(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0029】
1.シリカ膜:
本発明のシリカ膜フィルタは、多孔質基材と、多孔質基材の表面に設けられたシリカ膜と、を備える。さらに、本発明のシリカ膜フィルタは、Heガス透過量とN
2ガス透過量との比(He透過量/N
2透過量、以下、「He/N
2比」という)が7以下、かつ、N
2ガス透過量とSF
6ガス透過量との比(N
2透過量/SF
6透過量、以下、「N
2/SF
6比」という)が1.5以上である。
【0030】
本発明のシリカ膜フィルタは、He/N
2比が7以下かつN
2/SF
6比が1.5以上である場合に、芳香族化合物(例えば、ベンゼン)と芳香族化合物以外の物質とを含む流体の中から芳香族化合物を選択的に分離する能力(以下、芳香族選択性能)や、アルコール(例えば、エタノール)とアルコール以外の物質とを含む流体の中からアルコールを選択的に分離する能力(以下、アルコール選択性能)を発現するようになる。さらに、本発明のシリカ膜フィルタは、芳香族選択性能やアルコール選択性能が高まる観点からは、He/N
2比が1.0〜2.6かつN
2/SF
6比が1.5〜10であることが好ましい。
【0031】
本発明のシリカ膜フィルタは、He/N
2比が7以下である場合に、孔径約0.4nmよりも小さな孔径を有する細孔が少なくなり、孔径約0.4nm以上の細孔が主たるものになる。
【0032】
さらに、本発明のシリカ膜フィルタは、N
2/SF
6比が1.5以上の場合には、孔径約0.4〜約0.6n
mを有する細孔の割合が多くなる。この孔径約0.4nm〜約0.6nmは、ちょうど芳香族化合物やアルコールの分子径の範囲と重なるので、本発明のシリカ膜フィルタの細孔は芳香族化合物やアルコールの通過に適したものとなっている。
【0033】
また、本発明のシリカ膜フィルタのように、シリカ膜が多孔質基材の表面に設けられていると、シリカ膜には孔径1nm以上の孔、特に、孔径数nm以上の孔が極めて少なくなる。そのため、本発明のシリカ膜フィルタは、芳香族化合物の分子径やアルコールの分子径よりも大きな分子径を有する物質を透過させにくくなっている。
【0034】
シリカ膜を多孔質基材の表面に設けると、シリカ膜の強度を補強することができる。多孔質基材は、多数の細孔が貫通している。そのため、流体は多孔質基材を通過することができる。
【0035】
本発明のシリカ膜フィルタに用い得る多孔質基材としては、アルミナ、チタニア、シリカ、コージェライト、ジルコニア、ムライトなどのうちの少なくとも1種を主成分とした多孔質セラミックスからなるものを用いることが望ましい。ここに挙げたアルミナなどが主成分の場合には、多孔質基材が耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性などに優れたものとなる。
【0036】
多孔質基材は、シリカ膜を透過する物質の透過流束を高くする観点や多孔質基材の開口部をシリカ膜で完全に充填するという観点からは、シリカ膜が設けられている部分の表面では平均細孔径0.001μm〜5μmの細孔が開口していることが好ましい。
【0037】
また、本発明のシリカ膜フィルタでは、多孔質基材は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。
【0038】
多孔質基材の形状は、特に限定されないが、例えば、円筒、角筒等の筒(チューブ)状、円柱、角柱などの柱状や、円板状、多角形板状等の板状などを挙げることができる。シリカ膜フィルタの容積に対するシリカ膜の表面積の比率を大きくできることから、多孔質基材の好ましい形状としてはモノリス形状を挙げることができる。多孔質基材がモノリス形状の場合には、レンコン状に開いている穴の内壁面にシリカ膜を設けておくことが好ましい。
【0039】
また、本発明のシリカ膜フィルタでは、シリカ膜は、シリカ膜を透過する物質の透過流束を高くする観点から、多孔質基材の表面から細孔内に深く侵入していない状態で設けられていることが好ましい。
【0040】
本発明のシリカ膜フィルタでは、シリカ膜は、シリカ化合物を加水分解および重縮合させることにより前駆体ゾルを作製し、次いでこの前駆体ゾルを膜状にして熱処理することにより得られたものであることが好ましい。ここで、前駆体ゾルを作製するための原料には、シリカ化合物以外の物質が含まれていてもよく、例えば、シリコン以外の金属元素を含んでいてもよい。
【0041】
本明細書にいうシリカ化合物とは、分子構造中にシリコン原子(Si)を1個または2個以上含有している化合物のことである。
