特許第6114437号(P6114437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6114437腐食性アニオン除去装置及びアニオン交換樹脂の再生方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6114437
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】腐食性アニオン除去装置及びアニオン交換樹脂の再生方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20060101AFI20170403BHJP
   B01J 49/57 20170101ALI20170403BHJP
   B01J 47/02 20170101ALI20170403BHJP
   B01J 41/12 20170101ALI20170403BHJP
   B01J 41/04 20170101ALI20170403BHJP
【FI】
   C02F1/42 A
   B01J49/00 162
   B01J47/02
   B01J41/12
   B01J41/04
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-93733(P2016-93733)
(22)【出願日】2016年5月9日
【審査請求日】2016年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191319
【氏名又は名称】新菱冷熱工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】松川 安樹
(72)【発明者】
【氏名】津波古 敦信
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−316848(JP,A)
【文献】 特開平09−111482(JP,A)
【文献】 特開平11−029885(JP,A)
【文献】 特開平11−028460(JP,A)
【文献】 特開平11−028462(JP,A)
【文献】 特開2015−203121(JP,A)
【文献】 特開平02−290987(JP,A)
【文献】 特開平11−201689(JP,A)
【文献】 特開2005−288219(JP,A)
【文献】 特開2005−279462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/42
B01J 49/00
C23F 11/00
C23F 14/00−17/00
F28F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管内に供給する水に含まれる腐食性アニオンを防食性アニオンに置換してアニオン交換処理水を生成するアニオン交換樹脂を有する腐食性アニオン除去装置であって、
前記アニオン交換処理水を貯留する処理水槽と、
前記処理水槽内の水のpHを測定するpH測定器と、
前記pH測定器が測定したpHが7以上になる迄、前記処理水槽内のアニオン交換処理水を空気と接触させながら循環させる曝気循環路と、
前記pH測定器が測定したpHが7以上になると、前記処理水槽内のアニオン交換処理水を前記配管内に供給する給水路と、
前記アニオン交換樹脂の再生時に、水道水で希釈したNaHCO水溶液だけを該アニオン交換樹脂に接触させる再生路と、
を備えていることを特徴とする腐食性アニオン除去装置。
【請求項2】
前記アニオン交換処理水を貯留すると共に前記アニオン交換樹脂の再生時にNaHCOが投入される処理水槽を備え、該処理水槽から前記再生路を通って該アニオン交換樹脂に水道水で希釈したNaHCO水溶液が供給されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の腐食性アニオン除去装置。
【請求項3】
前記処理水槽内の水中の塩化物イオン濃度を測定する塩化物イオン濃度測定器を備え、該塩化物イオン濃度測定器が測定した塩化物イオン濃度に基づき前記アニオン交換樹脂の再生時期を報知するように制御されることを特徴とする請求項1又は2に記載の腐食性アニオン除去装置。
【請求項4】
前記配管内の水の溶存酸素を測定する溶存酸素測定器を備え、該溶存酸素測定器が測定した溶存酸素が0.5mg/L以上となった場合に警報を出力するように制御されることを特徴とする請求項1〜のいずれかの請求項に記載の腐食性アニオン除去装置。
【請求項5】
前記配管内の水中に析出した異物をフィルタで除去しながらフラッシングするフラッシング設備をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜のいずれかの請求項に記載の腐食性アニオン除去装置。
