特許第6114321号(P6114321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114321
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】車両用の二次電池の再利用方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20170403BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20170403BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   H01M10/54
   H01M10/48 P
   H01M10/44 Q
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-28457(P2015-28457)
(22)【出願日】2015年2月17日
(65)【公開番号】特開2016-152110(P2016-152110A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木庭 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】中桐 康司
(72)【発明者】
【氏名】福間 保
(72)【発明者】
【氏名】市川 公一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 泰博
(72)【発明者】
【氏名】三井 正彦
【審査官】 桑江 晃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−205437(JP,A)
【文献】 特開2010−273412(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/115038(WO,A1)
【文献】 特開2011−216329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 − 10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用履歴のある複数の単位電池から組電池を再構成する車両用の二次電池の再利用方法において、
使用履歴のある組電池を解体して得られる複数の単位電池の残容量を測定する残容量検査工程と、
測定された残容量が、0よりも大きく前記組電池が搭載されていた車両での制御範囲の下限値未満の範囲内に設定された残容量下限値以上である前記単位電池を選別する工程と、
前記選別された単位電池を用いて組電池を組み立てる工程と、を有する
ことを特徴とする車両用の二次電池の再利用方法。
【請求項2】
前記残容量下限値は、前記制御範囲の下限値の80%以下の値である
請求項1に記載の車両用の二次電池の再利用方法。
【請求項3】
正極の容量と負極の容量とのバランスが正常である前記単位電池を選別する容量バランス検査工程をさらに有する
請求項1又は2に記載の車両用の二次電池の再利用方法。
【請求項4】
前記容量バランス検査工程は、前記単位電池の拡散領域内の複素インピーダンスを測定する工程と、前記単位電池の拡散領域内の周波数の異なる2つ以上の前記複素インピーダンスを結んだ直線又は近似直線の傾き角度を算出する工程と、前記傾き角度と予め設定された閾値とを用いて、正常な前記単位電池を選別する工程と、を有する
請求項3に記載の車両用の二次電池の再利用方法。
【請求項5】
前記単位電池の開放端電圧、内部抵抗、電池質量のうち少なくとも一つの電池特性が、その電池特性に対して設定された許容範囲内である単位電池を選別する工程をさらに有する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用の二次電池の再利用方法。
【請求項6】
前記残容量検査工程の前又は当該工程にて、前記単位電池の一定容量以上の充電を行わないことを条件とする
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用の二次電池の再利用方法。
【請求項7】
前記選別された単位電池、又は前記選別された単位電池から構成された組電池を充電する工程を有する
請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両用の二次電池の再利用方法。
【請求項8】
前記組電池の制御範囲は、前記組電池の充電容量に対する充電量の割合を示す充電率で規定され、当該制御範囲の下限値は充電率で40%以上に設定されている
