特許第6114512号(P6114512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6114512
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】焼結軸受およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/12 20060101AFI20170403BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20170403BHJP
   B22F 5/00 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   F16C33/12 B
   F16C33/10 A
   F16C33/10 D
   B22F5/00 C
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-165844(P2012-165844)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2014-25527(P2014-25527A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 容敬
(72)【発明者】
【氏名】後藤 隆宏
【審査官】 上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−117044(JP,A)
【文献】 特開2008−007795(JP,A)
【文献】 特開2011−052252(JP,A)
【文献】 特開2005−240159(JP,A)
【文献】 特開2010−193621(JP,A)
【文献】 特開2010−077474(JP,A)
【文献】 特開平05−051708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/12
B22F 5/00
F16C 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られた焼結軸受において、
軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%〜80%とし、当該遊離黒鉛が、鱗状の黒鉛微粉を造粒してなり、かつ原料粉における配合割合を3重量%〜15重量%とした造粒黒鉛粉を焼結することで形成されていることを特徴とする焼結軸受。
【請求項2】
潤滑油を含浸させていない請求項1記載の焼結軸受。
【請求項3】
潤滑油を含浸させた請求項1記載の焼結軸受。
【請求項4】
黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を型で成形し、その後焼結して得られる焼結軸受の製造方法であって、
前記黒鉛粉として鱗状の黒鉛微粉を造粒してなる造粒黒鉛粉を用い、原料粉に、当該原料粉における割合が3重量%〜15重量%となるように造粒黒鉛粉を配合し、
前記原料粉の成形後に焼結することで、軸受面に面積比で25%〜80%の遊離黒鉛を形成することを特徴とする焼結軸受の製造方法。
【請求項5】
前記造粒黒鉛粉の平均粒径を、60μm〜500μmとした請求項4に記載の焼結軸受の製造方法。
【請求項6】
前記造粒黒鉛粉の見かけ密度を、1.0g/cm3以下とした請求項4または5に記載の焼結軸受の製造方法。
【請求項7】
焼結後に潤滑油を含浸させない請求項4〜6の何れか1項に記載の焼結軸受の製造方法。
【請求項8】
焼結後に潤滑油を含浸させる請求項4〜6の何れか1項に記載の焼結軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結金属からなる焼結軸受およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密小型モータ用の軸受として、その優れた静粛性から焼結軸受が広く用いられている。この焼結軸受は、銅を主体とする銅系、鉄を主体とする鉄系、銅と鉄を主体とする銅鉄系に大別される。何れのタイプの焼結軸受も、通常はその多孔質組織の空孔に潤滑油を含浸させて使用される。例えば潤滑油を含浸させた銅鉄系の焼結軸受として、直径45μm以下の銅系粉末を用い、かつ銅の比率や通油度を所定範囲に規定したものが公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−67893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、焼結軸受の使用環境によっては、潤滑油を使用することが好ましくない場合がある。例えば、複写機や印刷機では、軸受から漏洩した潤滑油で紙を汚す可能性がある。また、自動車用電装部品では、軸受の周辺が高温となって潤滑油が短期間で劣化もしくは蒸散し、軸受性能を害する可能性がある。さらに潤滑油によって軸と軸受とが電気的に絶縁されることで生じる静電気の帯電が問題となる場合もある。