【0042】
また、本発明のシリカ膜フィルタは、シリカ膜がアリール基を含有していてもよい。ここで、アリール基としては、フェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、ナフ
チル基、スチリル基、フェノキシ基、アニシル基などを挙げることができる。本発明のシリカ膜フィルタでは、シリカ膜は、アリール基を1種のみ含有していても、2種以上のアリール基を含有していてもよい。
【0043】
本発明のシリカ膜フィルタでは、前駆体ゾルを作製する際にシリカ化合物の一部または全部にアリール基を含有するシリカ化合物を用いる場合に、アリール基を含有するシリカ膜にすることができる。
【0044】
ここで、アリール基を含有するシリカ化合物としては、アルコキシシランを用いることができる。アルコキシシランとしては、例えば、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、パラトリルトリメトキシシラン、オルトトリルトリメトキシシラン、メタトリルトリメトキシシラン、パラキシリルトリメトキシシラン、オルトキシリルメトキシシラン、メタキシリルトリメトキシシランなどを用いることができる。
【0045】
例えば、フェニルトリメトキシシランを加水分解および重縮合することにより、下記式(1)に例示される構造を有する前駆体ゾルを作製することができる。
【0047】
(式(1)中、ORは、水酸基もしくはメトキシ基を示す)
【0048】
本発明のシリカ膜フィルタは、シリカ膜がアリール基を含有する場合、芳香族選択性能やアルコール選択性能を高める観点からは、He/N
2比が1.0〜2.6かつN
2/SF
6比が1.5〜10であることが好ましく、さらにHe/N
2比が1.0〜2.6かつN
2/SF
6比が3.0〜10であることがより好ましい。
【0049】
本発明のシリカ膜フィルタは、シリカ膜がアルキル基を含有していてもよい。ここで、シリカ膜が含有するアルキル基は、芳香族選択性能やアルコール選択性能を高める観点からは、アルキル基が炭素数2〜8であることが好ましい。
【0050】
本発明のシリカ膜フィルタでは、前駆体ゾルを作製する際にシリカ化合物の一部または全部にアルキル基を含有するシリカ化合物を用いる場合に、アルキル基を含有するシリカ膜にすることができる。
【0051】
ここで、アルキル基を含有するシリカ化合物は、アルコキシシランであることが好ましい。アルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシランなどを用いることができる。
【0052】
本発明のシリカ膜フィルタは、シリカ膜がアルキル基を含有する場合、芳香族選択性能やアルコール選択性能を高める観点からは、He/N
2比が1.0〜2.6かつN
2/SF
6比が1.5〜10であることが好ましく、He/N
2比が1.0〜2.6かつN
2/SF
6比が1.5〜5.0であることがより好ましい。
【0053】
また、本発明のシリカ膜フィルタでは、シリカ膜がアリール基およびアルキル基を含有していてもよい。例えば、前駆体ゾルの原料となるシリカ化合物に、アルキル基を含有するシリカ化合物とアルキル基を含有するシリカ化合物とを用いる場合に、アリール基およびアルキル基を含有するシリカ膜にすることができる。
【0054】
本発明のシリカ膜フィルタでは、シリカ膜がアリール基またはアルキル基を含有している場合、芳香族選択性能やアルコール選択性能を高める観点からは、シリカ膜が、アリール基またはアルキル基を含有するシリカ化合物を加水分解および重縮合して前駆体ゾルを作製し、次いでこの前駆体ゾルを熱処理して得られるものであることが好ましい。さらに、この場合、シリカ膜は、前駆体ゾルに含まれていたアリール基またはアルキル基の一部を熱処理により分解して得られたものであることがより好ましい。
【0055】
さらに、本発明のシリカ膜フィルタでは、芳香族選択性能やアルコール選択性能をより高める観点からは、シリカ膜は、シリカ化合物を加水分解および重縮合して作った前駆体ゾルを熱処理したときに前駆体ゾル中のアリール基またはアルキル基を40〜99%分解して得られたものであることがより好ましい。
【0056】
本発明のシリカ膜フィルタでは、上述した熱処理によってもアリール基またはアルキル基の一部がシリカ膜に残存している(上述した熱処理によりアリール基またはアルキル基が100%分解されていない)場合に、シリカ膜が疎水性となる。その結果、シリカ膜が水蒸気を吸着しにくくなるので、シリカ膜は水蒸気に対する耐久性が高まる。
