(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114280
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】糖化蛋白質測定センサおよびこれを含む携帯用糖化蛋白質測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/414 20060101AFI20170403BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
G01N27/414 301K
G01N27/416 338
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-530599(P2014-530599)
(86)(22)【出願日】2012年9月17日
(65)【公表番号】特表2014-526697(P2014-526697A)
(43)【公表日】2014年10月6日
(86)【国際出願番号】KR2012007417
(87)【国際公開番号】WO2013039362
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年9月9日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0093115
(32)【優先日】2011年9月15日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2012-0102479
(32)【優先日】2012年9月14日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514066826
【氏名又は名称】エヌディーディー,インコーポレイティド
(73)【特許権者】
【識別番号】514066837
【氏名又は名称】アイエム ヘルスケア カンパニー,リミティド
(73)【特許権者】
【識別番号】514066848
【氏名又は名称】ファズビアン テクノロジー インスティテュート インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】アン セヨン
(72)【発明者】
【氏名】ステイングリムール ステファンソン
【審査官】
黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
韓国公開特許第10−2011−0002293(KR,A)
【文献】
韓国登録特許第10−0945571(KR,B1)
【文献】
特開2007−255912(JP,A)
【文献】
韓国登録特許第10−1112498(KR,B1)
【文献】
特開2013−024870(JP,A)
【文献】
特開2010−107496(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0123399(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0129925(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基材上に形成される感知膜と、感知膜の両末端上に一定の間隔をおいて対向して形成される正(+)電極および負(−)電極とを含む、第1および第2単位センサを備えるが、
第1単位センサの第1感知膜上には、第1標的物質と結合する芳香族ボロン酸を有効成分として含むリガンド組成物が配置され、第2単位センサの第2感知膜上には、第1および第2標的物質と結合するレセプターが配置され、
第1および第2感知膜の材質は同一であり、炭素ナノチューブまたはグラフェンのうちのいずれか1つを含み、
第1標的物質は糖化ヒト血清アルブミン(gHSA)であり、第2標的物質はヒト血清アルブミン(HSA)であり、
第1単位センサの第1感知膜の少なくとも一部の領域に唾液(saliva)が接触すると、第1感知膜が芳香族ボロン酸を有効成分として含むリガンド組成物を介在して唾液内のgHSAに連結され、誘発される第1感知膜に流れる電流の変化を測定し、
第2単位センサの第2感知膜の少なくとも一部の領域に唾液(saliva)が接触すると、第2感知膜がレセプターを介在して唾液内のgHSAおよびHSAに連結され、誘発される第2感知膜に流れる電流の変化を測定することを特徴とする、糖化蛋白質測定センサ。
【請求項2】
基材の材質は、シリコン、ガラス、プラスチックまたはポリマーのうちのいずれか1つを含み、基材の表面は疎水性を有することを特徴とする、請求項1に記載の糖化蛋白質測定センサ。
【請求項3】
正(+)および負(−)電極の材質は、金を含むことを特徴とする、請求項1に記載の糖化蛋白質測定センサ。
【請求項4】
第1単位センサの負(−)電極および第2単位センサの負(−)電極は同一であり、グラウンドに連結されることを特徴とする、請求項1に記載の糖化蛋白質測定センサ。
【請求項5】