【0005】
これら潤滑油を使用することが好ましくない用途では、潤滑油を含浸させていない、いわゆるドライタイプの焼結軸受(ドライ軸受)を用いることが考えられる。しかしながら、ドライ軸受ではどうしても潤滑不良が生じ易く、そのままでは回転数や荷重等の使用条件が大きく制約される。そこで、対策として、原料粉に配合される固体潤滑剤としての黒鉛の配合量を増やし、軸受自体の自己潤滑性能を強化することが考えられる。
【0006】
しかしながら、黒鉛粉の比重や粒径は金属粉のそれらよりもかなり小さいため(例えば比重は金属粉の1/4程度である)、黒鉛の配合量を増やせば、それだけ原料粉全体の流動性が低下する。すなわち、原料粉を成形用の金型に充填し、これを圧縮して圧粉体を成形する際に、粉体の落下速度が不均一となり、偏析等による重量、寸法、密度等にバラツキを生じるおそれがある。また、原料粉を均一に混合することが難しく、このことも焼結体における偏析の発生を助長する。さらに黒鉛を多く含む原料粉は固まり難いので、圧粉体の強度が低下し、この結果、欠け、割れ、クラック等が発生し易くなる。
【0007】
また、金属粉間の結合強度を強化するために原料粉に錫を添加した場合、原料粉中の黒鉛の添加量が多いと、黒鉛が錫による金属粉の結合機能を阻害するため、焼結体の強度低下を招く。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、高強度で量産時の寸法や軸受性能のばらつきが小さい焼結軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る焼結軸受は、黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られた焼結軸受において、軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%〜80%とし、当該遊離黒鉛が、鱗状の黒鉛微粉を造粒してなり、かつ原料粉における配合割合を3重量%〜15重量%とした造粒黒鉛粉を焼結することで形成されていることを特徴とするものである。
この焼結軸受は、黒鉛粉として鱗状の黒鉛微粉を造粒してなる造粒黒鉛粉を用い、原料粉に、当該原料粉における割合が3重量%〜15重量%となるように造粒黒鉛粉を配合し、前記原料粉の成形後に焼結することで、軸受面に面積比で25%〜80%の遊離黒鉛を形成することで得られる
【0010】
このように軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%〜80%とすることで、軸受面における潤滑性が高まる。また、潤滑油を含浸させないドライな状態でも高い潤滑性を得ることができる。
【0011】
このように軸受面に多くの黒鉛を遊離させるため、黒鉛粉の配合量を既存品よりも増やす必要があるが、その場合でも黒鉛の造粒粉、すなわち黒鉛の微粉を造粒して大径化したものを使用することで、黒鉛粉1粒子当たりの重量を大きくすることができる。これにより1粒子当りの黒鉛粉と金属粉の重量差が小さくなるので、原料粉の流動性を向上させることができる。また、原料粉を均一混合も可能となる。従って、量産時の偏析による寸法や軸受性能のばらつきを小さくすることができ、かつ複雑な形状の軸受も製作可能となる。また、黒鉛の存在領域が集約されるため、多量の黒鉛が分散して存在する場合に比べ、圧粉体強度や焼結体強度を向上させることができる。
【0012】
上記構成においては、前記造粒粉の平均粒径を、60μm〜500μmに設定するのが望ましい。
【0013】
原料粉末における黒鉛の造粒粉の配合割合は、3重量%〜15重量%にするのが望ましい。既存品では、上記の問題から黒鉛の配合割合は3重量%よりも小さくせざるを得なかったが、本発明によれば3重量%以上の黒鉛粉を配合することが可能となる。そのため、上記のとおり軸受面の広大な領域に黒鉛組織を形成することが可能となる。
【0014】
