(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114110
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】板状回転刃の製造方法
(51)【国際特許分類】
A01D 34/73 20060101AFI20170403BHJP
【FI】
A01D34/73 101
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-110632(P2013-110632)
(22)【出願日】2013年5月27日
(65)【公開番号】特開2014-226116(P2014-226116A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】513132852
【氏名又は名称】藤田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100103654
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100165755
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 典彦
(72)【発明者】
【氏名】藤田 篤
【審査官】
中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭62−134333(JP,U)
【文献】
実開昭51−135123(JP,U)
【文献】
実開平6−24429(JP,U)
【文献】
実開昭54−65831(JP,U)
【文献】
実開平1−105420(JP,U)
【文献】
実開昭52−115987(JP,U)
【文献】
特開平8−71843(JP,A)
【文献】
米国特許第4250622(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 34/73
B23D 61/02 − 61/10
B26D 1/14 − 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形刃板の外周縁に、回転方向の前端に一定幅の放射方向直線部を有する複数の歯を形成し、該歯の放射方向直線部の基部に前端から後方に向けて切り込みを設け、該切り込みを設けた歯の前部を板面方向に折曲し、板面から突出する折曲部分を円形刃板の板面に沿って研磨することによって歯の前端部に切り刃を形成することを特徴とする板状回転刃の製造方法。
【請求項2】
円形刃板の中央部をプレス加工によって窪ませて皿状に形成し、該皿状に形成した円形刃板の外鍔外周縁に歯を形成することを特徴とする請求項1記載の板状回転刃の製造方法。
【請求項3】
円形刃板の板面方向に折曲する、歯の前部の折曲寸法は、折曲部分の先端において円形刃板の厚みと同一以上とすることを特徴とする請求項1又は2記載の板状回転刃の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として薄板で形成する回転刃、具体的にはチップソーなどの刈払い刃の上面に配置し、刈払い作業に伴って回転部に巻きつく草や蔓を切断することによって巻きつきを防止する、板状回転刃を効率的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
刈払い機では、チップソーなどの刈払い刃の上面に比較的薄い鋼板で形成した板状回転刃を配置し、刈払い作業に際して中心軸部分に巻きつく草や蔓を切断する巻きつき防止構造が知られている。
特許文献1の、
図3、
図4に記載された板状回転刃は浅い皿状とし、上端に設けた外鍔の外周縁に複数の歯を形成し、回転方向の歯の前端に切り刃を形成することによって、巻きつこうとする草を切断するものである。皿状とした板状回転刃の底面は、刈払い刃の表面に固定している。
板状回転刃は、刈払い刃の表面から一定の高さにおいて回転するものであれば、必ずしも皿状(カップ状)である必要はなく、平面的なものであってもよい。特許文献1の
図6には、カップ状の円筒状部材の鍔に、歯を形成した平面的な鍔状部材を固定している。すなわち、平面的な鍔状部材が先に述べた板状回転刃に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6−24429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、板状回転刃を製造するには、円形刃板の外周縁に歯を形成し、それぞれの歯の前端に、研磨作業によって切り刃を形成していた。このような従来の製造方法では、個々の歯に研磨作業によって切り刃を形成するため、切り刃の研磨作業に手数を要し、能率的に板状回転刃を製造することができない欠点があった。