芳香族ボロン酸は、フェニル(phenyl)ボロン酸、ナフタレン(naphthalene)ボロン酸、フェナントレン(phenanthrene)ボロン酸、またはピレン(pyrene)ボロン酸のうちのいずれか1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の糖化蛋白質測定センサ。
【請求項6】
レセプターは、酵素基質、リガンド、アミノ酸、ペプチド、蛋白質、核酸、脂質および炭水化物からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の糖化蛋白質測定センサ。
【請求項7】
正(+)電極はソース電極、負(−)電極はドレイン電極の時、他の負(−)電極であるゲート電極をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の糖化蛋白質測定センサ。
【請求項8】
請求項1に記載の糖化蛋白質測定センサと、
糖化蛋白質測定センサをカバーし、外観を形成するセンサボディと、
糖化蛋白質測定センサの端部に形成された端子部とを含むことを特徴とする、携帯用糖化蛋白質測定装置。
【請求項9】
センサボディには、唾液を保持する溝が形成されることを特徴とする、請求項8に記載の携帯用糖化蛋白質測定装置。
【請求項10】
センサボディには、唾液を通過させる複数のホールが形成されることを特徴とする、請求項9に記載の携帯用糖化蛋白質測定装置。
【請求項11】
センサボディと脱着し、端子部から伝達される信号を分析するリーダ部をさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の携帯用糖化蛋白質測定装置。
【請求項12】
リーダ部は、糖化蛋白質の測定数値を表示する表示部を含むことを特徴とする、請求項11に記載の携帯用糖化蛋白質測定装置。
【請求項13】
糖化蛋白質測定センサをカバーするセンサカバー部材をさらに含み、センサカバー部材の材質は、プラスチックを含み、標的物質を通過させる微細孔が形成されていることを特徴とする、請求項8に記載の携帯用糖化蛋白質測定装置。
【請求項14】
請求項1に記載の糖化蛋白質測定センサを用いて測定することを特徴とする、糖化蛋白質測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化蛋白質測定センサおよびこれを含む携帯用糖化蛋白質測定装置に関するものである。より詳細には、採血することなく、唾液(saliva)を測定センサに接触させるだけで簡単に糖化蛋白質の数値を測定することができる糖化蛋白質測定センサおよびこれを含む携帯用糖化蛋白質測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノスケールの小さいサイズを有する物質は、独特の電気的、光学的、機械的特性のため、最近、非常に重要な物質として浮上している。これまで行われてきたナノ構造物に関する研究は、量子サイズ効果のような新たな現象により将来の新たな光素子としての応用の可能性を示している。特に、ナノ構造物の場合、単一電子トランジスタ素子だけでなく、各種化学センサおよびバイオセンサなどにも使用可能で、より多くの関心が集中している。
【0003】
ナノ構造物を含むバイオセンサを用いた標的物質の検出は、ナノ構造物の表面に固定されたレセプターが検出しようとする標的物質(化学因子、バイオ分子、疾病標識因子)をナノ構造物の表面に吸着させ、このように吸着した標的物質がナノ構造物の伝導性変化を発生させる方式で実現される。
【0004】
このようなナノ構造物の伝導性変化を利用して、身体内部の標的物質、例えば、糖尿病患者の血漿蛋白質を検出するのに使用することもできる。
【0005】
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンの分泌量が不足したり、正常な機能が行われないなどの代謝疾患の一種であるが、糖尿病患者は、血液内の糖を管理するために食事療法、運動療法、薬物療法などを行う。したがって、前記療法を行うために毎日糖数値を定期的に測定することは糖尿病患者にとっては必須である。
【0006】
従来、糖数値を診断する方法としては、患者の指を刺して採取した少量の血液サンプルを化学処理されたセンサに流入させ、血中糖数値を測定する方法がある。この方法は、韓国公開特許公報第2010−0086039号などに開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような従来の糖数値測定方法は、頻繁な採血を伴うことから、患者に痛みを感じさせ、細菌感染などの問題を誘発する問題がある。また、血液サンプルを化学処理されたセンサに流入させる過程で所定の時間を要することにより、血中糖数値の測定において誤差を発生させる問題がある。これにより、採血することなく、より正確に糖尿病患者の糖数値をリアルタイムで測定可能な方法を開発することが要求され続けている。
【0008】