黒鉛の造粒粉の見かけ密度は、1.0g/cm3以下とするのが望ましい。
【0015】
本発明にかかる焼結軸受は、上記のとおり潤滑油を含浸させないドライ軸受として使用することができるが、潤滑油を含浸させる含油軸受としても使用することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軸受面の潤滑性を向上させることができる。また、量産時でも偏析による軸受性能や寸法精度のばらつきを抑制することができ、かつ圧粉体や焼結体の強度を向上させることができる。また、複雑な形状を有する焼結軸受を製作することも可能となり、軸受形状の自由度が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る焼結軸受の軸方向断面図である。
図2】金型による圧粉体の成形工程を示す断面図である。
図3】焼結軸受における軸受面の顕微鏡写真を示す図で、(A)が本発明の実施品、(B)が従来品のものである。
図4】ラトラ試験の結果(ラトラ値)を示す図である。
図5】圧環強さを示す図である。
図6】成形重量を示す図である。
図7】圧粉体長さを示す図である。
図8】焼結軸受の内径面の摩耗量を示す図である。
図9】焼結軸受の摩擦係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づき説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態では、焼結軸受1は、内周に軸受面1aを有する円筒状に形成される。この焼結軸受1の内周にステンレス鋼等からなる軸2を挿入し、その状態で軸を回転させ、あるいは焼結軸受1を回転させると、軸2の外周面が焼結軸受1の軸受面1aによって回転自在に支持される。
【0020】
本発明の焼結軸受1は、各種粉末を混合した原料粉を金型に充填し、これを圧縮して圧粉体を成形した後、圧粉体を焼結することで形成される。
【0021】
本実施形態の焼結軸受1は、いわゆる銅鉄系と呼ばれるものであり、原料粉として、銅粉、鉄粉、低融点金属粉、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられる。この混合粉末には、必要に応じて各種成形助剤、例えば離型性向上のための潤滑剤(金属セッケン等)が添加される。以下、焼結軸受1の実施形態について、その原料粉末および製造手順を詳細に述べる。
【0022】
[銅粉]
銅粉としては、焼結軸受用として汎用されている球状や樹枝状の銅粉が広く使用可能であるが、本実施形態では、電解粉又は水アトマイズ粉が用いられる。なお、これらの混合粉も使用可能である。銅粉の平均粒径は、例えば40μm〜160μmとし、見かけ密度は、例えば1.5〜3.0g/cm3とする。見かけ密度の定義は、JIS Z 8901の規定に準じる(以下、同じ)。銅粉として扁平銅粉を使用することもできる。
【0023】
[鉄粉]
鉄粉としては、還元鉄粉、水アトマイズ鉄粉等の公知の粉末が広く使用可能であるが、本実施形態では、還元鉄粉を使用する。還元鉄粉は、略球形でありながら不規則形状でかつ多孔質状をなし、表面に微小な凹凸を有する海綿状となることから、海綿鉄粉とも呼ばれる。鉄粉としては、例えば、平均粒径60μm〜200μm、見かけ密度2.0〜3.0g/cm3のものを使用する。なお、鉄粉に含まれる酸素量は0.2重量%以下とする。
【0024】
[低融点金属粉]
低融点金属粉は、焼結温度よりも低融点の金属粉であり、本発明では、融点が700℃以下の金属粉、例えば錫、亜鉛、リン等の粉末が使用される。この中でも焼結時の蒸散が少ない錫が好ましい。また、錫粉としてはアトマイズ粉を使用する。これら低融点金属粉は、融点が700℃以下で焼結温度よりも低融点であり、また、焼結時の蒸散が少ない。錫粉は、銅に対して高いぬれ性を持つため、原料粉に配合することで、焼結時に、液相焼結と固相焼結が進行し、鉄組織と銅組織や銅組織同士の結合強度が強化される。
【0025】
[黒鉛粉]
黒鉛粉としては、黒鉛の微粉を造粒し、大径化させた黒鉛造粒粉が使用される。微粉としては、鱗状又は球状の天然黒鉛粉で、平均粒径が40μm以下のものを用いる。造粒後の黒鉛粉は、平均粒径60μm〜500μmの範囲とし、見かけ密度は1.0g/cm3以下とする。造粒のためのバインダとしては、例えばフェノール樹脂を使用する。バインダの量は、黒鉛微粉に対して5重量%〜15重量%とするのが望ましい。
【0026】
[配合比]
