特許第6114097号(P6114097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114097
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】表面プラズモン増強蛍光測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20170403BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   G01N21/64 G
   G01N21/64 F
   G01N21/41 101
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-89333(P2013-89333)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2014-215037(P2014-215037A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】特許業務法人梶・須原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高屋 雅人
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−226925(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/172987(WO,A1)
【文献】 特開2011−232239(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/083754(WO,A1)
【文献】 特開平04−188043(JP,A)
【文献】 特表2013−511700(JP,A)
【文献】 特開2007−240361(JP,A)
【文献】 特開2000−249646(JP,A)
【文献】 特開平04−157413(JP,A)
【文献】 特開2010−096645(JP,A)
【文献】 特開2013−178224(JP,A)
【文献】 特開2011−127991(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/152064(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/64
G01N 21/41
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対する光の照射に基づいて前記基板上に形成された金属膜上で表面プラズモン共鳴を発生させることにより、前記金属膜近傍の蛍光物質から蛍光を発生させてその蛍光を測定する表面プラズモン増強蛍光測定装置であって、
前記蛍光物質から放出される蛍光を含む光を光子単位で検出する光検出器と、
前記基板から前記光検出器までの検出光路中に配置され、前記蛍光の波長帯の光だけを通過させる蛍光フィルタと、
前記蛍光フィルタから前記光検出器までの検出光路中に配置され、全ての波長の光を所定の割合で減少させながら通過させる減光フィルタと
を有することを特徴とする表面プラズモン増強蛍光測定装置。
【請求項2】
前記光を出射する光源と、
前記光源から前記基板までの照射光路中に配置され、前記表面プラズモン共鳴を発生させるエバネッセント波を生成する波長帯の光だけを通過させる励起フィルタと
を有することを特徴とする請求項1に記載の表面プラズモン増強蛍光測定装置。
【請求項3】
前記基板の表面に形成された回折格子上に前記金属膜が形成されており、
前記光源は、前記基板の前記回折格子に対して光を照射するように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の表面プラズモン増強蛍光測定装置。
【請求項4】
前記検出光路は、前記基板の前記回折格子側に設けられ、
前記照射光路は、前記基板の前記回折格子が形成されていない側に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の表面プラズモン増強蛍光測定装置。
【請求項5】