【0005】
上記、従来技術の欠点に鑑み本発明は、一定状態の切り刃を備えた、すなわち一定品質の板状回転刃をより能率的に製造することができる方法を工夫したものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、円形刃板Aの外周縁であって、回転方向の前端に一定幅の放射方向直線部3を有する複数の歯2、2を形成する。歯2、2の放射方向直線部3の基部に、前端から後方に向けて切り込み4を設け、この切り込み4を設けた歯2の前部を板面5方向に折曲する。そして板面5から突出する折曲部分8を、円形刃板Aの板面5と平行に、すなわち円形刃板Aの表面に沿って研磨することによって、歯2、2の前端部に切り刃6、6を形成する。
【0007】
請求項2記載の発明は、円形刃板Aの中央部をプレス加工によって窪ませて皿状に形成し、該皿状に形成した円形刃板Aの外鍔7外周縁に歯2を形成することである。
【0008】
請求項3記載の発明は、折曲寸法Xに関し、円形刃板1の板面5方向に折曲する歯2前部の折曲寸法Xは、折曲部分8の先端において円形刃板Aの厚みtと同一以上とすることである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、円形刃板Aの外周縁に形成した複数の歯2、2に、前端から後方に向けて切り込み4を設け、この切り込み4を設けた歯2の前部を板面5方向に折曲した上で、円形刃板の表面を研磨することによって、板面5から突出する折曲部分8が研磨され、歯2の前端に切り刃6が形成される。したがって、従来のように狭い歯幅の個々の歯2、2に対して研磨作業によって切り刃6を形成する必要がなく、円形刃板Aの表面に沿って研磨することによって能率的に板状回転刃1を製造することができる。
また、研磨によって形成される切り刃6の先端は、円形刃板Aの表面に沿って研磨した高さに統一され、切れ味の安定した板状回転刃1を製造することができる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、円形刃板Aの中央部をプレス加工によって窪ませて皿状に形成し、外鍔7外周縁に歯2を形成することによって、皿状(カップ状)の板状回転刃1を能率的に製造することができる。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、円形刃板Aの表面を研磨することによって、板面5から突出する折曲部分8が研磨され、研磨された部分の前端に、確実に鋭利な切り刃6が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る板状回転刃の製造工程の一例を示す流れ図、
【
図2】
図2は、切り刃の研磨過程を示す拡大断面図、
【
図4】
図4は、巻きつき防止の板状回転刃を、刈払い機に装着した使用状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る板状回転刃の製造方法を、添付の図面に基づいて説明する。
図4は、刈払い機の先端部分の一例を示す断面図である。
図4に示す刈払い機は、基端部にエンジンやモータといった回転駆動装置を取付けた支持杆9の先端に、前記回転駆動装置によって駆動される回転軸10に、チップソーなどの刈払い刃11を装着し、高速回転をする刈払い刃によって刈払い作業を行う。
【0014】
刈払い刃11の中心部には、外周縁に切り刃6、6を形成した、巻きつき防止用の板状回転刃1を装着している。板状刃板1は、刈払い刃11の回転軸10に係合させ、あるいは刈払い刃11の上面に固定し、刈払い刃11とともに回転させることによって、回転軸10部分に巻きつこうとする草や蔓を切断することができるものである。
【0015】
図3には、前記皿状に形成する板状回転刃1の一例を示している。
図3に示す板状回転刃1は、円形刃板Aの中央部を窪ませて皿状(カップ状)とし、その上縁に外鍔7を形成し、外鍔7の外周縁に複数の歯2、2を一定間隔に配置したものである。
図3に示す実施形態の歯2、2は、前端が中心からの距離が一定であり、一定寸法の放射方向直線部3を備えている。外鍔7の外周縁は、放射方向直線部3から次位の歯2の基端部に向けて、なだらかに湾曲させている。
【0016】