請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両用の二次電池の再利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両に搭載される二次電池の再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車などの車両の電源には、二次電池である組電池が用いられている。この組電池は、直列又は並列に接続された複数の単位電池から構成される。この組電池においては、回収された組電池を解体して単位電池を取り出し、再利用可能な単位電池を用いて組電池を再構成(リビルト)する技術も検討されている。但し、使用履歴のある(使用済みの)組電池では、過充電、過放電、メモリー効果による電圧ばらつき、電池容量などの電池特性に変化が生じる。このため、単位電池のなかから、電池特性に優れたものを選別し、それらを組み合わせて組電池のリビルトが行われることが提案されている。
【0003】
そこで、優れた電池特性を有する単位電池を選別するために単位電池の評価を行う必要があり、その評価方法には、例えば特許文献1にて示されるようなものがあった。特許文献1では、開放端電圧、内部抵抗、残容量などの単位電池の電池特性が、組電池によらず定められる絶対的許容範囲内であること、および組電池毎に定められる相対的許容範囲内であることの両方を満たす電池モジュールを、リビルト用の単位電池として選別する方法が示されている。相対許容範囲は、組電池毎のばらつきの許容範囲であって、組電池に応じて異なる範囲である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−216328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記したような評価方法はあるものの、従来の評価方法によって優れた電池特性を有する単位電池として選別されたもののなかにも、リビルトに適さない単位電池が含まれることがあった。このため、単位電池の評価を精度よく行うことのできる方法を確立することが求められていた。
【0006】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、単位電池の評価を精度よく行い、評価した単位電池を用いて組電池を再構成することのできる車両用の二次電池の再利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車両用の二次電池の再利用方法は、使用履歴のある複数の単位電池から組電池を再構成する車両用の二次電池の再利用方法であって、使用履歴のある組電池を解体して得られる複数の単位電池の残容量を測定する残容量検査工程と、測定された残容量が、0よりも大きく前記組電池が搭載されていた車両での制御範囲の下限値未満の範囲内に設定された残容量下限値以上である前記単位電池を選別する工程と、前記選別された単位電池を用いて組電池を組み立てる工程と、を有することを要旨とする。
【0008】
組電池を搭載した車両では、組電池の残容量を、車両を制御する上で設定された範囲である制御範囲内となるように制御する。ここで制御範囲とは、組電池の仕様に応じて定められる許容範囲とは異なる範囲であり、一般的に、このような許容範囲よりも狭い範囲に定められる。このため、回収された組電池を構成する単位電池が正常な単位電池であれば、その残容量は制御範囲内に維持されている。上記方法では、0よりも大きく車両での制御範囲の下限値未満の範囲内に残容量下限値を設定し、使用履歴のある単位電池のうち、測定された残容量が残容量下限値以上である単位電池を再利用のために選別する。良品の単位電池が車両での制御範囲の下限値を下回ることはほぼなく、一方で、正極の容量が低下した単位電池の多くは制御範囲の下限値を下回るため、残容量と残容量下限値とを比較することで、良品とすべき単位電池が良品として選別され、不良品とすべき単位電池が不良品として選別される。このため、単位電池の評価の精度をより高めることができる。
【0009】
上記車両用の二次電池の再利用方法について、前記残容量下限値は、前記制御範囲の下限値の80%以下の値であることが好ましい。
上記方法によれば、正極の容量が低下して再利用できない単位電池を好適に排除する選別が可能となる。
【0010】
上記車両用の二次電池の再利用方法について、正極の容量と負極の容量とのバランスが正常である前記単位電池を選別する容量バランス検査工程をさらに有することが好ましい。
【0011】
上記方法によれば、残容量検査工程に加え、正極の容量と負極の容量とのバランスが正常である単位電池を選別する工程をさらに有する。このため、異なる要因により残容量が異常となった電池を選別することができるので、単位電池の評価の精度をより高めることができる。
