(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
集音部にて収集された入力音響信号に基づく入力スペクトル信号から、雑音のスペクトル信号に所定の係数を乗じて得た信号を減算することで減算スペクトル信号を生成し、前記減算スペクトル信号を用いて出力音響信号を生成する雑音低減装置において、
予め取得された暗騒音スペクトル信号を保持する暗騒音信号保持部と、
前記減算スペクトル信号及び前記暗騒音スペクトル信号を用いて前記出力音響信号を生成する出力生成部と、を備え、
前記出力生成部は、前記減算スペクトル信号としての第1スペクトル信号、前記入力スペクトル信号に所定の第2係数を乗じて得られる第2スペクトル信号、及び、前記暗騒音スペクトル信号に所定の第3係数を乗じて得られる第3スペクトル信号に基づき、
複数の周波数帯域の夫々において、前記第1、第2及び第3スペクトル信号の大きさを比較し、前記第1、第2及び第3スペクトル信号の内、最大の大きさを持つスペクトル信号を用いて前記出力音響信号を生成する
ことを特徴とする雑音低減装置。
前記第1、第2及び第3スペクトル信号の大きさの大小関係に基づき、前記雑音のスペクトル信号に乗じられる前記係数としての第1係数、前記第2係数及び前記第3係数の内、少なくとも1つの係数を更新対象係数として更新する係数更新部を更に備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の雑音低減装置。
前記係数更新部は、第1時刻における前記第1、第2及び第3スペクトル信号の大きさの大小関係に基づき、前記第1時刻よりも後の第2時刻の前記更新対象係数の値が決定されるように、前記更新を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の雑音低減装置。
前記減算スペクトル信号の大きさと、前記暗騒音スペクトル信号に所定の係数を乗じて得たスペクトル信号の大きさとの大小関係に基づき、前記雑音のスペクトル信号に乗じられる前記係数を更新する係数更新部を更に備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の雑音低減装置。
前記集音部による前記入力音響信号の収集と同期して前記雑音を収集することで前記雑音の時間領域上の音響信号を生成し、その生成音響信号を周波数領域上の信号に変換することで前記雑音のスペクトル信号を生成する信号生成部を更に備えた
ことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れかに記載の雑音低減装置。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照して具体的に説明する。参照される各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。尚、本明細書では、記述の簡略化上、情報、信号、物理量、状態量又は部材等を参照する記号又は符号を記すことによって該記号又は符号に対応する情報、信号、物理量、状態量又は部材等の名称を省略又は略記することがある。
【0027】
<<第1実施形態>>
図1に、本発明の第1実施形態に係る雑音低減装置1と、雑音低減装置1に接続される部位を示す。
図1の雑音低減装置1は、符号11〜20によって参照される各部位を備える。雑音低減装置1は、集音部2及び前処理部3と共に、集音機能を備えた任意の電子機器100に搭載される(
図2参照)。電子機器100は、例えば、集音機能を備えた撮像装置又はボイスレコーダ等の集音装置を含む。撮像装置は、静止画像及び動画像を撮影及び記録可能なデジタルビデオカメラ、又は、静止画像のみを撮影及び記録可能なデジタルスチルカメラである。電子機器100としての撮像装置は、固体撮像素子、被写体像を固体撮像素子に結像させるためのフォーカスレンズ及び撮影画角を調節するためのズームレンズを備えると共に、フォーカスレンズ、ズームレンズ又は任意の素子を移動させるためのモータを備える(何れも不図示)。雑音低減装置1は、音響信号中の雑音を低減する機能を持つが、低減対象の雑音として、例えば、上記フォーカスレンズ又はズームレンズの移動に伴う駆動音や、上記モータの駆動音が想定される。
【0028】
集音部2は、1以上のマイクロホンから成る。集音部2は、目的音を含む電子機器100の周辺音を集音し、集音した音をアナログ音響信号に変換して出力する。前処理部3は、集音部2の出力信号に所定の信号処理を施すことで時間領域上の音響信号である入力音響信号S