照射光の光学系が偏波保持ファイバで形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面プラズモン増強蛍光測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン増強蛍光法を用いた表面プラズモン増強蛍光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、表面プラズモン増強蛍光法(SPFS:Surface Plasmon-field enhanced Fluorescence Spectroscopy)を用いた生体分子の検出・分析が行われている。具体的には、プリズムまたは回折格子の上に金属膜が形成されたセンサチップに対して所定の入射角で光(励起光)を照射することにより、プリズム表面での全反射または回折格子による光の回折によって発生するエバネッセント波(光波)を、金属膜表面で発生する表面プラズモンと共鳴(表面プラズモン共鳴)させて、エバネッセント波の電場を増強させる。この増強電場により、金属膜の近傍(センサチップ上)に配置された分析対象(生体分子)を標識する蛍光色素を励起して蛍光色素から蛍光を発生させて、この蛍光を検出することで、生体分子の検出・分析を行うというものである。
【0003】
例えば特許文献1には、蛍光色素を含む試料に対して励起光を照射して、蛍光色素から放出される蛍光を、CCDカメラなどからなる二次元検出器に結像して蛍光画像を取得する蛍光画像取得装置が記載されている。蛍光色素から二次元検出器までの光路には、多層膜干渉フィルタとカラーフィルタが配置されている。多層膜干渉フィルタは、蛍光の波長帯を含む波長帯の光を透過させて、それ以外の波長(特に励起光の波長帯)の光を1×10-6程度の透過率で遮断するように構成されている。カラーフィルタは、蛍光の波長帯とそれより長波長側の光を透過させて、蛍光の波長帯よりも短波長側(励起光側)の波長の光を1×10-3程度の透過率で遮断するように構成されている。多層膜干渉フィルタとカラーフィルタによる二重遮光によって、蛍光以外の波長の光(特に励起光)が二次元検出器に入ってノイズとなるのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2010/032306号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の装置では、励起光と蛍光の波長帯が近い場合、励起光のうち蛍光の波長帯(多層膜干渉フィルタとカラーフィルタの透過域)の光の強度(光量)が高くなってしまう。また、カラーフィルタは、多層膜干渉フィルタと異なり、透過域から遮光域に至る過渡域での透過率の傾きが緩やかであるため、励起光と蛍光の波長帯が近いと、カラーフィルタの過渡域を通過する励起光の強度が高くなる。したがって、励起光と蛍光の波長帯が近い場合には、多層膜干渉フィルタとカラーフィルタによって励起光とその短波長側のノイズ成分を除去することはできるが、その長波長側のノイズ成分を十分に除去することができず、鮮明な蛍光画像を取得することができなくなる。
【0006】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、励起光と蛍光の波長帯が近い場合であっても、ノイズを除去して蛍光を確実に検出できる表面プラズモン増強蛍光測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る表面プラズモン増強蛍光測定装置は、基板に対する光の照射に基づいて前記基板上に形成された金属膜上で表面プラズモン共鳴を発生させることにより、前記金属膜近傍の蛍光物質から蛍光を発生させてその蛍光を測定する表面プラズモン増強蛍光測定装置であって、前記蛍光物質から放出される蛍光を含む光を光子単位で検出する光検出器と、前記基板から前記光検出器までの検出光路中に配置され、前記蛍光の波長帯の光だけを通過させる蛍光フィルタと、前記蛍光フィルタから前記光検出器までの検出光路中に配置され、全ての波長の光を所定の割合で減少させながら通過させる減光フィルタとを有することを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、蛍光物質から放出される蛍光と、基板を通過または反射した照射光(励起光)とを含む光は、蛍光フィルタによって蛍光の波長帯以外の光の大部分が除去された後、減光フィルタによって全ての波長の光が所定の割合で減光されてから、光検出器に入射する。