【0012】
上記車両用の二次電池の再利用方法について、前記容量バランス検査工程は、前記単位電池の拡散領域内の複素インピーダンスを測定する工程と、前記単位電池の拡散領域内の周波数の異なる2つ以上の前記複素インピーダンスを結んだ直線又は近似直線の傾き角度を算出する工程と、前記傾き角度と予め設定された閾値とを用いて、正常な前記単位電池を選別する工程と、を有することが好ましい。
【0013】
単位電池の拡散領域内における複素インピーダンスは、単位電池が異常である場合には傾き角度が小さくなる。上記方法では、単位電池の複素インピーダンスの傾き角度と閾値とを用いて容量バランスを判定するので、正常な容量バランスの単位電池を選別することができる。
【0014】
上記車両用の二次電池の再利用方法について、前記単位電池の開放端電圧、内部抵抗、電池質量のうち少なくとも一つの電池特性が、その電池特性に対して設定された許容範囲内である単位電池を選別する工程をさらに有することが好ましい。
【0015】
上記方法によれば、残容量検査工程に加え、開放端電圧、内部抵抗、および電池質量のうち少なくとも一つを検査する工程をさらに有する。このため、残容量検査工程と組み合わせることで、残容量検査工程で不良品と判定された単位電池とは異なる要因により劣化した単位電池を選別することができるので、単位電池の評価の精度をより高めることができる。
【0016】
上記車両用の二次電池の再利用方法について、前記残容量検査工程の前又は当該工程にて、前記単位電池の一定容量以上の充電を行わないことを条件とすることが好ましい。
残容量が残容量下限値未満である単位電池を充電すると、単位電池が発熱することがわかっている。上記方法では、残容量検査工程又は当該工程よりも前には、一定容量以上の充電が行われないので、充電により発熱する単位電池を予め取り除くことができる。
【0017】
上記車両用の二次電池の再利用方法について、前記選別された単位電池、又は前記選別された単位電池から構成された組電池を充電する工程を有することが好ましい。
単位電池を所定の電圧まで放電した後、単位電池を充電することにより、メモリー効果を低減することができるが、残容量が残容量下限値未満である単位電池を充電すると発熱することがわかっている。上記方法によれば、残容量が残容量下限値未満である単位電池は、残容量を検査する工程で不良品として選別されるので、単位電池を充電する工程の前に、発熱する単位電池を予め取り除くことができる。また、メモリー効果を低減するための充電を行うためには、充電前に単位電池を放電する必要があるが、この充電工程と残容量検査とを組み合わせることで、充電工程において単位電池を放電する手間が軽減される。
【0018】
上記車両用の二次電池の再利用方法について、前記組電池の制御範囲は、前記組電池の充電容量に対する充電量の割合を示す充電率で規定され、当該制御範囲の下限値は充電率で40%以上に設定されていることが好ましい。
【0019】
上記方法では、制御範囲の下限値は充電率40%以上に設定されるので、残容量下限値は、充電率で0%超40%未満の範囲内の値に設定され、回収された状態での残容量がその残容量下限値未満の単位電池が不良品として選別されることとなる。このため従来の選別方法では良否が評価できなかった単位電池を選別することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる車両用の二次電池の再利用方法によれば、単位電池の評価を精度よく行い、評価した単位電池を用いて組電池を再構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】組電池を動力源とする車両の制御システムの概略構成を示す構成図。
図2】正極の容量と負極の容量とのバランスを示す模式図であって、(a)は正常な容量バランスを示し、(b)は負極要因の異常な容量バランスを示し、(c)は正極要因の異常な容量バランスを示す。
図3】車両用の二次電池の再利用方法の一実施形態について、残容量を測定する測定装置の概略構成を示す構成図。
図4】組電池を構成する複数の電池モジュールの残容量を示すグラフ。
図5】電池モジュールに交流電圧を印加したときの複素インピーダンスの実軸成分、および虚軸成分の変化の態様を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、車両用の二次電池の再利用方法について、その一実施形態を説明する。本実施形態では、単位電池を、複数の単電池を有する電池モジュールとし、組電池は、複数の電池モジュールから構成されるものとして説明する。
【0023】