IN[t]を生成する。当該信号処理は、集音部2から出力されるアナログ音響信号をデジタル音響信号に変換するA/D変換処理、及び、該デジタル音響信号を所定時間長を有するフレーム単位で分割するフレーム分割処理などを含む。
【0029】
FFT部11は、フレーム単位で分割された入力音響信号S
IN[t]に対して、フレームごとに、時間/周波数変換の一種である離散フーリエ変換を行うことで、入力スペクトル信号S
IN[f]を生成する。入力スペクトル信号S
IN[f]は、入力音響信号S
IN[t]を周波数領域上の信号に変換したものである。
【0030】
入力音響信号S
IN[t]及び入力スペクトル信号S
IN[f]は、集音部2によって集音されるべき目的音の音響信号を含んでいると共に、目的音とは異なる非目的音の音響信号も含んでいる。
目的音は、人間の音声、動物の鳴き声、音楽など、集音部2の集音対象の音である。入力音響信号S
IN[t]及び入力スペクトル信号S
IN[f]に含まれる音の信号成分の内、非目的音の信号成分以外の信号成分は、目的音の信号成分であると考えてもよい。
非目的音は、目的音にとっての雑音の一種であり、雑音低減装置1において低減されるべき低減対象雑音(特定雑音)である。非目的音は、特定の雑音源の発生音であっても良い(この場合、特定の雑音源は非目的音の発生源であると言える)。特定の雑音源の発生音は、例えば、上記フォーカスレンズ又はズームレンズの移動に伴う駆動音や上記モータの駆動音である。
【0031】
尚、集音部2の出力音響信号、上記デジタル音響信号、入力音響信号S
IN[t]又は入力スペクトル信号S
IN[f]は、それらの何れかを記録する記録媒体(不図示)を介して、電子機器100又は雑音低減装置1に提供されても良い。即ち例えば、前処理部3にて生成された入力音響信号S
IN[t]を図示されない記録媒体に記録しておき、その後の任意のタイミングにおいて当該入力音響信号S
IN[t]が雑音低減装置1に提供されても良い。
【0032】
非目的音信号保持部12は、非目的音に対応するスペクトル信号S
A[f]を保持するメモリである。本実施形態では、入力音響信号S
IN[t]が雑音低減装置1に入力されるのに先立ち、スペクトル信号S
A[f]が予め用意されて保持部12に保持されているものとする。例えば、非目的音(上記フォーカスレンズ等の駆動音)の音響信号を予め取得しておき、その取得した音響信号に対して離散フーリエ変換を施すことでスペクトル信号S
A[f]を予め得ておくことができる。非目的音の音響信号及びスペクトル信号S
A[f]の取得のために、集音部2が用いられても良いし、集音部2と異なる集音装置(マイクロホン)が用いられても良い。或いは、非目的音の発生源の振動の成分を計測部(加速度センサ等)を用いて計測し、その計測結果から、非目的音の音響信号及びスペクトル信号S
A[f]が取得されても良い。
【0033】
乗算部13は、スペクトル信号S
A[f]に対して所定の係数αを乗じることでスペクトル信号S
A’[f]を生成する。減算部14は、スペクトル信号S
A’[f]を入力音響信号S
IN[t]から減算することにより、減算スペクトル信号とも言うべきスペクトル信号S
1[f]を生成する。乗算部15は、入力スペクトル信号S
IN[f]に対して所定の係数βを乗じることでスペクトル信号S
2[f]を生成する。係数αは減算係数とも呼ばれ、係数βはフロアリング係数とも呼ばれる。
【0034】
暗騒音信号保持部16は、暗騒音に対応するスペクトル信号S
B[f]を保持するメモリである。暗騒音も雑音の一種であるが、本実施形態で想定される暗騒音は、非目的音とは異なる。暗騒音は、目的音及び非目的音が無いときに集音部2にて集音されることになる雑音を指し、背景雑音又は背景音とも呼ばれる。例えば、雑音低減装置1の実稼働に先立ち、所定の集音環境において暗騒音の音響信号を取得し、取得した暗騒音の音響信号に対して離散フーリエ変換を施すことでスペクトル信号S
B[f]を予め得ておくことができる。所定の集音環境とは、例えば、集音部2及び電子機器1にとって十分に静かな環境である。暗騒音の音響信号及びスペクトル信号S
B[f]の取得のために、集音部2が用いられる。
【0035】
乗算部17は、暗騒音スペクトル信号であるスペクトル信号S
B[f]に対して、所定の係数(暗騒音用係数)γを乗じることでスペクトル信号S
3[f]を生成する。
【0036】
上述の説明から理解されるように、スペクトル信号S
1[f]〜S
3[f]は、下記式(A1)〜(A3)を満たす。
S
1[f]=S