そこで、本発明は、上記の従来技術の諸問題を解決するためになされたものであって、採血の過程なく、唾液を測定センサに接触させるだけで簡単に糖化蛋白質の数値を測定することができる糖化蛋白質測定センサおよびこれを含む携帯用糖化蛋白質測定装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、糖化蛋白質の数値をリアルタイムで容易に測定することができる糖化蛋白質測定センサおよびこれを含む携帯用糖化蛋白質測定装置を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、測定精度が向上し、製造過程が簡単な糖化蛋白質測定センサおよびこれを含む携帯用糖化蛋白質測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の一実施形態にかかる糖化蛋白質測定センサは、芳香族ボロン酸を有効成分として含むリガンド組成物を含むことを特徴とする。
【0012】
また、上記の目的を達成するために、本発明の一実施形態にかかる糖化蛋白質測定センサは、所定の基材上に形成される感知膜と、感知膜の両末端上に一定の間隔をおいて対向して形成される正(+)電極および負(−)電極とを含む、第1および第2単位センサを備えるが、第1単位センサの第1感知膜上には、第1標的物質と結合する芳香族ボロン酸を有効成分として含むリガンド組成物が配置され、第2単位センサの第2感知膜上には、第1または第2標的物質と結合するレセプターが配置され、第1標的物質は糖化蛋白質であり、第2標的物質は蛋白質であることを特徴とする。
【0013】
第1単位センサの第1感知膜の少なくとも一部の領域に唾液(saliva)が接触すると、第1感知膜が芳香族ボロン酸を有効成分として含むリガンド組成物を介在して唾液内の糖化蛋白質に連結され、誘発される第1感知膜に流れる電流の変化を測定し、第2単位センサの第2感知膜の少なくとも一部の領域に唾液(saliva)が接触すると、第2感知膜がレセプターを介在して唾液内の糖化蛋白質または蛋白質に連結され、誘発される第2感知膜に流れる電流の変化を測定することができる。
【0014】
基材の材質は、シリコン、ガラス、プラスチックまたはポリマーのうちのいずれか1つを含み、基材の表面は疎水性を有することができる。
【0015】
第1および第2感知膜の材質は同一であり、炭素ナノチューブまたはグラフェンのうちのいずれか1つを含むことができる。
【0016】
正(+)および負(−)電極の材質は、金を含むことができる。
【0017】
第1単位センサの負(−)電極および第2単位センサの負(−)電極は同一であり、グラウンドに連結されるとよい。
【0018】
芳香族ボロン酸は、フェニル(phenyl)ボロン酸、ナフタレン(naphthalene)ボロン酸、フェナントレン(phenanthrene)ボロン酸、またはピレン(pyrene)ボロン酸のうちのいずれか1つを含むことができる。
【0019】
レセプターは、チオール基を含むことができる。
【0020】
糖化蛋白質は、糖化ヒト血清アルブミン(gHSA)、糖化IgG、糖化IgMのうちのいずれか1つを含むことができる。
【0021】
蛋白質は、ヒト血清アルブミン(HSA)、IgG、IgMのうちのいずれか1つを含むことができる。
【0022】
正(+)電極はソース電極、負(−)電極はドレイン電極の時、他の負(−)電極であるゲート電極をさらに含むことができる。
【0023】
また、上記の目的を達成するために、本発明の一実施形態にかかる携帯用糖化蛋白質測定装置は、前記糖化蛋白質測定センサと、糖化蛋白質測定センサをカバーし、外観を形成するセンサボディと、蛋白質測定センサの端部に形成された端子部とを含むことができる。
【0024】
さらに、上記の目的を達成するために、本発明の一実施形態にかかる携帯用糖化蛋白質測定方法は、前記糖化蛋白質測定センサを用いて測定することができる。
【発明の効果】
【0025】
このように構成された本発明によれば、採血の過程なく、唾液を測定装置に接触させるだけで簡単に糖化蛋白質の数値を測定することができる効果がある。
【0026】
また、本発明は、糖化蛋白質の数値をリアルタイムで容易に測定することができる効果がある。
【0027】
さらに、本発明は、糖化蛋白質の数値を最小限の誤差で正確に測定することができ、簡単に製造することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる糖化蛋白質測定単位センサの構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる糖化蛋白質測定センサの構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかるリガンド組成物の構造を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態にかかるリガンド組成物と糖化蛋白質との結合を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態にかかる芳香族ボロン酸と糖化ヒト血清アルブミン(gHSA)との結合される状態を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態にかかる携帯用糖化蛋白質測定装置を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態にかかる携帯用糖化蛋白質測定装置をリーダ部に連結した構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