上記各粉末を公知の混合機で均一に混合することで原料粉が得られる。原料粉に対する黒鉛粉の配合割合は3重量%〜15重量%とする(望ましくは5重量%〜12重量%)。原料粉における低融点金属粉の配合割合は任意に定めることができ、例えば1重量%〜4重量%とする。鉄粉と銅粉の配合割合は、軸受の使用条件やコストを勘案して任意に定めることができる。
【0027】
[成形]
混合後の原料粉は成形機の金型3に供給される。図2に示すように、金型3は、コア3a、ダイ3b、上パンチ3c、および下パンチ3dからなり、これらによって区画されたキャビティに原料粉末が充填される。上下パンチ3c,3dを接近させて原料粉体を圧縮すると、原料粉末が、コア3aの外周面、ダイ3bの内周面、上パンチ3cの端面、および下パンチ3dの端面からなる成形面によって成形され、焼結軸受1に対応した形状(本実施形態では円筒状)の圧粉体4が得られる。
【0028】
[焼結]
その後、圧粉体4は焼結炉にて焼結される。焼結条件は、黒鉛に含まれる炭素が鉄と反応しない(炭素の拡散が生じない)条件とする。焼結では900℃を超えてから炭素(黒鉛)と鉄の反応が始まり、パーライト相γFeが生じる。パーライト相γFeが生じると、軸受面1aに遊離する黒鉛組織の量が減少し、本発明の目的を達成できない。また、パーライト相γFeは硬い組織(HV300以上)で相手材に対する攻撃性が強いため、過剰にパーライト相が析出すると軸2の摩耗を進行させるおそれがある。
【0029】
また、従来の焼結軸受の製造工程では、焼結雰囲気として、液化石油ガス(ブタン、プロパン等)と空気を混合してNi触媒で熱分解させた吸熱型ガス(RXガス)を使用する場合が多い。しかしながら、吸熱型ガス(RXガス)では炭素が拡散して表面を硬化させるおそれがある。
【0030】
以上の観点から、本実施形態では、焼結は900℃以下の低温焼結、具体的には700℃(望ましくは760℃)〜840℃の焼結温度とする。また、焼結雰囲気は、炭素を含有しないガス雰囲気(水素ガス、窒素ガス、アルゴンガス等)あるいは真空とする。これらの対策により、原料粉では炭素と鉄の反応が生じず、従って焼結後の鉄組織は全て軟らかいフェライト相αFe(HV200以下)となる。焼結に伴い、各種成形助剤や黒鉛造粒粉に含まれるバインダは焼結体内部から揮散する。
【0031】
なお、パーライト相(γFe)がフェライト相(αFe)の粒界に点在する程度であれば、軸2に対する攻撃性はそれほど高まらず、その一方で軸受面1aの摩耗を抑制する効果を得ることができる。ここでいう「粒界」は、フェライト相の間やフェライト相と他の粒子との間に形成される粒界の他、フェライト相中の結晶粒界の双方を意味する。このような態様でパーライト相をフェライト相の粒界に存在させるためには、焼結温度を上記例示よりも上げて820℃〜900℃とし、かつ炉内雰囲気として炭素を含むガス、例えば天然ガスや吸熱型ガス(RXガス)を用いて焼結する。これにより、焼結時にはガスに含まれる炭素が鉄に拡散し、パーライト相を形成することができる。
【0032】
以上に述べた焼結工程を経ることで、多孔質の焼結体が得られる。この焼結体にサイジングを施すことにより、図1に示す焼結軸受1が完成する。本実施形態の焼結軸受はドライ軸受として使用されるので、サイジング後における潤滑油の含浸は行われない。上記のように、焼結時に炭素と鉄を反応させず、鉄組織を軟質のフェライト相にすることにより、サイジング時に焼結体が塑性流動を生じやすくなり、高精度のサイジングを行うことができる。
【0033】
本発明では、上記のように原料粉における黒鉛粉の配合割合を3重量%以上としているので、軸受面1aに黒鉛組織を面積比で25%以上の割合で形成することができる。そのため、軸受面1aの自己潤滑性を高めて、軸受の潤滑性能と導電性を向上させることができ、高速回転や高荷重の条件下でも高い耐久寿命を有する焼結軸受を提供することができる。また、潤滑油を多孔質組織に含浸させないドライ軸受としての使用も可能となり、複写機や印刷機(例えばマグロール)、自動車用電装部品、家庭用電化製品、高真空機器等において、潤滑油が使用できない部位にも使用することが可能となる。なお、軸受面1aに遊離する黒鉛組織の面積が過剰になると、軸受面1aの強度低下を招くため、面積比の上限は80%とする。
【0034】
なお、軸受面1aにおける面積比の測定は画像解析により行うことができる。この画像解析は、例えば次のように行う。
(1)金属顕微鏡((株)ニコン製ECLIPSE ME600)で撮影(100倍)。