【0057】
上述した本発明のシリカ膜フィルタの一実施形態のように、アリール基またはアルキル基を含有するシリカ化合物から前駆体ゾルを作製し、さらにこの前駆体ゾルを熱処理することにより得たシリカ膜は、以下の原理によって芳香族選択性能やアルコール選択性能を有するようになると推察される。
【0058】
前駆体ゾルを作製する際にシリカ化合物を加水分解および重縮合させると、シリカ化合物同士が次々に結合していき、シリカ化合物に由来した構造単位が連なった鎖ができる。また、この鎖は時折分岐しながら作りあげられていく。その結果、シリカ化合物に由来した構成単位を連ねた鎖が網目状の構造を形作る。この網目状の構造の網の目が細孔の原型となる。シリカ化合物同士が結合して網目状の構造を形成していく際には、アリール基やアルキル基が三次元構造上の障害となって小さな網の目になることを妨げたり、あるいはアリール基やアルキル基が鎖と鎖との交わる角度を所定の角度となるように作用したりすることが推察される。このような、アリール基やアルキル基の作用によって、細孔の原型となる網の目の大きさや網の目の形が芳香族化合物やアルコールを通過させるのに適したものになると推察される。
【0059】
こうして作製した前駆体ゾルを熱処理することにより、上述した網目状の構造の網の目が細孔になる。この熱処理により、前駆体ゾルに含まれる一部のアリール基や一部のアルキル基が分解される。特に、細孔の原型となる網の目の内側にあったアリール基やアルキル基が分解されると、アリール基やアルキル基が分解しなければ占めていたはずであろう場所に空間がつくられて細孔が大きくなると推察される。あるいは、アリール基やアルキル基が分解されたことに起因して、細孔の形が変化すると推察される。こうした細孔の大きさや形の変化により、細孔が芳香族化合物やアルコールを通過させるのにより適した状態になると推察される。また、前駆体ゾルからシリカ膜を形成する際にアリール基、またはアルキル基が一部残存すると、細孔内壁と芳香族化合物(例えば、ベンゼン)やアルコール(例えば、エタノール)との親和性は、芳香族化合物またはアルコールが細孔内を通過するのに適した状態になると推察される。
【0060】
本発明のシリカ膜フィルタは、N
2ガス透過量が5.0×10
−9mol/m
2・Pa・s以上であることが好ましい。この場合には、流体の透過流束がより大きくなる。
【0061】
2.シリカ膜フィルタの製造方法:
本発明のシリカ膜フィルタの製造方法は、シリカ化合物と有機溶媒と水とを含む原料を40〜150℃で攪拌しながら、シリカ化合物を加水分解および重縮合させて前駆体ゾルを含有する前駆体溶液を得る前駆体溶液調製工程と、前駆体溶液を多孔質基材の表面上に接触させ、前駆体溶液の自重による流下によって、前駆体ゾルを多孔質基材の表面上に付着させる被覆工程と、多孔質基材の表面上に付着した前駆体ゾルを乾燥し、次いで300〜600℃にて熱処理する乾燥・熱処理工程とを有する。
【0062】
前駆体溶液調製工程では、原料を40〜150℃で攪拌してシリカ化合物を加水分解および重縮合をさせることにより、シリカ化合物の重合が促進されて成膜に適当な大きさの前駆体ゾルを得ることができる。また、原料を攪拌する際に、原料の温度と原料を攪拌する時間を調整することによって、前駆体ゾルの大きさを調整することができる。前駆体ゾルが大きい場合、続く被覆工程において前駆体ゾルが多孔質基材の表面から細孔内に侵入しにくくなる。その結果、シリカ膜は多孔質基材の表面から細孔内に侵入した分の厚みを小さくすることができる。したがって、大きな前駆体ゾルを用いることにより、薄い膜厚のシリカ膜を作製することが可能になる。こうしてシリカ膜を薄くすると、シリカ膜に物質を透過させる際の透過流束を高めることが可能になる。
【0063】
本発明のシリカ膜フィルタの製造方法に用いうる有機溶媒としては、シリカ原料および水と混和可能なアルコール類、エーテル類、ケトン類、アミド類、芳香族類などを挙げることができる。例えば、エタノール、イソプロパノール、N−メチル−2ピロリドンなどを挙げることができる。
【0064】
本発明のシリカ膜フィルタの製造方法では、前駆体溶液は、シリカ化合物の加水分解を促進するために、触媒を含んでいることが好ましい。ここで用いうる触媒としては、酸触媒またはアルカリ触媒を挙げることができる。具体的には、酸触媒としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、燐酸、酢酸などを用いることができる。また、アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどを用いることができる。