後述する本発明に関する詳細な説明は、本発明が実施できる特定の実施形態を例として示す添付図面を参照する。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施できるように十分に詳細に説明される。本発明の多様な実施形態は互いに異なるが、相互排他的である必要はないことが理解されなければならない。例えば、ここに記載されている特定の形状、構造および特性は一実施形態に関連し、本発明の精神および範囲を逸脱しない範囲で他の実施形態で実現可能である。また、各々の開示された実施形態における個別構成要素の位置または配置は、本発明の精神および範囲を逸脱しない範囲で変更可能であることが理解されなければならない。したがって、後述する詳細な説明は限定的な意味として受け入れようとするものではなく、本発明の範囲は、適切に説明された場合、それら請求項が主張するのと均等なすべての範囲と共に添付した請求項によってのみ限定される。図面において、類似の参照符号は、様々な側面にわたって同一または類似の機能を指し示し、長さおよび面積、厚さなどとその形態は、便宜のために誇張されて表現されることもある。
以下、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を容易に実施できるようにするために、本発明の好ましい実施形態に関して、添付した図面を参照して詳細に説明する。
【0030】
糖化蛋白質測定センサの構成
図1は、本発明の一実施形態にかかる単位センサ10の構成を示す図である。
【0031】
図1を参照すれば、単位センサ10は、基材100と、酸化物層200と、感知膜300と、第1電極400および第2電極500とを含むことができる。
【0032】
基材100は、糖化蛋白質測定基材として機能し、一般的なシリコンウエハの一部を使用することができるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、場合によっては、ガラス、プラスチック、ポリマー材質の基材を使用することができる。一方、
図1には、基材100が単位センサ10に限定された大きさを有するものとして示されているが、
図2のように、基材100[携帯用糖化蛋白質測定基材]上の一部に、単位センサ10の構成要素である酸化物層200、感知膜300、正(+)電極400、負(−)電極500などが含まれるとよい。すなわち、携帯用糖化蛋白質測定基材100上に少なくとも2つ以上の単位センサ10が形成できる。
【0033】
酸化物層200は、基材100上に形成され、シリカ(SiO
2)を含むことができる。酸化物層200は、ゲート絶縁膜の役割を果たすことができる。酸化物層200は、熱酸化法、物理気相蒸着法(PVD)、化学気相蒸着法(CVD)などを用いて形成することができるが、これに限定されず、公知の薄膜形成方法を制限なく用いることができる。
【0034】
感知膜300は、酸化物層200上に形成され、半導体としての役割、すなわち、その表面に、標的物質700である糖化蛋白質700’または蛋白質700’’が吸着すると、一対の正(+)電極400および負(−)電極500の間に流れる電流の量を変化させる役割を果たすことができる。
【0035】
特に、本発明の感知膜300を構成する物質として、炭素ナノチューブ(CNT)またはグラフェン(graphene)のうちのいずれか1つが使用できる。感知膜300として使用される炭素ナノチューブは、単一壁、二重壁、多重壁などの形態を有することができ、場合によっては、ロープ形態を有していてもよい。グラフェンは、グラファイト(graphite)の単一層形態を有し、原子1個の厚さからなる薄い炭素膜である。電気的、熱的伝導性に優れ、高い強度を有しており、炭素ナノチューブと化学的性質が類似する。
【0036】
炭素ナノチューブは、一般的に、強い疎水性(hydrophobic)を示す。したがって、酸化物層200上に、炭素ナノチューブで構成された感知膜300を容易に形成するために、酸化物層200の上部面を疎水性に改質することができる。
【0037】
正(+)電極400および負(−)電極500は、感知膜300の両末端に一定の間隔をおいて互いに対向して配置されるとよい。正(+)電極400および負(−)電極500の材質は、金(Au)であることが好ましい。一方、後述のように、正(+)電極400は個別電極、負(−)電極は共通電極として機能することができる。
【0038】
図2は、本発明の一実施形態にかかる糖化蛋白質測定センサの構成を示す図である。
【0039】