【請求項6】
前記フィルタは1〜10μmのろ過精度を有していることを特徴とする請求項に記載の腐食性アニオン除去装置。
【請求項7】
前記配管内の水のpH,溶存酸素、及び濁度を測定する測定器を備え、該測定器が測定したpHが9以上且つ溶存酸素が1.0mg/L未満且つ濁度が4度未満の場合に前記フラッシング設備によるフラッシング動作を停止させるように制御されることを特徴とする請求項5又は6に記載の腐食性アニオン除去装置。
【請求項8】
配管内に供給する水に含まれる腐食性アニオンを防食性アニオンに置換してアニオン交換処理水を生成するアニオン交換樹脂を再生するアニオン交換樹脂の再生方法であって、
前記アニオン交換処理水を貯留する処理水槽内の水のpHが7以上になる迄、前記処理水槽内のアニオン交換処理水を空気と接触させながら循環させ、前記pHが7以上になると、前記処理水槽内のアニオン交換処理水を前記配管内に供給し、
前記アニオン交換樹脂の再生時に、水道水で希釈したNaHCO水溶液だけを前記アニオン交換樹脂に接触させることを特徴とするアニオン交換樹脂の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管内に供給する水に含まれる腐食性アニオンを防食性アニオンに置換するアニオン交換樹脂を有する腐食性アニオン除去装置及びアニオン交換樹脂の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷凍機、冷温水配管、冷却水配管等の空調設備用の配管や生産プロセス用の配管では、配管気密試験等で配管内に水を張った直後に局部腐食の起点が発生する虞がある。この種の局部腐食の起点の発生には水張り直後の水質や運転状態が大きく影響しており、配管内の水の流れがない箇所やエルボや弁等の下流側で発生し易いことが知られている。
【0003】
このような配管腐食を防止するため、亜硝酸塩系の防食薬剤を配管内の水に添加して防食することも行われているが、この方法では、排水時に環境汚染の要因となる虞がある。そのため、従来、水系の腐食性イオン含有水と防食性アニオンを担持したアニオン交換樹脂とを接触させると共に該水系に低分子量ポリマーを添加する水系の金属の腐食抑制方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、配管施工プロセスの最終段階において、配管施工時に配管内部に付着した金属粉、酸化亜鉛、接合材料等の異物を除去するため、配管内に水を流して洗浄するフラッシング作業が実施されている。従来のこの種のフラッシング作業では、配管内の洗浄排水をストレーナのメッシュで受けて異物の残留が無いことを目視で確認できる迄、配管内の水の入れ替えを繰り返し何回も行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−158364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来、アニオン交換樹脂に防食性アニオンを担持させる際、強アルカリ性の劇薬である水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液により前処理を行った後、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)水溶液をアニオン交換樹脂に接触させることが一般的である。しかしながら、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液は強アルカリ性の劇薬であるため、取扱いが困難である。また、水酸化ナトリウム(NaOH)や炭酸水素ナトリウム(NaHCO)を水溶液にする際に純水で希釈することが一般的であるため、純水装置の設置と維持管理が必要になる。これらの理由により、上記した特許文献1の腐食抑制方法を建築現場で採用することは極めて難しいという問題がある。
【0007】
さらに、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)水溶液をアニオン交換樹脂に接触させた直後の水溶液のpHは酸性になり、金属材料の腐食を促進する虞があることは実験で確認されている。このことから、上記した特許文献1の腐食抑制方法を建築現場で採用することは、腐食対策の面でも問題がある。
【0008】