IN[f]−S
A[f]×α …(A1)
S
2[f]=S
IN[f]×β …(A2)
S
3[f]=S
B[f]×γ …(A3)
【0037】
本実施形態においてスペクトル信号とは周波数領域上の音響信号を指し、任意のスペクトル信号において周波数の標本間隔はΔfである。任意のスペクトル信号は、周波数番号0の信号成分から周波数番号(M−1)の信号成分までの計M個の信号成分より成る。Mは、2以上の整数であり、例えば128である。記述の明確化上、周波数の標本間隔Δfで分割された1つ1つの周波数帯域を単位帯域と呼ぶ。そうすると、任意のスペクトル信号の全周波数帯域はM個の単位帯域から形成される(M個の単位帯域にて分割される)。
第m単位帯域は、(m×Δf)の周波数から((m+1)×Δf)の周波数までの周波数帯域を指す(mは整数)。
【0038】
従って、
図3(a)〜(c)に示す如く、入力スペクトル信号S
IN[f]は、信号成分S
IN[0・Δf]〜S
IN[M−1・Δf]から成り、非目的音のスペクトル信号S
A[f]は、信号成分S
A[0・Δf]〜S
A[M−1・Δf]から成り、暗騒音のスペクトル信号S
B[f]は、信号成分S
B[0・Δf]〜S
B[M−1・Δf]から成る。信号成分S
IN[m・Δf]、S
A[m・Δf]、S
B[m・Δf]は、夫々、スペクトル信号S
IN[f]、S
A[f]、S
B[f]に含まれる、第m単位帯域内の信号成分を示す。
【0039】
乗算部13、15及び17の各乗算並びに減算部14の減算は、単位帯域ごとに行われるため、上記式(A1)〜(A3)に対応する下記式(A4)〜(A6)が成立する。i=1、i=2又はi=3とした場合、スペクトル信号S
1[f]、S
2[f]又はS
3[f]であるスペクトル信号S
i[f]は、信号成分S
i[0・Δf]〜S
i[M−1・Δf]から成り、信号成分S
i[m・Δf]は、スペクトル信号S
i[f]に含まれる、第m単位帯域内の信号成分を示す。
S
1[m・Δf]=S
IN[m・Δf]−S
A[m・Δf]×α …(A4)
S
2[m・Δf]=S
IN[m・Δf]×β …(A5)
S
3[m・Δf]=S
B[m・Δf]×γ …(A6)
【0040】
比較処理部18は、スペクトル信号S
1[f]、S
2[f]及びS
3[f]に基づき、それらの信号レベルの比較を介して、出力スペクトル信号S
OUT[f]を生成する。
図4に示す如く、出力スペクトル信号S
OUT[f]は、信号成分S
OUT[0・Δf]〜S
OUT[M−1・Δf]から成り、信号成分S
OUT[m・Δf]は、出力スペクトル信号S
OUT[f]に含まれる、第m単位帯域内の信号成分を示す。
【0041】
IFFT19部は、周波数/時間変換の一種である逆離散フーリエ変換を用いて、出力スペクトル信号S
OUT[f]を時間領域上の出力音響信号S
OUT[t]に変換する。出力音響信号S
OUT[t]は、入力音響信号S
IN[t]に含まれる雑音(非目的音を含む)が抑制された音響信号として、雑音低減装置1から出力される。係数設定部20は、係数α、β及びγの値を設定する。係数α、β及びγは、“0<α”、“0<β<1”及び“0<γ<1”を満たす。係数設定部20は、係数更新部としての機能も備えているが、その機能については後述する。
【0042】
今、スペクトル信号S
IN[f]及びS
A[f]が、夫々、
図5(a)及び(b)のスペクトル信号300
IN[f]及び300
A[f]であった場合を考える。尚、便宜上、
図5(a)及び(b)並びに後述の
図6〜
図8では、離散化された信号成分をつなぎ合わせることで、図示すべき各スペクトル信号を連続した曲線として表現している。また、信号300
IN[f]及び300
A[f]を参照した説明文では、説明の簡略化及び便宜上、α=β=1と仮定する。
【0043】
スペクトル減算法における雑音低減が有効に機能するためには、信号300
A[f]の信号レベルが信号300
IN[f]の信号レベルより大きくなっている必要がある。しかしながら、破線枠301で囲まれた周波数帯域(以下、周波数帯域301という)において、信号300
A[f]の信号レベルが信号300
IN[f]の信号レベルよりも小さくなっている(これを、便宜上、逆転現象と呼ぶ)。
【0044】
スペクトル信号300
A[f]は非目的音を評価することで予め用意されている一方で、入力スペクトル信号300
IN[f]は目的音と非目的音の音響信号を足し合わせたものに相当するため、本来的には、信号300
IN[f]の信号レベルは信号300