【0065】
本発明のシリカ膜フィルタの製造方法では、前駆体溶液の原料は、例えば、まずフェニルトリメトキシシラン(シリカ化合物)とエタノール(有機溶媒)とを混ぜて攪拌し、次いで酸触媒と水とを混ぜて攪拌する方法によって調製することができる。
【0066】
本発明のシリカ膜フィルタの製造方法では、被覆工程は、前駆体溶液の自重による流下によって、前駆体溶液に含まれた前駆体ゾルを多孔質基材の表面上に付着させる(この被覆の方法を、以下、流下法という)。流下法によって多孔質基材上に前駆体ゾルを付着させた場合には、後述するディップ法やスピンコート法などによって前駆体ゾルを付着させたときと比べ、前駆体ゾルが適度な応力を受けつつ短時間で多孔質基材の細孔を閉塞する。その結果、シリカ膜は、膜厚が薄くなり、かつ細孔径が芳香族選択性能やアルコール選択性能を発現するのに適した大きさになる。
【0067】
ディップ法によって多孔質基材上に前駆体ゾルを付着させた場合には、流下法の場合と比べて、前駆体ゾルが多孔質基材の細孔内に自由に入りうるため、シリカ膜の膜厚が厚くなりやすく、前駆体ゾルが多孔質基材の細孔内に過剰に充填される。そのため、シリカ膜の細孔径は芳香族選択性能やアルコール選択性能を発現するのに適した大きさよりもやや小さくなる傾向にある。また、シリカ膜の膜厚を薄くするために前駆体ゾルの付着量を減少させると、多孔質基材の細孔を完全に閉塞させることができずシリカ膜に数nm以上の大きさの孔が発生する傾向が高まる。こうした径数nm以上の孔は、目的外の物質を通してしまう欠陥になる。
【0068】
スピンコート法によって多孔質基材上に前駆体ゾルを付着させた場合には、流下法の場合と同様に、シリカ膜の膜厚を薄くすることが可能である。ところが、スピンコート法の場合、回転時の過度の応力によって、前駆体ゾルが多孔質基材の細孔内に緻密に充填されるため、ディップ法と同様に、シリカ膜の細孔径は芳香族選択性能やアルコール選択性能を発現するのに適した大きさよりも小さくなりやすい。ここで、回転時の応力を減少させるため、回転数を減少させると、シリカ膜の膜厚が厚くなりやすい。また、回転数を減少させると、多孔質基材の細孔を完全に閉塞させることができなくなるので、シリカ膜に数nm以上の大きさの孔が発生しやすくなる。こうした径数nm以上の孔は、目的外の物質を通してしまう欠陥になる。
【0069】
ゾル−ゲル法ではなく、CVD法などの気相法によってシリカ膜を成膜した場合にも、流下法の場合と比べて、シリカ原料が多孔質基材の細孔内に自由に入りうるため、多孔質基材の細孔内に過剰にシリカが充填されてしまう。その結果、シリカ膜の細孔径は芳香族選択性能やアルコール選択性能を発現するのに適した大きさよりも小さくなりやすい。
【0070】
図1は、流下法の一例を模式的に表した図である。前駆体ゾルの被覆工程に先だって、多孔質基材3の外周面をマスキングテープ11でマスクする。続いて、図示されるように、セル5が貫通する方向を鉛直方向に合わせた状態で多孔質基材3を保持し、多孔質基材の上側の端面よりセル5内に前駆体溶液1を流し込む。
【0071】
このとき、まず、前駆体溶液1に含まれた前駆体ゾルは、多孔質基材3の上側の端面周辺でセル5の内壁面9に付着する。続いて、前駆体ゾルは、内壁面9に付着しながら自重によって流下していくことにより、上側から下側へ拡がりながら内壁面9上を膜状に覆っていく。そして、前駆体ゾルが内壁面9を下側の端面まで覆い尽くすと、内壁面9に付着しきれない前駆体ゾルは、多孔質基材3の下側の端面からセル5外へ排出される。
【0072】
この流下法によれば、前駆体ゾルが多孔質基材
3の細孔内に侵入しにくくなり、また、過剰な量の前駆体ゾルが内壁面9に付着しにくくなる。その結果、内壁面9上に前駆体ゾルの薄い膜をつくることができる。こうして、前駆体ゾルの薄い膜をつくると、透過流束の高いシリカ膜フィルタを得ることができる。
【0073】
また、多孔質基材の表面上に付着した前駆体ゾルを乾燥し、次いで300〜600℃で熱処理することにより、シリカ化合物に由来した一部のアリール基またはアルキル基を分解することができる。その結果、芳香族選択性能またはアルコール選択性能が高いシリカ膜を得ることができる。熱処理温度が300℃以上の場合には、アリール基またはアルキル基の分解が生じて、芳香族化合物やアルコールを通過させるのに適した細孔が形成されやすくなる。また、熱処理温度が600℃以下の場合には、アリール基またはアルキル基が完全に分解しにくくなり、細孔内壁と芳香族化合物やアルコールとの親和性が芳香族化合物やアルコールが細孔内を通過するのに適した状態になりやすくなる。なお、熱処理工程は、大気中、不活性ガス中、真空中などで行うことができる。