組電池は、電気自動車やハイブリッド自動車などの車両に駆動源として搭載される。組電池は、複数の電池モジュールが電気的に直列に接続されて構成されている。電池モジュールは、扁平な直方体形状をなし、直列に接続された複数の単電池を一体電槽内に収容している。単電池は、ニッケル水素蓄電池であって、正極活物質として水酸化ニッケルを含む正極と、負極活物質として水素吸蔵合金を含む負極とを備える。
【0024】
図1を参照して、電気自動車又はハイブリッド自動車などの車両に搭載された組電池10について説明する。組電池10は、インバータを含むモータ制御回路20を介して、モータジェネレータ21に接続され、モータジェネレータ21に電力を供給する。モータジェネレータ21は、車両の駆動源として車輪に回転力を伝達する。
【0025】
また、車両は、車輪の回転による運動エネルギーを電力に変換する回生制動が可能である。モータジェネレータ21は、車輪からの動力により発電して、モータ制御回路20を介して組電池10に電力を供給し組電池10を充電する。車両がエンジンを搭載したハイブリッド自動車である場合には、エンジンに機械的に接続された発電機により発電した電力を組電池10に供給してもよい。
【0026】
組電池10の残りの電力量を示す残容量は、監視ユニット25によって監視される。監視ユニット25は、複数の電池モジュール11からなるブロック毎の電圧を検出する電圧測定部22から電圧検出信号を入力するとともに、組電池10に流れる電流を検出する電流測定部23から電流検出信号を入力する。監視ユニット25は、入力した電池電圧、および電流などから、組電池10の充電率を示すSOC(State Of Charge)を推定する。
【0027】
監視ユニット25又は当該監視ユニット25に接続された電子制御ユニットは、組電池10のSOCがSOC下限値からSOC上限値までの範囲である制御範囲内で運転が行われるように車両を制御する。SOC下限値は、多様な走行環境において車両を走行させる上では、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。また、回生電力を組電池10に確実に回収する観点からは、SOC上限値は、90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。
【0028】
このように搭載された組電池10は、車両での使用履歴が異なるため、回収された時点では電池特性が組電池10毎に異なる。また、組電池10を構成する個々の電池モジュール11においても、その個体差から電池特性が異なる。たとえば、組電池10の中央に配置された電池モジュール11は、端部に配置された電池モジュール11よりも温度が高くなりやすいことから、SOCが低下しやすい。
【0029】
このため、回収された組電池10を解体して得られた電池モジュール11のうち再利用可能な電池モジュール11を用いて組電池10を再構成するリビルトにあたっては、使用履歴のある電池モジュール11の電池特性を評価し、電池特性の優れた電池モジュール11を選別する必要がある。従来の選別方法には、開放端電圧、内部抵抗、電池質量が許容範囲内である電池モジュール11を選別する方法や、交流電圧を印加したときの電池モジュール11のインピーダンスを解析する方法がある。しかし、発明者の研究の結果、これらの方法によって電池特性が優れたものとして選別された電池モジュール11のなかにも、電池容量の低下した電池モジュール11が含まれる場合があることが判明した。
【0030】
図2を参照して、リビルトに適する電池容量について説明する。
図2(a)は、使用履歴のない電池モジュール11の正極および負極の容量バランスを示す。ニッケル水素蓄電池では、負極の容量が正極の容量よりも大きく設定されている。負極には、過充電時に負極で酸素を吸収し、且つ負極から水素を発生しないように、正極が満充電のときの充電可能な容量である充電リザーブR1が設けられている。さらに、負極には、放電時に電池容量が負極によって規制されないように、正極の充電量が「0」であるときの放電可能な容量である放電リザーブR2が設けられている。すなわち、ニッケル水素蓄電池の容量Cは、正極の容量によって規制される正極規制とされている。なお、ここでいう正極の「満充電」とは、正極の活物質の未充電部分がなくなった状態をいう。
【0031】
図2(b)に示すように、負極活物質である水素吸蔵合金の水素が電槽の外部に放出されると、放電リザーブR2が減少する。放電リザーブR2の減少が進むと、放電リザーブR2が「負」となって、単電池の容量バランスが負極規制となる。電池モジュール11のうち少なくとも一つの単電池の容量バランスが負極規制となると、単電池の容量Cは低下する。また、負極規制の単電池によって他の単電池の容量が規制されて、電池モジュール11の電池容量が減少する。