A[f]の信号レベルよりも大きいはずである。
しかしながら、その時々で発生する非目的音は時系列上でばらつき、結果、注目タイミングの非目的音(即ち入力音響信号中の非目的音)と上記評価のタイミングの非目的音(即ち保持部12に保持された非目的音)との差が大きくなることもある。その差の増大は上記逆転現象を発生させる。特に例えば、非目的音が撮像装置のレンズの駆動による雑音等である場合には、レンズユニットの経年変化により、その時々で発生する非目的音は時系列上でばらつく。
また、非目的音の評価を介して得たスペクトル信号300
A[f]を、複数の電子機器100に共通して適用した場合、電子機器100の個体差ばらつきが影響して上記逆転現象が発生することもある(共通適用されたスペクトル信号300
A[f]は、或る電子機器100にとっては最適であるが、或る他の電子機器100にとっては大きすぎることもある)。特に例えば、非目的音が撮像装置のレンズの駆動による雑音等である場合には、レンズユニットの個体差ばらつきが上記逆転現象の発生を招きうる。
また、目的音と非目的音の位相関係に依存して局所的な周波数帯域において入力音響信号のパワーが相当に小さくなることもあり、そのような場合にも上記逆転現象が生じる。
【0045】
スペクトル信号300
IN[f]及び300
A[f]に対して、仮に、
図12の構成に対応する従来のスペクトル減算処理を適用した場合には、
図6に示すような結果信号310
OUT[f]がスペクトル減算処理の結果信号として得られることになる(信号310
OUT[f]は、便宜上、暗騒音スペクトル信号が無いと仮定した場合に得られる信号S
OUT[f]に相当する)。当該周波数帯域301において、スペクトル信号300
A[f]に減算係数αを乗じて得た信号がスペクトル信号300
IN[f]にフロアリング係数βを乗じて得た信号よりも小さい場合、前者の信号(300
A[f]×α)の代わりに後者の信号(300
IN[f]×β)が結果信号310
OUT[f]に含められる。これにより、周波数帯域301において、前者の信号(300
A[f]×α)を結果信号310
OUT[f]に含める場合よりは、結果信号310
OUT[f]の歪み(歪みは異音につながり、音響信号の聞き手に違和感を覚えさせる)が幾分抑制されはするが、その抑制効果が不十分になることもある。
【0046】
例えば、元々の入力音響信号S
IN[t]が小さい場合、周波数領域301において、結果信号310
OUT[f]の信号レベルが暗騒音の信号レベルよりも小さくなることがある。暗騒音は、目的音及び非目的音が無いときに入力音響信号S
IN[t]に含まれる背景雑音であるため、入力音響信号の補正信号であるべき結果信号310
OUT[f]の信号レベルが暗騒音の信号レベルよりも小さくなることは、本来的に不自然であり、結果信号310
OUT[f]の信号レベルが暗騒音の信号レベルよりも小さくなるような結果信号310
OUT[f]の歪みは、結果信号310
OUT[f]の音響信号の聞き手に違和感を覚えさせる。
【0047】
これらを考慮し、第1実施形態では、上述の如く暗騒音信号保持部16を設け、暗騒音のスペクトル信号S
B[f]をも用いて出力スペクトル信号S
OUT[f]を生成する。このため、比較処理部18は、スペクトル信号S
1[f]及びS
2[f]に加えて、暗騒音のスペクトル信号S
B[f]に基づくスペクトル信号S
3[f]をも参照し、スペクトル信号S
1[f]〜S
3[f]の信号レベルの大小関係に基づき、出力スペクトル信号S
OUT[f]を生成する。より具体的には、比較処理部18は、単位帯域ごとに、スペクトル信号S
1[f]〜S
3[f]の信号レベルを比較し、スペクトル信号S
1[f]〜S
3[f]の内、最大の信号レベルを持つスペクトル信号を出力スペクトル信号S
OUT[f]に含めるようにする。
【0048】
スペクトル信号S
1[f]〜S
3[f]の内、スペクトル信号S
1[f]の信号レベルが最大となる条件を第1条件と呼び、スペクトル信号S
1[f]〜S
3[f]の内、スペクトル信号S
2[f]の信号レベルが最大となる条件を第2条件と呼び、スペクトル信号S
1[f]〜S
3[f]の内、スペクトル信号S
3[f]の信号レベルが最大となる条件を第3条件と呼ぶ。
【0049】
第m単位帯域について、第1条件が成立するときには下記式(A7)に従って、第2条件が成立するときには下記式(A8)に従って、第3条件が成立するときには下記式(A9)に従って、出力スペクトル信号S
OUT[f]の信号成分S