蛍光と励起光の波長帯が近い場合、蛍光の波長帯の光だけを通過させるフィルタだけでは、励起光を十分に除去することができないが、蛍光フィルタと減光フィルタとを組み合わせることで、励起光を十分に除去することができる。また、減光フィルタは長波長側ほど透過率が高い傾向があり、蛍光は励起光より長波長側であるため、蛍光測定のSN比が高くなる。また、カラーフィルタは、励起光のピーク波長から短波長側の光しか減衰できないが、減光フィルタは、励起光のピーク波長の短波長側と長波長側の光を減衰できるため、カラーフィルタを用いた場合よりもノイズを除去できる。
また、減光フィルタは蛍光も減光するが、光検出器は光を光子単位で検出できるため、減光された蛍光であっても検出できる。
したがって、蛍光と励起光の波長帯が近い場合であっても、励起光とその短波長側と長波長側のノイズを除去して蛍光を確実に検出できる。
【0009】
また、本発明の表面プラズモン増強蛍光測定装置は、前記光を出射する光源と、前記光源から前記基板までの照射光路中に配置され、前記表面プラズモン共鳴を発生させるエバネッセント波を生成する波長帯の光だけを通過させる励起フィルタとを有していてもよい。
【0010】
上記の構成によれば、ノイズとなる波長の光を照射光路において励起フィルタで除去できるため、ノイズをより低減できる。
【0011】
また、本発明の表面プラズモン増強蛍光測定装置において、前記基板の表面に形成された回折格子上に前記金属膜が形成されており、前記光源は、前記基板の前記回折格子に対して光を照射するように設定されていてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、基板がプリズムであってプリズムと金属膜との界面で全反射するように光を照射する場合に比べて、金属膜に対する光の入射角を10〜35度程度に小さくできるため、金属膜の面方向に関して装置を小型化できる。
【0013】
また、本発明の表面プラズモン増強蛍光測定装置において、前記検出光路は、前記基板の前記回折格子側に設けられ、前記照射光路は、前記基板の前記回折格子が形成されていない側に設けられていてもよい。
【0014】
上記の構成によれば、基板の両側に照射光路と検出光路が配置されるため、基板の片側に照明光路と検出光路を配置する構成に比べて、装置の構成を簡易化できると共に装置を小型化できる。
【0015】
また、本発明の表面プラズモン増強蛍光測定装置は、照射光の光学系が偏波保持ファイバで形成されていてもよい。
【0016】
上記の構成によれば、照射光の光学系を偏波保持ファイバで形成したことにより、偏波保持ファイバに応力がかかっても光ファイバ内の偏光状態を保持できるため、偏光状態の変動による励起パワーの変動を抑えることができ、測定を安定して行うことができる。
また、照射光の光学系を偏波保持ファイバで形成する場合、光ファイバ出力の光源を用いることができる。光ファイバ出力の光源を用いた場合、光の出射部とレーザーの発振部を離すことができる。そのため、装置内のスペースのある部分にレーザーの発振部および制御部を配置することができるので、装置内部のレイアウトを比較的自由に設計することができ、装置を小型化することができる。
また、光ファイバ出力の光源を用いて、光源に偏波保持ファイバをコネクタ接続した場合、光源の交換時に入射光学系がずれることがないため、光源の交換時に再アライメントが不要となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、蛍光と励起光の波長帯が近い場合であっても、ノイズを除去して蛍光を確実に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る表面プラズモン増強蛍光測定装置の概略構成を示す図である。
図2図1中のセンサチップの拡大断面図である。
図3】(a)は光源から出射された光のスペクトルの模式図であって、(b)はセンサチップに照射される光のスペクトルの模式図であって、(c)は蛍光フィルタに入射する光のスペクトルの模式図であって、(d)は減光フィルタに入射する光のスペクトルの模式図であって、(e)は光検出器に入射する光のスペクトルの模式図である。
図4】減光フィルタとカラーフィルタの減衰率を示すグラフである。