【0074】
また、本発明のシリカ膜フィルタの製造方法では、被覆工程と乾燥・熱処理工程を1回ずつに限定しなくてもよい。多孔質基材の細孔がシリカ膜によって閉塞された状態となればよいので、被覆工程を繰り返すことや、被覆工程と乾燥・熱処理工程の双方を繰り返すことにより、多孔質基材の細孔を前駆体ゾルによって徐々に塞いでいき、最終的に多孔質基材の細孔が完全に閉塞した状態にすることもできる。被覆工程を複数回行うことにより、1回の被覆工程における前駆体溶液の使用量を減らすことができる。その結果、多孔質基材の表面上を流下していく前駆体ゾルの量も少なくなるため、前駆体ゾルが細孔内に過度に侵入してしまうことを防ぐことができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
(1)シリカ膜フィルタの作製
(実施例1)
フェニルトリメトキシシランとエタノールを混合して4℃で攪拌し、フェニルトリメトキシシランとエタノールが十分に混ざり合った混合溶液を作製した。当該混合溶液をKClを標準溶液とした市販のガラス電極式pH測定器により測定したところ、pH3.0の表示であった。次に、加水分解のために硝酸水溶液を少量ずつ添加した。pH測定器による測定値で、pH0.5になるまで硝酸水溶液を添加した後に4℃で1時間攪拌し、次いで、得られた混合溶液を50℃にして3時間攪拌した。その後、シリカゾルの濃度をSiO
2換算で2.0質量%となるようにエタノールを加えて全体を希釈し、前駆体溶液を得た。前駆体溶液160mlを測り採り、
図1に示した方法で、両端部をガラスでシールした直径30mm、長さ160mmのモノリス型セラミック基材の上部よりセル内に前駆体溶液を流下することによって、セルの内壁面に前駆体ゾルを付着させた。続いて、前駆体ゾルを乾燥させた後、前駆体ゾルを付着させたモノリス型セラミック基材を400℃で1時間熱処理した。なお、上記の前駆体ゾルの被覆から熱処理までの工程を3〜6回繰り返し、モノリス型セラミック基材の内壁面において、モノリス型セラミック基材の細孔がシリカ膜によって閉塞された状態となったことを確認した。
【0077】
(実施例2)
熱処理を300℃で行った以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0078】
(実施例3)
熱処理を425℃で行った以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0079】
(実施例4)
フェニルトリメトキシシランの代わりにパラトリルトリメトキシシランを用いた以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0080】
(実施例5)
フェニルトリメトキシシランの代わりにベンジルトリメトキシシランを用いた以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0081】
(
参考例1)
フェニルトリメトキシシランの代わりにナフタリルトリメトキシシランを用いた以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0082】
(
実施例6)
フェニルトリメトキシシランの代わりにジフェニル
ジメトキシシランを用いた以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0083】
(実施例
7)
フェニルトリメトキシシランの代わりにフェニルトリエトキシシランを用いた以外は、実施例3と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0084】
(実施例
8)
フェニルトリメトキシシランの代わりにエチルトリメトキシシランを用いた以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0085】
(実施例
9)
フェニルトリメトキシシランの代わりにエチルトリメトキシシランを用いた以外は、実施例3と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0086】
(実施例
10)