一方、上記した従来のフラッシング方法では、配管内に水の入れ替えを何度も行うことで酸素が補給されるため、腐食の進行が促進されるという問題がある。また、ストレーナのメッシュでは除去できないミクロンオーダの水中微粒子が配管内に堆積して、局部腐食の発生の起点となる虞もある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、取扱いが容易で腐食を確実に抑制することのできる腐食性アニオン除去装置及びアニオン交換樹脂の再生方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、配管内に供給する水に含まれる腐食性アニオンを防食性アニオンに置換してアニオン交換処理水を生成するアニオン交換樹脂を有する腐食性アニオン除去装置であって、前記アニオン交換樹脂の再生時に、水道水で希釈したNaHCO水溶液だけを該アニオン交換樹脂に接触させる再生路を備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る腐食性アニオン除去装置は、前記アニオン交換処理水を貯留すると共に前記アニオン交換樹脂の再生時にNaHCOが投入される処理水槽を備え、該処理水槽から前記再生路を通って該アニオン交換樹脂に水道水で希釈したNaHCO水溶液が供給されるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る腐食性アニオン除去装置は、前記アニオン交換処理水を貯留する処理水槽と、前記処理水槽内の水のpHを測定するpH測定器と、前記pH測定器が測定したpHが7以上になる迄、前記処理水槽内のアニオン交換処理水を空気と接触させながら循環させる曝気循環路と、前記pH測定器が測定したpHが7以上になると、前記処理水槽内のアニオン交換処理水を前記配管内に供給する給水路と、を備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る腐食性アニオン除去装置は、前記処理水槽内の水中の塩化物イオン濃度を測定する塩化物イオン濃度測定器を備え、該塩化物イオン濃度測定器が測定した塩化物イオン濃度に基づき前記アニオン交換樹脂の再生時期を報知するように制御されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る腐食性アニオン除去装置は、前記配管内の水の溶存酸素を測定する溶存酸素測定器を備え、該溶存酸素測定器が測定した溶存酸素が0.5mg/L以上となった場合に警報を出力するように制御されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る腐食性アニオン除去装置は、前記配管内の水中に析出した異物をフィルタで除去しながらフラッシングするフラッシング設備をさらに備えていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る腐食性アニオン除去装置において、前記フィルタは1〜10μmのろ過精度を有していることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る腐食性アニオン除去装置は、前記配管内の水のpH,溶存酸素、及び濁度を測定する測定器を備え、該測定器が測定したpHが9以上且つ溶存酸素が1.0mg/L未満且つ濁度が4度未満の場合に前記フラッシング設備によるフラッシング動作を停止させるように制御されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、配管内に供給する水に含まれる腐食性アニオンを防食性アニオンに置換してアニオン交換処理水を生成するアニオン交換樹脂を再生するアニオン交換樹脂の再生方法であって、水道水で希釈したNaHCO水溶液だけを前記アニオン交換樹脂に接触させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水資源を節約しながら、腐食を確実に抑制して設備の延命を図ることができる。また、水質を介して設備の劣化状況をリアルタイムで監視することができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置を示す概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置においてアニオン交換処理を行っている状態を示す概略図である。
図3】本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置においてpH調整を行っている状態を示す概略図である。
図4】本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置において配管にアニオン交換処理水を供給している状態を示す概略図である。
図5】本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置においてアニオン交換樹脂の再生を行っている状態を示す概略図である。