図5】減光フィルタとカラーフィルタをそれぞれ用いて減衰した励起光の強度と入射角度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、本実施形態の表面プラズモン増強蛍光測定装置1は、蛍光色素(蛍光物質)35を含む試料30(図2参照)が載せられたセンサチップ20に対して光を照射することで、表面プラズモン共鳴により蛍光色素35から蛍光を発生させて、その蛍光を測定する装置である。
【0020】
表面プラズモン増強蛍光測定装置1は、光源2と、光源2からセンサチップ20までの照射光路中に配置されるコリメータレンズ3、励起フィルタ4、および偏光板5と、蛍光色素35から放出される蛍光を検出するための光検出器14と、センサチップ20から光検出器14までの検出光路中に配置されるコリメータレンズ7、直角ミラー8、絞り9、蛍光フィルタ10、集光レンズ11、減光フィルタ12、および絞り13とを備えている。
【0021】
図2に示すように、センサチップ20は、基板21と、基板21上に積層された第1接着膜22、金属膜23、第2接着膜24、及び抗体結合膜25とによって構成されている。試料30は抗体結合膜25上に保持されている。
【0022】
試料30には、分析対象となる生体分子32(例えばうつ病のバイオマーカであるBDNF(脳由来神経栄養因子)など)が、蛍光色素35と結合された状態で含まれている。蛍光色素35としては例えば、Cy5、 Alexa Fluor 647、Dylight 647、 Hilyte Fluor 647等が用いられる。
【0023】
センサチップ20に試料30を保持させる手順の一例を説明する。まず、センサチップ20の抗体結合膜25の表面に、生体分子(抗原)32と結合可能な抗体31を含む溶液を滴下して、抗体結合膜25に抗体31を結合させる。そして、リン酸緩衝液でリンス(洗浄)した後、生体分子32を含んだ溶液を滴下して、抗体結合膜25に結合した抗体31に生体分子32を結合させる。その後、リン酸緩衝液でリンスを行ってから、生体分子32と結合可能な抗体(一次抗体)33を含む溶液を滴下して、センサチップ20上の生体分子32に抗体33を結合させる。その後、リン酸緩衝液でリンスを行ってから、抗体33と結合可能であって予め蛍光色素35と結合された抗体(二次抗体)34を含む溶液を滴下して、センサチップ20上の抗体33に抗体34を結合させる。
【0024】
なお、抗体結合膜25に保持させる試料30の構成は、蛍光物質を有するものであれば、上記以外の構成であってもよい。例えば、抗体33、34の代わりに、生体分子32に結合可能で且つ蛍光色素35に結合された抗体を用いてもよい。また、蛍光物質は、蛍光タンパクであってもよい。
【0025】
基板21は、透明な材料、例えばシクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネートなどの合成樹脂やガラスで形成されている。基板21の表面には、回折格子21aが形成されている。回折格子21aは、直線状に延びる矩形状溝が等間隔に配置された構成となっている。なお、回折格子21aのパターンおよび溝の形状は上記に限定されるものではない。
【0026】
第1接着膜22は、基板21と金属膜23とを接着するためのものである。基板21と金属膜23が直接固着できる材質であれば、第1接着膜22は省略してもよい。
【0027】
金属膜23を構成する金属は、例えば金、銀、銅、プラチナ、ニッケルなどの遷移金属が好ましく、特に銀が好ましいが、表面プラズモン共鳴を発生可能な金属であればそれ以外であってもよい。金属膜23が銀の場合、第1接着膜22は、例えばクロム、チタン等で形成される。
【0028】
第2接着膜24は、金属膜23と抗体結合膜25とを接着するためのものである。金属膜23と抗体結合膜25が直接固着できる材質であれば、第2接着膜24は省略してもよい。金属膜23が銀の場合、第2接着膜24は、例えばクロム、チタン等で形成される。また、銀は不安定な金属であるため、金属膜23が銀の場合、第2接着膜24はリン酸緩衝液による銀の劣化を防止する役割も果たす。
【0029】
抗体結合膜25は、酸化亜鉛(ZnO)で形成されており、透明な薄膜である。蛍光色素35と金属膜23との距離が近いと、励起された蛍光のエネルギーが金属膜23に移動して消光されてしまうことから、抗体結合膜25は蛍光の消光を防止できる厚みに設定されている。つまり、抗体結合膜25は、抗体31を結合させる役割と、蛍光色素35と金属膜23との間に所定の間隔を空けて蛍光の消光を防止する役割を有する。
