後には濁りが発生し、かなりの量の沈降物が発生する状態になった。また、処理時間が60分の場合には、前者(本発明)では4週間経過しても外観が透明で沈降物も発生しないか、発生してもごくわずかであったが、後者(プロペラ方式)では、1週間後には濁りが生じて、沈降物も認められた。
これらの結果から、本発明の中和処理装置を用いた場合には、中和反応が早く進行し比較的短時間でAV値が低下するとともに、濾過後のフライ油が長期間保存しても液の濁りが生じたり、沈降物が発生することがないことがわかる。
【0076】
(4)
繰り返し使用した使用済みフライ油での検討
繰り返し使用してAV値の高い値となった使用済みフライ油について、前記(3)に記載した本発明の中和処理装置を用いて中和処理を行い、中和処理を終了した試験液を固形分除去装置にかけて不溶性の固形分を除去して、リフレッシュしたフライ油を得た。固形分除去装置としては、本発明の竪型バスケット型遠心分離機、減圧濾過装置又は加圧濾過装置のいずれかを用いた。
【0077】
ここで、本発明の遠心分離装置としては、竪型バスケット型遠心分離機(商品名:マイクロセパレーターTSK51NH型、東都セパレーター工業株式会社製)を使用し、回転数2,000rpmで約80℃で遠心分離処理を行った。
減圧濾過装置は、濾材として90mmφの定量用ろ紙N05C(保留粒子径1μm)を使用し、実験室用減圧濾過機によって真空ポンプで10KPa(abs)に減圧して約100mLを約80℃で濾過した。また、加圧濾過装置は、濾材として90mmφの定量用ろ紙N05C(保留粒子径1μm)を使用し、実験室用加圧濾過機によってポンプで290KPa(abs)に加圧して約100mLを約80℃で濾過した。
【0078】
試験に供するフライ油としては、繰り返して揚げ物食品の製造に使用してAV値が2.40及び3.25というように高くなった使用済みフライ油を用いた。これに中和剤として上記(3)と同じ粒径が150μm以下を主成分とする粉末状水酸化カルシウムを用い、これを使用済みフライ油に対する化学当量の0.9(Ca/AV=0.9)になる割合で添加して、上記の中和処理装置と固形分除去装置のいずれかの組合わせによって、中和処理時間が30分、60分及び120分のそれぞれについて使用済みフライ油のリフレッシュ処理を行った。リフレッシュ処理後のそれぞれの試験液のAV値を測定し、(3)と同じ方法と評価基準によって試験液の濁りの発生程度と室温で長期間保存した場合の沈降物の発生状況を調べて、これらの試験液の外観評価を行った。これらの結果を表5に示す。
【0079】
【表5】
【0080】
この結果からわかるように、中和処理装置としてインラインホモジナイザーと液中噴射ノズルを用い、固形分除去装置として遠心分離機を用いた本発明の方法で処理した場合は、AV値が2.40と3.25のいずれの場合であっても、また、処理時間が30分、60分及び120分のいずれであっても、AV値低減率が75%以上となり良好な中和処理を行うことができた。更に、これらの場合には、固形分を遠心分離機によって除去した後の処理液を4週間にわたって長期間保存してもその外観は透明であり、沈降物もまったく発生しないか、またはわずかな沈降物が認められる程度であった。これに対して、同じインラインホモジナイザーと液中噴射ノズルとからなる中和処理装置を用いた場合であっても、固形分除去装置として減圧濾過装置又は加圧濾過装置を用いた場合には、中和処理は同程度に達成することができたが、処理液の外観は3日目に濁りが発生し、3日目から沈降物が発生するという状態であった。
【0081】
即ち、中和処理装置としてインラインホモジナイザーと液中噴射ノズルを用い、固形分除去装置として遠心分離機を用いた場合にはじめて、単に使用済みフライ油の中和処理が良好に行われるだけでなく、処理後のフライ油が液の濁りや沈降物の発生がなく良好なものが得られることが分かった。
【0082】
(5)
AV値のあまり高くない使用済みフライ油での検討
1〜2回の使用でAV値のあまり高くない使用済みフライ油について、インラインホモジナイザーと液中噴射ノズルとからなる中和処理装置とバスケット型遠心分離機からなる本発明の使用済みフライ油のリフレッシュ装置を用いて同様の検討を行った。
フライ油としてAV値が0.61の使用済みフライ油を用い、これに中和剤として粒径が150μm以下を主成分とする粉末状水酸化カルシウムを用い、これを使用済みフライ油に対する化学当量(Ca/AV)が0.9、1.2及び2.0となる割合で添加して試験液とした。
【0083】
これらの中和剤を添加した使用済みフライ油を、上記の(3)で使用した中和処理装置及び(4)で使用した竪型バスケット型遠心分離機からなる本発明の使用済みフライ油のリフレッシュ装置によって、150℃の温度で、それぞれ30分間、60分間又は120分間の間中和処理を行い、次いで中和処理終了後、これらの試験液を回転数2000rpmで80℃でバスケット型遠心分離機にかけて、残存する中和剤やその他の不溶性の固形分を除去した。
遠心分離後のこれらの試験液のAV値を測定するとともに、(3)と同じの方法と評価基準によって試験液の濁りの発生程度と長期間室温で保存した場合の沈降物の発生状況を調べて、これらの試験液の外観評価を行った。これらの結果を表6に示す。
【0084】
【表6】
【0085】
この結果から、処理前にAV値が0.6であった使用済みフライ油についても30分程度の本発明の方法によるリフレッシュ処理によって処理後のAV値が0.5〜0.6なり、その外観は透明で液の濁りの発生はなく、4週間以上の長期間室温に保存しても沈降物もまったく生じないことが分かった。従って、揚げ物食品の製造に1〜2回使用したAV値が0.6程度のフライ油も、その都度本発明の方法によってリフレッシュ処理することによって、安定した品質で長期間使用することのできるフライ油にリフレッシュすることができる。
【0086】
また、このようなAV値のあまり高くない使用済みフライ油の場合であっても、更に長い時間をかけた中和処理からなる本発明のリフレッシュ処理を行い、或いはCa/AV値が2.0程度まで中和剤の添加量を増やすことによって、AV値を0.3以下のような低い値まで下げることも可能である。