OUT[m・Δf]が生成され、比較処理部18は、この生成処理を単位帯域ごとに実行する。第m単位帯域について第i条件が成立するとは、信号成分S
1[m・Δf]、S
2[m・Δf]及びS
3[m・Δf]の内、信号成分S
i[m・Δf]の信号レベルが最大であることを指す(ここで、iは1、2又は3)。
S
OUT[m・Δf]=S
1[m・Δf] …(A7)
S
OUT[m・Δf]=S
2[m・Δf] …(A8)
S
OUT[m・Δf]=S
3[m・Δf] …(A9)
【0050】
スペクトル信号S
IN[f]及びS
A[f]が夫々
図5(a)及び(b)のスペクトル信号300
IN[f]及び300
A[f]であって、且つ、暗騒音のスペクトル信号S
B[f]が
図7のスペクトル信号300
B[f]である場合を考える。加えて、周波数帯域301において、第3条件が成立することを想定する。この想定下では、周波数帯域301において、スペクトル信号S
B[f](300
B[f])に基づくスペクトル信号S
3[f]が出力スペクトル信号S
OUT[f]に含められ、結果、
図8のスペクトル信号320
OUT[f]が出力スペクトル信号S
OUT[f]として比較処理部18から出力されることになる。即ち、
図6の信号310
OUT[f]を基準として、周波数帯域301の信号を、スペクトル信号S
B[f](300
B[f])に対応するスペクトル信号S
3[f]に置き換えた結果、出力スペクトル信号S
OUT[f](320
OUT[f])における周波数帯域301内の信号レベルが増大補正されていることが分かる。
【0051】
上述の如く、スペクトル減算法を基本としつつ、暗騒音のスペクトル信号をも用いて出力音響信号を生成することにより、出力音響信号における歪みを低減することができる。つまり、暗騒音の信号レベルよりも小さな信号が出力音響信号に含められるような、出力音響信号の歪み(
図6の周波数帯域301における信号歪みに相当)を補償することができ(
図6の信号310
OUT[f]から
図8の信号320
OUT[f]への変化が当該補償に相当)、その歪みによって生じうる、出力音響信号の聞き手の違和感を軽減することが可能となる。
【0052】
次に、
図2の係数設定部20が有する係数更新機能について説明する。係数更新機能において、係数更新部としての機能を持つ係数設定部20は、3つの係数α、β及びγの内、少なくとも1以上の係数を更新対象係数に設定し、更新対象係数の値を更新することができる。上述の説明では特に意識しなかったが、係数設定部20は、係数α、β及びγの値を単位帯域ごとに個別に設定することができ、上記更新を単位帯域ごとに行うことができる。
【0053】
ここで、説明の明確化上、
図9に示す第1フレーム及び第2フレームを定義する。上述したように、入力音響信号S
IN[t]はフレーム単位で分割され、フレームごとに入力音響信号S
IN[t]から入力スペクトル信号S
IN[f]が生成されるが、第2フレームは、第1フレームよりも時間的に後の任意のフレームである。第2フレームは第1フレームに隣接するフレームであっても良い。第1及び第2フレームの一部同士は互いにオーバラップしうる。第1フレームに適用される、第m単位帯域に対する係数α、β、γを、特に、夫々、記号α[m]、β[m]、γ[m]にて表し、第2フレームに適用される、第m単位帯域に対する係数α、β、γを、特に、夫々、記号α
NEW[m]、β
NEW[m]、γ
NEW[m]にて表す。
【0054】
[減算係数αの更新方法]
係数αが更新対象係数に設定されたときの係数更新方法を説明する。係数設定部20は、第1フレームの第m単位帯域について、第1条件が成立するときには式(B1)に従って、第2条件が成立するときには式(B2)に従って、第3条件が成立するときには式(B3)に従って、第2フレームの係数α
NEW[m]の値を決定する。但し、式(B1)〜(B3)における定数K1〜K3は、“1<K1”及び“1<K3<K2<1”を満たす。
α
NEW[m]=α[m]×K1 …(B1)
α
NEW[m]=α[m]×K2 …(B2)
α
NEW[m]=α[m]×K3 …(B3)
【0055】
係数αは、本来、非目的音を出力音響信号からなるだけ除去すべく、なるだけ大きくされた方が良い。第1条件成立時には、信号S
1[f]〜S
3[f]の内、信号S
1[f]が最大であるため、非目的音の除去を更に増大させることが可能であると判断し、減算部14における減算量を増やすべく、式(B1)により係数αを増大させて信号S
1[f]の低減を図る。一方、第2条件成立時には、減算部14での減算量が大きすぎる可能性があるため、式(B2)により係数αを減少させて信号S