【0032】
上記した従来の選別方法によって良品として選別された電池モジュールについて発明者は解析を行った。その結果、従来の方法では、容量バランスの異常により電池容量が低下した電池モジュール11を不良品として選別できる一方、正極の容量が低下した電池モジュールについては選別の精度が劣ることが明らかとなった。
【0033】
図2(c)に示すように、正極活物質である水酸化ニッケルが不活性な状態に変化して正極自体の容量が容量減少量100だけ減少しても、単電池の容量Cが低下する。正極の容量の低下は、メモリー効果の影響も含むと考えられるが、一般的に考えられるメモリー効果による容量減少量よりも著しい容量の減少がみられる。
【0034】
次に、電池モジュール11を評価して組電池10を構成するリビルト方法について説明する。組電池10のリビルト方法は、以下の(a)〜(f)の工程を有する。下記の(b)の残容量検査工程の前および当該工程は、電池モジュール11を一定容量以上充電せずに検査を行うことを条件とする。なお、後述するが、正極の容量が低下した電池モジュール11は、充電による正極からの酸素の発生が原因で発熱する可能性がある。そのため、上記「一定容量」とは、低下後の正極の容量でも酸素が発生しない容量であればよい。好ましい態様としては、残容量検査工程および残容量検査工程よりも前の工程において充電しない、または、パルス充電を行う態様が挙げられる。
【0035】
(a)組電池10を電池モジュール11に解体する工程(解体工程)
(b)電池モジュール11の残容量を検査する工程(残容量検査工程)
(c)電池モジュール11の開放端電圧、内部抵抗、および電池質量を検査する工程(特性検査工程)
(d)電池モジュール11の容量バランスを検査する工程(容量バランス検査工程)
(e)良品として選別された電池モジュール11を充電する工程(リフレッシュ充電工程)
(f)選別された電池モジュール11を用いて組電池10を組み立てる工程(組立工程)
まず車両から回収された組電池10について、解体せずに組電池10を再利用可能か否かについて判定する。再利用可能か否かについては、電池特性の検査や、電池モジュール11毎の電池特性のばらつき検査など、任意の方法を用いることができる。
【0036】
解体せずに組電池10を再利用できないと判断されると、組電池10を電池モジュール11に解体する(a:解体工程)。
次に、電池モジュール11について、残容量を検査する(b:残容量検査工程)。上述したように、組電池10が車両に搭載されている状態では、組電池10のSOCが制御範囲内になるように制御されている。このため、電池モジュール11の電池容量が適正であれば、組電池10が取り外されたときのSOCが維持され、電池モジュール11の残容量も一定容量範囲(SOCの制御範囲内に対応した範囲内)であり、その範囲の下限値である車両制御下限値未満になることは、ほぼない。しかし、正極の容量が低下した電池モジュール11については、その残容量が、車両制御下限値未満となることがある。そのため、正極の容量が低下した電池モジュール11を選別するために、0よりも大きく車両制御下限値未満の範囲内に残容量下限値を設定する。なお、上述したように(b)の残容量検査工程の前および当該工程は、電池モジュール11を一定容量以上充電せずに検査を行うが、この「一定容量」は、残容量下限値まで到達しない程度の容量であることが好ましい。
【0037】
また、車両において組電池10のSOCはあくまで推定されるものでしかないため、組電池10のSOCに相当する残容量と、各電池モジュール11の実際の残容量との間には、誤差が発生することがある。そのため、残容量が車両制御下限値に近い値であるが制御下限値未満である電池モジュール11は、良品である可能性が高い。そのため、好ましい残容量下限値としては、車両制御下限値の80%が挙げられる。それにより、正極の容量が低下して再利用できない電池モジュール11を好適に排除する選別が可能となるとともに、残容量が制御下限値未満であっても実際には良品である電池モジュール11を再利用することができる。また、残容量下限値を車両制御下限値の60%にすることにより、再利用できる電池モジュール11をより多く選別することができる。さらに、40%、20%にすることにより、再利用できる電池モジュール11を、段階的に多く選別することができる。
【0038】
図3を参照して、残容量検査工程を行う検査装置30の構成について説明する。検査装置30は、電池モジュール11を放電する放電回路31と、放電回路31に流れる電流を測定する電流測定部32と、電池モジュール11の端子間の電圧を測定する電圧測定部33とを備えている。放電回路31は、電池モジュール11の電圧が終止電圧などの所定の電圧になるまで放電を継続する。