図6】本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置のフラッシング設備を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、空調設備用の炭素鋼鋼管や亜鉛めっき鋼管製の配管に対して本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置を適用した場合について例示して説明する。
【0022】
まず、図1により、本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置10の構成について説明する。図1は腐食性アニオン除去装置10を示す概略図である。
【0023】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置10は、腐食しにくいアニオン交換処理水を生成するアニオン交換樹脂12と、アニオン交換樹脂12が生成したアニオン交換処理水を貯留する処理水槽13と、補給水源である水道からアニオン交換樹脂12を通って処理水槽13まで形成されるアニオン交換処理路14と、処理水槽13から配管11まで形成される給水路15と、処理水槽13の周囲を循環するように形成される曝気循環路16と、処理水槽13からアニオン交換樹脂12まで形成される再生路17と、を備えて構成されている。
【0024】
また、腐食性アニオン除去装置10は、配管11内の水中に析出した異物をフィルタで除去しながらフラッシングするフラッシング設備60を備えているが、このフラッシング設備60については後述する。
【0025】
アニオン交換樹脂12は、配管11において発生する金属材料の腐食を抑制するために、腐食性アニオン(塩化物イオンや硫酸イオン)を防食性アニオン(炭酸水素イオン)に置換してアニオン交換処理水を生成する処理を行う。
【0026】
処理水槽13は、開放型の水槽であり、pH測定器18及び塩化物イオン濃度測定器19が取り付けられている。pH測定器18及び塩化物イオン濃度測定器19は制御装置20にそれぞれ電気的に接続され、制御装置20にはモニター及び記録装置51が電気的に接続されている。
【0027】
アニオン交換処理路14は、補給水源からアニオン交換樹脂12まで形成される一次側流路21と、アニオン交換樹脂12から処理水槽13まで形成される二次側流路22と、により構成されている。一次側流路21の途中には第1仕切弁23が接続されており、第1仕切弁23は少なくともアニオン交換処理水の生成時には開放される。二次側流路22には、上流側から順に、第2仕切弁24、流量計25、第3仕切弁26、及び脱気装置27が接続されており、二次側流路22の下流端28は処理水槽13の上面に接続されている。第2仕切弁24及び第3仕切弁26は少なくともアニオン交換処理水の生成時には開放される。また、二次側流路22には、アニオン交換樹脂12と第2仕切弁24との間からドレン管30が分岐して下方に延出している。ドレン管30の途中には第4仕切弁31が接続され、ドレン管30の下端はホッパー32の上方で開放されている。第4仕切弁31はアニオン交換処理水の生成時には閉鎖され、アニオン交換樹脂12の再生時に開放される。
【0028】
給水路15の上流端33は処理水槽13の側面下部に接続されている。給水路15には、上流側から順に、第5仕切弁34、メインポンプ35、及び電磁弁36が接続されている。第5仕切弁34は少なくとも処理水槽13内の水の循環時及び配管11への供給時には開放される。電磁弁36は制御装置20に電気的に接続されており、pH測定器18と塩化物イオン濃度測定器19の計測結果に基づき開閉制御される。塩化物イオン濃度を計測する理由は、硫酸イオンより塩化物イオンの方が炭酸水素イオンと交換できる量が少ないことが本発明者による実験で確認されたからである。また、給水路15には、メインポンプ35と電磁弁36との間の第1分岐点37からメイン循環路38が分岐しており、メイン循環路38の下流端は、第3仕切弁26と脱気装置27との間の第2分岐点39においてアニオン交換処理路14の二次側流路22に接続されている。
【0029】
曝気循環路16は、給水路15の上流端33から第1分岐点37までの上流側兼用循環路40と、前記メイン循環路38と、第2分岐点39からアニオン交換処理路14の二次側流路22の下流端28までの下流側兼用循環路41と、により構成されている。メイン循環路38の途中には第6仕切弁42が接続され、第6仕切弁42は少なくとも処理水槽13内の水の循環時に開放される。上流側兼用循環路40は給水路15の上流側部分によって兼用され、下流側兼用循環路41はアニオン交換処理路14の二次側流路22の下流側部分によって兼用されている。
【0030】