1[f]の増大を図る。第3条件が成立する状態は、信号S
1[f]が暗騒音に対応する信号S
3[f]よりも小さい状態であり、第2条件成立時よりも、減算部14での減算量が更に大きすぎると考えられる。故に、第3条件成立時には、第2条件成立時よりも更に係数αを減少させるべく、式(B3)にて係数αの更新を行い、信号S
1[f]の更なる増大を図る。
【0056】
[フロアリング係数βの更新方法]
係数βが更新対象係数に設定されたときの係数更新方法を説明する。係数設定部20は、第1フレームの第m単位帯域について、第1条件が成立するときには式(C1)に従って、第2条件が成立するときには式(C2)に従って、第3条件が成立するときには式(C3)に従って、第2フレームの係数β
NEW[m]の値を決定する。但し、式(C1)〜(C3)における定数K1〜K3は、“1<K1”、“0<K2<1”及び“1<K3”を満たす。
β
NEW[m]=β[m]×K1 …(C1)
β
NEW[m]=β[m]×K2 …(C2)
β
NEW[m]=β[m]×K3 …(C3)
【0057】
第1条件成立時、信号S
2[f]が小さすぎて、信号S
2[f]を比較処理部18に入力した意義(S
1[f]が小さすぎるときにおいて、S
1[f]をS
OUT[f]を含めたならば生じうる歪みをS
2[f]で補償するという意義)が薄れている可能性がある。故に、第1条件成立時には、式(C1)により係数βを増大させて信号S
2[f]の増大を図る。第2条件成立時には、信号S
2[f]が大きすぎて信号S
1[f]を用いた本来の雑音低減ができていない可能性があるため、式(C2)により係数β及び信号S
2[f]を小さくする。第3条件が成立する状態は、信号S
2[f]が暗騒音に対応する信号S
3[f]よりも小さい状態である。目的音を含まない暗騒音の信号レベルが目的音を含む信号の信号レベルよりも低い状態は本来発生すべきではなく、その状態の発生は、係数βが小さいことに原因があるとも言える。故に、第3条件成立時には、式(C3)により係数β及び信号S
2[f]を大きくする。
【0058】
[暗騒音用係数γの更新方法]
係数γが更新対象係数に設定されたときの係数更新方法を説明する。係数設定部20は、第1フレームの第m単位帯域について、第1条件が成立するときには式(D1)に従って、第2条件が成立するときには式(D2)に従って、第3条件が成立するときには式(D3)に従って、第2フレームの係数γ
NEW[m]の値を決定する。但し、式(D1)〜(D3)における定数K1〜K3は、“1<K1”、“1<K2”及び“0<K3<1”を満たす。
γ
NEW[m]=γ[m]×K1 …(D1)
γ
NEW[m]=γ[m]×K2 …(D2)
γ
NEW[m]=γ[m]×K3 …(D3)
【0059】
第1条件成立時、信号S
3[f]が小さすぎて、信号S
3[f]を比較処理部18に入力した意義(
図6の周波数帯域301における歪みを、信号S
3[f]にて
図8の如く補償するという意義)が薄れている可能性がある。故に、第1条件成立時には、式(D1)により係数γを増大させて信号S
3[f]の増大を図る。第2条件成立時も、第1条件成立時と同様、信号S
3[f]が小さすぎる可能性があるため、式(D2)により係数γ及び信号S
3[f]を大きくする。第3条件成立時には、信号S
3[f]が大きすぎて、本来達成されるべき非目的音の低減(S
1[f]のS
OUT[f]への反映)をできていない可能性があるため、式(D3)により係数γ及び信号S
3[f]を小さくする。
【0060】
[係数更新の共通事項]
係数設定部20は、次々と訪れる各フレームを第1フレームと捉えて、フレームごとに更新対象係数を更新することができる。但し、更新対象係数の更新が行われないフレームが存在していても良い。
【0061】
α[m]に定数(K1、K2又はK3)を乗じることでα
NEW[m]を求める方法を例示したが、上述の更新の主旨に従っている限り、α[m]からα
NEW[m]を決定する演算式は任意に変更可能である(係数β及びγについても同様)。例えば、係数αを増大させる場合には、α[m]に正の所定値を加算することでα
NEW[m]を決定し、係数αを減少させる場合には、α[m]から正の所定値を減算することでα
NEW[m]を決定すれば良い(係数β及びγについても同様)。
【0062】
また、“0<α”、“0<β<1”及び“0<γ<1”が満たされる範囲内で、係数α、β及びγの更新が行われるよう、更新処理に制限を加えると良い。つまり、入力スペクトル信号S