図2を参照すれば、本発明の糖化蛋白質測定センサは、少なくとも2つ以上の単位センサ10を含むことができるが、以下では、糖化蛋白質測定センサが第1単位センサ10’および第2単位センサ10’’で2つの単位センサ10を含むことを想定して説明する。第1単位センサ10’および第2単位センサ10’’は、基材100、酸化物層200、感知膜300、正(+)電極400および負(−)電極500においては構成要素が実質的に同一である。
【0040】
第1単位センサ10’には、第1感知膜300上にリガンド組成物600’が配置される。本発明において、「配置」は、コーティング、吸着、蒸着などの方式により、所定の物質を感知膜300の上部に均等に位置させるものと理解されるとよい。リガンド組成物600’は、第1標的物質700の糖化蛋白質700’と結合し、糖化蛋白質700’を感知膜300上に付着させる役割を果たすことができる。このようなリガンド組成物600’は、芳香族ボロン酸(aromatic boronic acid)を有効成分として含むことができ、具体的には、フェニル(phenyl)ボロン酸、ナフタレン(naphthalene)ボロン酸、フェナントレン(phenanthrene)ボロン酸、またはピレン(pyrene)ボロン酸のうちのいずれか1つを含む物質であり得る。
図3の(a)はフェニルボロン酸、(b)はナフタレン−1ボロン酸、(c)は9−フェナントレンボロン酸、(d)はピレン−1ボロン酸の化学式を示す。
糖化蛋白質700’は、糖化ヒト血清アルブミン(glycated human serum albumin、gHSA)、糖化IgG、糖化IgMのうちのいずれか1つであり得る。
【0041】
第2単位センサ10’’には、第2感知膜300上にレセプター600’’が配置される。レセプター600’’は、第1または第2標的物質700である糖化蛋白質700’または蛋白質700’’と結合し、糖化蛋白質700’または蛋白質700’’を感知膜300上に付着させる役割を果たすことができる。このようなレセプター600’’は、酵素基質、リガンド、アミノ酸、ペプチド、蛋白質、核酸、脂質および炭水化物からなる群より選択される物質であり得、好ましくは、チロキシン(thyroxine)であり得る。
【0042】
蛋白質700’’は、ヒト血清アルブミン(human serum albumin、HSA)、IgG、IgMのうちのいずれか1つであり得る。
【0043】
このような単位センサ10は、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(metal oxide semiconductor field effect transistor、MOS−FET)と類似の構造を有し、感知膜300がチャネル(channel)、正(+)電極400がソース(source)電極、負(−)電極500がドレイン(drain)電極の役割を果たすことができる。一方、携帯用糖化蛋白質測定基材100に、他の負(−)電極であるゲート電極800を形成することができる。特に、感知膜300を構成する物質として、半導体特性を有する炭素ナノチューブが用いられると、単位センサ10は、炭素ナノチューブ電界効果トランジスタ(carbon nanotube field effect transistor、CNT−FET)として機能することができる。
【0044】
唾液内に存在する糖化蛋白質700’は、第1単位センサ10’のリガンド組成物600’と結合し、第1感知膜300上に付着することにより、第1単位センサ10’に流れる電流値を変化させることができる。すなわち、第1感知膜300がリガンド組成物600’を介在して糖化蛋白質700’に連結され、第1感知膜300に電流の変化が誘発可能である。また、唾液内に存在する糖化蛋白質700’または蛋白質700’’は、第2単位センサ10’’のレセプター600’’と結合し、第2感知膜300上に付着することにより、第2単位センサ10’’に流れる電流値を変化させることができる。すなわち、第2感知膜300がレセプター600’’を介在して糖化蛋白質700’または蛋白質700’’に連結され、第2感知膜300に電流の変化が誘発可能である。したがって、一定の検出溶液[すなわち、唾液(saliva)]内に糖化蛋白質700’または蛋白質700’’が含まれた量に応じて、第1単位センサ10’または第2単位センサ10’’の内部に流れる電流の量が変化できる。
【0045】
一方、
図2の糖化蛋白質測定センサには、単位センサ10を2つ配置するものとして示しているが、これに限定されず、本発明の実施目的に応じて単位センサ10の個数を増加させることができる。一例として、単位センサ10を4つ配置すれば、第1単位センサ10’および第2単位センサ10’’をそれぞれ1つずつさらに追加してもよい。
【0046】
正(+)電極400は、単位センサ10が少なくとも2つ以上配置される糖化蛋白質測定センサにおいて、個別電極400としてソース電極の役割を果たすことができる。また、正(+)電極400は、
図2に示された電極の大きさ、形態などに限定されるものではなく、正(+)電極400がソース電極の役割を果たす範囲内で多様に変形可能である。
【0047】
また、さらに