歯2、2前端の放射方向直線部3は、前端縁を鋭利に研磨して切り刃6を形成している。
皿状に形成する凹所12の底壁13中心部には、取付孔14が穿設してある。取付孔14は、刈払い機の回転軸10に装着することによって刈払い刃11と一体的に回転する嵌合形状としている。
【0017】
図3に示す板状回転刃は、例えば厚み0.5mmから1.0mm程度の鋼板で製造することができる。製造工程の一例を
図1に基づいて説明する。
(イ)に示すように、鋼材を必要な大きさの円形刃板Aとする。
(ロ)円形刃板Aの中央部をプレス加工によって窪ませて皿状とする。上端には外鍔7を形成する。
(ハ)外鍔7の外周縁に一定幅の放射方向直線部3を有する歯2、2と、底壁13に取付孔14をプレス加工(打ち抜き)によって形成する。
(ニ)歯2の放射方向直線部の基部に、前端から後方に向けて切り込み4を設ける。切り込み4を設けることによって自由となった、歯2の前端部を外鍔7の上面に向けて折曲する。
(ホ)外鍔7の板面5から上方に突出する折曲部分8を研磨することによって拡大図に示すように、鋭利な切り刃6を形成する。
【0018】
板状回転刃1の成型は、
図1に例示した工程に限るものではない。例えば、円形板状Aを抜き加工する際に、歯2、2や取付孔14、あるいは切り込み4をプレス加工(打ち抜き)によって形成しておき、続いて歯2の前端部分を折曲して板面5から突出する折曲部分8を研磨して切り刃6を形成し、最終的にプレス加工によって皿状に成型することもできる。
【0019】
また、板状回転刃1は、必ずしも皿状(カップ状)である必要はなく、円板状の場合もある。そのような場合は、上記工程において、皿状のプレス工程を省略することができる。また本発明は、刈払い機における巻きつき防止用の板状回転刃だけでなく、円形刃板Aの外周縁に切り刃6を形成する任意の回転刃の製造に応用することができる。
【0020】
本発明を実施するに際し、切り込み4を設けた歯2の前部の折曲寸法Xは、
図2に示すように、折曲部分8の先端において、円形刃板の厚みと同一以上とする。基本的には、少なくとも板厚tと同一であれば鋭利な切り刃6が形成されるものであるが、現実的には厚みtよりも折曲寸法Xを少し大きくしておくことによって、切り刃6を確実に形成することができる。
【0021】
円形刃板Aの板面5から突出する折曲部分8を研磨するには、
図2(b)に示すように、円形刃板の板面に沿ってグラインダ15で研磨することによって切り刃6を形成することができる。
なお、本発明においては、形成される切り刃6の刃先角度αは、
図2から理解されるように、折曲部分8の折曲角度に等しいものとなる。
【0022】
折曲部分8の寸法Lは、切り込み4の寸法によって決定される。また、折曲部分8の必要な折曲寸法Xは、板厚tと関連する。そして、折曲部分8の寸法Lと折曲寸法Xによって刃先角度αが決定される。したがって、折曲部分8の寸法Lを大きくし、かつ折曲寸法Xを大きくすると研磨によって切除する部分が多くなり製造上能率的ではない。すなわち、所望の刃先角となるように折曲角度をαとしたときに、折曲部分8の先端部分が板面5から僅かに突出する程度とするのが好ましい。
【0023】
上記理由によって折曲部分8は長くする必要がない。特に、板厚tが薄い場合は僅かな折曲寸法で目的を達成することができる。しかしながら、板厚が薄く折曲寸法が短いと正確な折曲角度αで加工することが困難になる。このような場合正確な角度αに折曲することができる範囲で、折曲部分8を長めに形成し、研磨によって切除する寸法を有る程度大きくする。これにより、正確に一定の刃先角度αを備えた板状回転刃1を製造することができる。
【0024】
上記工程によって製造した板状回転刃1では、折曲部分8先端部の上面に研磨面16が現れることになる。このことは、従来のように板面に対して刃先角度の斜め方向に研磨作業を行う必要がなく、研磨作業を容易に行なうことができるとともに、正確な研磨を行うことができる効果がある。
【0025】
上記実施形態においては、円形刃板Aの外周縁に形成した歯2に設けた折曲部分8を上方に折曲し、上方に突出した折曲部分8を研磨する工程を例示したが、折曲部分8は下方に折曲し、例えば外鍔7の底面を研磨するものであってもよい。
【符号の説明】
【0026】
1…板状回転刃、 2…歯、 3…放射方向直線部、 4…切り込み、 5…板面、 6…切り刃、 7…外鍔、 8…折曲部分、 9…支持杆、 10…回転軸、 11…刈払い刃、 12…凹所、 13…底壁、 14…取付孔、 15…グラインダ、 16…研磨面、 A…円形刃板。