フェニルトリメトキシシランの代わりにオクチルトリメトキシシランを用いた以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0087】
(実施例
11)
フェニルトリメトキシシランの代わりにオクチルトリメトキシシランを用いた以外は、実施例3と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0088】
(実施例
12)
フェニルトリメトキシシランの代わりにオクチルトリエトキシシランを用いた以外は、実施例3と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0089】
(比較例1)
フェニルトリメトキシシランの加水分解および重縮合を室温(25℃)で実施して前駆体ゾルを作製した以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0090】
(比較例2)
ディップ法にて多孔質アルミナ支持体表面上に前駆体ゾルを付着させた以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0091】
(比較例3)
熱処理を200℃で行った以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0092】
(比較例4)
フェニルトリメトキシシランの代わりにテトラエトキシシランを用いた以外は、実施例1と同様にしてシリカ膜フィルタを作製した。
【0093】
(2)ガス透過試験
実施例1〜
12、参考例1および比較例1〜4のシリカ膜フィルタに対して、Heガス(成分がHeのみ)、N
2ガス(成分がN
2のみ)、およびSF
6ガス(成分がSF
6のみ)についてのガス透過試験を行った。ガス透過試験は、シリカ膜フィルタの温度およびシリカ膜フィルタに供給するHeガスなどの温度を室温(25℃)に保たせて行った。なお、Heガス、N
2ガス、SF
6ガスは、適宜0.01MPa(G)〜5MPa(G)の範囲内の一定の圧力をかけた状態でシリカ膜フィルタに供給した。これら3種類のガスに関するガス透過量を表1に示す。また、ガス透過量から算出したHe/N
2比の値とN
2/SF
6比の値を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
(3)アリール基およびアルキル基の分解量の測定
実施例1〜
12、参考例1および比較例1〜4のシリカ膜について、熱処理前の時点と熱処理後の時点で赤外分光法による測定を行った。実施例1〜
12、参考例1および比較例1〜3のいずれのシリカ膜の赤外吸収スペクトルにおいても、熱処理前の時点では、アリール基に由来する芳香族環の環伸縮振動と面外変角振動に由来する吸収ピークまたはアルキル基に由来する吸収ピークが存在し、熱処理後の時点では、これらの吸収ピークが存在したものの、吸収ピークの強度が熱処理前と時点と比べて低くなっていた。この結果から、熱処理工程によって、シリカ膜中のアリール基、またはアルキル基の一部が分解されていることが判明した。なお、比較例4のシリカ膜ついては、芳香族環に由来する吸収ピークを観測できなかった。
【0096】
また、実施例1〜
12、参考例1および比較例1〜3のシリカ膜について、熱処理の際に発生したガスをガスクロマトグラフ質量分析計により分析した。その結果、アリール基、またはアルキル基の分解に由来したシグナルが検出された。
【0097】
実施例1〜
12、参考例1および比較例1〜3のシリカ膜フィルタについて、熱処理前の膜状の前駆体ゾルに含まれるアリール基および/またはアルキル基の質量と熱処理後のシリカ膜に含まれるアリール基および/またはアルキル基の質量との差から熱処理によって分解したアリール基および/またはアルキル基の質量を算出した。さらに、アリール基および/またはアルキル基の分解率[(熱処理で分解したアリール基の質量+熱処理で分解したアルキル基の質量)/(前駆体ゾルに含まれるアリール基の質量+前駆体ゾルに含まれるアルキル基の質量)×100]を算出した。ここで、熱処理前の膜状の前駆体ゾルに含まれるアリール基および/またはアルキル基の質量は、当該前駆体ゾルを大気中800℃にて質量減少が認められなくなるまで熱処理した際の質量減少分に相当する質量とした。また、熱処理で分解したアリール基および/またはアルキル基の質量は、当該熱処理後のシリカ膜の質量と、前記の大気中800℃にて質量減少が認められなくなるまで熱処理した後のシリカ膜の質量の差分とした。結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