図2を参照すれば、負(−)電極500は、単位センサ10が少なくとも2つ以上配置される糖化蛋白質測定センサにおいて、共通電極500、一例として、第1単位センサ10’および第2単位センサ10’’が共有する同一の電極として機能することができる。共通電極500は、複数の単位センサ10に連結され、電圧印加手段(図示せず)からグラウンド電圧が印加されてドレイン電極の役割を果たすことができる。
【0048】
一方、電圧印加手段は、正(+)電極400と接触してプラス電圧を印加することができる。また、電圧印加手段は、負(−)電極500と接触してグラウンド電圧を印加することができ、このように前記電圧印加手段から各電極に電圧が印加された時に、正(+)電極400および負(−)電極500に連結された端子部920(
図6参照)を経て、各単位センサにおける電流の変化を測定することができる。
【0049】
特に、第1単位センサ10’に流れる電流の変化量と、第2単位センサ10’’に流れる電流の変化量とを測定することにより、第1単位センサ10’で検出した糖化蛋白質の数値と、第2単位センサ10’’で検出した蛋白質の総数値(糖化蛋白質および蛋白質の数値)とを比較することができる。すなわち、gHSA/total HSA(gHSA+HSA)の値、つまり、糖尿病患者の唾液内に存在する総蛋白質中においてどの程度が糖化蛋白質に変化したかを測定することにより、被検診者が糖尿病患者に該当するかを判定することができる。例えば、前記値が14%以上と測定されると、総蛋白質中の14%が糖化されたものであって、被検診者は糖尿病患者と判定することができる。
【0050】
実施形態
以下の実施形態では、本発明の糖化蛋白質測定センサ(CNT−FET)を製造した後、糖化蛋白質と炭素ナノチューブとが結合して誘発される電流の変化を確認した。
【0051】
本発明の糖化蛋白質測定センサの製造のために使用した材料は次の通りである。
直径0.7nm〜1.4nmおよび長さ20nm〜80nmを有する単一壁CNTを用いた。糖化蛋白質測定センサは、標準フォトリソグラフィおよびリフトオフ工程を用いて製造した。芳香族ボロン酸としては、ピレンボロン酸、9−フェナントレンボロン酸、ナフタレン−1ボロン酸、フェニルボロン酸を使用した。このほか、ソルビトール、ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、gHSA(アルブミン1モルあたり1−5モルのfructosamineを含む)およびMOPSを用意した。
【0052】
本発明の糖化蛋白質測定センサの製造過程およびgHSAの測定は次の通りである。
【0053】
芳香族ボロン酸はDMFで溶解した。芳香族ボロン酸の最適なコーティング濃度は、DMFで連続的な希釈を行った後、CNT−FETに適用して決定した。蒸発を防ぐために、密閉容器で4mlの芳香族ボロン酸の溶解したDMF混合液を、常温で30分間、CNT−FETに培養した。培養後、CNT−FETをエタノールで洗浄後、常温で1時間空気中で乾燥した。CNT−FETの基準インピーダンス値は、4mlの0.1M MOPS pH7.5、5mM MgCl
2(結合バッファー)をCNT−FETに約30秒間添加し、その後、同一のバッファーにある4μlのgHSAをCNT−FETに添加した後、インピーダンス値の変化を追加的に2分間さらに測定した後に得た。gHSA測定に対するインピーダンス値を、当該バッファー基準値にノーマル化した。CNT−FETに結合する標的物質の電気的特性を、CNT−FETのソースおよびドレイン電極に電気的接触させる低電流測定システムを用いて測定した。100mVのソース/ドレインバイアスを電気信号を測定する間に維持し、パルス幅は1秒であった。
【0054】
図4は、本発明の一実施形態にかかるリガンド組成物と糖化蛋白質との結合を示す図である。
【0055】
図4を参照すれば、第1単位センサ10’の第1感知膜300上に配置されたリガンド組成物600’と糖化蛋白質700’との結合を確認することができる。
【0056】
糖化過程の初期産物であるN−リンクされたフルクトサミン−蛋白質付加体(fructosamine−protein adduct)は、ボロン酸と共有エステル結合を形成可能な1,2−シスジオール(1,2−cis diol)を有する。ボロン酸は平面型であるので、単に平面型シスジオールと結合を形成することができる。固定化された(immobilized)アミノ−フェニルボロン酸は、この立体特異的結合(stereo−specific bond)の形成により、第1センサ10の標的物質700である糖化蛋白質700’に対する親和性リガンド組成物600’として使用できる。
【0057】
図5は、本発明の一実施形態にかかる芳香族ボロン酸と糖化ヒト血清アルブミン(gHSA)との結合される状態を示す図である。
【0058】
図5を参照すれば、標的物質を含む検出溶液が適用される時(
図5の矢印表示)、ピレン−1ボロン酸のコーティングされたCNT−FET(太い実線)は、コーティングされていないCNT−FET(点線)と比較してインピーダンスの変化が大きく生じることが分かる。これから、gHSAが芳香族ボロン酸の配置されたCNT−FETに付着し、CNT−FETの内部に流れる電流の量が変化可能であることを確認することができる。