IN[f]から非目的音に対応する信号を“減算”するため、係数αを常に正とする。信号S
2[f]が信号S
IN[f]よりも大きくなると、常に信号S
2[f]が信号S
1[f]よりも大きくなって本来の雑音低減が不能になるため、係数βは1未満の正の値とする。入力音響信号が暗騒音のレベルに近いような状況下において信号S
3[f]が有効に機能することを想定しており、そのような状況下において、信号S
3[f]が実際の暗騒音よりも大きくなるべきではない(暗騒音よりも大きな信号が出力音響信号に混入するため)。故に、係数γは1未満の正の値とする。
【0063】
上述の如く、係数設定部20は、スペクトル信号S
1[f]〜S
3[f]の信号レベルの大小関係に基づき(信号S
1[f]〜S
3[f]の内、何れを信号S
OUT[f]に含めたかに基づき)、更新対象係数の値を逐次更新することができる。つまり、係数設定部20は、第1時刻(第1フレーム)におけるスペクトル信号S
1[f]〜S
3[f]の信号レベルの大小関係に基づき、第1時刻よりも後の第2時刻(第2フレーム)の更新対象係数の値が決定されるように、更新対象係数を更新することができる。
【0064】
この更新処理により、実際に使用される信号S
IN[f]、S
A[f]又はS
B[f]に適した、スペクトル減算又は暗騒音信号による補償(
図6の周波数帯域301における歪みの、信号S
3[f]による補償;
図8参照)が可能になる。係数αの更新により減算部14での減算量が適正化され、実際に発生する非目的音の時系列上でのばらつき(非目的音の経年変化)にも対応することができると共に、保持部12の保持信号と実際に発生する非目的音の信号との相違(個体差ばらつき)にも対応することができる。また、特開2008−252389号公報に記載された、ズーム動作直前の入力音響信号のパワー値に基づきフロアリング係数を調整する方法では、ズーム動作中に入力音響信号のレベルが変動するケースに対応できないが(当該調整内容が有効でなくなるが)、上述の如くフロアリング係数βを逐次更新することで、そのようなケースにも適切に対応可能である。
【0065】
但し、係数α、β及びγの内、何れか係数又は全ての係数の更新処理を行わないようにすることも可能である。即ち、雑音低減装置1において、3つの係数α、β及びγの内、1以上の係数の値を固定値にしておくことも可能である。
【0066】
<<第2実施形態>>
本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態は第1実施形態を基礎とする実施形態であり、第2実施形態において特に述べない事項に関しては、特に記述無き限り且つ矛盾無き限り、第1実施形態の記載が第2実施形態にも適用される。第1実施形態の記載を第2実施形態に適用する場合、第1実施形態の記載文中の雑音低減装置1は第2実施形態において雑音低減装置1aに読み替えられる。
【0067】
図10に、本発明の第2実施形態に係る雑音低減装置1aと、雑音低減装置1aに接続される部位を示す。
図10の雑音低減装置1aは、符号11、13〜20、31及び32によって参照される各部位を備える。
図10の雑音低減装置1aは、
図1の雑音低減装置1における保持部12を非目的音信号生成部31及びFFT部32に置換することで得られ、その置換と後述の内容を除き、装置1aは装置1と同様である。
【0068】
非目的音信号生成部31は、集音部2を用いた入力音響信号S
IN[t]の収集(集音)と同期して非目的音を収集し、収集した非目的音の音響信号S
A[t]を生成する。生成部31において、又は、生成部31及びFFT部32間に設けられたフレーム分割部(不図示)において、時間領域上の音響信号である音響信号S
A[t]は上記フレーム単位で分割される。FFT部32は、フレーム単位で分割された音響信号S
A[t]に対して、フレームごとに、時間/周波数変換の一種である離散フーリエ変換を行うことで、非目的音のスペクトル信号S
A[f]を生成する。スペクトル信号S
A[f]は、音響信号S
A[t]を周波数領域上の信号に変換したものである。
【0069】
図11(a)に示す如く、生成部31に1以上のマイクロホンから成る集音部31aを設けても良く、集音部31aを用いて音響信号S
A[t]を生成しても良い。集音部31aは、非目的音のみを集音できるように配置及び形成され、集音した非目的音を音響信号に変換して出力する。生成部31は、集音部31aの出力音響信号をデジタル化することで音響信号S
A[t]を生成することができる。或いは、