【0039】
電流測定部32および電圧測定部33は、測定装置35に測定信号を出力する。測定装置35は、演算部36および記憶部37を備えており、演算部36は、記憶部37に格納された測定プログラムに従って、電池モジュール11の電圧が終止電圧などの所定の電圧になるまでの電流を積算して電池モジュール11の残容量を演算する。
【0040】
また演算部36は、演算した残容量を、記憶部に格納された残容量下限値と比較する。残容量下限値の設定の基準となる車両制御下限値は、メーカから公表又は通知されるものとして取得できるか、車両の監視ユニット25などから取得することができる。このため、当該車両制御下限値に特定の値、たとえば80%を乗算した残容量下限値を、予め記憶部に格納することが可能である。車両制御下限値は、監視ユニット25の制御範囲であるSOC下限値を電池モジュール11単位の残容量に変換したものである。演算部36は、演算した残容量が残容量下限値以上であれば、電池モジュール11の残容量が適正であると判断し、演算した残容量が残容量下限値未満であれば、電池モジュール11の残容量が不適正であると判断する。そして、演算部36は、電池モジュール11の判断結果を、ディスプレイなどの出力装置38に出力する。
【0041】
従来の電池モジュール11の選別方法においても、電池モジュール11の残容量を演算し、残容量と基準値とを比較する検査方法が知られている(特許文献1参照)が、この基準値は、二次電池の通常の使用において想定されうる範囲内で設定するものであり、概ね残容量下限値よりも大きい値に設定される。そのため、従来の残容量の検査では、本来良品として選別されうる電池モジュール11まで排除してしまう可能性があり、選別の精度がよくなかった。
【0042】
図4は、組電池10を構成するM個の電池モジュール11の残容量を例示したグラフである。M個の電池モジュール11のうち、単位を「Ah」である残容量が車両制御下限値の未満に設定された残容量下限値Lm未満であるN番目の電池モジュール11を不良品として除外する。残容量が残容量下限値Lm以上である電池モジュール11は、次の工程で検査が継続される。
【0043】
次に、残容量が適正であると判定された電池モジュール11について、開放端電圧、内部抵抗、および電池質量を検査する(c:特性検査工程)。この工程では、電池モジュール11の開放端電圧を測定し、測定された開放端電圧が、開放端電圧の許容範囲内であるか否かを判断する。開放端電圧についての検査を行うことは、電池モジュール11の残容量が、残容量の許容範囲内であるか否かについて確認する従来の検査と同様の効果があるため、開放端電圧の検査を行う場合には、電池モジュール11の残容量を確認する従来の検査を行わなくてもよい。また、電池モジュール11の内部抵抗を測定し、測定された内部抵抗が、内部抵抗の許容範囲内であるか否かを判断する。さらに、電池モジュール11の電池質量が、電池質量の許容範囲内であるか否かを判断する。開放端電圧の許容範囲、内部抵抗の許容範囲、および電池質量の許容範囲は、標準的な電池モジュール11の電池特性に基づき設定される。なお、この工程では、開放端電圧、内部抵抗、および電池質量のうち少なくとも一つについて検査が行われればよい。
【0044】
次に、残容量が適正であって、且つ、開放端電圧、内部抵抗、および電池質量が各々の許容範囲内であると判定された電池モジュール11について、その容量バランスを検査する(d:容量バランス検査工程)。本実施形態では、電池モジュール11に交流電圧又は交流電流を印加し、電池モジュール11のインピーダンスについて解析を行うインピーダンス法を用いる。この方法では、まず電池モジュール11を例えば「0%」などの充電率になるまで放電することが必要となるが、残容量検査を予め行うことにより電池モジュール11は放電されているので、容量バランス検査工程における放電が省略できるか、又は放電時間を短縮化することができる。電池モジュール11を充電率が「0%」となるまで放電するとき、正常な電池であれば、正極容量は0%となり、負極規制となった電池であれば負極容量が0%となる。
【0045】
次に、電池モジュール11に測定用電極を接続し、周波数を変化させながら交流電圧を印加する。そして、インピーダンス測定器によって電池モジュール11の複素インピーダンスを測定する。
【0046】
図5に示すように、電池モジュール11の複素インピーダンスは、実軸成分および虚軸成分であらわされる。図4のグラフでは、横軸を実軸成分Zrealの絶対値、縦軸を虚軸成分Zimgの絶対値としている。複素インピーダンス曲線Lは、高周波数側の円弧部分である曲線部分L1と、略直線状の部分である直線部分L2とから構成されており、直線部分L2が、物質拡散が関与した拡散領域のインピーダンスに相当する。