【0030】
光源2は、例えば半導体レーザー(LD)やHe−Neレーザーなどのガスレーザーやファイバレーザー等が用いられる。光源2から出射される光(励起光)Laのピーク波長での光強度は例えば0.01〜100mWである。光源2は、駆動するための回路と、安定した出力・発振波長を得るために、ペルチェ素子などによる温度制御機構とを有しており、光ファイバ出力タイプの光源である。
【0031】
光源2とコリメータレンズ3との間には、偏波保持ファイバ6が配置されており、光源2から出射された励起光Laは偏光状態を保持してコリメータレンズ3に伝送される。偏波保持ファイバ6は、光源2とコリメータレンズ3にコネクタ接続されている。
【0032】
励起フィルタ4は、多層膜干渉フィルタで形成されている。図3(a)および図3(b)に示すように、励起フィルタ4は、光源2から出射される励起光Laのうち、表面プラズモン共鳴を発生させるエバネッセント波を生成する波長帯W1の光を透過させて、それ以外の波長の光を例えば40〜60dBの減衰率で遮断(反射)するように構成されている。励起フィルタ4の透過域の波長帯W1は、蛍光色素35の吸収スペクトルに応じて決定される。なお、図3(a)および図3(b)は、光源2から出射された励起光Laのスペクトルと、励起フィルタ4を通過した励起光Laのスペクトルを模式的に示したものである。励起フィルタ4の透過域の波長帯W1は、例えば5〜20nmである。
【0033】
偏光板5は、励起光LaをP偏光に変えるためのものである。表面プラズモン励起増強蛍光法では、励起光の偏光状態がセンサチップ20に対してP偏光でなければならない。S偏光は電場増強には寄与せず、測定のノイズ成分となる。偏光板5は消光比が高いものが用いられる。
【0034】
光源2から出射された励起光Laは、コリメータレンズ3によって平行光に変換された後、励起フィルタ4によって所定の波長帯W1以外の光が除去され、その後、偏光板5によってP偏光されてから、センサチップ20に基板21側から所定の入射角で照射される。この励起光Laが回折格子21aを回折することでエバネッセント波が発生し、このエバネッセント波と、励起光Laの照射により金属膜23の表面(第1接着膜22との境界面)で発生する表面プラズモンとが共鳴して、エバネッセント波の電場が増強される。この増強された電場が蛍光色素35を励起して蛍光色素35から蛍光Lbが放出される。センサチップ20に照射された励起光Laの一部は、センサチップ20を通過する。
【0035】
図示は省略するが、光源2、コリメータレンズ3、励起フィルタ4および偏光板5は、センサチップ20に対する励起光Laの入射角を任意に変更できるように、センサチップ20を中心に一体的に回動可能に構成されている。表面プラズモン共鳴を発生させることができる励起光Laの入射角は、励起光Laの波長、回折格子21aの構造、センサチップ20の構成(材質や膜厚)、試料30の濃度などによって異なる。センサチップ20に対する励起光Laの照射は、入射角を固定して行ってもよいが、入射角を変化(角度スキャン)させつつ行うことが好ましい。
【0036】
レーザーの角度スキャンを行う場合、偏波保持ファイバ6には強い応力が加わる。偏波保持ファイバ6の代わりにシングルモードファイバを用いた場合、応力によって光ファイバ内で偏光状態が変動して、励起パワーが大きく変動してしまうが、偏波保持ファイバ6は偏光状態を保持できるため、励起パワーの変動を±0.5%以内に抑えることができ、安定した測定を行うことができる。
【0037】
図3(c)に示すように、蛍光色素35から放出される蛍光Lbの波長帯W2は、表面プラズモン共鳴を生じさせる励起光Laの波長帯(W1)よりも長波長側に現れる。蛍光Lbの波長帯W2は、励起光Laの波長帯や蛍光色素によって異なる。例えば、励起光Laがピーク波長649nm、半値全幅約40nmの場合、蛍光Lbがピーク波長672nm、半値全幅約40nmとなる。
【0038】
蛍光フィルタ10は、多層膜干渉フィルタで形成されている。図3(d)に示すように、蛍光フィルタ10は、蛍光色素35から放出される蛍光Lbの波長帯W2の光を透過させて、それ以外の波長の光を例えば50〜70dBの減衰率で遮断(反射)するように構成されている。