(4)ベンゼン/シクロヘキサン系のパーベーパレーション試験
実施例1〜4
、7と比較例1〜4のシリカ膜フィルタに対し、ベンセン/シクロヘキサンのパーベーパレーション試験を実施した。シリカ膜フィルタのセル内に温度50℃のベンゼンとシクロヘキサンの混合液体[ベンゼン:シクロヘキサン=50:50(質量比)]を流通させ、基材側面から約10Torrの真空度で減圧し、基材側面からの透過蒸気を、液体窒素にて冷却したトラップにて捕集した。捕集した透過蒸気の液化物の質量から全透過流束を算出した。また、透過蒸気の液化物をガスクロマトグラフィーにて分析し、透過蒸気の組成を決定した。試験結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
実施例1〜4、
7のシリカ膜フィルタは、いずれも、He/N
2比が7以下かつN
2/SF
6比が1.5以上であり、透過流束が高く(単位時間あたりに単位面積の膜を透過した流体量が多く)、さらに、ベンゼンとシクロヘキサンとが混じり合った液体の中からベンゼンを選択的に分離する性能を有することが判明した。更には、He/N
2比が1.0〜2.6かつN
2/SF
6比が1.5〜10である時は、ベンゼン透過流束がより高いことも判明した。一方、比較例1のシリカ膜フィルタは、供給側に与えた混合液体がそのまま排出側に漏れ出してしまったため、パーベーパレーション試験を実施することができなかった。また、比較例2〜4のシリカ膜フィルタは、ベンゼンを選択的に分離する性能を発現しなかった。
【0102】
(5)エタノール/o−キシレン/n−オクタン系のパーベーパレーション試験
実施例1〜
12、参考例1と比較例1,4のシリカ膜フィルタに対し、エタノール/o−キシレン/n−オクタンパーベーパレーション試験を実施した。シリカ膜フィルタのセル内に温度50℃のエタノールとo−キシレンとn−オクタンの混合液体[エタノール:o−キシレン:n−オクタン=33:33:33(質量比)]を流通させ、基材側面から約10Torrの真空度で減圧し、基材側面からの透過蒸気を、液体窒素にて冷却したトラップにて捕集した。捕集した透過蒸気の液化物の質量から全透過流束を算出した。また、透過蒸気の液化物をガスクロマトグラフィーにて分析し、透過蒸気の組成を決定した。試験結果の詳細を表4に示す。
【0103】
【表4】
【0104】
実施例1〜
12、参考例1のシリカ膜フィルタは、何れも、He/N
2比が7以下かつN
2/SF
6比が1.5以上であり、また、透過流束が高く、エタノールとo−キシレンとn−オクタンとが混じり合った流体の中からエタノールを選択的に分離する性能を有していた。
【0105】
また、実施例1〜
12、参考例1のシリカ膜フィルタの中でも、更に、He/N
2比が1.0〜2.6かつN
2/SF
6比が1.5〜10である時(実施例1、3、4、
7、
8、
10、
11、
12、参考例1)は、更に透過流束が高く、エタノールとo−キシレンとn−オクタンとが混じり合った流体の中からエタノールを選択的に分離する優れた性能を有していた。
【0106】
実施例1〜
7、参考例1は、アリール基を含有するシリカ膜を備えたシリカ膜フィルタ(以下、アリール基含有シリカ膜フィルタという)である。実施例
8〜
12は、アルキル基を含有するシリカ膜を備えたシリカ膜フィルタ(以下、アルキル基含有シリカ膜フィルタという)である。これらのアリール基含有シリカ膜フィルタおよびアルキル基含有シリカ膜フィルタにおいては、He/N
2比およびN
2/SF
6比と、エタノールの透過流束やエタノールを選択的に分離する性能との間に相関関係がみとめられた。この相関関係は、アリール基含有シリカ膜フィルタとアルキル基含有シリカ膜フィルタとの間で異なるものであった。
【0107】
(アリール基含有シリカ膜フィルタ)
実施例1、3、4、
参考例1と実施例
7との比較から、N
2/SF
6比が3.0以上である場合に、エタノール透過流束が高いことが判明した。したがって、アリール基含有シリカ膜フィルタでは、He/N
2比が1.0〜2.6以下かつN
2/SF
6比が3.0〜10である場合がより好ましいことが判明した。
【0108】
(アルキル基含有シリカ膜フィルタ)
実施例
8、
10、
11と実施例
12との比較から、N
2/SF
6比が1.5〜5.0の場合に、エタノール透過流束が高いことが判明した。したがって、アルキル基含有シリカ膜では、He/N
2比が1.0〜2.6かつN
2/SF
6比が1.5〜5.0である場合がより好ましいことが判明した。