図11(b)に示す如く、生成部31に計測部31bを設けても良い。計測部31bは、非目的音の発生源の振動の成分を計測する加速度センサ等にて形成され、生成部31は、計測部31bの計測結果を音響信号に変換することで音響信号S
A[t]を生成しても良い。
【0070】
リアルタイムに収集した非目的音の音響信号を用いてスペクトル減算を行うことにより、その時々の非目的音に適した最適なスペクトル減算が可能となる。最適なスペクトル減算は、減算スペクトル信号S
1[f]の適正化を実現するため(例えば、S
1[f]<S
2[f]になるような事態が極力回避されるようになるため)、
図6を参照して説明したような歪みの低減(出力音響信号の聞き手の違和感の低減)にもつながる。
【0071】
また、従来のフィードフォワード型ANC(Active Noise Control)では、入力音響信号中の雑音成分と雑音信号として集音された雑音成分との間の位相ズレ等が問題になるが、本実施形態の如く、雑音(非目的音)の音響信号S
A[t]を時間/周波数変換して、周波数領域上でスペクトル演算(スペクトルパワー比較等)を行えば位相に関係なく雑音低減が可能である。
【0072】
第2実施形態においても、第1実施形態で述べた、係数設定部20による係数α、β及びγの更新処理を行っても良い。但し、雑音低減装置1aにおいて、3つの係数α、β及びγの内、1以上の係数の値を固定値にしておくことも可能である。
【0073】
雑音低減装置1aから、暗騒音信号保持部16及び乗算部17を削除することも可能である。この場合、比較処理部18は、単位帯域ごとに、スペクトル信号S
1[f]及びS
2[f]の信号レベルを比較し、単位帯域ごとに、スペクトル信号S
1[f]及びS
2[f]の内、より大きな信号レベルを持つスペクトル信号を出力スペクトル信号S
OUT[f]に含める(即ち、信号成分S
1[m・Δf]及びS
2[m・Δf]の内、信号レベルの大きい方の信号成分を、信号成分S
OUT[m・Δf]に代入する)。
【0074】
<<変形等>>
本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。以上の実施形態は、あくまでも、本発明の実施形態の例であって、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、以上の実施形態に記載されたものに制限されるものではない。上述の説明文中に示した具体的な数値は、単なる例示であって、当然の如く、それらを様々な数値に変更することができる。上述の実施形態に適用可能な注釈事項として、以下に、注釈1〜注釈3を記す。各注釈に記載した内容は、矛盾なき限り、任意に組み合わせることが可能である。
【0075】
[注釈1]
各実施形態の説明文における“信号レベル”を“大きさ”又は“パワー”に読み替えても良い。時間領域又は周波数領域上の任意の音響信号に関し、信号レベルは、その音響信号の大きさを表す指標の一種である。時間領域又は周波数領域上の任意の音響信号に関し、パワーが、その音響信号の大きさを表す指標であっても良い。即ち、時間領域又は周波数領域上の任意の音響信号に関し、当該音響信号の大きさとは、当該音響信号の信号レベル又はパワーを表す。
【0076】
[注釈2]
雑音低減装置1若しくは1a又は電子機器100である対象装置を、ハードウェア、或いは、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって構成することができる。対象装置にて実現される機能の全部又は一部である任意の特定の機能をプログラムとして記述して、該プログラムを対象装置に搭載可能なフラッシュメモリに保存しておき、該プログラムをプログラム実行装置(例えば、対象装置に搭載可能なマイクロコンピュータ)上で実行することによって、その特定の機能を実現するようにしてもよい。上記プログラムは任意の記録媒体(不図示)に記憶及び固定されうる。上記プログラムを記憶及び固定する記録媒体(不図示)は対象装置と異なる機器(サーバ機器等)に搭載又は接続されても良い。
【0077】
[注釈3]
例えば、以下のように考えることができる。雑音低減装置1又は1aは、雑音(低減対象雑音)のスペクトル信号S
A[f]に減算係数αを乗じて得た信号S
A’[f]を入力スペクトル信号S
IN[f]から減算することで減算スペクトル信号S
1[f]を生成し、減算スペクトル信号S
1[f]を用いて、雑音(低減対象雑音)が抑制された出力音響信号を生成することができる。上述の各実施形態では、低減対象雑音を非目的音と呼んでいる。