(2)画像取得は(株)ニコン製Digital Sigaht DS−U3で行う。
(3)画像処理は(株)ニコンインストルメンツカンパニー製NIS−Elements Dで行う。
(4)デジタル画像解析ソフト(イノテック(株)製Quick Grain)で黒鉛の面積比率を算出する。
【0035】
更に、本発明では黒鉛粉として造粒粉を使用しているので、黒鉛粉1粒子当たりの重量を大きくすることができる。これにより1粒子当りの黒鉛粉と金属粉の重量差が小さくなるので、原料粉の流動性を向上させることができる。また、原料粉を均一混合も可能となる。従って、量産時の偏析による寸法や軸受性能のばらつきを小さくすることができ、かつかつ複雑な形状の軸受も製作可能となる。また、多孔質組織において黒鉛の存在領域が集約されるため、多量の黒鉛が分散して存在する場合に比べ、圧粉体強度や焼結体強度を向上させることができる
【0036】
なお、以上の説明では、焼結軸受の例示として、金属粉として銅粉、鉄粉、および低融点金属粉を使用する銅鉄系を挙げたが、本発明はこれに限られず、金属粉として銅粉と低融点金属粉を使用する銅系焼結軸受や、金属粉として鉄粉と微量の銅粉を使用する鉄系焼結軸受にも同様に適用することができる。
【実施例1】
【0037】
次に、本発明の実施品(以下、本発明品と記す)について、造粒黒鉛粉を使用しない従来品と比較して説明する。この本発明品と従来品は、上記実施形態とは異なり、銅系焼結軸受である。
【0038】
図3は焼結軸受1の軸受面1aを拡大した顕微鏡写真であり、(A)図が本発明品を、(B)図が従来品を示す。両図において、明部が銅組織(Snとの合金部分も含む)を示し、暗部が黒鉛組織を示す。微細な暗部は、表面に開口した空孔である。本発明品では従来品よりも黒鉛の分布量が多くなっていることが分かる。また、本発明品では、黒鉛が均一に分散していることも理解できる。ちなみに、(A)図における黒鉛の面積比は78%であり、(B)図における黒鉛の面積比は28%である。なお、この面積比率を測定するための画像解析は、上述の機器と方法を使用した。
【0039】
図4は、圧粉体の強さを評価するために行ったラトラ試験の結果を示す。ここで、ラトラ試験とは、金属圧粉体のラトラ試験法(日本粉末冶金工業会規格:JSPM標準4−69)に基づいて測定を行い、得られる測定結果から算出する値を用いて、試験片(圧紛体)の崩壊のしやすさ(圧紛体の強さを数値化)を求める方法で、得られるラトラ値が低い方が圧紛体は強い。図4から分かるように、本発明品は、従来品よりラトラ値が低いので、圧紛体の強度が優れ、欠け、割れ等を抑制できる。
【0040】
図5は、圧粉体の強さを評価するために測定した圧環強さを示す。図5から分かるように、本発明品は、従来品より圧環強さが大きいため、圧紛体の強度が優れ、欠け、割れ等を抑制できる。
【0041】
図6は、成形重量のばらつきを評価するために測定した成形重量の最大値、平均値、最小値を示す。図6から分かるように、本発明品は、従来品より成形重量の最大値と最小値との差が小さく、成形重量のばらつきが小さい。
【0042】
図7は、圧粉体長さのばらつきを評価するために測定した圧粉体長さの平均値、最小値を示す。図7から分かるように、本発明品は、従来品より圧粉体長さの最大値と最小値との差が小さく、圧粉体長さのばらつきが小さい。
【0043】
図8は、以下の条件での運転後の軸受内径面の摩耗量を示す。また、同条件の運転での摩擦係数の変化を図9に示す。
周速:V=7m/min
面圧:P=2MPa
温度:100℃
試験軸:SUS420J2(HRC=50、Ra=0.4μm)
隙間:15μm
【0044】
図8から分かるように、本発明品は、従来品に比較して、軸受内径面の摩耗量を抑制することができる。また、図9から分かるように、10min経過後では、本発明品は、従来品と比較して、摩擦係数を抑制することができる。
【0045】
以上の説明では、焼結軸受として軸の回転運動を支持する軸受を例示したが、本発明にかかる焼結軸受は、軸等の摺動部材の直線運動を支持するいわゆるリニア軸受としても使用することができる。また、本発明の焼結軸受は、潤滑油を含浸させないドライ軸受として使用するだけでなく、サイジング後に潤滑油を含浸させる含油軸受としても使用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 焼結軸受
1a 軸受面
2 軸
3 金型
4 圧粉体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9