また、アニオン交換樹脂12を迂回するようにアニオン交換処理路14にバイパス路43が形成されている。バイパス路43は、一次側流路21の第1仕切弁23の上流側部分と、二次側流路22の第3仕切弁26と第2分岐点39との間の部分と、に接続されて形成されている。バイパス流路43の途中には第7仕切弁44が接続され、第7仕切弁44は、アニオン交換樹脂12の保守点検等で、第1仕切弁23及び第2仕切弁24が閉鎖される時などに開放される。
【0031】
再生路17は、処理水槽13の側面下部に接続さる上流端45から、アニオン交換処理路14の一次側流路21の第1仕切弁23とアニオン交換樹脂12との間の第3分岐点46までの間を連結するように形成されるメイン再生路47と、第3分岐点46からアニオン交換樹脂12との間に形成される兼用再生路48と、により構成されている。メイン再生路47には、上流側から順に、第8仕切弁49、及び再生ポンプ50が接続されている。第8仕切弁49はアニオン交換樹脂12の再生時に開放される。兼用再生路48はアニオン交換処理路14の一次側流路21の下流側部分によって兼用されている。
【0032】
また、後述するフラッシング設備60には、溶存酸素測定器68が取り付けられており、溶存酸素測定器68は制御装置20に電気的に接続されている。なお、溶存酸素測定器68は、配管11に直接取り付けられても良い。
【0033】
次に、図1に加えて、図2〜5を参照しつつ、上記した構成を備えた腐食性アニオン除去装置10の作用について説明する。図2は腐食性アニオン除去装置10がアニオン交換処理を行っている状態を示す概略図、図3は腐食性アニオン除去装置10がpH調整を行っている状態を示す概略図、図4は腐食性アニオン除去装置10が配管11にアニオン交換処理水を供給している状態を示す概略図、図5は腐食性アニオン除去装置10がアニオン交換樹脂12の再生を行っている状態を示す概略図である。
【0034】
図2において太線で示すように、補給水源である水道からアニオン交換処理路14の一次側流路21を通って水道水がアニオン交換樹脂12を通過すると、水中の腐食性アニオン(塩化物イオンや硫酸イオン)は防食性アニオン(炭酸水素イオン)に置換されてアニオン交換処理水が生成される。
【0035】
アニオン交換樹脂12において生成されたアニオン交換処理水は、アニオン交換処理路14の二次側流路22を通って処理水槽13の上面から処理水槽13内に供給される。この時、流量計25によってアニオン交換処理路14の二次側流路22を通るアニオン交換処理水の流量が計測されると共に、脱気装置27によってアニオン交換処理水中に過飽和に含まれた二酸化炭素が除去される。
【0036】
処理水槽13に供給されたアニオン交換処理水は、pH測定器18によってpHが測定される。そして、図3において太線で示すように、処理水槽13内のアニオン交換処理水は、pH測定器18が測定したpHが7以上になる迄、処理水槽13内において空気と接触しながら、曝気循環路16を循環する。
【0037】
その後、pH測定器18と塩化物イオン濃度測定器19によって測定された処理水槽13内のアニオン交換処理水のpHが7以上、塩化物イオン濃度が1.0mg/L以下になったと制御装置20により判断されると、電磁弁36が開放され、図4において太線で示されているように、処理水槽13内のアニオン交換処理水は給水路15を通って配管11系へ供給される。
【0038】
一般に、アニオン交換樹脂12に供給される水道水には、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸水素イオンなど、様々なイオンが含まれており、塩化物イオンと硫酸イオンは腐食を促進させ、炭酸水素イオンは腐食を抑制させる。したがって、塩化物イオンと硫酸イオンをアニオン交換樹脂12を使用して炭酸水素イオンに置換することで、腐食の進行を抑制することができる。
【0039】
このようにアニオン交換処理水が給水路15を通って配管11系へ供給されている間、処理水槽13内のアニオン交換処理水中の塩化物イオンの濃度は塩化物イオン濃度測定器19によって常時測定される。その測定結果は、制御装置20を介してモニター及び記録装置51に送信され、常時監視され、塩化物イオンの濃度が所定値(1.0mg/L)を超えた場合には、アニオン交換樹脂12の再生処理が行われる。
【0040】
このアニオン交換樹脂12の再生処理では、処理水槽13に再生剤として炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)が投入され、図5において太線で示されているように、水道水で希釈されたNaHCO3水溶液が処理水槽13から再生路17を通ってアニオン交換樹脂12に供給される。この場合のNaHCO3水溶液の濃度は、8%程度とするのが最も好ましい。一般に、炭酸水素ナトリウムの水への溶解量は、室温の環境において、概ね10%程度であり、溶解量が多い程、アニオン交換樹脂12の再生処理は容易になる。一方、処理水槽13内に再生用薬剤を残すと炭酸カルシウムなどのスケール障害の原因になる虞があるので、過剰に添加することは避ける必要がある。本発明は、このような事情を考慮しつつ、実験で確認した結果、8%程度が最も管理しやすい濃度であると判断した。