【0047】
放電リザーブがなくなって負極規制となった電池モジュール11は、容量バランスが適正な電池モジュール11に比べ、拡散領域の直線部分L2の傾きが急峻となり、その傾き角度が小さくなることがわかっている。このため、直線部分L2の傾きを検出するために、拡散領域内の少なくとも2つの周波数の交流電圧を電池モジュール11に印加する。印加すべき周波数は、例えば0.1Hzと0.5Hzである。そして、インピーダンス測定器で電池モジュール11の複素インピーダンスを測定し、インピーダンス解析装置により、複素インピーダンスの拡散領域における傾き角度を演算する。また、インピーダンス解析装置は、傾き角度を、記憶部に格納された閾値と比較して、傾き角度が閾値よりも小さい電池モジュール11を、放電リザーブが負であって容量バランスが異常な電池モジュール11であると判定する。また、傾き角度が閾値以上である場合には、放電リザーブが確保されて容量バランスが正常な電池モジュール11と判定する。
【0048】
こうして残容量が残容量下限値以上であると判定されるとともに、容量バランス検査工程において容量バランスが正常であって、開放端電圧などの電池特性が許容範囲内と判定された電池モジュール11は、リビルト可能な電池モジュール11として選別される。なお、(d)の容量バランス検査工程を、(b)の残容量検査工程の前に行ってもよい。また、(c)の特性検査工程を、(b)の残容量検査工程の前や(d)の容量バランス検査工程の後に行ってもよい。また、一つの検査工程で適正と判定された電池モジュール11のみに対して次の検査工程を行うようにしたが、残容量が適正でない電池モジュールの充電さえ行わなければ、一つの検査工程で不適正と判定された電池モジュール11に対しても次の検査工程を行ってもよい。そして、複数の検査結果から、総合的に良品であるか否かを判定してもよい。
【0049】
次に、選別された電池モジュール11を、充電回路に接続し、所定の電圧まで充電する(e:リフレッシュ充電工程)。電池モジュール11を放電した後に行われる充電であるリフレッシュ充電を行うことにより、正極のメモリー効果を低減させることができる。
【0050】
ここで、残容量検査工程によって残容量が残容量下限値未満の電池モジュール11を選別しないでリフレッシュ充電を行うと、残容量が残容量下限値未満の電池モジュール11が発熱することが判っている。すなわち、正極の容量が低下すると、少ない電気量で正極への充電ができなくなり、正極から酸素が発生する。その際、発生した酸素が、負極から発生する水素と結合し、発熱する。このため、リフレッシュ充電工程の前に予め残容量検査工程を行うことにより、発熱する電池モジュール11を予め取り除くことができる。また、残容量検査工程では、電池モジュール11を所定の電圧まで放電するため、残容量検査工程の後にリフレッシュ充電を行うことにより、電池モジュール11を放電する手間を省き、検査時間の短縮化を図ることができる。
【0051】
リフレッシュ充電工程を経た所定数の電池モジュール11は、組電池10として組み立てられる(f:組立工程)。この際、電池モジュール11間の電池特性のばらつきを小さくするために、開放端電圧、残容量検査工程で検出された残容量、内部抵抗などの電池特性が近い電池モジュール11から組電池10を構成することが好ましい。
【0052】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)組電池10を搭載した車両では、組電池10の残容量を、車両を制御する上で設定された範囲である制御範囲内となるように制御する。ここで制御範囲とは、組電池10の仕様に応じて定められる許容範囲とは異なる範囲であり、一般的に、このような許容範囲よりも狭い範囲に定められる。このため、回収された組電池10を構成する電池モジュール11が正常な電池モジュール11であれば、その残容量は制御範囲内に維持されている。上記実施形態では、0よりも大きく車両での制御範囲の下限値(制御下限値)未満の範囲内に残容量下限値を設定し、使用履歴のある組電池10を解体して得られる電池モジュール11のうち、測定された残容量が残容量下限値以上である電池モジュール11を再利用のために選別する。良品の電池モジュール11が制御下限値を下回ることはほぼなく、一方で、正極の容量が低下した電池モジュール11の多くは制御下限値を下回るため、残容量と残容量下限値とを比較することで、良品とすべき単位電池が良品として選別され、不良品とすべき単位電池が不良品として選別される。このため、電池モジュール11の評価の精度をより高めることができる。
【0053】
(2)残容量下限値を制御下限値の80%以下の値とすることによって、正極の容量が低下して再利用できない電池モジュール11を好適に排除する選別が可能となる。