【0039】
減光フィルタ12は、全ての波長の光を所定の割合で減少させながら通過させるように構成されている。減光フィルタ12は、吸収型フィルタの一種であって、ND(Neutral Density)フィルタとも呼ばれている。なお、吸収型フィルタには、カラーフィルタも含まれる。干渉型フィルタを複数重ねてもノイズ除去効果は小さいが、干渉型フィルタである蛍光フィルタ10と吸収型フィルタである減光フィルタ12の組み合わせによりノイズ除去効果が高くなる。
また、減光フィルタ12は、1枚の減光フィルタで構成されていても、同一または異なる構成の複数枚の減光フィルタを積層したものであってもよいが、1枚の減光フィルタで構成されていることが好ましい。複数重ねると、配置の仕方により干渉などの問題が生じ、思うような効果が得られない。
【0040】
一般的に減光フィルタは波長依存性がなく、各波長において均一に減光するものだと思われているが、実際には、長波長側ほど透過率が高くなる傾向がある。減光フィルタ12の減衰率は、例えば20〜30dBである。図4は、減光フィルタ12の減光特性の一例を示すグラフである。この図4には、カラーフィルタの減光率の一例と、励起光Laのピーク波長の一例も表示している。図4からわかるように、カラーフィルタは励起光Laのピーク波長(図4では635nm)よりも短波長側の減衰率は高いが、長波長になるにつれて減衰率が小さくなる。一方、減光フィルタ12は、長波長になるにつれて減衰率が小さくなるものの、全波長においてある程度の減衰率を有する。
【0041】
また、図5は、図4に示す減光フィルタとカラーフィルタとをそれぞれ用いて、励起光を減衰した場合の光強度の測定結果を示している。図5のグラフの横軸はフィルタに対する励起光の入射角度を示している。図5から明らかなように、カラーフィルタを用いた場合は、励起光を十分に除去できないが、減光フィルタを用いた場合は、励起光をほぼ除去できていることがわかる。
【0042】
光検出器14は、例えばPMT(Photomultiplier Tube:光電子増倍管)など、光子単位で光を検出できるセンサが用いられる。光検出器14の感度は、検出する光の波長によって異なっている。
【0043】
表面プラズモン共鳴により蛍光色素35から放出された蛍光Lbは、センサチップ20を通過した励起光Laの一部と共に、コリメータレンズ7を通過した後、直角ミラー8で反射して、その後、絞り9を通って光束幅が狭められてから、蛍光フィルタ10によって蛍光Lbの波長帯W2以外の光が除去される(図3(d)参照)。これにより、励起光Laの大部分は除去される。
【0044】
そして、蛍光フィルタ10を通過した光(蛍光Lbと励起光La)は、集光レンズ11によって集光された後、図3(e)に示すように減光フィルタ12によって全ての波長の光が減光され、その後、絞り13を介して光検出器14に入射する。
【0045】
励起光Laの波長帯と蛍光Lbの波長帯が近い場合、励起光Laのうち、励起フィルタ4の遮光域から漏れ出て、蛍光フィルタ10の透過域(蛍光Lbの波長帯W2)を透過した光の強度が高くなるが、この励起光Laを減光フィルタ12によって光検出器14に検出されない程度にまで減衰させることができる。また、減光フィルタ12は、短波長側ほど減光の度合が大きいため、蛍光フィルタ10の遮光域から漏れ出た励起光Laも、光検出器14に検出されない程度にまで減衰できる。したがって、励起光Laによるノイズの影響を受けることなく、光検出器14によって蛍光を確実に検出できる。
【0046】
本実施形態の表面プラズモン増強蛍光測定装置1では、蛍光色素35から放出される蛍光Lbと、基板21を通過した励起光Laとを含む光は、蛍光フィルタ10によって蛍光Lbの波長帯W2以外の光の大部分が除去された後、減光フィルタ12によって全ての波長の光が所定の割合で減光されてから、光検出器14に入射する。
励起光Laの波長帯と蛍光Lbの波長帯が近い場合、蛍光の波長帯の光だけを通過させるフィルタだけでは、励起光Laを十分に除去することができないが、蛍光フィルタ10と減光フィルタ12とを組み合わせることで、励起光Laを十分に除去することができる。また、減光フィルタ12は長波長側ほど透過率が高い傾向があり、蛍光Lbは励起光Laより長波長側であるため、蛍光測定のSN比が高くなる。また、カラーフィルタは、励起光Laのピーク波長から短波長側の光しか減衰できないが、減光フィルタ12は、励起光Laのピーク波長の短波長側と長波長側の光を減衰できるため、カラーフィルタを用いた場合よりもノイズを除去できる。