【0041】
このようにアニオン交換樹脂12の再生時に、水道水で希釈されたNaHCO水溶液だけをアニオン交換樹脂12に接触させることで、強アルカリ性の劇薬である水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液による前処理や純水による試薬の調整を行わなくても、配管11内の局部腐食を防止することができる。したがって、本発明を建築現場で容易に採用することが可能となる。
【0042】
また、腐食性アニオン除去装置10により配管11内にアニオン交換処理水を供給した後、空調設備の運転中は、溶存酸素測定器68により配管11内の溶存酸素を常時モニタリングすることで腐食環境を把握する。そして、溶存酸素測定器68により測定された溶存酸素の値が0.5mg/L以上となったと制御装置20が判断した場合には、警報を出力する。
【0043】
水道水などの中性淡水環境において、腐食の主な原因は溶存酸素である。通常、密閉循環水の環境では、水中の溶存酸素が1mg/L未満に保持するように管理される。しかし、ポンプの調整不備や設備の変更などにより、配管11内の水が排出されて溶存酸素を含む水が補給されることにより、腐食の進行が加速されることがある。水中の溶存酸素の濃度は、ヘンリーの法則に従い、酸素分圧と温度で決定され、大気圧下において、溶存酸素濃度は温度の低下に伴って上昇する。
【0044】
発明者らの実験の結果によれば、0.5mg/L以下まで酸素を低減しないと防食効果は顕著でないことがわかった。そこで、本実施の形態では、設備の長寿命化を図るため、配管11内の水の溶存酸素を常時モニタリングし、溶存酸素が0.5mg/L以上で警告することとした。
【0045】
発明者らの試算によれば、仮に酸素が水に供給されたとしても、上記した本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置10を採用することで、炭素鋼の腐食速度を1/60以下に抑制することができ、亜鉛の腐食速度を1/2以下に抑制することができることが分かった。
【0046】
また、本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置10において、アニオン交換樹脂12を炭酸水素ナトリウム(NaHCO)で再生処理する際に掛かる処理水量当りの費用を試算すると、0.3円/Lとなる。これは、従来行われている亜硝酸塩系防食処理に掛かる費用の約1/2であることから、本発明によって再生処理に掛かるコストを大幅に削減することができることが分かる。
【0047】
さらに、本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置10によれば、劇薬を使用する必要がないため、建築現場でも容易に採用することができる。したがって、環境に配慮しながら配管11内の水張り直後の腐食を確実に抑制することが可能となる。また、局部腐食の起点ができなくなるので、数年で漏水に至るような腐食が発生する虞がない。さらに、後述するフラッシング設備60と併用することで、腐食抑制効果を一段と向上させることができる。
【0048】
次に、図6を参照して、本発明の実施の形態に係る腐食性アニオン除去装置10のフラッシング設備60について説明する。図6は腐食性アニオン除去装置10のフラッシング設備60を示す概略図である。
【0049】
腐食性アニオン除去装置10は、配管11内の水中に析出した異物をフィルタで除去しながらフラッシングするフラッシング設備60を備えている。この場合の配管11は、空調設備用の配管であり、配管11の途中には、冷凍機52、一次ポンプ53、ヘッダー54,55、二次ポンプ56、空調機57、仕切弁58等が取り付けられている。
【0050】
フラッシング設備60は、配管11の仕切弁58の上流側及び下流側の2箇所59a,59bから分岐されるろ過循環路61を備えている。ろ過循環路61には、上流側から順に、第1仕切弁62、第2仕切弁63、第1圧力計64、フィルタ65、第2圧力計66、第3仕切弁67、溶存酸素測定器68、流量計69、及び第4仕切弁70がそれぞれ接続されている。フィルタは1〜10μmのろ過精度を有しているのが好ましい。
【0051】
また、ろ過循環路61には、フィルタ65を迂回するバイパス路71が接続され、バイパス路71に第5仕切弁72が接続されている。第5仕切弁72は、フィルタ65の保守点検等で、第2仕切弁63及び第3仕切弁67が閉鎖される時などに開放される。