【0059】
携帯用糖化蛋白質測定装置の構成
図6は、本発明の一実施形態にかかる携帯用糖化蛋白質測定装置を示す図である。
図6の(a)は携帯用糖化蛋白質測定装置の平面図、(b)は側面図を示す。
【0060】
図6を参照すれば、本発明の一実施形態にかかる携帯用糖化蛋白質測定装置は、センサボディ900と、端子部920とを含む。
【0061】
センサボディ900は、携帯用糖化蛋白質測定基材100または糖化蛋白質測定センサをカバーし、外部の検出溶液、衝撃から携帯用糖化蛋白質測定装置を保護することができ、携帯用糖化蛋白質測定装置の外観を構成することができる。センサボディ900の材質は、プラスチックであることが好ましいが、糖化蛋白質測定センサをカバーし、外観を構成できる範囲内であれば他の材質を使用しても構わない。
【0062】
センサボディ900は、唾液を通過させることができる複数のホール910が形成できる。複数のホール910を通して唾液が通過して、センサボディ900の内部に存在する糖化蛋白質測定センサに接触することができる。
【0063】
センサボディ900には、唾液を保持可能な溝930が形成されていることが好ましい。溝930を具備することにより、使用者は、溝930に唾を吐いたり、すでに体内から分離された唾を容易に移して糖化蛋白質の数値を測定することができる。
【0064】
一方、携帯用糖化蛋白質測定装置は、単位センサ10をカバーするセンサカバー部材(図示せず)をさらに含むことができる。センサカバー部材の材質は、プラスチックを含むことができる。センサカバー部材には複数の微細孔が形成されていて、検出溶液に存在する標的物質700、例えば、唾液内に存在する糖化蛋白質700’および蛋白質700’’だけが微細孔を通過して、リガンド組成物600’およびレセプター600’’と結合可能になる。
【0065】
端子部920は、糖化蛋白質測定センサ10に連結されて形成され、センサボディ900の外部に突出することができる。端子部920の配線921、922、923、924は、それぞれ第1単位センサ10’に連結される正(+)電極400、第2単位センサ10’に連結される正(+)電極400、負(−)電極500、ゲート電極800に連結される。もちろん、単位センサ10の増加に応じて配線の個数も変化可能である。
【0066】
図7は、本発明の一実施形態にかかる携帯用糖化蛋白質測定装置をリーダ部に連結した構成を示す図である。
【0067】
図7を参照すれば、本発明の携帯用糖化蛋白質測定装置は、リーダ部1000をさらに含むことができる。リーダ部1000は、センサボディ900と脱着可能であり、端子部920が挿入可能な端子部ホール(図示せず)が形成されている。リーダ部1000に端子部920が挿入され、リーダ部1000の制御部(図示せず)に糖化蛋白質および蛋白質の数値に関する電流信号を伝達することにより、リーダ部1000で糖化蛋白質および蛋白質の数値を分析してgHSA/total HSA(gHSA+HSA)の値を計算することができる。gHSA/total HSA(gHSA+HSA)の値は、リーダ部1000に備えられた表示部1010を通して表示されてもよい。
【0068】
一方、リーダ部1000に限定されず、端子部920にコンピュータ、スマートフォンなどの他の端末を連結し、電流の信号を分析して糖化蛋白質の数値を測定することができる。本発明の携帯用糖化蛋白質測定装置は、綿棒や体温計のような大きさに安価に製作され、使い捨てで簡単に糖化蛋白質の数値を測定することができる。
【0069】
本発明は、採血の過程を経る必要なく、糖化蛋白質と結合するリガンド組成物を含む糖化蛋白質測定センサに単に唾液を接触させるだけで糖化蛋白質の数値をリアルタイムで容易に測定することができるという利点がある。また、本発明は、相対的にCNTと標的物質の糖化蛋白質との間の距離が短く、測定精度が向上するだけでなく、製造過程が簡単であるという利点がある。
【0070】
本発明は、上述のように好ましい実施形態を挙げて図示および説明したが、上記の実施形態に限定されず、本発明の精神を逸脱しない範囲内で当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって多様な変形および変更が可能である。そのような変形例および変更例は、本発明と添付した特許請求の範囲の範囲内に属する。
【符号の説明】
【0071】
10 単位センサ
10’ 第1単位センサ
10’’ 第2単位センサ
100 基材、携帯用糖化蛋白質測定基材
200 酸化物層
300 感知膜
400、400’、400’’ 正(+)電極、ソース電極
500、500’、500’’ 負(−)電極、ドレイン電極
600’ リガンド組成物
600’’ レセプター
700 標的物質
700’ 糖化蛋白質
700’’ 蛋白質
800 ゲート電極
900 センサボディ
910 複数のホール
920 端子部
930 溝
1000 リーダ部
1010 表示部