また、減光フィルタ12は蛍光Lbも減光するが、光検出器14は光を光子単位で検出できるため、減光された蛍光Lbであっても検出できる。
したがって、蛍光Lbと励起光Laのピーク波長が近い場合であっても、励起光とその短波長側と長波長側のノイズを除去して蛍光Lbを確実に検出できる。
【0047】
また、本実施形態では、光源2からセンサチップ20までの照射光路中に、表面プラズモン共鳴を発生させるエバネッセント波を生成する波長帯W1の光だけを通過させる励起フィルタ4を配置している。そのため、照射光路においてノイズとなる波長の光を励起フィルタ4で除去できるため、ノイズをより低減できる。
【0048】
また、本実施形態では、基板21に形成された回折格子21aに励起光Laを照射して光の回折によってエバネッセント波を生じさせるため、基板21の代わりにプリズムを設けて、金属膜での全反射によってエバネッセント波を生じさせる場合に比べて、金属膜23に対する励起光Laの入射角を10〜35度程度に小さくできるため、金属膜23の面方向に関して装置を小型化できる。
【0049】
また、本実施形態では、基板21の両側に照射光路と検出光路が配置されるため、基板21の片側に照明光路と検出光路を配置する構成に比べて、装置の構成を簡易化できると共に装置を小型化できる。
【0050】
また、本実施形態では、照明光路に偏波保持ファイバ6を用いたことにより、偏波保持ファイバ6に応力がかかっても光ファイバ内の偏光状態を保持できるため、偏光状態の変動による励起パワーの変動を抑えることができ、測定を安定して行うことができる。
【0051】
また、本実施形態では、光ファイバ出力の光源を用いているため、光の出射部とレーザーの発振部を離すことができる。そのため、装置1内のスペースのある部分にレーザーの発振部および制御部を配置することができるので、装置1内部のレイアウトを比較的自由に設計することができ、装置1を小型化することができる。
【0052】
また、照射光路は、コリメータレンズ3以降がずれなければよい。本実施形態では、光源2とコリメータレンズ3に偏波保持ファイバ6がコネクタ接続されているため、光源2の交換時に入射光学系がずれることがないため、光源2の交換時に再アライメントが不要となる。
【0053】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0054】
上記実施形態では、センサチップ20の基板として、回折格子21aが形成された基板21を使用しているが、基板はプリズムであってもよい。プリズムを使用する場合、プリズムの表面に第1接着膜(省略可)、金属膜、第2接着膜(省略可)、抗体結合膜を積層してもよいが、これらが積層された透明基板をプリズムに固着してもよい。また、プリズムを使用する場合には、金属膜のプリズム側の表面で全反射する条件で光を照射して表面プラズモン共鳴を発生させる。また、蛍光を検出するための検出光路は、センサチップのプリズム側に配置する。
【0055】
また、上記実施形態では、照射光路に、コリメータレンズ3と励起フィルタ4と偏光板5とが配置されているが、照射光路は、励起フィルタ4が配置されていれば、上記実施形態以外の構成であってもよい。また、検出光路は、蛍光フィルタ10と減光フィルタ12が配置された構成であれば、上記実施形態以外の構成であってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、蛍光フィルタ10の透過域は、表面プラズモン共鳴によって発生する蛍光Lbの波長帯W2とほぼ一致しているが(図3(b)参照)、蛍光フィルタ10の透過域は、蛍光Lbのピーク波長を含んでいれば完全に一致していなくてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 表面プラズモン増強蛍光測定装置
2 光源
4 励起フィルタ
6 偏波保持ファイバ
10 蛍光フィルタ
12 減光フィルタ
14 光検出器
21 基板
21a 回折格子
23 金属膜
35 蛍光色素(蛍光物質)
La 励起光
Lb 蛍光
図1
図2
図3
図4
図5