【0052】
さらに、ろ過循環路61には、第2仕切弁63と第1圧力計64との間からドレン管73が分岐して形成されている。ドレン管73の途中には、上流側から順に、第6仕切弁74、pH測定器75、及び濁度測定器76が接続され、ドレン管73の下端はホッパー77の上方で開放されている。pH測定器75及び濁度測定器76は、それぞれ制御装置20に電気的に接続されている。第6仕切弁74はpH測定器75や濁度測定器76で配管内の水のpHや濁度を測定する時に(フラッシング時に水がフィルタ65を保有水量の3倍程度の水が通過したタイミング、及びその後1時間から数時間毎、フラッシング終了の基準、pHが9.0以上、濁度4度未満を満足するまで随時)開放される。なお、pHと濁度は、センサーの耐圧の問題により、本実施の形態のような密閉配管系では直接測定することができないため、第6仕切弁74を開放して水を流しながら測定するが、この時に捨てられる水量は配管の全体保有水量の0.1%以下に過ぎない。
【0053】
上記した構成を備えたフラッシング設備60において、配管11内の保有水量の3倍の量の水を配管11内及びろ過循環路61に循環させ、配管11の施工時に配管11内部に付着した金属粉、酸化亜鉛、接合材料等の異物をフィルタ65によって除去させるように、フラッシング動作を実行する。そして、フラッシング設備60によるフラッシングの間、水質化学と配管系金属材料の耐食性を考慮して、溶存酸素測定器68、pH測定器75、及び濁度測定器76によって溶存酸素、pH、及び濁度の値を随時測定すると共にモニター及び記録装置51によりその値を常時監視し、フラッシング動作を停止させるかどうかを制御装置20が判断する。そして、溶存酸素が1.0mg/L未満且つpHが9.0以上且つ濁度が4度未満になったと制御装置2が判断すると、フラッシング設備60によるフラッシング動作が停止される。
【0054】
一般に、炭素鋼や亜鉛めっき鋼管製の配管11のフラッシングで問題になるのは、配管11の内面から溶出した亜鉛と鉄の腐食生成物である。これらに腐食生成物は、配管11内に補給される水に含まれる遊離炭酸が循環運転中に放出されることでpHが上昇する現象によって、その大部分が析出して微粒子として存在する。この微粒子の大きさは数μm(1〜10μm程度)であるため、フィルタ65でろ過すれば、全て取り除くことができる。すなわち、上記したフラッシング設備60によれば、大量の水を捨てることなく、フィルタ65でろ過することで、フラッシングすることができる。したがって、水資源を節約することで地球環境保護にも貢献しながら、配管11の腐食を確実に抑制することができ、設備の長寿命化を図ることができる。また、フラッシング完了のタイミングを定量的に評価することできるので、配管11内に安定した水質の水を供給することができる。
【0055】
なお、上記した本発明の実施の形態の説明では、本発明を、空調設備用の炭素鋼や亜鉛メッキ鋼管製の配管に対して適用した場合について説明したが、これは単なる例示に過ぎず、本発明は、生産プロセス用の配管等、他の用途の配管にも適用可能である。
【0056】
また、上記した本発明の実施の形態の説明は、本発明に係る腐食性アニオン除去装置における好適な実施の形態を説明しているため、材質、寸法、構造等、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。すなわち、上記した本発明の実施の形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能であり、上記した本発明の実施の形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【符号の説明】
【0057】
10 腐食性アニオン除去装置
11 配管、
12 アニオン交換樹脂
13 処理水槽
15 給水路
17 曝気循環路
18 pH測定器
19 塩化物イオン濃度測定器
60 フラッシング設備
65 フィルタ
68 溶存酸素測定器
【要約】
【課題】取扱いが容易で腐食を防止することのできる腐食性アニオン除去装置及びアニオン交換樹脂の再生方法を提供する。
【解決手段】本発明は、配管11内に供給する水に含まれる腐食性アニオンを防食性アニオンに置換してアニオン交換処理水を生成するアニオン交換樹脂12を有する腐食性アニオン除去装置10であって、アニオン交換樹脂12の再生時に、水道水で希釈したNaHCO水溶液だけをアニオン交換樹脂12に接触させる再生路17を備えていることを特徴とする。
【選択図】図1
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図2
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図5
図6