(3)残容量が残容量下限値以上の電池モジュール11を選別する残容量検査工程に加え、正極の容量と負極の容量とのバランスが正常である単位電池を選別する工程がさらに行われる。このため、異なる要因により残容量が異常となった電池モジュール11を選別することができるので、電池モジュール11の評価の精度をより高めることができる。
【0054】
(4)電池モジュール11の拡散領域内における複素インピーダンスは、電池モジュール11が異常である場合には傾き角度が小さくなる。上記実施形態では、電池モジュール11の複素インピーダンスの傾き角度と閾値とを用いて容量バランスを判定するので、正常な容量バランスの単位電池を選別することができる。
【0055】
(5)残容量検査工程に加え、開放端電圧、内部抵抗、および電池質量を検査する特性検査工程がさらに行われる。このため、この特性検査工程を、残容量検査工程と組み合わせることで、残容量検査工程で不良品と判定された電池モジュール11とは異なる要因により劣化した電池モジュール11を選別することができるので、電池モジュール11の評価の精度をより高めることができる。
【0056】
(6)残容量が残容量下限値未満である電池モジュール11を充電すると、電池モジュール11が発熱することがわかっている。上記実施形態では、良品である電池モジュール11が選別される残容量検査工程又は当該工程よりも前には、一定容量以上の充電が行われないので、充電により発熱する電池モジュール11を予め取り除くことができる。
【0057】
(7)電池モジュール11を所定の電圧まで放電した後、電池モジュール11を充電することにより、メモリー効果を低減することができるが、残容量が残容量下限値未満である電池モジュール11を充電すると発熱することがわかっている。上記実施形態によれば、残容量が残容量下限値未満である電池モジュール11は、残容量検査工程で不良品として選別されるので、リフレッシュ充電工程の前に、充電により発熱する電池モジュール11を予め取り除くことができる。また、リフレッシュ充電を行うためには、充電前に単位電池を放電する必要があるが、リフレッシュ充電工程と残容量検査工程とを組み合わせることで、リフレッシュ充電工程において電池モジュール11を放電する手間が軽減される。
【0058】
(8)組電池10の車両制御下限値は充電率40%以上に設定されるので、残容量下限値が車両の制御下限値の80%の値に設定されている場合、回収された状態での充電率が、車両制御下限値の80%の値である32%未満に相当する残容量を有する電池モジュール11は不良品として選別される。このため従来の選別方法では良否が評価できなかった電池モジュール11を選別することが可能となる。
【0059】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・電池モジュール11を、扁平な直方体形状をなすものとして説明したが、円筒型のものであってもよい。
【0060】
・上記実施形態では、選別された電池モジュール11を個別にリフレッシュ充電したが、選別された電池モジュール11から構成された組電池10をリフレッシュ充電してもよい。
【0061】
・電池モジュール11の選別は、(b)の残容量検査工程と(d)の容量バランス検査工程に加え、別の検査工程を有していてもよい。別の工程としては、たとえば、開放端電圧、内部抵抗などの電池特性が、組電池10毎の個体差によらず定められる絶対的許容範囲内であること、組電池10毎に応じて定められる相対的許容範囲内であることの両方を満たす場合に、正常な電池モジュールであると判定する検査工程であってもよい。
【0062】
・上記実施形態では、容量バランスを検査する工程を、インピーダンス法を用いた工程としたが、その他の方法を用いる工程としてもよい。
・上記実施形態では、容量バランス検査工程において複素インピーダンス曲線の直線部分の傾き角度を算出したが、直線部分の近似直線の傾き角度を算出してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、単位電池を、複数の単電池からなる電池モジュール11としたが、単電池であってもよい。
・上記実施形態では、組電池10を車両の駆動源として説明したが、車両において他の用途で用いられる電力源としてもよい。
【0064】
・上記実施形態では、組電池10をニッケル水素蓄電池に具体化したが、組電池10はリチウムイオン蓄電池など、ほかの種類の蓄電池であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…組電池、11…電池モジュール、30…検査装置、31…放電回路、35…測定装置。
図1
図2
図3
図4
図5